タイトル:【Gr】飛行魚雷の群マスター:雨龍一

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/12/09 23:31

●オープニング本文


「いつまでも‥‥引きずってちゃいけねぇんだよな‥‥」
 そういうと、ケルビルは写真にそっと唇を寄せる。今は亡きあの思い人へと。
 彼女が果たす予定だった、明日へと繋がる橋を確保する為に。

「ケルビル中尉‥‥」
「グラハム長官‥‥」
「わかっているな‥‥これが遺志を継ぐということだ、彼女の為にな」
「――はい、俺は‥‥彼女がやり遂げようと決めていたことをやるまでです」
「――では、作戦説明を行う」

 セリア・モーガント少尉、元イギリスの軍隊の中でも有能なパイロットであり、彼――ケルビルの恋人であった。謎の海域にて巨大スライムと対峙してしまい、敢え無く亡き人となった。そんな彼女を追い、彼は1人無謀にも討伐へと向った‥‥
 しかし傭兵達の叱咤、そして手助けにより彼女の遺体を取り戻し、敵の巨大スライムも殲滅。そんな事件が起きたのは、ほんの少し前のことである。
 彼女は平和を願っていた。この、戦いが終らない現状を嘆き、自ら手を差し伸べる事をやめずに‥‥
 彼は今、その彼女の意思を受け継ごうと、その決意を新たにしたのだ。
 先の謎の海域、丁度イギリスの南西部に当るのだが、巨大スライムを殲滅した事により少しだけスペイン側への攻撃を回避出来る地帯が増えていた。
 そこを狙い、このたびはポルトガルへ向け戦線補助の一環として輸送船を出すことになったのだ。
「しかして、更にこの海域近辺への調査を行ったのだが‥‥」
 巨大なスライムキメラがいた地点から更に南に下るとスペインを通り越しリスボンへと無事到着できる、そういう算段だった。
「それでは、このたびは船で出すのですね」
「だな‥‥あの空域ではやはり先の戦闘が響いているようだ。水路を通り、密かに送り届けるのが無難だろう」
「空域‥‥ジャックですか‥‥」
「ああ。それに伴って多くの飛行型キメラが見られるやも知れない。もしかしたら、今までこちらにこなかったのはあのスライムキメラが敵味方区別できずに落としていた‥‥その可能性は否めや知れないがな」
「――でも、あれのおかげで商船たちもが実は消えていただなんて‥‥今考えてもなんとも居たたまれない」
「ふっ、だいぶ前が見えてきたようだな」
「――そのことについては謝りたいと思っております。いかに俺が自分のことしか見えていなかったのか‥‥」
「大丈夫だ、この戦線が終わり次第お前には処罰が下るかも知れない。だが、今はそんなことを言っている状況じゃないからな」
「――ですね。我が国の為にも何とか食い止めねば‥‥」
「そのための、今回の輸送船だ。必ず、いい報告を聞かせてくれ」
「はい!」

 輸送船艦隊は全部で2隻、それの護衛として4隻の軍艦が配備されることとなった。しかし、やはり厳重にしなければ‥‥頼みの綱は傭兵達であろう。彼らはこの戦いにおいて 1人でも並みの兵隊を凌ぐ戦力となっていることが明らかであるのだから。
「リスボンにむけて‥‥か」
 セリアの持っていた十字架をそっと握る。彼女の思いを――そう思い手元に残した、彼女の唯一の遺品だ。

「中尉! 大変です!」
「どうした!」
 思いに浸っていると、部下の非常な声が聞き木霊した。汗を拭いながら駆け寄る部下に対し、ケルビルはそっと背中を撫でてやる。
「はぁ、はぁ、はぁ――申し訳御座いません、落ち着きました」
 そう言って、肩で息をする部下にちょっと笑いをこぼしてしまう。
「それで‥‥何が大変なのだ?」
「そ、それが‥‥通る予定の空域にて、変なものが発見されたんです!」
「ほぉ‥‥それはどういう物なのだろうか」
「魚です! 機械の魚が‥‥上空付近を群で飛んでいるんです!!」
「そらを‥‥飛んでいる!?」
「はい、そして、それに触れるとどうも爆発してしまうらしく‥‥」
「――困ったなぁ…、あいにく時間が‥‥」
「護衛‥‥強化するしかないかと」
「そうだな‥‥それしかないだろう。もう、時間が無い」

