タイトル:鎮魂歌の迷宮〜VH〜マスター:雨龍一

シナリオ形態: シリーズ
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 1 人
リプレイ完成日時:
2008/08/24 20:09

●オープニング本文


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 傾く月の光が細い影を作り出していた。

 辺りは岩が連なり、砂の上へと鎮座していた。

 遠くから笛の音が聞こえる。

 細く、高い音色。

 その音が紡ぎだすのは鎮魂歌。

 聞く者たちは、誰もいない。



  Requiem



 哀しい音が岩間を駆け抜け、砂へと落ちた。


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 朽ちない枯葉の集落での事件から一ヶ月、カノン・ダンピールは岩によって築かれた村にいた。
 快く手を貸してくれた人たちのお陰で無事探索を終えたものの、残念ながら彼の捜し求める情報は無かった。
 しかし過の探索により村に不穏なるものがいなくなったことであの村は救われただろう。
 合同礼拝を行ない、無事土に返してあげることが可能になったのだから。
 収集された木の葉達も調べるとどうやらキメラの死骸であることがわかった。まるで木の葉のごとく、燃え尽きてしまいはしたが‥‥
 樹の方ももうすでに生きてはいなかった。倒れることなく、どうやらキメラの巣として用いられていたらしい。
 今現在は危険ということにより伐採されることとなった。
 それから数日後カノンはこの村の情報を仕入れたのだ。
 昔から様々な伝承が受け継がれる地方で、兼ねてより調査をしようと思っていた場所でもあった。
 
 主人は今一緒にいない。

 彼が探している者の情報は未だ正確なものがなかった。
「彼女を‥‥彼女を探し出さなければ」
 そう思い、カノンは独自で調査を行なうことにしたのだ。
「ご主人様の時間はもう僅かなのだから‥‥それまでに彼女を見つけないと‥‥」
 カノンがこの地域に目をつけたのは理由があった。
 前回の事件と似たような事件が過去に起こったことがあることを耳にしたからである。
 消えた生命体。
 そして、残ったものには失った血液。
 この2点が同じであると言う話が彼の耳へと飛び込んできていた。

「まさか‥‥蘇っているとは言わないよな‥‥」

 胸に響く警笛の音を聞きつつも彼は足を止めない。
 今、彼は危険地帯にいるのだと、何かが囁きかけていた。
 再びカノンは力となってくれる者たちを探すため、ULT本部へと連絡を取る事を決めたのだった。

●参加者一覧

ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
シエラ・フルフレンド(ga5622
16歳・♀・SN
煉威(ga7589
20歳・♂・SN
シェスチ(ga7729
22歳・♂・SN
Cerberus(ga8178
29歳・♂・AA
ラピス・ヴェーラ(ga8928
17歳・♀・ST
ペンギン次郎(gb2372
20歳・♂・EP
ノアール(gb2437
19歳・♀・DF

●リプレイ本文

「カノン!心配するじゃありませんの」
 皆を出迎えようと宿の部屋から出てきたところにロジー・ビィ(ga1031)が飛びついてきた。ぎゅっと抱きしめられ、思わず赤面してしまう。
「熱中症と聞きましたわ。もう平気ですの?」
 優しく上目遣いで見つめられ、そっと視線を反らすとそこには見知った面々が見えてきた。
「見知らぬ土地で行き倒れなんてヤですよ〜っ?」
 シエラ・フルフレンド(ga5622)がそういう横で、荷物を持っていた煉威(ga7589)が頷いている。
「さぁ、良く見せてくださいませ。もう身体は楽なんですの?」
 ラピス・ヴェーラ(ga8928)は脈を計りつつ、カノンの症状を確認し始める。
「どうだ‥‥」
 後ろに控えていたCerberus(ga8178)がさも当然といった形でロジーを押しのけ、カノンを抱えるようにしてロビーのソファーへと座らせた。
「もう!何をするんですの!あたしはカノンを‥‥」
「止めとけ、ロジー。あいつは番犬なんだぜ」
 くくっと笑いをかみ殺しながらアンドレアスはロジーの頭に手を置いた。
「無理するなよ‥‥カノン」
 シェスチ(ga7729)は緩やかな微笑で見つめる。
「は、はい‥‥それで後ろの方は‥‥」
 差し出された水を受け取りつつ、入り口にいる二人を見つけカノンは恐る恐る聞いた。
「そうですは。今回新たに手伝ってくれることになりましたノアール(gb2437)さんとペンギン次郎(gb2372)ですわ」
「皆々様、お初にお目にかかります、ペンギン次郎と申します」
 恭しく挨拶をはじめた男、ペギーは親しげな様子を見せるように笑みを出していた。
「ノアールだ。宜しく頼むよ、カノンさん」
 妖艶な笑みで女が挨拶をする。前身を黒に染め、身体のラインが目立つ服装に思わずカノンは眼を泳がせた。


