タイトル:誘惑の大尉〜VH〜マスター:雨龍一

シナリオ形態: シリーズ
難易度: やや難
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/02/02 01:59

●オープニング本文


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「えっと‥‥この状況って‥‥」
 カノンは今現在自分が置かれている状況に混乱していた。
 目の前にあるのは、固い鉄の机。
 そして‥‥
「坊や‥‥何か言いたいことあるのかしら?」
 そういって、カノンの首元に鞭の軸を擦り付けてくる大きな人影が。
 ピチピチに張った革のズボンにサスペンダー。上はおなかの付近で切られているタンクトップ一枚。サスペンダーで吊り下げられているため、部分部分が浮き上がっている。
 編み込み式のブーツに裾をきっちりと収め、机の上で組まれた長い足が、そっとカノンの足をなで上げた。
「さぁ‥‥あたしが美味しく頂いてあげようか」
 薄く笑った唇に引かれたルージュがカノンの眼より赤く、艶かしく輝く。
 そっと視線を上げるが‥‥帽子を深々と被っているため表情が読み取れなかった。


 カノンとの年明けを終え、エレーナ・シュミッツは次の任務前にと原隊から召還を告げられ戻る事となっていた。ただ、心配なのがこの頼まれた青年のことである。
「本当に、本当に大丈夫?」
 心配気に聞くも、カノンは爽やかな笑顔で受け答える。
「はい、伯爵のこのお屋敷にとどまらせていただけるとのことですし、エレンさんは何も心配要りませんよ」
「でも‥‥」
 何故だろう‥‥凄い胸騒ぎをするのは。
 彼は、先のグラナダでの重要参考人として軍で預かっている身だ。そういう意味では要保護のため、安全であるだろう。
 しかし‥‥
「まだ、調査が終ったわけではないんだよ?」
 不安を掻き立てるのは、このことである。いくらカプロイア伯爵の好意を持って軍ではなく別荘に身を預けてるといえど、調査が始まったら彼はよほどのことが無い限り軍法会議まで呼ばれることになるだろう。
 ここ2ヶ月を共に過ごし、彼が世間に疎いことは身を持って知ることになった。知識は色々と持っている。しかし、一般常識や世間に対しての知識が著しく欠乏しているのだ。まさしく箱入り‥‥その言葉が似合うように。
「大丈夫です。僕のことは心配要りませんので。だって、これ以上迷惑はかけられませんもの」
 ついに根負けする形となって、エレンは予期していなかった原隊の召還へと従うこととなった。

 仕方あるまい。
 上位命令とばかりに告げられたあの言葉が原因なのだから。
『出て行っておくれ。私は金髪には興味は無いからね。見えるんだろう? この、命令書が』
 あれが、上司命令でなければ‥‥エレンは空を睨み、唇を噛み締めた。
「まっててね、カノン君。私が何とか救うから!」


「わかった。でも、もし何かあった時はすぐに連絡を飛ばしてね?」
「はい、心得ております」
 そんな言葉に少し安心しつつ、暫しの別れをしっかりと抱きしめ、約束する。
「それじゃ‥‥行ってきます」
「お気をつけて、エレンさん」

 そんな、別れがあったのも束の間‥‥
 それは、起こったのだ。
 まるで、彼女が居なくなるのを待ち構えていたようなタイミングのよさが、今でも焼きついてはなれない。


「で、ここは?」
「坊やを調べる部屋さ‥‥」
 相変わらずニヤリとした笑みを浮かべるだけで、態度は変わらない。
「僕、やはり調査にまわされるんですか?」
「‥‥さぁね」
 そういって、鞭の主は尻で頬のラインをなぞる。
「大丈夫‥‥痛くは‥‥しないから、ね」
 そういって、机の受けから、カノンの上へと‥‥
「え!? ちょ、ちょとまってください!!」

