●オープニング本文
前回のリプレイを見る 眠りに見るのを夢という、現に見るのも夢という。
狭間にいるものは、狭間であることに気づかず、ただ己の価値に縋る。
儀式の準備を整いつつある。
四つの塔に贄を捧げよう。ニは無になり、いずれ天で双円を成すだろう。
月が空に昇るのを妨げるものなどいない。
あえて女王の所業に逆らうものが、この地にいるわけがない。
理解したつもりで救いを語る者に鉄槌を下す。
ありもしない結末を語るものども、虚栄のみを真実だと語る。
砂漠に水を数滴落としたところで渇きを潤すことなどできない。
いずれ誰もが闇に堕ちる。
逃れ術は、どこにもない。
「混沌へと帰ろう」
眠りが訪れる。
さあ、夢をみよう。
●ミスカトニック
Jの元に凶報がやって来たのは、その日の午後のことだった。
「アリスが誘拐された?」
彼の前に息を切らしたケイトの姿がある。告げるケイトは真摯だ。嘘、そう問おうと思ったJは続きを口にすることができない。
「夢」
ケイトはアリスが最後に口にした言葉を思い出して続ける。
「こわい鬼と兵隊がやってきて、やってきて女の子をさらっちゃうの、女の子は狭い家に連れていかれて、そして」
「そして?」
Jに問われたケイトは、ただ首を横に振った。
●アーカムシティ
バロンは自らの私兵を集める。
その兵隊はハートの女王。いや、彼女の作る世界に抗うために、彼が独自に用意したジョーカーとも言える。
「人の手によって秩序を作るのが、プライドというものではないかね。理想も信念もない野盗。盗っ人ごときにいいように踏みにじられるのは、いささか腹が経つというものだ。ただいたぶられるなど心外極まりない。無能な虫どもを焼き払ってくれね。行くぞ博士、我々の」
野望のために──。
消える言葉。
傍ら立つ少年とバロンは声無きその声を飲み込むと歩きだした。
●ジャバウォックの歌 「イス資料館 蔵」
混沌の影。
夜の刻、混ざれぬガーグ
彼場ころびてホフルホフル
被る燐粉はクロアゲハ
総て弱ぼらしきはダンスデンス
隠す光は眠りのタームパーム
さあ、ジャバウォックにご用心!
喰らいつく顎、引き掴む鈎爪!
フタゴ鳥にも心配るべし、ゆめゆめゆめゆめ
眠れる楽園に住む主は夢みて喰らい尽くす
帽子は帽子
四つの箱にしまって四隅
被せて消して、真っ暗闇にまっさかさま
【Mythology of Chaos】 最後の夢
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
●行動概要
・メインとサブに分かれる。
・移動と選択は自由、マップは別記。
・攻撃連携スートは距離と武器を意識すると良い。
・情報連携スートは因果関係に関連する。
●今回の関連データ
【出現した敵】
■少年
双円の虚。アーカム郊外。
死の諸侯と似通った兵器のようなもので武装しているという噂があります。
武器はイスカンダル、防具はジュリアス、あたりの特徴があると思いますが。
残りの二つは不明ですので、謎。
それがなくてもあっても、生身では相手になりません。
【追加マップ】
ルルイエタワーセンター区域
プリンス・デスフォー雑居ビル
●バグア支配値
75%
●月
「新月」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
●リプレイ本文
●セッティング
解析不能
リディス(
ga0022)
レイラ・ブラウニング(
ga0033)
水上・未早(
ga0049)
ヴィス・Y・エーン(
ga0087)
終夜・無月(
ga3084)
潮彩 ろまん(
ga3425)
UNKNOWN(
ga4276)
みづほ(
ga6115)
周防 誠(
ga7131)
●夢と現
灰色は白と黒、そのどちらでもない狭間、中間、互いに交じり合った場所に在る。
言葉にすると普通、当たり前の事だ。
だが、誰しもその概念が当然だと思っているだけの事なのかも知れない。
見上げた一面にあるのは濁った天。
なぜその色が灰色なのか? そこに意味を求めたところで──返事があるわけではない。
女は取り出した煙草を見つめていた。
吸うつもりは無いが含んでみる。
ふと、これから、目指す先に何が待っているのかを思い浮かべてみるが、それほど楽しい未来図は描けない。
だから、女──リディスは紙煙草の湿った包み紙を指でなぞった。
彼女自身の儀式へのささやかな誓いだった。
「Hey、隊長。あいかわらず、暗いわね」
