●リプレイ本文
「‥‥そう言えば、イギリスに帰ってきたのもどれくらい振りで御座いましたか‥‥」
空港に降り立ったジェイ・ガーランド(
ga9899)は久々の故郷の空気を吸い、感慨に浸っていた。
無理も無い、目指すもののために国を出、日本という国に留学している最中に能力者となったのだ。すでに何年帰ってきていなかったのか覚えていない。
依頼にいたってもここの所活発にはなってきたが、自らの故郷で‥‥そのような依頼は経験したことが無かった。
「戦争の依頼でなく、実に良かったです」
まだ故郷の空は明るい。
それだけがせめてもの救いなのかもしれなかった。
「みなさーん、来てくれてありがとう!」
指定されたBarに行ってみると、そこにノーラが待ち受けていた。
普段のスーツ姿とは違い、フリルのたっぷりついたワンピースに身を包んでいる。
「これから、皆さんを案内させて頂きますノーラです。いつもは探偵事務所の所員なんだけど‥‥今日は特別なの」
「特別というと?」
綾瀬欄華(
gb2145)が疑問に思い尋ねる。
「あたしの出身の学院での部活なんだけどね。ここ、イギリスで有名なリゾート施設を利用した、超リッチな感じ♪ これがはしゃがずにいられますか。まぁ、今回はみんながいるから安心してあたしはそっちの方に‥‥」
「ノーラ?」
「げ、ナターシャ‥‥」
「きちんと仕事してこないと、ケーキ没収ですからね?」
「そ、そんなぁ! あたしのケーキは命の源なのよ? 没収だなんてひどすぎますぅ!」
「ごめんなさいねぇ。この子の面倒もちゃーんと頼みますよ」
「はぁ」
「えーっと、普段は湖の方の施設を利用するんだけど、いつも使っているところが壊れちゃったらしくって‥‥そうしたら、この部活の子のお父さんの会社の施設を使っていいよって話が来たらしくってね?」
移動中、ノーラは今回の詳細を教えてくれた。
実際いつもは湖の方のリゾート施設を使うこと。しかし改修工事のため利用できなかったこと。そして海の施設を借りたこと。
そのため普段はやらない遠泳なんてやってみようとなったことなど。
「だから、施設付きのボートも使用していいのかわからないし、学校所有のボートなんて持ってこれなかったんだから〜」
ちょっと上目遣いに口を尖らせる。
<1日目>
「それでは皆さーん。今日のために特別に着てくれたコーチを紹介するわー」
「え、本日はノーラ姉さまではなくって?」
「んー。ごめん! あたし、ほら‥‥まだ他の仕事もあってさ」
「そんなの聞いてませんことよ! 姉さまが来るとおっしゃりましたから私‥‥」
「まぁまぁ。今回はきちんとした方々だから安心してね? ほら、頼もしい人たちなの」
「あ、ご紹介に与りました。本日皆様のコーチに就かせて頂きます玖堂 鷹秀(
ga5346)といいます。僭越ながら誠心誠意指導に当たらせて貰いますので宜しくお願いしますね」
そう言って、玖堂は眼鏡の位置を調整しつつ、笑顔で挨拶をする。
「初めまして、この度コーチを拝命しました桜塚杜 菊花(
ga8970)です、よろしくね」
「指導役を務めることとなった篠ノ頭 すず(
gb0337)だ。よろしくな」
部員は全部で20名。それを3班に分けての指導となった。
他の者たちは、武器を隠しつつ周辺の警護へと当たる。その際にはもちろん連絡のための無線機は欠かせなかった。
●コーチ玖堂
「殿方にお教えいただくなんて‥‥わたくし、どうしましょう」
一人派手な出で立ちの少女がいた。
今時いるのだろうか、金髪縦ロール、しかも着ている水着は一人だけ逸脱した真っ白いスクール水着だった。
「玖堂‥‥目がいやらしいわよ‥‥」
「な‥‥なにをおっしゃるのですか! 桜塚杜さんっ!」
「動揺してるね‥‥」
「くっ」
玖堂は言葉を失ってしまった。
●コーチ桜塚杜
「班に分かれた? そしたらB班集合! これからちゃーんと言うこと聞いてね」
「えっと‥‥ミス桜塚杜。その‥‥」
「なにかな? 聞きたいことがあったら言ってね」
「えっと‥‥お姉さまとお呼びもうしあげても宜しいでしょうか!」