「ダメだ‥‥坊やはあいつに似すぎてるんだからね」
 そういって、カノンの首へと圧し掛かるように女は噛み付いていた。

●参加者一覧

ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
シエラ・フルフレンド(ga5622
16歳・♀・SN
アンドレアス・ラーセン(ga6523
28歳・♂・ER
草壁 賢之(ga7033
22歳・♂・GP
ラウル・カミーユ(ga7242
25歳・♂・JG
ラピス・ヴェーラ(ga8928
17歳・♀・ST

●リプレイ本文

「ちょっと勘弁してくれ‥‥」
 草壁 賢之(ga7033)は見つけた依頼に書いてある緊急の2文字に頭を抱えた。よりによってカノン・ダンピールが関っているらしいのだが‥‥
「ん?」
 依頼人の名前を見ると、ふと疑問に思う。
「あの、エレンさんがだしたのか?」
 金色の髪の、明るい活発な彼女を想像すると、妙な気配を感じた。


「どーしてこれしか書いてなんだろうネ‥‥」
 思わず途方に暮れたくなるのを抑えつつ、ラウル・カミーユ(ga7242)は取り合えずとばかりに打診を本部に依頼していた。集まったのは今回6人。みな顔なじみである。おろおろとするロジー・ビィ(ga1031)や険しい顔のアンドレアス・ラーセン(ga6523)に比べ、シエラ・フルフレンド(ga5622)やラピス・ヴェーラ(ga8928)、草壁は落ち着いた様子である。
「一体カノンに何が‥‥」
 顔色を変えて落ち込むロジー。
 確認を取っている最中に、まずは居場所確認を行う為、カプロイア伯爵(gz0101)へと連絡を入れた。確か、クリスマスの時には彼の南イタリアにある別荘に居たはずであるのだから。
 普段何処に居るか判らないカプロイアではあったが、この日は偶然というよりも事前にエレンから連絡があったらしく、素早い対処を返してくれる。
「彼女が言っていた事をお教えしよう」
 そう言って告げられたのはこの度の危険人物とエレーナ・シュミッツ(gz0053)が判定した相手、ファルファタール大尉のことであった。


 ファルファタールUPC欧州軍大尉、年齢30歳。
 魅力的な肉体を短めのタンクトップとゆったりとした軍服に身を包み、きちっとしたハイブーツに裾を納め。短く刈上げた髪を軍帽にて、更にサングラスにて威圧的な瞳を隠しているという。
 ご愛用の鞭のコレクションは数知れず、まして彼女の趣味といったら‥‥
 いつも侍らせているのは、綺麗どころと称される男女で数知れず。
 お気に入りを見つけたら、あらゆる手段を講じて、有無を言わさず自分の物にするというのだ。
 それも、権力を使うことに躊躇わないというのだから‥‥



「カノン君だったら、間違い無く狙われるっ! あの大尉、黒髪好きでも有名なんだもの!」
 そうカプロイアへとエレンは電話越しで怒鳴ったのだという。
 あいにく彼自身は他の調査で手を貸せないのが、非常に残念であると告げて来た。

「カノンちゃん‥‥てーそーのきき、ですの?」
 そう呟いたラピスの言葉に顔色を変えるアンドレアス。
 その反応を見たシエラは、にっこりと黒い雰囲気を纏わせながら、つげた。
「ふふふ‥‥あたしのお友達には手出しはさせませんっ!」



 急いだ伯爵の別荘には、クリスマスのときと何ら変わった様子を見せていなかった。
 そう、少なくとも外見上は。
「静か過ぎますわ‥‥」
 いくら別荘といえど、人を預かっているためにそれなりの使用人を置いていたはずの屋敷は、人がいる気配を感じさせていない。
 違和感が一番大きいのは‥‥
「なんだよ、この車‥‥」
 バッチリと大きく軍のマークが入った旗をはためかせた車が数台、屋敷の前に横付けされていた。
「‥‥」
 握る拳が、熱く唸るのを感じる。
「とりあえず、現在どんな状況か調べよう」
 キャプ――思わずそういいそうになった言葉を飲み込みつつ、草壁はそっとアンドレアスの肩に手をおいた。

