●リプレイ本文
「ミハイルおじいちゃん、お久しぶり〜」
再び怪しげな実験を始めると思ったのか、月森 花(
ga0053)がミハイルの家の扉を叩いた。
「おお、花殿ではないか」
「うん、また来たよ? あのね、花ね。この間の実験、良く覚えてないんだよねぇ。だから、今回はちゃんとお手伝いするの」
花は、小首をかしげながら、一つ一つ思い出すように呟く。
「ふむ、此度の研究は現状調査じゃぞ?」
その様子を、にこにこと見守りながらミハイルは家の中へと勧めた。
「うん。しっかりレポート書くから安心してよね!」
「うむ、頼りにしてるぞ」
よいしょっと、大きな荷物を持ちつつ、花は案内されるがままにミハイルの後へついて行った。
「やぁ、爺さん」
再び扉が叩かれる。様子を見るとなにやら黒いのフロックコートに身を包み、さらに帽子を目深く被っている男が一人たたずんでいた。
「おぉ、UNKNOWN殿か」
以前に会ったことがある男の名を呼び、ミハイルは扉を開ける。
「ああ、また立ち寄らせてもらうよ」
「おう、それは構わないぞ」
「ふふ‥‥それでは邪魔するとしようか」
目的を告げず、一人家の中へと消えていく。
「あ、そうだ‥‥後で浴室を借りるが、構わないだろうか?」
すっかり消えた後、声だけが聞こえてきた。
「うぬ、勝手にせぇい。本日は無礼講もありじゃぞ」
「ふふ‥‥失礼するよ」
◆○◆
ミハイルは以前より気になっていた一つの現象を調査しようとこのたび依頼を出していた。それは、一種の「現状調査」であった。
以前よりも度々訪れることの増えたULT支部。そこで起きている現象の一つであるそれを、ミハイルは知りたかったのだ。
――持ち帰りも良いのか?
そんな意味不明なことを思うまでに。
彼は、魅力に取り憑かれていたのだった。
「本当に、実行するとは‥‥思って、無かった‥‥。流石‥‥有言実行‥‥だね」
その、魅力に取り憑かれ、研究しようとまで行きついたのを立ち会った一人、霧島 和哉(
gb1893)は、ミハイルの実行力に呆れつつも、最後まで付き合おうと胸に誓っていた。
「さて‥‥僕は、補佐をするよ? それで‥‥平気でしょ?」
「うむ、それではわしについてまいれ。ほれ‥‥今回の調査に付き合ってくれるもの達はすでに来ておるしのぉ」
そういってミハイルが一つの部屋へと歩いていく。
付き従う霧島。
ついた先で扉を開けると、そこはすでに違う空間へと変わってしまっていたようであった。
「ぽにぽにぽにぽに〜」
「ぽに?」
「ぽ〜にぽにぽに」
「ぽにぽにニャ〜ニャ〜☆」
「ぽにかにぽに?」
「「ぽにぽにぽにぽに」」
部屋にいるのは4匹のぽに。そして、観察をする狐。間を行き交う蟹。そして、なにやら紛れている着ぐるみが2匹いたのだった。
すでにその空間は一種のカオス。
頬ずりするものや、少し噛んでみて逃げられるもの、突如横切る紅い影など、この部屋は異空間になってしまったようであった。
「うむ。この者達が今回手伝ってくれるもの達だ。先程からリラックスできるようにヒーリングミュージックと適温の部屋、そして、幾ばくかの菓子を置いといたのじゃが‥‥ふむ、良い具合に『ぽに』になっておるようじゃの」
ホクホクと笑いつつ、あごに手を当てる。
「よし、霧島殿。おぬしはこの者達を始終観察し、報告書をまとめてくれたまえ」
「‥‥え?」
「わしは他のものを用意する故に、頼んだぞ?」
戸惑う霧島を置き、ミハイルは一人研究室の方へと下りて行った。
「‥‥僕に、できるのかな‥‥」
◆○◆
そのころ、UNKNOWN(
ga4276)はというと‥‥
彼は丁度調理場にいた。
包丁を片手に、手際よく盛る姿、そして口から紫煙が立ち伸びる。
ごそごそと丸い物体を取り出す。
何なのだろうか、わからない。
その上に、綺麗にパイシートを載せると、UNKNOWNはオーブンへと入れた。
◆○◆
<報告書 調査官:神無月 るな(
ga9580)>
現在、傭兵の間に良く見かけられる様になった現象。
動物や他のナニカに突然変身し、しばらくすると何事も無かったかの様に元の姿に戻る『ぽに化現象』または『動物化現象』。
私はこの現象を「ぽに化」と総称し調査する事にした。
まず、この現象が発生する場面は顔見知りや気の合う仲間がいる場所が主である。
また、特徴として1人が『ぽに化』すると複数の人間が感染したかの様な勢いで『ぽに化』する。
特筆すべきなのは『ぽに化』中の人物は性格や口調までも大きく変化してしまう事であろう。
強面の戦士も、無口な紳士も『ぽに化』してしまうと気の抜けた様な空気が流れてなんとも言えない光景と化してしまう。
原因は全員共通していて、似顔絵や写真を依頼した後から発症する様になった模様である。
更なる調査を行うべく、私も似顔絵を依頼してみた‥‥
( ぽにっ☆ )
むむむ、この姿はっ!?