「え? お、お姉様? ちょっといきなり‥‥」
「だって、とても素晴らしい肉体美でいらっしゃいますわ♪ クララ、憧れてしまいますの」
「わたくしもですわ。そうお呼びしても宜しいでしょうか」
どうやら桜塚杜は生徒達の心を鷲掴みにしたようであった。
●コーチ篠ノ頭
「我は技術も優れているわけではないし‥‥教える事なんてないのだけれど‥‥皆それぞれ理由があってここにいるはず、それを忘れないように練習してね?」
「はいですの!」
元気の良い声が聞こえる。
「‥‥内緒だけれど、やっぱり部活は楽しくやりたいよね。自由に遊んでも‥‥あ、節度はちゃんと守ってね!」
「わかりましたですの♪ コーチ」
それは楽しい部活の始まりだった。
「こちら乙姫だよ? 異常ナッシ!」
「ふむ、私の方でも異常は見受けられませんね」
周辺警備組みが次々とポイントを絞り、警備していく。
プール内で1人、外部で2人、後日行く予定の海岸沿いに2人という状態だった。
<2日目>
「さぁて、昨日と比べるとだいぶなれてきたかな? それではもうすこしいってみようか」
昨日よりも生徒達との距離が縮まっていた。
それは、話し方一つとってもわかるくらいである。
特に、最初はコーチの中でも一人異性であった玖堂なのだが、本日はしきりに質問をされているところを見ると、受け入れてもらえたようであった。
他の面々も気安さを感じてか、生徒達からの態度は長年いっしょにやってきた仲間のようでよい感じである。
「すず〜! 頑張って〜」
皆城 乙姫(
gb0047)がすずに向かって声援を送る。その声を聞いてすずは顔を朱色に染めた。
「それじゃぁ、昨日と今日のことを踏まえて明日は海で遠泳となるからね。みんな、頑張るんだよ?」
「3日目が遠泳なので2日目はしっかり体休めて体力回復に努めてねー。遊んで体力使わないように!」
練習時間は実に午前2時間、午後3時間の軽いものであった。
しかも、そのほとんどがおっとりとした空気で行なっているため時間の流れは実にゆっくりなのである。
<3日目>
本日はお楽しみの海での遠泳だ。
そう、実はお楽しみなのだ。
「海で泳ぐのって初めてですの」
「ええ、いつもはクルージングにしか来ませんことよね」
お前らどんなブルジョアだ‥‥
そんな変な感想を思いつつも、ノーラはビーチパラソルにシート、そしてドリンク持参でいい場所へと陣取っていた。
「あたしはバカンス♪」
と、いうように最初っからお目当てだったらしい。
そういえば‥‥1日目の挨拶の後‥‥彼女はどこにいたのだろうか。
2日目は最初っから逢っていないのだ。
「ん〜今日の感じは何を食べようかしら」
彼女が持ってきていたクーラーバッグにはびっしりと何やらデザートが入っている。
「ん〜これにしようかなぁ。それともこっちかしら♪」
先に見回りに来ていたランディ・ランドルフ(
gb2675)はその様子を見て一つ悟った。
(「やはりノーラお姉さんは食べる気なのか!」)
護衛2人を連れ、コーチ三人組が生徒達を引き連れ海岸へとやってきた。
見事なマリンブルーの海。そして澄んだ空。
本日はまったく持っての快晴。雲すら見えない。
「それじゃぁみんな、ちゃんと準備運動して。そして、一列になってついて来るんだよ?」
「「はーい」」
桜塚杜が先陣を切って海へと誘導する。
他の2人も用意していた簡易ボートを利用。
また、今回護衛チームには施設に置いてあったボートが2台貸し与えられていた。
「わたくしに不可能などございませんことよ♪」
そう言って、高笑いに溺れる女生徒が一名いたからであったのだが。
どうやら、特に玖堂であるのだが、気に入られてしまったようである。
「鼻の下、伸びてますよ」
ついつい横目で見ている桜塚杜にも注意される始末だった。
ドラグーン達はAU−KVをバイクに変形させ、颯爽と砂の上を走ろうとしたのだが、砂地で足を捕られてしまっていた。
<VS たーこ>
それは、一通り泳いで、もうすぐ岸に着く‥‥そんな時だった。
何やら高い波が遠くから来るのが見える。
ビッグウェーブ?