 外周辺の情報収集へとあたることにした草壁とラピス、ロジーはとりあえず辺鄙な地域ではあるものの周辺にある民家などへの聞き込み、そして屋敷周囲への異変を捜査することとなった。

 そして‥‥
「あっ、よろしくお願いしますっ♪ えっと〜っ‥‥」
 メイド姿に扮したシエラは屋敷内部へとメイドとして潜入を行っていた。
 一方ラウルはそのまま屋敷内部へと隠密潜行で乗り込む。アンドレアスはクリスマスに来た際のこともあり、見知った顔のものへと声をかけ、そのまま客として上がりこんでいた。まず最初に取り掛かったのは、ここの管理を任されているものへの取次ぎと、今しがた見た車の確認を‥‥
「あぁ、あの方々でしたらエレーナ少尉に代わってカノン様を保護に着た方々だとお伺いしましたが‥‥」
 どうやら、命令書を見せられそのままこの屋敷へと居座ることになったらしい。

 ラウルは前回に来たときの様子を思い出しつつ、各部屋を探っていた。時折見える軍服を着たもの達をやり過ごしながら、その様子に違和感を覚えていた。
 そのどれもがエレンと違い、ちょっと変わった軍服に身を包んでいるのだ。
 まるで、報告にあった大尉のお気に入りと同じような井出達で‥‥
――やっぱり、この屋敷にまだいる‥‥
 それは、確信へと変わっていた。

 屋敷の外は取り分け変わったところは見受けられなかった。もしかしたら‥‥そう警戒していた大鴉の姿も見受けられない。
 取り敢えずは安心、クリス・カッシング(gz0112)卿の心配は免れたと見てよかったようだ。
 しかし、まだ‥‥そう、ジュダースが関わっている心配もある。
 周囲への聞き込みも力を入れつつ、不審な影がないかを草壁は慎重に見極めようとしていた。



「こちらシエラですっ、異変発見ですっ」
 その部屋の前でシエラは小声でスカートの下へと隠し持っていた無線機を取り出し連絡し始める。
 そこは、屋敷の一角にある古びた部屋だった。丈夫な石造りな戸に、硬質な雰囲気が漂う場所だった。先程ここから人物が出てきたため気付いたのだが、扉が開いたときに、 カノンの声が聞こえた気がした。それに‥‥既に回った他の箇所では何も見つからなかった。残るは‥‥そう考えると、皆がくるまでの時間が、長く感じられた。

「ど、どこだ!?」
 アンドレアスは、髪が乱れるのも構わず屋敷内を走り駆けつけていた。同じく屋敷内に居たラウルは近くまで来ていた事もあり、先に到着している。やや遅れ、ラピスにロジー、草壁も駆けつけてきたところで、シエラがここですと、扉を指して告げる。
 そっと気配を窺うラウルの耳に、カノンの小さな声が聞き入る。

「あっ、な、何をなさるんですか‥‥」
「なぁに‥‥このくらいで抵抗してるんだい…」
「こにくらいってっ! あぅっ!」
「ふ‥‥うぶだねぇ‥‥ 坊や‥‥」
「くっ!」
「ほら‥‥身体は、正直だよ?」
「そ、そんなことっ!」
「楽におなり‥‥ 欲望に、任せて‥‥ね」
「あっ! くっ!!」

 それは、抵抗のように聞こえ、ラウルは苛立つ気持ちで気が急いた。
 扉には罠はなく、どうやら押し戸の構造であることがわかる。乗り込むには‥‥暫し考えると、手持ちの使い捨てカメラを取り出し、なにやら準備を始めた。
 それぞれが、顔を見合わせる。互いに、準備は整ったようであった。