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
藤田あやこ(ga0204
21歳・♀・ST
沢良宜 命(ga0673
21歳・♀・SN
瓜生 巴(ga5119
20歳・♀・DG
夜十字・信人(ga8235
25歳・♂・GD
魔神・瑛(ga8407
19歳・♂・DF
蛇穴・シュウ(ga8426
20歳・♀・DF
芹架・セロリ(ga8801
15歳・♀・AA

●リプレイ本文

「それでは‥‥これより輸送船の護衛に着くことにする」
 ケルビルが敬礼をした。この作戦へと赴くもの達が一同姿勢を正し、一礼を入れる。
 ポルトガル・リスボンに向け、更なる支援をするために‥‥


 護衛強化の連絡に伴い、集まった白鐘剣一郎(ga0184)、藤田あやこ(ga0204)、沢良宜 命(ga0673)、瓜生 巴(ga5119)、夜十字・信人(ga8235)、魔神・瑛(ga8407)、蛇穴・シュウ(ga8426)、芹架・セロリ(ga8801)以上8名の傭兵は現場についての説明を受けることとなった。
 目指す海域に見られるのは、機械の魚の群れとのこと、数については正直不明であるものの、群れとなるだけあり大層な数であることが理解して取れた。
 また、物と接触すると爆発したとの報告もある。飛行型魚雷兵器‥‥そう判断されていたのだ。


「魔神・瑛(マガミ・エイ)だ。宜しくな!!」
 早速とばかりに名乗り上げ、魔神はどかっと椅子に腰をかけた。
「飛行魚雷というが、殆ど飛んでいるならミサイルと違うのだろうか‥‥?」
 首を傾げながら白鐘が呟く。まぁ、確かにただ飛んでいるのならそうなのかもしれないが‥‥
「あの‥‥水に潜るんですよ。空も飛んだりですが」
 しかも羽のように大きなヒレを広げて、空を飛ぶのだという。それが聞こえた時、
「トビウオのようでした」
 昔見た事があると、1人の兵士が答える。
「‥‥魚型で‥‥魚雷‥‥クリス・カッシング‥‥侮れん男のようだな。この抜群のセンス‥‥同族の匂いがする‥‥」
 黙って立っていれば、そんなことばれないと言うのにわざわざ口に出す夜十字。額に手を当てブツブツと言葉を反復している。
「そうですね」
 作戦を煮詰めて言った際に藤田が提案していく。護衛艦と輸送船の配置、進み方についてだった。ケルビルはその提案を呑むと、早速部隊の方へと打診していた。



 船団は提案どおりの護衛艦を前方に、輸送船に対しVの字型へとなるように展開を取る事を了承した。後は、その問題海域に入って‥‥そういうこととなった。
 芹架のウーフーは情報を得るために第一輸送船のやや上に位置するよう緩やかに動きを進めていた。他のもの達も、各自ポジションへとつき、情報待機をしつつ警戒を怠らない。問題海域に差し掛かる前に、ケルビルはとある島の付近を通るようにと指示していた。胸に抱いた十字架をそっと握り締める様を見た沢良宜は先日あった一件の報告書を思い出す。それは、とある少尉との悲しい別れを書き記したものだった。沢良宜はその場に居なかったものの、その気持ちが痛いほど伝わってきていた。
――どうぞ安らかに
 そっと島に向って彼女は祈りを捧げる。


