●リプレイ本文
「まぁ‥‥諸君には、あの変な泣き声を止めて欲しく‥‥」
「猫‥‥で御座いますか。返す返すも、バグア‥‥というか、あの老人の発想はよくわかりませんね‥‥」
そういうと、ジェイ・ガーランド(
ga9899)はやや疲れたように額に手を当てていた。クリス・カッシング、いろいろな面で侮れない男である。
「あぁ、どうやら戦力を削ぐ為に用意された‥‥そうとしか思えないのだよ」
「元来、猫に対して寛容な国なためにこうされると‥‥」
「大丈夫です。私は犬派ですから」
さらっという音影 一葉(
ga9077)に対し、少尉は苦笑をもらす。
「――ああ、よろしく頼んだよ」
マドリード・前線地点に於いて突如発生した招き猫型メカキメラを退治すべく、傭兵達の中から8人の猛者が登場した。
その名は‥‥!!
すまん、かんがえつかなかったよ。
そんなわけで、猫好きと犬好き、面白そうだから来た人などを目的は実に様々であった。
かくして一同は、退治すべく自ら自慢のスペックを搭載したKVを持ち込んで乗り込むこととなった。
「あちゃー、耳栓用意しようと思ってたのに‥‥」
ミア・エルミナール(
ga0741)は持ってきた持ち物と、これから装備する持ち物を見比べた。
耳栓――今回の相手が、聴覚による攻撃とわかった以上、それを封じて‥‥などと思ったのだが‥‥
「無線機‥‥使えなくなるじゃない」
ガックリと肩を落としつつ、呟いていた。
「でも、わかるわよね〜、あの声を聞くとどうも‥‥」
「ネコはね、昔ばあちゃんの家に沢山居てね‥‥好きなんだ。好きなんだけど‥‥」
あのスタイルは‥‥そう思いつつ、狭間 久志(
ga9021)は苦笑せずにいられなかった。
「『特攻』ってなぁ‥‥招く気ゼロだろ、あれ」
百瀬 香澄(
ga4089)もまた、目撃証言から聞いた招き猫型敵兵力に対し、そんな感想を漏らしていた。
「回り込んで攻め、後ろから責め‥‥なるほど、ちょっとテンション上がってきたかな」
不気味な笑みを浮かべつつ、百瀬はこれからの戦略を思い描いた。
本人曰く、生粋の‥‥いや、止めておこう。ここで述べてしまったら彼女に対しての心象が深く問題になって‥‥
と、とにかくそんな状況が彼女のやる気を滾々と湧き出させていたのだった。
いざ‥‥出発となったのだが、相手はまだまだ時間のかかる場所にいた。
通報を受けたときと同じく、スピードから見てこちらにつくのは後1日かかるであろうということ。そのため、向こうが気付く前にこちら方が動き出せるチャンスである。
「二手に別れます。囮を引き受けますので、本命は宜しく」
ジェイはそう通信機を通じていうと、正面より遠距離攻撃へと移っていった。近距離からの接近攻撃は音影、皆城 乙姫(
gb0047)、狭間、ミアが、回り込んで攻撃する班には百瀬と篠ノ頭 すず(
gb0337)が向っていた。
「やっぱり、猫ちゃんに攻撃するのは嫌だよ」
そう呟く五十嵐 薙(
ga0322)だが、回りこみ班ならびに近接班が配置に着くまでの時間稼ぎに余念はない。猫であろうが、なんであろうがどうやら戦闘モードに入ると違うらしい。
ロケットランチャーを装填し、ガンガン巨大招き猫へと撃ち放っていた。
そう、それはまるで飛んでくる猫ミサイルを見ないようへと‥‥
―― なぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
―― にゃーーーーーーーん
その音が聞こえるたびに、ずれる照準を合わせ直す。
「猫の鳴き声か‥‥悪いが私は別に、猫に特別愛着があるわけではないんでね」
そう言って挑むものの、残念‥‥。今回ばかりはちょっと勝手が違った。
何しろ猫の鳴き声ではなく、音自体が失意を齎すのだ。ふふ、判断が甘かったようだ。そんな具合で、次々と照準ミスが相次ぐ。なぁに、カッシングのミサイル音を甘く見てはいけないのだ。何も、猫だけに拘っているというのではないのだからね。
飛び交う猫。そして放出されるたびに鳴り響く鳴き声。
失意の咆哮は、鳴り止むことなく進んでくる。
それを、何度となく持ち直して撃ち込んで行く事となったのだ。
「一葉、乙姫。足払いは任せた」
近接班が招き猫へと近付いたと判断をすると、ジェイはヘビーガトリング砲へと装備を切り替え速やかに命令を下す。
ブーストを使っていきなりの接近を試みた音影と狭間は、そのまま後ろの方へと回りこむように進み出る。続いて乙姫とミアがサイドから足部分、キャタピラを目掛け攻撃を仕掛けてきた。くるっと回り込むと‥‥
「‥‥裏はハリボテなのか!?」
狭間はその様子を見て驚きを隠せなかった。横部分までは、きちんとしたつくりを保っていたボディーが、後ろ部分になったとたん明らかに質の違う金属で、覆い隠しているだけだったのだから。
そして、そこには大きく描かれた『招き猫DXちゃん』の文字が!!