 勢いよく扉を蹴り開け、フラッシュを光らせながら、ラウルが中へと切り込んだ。
 それは、不意打ちとなり中にいた人物達の動きを鈍らせるには十分であった。
「スクープ! 何て、ふざけている程穏やかな気持ちじゃないんだなぁこれが‥‥ッ!」
 左手に持つ携帯でバッチリと状況を収めつつ、草壁はその言葉と共に右手に掲げていたフォルトゥナを突きつける。
「!」
 すかさず手に持つ鞭で薙ぎ払うも、先ほど炊かれたフラッシュで動きが鈍っており若干の隙を出していた。そこを狙い、シエラが隠し持っていた両手小刀で鞭を払う。
 鋭い視線で首元に刀を押し当て、
「カノンさんは大切な友達ですっ♪ ‥‥貴方は私にとってなんですかっ?」
 黒い微笑を告げた。
「大尉!!」
 他から駆けつけてきた者達が怒声を上げて乗り込んでこようとする。それをロジーは月詠を鞘からぬかずに打ち払った。
「汚ねぇ手、放せや、この変態女‥‥」
 シエラの微笑ですらも放そうとしないカノンの衣服にかかった手をアンドレアスは乱暴に掴み取る。その瞳は激しい憎悪に染まり、静かなはずの海色の瞳は、荒れ狂っていた。
「何故お前達のいうことを聞かなきゃいけないんだ!」
 そう言い放つ大尉に対し、ラウルは静かに告げる。
「ここに証拠があるんだ。出るとこ出て、話してもいいんだよ?」
「くっ! 何で、何でこれくらいの事で!」
「それは、あたし達に大切なものに手を出したから、ですわ‥‥」
 ロジーのその真剣な言葉に、カノンは少し、心打たれていた。

 カノンを部屋の外へとアンドレアスが連れ出した後、シエラと草壁によって執拗なる尋問が行われたらしいのだが‥‥それが一帯どんな事が行われていたのかは、付き添ったラピスしか知らないことであった。ただ一言、ラピスに問うとするならば‥‥
「大変シエラちゃんらしかったですわ」
 そう、返ってくるだろう。



「怪我、無いか? 頼む‥‥一人で苦しむな」
 がっしりと掴んだ腕が、昔より少し肉付いたのを感じる。だけど、それでも彼は充分に細く、頼り無く感じる。
 ここで、抱き寄せてしまいたい衝動が芽生えるものの、アンドレアスは自分を少しだけ、押さえた。銀が、側にいるのを意識していたから。
「は、はい‥‥おかげで‥‥」
「おかげでじゃありませんわ。カノンちゃん、ちゃんと見せてくださいまし」
 そう言って、合流したラピスはカノンを調べ始める。半分脱がされていた上半身には、以前のような傷は無く、ほっとする。丁寧に調べていくと、噛み付かれたのだろうか、首筋に大きく噛み傷が出来ていた。
「っ!」
 思わずその痕に顔をゆがめつつ、そっと念じて手を当てると、周囲を暖かな光が包みながら、そっと癒されていく。
 真剣な表情で手当てをするラピスを申し訳なさそうに見つめるカノンを草壁は頭に手を置いてくしゃくしゃに掻き乱した。
 そっとラピスを優しく見つめるのを見ると、彼にとって彼女が大事な存在なのに気付かされる。
 なぜだろうか、その様子を見ていると自分の心まで温かくなって、緊張しきっていた心がゆっくりと解されていくのだ。
「見たところ、ありませんわね。カノンちゃん、他に痛い所とか無いんですの?」
「あ、ありがとうございます。もう、大丈夫です」
 それは、今までに出した事の無い、心からの感謝の笑顔で‥‥その顔を見たときやっと、カノンが心を開いたように感じた。
 今まであった、見えない壁が全て取り払われたような‥‥

