●リプレイ本文
ノーラの依頼が舞い込んだULTは、そっとこの依頼を片隅に貼り付けた。
なぜなら、その内容はあまりにもぶっ飛んでおり、まして未成年を多いこの本部に堂々と貼るのも気が引ける内容だったからなのだが‥‥
それでも、そんな片隅からその依頼を見つけた者達が、申し込んできたものだからオペレーターたちは驚愕したのだった。
集まったのは8人の男(?)たち。ブランドン・ホースト(
ga0465)、UNKNOWN(
ga4276)、御剣 真一(
ga7723)、Cerberus(
ga8178)、ヴァレス・デュノフガリオ(
ga8280)、クリス・フレイシア(
gb2547)、レヴァン・ギア(
gb2553)、レオン・マクタビッシュ(
gb3673)。ちなみに、全員成人以上である。
果たして、彼らはこれから何をさせようとするのだろうか‥‥言い出してから不安が募るノーラと違い、彼らの眼が活き活きしていたのは、語るに及ばないであろう。
なんだかんだ男7人で話し合ってみると、結局夜に仕事=クラブのホステス、キャバクラ、バーのウェイトレス、バーテンダー、その他肉体労働として土木や警備、コンビニエンスストアなどが上げられたのだが、何故だかそこは一致の意見が押され、結局体験させるのはホステスと歌い手、バーの見習いとなった。それに沿って、スケジュールが組まれることとなる。
そんな中、ひとりこっそりその会議を抜けるものがいた。UNKNOWNだ。
彼は、1人探偵事務所の所長、ナットーの下を訪れていた。
「ナットー所長、初めまして。私はUNKNOWN、傭兵情報局の局長をしているんだがね。少し‥‥耳に入れておきたいことがあるんだが、どうだろうか」
「‥‥どんな話なのだろうか」
UNKNOWNの申し出に、少々訝しく思いつつもナットーは話を聞くことにした。とりあえず‥‥とばかりに、ソファーを勧め、珈琲を入れる。
「実は――ノーラのことなのだが‥‥」
少し言いづらそうに話すこの男を見て、ナットーは一つ思ったことが有った。
――こいつ、ノーラの好きそうなタイプだな、要注意って所か‥‥
スケジュールはすんなり決まった。もちろんノーラにはまだ告げていない。相談も参加させなかった。最初は‥‥どうやらCerberusの言い分をとり、ブランドンの店でのバーテン見習に落ち着きそうであった。
「厄介な依頼だな」
そう呟くものの、しげしげとCerberusはカクテルの造り方を思い出していた。昔、どうやら経験をしていたらしい。マスターのブランドンですら、意外な手際のよさに納得してしまうほどである。
「あぁ、ちなみに賠償請求が発生したときは事務所のほうに請求させてもらうからね」
そういうブランドンの説明にノーラはしっかりと頷く。
「色仕掛けだけが仕事じゃない。夜の仕事といっても千差万別なのだからな」
Cerberusの言葉にノーラは同意の頷きを入れつつ少し考え込んでいた。
――あたし、色仕掛けって言ってたかしら?