「レーダーは電子戦機の方が優秀だからな。とは言っても、ロリよ‥‥一応護衛艦からの情報も貰っておけよ」
 夜十字の言葉に芹架はじーっと見つめる。それは、まだ出発する前の話だった。芹架によって情報を集めると決まった時点で夜十字は芹架へと色々とアドバイスを送っている‥‥はずなのだが。
「‥‥ロリ、命、終わったら焼き肉でも奢ろう。‥‥ふっ‥‥人生に一回くらいは良いだろう」
 傍で夜十字が変なことを言い出さないかとハリセンを手にワクワクと待機していた沢良宜と、芹架の肩を叩きながら夜十字は澄ました顔で語った。
 芹架にとっていつも野菜ばかりの中、お肉は大変嬉しいもので‥‥夜十字はそれを盾に取り彼女たちを買収‥‥そんな策略を頭に浮かべていたのだった。うむ、悪代官とはまさしく彼のようなものを‥‥

 そんな買収の結果か、芹架は文句を言わずに警戒を怠らない。ただただ‥‥
「‥‥また悲惨なキメラを‥‥、絶対許さない――バグア――そしてカッシー!」
 そう叫びながらもレーダーの確認を怠らない。うむ、焼肉に釣られたのだろうか‥‥そうでないことを祈るだけである。
 そうこういってると、魚の群れを確認したと報告の上がった、問題海域へと差し掛かることとなった。船団の隊形を変え始める。
 そこに‥‥かすかに反応がレーダー上へと見られた。
「魚の群れ‥‥発見。くっ‥‥カッシー!! 食べれないなんて卑怯だ!!」
 半分涙目になりながら告げられた報告は他のもの達へと伝わっていく。
「すまないが、対象の速度と分散範囲を教えてくれ」
 白鐘の指示にデータが送られてきた。それを元に各自動き始める。
 ブーストを多用して目標を捕捉出来ると判断される地点へ、そして輸送船たちに被害を与えないであろう地点を考慮していく。
「了解、芹架さん。これより迎撃に向います」
 蛇穴が告げる。
「なんでトビウオなのかな〜」
 瓜生は迎撃に入ろうとスピードを上げつつ呟いていた。
 目撃情報を聞く限りサイズ、容姿共にトビウオと判断された経緯は理解することが出来た。しかし‥‥
――魚雷の方が普通に迎撃しにくいだろうに
 そう思う感想が、否めない。
 告げられた範囲からおおよその場所を洗い出す。そして、まだ目視は出来ていないものの、その指定された方向へと照準を合わせる。
「よし‥‥今だ!」
 群れの先頭が見えたとき、瓜生は試作G放電装置を発射させた。小さな小さな的が一気に包まれる。電気の幕だ。周囲一帯へと及ぶその放電は、先頭だけではなくその後ろにくっついてくるもの達に対しても効果を及ぼしていた。
 

「来たか‥‥‥‥ペガサスよりCP(コマンドポスト)、予定通り迎撃行動を開始する」
 白鐘もまたG放電装置を叩き込んでいた。瓜生とはまた違った角度で入る攻撃は後ろからやや遅れて来ていた群をも包囲する。それでも、この二つの包囲を抜けた小さな魚雷たちはなおも進軍を止めない。
 その姿はまさにトビウオらしく、上へ、下へとの行動が躱したタイミングを物語っていた。あるものは水面ギリギリへと落ちながら、またあるものは高々と空を飛来するように。群の行動は大体30匹前後というところだろうか。探知したレーダではそれが4つに分かれてくることと、なにやらやや大きめな物体がスピードを上げて飛来してくるのを確認する。
「おう! こりゃぁ大漁間違いなしだな! まぁ、喰えねぇんじゃ意味もねぇが‥‥」
 魔神もまたG放電装置にて攻撃に繰り出していた。
「まだ来る‥‥」
 芹架の進言により夜十字と蛇穴の機体が向かう。
「生態誘導兵器とは、良い趣味ですよね、必中にして鉄壁、まさしく必殺。タチ悪いなあ」
 上下する魚雷たちを見て蛇穴は思わず呟いていた。G放電装置を逃れ出てきた魚雷たちに対し、D−02ライフルで射撃する。弾幕を絶やさないこと‥‥それが今回大切なことと判断したのだ。
 別の群へと向かった夜十字は小さな的にてこずりつつも、スナイパーライフルでの射撃を中心に相手からの接近を待ち構え、ヘビーガトリング砲で一掃することを考えていた。
「‥‥方向と目標が明確ならば幾ばくかはマシだが‥‥ええい、上へ下へと、お前達は思春期の乙女のご機嫌か‥‥」
 真剣な表情のまま言うことは、いつもの通りふざけている。うむ、流石である。
 繰り広げられる弾幕の中で、小さな光を放ち、魚類に当ったダメージが軽減されるのが見受けられた。
――キメラか
 まさしくFFが発生しているのであろう。中には撃ち滅んでいくものも多いが、ガトリング砲の射撃を逃れたものたちは進軍を止めない。
「撃ち漏らしが抜けたか‥‥! ちっ‥‥命、頼む!」
 ついつい知人の名前を呼んでしまうものの、その時沢良宜はまた、別のものと対峙していた。


