●リプレイ本文
町の人々が四方へ散らばっていく。なにやら中心へと走っていく者もいるが、道行く人に抑えられ、止められていた。中には泣き叫ぶ妙齢の女もいた。
「よりにもよって児童のいる学校にキメラが現れるとはな」
たまたま近隣に用事があった木場・純平(
ga3277)は道路脇に止めてあったジーザリオに飛び乗りながら携帯を弄っていた。
「あ、学校の方でしょうか? こちらULTの関連のものですが‥‥ええ、そうです。避難の指示をお願い致します」
一つ掛け終わると、今度は短縮番号を押していた。
「あ、ULT支部か? 緊急事態だ! すぐ来れるものを今から言う場所へ派遣してくれ! 場所は‥‥」
時同じくしてレヴィア ストレイカー(
ga5340)もまた、街中で騒動を目撃していた一人だった。
「こうしちゃいられませんね‥‥。現場に急がなくては‥‥」
降ろそうとしていた大きな荷物を再び車内に押し込み、車を発進させていた。
「緊急事態です。小学校にキメラが2体現れたのことです。至急応援に向かってください」
支部内に緊急アナウンスが鳴り響いた。
「キメラの特徴は‥‥」
先ほど木場によって持たらされた情報が朗々と繰り返される。たまたまカウンター近くにいたステラ・レインウォータ(
ga6643)を始め6人がその話を聞いて各方から駆け寄ってきた。
「3・4‥‥貴公らすまぬが少し手を貸してくれ。おい、わしらが向かう、至急緊急車両を出してくれ」
オブライエン(
ga9542)が周りに集まってきた人数を数えるとカウンターへ告げた。
「は、はい。緊急手配車の鍵です‥‥。場所は緊急NO.3に記録してありますので‥‥」
「あいわかった。それではすぐに向かう‥‥貴公ら、参ろう」
一同は緊急車両へと急いだ。
その間先に現場周辺へと着いた木場とレヴィアは、学校の周辺を確認すべく、関係者へと連絡を取り情報の入手に当たっていた。
「すまない、あと簡素なものでよいのだが、ゴム系の手袋は無いだろうか」
「あ、汚くて悪いんですが‥‥これなら‥‥」
レヴィアに地図を渡した学校の用務員は腰にぶら下げていた土で薄汚れたゴム手袋を差し出した。
「ありがたい‥‥」
そういうと木場はジーザリオに備えていた拳銃を腰に装着し、借りた手袋に手を通した。
「雷系‥‥ですか。そして獣型となれば、いわゆる雷獣ですね」
緊急車両で移動しながら、先ほど集めた情報を整理していく。
「雷はゴムに弱いと聞いた。銀龍は長靴履いてるから大丈夫?」
ちょっと小首をかしげながら銀龍(
ga9950)は自分の足元を指差した。
「確かゴムは絶縁になりますし、充分な対策になるかと思われますね」
そう言ってステラもまたゴム長靴を取り出していた。
「ここのところ雨が酷かったですし‥‥何せ、今日なんて‥‥あ!? 雷に乗ってやって来たんでしょうか!?」
「そうかもしれぬ」
淡々と言うオブライエンに対し、銀龍は少し眉をしかめた。
「雷‥‥怖い‥‥」
「子供たちも今ごろ怖がっています。では、お願いした方法で‥‥」
「あいわかった。どうやら現地に居るのは木場殿とレヴィア殿のようだ。貴殿らも頼りのある奴じゃとて、大丈夫だろう」
「被害を出さないこと、それを優先に頑張りましょう」
そういってイシイ タケル(
ga6037)はそっと眼鏡を上げた。
「‥‥キメラ‥‥か‥‥」
始終静かに見守っていた城田二三男(
gb0620)は微かに薄らと唇を上げていた。
車両が着くと、木場達が待っており、現状を説明しつつキメラのいる場所へと向かっていた。
「とりあえず、今のところは動く気配は無い。2匹とも避雷針に上ろうとしてずり落ちているの繰り返しだ」
「避雷針によじ登るですって!?」
予想だにしなかったキメラの行動を聞き、優(
ga8480)は我が耳を思わず疑っていた。
「ああ、まさしくその言い方で間違いないと思う‥‥見た目は木に上れない猫‥‥そんな感じだ」
「イ、イメージが‥‥」
ステラも思わず額に手をやっていた。
「とにかく、誘導は頼んだぞ」
そんな彼らを尻目にオブライエンはイシイとレヴィアの肩を叩く。
「お任せください」
そしてイシイとレヴィアは校舎の方へと急いだのだった。
イシイとレヴィアが校舎へと向かうと、琴子がちょうど学校に着いたところだった。
「えっと、琴子さんですか?」
手元にプリントアウトされた用紙を見ながらイシイが尋ねる。
「はい、そうですが‥‥あの?」
いきなり見ず知らずの者に声をかけられ、琴子の顔は強張っていた。
「ああ、私はULTの方から‥‥」
「あ! では今回キメラを!」
「ええ、先陣で向かっている者もおりますので私たちは避難の誘導を‥‥」
「あ、あたしにも何か手伝わせてください!! まだ手術前ですが!!」
「ええ、ですから声をおかけしたのです」
「未来の能力者としてのあなたの協力を要請します」
そう言ってイシイは琴子に手を差し伸べた。
一足先に校舎内で教師数人との接触を取っていたレヴィアは、無事交渉を成功させ、琴子の協力にこぎつけてきたイシイと落ち合い、今後の見回りについて手短に確認していた。