説明される動作、そして色々なお約束。
ブランドンによれば彼が教えたいことは探偵としても十分に役に立つことなのだという。
貴重な情報の収集、そしてセールストークを身に着けるためにも‥‥だと。
まして、その店の雰囲気によって客層が変わるのだから、もぐりこむ場合はそれ自体を把握していく必要があると教えられた。
素直に頷くノーラ。言われた事に対しての吸収も早かった。
ナットーとの意地の張り合いを聞いていたため、ブランドンはその素直さに少々驚かされていた。あの異常な対抗心に対して、説得は無駄だと思っていたのである。
Cerberusもまた夜の仕事自体を行うのを怪訝に思っていたため、少しほっとしていた。
説得はできそうだ、どうやら‥‥彼女の熱意は『色仕掛け』には行っていないのだと確認をして‥‥
静かな夜が始まった。
小さめのカウンターとテーブル。そして、奥のほうにはダーツやビリアードなどの娯楽が楽しめるようになっている。シックなバーの雰囲気が漂っていた。クリスの勧めによって選ばれた衣装に身を包み、ノーラはウェイターを、Cerberusとブランドンはカウンターからその様子を見守っていた。
カラン
入り口の呼び鈴が鳴り、客が訪れた。
黒いトレンチコート、深めに被った帽子、白い手袋を着用した、UNKNOWNだった。
何故かカウンターではなくテーブルに腰をかけると、軽く手を上げ――いつものを――と注文を告げる。
ブランドンは僅かに頷き返し、『世界一周』を作り、ノーラへと運ぶように告げた。
運ばれた酒にお礼を告げ、ふとノーラを眺めいる。
きょとんとした表情で返すと、口元で微かに笑いそっと耳元に囁きかける。
瞬時に赤くなったノーラが慌ててカウンターに戻っていく様子を見つつ、UNKNOWNは煙草を咥え、頼んだ酒を楽しんでいた。
2、3日ブランドンの店で手伝いつつ、最初はウェィターとして、続いて軽めのカクテルを作るように、お客との話題選びなど一通り教えていった。そして、いつも顔出すUNKNOWN。まるで何かを企んでるかのように、常に一言一言彼女に囁いては、逃げ帰るように仕向けていく。少し懸念に思いながらも、体験期間は終了を告げた。
次点:‥‥コスプレしたいんですか?
バーでの体験を終え、続いては‥‥と言うことになった時、レオンはとりあえず歌を練習してみないかと提案していた。次の予定はクラブ。ホステスをやらせようという話もあるのだが、レオンは敢えて歌を勧めていたのだ。バーでの体験中もノーラに対し、歌の曲選びに、指導など、本格的にプロデュースを考えていたぐらいである。もし苦手だったらという懸念は有ったものの、何事もそつなく、素直にこなすノーラに驚きを隠せない。
――綺麗に
そう願いつつ、レオンは一人歌手育成を目論んでいたのだった。
それと同時に、やはりお約束とばかりにホステスをプロデュースしようと模索する者達がいた。一通りブランドンの元でお酒についてなどの知識を吸収したノーラではあるが、接待となると少し話が違う。
元来お嬢様学校出身なだけあり、実はあまりにも男性過ぎる者とは接した事が少ないのだ。そんなことを知ってか知らずか、皆、気合をいれて教え込んできていた。
クリスはにこやかに彼女の衣装を見立てていた。衣装についてはUNKNOWNが大量に提供を掲示している。そして、何気なく紛れ込んでいる異質なものもあった。
「アンノウンさん‥‥流石にこれではノーラ嬢が泣くだろうに‥‥」
そんな言葉とは裏腹に、クリスは極上の笑みを浮かべている。
「まぁ‥‥僕は最初っからクラブなんて言わないよ。そんな高級な所ではなく、キャバクラから‥‥ぶふっ!」
何を想像したのだろうか、クリスはいきなり噴出し始め、笑いが収まるのには暫し長い時の経過が必要だった。UNKNOWNから提供された衣服は、その‥‥何ともいえないものを感じてしまう。セーラー服、バニーガール、浴衣「朱紅葉」、【Steishia】ワンピース 、チアリーディング服、競泳用水着、体操着、ドレス‥‥何ともいえない衣装のラインナップである。