「怖い目にあうのはヤですよね〜っ」
 無事に大尉達を追い払う事が出来、一先ずはといった感じで暫しの休息が得られた。
 屋敷の者に言って、通報してもらうと同時に、軽い食事を用意してもらう。少し、落ち着いた時間が欲しかった。
 そう言えば、カプロイア伯爵に連絡を取ったとき、なにやら考えてる算段がある旨を言っていた事を思い出す。
「ジュダースを調べる、だったか」
 思い出したようなその言葉に、カノンは僅かに揺らぎの色を瞳にともしたが、ふるふると震えるように、自らで掻き消す。
「ご主人様を、解き放たなきゃ‥‥駄目なんですね」
 そう言った謎の言葉を呟き、カノンは膝を抱えるように蹲った。
「解き、放つのですの?」
 そっとロジーが聞くと、少し悲しそうな微笑で返して来た。
「僕が、彼の側で待っていたのは、探していたのは姉様です。でも、現れなかった」
 そういうと、そっと手の甲を反対の指の爪で傷つける。
「カノン!?」
 驚く彼らを微笑みで返し、その傷ついた手を差し出す。

「僕の血、特殊だから。姉様の声、特殊だから。だから、2人揃わないと、意味無いんです」
 ポトリとコップの中に一滴血を垂らすと、それは薔薇の花びらのように広がりながら、水の中で形を作っていた。
「ご主人様が、僕を傍に置いていたのは、きっと‥‥」
 コップの中で形作った赤い薔薇を見つめながら、カノンは静かに眼を伏せた。
「僕は‥‥目を反らしていてはいけなかったんでしょうね‥‥」
 薄らついた傷は、紅の血を出し、そして、ゆっくりと甘い、薔薇の香りを放っていた。


「とりあえず‥‥場所を移さなければ‥‥」
 考え込むラウルの声に、アンドレアスははっとした。
「っと、こうしちゃ居られねぇな。今度は、何処がいいんだか‥‥」
 軍の保護下にいるとしても、今後このような輩が現れないとは限らないから。少なくとも、しっかりとした安全な場所でなければ安心していられない。

「無理は承知ですが‥‥引き取る覚悟はありますわ」
 ロジーはそういうと、そっとカノンを抱きしめた。髪に、自らの胸に刺していた勿忘草をそっと挿しながら。
「望んでくださるなら‥‥あたしはいつでも此処に居ますわ」
 そう話す彼女の瞳からは一筋の線が‥‥
 カノンは何も言わず、そっとその跡をぬぐう。

 次々とあげられる候補の中には、それぞれが作っていた軍の人脈が現れていた。SRPのアニー・シリング(gz0157)士官をあげるアンドレアスに対し、ラウルは、
「一番安心できる場所はLHだと思うんだよネ」
 そうして、自らの知り合いである朝澄・アスナ(gz0064)少尉の名前を挙げる。
 取り敢えずは‥‥この度の依頼人であるエレンに対して提案してみようという事に落ち着き、一先ず連絡を取る事へと決まったのだった。




 そして、後日軍に着き渡された書状により、カノンは晴れて自由の身となることとなる。それは、カプロイアが作り上げたジュダース・ヴェントの調査書と、このたびの騒動の報告書、そして‥‥
 カプロイアを通じて寄せられた謎の手紙だった。

「これより、私が君の後見人だよ」
 その言葉により、これ以降カノンはLH内の伯爵邸に身を寄せることが確定したのだった。

 ファルファタール大尉はその後、軍部から失脚させられることとなった。撮られていた映像と、音声‥‥そして、今まで犠牲になってきたもの達の証言によるものである。彼女は言う。カノンを使って何をしたかったかを。
「あの子は、あいつの大事なものだから‥‥」
 だから手に入れたかったのだと。あいつとは誰なのだろうか。
 一つわかったことは、彼女が執拗に迫っていた人物が軍のとある部隊から姿を消したということ。特殊任務の多いその部隊は、全てが謎に包まれた、そんな人物ばかりが集まった場所であった。
 軍から姿を消し、現在どこにいるのか‥‥。それが、カノンを大事に思っている人物らしいことだけが、これからの展開へと繋がる糸なのかも、知れない。

 十字架に仕込まれていた発信機が、その部隊特有のものだという事を含めても‥‥