「それで、今回は遺跡調査という話だが‥‥」
 ロビーでは‥‥といことで借りていた部屋へ場所を移し今回の状況を話し合う。
「あ、はい。僕の調べたことについては話した通りです」
 ベッドで休みながらカノンは答える。
「それじゃあ、もっと詳しいことを訊きに街に出るしかないようだなッ」
「カノンさんにおいしいものも作ってあげるのですっ」
「俺が見ている」
 Cerberusを残し、街に聞き込みに向かうこととなった。


「カノン、血を吸うものを追う‥‥その先に何があるのか?」
 二人になったところでCerberusが問い掛けてきた。
 一気に表情が硬くなる。
「無理にとは言わん。だが、お前の探している物の手助けとなるのなら俺は知りたいと思う」
「‥‥もう少し、待って下さい‥‥」
 そういうとカノンは布団へともぐりこんでいた。



「ふふふ〜っ、どうですっ? 大人っぽくないですっ?」
 くるりと回りながらシエラは被ったカウボーイハットを同行の煉威に見せていた。
「シエラならなんだって似合うぜッ」
 少し照れくさそうに、でもはっきりと告げる。その言葉が嬉しくって、シエラはいつも以上の笑顔を見せていた。



「おい、ロジー。そっちのファイル頼む」
「わかりましたわ」
 観光管理局にてアンドレアスは次々と資料を漁っていた。
 一息つくために思わずタバコに手を伸ばす。
「ここ、火気厳禁ですわよ」
「わりぃ‥‥」
 どうやら中々情報がないようである。
「あたしは、そこの方々にお話を聞いてきますわ」
 同じことをやっていてもダメと判断したロジーは窓口へと足を延ばすことにした。



「ここら変で起きてる一連の事を知りたいのだが‥‥」
 ひとり探索へと出向いたノアールは行き交う街で人を通しての探索となった。女一人‥‥そう不思議な顔をされるも、全身黒尽くめな上、腰にある刀を見ると態度は一変した。
「教えてくださるか?」
 にこりと笑うと、目の前にある果物を渡した。
「それとこれを頼む」


「あっ、その果物と、それと、ちょっとお話いいですっ?」
 シエラは店先で新鮮な果物を見つけると、買い物とともに聞き込み調査を始めた様であった。
「あのですねぇ。ここ最近変わったこととかをお聞きしたかったのですがぁ」
 聞きながら買い物も続ける。
「お嬢ちゃん、聞き出すのうまいねぇ。そうだなぁ‥‥ここ最近の変わったことか?」
 店の親父は考え込んでいた。
「おっさん。何でもいいんだよ。ほら、この近所の遺跡のこととかさッ!」
 考え込む親父に横から補足する煉威。
「遺跡ねぇ‥‥おお!そうだ!」
「何か思い当たるのですか?」
「あぁ、人が消える塔っていうのがあるって話なんだ。新月の晩だけに現れる不思議な部屋があるらしいって」
「不思議な‥‥部屋?」
「そこには行った奴は翌日、死体となって横たわってるって話だ」


「お医者様‥‥ここですわね」
 ラピスは遺体の検死をしたという医師を尋ねていた。
「すみません。お尋ねしたいことがあるのですが、よろしくて?」
「ん?なんじゃい。わしに聞きたいことがあるじゃて?」
「ええ、ここ最近現れる血液の無くなった遺体についてなのですが‥‥」
「なんだ、仏さんの身内かい?」
「いえ、調査にきたものですの」
「ほぉ‥‥ここらへんはこの頃物騒だて、諦めておったのじゃが‥‥」
 少し考えるそぶりを見せたものの、すぐに奥の部屋へと通じる扉を開けた。
「まだ身内が取りに来てない遺体が奥にある。見るが良い」
「ありがとうございます」


「えっと‥‥すみません、お尋ねしたいのですが‥‥」
 そこはまだ開かぬ酒場の前であった。シェスチは裏口に出入りする者へと話しかけた。
「なんだい?」
「ここら辺一帯で‥‥夜笛の音が聞こえると伺ったのですが‥‥」
「あぁ、あの月夜の晩に聞こえる話かい?確かに聞こえるだろうけど‥‥」
「それについてお伺いしたいのですが‥‥よろしいですか?」


 ペギーは地元警察へと足を向けていた。
「ULTの者ですが、調査に参りましてね‥‥ご協力、いただけますね?」
 そしてこれまでの事件のまとめた情報を手に入れたのだった。