その衣装選びにあわせるようにレヴァンもまた、考えに耽っていた。彼は、なにやら得意であるらしいメークをしようというのだ。
「元が良いから‥‥かなり良い感じに仕上がると思うな‥‥」
ぼそぼそと独り言を言っているものの、思考はもう遙彼方へといっているらしい。次から次へとノーラに合いそうなメークを思い立て、一人思考の迷路へと彷徨い始めていたりする。
そんな中、ちょっと人とは違う発想の者がいた。御剣だった。彼は、どうやら昔芸能界に籍を置いていた頃、1人の女性と知り合った。それが彼の妻、クラブの歌手をやっていたのだ。そんな彼女も今は‥‥そんな思いもあり、彼は人一倍夜の店へと進む足を止めようとはしない。そして、そんな彼だからこそ、この仕事斡旋に対して人一倍、気合が入っていたりするのだった。
そんな裏事情を知らず、ノーラは勧められるがままクラブのドアを開いていた。先に店の者へと話を通してある。入ると、簡単な説明を受け、それからクリスに連れられ着替えをすることとなった。
「ノーラ嬢。さぁ、キレイキレイしましょーね」
なにやら語尾にハートマークが見える口調へと変わり、不気味な怖さを感じる。
取り出した服をクリスが着せようと、今来ている服を脱がしにかると‥‥
「な、何しようとしているの!」
「ん? 何ってキミの着替えの手伝いだが‥‥ノーラ嬢」
再び衣服に手をかけようとしたところで、ノーラは慌てて後ろへと逃げ始める。
「おや? ふむ‥‥僕では不満だったかな? それだったら‥‥」
クリスが訝しげにしつつ、他の者の名前を告げようとしたところ、ノーラは涙眼で訴えた。
「あ、あたしは一人で着替えれますっ! まして男性に手伝って貰いたくないですっ!」
その様子にクリスは驚いたものの、にっこりと笑って服を渡すとそっと部屋を出た。どうやらノーラは彼女が男性だと判断しているらしい。その様子に思わず嬉しくなる。
着替えをするたびに、クリスはノーラの様子を確かめる。そして、全ての衣装を合わせた結果、結論としてチャイナドレスを身につけようということになった。
その姿になったノーラを連れ、今度はレヴァンがメイクを始める。
まずはパックを、それからリキッドファンデを塗りベースを完成させる。薄らと閉じさせた目には光沢感の高めなアイシャドウを、付け睫毛にルースパウダー‥‥
「やはり、ラメ系の方が綺麗になるからな」
濃くなり過ぎないように細心の注意をしつつ、レヴァンは独り言と共に真剣な表情で取り組んでいく。
「口紅は濃くない方が‥‥逆に色気が出る」
そういって、クリスが提供したメイクセットの中を見回し、色を探す。ふと目に付いたのは‥‥ワインレッドをベースとした軽い色合いの口紅だった。
始めは、レオンのピアノ演奏と共に歌を歌う事となった。丁度、顔見世の機会‥‥そのような感じに捉えられたらしい。
シックな感じの曲調を、静かに奏でるレオンのピアノに合わせ、ノーラは普段とは違った面持ちで歌い上げていく。しっとりと、丁寧に。レオンと共に練習した成果が、そこに見て取れた。落とした声音に甘い囁きを乗せ、薄暗い店内で、浴びるスポット。顔を照らし出さず、ぼんやりと当るライトが、よりその曲調に合っていた。レオンの選曲は、絶妙だったといえよう。
歌い終わると、次はとレヴァンが待ち受けていた。実際客席についてみよう‥‥と。ナットーに用意してもらった指示用無線機をノーラに渡すと、クリスにアイコンタクトを送り、自らも店内へと紛れ込む。ボーイに扮した御剣の案内で席へと行き、軽く挨拶をして横へとつく。
そこにいたのは‥‥
「ああ、大人の雰囲気になったね」
UNKNOWN――この御仁、客としてきただけなのだろうか――少し思うものの、微笑み返して謝礼をする。遠巻きで客として紛れていたクリスもその大胆さに少し苦笑をしてしまうぐらいだ。