‥‥ぁぅぁぅこれはきっとアレですよっ!
親バグアの陰謀ですっ!
きっと、絶対! 傭兵の闘争心を減少させて戦力ダウンを目論んでいるのですよっ!!
‥‥でも、この癒し効果は‥‥むむむ、いいかも♪
だんだん、ねむく‥‥
えーっと‥‥
ほうこく、れぽーと、おわり、なので、すぅ‥‥
◆○◆
☆ SPECIAL TIME PART1 ☆
微かな衣擦れの音が聞こえる。
シルクの音であろうか。
まるで波間を縫うような、甘い囁きのように
それは一つ一つ、とった形を乱していった。
赤黒いサテンの布が床へと横たわった。
掻き揚げた髪が、白いシャツへと広がる。
指が胸線をなぞると、一つ残らず外された。
垣間見えるのは
たくましく盛り上がったラインだけだった。
◆○◆
<報告書 調査官:月森花>
つっついてみる。(ぷにぷに)
マシュマロより柔らかい‥‥
撫でてみる。(撫でこ撫でこ)
お持ち帰り‥‥ OK?
疲れた心を癒すおともに‥‥
一家に一台‥‥じゃなくて、一家に一体(?)
贈答用にもどうぞ(?)
◆○◆
☆ SPECIAL TIME PART2 ☆
水の音が聞こえる。
薄い布を隔て、シルエットが垣間見える。
流れてくるのは、古くから愛される酒の香りか
ふいに聞きなれぬフレーズが耳を撫でた。
ブルースだ。
大人の背徳を感じるこの音楽を愛しているのであろう。
水に濡れ、布がシルエットをより濃く写した。
そこに見えたのは、鍛えぬかれた彫刻のような姿であった。
◆○◆
<報告書 調査官:大泰司 慈海(
ga0173)>
『ぽに』って日本語は存在しないんだよね〜。
擬態語みたいなものかな?
『ぽに』から連想されるイメージは‥‥。
まぁるくて、軟らかくて、ふやけて、垂れている感じかな。
類語としては、『まったり』『のほーん』なんかがあげられるかも。
例えば『むに』だと、健康的で若々しくて肉感的な感じがするよねっ。
でも『ぽに』は、『むに』とは違って、生々しさ・いやらしさはまったく含まれていない感じかな。
リラックスして放心状態で、心ここにあらずって状態なんだよねー。
現実感・迫真感が抜け落ちてしまったかのような‥‥。
現代のストレス社会において、心に癒しを与える現象と言えるね。
実際に、UPC本部や兵舎に出かけて観察してみたよ。
やっぱり、緊張感のある本部よりも、疲れを癒す兵舎において、『ぽに化現象』は多く見られたね。
戦いで疲弊した肉体と精神を開放したい表れかもしれないね。
男女ともに『ぽに化現象』は見られたけど、個人的には女の子の『ぽに』のほうがいいね☆
そして、『ぽに化現象』を起こした対象は、ある幻覚を相手に見せるんだ。
それは‥‥柔らかいクッション。
突如としてクッションの幻像が現れて、そこに頭と両手を乗せているように見えるんだ。
その無防備さは、右の頬を打つ者に左の頬も出すような‥‥博愛の精神を感じさせるね。
相手を受け入れ、敵をも愛するような‥‥。
ほっぺたをむにっとして、愛でることによって、人々に安らぎを与える、そんな現象だね。
◆○◆
テーブルの上に並べられるパイ包みのスープ。
一人、椅子に腰掛けているのはUNKNOWNだった。
「――ふむ、爺さんもいるかね?」
そういいつつ、一人ワインを傾けるのであった。
◆○◆
<報告書 調査官:ナレイン・フェルド(
ga0506)>
レポートって実は苦手なの‥‥だから、私の推測で報告させてもらうわ〜
自分の肌がたるむのは『美』を追求するものとして、喜ばしくないけど‥‥
見てると癒やされるのは否定出来ないわ〜
ぷにょぷにょしてて、抱き心地よさそうだし♪
『ぬいぐるみ』
うまく自身を表現してると思うわ。
その人のイメージを簡潔に表してる‥‥とも言えるしね。
『ぽに化』
究極の癒し系だわ!