「さぁ、カノンさん?いっぱい食べて元気になってくださいですっ」
 情報収集から戻った面々はカノンの部屋に戻っていた。あれから一休みしたのだろう。カノンの顔色も幾分マシになっていた。
 シエラが市場で買ってきたもので作ったものが手元に並ぶ。ロジーも作ろうかとしたのだが、なぜだかアンドレアスに必死に止められたため、しぶしぶ資料の整理へと戻っていた。
「それでだ‥‥今日集めた情報と、カノンがくれた情報まとめてみたんだが‥‥」
 持ち込んだ端末を見て、アンドレアスが説明をはじめる。
「死体が現れるのは新月の次の日、そして、遺体となった者達が行くと告げていた場所と一致する‥‥。また、月が浮かんでいる日はそこの場所に行っても皆普通に戻ってくるって言うことでいいんだな?」
「調べた内容によるとそれで間違いないですな」
 ペギーはまとめた報告書を手に話す。
「そして次っと‥‥笛のことだが、こっちはまるで逆。月がある晩しか鳴り響かない。そして曲調なんだが‥‥」
「あ、僕聞いてきました‥‥何の曲かは不明なのですが、とても物悲しい感じのする曲だったと。ただ、澄んだ音色だそうです‥‥。実際どんな曲なのかまでは‥‥」
「それと、新月でなくても月が隠れている日の翌日には遺体が発見されたらしいですの。どうやら、笛の音と関係しているのは明らかだと思いますわ」
 シェスチと入れ替わり、ラピスが報告を始める。
「そういえば、遺体が見れたんだって?」
「ええ、先週に発見されたのですがまだ引き取り相手が見つからないとかで‥‥そこで見せていただいたのですが」
 ふぅと一息つくと真剣な面持ちで語り始めた。
「全身から血が抜き取られており、ミイラ化していましたの。傷とかは見受けられなかったのですが、何かに締め付けられたような後がありまして、そして、不自然に毛穴が開いてたのが印象的でしたわ」
「毛穴が開く?」
 怪訝そうにロジーが尋ねる。
「ええ、そこから吸い取られた‥‥それが正しい表現かもしれませんわ」
「遺体を運んだものの話ですが、部屋の中央に横たわってたそうです。周りは整然となっており、暴れた形跡等も無く、血も飛び散っていなかったと」
「じゃぁ、暴れるまもなく襲われ、しかも一滴の血もこぼさずにってことかよッ」
「どっちらにしても警戒は必要なのですっ」
 補足するノアールの言葉に煉威は頭を掻き毟った。考え込むようにシエラは呟く。
「ここら辺での吸血の伝説とかについてなのだが、何もわからなかった。昆虫とかだったら多少いるのだが、それらは傷跡を残しているようだ」
 ただカノンを見ていると思っていたCerberusだが、どうやら資料を持ち込んでいたらしい。
「貢をささげる方だと検討付くものがありましたわ」
 地元に巣くう特殊団体情報を思い出しロジーは呟いた。
「問題は‥‥」
「何が待ち構えているのかってことでしょうか」
 集めた資料を元に、どのようにするか‥‥考えようにも決定的なる物がなにか欠けてるようであった。


「カノンさん。ここに探しているのがありそうなのかい?」
 ノアールが問う。
「あると思います‥‥少なくとも手がかりはあると。この間の村にもあると思ったのですが‥‥」
「何を探しているのか、具体的とはいいませんが『何』を教えて欲しいものですね」
 ペギーの隠さない言動に思わず苦笑する。
「何って‥‥それは皆さんの方がわかっているのかもしれませんね‥‥」
 そういうとふと真顔に戻り、呟いた。
「僕は簡単です。だけど‥‥ご主人様の探し物については僕にもわかりません」





 赴いた地は無数の岩石の山だった。それぞれ色々な形をしている。
「あの、きのこ型の形をした岩の陰にあるのが今回の捜査対象となっている場所らしい‥‥ね」
 シェスチが指したきのこ型の岩には無数の穴があいていた。
「ここに人が住んでいましたのね」
 遥か昔の物語がそこから噴出してきそうな、そんな風景だった。
「さぁ、そろそろ暗くなってしまう。そうなる前に乗り込んでいなければまずいのではないか?」
 ペギーの言葉に一同は目的地へと急いだのだった。



 遺跡の中に入ると、そこは岩肌のためか空気が冷えていた。凛とした寒さが身にしみる。昼間の灼熱のような陽光を浴びてのためだろうか‥‥
「冷えるぞ‥‥着ていろ」
 そういってCerberusはカノンに自らのコートを着せる。
「え、でも‥‥」
「カールセルを中に来ている。俺のことは心配するな」
 ここにいる者達はなぜにここまで自分を気に掛けてくれるのだろうか‥‥そんな思いがカノンの中に渦巻き始めていた。
「キツかったら遠慮なく‥‥ね」
 シェスチが後ろからそっと囁く。
 その心遣いが胸に沁みるのだ。