いや、その視線の先にある、怪しい影は。
赤かった。
とっても赤くって、何やらやたらめったらテカテカしており‥‥
「でた!!」
双眼鏡を回していたドリル(
gb2538)が大きな声を上げた。
それはこの地域で目撃が報告されたタコ型キメラだったのだ。
いそいでコーチ陣は生徒を誘導し始める。
「大丈夫、我達がいるから大丈夫、こっち!」
すずの誘導によってみな陸に上がっていく。
そして、
「こちらのポイントに追いやります」
綾瀬がボートを接近させ反対側の岸の方へと移動を始めた。
ジェイは誘導のため、銃口を向ける。
一発目の銃声が鳴った。
それに続くようにランディとドリルもすばやく展開を広げていった。
「届かないのか! いや‥‥! 少しは足止めになるはずだ!」
ランディが身構えたスコーピオンの照準をキメラに合わせ、弾丸を放つ。
その刺激を受け、たーこは動きを止める。
確認しているようだ。
そこへ、女生徒たちを安全な場所まで送り届けたコーチ陣が戻ってくる。
「ただいま参戦いたします!」
「皆が楽しもうとしている時に‥‥許すわけにはいかないな!」
それぞれ預けていた武器を貰い、戦闘体制へと入る。
キメラはもう、海岸上陸間近まで迫っていた。
「すず! ジェイ!! 一気に蹴散らそうっ!!」
乙姫はそういうと練成を始める。
敵の防御力をそぎ取ろうと素早く解き放った。
「バラされて焼かれてぇかコラ!!?」
玖堂が覚醒を経て雰囲気ががらっと変わった。
乙姫が照準にならないよう、ジェイと玖堂が互いに別の位置から攻撃を繰り返す。
「なに? コノ足、行儀悪いんじゃないかしら!?」
海から伸びてきた足に桜塚杜が菖蒲で叩き切る。
「ふ〜ん、いい大きさね‥‥このタコ食べれるかな?」
切り口といい、鮮度といい、どうやら桜塚杜の琴線に触れたらしい。
次々に切り落とされていく足、そして打ち込められていく銃弾。
徐々に動きが鈍くなる。
吐き出される墨を避け、それぞれ確実にダメージを与えていっていた。
「一発必中一撃必殺‥‥逃がさんっ!」
その一発が最後の決め手となった。
ジェイの放ったその弾丸が綺麗なスパイラルを描きまるで最初からそこにあるのかのごとくたーこへと吸い込まれていった。
到着したその時、一瞬時が止まったように感じた。
そして‥‥
見る見ると打ち崩れていき、
最後には大きな水音を立てて海へと沈んでいったのだった。
<華麗なるたーこの最期>
「無事コーチも終わったし! 何よりこれこれ!!」
女生徒たちにひとしきり御礼を言われた後、一同は最初のBar、ナターシャの店に戻ってきた。
豪華2泊3日のコーチ依頼であったわけだが、最期に懸念していたキメラも倒すことが出き、今回は大成功といえるだろう。
「でもねぇ、この国でこれを食べる子がいるなんて‥‥」
倒した記念にと、桜塚杜がキメラの足を持ってきたのだ。
「何言っているんですか。倒しちゃえば普通のタコですよ?」
「菊花君‥‥我が国イギリスではタコはデビルフィッシュと申しまして‥‥」
「まぁまぁ、君も日本に留学していたからわかるだろう? ほら、おいしいたこ焼きが出来上がったようだよ」
玖堂が苦笑しつつ、ジェイをなだめる。
「し、しかし」
「ジェーイ! おいしいよ? 乙姫特性たこ焼き食べるよね?」
「あ‥‥はぁ‥‥」
「ジェイ‥‥食べてくれないと申すか?」
すずがジェイの裾を少し引っ張る。
「で、ですが‥‥」
「おいしいぜ! このたこ焼き!」
ランディが口いっぱいに頬張りながら更に口に入れようとする。
「へぇ、これがたこ焼きねぇ」
報告に上の階へ上がっていたノーラが戻ってきた。
「ノーラさんもいかがですか?」
欄華が出来上がったものを詰め入れた。
「どれどれ? ‥‥おいしい!!」
「ほら‥‥ノーラさんだっておいしいって‥‥」
「いえ、私は一般的なお話をしただけでして」
「ジェーイ?」
「‥‥いただきます‥‥」
「あらあら‥‥結局食べているのねぇ‥‥」
様子を見守っていたナターシャは微笑みながら手にしていたウォッカを飲み干した。
<おまけ>
「ジェーイ、早くしないと置いてくよー?」
これからイギリスを発つという時に、ジェイは何故か入り口に立ったままだった。
「あぁ、乙姫にすず‥‥申し訳ないのですが」
「ん? 何かあったのか? ジェイ」
すずは不思議そうに小首をかしげた。
「私は少々用事がありますので、先に帰還していただけますか?」
「ジェイさん?」
するとジェイは外を眺めつつ語った。
「私事ではありますが、これからいつ逢えるかわからない‥‥そう思いますと、今が良い機会なのではないかと」
「ジェイ‥‥」
「申し訳ございません」
深々と頭を下げるジェイ。
「そんな事は無いですよ。良い機会に恵まれた、私達傭兵にはチャンスを生かすことも必要ですし」
玖堂はそういうとジェイの肩を叩いた。
「そうですよ」
「ジェイさん‥‥いっておいでよ」
ドリルも、綾瀬も賛成とばかりに力強くうなづいた。
「皆さん‥‥ありがとうございます‥‥」
ジェイは発っていく友たちを見送ると、自らの故郷へと足を向けたのだった。