声の先、レイラが手を振っている。
リディスは溜息で応戦するか、嫌味の一つでも言うか迷ったあとリディスは迷わず、憎まれ口を選ぶ。
「レイラさん。私は暗いわけではないです。まったく貴女の冗談は、胸だけにして欲しいですね」
「それだけ無駄口が叩けるなら、まだ大丈夫」
リディスのやや毒のある発言をレイラは軽く受け流した。
記憶というものは不思議なものだ。
歩む間、思い出す記憶があるということは幸せであり、不幸。
進む時の中で、彼が得た記憶の破片。
得るべきかどうかだったのは、本人だけしか分からない。
「行ったのね」
気だるい空気、流れる音のテンポは遅い。差し出されたグラスに注がれた琥珀色の液体が光を受けて輝いた。
「貴方は知っていましたね‥‥あの館の事を‥‥」
詰問まではいかない、どこか責めるような含みを言葉に持たせた問い、女は無言のまま溶けていく氷を見つめている。
問うた男の名は、無月という、月が無い。今のこの地に相応しい名かもしれない。
「あの館は、選別の地よ。選別というと綺麗だけれど、実態は‥‥」
彼女はそこまで言うと、また黙った。
「なぜ、貴方はあの場所に?」
続かない会話をなんとか続けるため、無月は話しかける。
憂いを帯びた女主人の姿は、美しい。その美しさは妖しさ、どこか儚さにも似た物だ。
「独り。そう独りくらい‥‥悼んで、憶えていてあげないと可哀相。貴方にはいるのでしょう悲しんでくれる人が──あそこに集められた物にはいないのよ」
彼女はそこで言葉を切ると、無月に注がれたはずの液体を飲みほすと、
「いいわ、教えてあげる。でもね、真実を知ることが正しいわけでもないのよ」
荒く無造作に置かれたグラスが彼女の気持ちを奏でる。
女主人は話し出した。
──併合する。
館の地下で無月の見たものは、たいした物ではない。
乳児だ。いや、元は乳児だったものの成れの果て、何のためにその場所に集められたのかは定かではない。
すでに干からびて形を成していないものあった。
元は名前を記した札だったのだろう、付けられたそれは全て、
「アリシア」
と記されている。
アリスの名前はアリシア。そこに意味があるのかもしれない。
それよりも特徴的なのは、物体の性別が。
全部、男ということだった。
女主人は語る。
「詳しくは知らないわ、ただ素体として男の子が必要だった。儀式に使う双月は二人必要なの。けれどアリスの兄は昔に死んだ。だから作ったのよ、あれはもうアリシアじゃない、アリシアの形を借りた何かでしかない」
口調に乱れが出た。
感情の奔流、そこに女主人に何かあったことのを無月を悟る。
関係した事実を聞く前、彼女は言う。
「あれを殺して」
彼女の指すものは、少年だろう。
無月は静かに頷いた。
彼自身‥‥可能かどうかは分からなかったが。
●マッドハッター
そうか、君たちの目的地は此処か。
工房、そこに彼は住むという。
彼は歪んだ世界の存在を視る者。
視るという行為はなによりも、孤独な作業。
現象と触れ合うのを拒否した者の末路でもある。
揺らぎに住んでいる。訪れた客人に向かって、主は、
「ここには、いない」
質問よりも早く、答えた。
先手を取られた質問者たちは戸惑いお互いに顔を見合わせる中で、ヴィスが口火を切った。
「いないの? んー、いまいちわかんないな、『双円の子』の伝承を現状に当てはめるとー、月のあった場所の黒穴は赤い月。黒穴から出て来た魔物がバグアと解釈できなくもないけどー。そーなるとバロンの、教団の目的って、バグアの撃退なのかな?」
その問いにレイラが、意見を述べた。
「ちょっとまって、子供たちが攫われあの場所に集められていたとする。あの部屋の感じからして何かの儀式を執り行う場所なのは確か、あり来たりなんだけど子供たちは生贄の線が濃厚、ということは」
「アリスも生贄でしょうね、何に使うのかまでは分かりませんが」
レイラが導き出した推論に、リディスが結論を導いていった。
──。
みづほは、彼女達の様子を眺めていた。
内心はぬいぐるみについて、主に聞きたい気持ちを抑えていた。
しかし重い場の空気を感じ、もう少し後が良いと判断したが
「みづほ‥‥無理はするな。その為に私は来たのだから、な」
彼女の配慮を見事に撃ち砕いたのは、誰でもない彼だ。
「UNKNOWNさん。今はまだ時期ではありません」
「失敬、少し場違いだったな。これも君に対する愛情の現れと受け取って欲しい」