「罠は‥‥無いみたいですね」
 罠の調査を終えたペギーが告げる。
「しーっですの」
 シエラが音を立てないよう岩陰に移動する。っと、シエラの軸がぶれた。
「足元‥‥気をつけるんだよ」
 ノアールが下を照らすと少しくぼみが出来ていた。
 目で感謝を継げると、一気に戦闘態勢をとる。

 ‥‥その時に電子音が鳴り響く。

「‥‥はい、あたしですわ」
「あ?ロジーか?俺だ。ちょい‥‥かかる情報が‥‥ザーーー‥‥」
「‥‥切れましたの?」
 電波が届かなかったのだろう。折角情報を仕入れたらしいのであったのだが、すぐに回線が途切れてしまう。
 そして、なにかが蠢く気配を感じる。
「来ましたわね」
 その声で緊張が走る。銃を取り出すものの、どうも壁までの距離が近い。すかさず間合いを取ろうにも狭い部屋には9人も入れないのは判りきっていることだった。
「カノン後ろに!スナイパーは後ろから援護だ!入りきらないぞ!」
 入り口で固まっていた要員を後ろへ下げ、ロジーとノアールが前方へ出る。
「‥‥どこにいますの‥‥」
 気配は感じるものの、姿が見えない。
 煉威が照らしてみるも、影すら存在しなかった。
「なにもいないのか?」
「いや、気配はある‥‥ん?」
 様子を探っていたペギーに何かが絡みつく。しかし、何者もいないのだ。
 だんだん上に来る‥‥そんなイメージが浮かぶ。
 ふと下を見ると‥‥

そこには砂の山が出来ていた。

「!!」
 思わず払うと、そこには微かな手ごたえがあった。
「こ、コイツだ!」

 ペギーの声に皆が注目する。







 そう、それが今回の吸血の正体であった。
 砂に触れられた皮膚が逆立ち、微かに血が出ているのがわかる。
「くそッ!狙いが定まらないぞッ!」
 それは壁と一体となり、どこにいるのかわかり辛かった。ラピスが気配を探索するも、煉威の狙いは定まらず外すばかり。
 跳弾による仲間の怪我を考慮し、控えるしかない。
「これでもくらいなさい!」
 探り出された方向にロジーが急所突きを放った。

 手ごたえがある。

 そこに重なるよう、ノアールも刀を浴びせた。

 見えないながらもダメージが当たっているのだろう、少しづつではあるが体内の血液‥‥被害者の物だろうが‥‥辺りへと飛び散る。
 それを確認したシエラが狙いを定め一弾を浴びせた。


 襲い掛かる砂、それを振り払いつつ気配を追いダメージを浴びせていく。
 いったいいくついるのだろう。
 狭い部屋の中の戦いは、長いものへとなっていた。


 終わった時は日が差していた。
 皆、ボロボロである。体内に貯めてあったのだろう、切り捨てたキメラからは無数の血が出てた。しかし、犠牲者の数を考えると少ないぐらいであるが。
「どこか別の場所に保存している‥‥そういうことなのかしら」
 撃ち捨てられた身から流れ出る血液を見つつ、ラピスは呟いた。
「なぁ、そこに見えるのは‥‥」
 煉威が指した方向にあった岩の陰になにやら見覚えのある模様があった。
「うそ‥‥また魔方陣ですの?」
「そうみたい‥‥ですね」
「つまり、誰かが操っている‥‥その可能性があるということか」
 ラピスとシエラはその模様に覚えがあった。まさしく先の捜査時にあった家の地下から発見された模様に違いなかったからである。
「あっ!」
 ずっとCerberusに守られていたカノンが大きな声をあげ、部屋の奥へと走っていく。
「カノン!まだ危ないかもしれませんわよ!」
 慌ててロジーが止めに入ろうとするものの、カノンはある一ヶ所にしゃがみこんでいた。
「どうしたんだ?」
 その様子を怪訝に思い、ノアールが尋ねる。
「これ‥‥僕が姉さんにあげたものなんです」




「みんな無事に帰ったか!」
 あれから更なる探索が続き、宿に戻る頃にはすでに日が高くなっていた。
「もぉ、砂まみれですの」
 ロジーは髪を掻揚げながら呟く。
「手がかりは‥‥あったみたい」
「そして謎も増えましたの」


 笛については判ることが無かった。その音を‥‥耳にすることも出来なかったのだ。 ただ、笛の音が無くとも再びあの部屋で人が襲われることは無いであろう。
 砂を模したスライムは退治できたのだから。
 しかし、何かを見逃している‥‥そんな終わり方だった。




 カノンは一人、握り締めた銀のロザリオを懐かしそうに見ていた。