 マグロ――で、ある。


 大きく、そして真っ直ぐと進軍してくるその姿を見て、
「‥‥シュールやわ。まあ、空飛んではるお魚なんて、誰も食べようと――――しそうな人、おったわ。まあ、あれや。くすねる暇なく全滅させてまえば良え話やわ‥‥あはは」
 思わず計器にて芹架と夜十字の機体を盗み見ると沢良宜は乾いた笑いを漏らした。


 一人上空へと回りこんだ藤田は大きく旋回をし、魚雷の方向性を割りだしていた。わざと掠めるように発砲を行う。
「はいはい検診しましょうね〜」
 どこかの女医のように怪しいいい遣いは、なんとも‥‥まるで魚雷を診察するように怪しく目を光らせていた。
 的が何であるかを確認すべく、急降下、上昇をくり返し反応を見る。どうやら藤田の機体に対して、陽動されるものは居ないようだ。最初っからターゲットは決まっていると取っていいだろう。
 掠めるような発砲もどうも当らない。それだけでは落ちないようである。
「じゃあ処方箋出しますぅ」
 そう告げると輸送艦の直衛に回る為機体を大きく旋回させポジションを戻した。
「すったらた♪ 撃ったレーザー五万本っと♪」
 なにやら怪しげな歌を歌いつつレーザーの連射にて撃墜を開始する。
 他の味方機体の迎撃より逃れてきた魚雷を砲撃していったのだった。


「‥‥」
 瓜生は先の魚雷の群と行き交う中で、マグロの姿を発見していた。芹架の知らせによると全部で5匹。どうも、一通り片付いてきたトビウオと違い、この大きな物体は真っ直ぐ、そして先程とは違い速いスピードで輸送艦へと進軍をしている。
 絶句をした後、軽く深呼吸をするとその、雄雄しい姿をした、生きのいいマグロに対しガトリング砲を浴びせていた。

「‥‥食えない魚に用は無い! ‥‥‥‥海に帰れ‥‥もとい堕ちろ!」
 最期の一匹が撃墜されるまで、芹架の叫びは響き渡っていた。




「数が100と少ないのは単純に大量生産し難いだけだったのかもしれないな」
 無事輸送船を守り抜いた後、白鐘は考え込むように呟いていた。船団はそのままの予定の海路を取り、無事リスボンへと到着を果たす。
「ホントに連中の技術ってのは反則ばっかりで、嫌ンなるー」
 蛇穴もまた、今回の魚雷について思うことが有ったらしい。傭兵達も危険海域を抜けると、そのまま護衛艦へと合流をし、一緒にリスボンへと船旅に入っていた。


「さてよっちー、今日の夕飯は何ですか? 焼き魚だよね? あれ見て食べたくなったよね? そうなんだろう? むしろそうだって言え! ‥‥‥‥頼む‥‥!!」
 そんな中、夜十字のあとを追いかける芹架は、必死の形相で喰らいついてくる。なんと言うか、日々カレーなのに飽きているのだろう。しかし、最初の約束を忘れているあたりがなんとも、魚に執着しているように見えて悲しかった。
「任務終了‥‥やれやれ、しばらく魚は食わんで良いな。さて、帰って寝るか‥‥」
 それを涼しい顔で置き去りにする彼は‥‥やはり買収した事すらも闇に葬っているようだった。