UNKNOWNはそう言うと、みづほの手をとり軽く甲に口づけした。
「あの人たち、ギャグなのかシリアスなのかふめいだねー」
ヴィスは、みづほとUNKNOWNのやり取りを見て言った。
「OK、OK、アーカムに来ると、みんなそういう定めになる、ちょっとズレるというか レイラがしみじみ呟いた。
「それもこの街の歪んだ事象の一つでしょう。それにしても、アリスはいったいどこに?」
リディスのその問いに答えたのは、誰でもない。
「タワーにいる」
主だった。
●四つ角
辿りついたのは、夕暮れ。
ろまんは口笛を独り吹いてみた。
「やっぱり、高い音がうまくでないや、ざんねん」
朱色に染まった空を反射する眼鏡、映った少女の姿、後ろ手に結んだ髪が風にふわりと乗った。
ろまんは口先をとがらせのまま、眼鏡の持ち主に振り返った。
「もう少し、息を強く吐くと良いと思いますよ」
「こうかな」
未早の助言に従って、ろまんはやや強く息を吹く、先ほどよりは音色が上手に流れる。
「そう上手いね、ろまんちゃん」
歩く二人、目的地はビル。
「四つ、何かしら4が関係あるのは確か」
未早が言った。
「儀式を行う場所に4つの黒い箱か、この街にもタワーを中心に四隅に四角い物がある‥‥ビルも箱なら、きっと中に何か入れる為に建てたんだよね。うーん、浚った子を仕舞っちゃうとか」
四。
その答えは、意外にも簡単なことだ。
「君たちは答えを求めてやって来たんだよね、この4つのビルは供給源。混沌を解放するための、中はみないほうが良いと思う。時はまだ至っていないから動いていないけれどね」
初めに訪れたビルに、従者を連れた少年は笑顔で迎えた。
少年に対して、未早は疑問をぶつける
「どうして、そんなことを教えるのですか?」
「うーん、難しいのだけど、それは僕が人間だから。技術を利用するのは個人的な目的、でも研究する場所まで壊されちゃったらは意味ない。僕は科学者だから、戦う力はないから。頑張ってね、四のラインを崩壊させるのが大事だよ」
そういうと、去っていった。
「よくわかんないけれど、四つあるものををぶっ壊せということだよね、よーしってことでバロンの真意にイアイアタンサー! 」
「ろまんちゃん、次回予告には少し早いです」
未早がちょっと冷静に遮った。
●少年
「橋が落ちちゃったーこられるかな、僕の可愛いお友達さんたち」
爆音と共に、川に架かっていた巨大な橋が煙をあげる。
崩れる橋、その向こうに見えるのは機影だ。
耳をつんざくのは供に四足、二足の巨体を望む彼は嘆息すると、独り言をこぼす。
「機械につかわれてかわいそ、でも皆、つかってるつもりなんだよね」
少年は笑った。
想定したよりも狭い。
周防はそう感じた。
空中戦を選ぶのは目標からして無理だろう、立ち塞がった川はそれほど深いわけでも無い。このまま突っ切るのが無難だ。
四足の獣に乗り込んだ男は、周防は狭い室内に散りばめられた計器に視線をやる。
視認した目標はあまりに小さい。
「いくらなんでも、質量の差ってやつがあるでしょう」
呆れた周防は溜息交じりで目標を捕捉する。
鈍い金属、稼動音を立てて獣は歩行する。
視認した敵、捕捉した目標がいかに強力といえど、到底規模が違う。
順調だ。
問題はない。
周防が心の中でそう呟いた時、
「いない」
振動。
飛び上がった索敵の範囲外から少年は消えると、同時に緑の点滅が赤に変わった。
機器が吠える警告。
狭いコックピット。
空調と心臓の立てる慟哭だけが刻まれる。
汗ばむ手のひら、握って開く汗が、操縦桿に伝うわけではない。
けれど、なぜか汗で滑るような気がする。
見失った敵。
気づいた、これは油断ではない、彼の思ったように質量の差だろう。
「後ろ!?」
周防が呟いたあと、衝撃は来る──。
断続的に打ち込まれる光線の連打は障壁を侵食する白が円を描いて覆う機体を守る力の盾は蝕まれて消え去っていく、周防の精神をを喰らうように、
閃光が迸った。
未早は、閃光に目が眩む。
背負う電子の閃撃が穿つ前に崩れ落ちたのは、彼女の乗る愛機と同型の機体だった。
膝をついたもう一頭の獣は、その場で動きを止める。すぐさま、援護に向かうかこの状況で攻撃するということは、結果的に仲間を巻き込む事にもなるかも知れない。
的、ターゲットは極小。
その標的の小ささゆえにKVの大きさが返って仇になる。
未早は迷った。
現況、危機では無いのかもしれない。
彼女は少年とそれに関係するものに関してある程度の知識を持つ、彼を含めてこの場所自体がイレギュラーなのだ。