場の空気を和ませる必殺技だもの〜
緊迫した場面にひょっこり姿を現せば、気持ちを静める事ができるわ。
私の場合は抱きしめたい衝動にかられて、テンション上がっちゃう(笑)
アルファー波だっけ? リラックスさせるものが出てると思うの。
『動物化』
ビーストマンの覚醒時である事も多いわよね。
私は耳だけ動物になってるけど。
擬態した動物の感覚に近くなるわ。
私の場合、耳を触られるとこそばゆくて『ざわざわ』するし(苦笑)
力が入らなくなっちゃうのよね〜急所‥‥って感じ。
だから、触らないでね? (触って欲しい?)
◆○◆
☆ SPECIAL TIME PART3 ☆
薔薇の香りが漂ってくる。
先程のブルースにのって、指が宙を舞う。
奏でるは背徳か。
ゆっくりとした動きはいつしか口元へと運ばれる。
そして滴る水が音を奏でた。
口元に運ばれたのは、水面に散った薔薇と同じ真紅の液体。
水面に漂う髪は漆黒のようで、覗ける肌は白く、逞しかった。
◆○◆
<報告書 調査官:アヤカ(
ga4624)>
ぽにを知るにはぽにの気持ちを知らなくちゃダメニャ!
ニャハハハハ☆
ぽにぽにニャ〜ニャ〜☆
ぽにになっても素早い動きとかはするぽに〜☆
語尾がぽにになるのはなんか‥‥ぽに〜
この身体の下にあるクッションは色、柄、素材、綿の量とかがぽにによって違うらしいぽにね〜
あたいのは猫の足跡柄ぽに‥‥この柄なのはあたいだけぽにかね〜?
後は‥‥ぽには何故か上に重なったりして遊んだりすることが多いぽに‥‥
そして、みんなで「ぽにぽにぽにぽに‥‥」って共鳴(?)しあって仲間を呼んだりすることもあるぽによ。
起源に関しては‥‥諸説あるぽにが一昨年の2月くらいらしいぽにね‥‥
取り敢えず、今のぽにがどこまで進化してるかを調査するニャ!
以前はまったりしてるのが多かったニャが、今は‥‥酒を飲んだり、歌ってたり、踊ってたり、炬燵に入っているって言う亜種もあるニャしね〜
他のぽにはどういうのがあるニャかね〜☆
それも楽しみなのニャ☆
◆○◆
<報告書 調査官:千祭・刃(
gb1900)>
『ぽに化現象』と『動物化現象』 ですか。妙な現象ですね。
これがバグアの仕業だったら大変だ! 早速調査です!
まず最初の調査は『肌触り』です。
肌が緩んでいて、、餅のような肌の弾力があっても、愛らしさは長持ちしません。
だから、お肌のお手入れをすることにします。
とーちゃん、かーちゃんの寝室からこっそり持ってきた化粧品でお手入れです!
まずは‥‥これからかな?
あ、まだパックが残ってるんだから!
『調査結果その1:肌のお手入れは不要。しようとすると不機嫌になる』
次は、歌が歌えるかどうかテストです!