「では、すでに体育館に全員移動が終わったと」
「ええ、ですからそちらの方は琴子さんにお任せし、一通り見回りした後警護にと」
「そうですね‥‥」
イシイはチラッと琴子を見ると微笑んだ。
「それでは琴子さん。好奇心の強い子が外に出ないように気を配ってください」
「は、はい!!」
琴子は力強く返事をした。
「ちょっと予定が違いますが‥‥作戦通り行かせて貰います」
ステラは今まさに避雷針へと爪を立てて登っていたのが落ちてきたキメラを見て複雑な表情をしていた。頭を振り、思考を切り替える。
手に照明銃を用意し、ちょっと大きめに吸った息を呼び笛へと吹きつけた。
キメラが驚きながら後ろを振り返りステラを食い入るように見つめた。
「照明弾、行きますっ」
声と共に光が散乱する。
「今ならキメラ近づける。行く?」
銀龍は横で構えて同じく構えていた優に問うと、了承の頷きを得た。それを確認すると同時に全速力で駆けていく。
木場は銀龍たちとは反対側に位置をとり、照準を手前にいたもう一匹へと合わせていた。隣には目を赤くした城田が愛用の100tハンマーを手に不気味なまでに笑みを浮かべていた。
「‥‥クッ‥‥今回はあくまで戦闘‥‥敵を倒せ‥‥倒すことだけ考えろ‥‥」
意思を保とうとするかのごとく顔を抑え、キメラへと意識を移す。そして木場の銃が吼えたと同時に城田は駆け出していた。
「オブライエンさん、こちらの方は無事完了しました。引き続き警護に当たります」
無線機からレヴィアの声が響く。
「了解じゃ。こちらも殲滅へと入っておる」
「こどもを守る任務にあなたがいると心強いです」
イシイの声が間に入ってきた。
「なに、それはこの事件が収拾ついてから聞きたいのぉ」
オブライエンは目の前で繰り広げられる戦いを援護射撃しつつ、笑みを浮かべていた。
戦闘は不意をついた人間側に有利だった。元々そんなに襲う‥‥といった気配がなかったためなのか、キメラたちは攻撃に対し無防備だった。
それでも立ち振るわれる剣やハンマーに対し、果敢にも大きな爪を振るう。
一匹が大きく咆哮を上げると光の衝撃が襲い掛かる。しかし身に着けていた各自のゴム製品が功を奏してかその衝撃を阻む。
避雷針を背に挟む形で攻撃を受けていたキメラたちは一方的に不利であった。
もしその表情が読み取れるとするならば、半泣きになった猫‥‥そのような印象を受けたかもしれない。
「‥‥時間がないんでな‥‥悪いがここで終わらせてもらう‥‥ッ!」
城田のハンマーが胴を薙ぎ払い、そして頭上から再び打ち落とされた。
それが決め手となった。
もう一匹も銀龍たちの手によって倒れている。
「こちら殲滅隊。無事完了じゃ」
オブライエンが警護隊のほうへと告げていた。
「それでは琴子さんの弟さんの誕生日なのですね?」
「はい」
イシイの問いかけに琴子は大きく返事をした。
「大人数の方が楽しかろうて、皆でやったらよいのじゃないか?」
「城田さんもご一緒しませんか?」
オブライエンの提案に優は手を合わせ後ろに控えていた城田に問い掛ける。
「‥‥いや‥‥俺はいいさ‥‥甘いものは苦手だしそれに‥‥今は一人になりたい‥‥」
「そうですか‥‥」
少し落ち込む優の肩をオブライエンは軽く叩いた。
「なぁに、それでは皆でパーティーの準備をしよう。琴子殿、ケーキの店を教えてくれるかのぉ?」
「銀龍‥‥買いに行っていい?」
「おお、銀龍も一緒にいこうのぉ」
「あ、私お茶買ってきたところだったんで用意しますね」
ステラは活き活きと車の方へと走り出す。
「あ‥‥自分はいいものある」
そういうレヴィアも車の方へと移動していった。
「皆さんのご好意折角ですので‥‥この学校の方で開けるようお願いしてきますね」
琴子は嬉しそうにしていると木場が横から告げる。
「安心しなさい。もう許可は取った。ちなみに、あなたの方で用意したものがあったなら私が運ぶのを手伝おう」
「あ、ありがとうございます」
その後、銀龍とともにケーキを買いに行ったオブライエンは10ホールもの様々なケーキをもってき、それに舌うつ子供達とステラの姿が見られた。また、余興とばかりに大きな荷物を持ってきたレヴィアが着ぐるみを着た姿は大変愛らしく、子供達の心を和ませたのは大きな救いの手となっただろう。
「めでたい席で一杯やりたい気分だが、運転があるから泡の出るお茶は家に帰ってからだな」
そういう木場もはにかみながら終始その場を見守っていた。
「このケーキ、可愛くて美味し‥‥ん、美味しい。銀龍はもっと食べれる。皆ももっと食べる?」
最後までケーキから離れそうに無かった銀龍は少しばかり残ったケーキを嬉しそうに持って帰ることが出来た。
そんなパーティーが行なわれている学校とは違い、一人ビルの谷間にたたずむ姿がみられる。城田だった。
「‥‥殻にこもっていると‥‥壊れやすくなる‥‥か‥‥」
自分の手のひらをきつく握り締め、空を一人見上げていた。