「援護しないと」
生まれた戸惑い。
逡巡はトリガーを弾くのを遅きに導く、一瞬の差、撃ち込まれたエネルギーは無の空間を通り過ぎ、廃墟の一画を崩落させた。
のぼる煙。
続けざまにターゲットを狙う未早は目標を失った。オールグリーン? 否。
「上!」
少年は跳んだ。
虚空より見下ろす彼は銃を手に取って向けた。ちっぽけな銃身を撫でて彼は囁く、
「ね、イスカンダル。悪い子はコワレちゃえばいいよね。オシオキだよ」
収縮する輝き。
限界まで銃身に集められた束が銀白から黄黒へと変わってゆく、二頭の巨大な獣は互いに大地を蹴った。
吠える機械の獣が打ち込む粒子は目標を捕らえた後、光に包まれた。
音が届いた。
立ち並ぶ廃ビルが崩れてゆく。
遅れて到着した黒い機体の主はその戦い見た。
自分の出番は今からだろう、UNKNOWNは役割だと認識する。
彼はイスカリオテ。
十三番目。
漆黒の機体は宙を突き槍で少年を射し視る。
少年は、世界の終わりを初めるに喜ばしい相手を見つけた。
狂っている世界に、存在しない名を持つものは適当だ。
「音楽はリズム、攻撃もまた」
口ずさむのはどこか哀愁の漂う、独特のリズム。口笛を吹くまでもなく、指で叩くトリガーに
「黒いね、黒はね、隠れたふりをしているけれど自己主張の強い人が使う色だよね、そういう人は白に変えちゃうよ、全部吐き出させる」
漆黒が放つ攻撃は大気を裂いた。
射出される無数の弾丸の軌跡を悠然と目で追い、ときおり捕らえた弾は障壁によって掻き消える。
哄笑、受けながら、もう一丁の銃を少年は取り出す。
「地を這う猿のくせに君たち地球人なんて、僕たちの手のひらの上で遊んでるだけじゃん」
嘲りは聞こえない。
名も無い男は、局地的にブーストを解放する。
長期戦を捨てた機体、膨れ上がる出力。
弾幕、爆撃、光線、視線。
UNKNOWNは目標を見失う、押されているのはどちらだ。
なぜだろう──喉が渇いた。
「!?」
「どうしたんですかー? みづほさん」
ぬいぐるみを品定めしていた。
みづほの五感に何かが走った、言い知れぬもの。不安に似たそれは何なのだろう。
「いえ、大丈夫です」
聞いたヴィスにみづほは頷いた。
「借り物の力でもやるよね、君達」
戦いは皇帝の退却によって終止符を打たれる。
戦果は痛みわけだ。
少年の役目はここには無い。
彼もまた世界を構成するピースの一つではしかない。
本来の役割に戻る波、現実を混沌に引き戻す兆しだ。
●最後のユメ
クリスマスが来る前に、探しに行きたいと少女は思った。
聖夜の夜、キャロルが響く前、ハロウィンの後。
雪が降れば良いと思う、手のひらに積もる粉雪は、温もりに融け露と消えてしまうとしても。
元はこの街もただの町だった。
何のために、こうなったかは誰も分からない。
なぜ。
問いかけた、問いかけた、問いかけた。
繰り返されるのは
羊だ。
夢をみた。
繰り返される光景は、いつでも繋がる。
見る場所は暗く湿っている。
触れるたび蠢いている。
絡み交わる視線は落ちる先にあるのは瞳。
濁った眼差しが向けられるたび、怖気を運ぶ。
黴。
幻だと分かっているのに匂いは黴を連想させた。
人工の城に住む、偽王は最後の決断をした。
「尊いのは犠牲になる羊なのか、犠牲をそしらぬふりをする者なのか。いずれにせよ、他によって定められた法則に私は従う気はない、そうだろう博士」
バロンは言った。
偶然は必然へと至らぬ、捕われることで縛られ逃れるのもまた生だとしても、兵隊は反逆するだろう。
「革命だ」
月が照らしていた。
「行こう」
少年と少女が歩む。
重ねた手を冷たい。
進んでも、戻っても、紡がれた世界に出口などない。
「分かっていたことだよね、アリシア」
少女は頷いた。
これは定められた事。
初めから決まっていた法則。
「浄化を」
女王が手をあげる。
蠢く混沌が産まれる。
目覚めるために二つの月を呑みこみ、円を描くだろう。
たどりついたはずの挑戦者達は、銃構えて剣を振るう。
けれど刃と弾丸が届く前に、彼は彼女を連れて深き眠りにつく。
少女は思う。
たすけてほしいとねがうのはいみがないことなのかもしれない、ユメにみるから。
創り物が手を繋いで新しい創物に生まれ変わっていく、叫び声はおざなりにされているのはなおざる前に──少女は言った。
「ごめんなさい」
目の前には塔が立っている。
醒めることのない悪夢へようこそ。
空は曇る灰に染まってゆく。