これ、歌ってみて? 今流行りの演歌ですよ。とーちゃん、これ全部歌えるんです。
『調査結果その2:音感はあるらしいが、「ぽに」で歌う』
『動物化現象』の調査のするんでしたね。何を食べるの調査も必要ですね。
1:かーちゃん手製の肉じゃが+あんこおはぎ
2:とーちゃん晩酌用日本酒
3:僕作の日の丸弁当
どれを食べるか楽しみです♪
『調査結果:全部食べられたしまいましたっ! くぅ‥‥予測が甘かったです!』
◆○◆
「それでは‥‥僕も、始めましょうか」
霧島はそういうと、一匹のぽにへと近づいていった。
それはキョーコ・クルック(
ga4770)、彼女こそミハイルの興味対象へと惹きつけた張本人である。
「ぽ〜に?」
クッションに手を乗せ、軟体化した身体を器用に乗っけている。
その、崩れた表情がまた愛らしかったりする。
「報告書‥‥書かせてね?」
霧島は一つ一つ実行していこうと、ノートに書かれたことを実行し始めていった。
◆○◆
<報告書 調査官:霧島和哉 調査対象:キョーコ・クルック>
○ぽに化・動物化した者はどういった行動をとるか
前回は‥‥ぽにはにゃんこに近い、と判明したけど‥‥それは、個人差が‥‥
あるもの‥‥か?
そこについて‥‥詳しく調べてみる価値は‥‥ある、よね。
結果:どうやら、クッションとか‥‥違うみたいだね。
急に‥‥現れるみたいだけど‥‥それが‥‥関係、してるのかな?
○猫じゃらし・ボール・筒状の網に対する反応を見る。
結果:「ぽにっ‥‥ぽにっ‥‥」
どうやら、飛びついたね‥‥。
○ぽに化と動物化の共通点、及び相違点
見た目からすると‥‥動物化は、軟体化してない‥‥みたいだけど。
性格、食い気、喋り方‥‥等。
結果:どうやら、食欲は増す‥‥みたいだね。
ぽにも、動物も‥‥撫でられたら、気持ちよさそうだ‥‥
ぽにほど‥‥壊れてないの、かな?
◆○◆
☆ SPECIAL TIME PART4 ☆
一人の男が立っていた。
慣れた手つきで、白いタオルを身に纏う。
濡れた黒髪はただ後に流され、肌に水が伝う。
柔らかな笑みを浮かべると、机の上に置いておいた、一つの瓶を取った。
そして、逞しい手が腰へと宛てられる。
ゆっくりと角度を変えていく。
引き締まった筋肉が、脈打つ中、それを閉じ込めるかのように形を変えていた。
そして‥‥
瓶を口元に運ぶと、口元へと引き寄せられていく。
零れ落ちるは白い雫。
天を仰ぎ見るように注がれていくその液体は‥‥口元を白く混濁した‥‥
それは‥‥
――牛乳であった。
◆○◆
「うむ、各自、大変面白い報告書が出来上がったようだのぉ」
満足げにうなずくミハイルに、集まった一同はほっと胸をなでおろした。
「いったい何を書けばいいのかさっぱりわかんなかったんだから〜!」
頬を膨らますナレインを神無月はそっと肩を叩く。
「でも、始めっから報告書って‥‥」
「なぁに、おぬしらがどう書いてくるかが楽しみじゃったんだがのぉ」
「それにしても、こういうのも楽しいですね!」
千祭が大きくガッツポーズをしつつ語りだした。
「それで‥‥俺、かあちゃんに作ってもらったおはぎ持ってきたんですけどっ!」
「へぇ、それはおいしそうねぇ」
「はい! かあちゃんが作ったから、絶対においしいです!」
「それじゃぁ。みんなで食べよっか」
そういったとたんに、皆再び状態が変化しだしたのだった。
「「ぽにぽにぽにぽにぽに」」
「しゃっきーーん! ぽにかにぽに?」
「むぅー、僕だって着ぐるみなんだもんっ!」
「あ、あたしだって狐さんよ?」
再び訪れたなごやか空間。
その空気に思わず微笑まずにはいられない。
和やかなその一時が、記念の一枚となって一同に寄贈されたのはまた、後の話である。