「私のディスタンは強襲用です。間違えないで下さいね」
そんなもの目が入らないとばかりに音影は槍でボディーへと攻撃を入れ始める。衝撃を軽く受けていた狭間も、気を取り直して同じくボディーへの攻撃を開始した。
同時に、サイドへ回ったミアと乙姫はキャタピラ部分を狙うも‥‥
「なんというか‥‥いい仕事しているというか‥‥?」
止め具へと使われている魚型の部品を見て、思わず和みつつ、攻撃は止めようとしない乙姫。ガトリングを装着していたが、接近戦とばかりにドリルで攻撃を繰り出す。
「どりどり〜〜っ!!」
ミアも一緒になってガトリングで攻撃を繰り返していた。
「バランス悪そうな機体だし、片方壊せばいけるよね!」
だんだんと追い詰められる招き猫。しかし、彼女にとっての攻撃方法はミサイルしかなく‥‥だんだんと追い詰められてくる。
回り込み班は目的とした位置へ到着した。篠ノ頭と百瀬だ。
照準を合わせる為に距離を測り覗き込む、が‥‥
「はぅぅ! な、なんであたしのモロ好みの部分にヒットするのよぉ〜!!」
狭い機体の中で、暴れられない悔しさを歯噛みしつつ、篠ノ頭はもがいていた。
好みだったのだ、モロ‥‥
つぶらに大きく開かれた瞳。
埋め尽くされていく、至福のレース。
あぁ、あの金色の物体は何!?
かくも物悲しく、2人の時間は出来ていく‥‥
「すず? どうかしたんだろうか」
通信機を通して、百瀬が呼びかける。狙いが定まらないと感じたのだろう、あながち間違いではない。そして招き猫の様子について窺ってくる。
「な、なんでもない! だ、大丈夫だ!」
「それならいいのだけど‥‥」
ばれていませんようにと、こっそり願いつつ、すずは再び照準を合わせ始める。
――もうちょっと‥‥右右、えっと‥‥少し放物を描くから‥‥
なるべく全体像を見ないようにと照準を合わせていく。
同じく、その愛らしいフォルムに目を奪われるものがいた。
援護をしていた五十嵐だ。
「あぅ〜どうして猫さんを退治しなければいけないんですか〜」
そういいつつ、手には操縦桿が握られていた。
「後ろなら‥‥はぅっ! な、何故張りぼての癖に、全面イラスト仕込んでるんですカッ!!」
傾き始め、軸をずらした招き猫が後ろを向き始める。後ろには、なんとも愛らしい猫のイラストがそこここに満載されていた。
「くっ‥‥何だあのミサイル」
百瀬は、飛んでくるミサイルを思わず凝視しだ。後ろ側へと方向を変えたため、こちらへと向ってきたのだ。
「猫そっくり‥‥ってか全部種類違う、細かっ!」
それは、それぞれのミサイルが違う品種の猫をモチーフにしていたのだった。
このまま、開発が進んでいたら犬形のものも出てきたのかもしれない。
そこまでいったら‥‥
「こういうのを才能の無駄遣いって言うんだろうなぁ、きっと」
悔しいが、可愛いのだ‥‥彼のセンスには本当に脱帽するばかりである。
徐々にバランスが崩れる招き猫DXちゃん。キャタピラ部分が破壊され、無残にも横倒しとなる。そこへ、すかさず音影と狭間、乙姫、ミアが攻撃を止めなかった。遠距離から補助を行ってたもの達は、近接班の接近と共に攻撃を控えている。
口から発射されていたミサイルも、どうやら転倒した時点で発射装置が壊れてしまったらしかった。特攻、そう書かれた金色の小判も、すでに泥にまみれ文字が霞んで見える。 それは、実にあっけない幕の終わりだったのかもしれない。
何度となく取り落とされた武器を拾いつつ仕掛けた攻撃は、ここにて終わりを告げることとなった。
横たわった招き猫DXちゃんは、最後にか細い音量で、
――なぁぁぁぁぁぁん
そう、最後の声を上げたのだった。
「作戦完了‥‥です‥‥けど、何だか勝った気がしませんね」
音影は、大きな音を立てて壊れていく招き猫ちゃんDXをみて、ため息をつく。
たしかにこんなのがでてきて倒した日にゃ、勝った気するかどうか、疑問が尽きない。いや、満足してもいいんだけどね。
「かわいそう‥‥でした‥‥もう、猫ちゃんとは‥‥戦いたく‥‥ありません」
五十嵐も猫好きの為、答えたのであろう。ほろほろと泣きながら、残骸を悲しそうに見つめる。
「で、結局、バグアはこのネコで何がしたかったんだ‥‥」
狭間はそう言って少し考えてみる。
果たして、こんな兵器で何が出来るのだろうか。敵のことである、彼らの利益について本来なら気にしない、気にしないのだが‥‥
どうだろうか、全てのミサイルがあのような奇声をあげるものだったとしたら‥‥
「ダメだ、やっぱり笑えない」
額に手を当て、苦笑をもらす。恐ろしすぎる、そうとしかいえなかった。
「さて、これを回収して‥‥」
ボロボロに撃ち砕かれた招き猫ちゃんDX――きちんと機体にも書いているのだから凄いのだが――に対し、そこに備え付けられていたミサイルは、なんとも素晴らしいものだった。もちろん頭部も忘れない。三毛猫仕様の、継ぎ接ぎ猫にゃん。
意外にも、それは精巧に作られており、一つ一つにおいてきちんと毛までついていたのだから驚きである。(まぁ、ドラム型の胴体に対して顔と尻尾の部分だけだがというものではあるが)
そんなこんなで、ミアと百瀬はミサイルを持ち帰ろうとせっせと用意した車へと積み込み始めた。
提供する先は研究所、若しくはカプロイア社行きであろう。
これを是非よりよく分析し、新しい武器の開発に役立って欲しいと願いながら。
乙姫はすずが無事だったことにそっと笑みを溢す。そうとは知らず、すずは回収されるミサイルをうるうるした目で追っていた。