取り出した煙草を見て、ノーラがライターで火を差し出す様子を嬉しそうに眺めつつ、火をつけるとお酒の注文を出した。ボーイに頼んで酒を取り寄せてる間に、UNKNOWNは客に対して、どう接したらいいかを説きはじめる。素直に聞き入るノーラ。教えるたびに実践させ、UNKNOWNは出来る度に褒めとおす。そして、時折褒美だといい首にキスするも、そのたびに真っ赤になるノーラをからかいながら、また挑発していっていた。
酒を注ぐノーラに――キミも――そういい、一緒に飲もうと嗾けると、あ、あまり‥‥そう言って断るノーラに対し、UNKNOWNは、
「所長に負けてもいいのかね? 飲んだら後で美味しいケーキを奢ろう」
そう調子に乗せようとしてきた。
ケーキ‥‥その単語を聞いた時、ノーラは僅かだが反応を見せる。それはそうである、何しろ彼女は無類のケーキ好き。ワンホールを一人抱え込んで食べることが大好きなぐらいである。この言葉に釣られて仕事を回されることも暫し‥‥
「どうかね?」
傾けられる杯。ごくりと何かを飲み込むと、ノーラは決意したように杯を受け取った。その様子に、UNKNOWNは一人気付かれぬよう、にやりと笑みを浮かべる。
なにしろ、彼の企みはノーラをへべれけにして散々衣装を着せ替えた後に写真集へと編集し、朝帰りコースまで持っていこうというものだ。はっきりいって――悪い男である。
そんなことを知らずにノーラは勧めるまま杯を空けていった。
何杯も、何杯も‥‥
頬を若干染めるものの、未だ意識はしっかりとしており、まして口調の乱れも見せない。
次々にテーブルに酒を運ぶ御剣も、後ろから指示を出そうとしていたクリス、レヴァンですら心配する中、ノーラは平然とした調子で空けつづける。
共に飲んでいるUNKNOWNは元々酒が強いためかこちらも平然な様子で飲みつづけ、何時つぶれるのかとノーラの様子を眺めいっていた。
何時間経過したのだろう、すでに客たちも飲み疲れてきたのか、一部を除き帰って行っていた。未だ飲みつづけるUNKNOWNとノーラ。傍から見守っていたほかの面々もその落とされないペースに少し呆れの視線を送っていた。
TIME OVER
閉店の時刻となり、各席にボーイがこっそりと伝票を渡しに行く。
御剣が持ってきた伝票、そこには‥‥驚愕な料金が。平然とするUNKNOWNとノーラに対し、後ろの者どもは獲得できるはずだったプロデュース料金が手に入らないことに少し、嘆いていた。
結局つぶれる気配も見せなかったノーラに対し、UNKNOWNは少々残念気味のご様子。
「ふふ、門限19時にしようとしていたのだが‥‥無理だったか」
去り際にそんな言葉を残し、アディオス――そう去っていく。
またねーと、気軽に手を振るノーラに対し、少し残念そうなUNKNOWNへと、クリスがこっそりと着せ替え時の写真を渡した事など、誰も知らない話である。
一通りの体験を終え、帰り支度をしていると、御剣がお願いがあるといってきた。言ってもらいたい言葉があると。ノーラは笑顔で快諾すると、ふんわりと御剣を抱きしめた。
「しぃ君、またね」
耳元で、そっと囁くように。
その言葉を聞き、御剣は表情を一瞬固めるも、嬉しそうに崩す。軽く抱き返すと
「永遠に聞けない言葉ほど聞きたくなるとは‥‥女々しいな‥‥」
そう、少し涙目で微笑んだ。
その一連の行動をかげながら見守っていたヴァレスはこっそりとナットーの元に報告へ行く。無事に終了したみたいだと。一生懸命にこなす姿しか見えなかったのだが、なんでお前には出来ないといったのだろう‥‥そんな疑問を抱えつつ。
夜のバイト。一体何が原因で始まったんだろうか。そして、ナットーとノーラの間に、何の勝負があったのだろうか。誰も聞き出さなかったため、それらは闇に紛れる結果となったようである。