●リプレイ本文
Happy Merry Christmas?
Do your are think our happy time?
Yey! Smile! smile!!
今宵の果てには何が見えるだろうか。
星が降りしきる夜を、貴方と共に。
「へぇ‥‥カノン君は18歳になるのかなっ」
大泰司 慈海(
ga0173)はそっと舞踏会の案内の片隅に書かれていた注意書きを見ると目を細めた。ふと思い浮かぶのは白い雪の中のクリスマス。どうやら書かれている地域を見る限り縁がなさそうではあるが。彼にはそんな景色が似合いそうだと思う。とびっきりのパーティにしてあげよう、そう考えると、これから用意するもののリストを思いつく限り搾り出し始めていた。
忙しかったスペインを背景に、イタリアの南部、地中海を見下ろすような丘の上で、それは催される準備をしていた。
エレーナ・シュミツの呼びかけに応じ、手伝いにきてくれた傭兵たちは日々の憂いより、今宵の楽しみを重要視したいと願っていた。
クリスマス、嫌、もはや単なる誕生会であるだろうに、伯爵の押し付けが無かったらこのような企画は出来なかっただろう。
舞踏会を開く為、急遽準備をこなす。
事前に連絡を受けていたのが幸いしたのか、皆飾りの購入や、準備を前段階で行っていたので後は設営のみとなっていた。料理班となったものたちはそこまで広くは無いものの、それでも普段使っているところよりは広い厨房で戦闘モードである。
いそいそと時が流れる中、こっそり様子を見つめるエレン。彼女の預かり所となったカノンを連れ、策略を練る。
「いい? みんなにも内緒で話を進めなくっちゃ」
「え、エレンさん‥‥本当にこのようなこと‥‥して良いのですか?」
「あら、楽しみは増やさなくっちゃ」
「ですが‥‥」
「いいこと? みんなに、お礼を言いたいんでしょ?」
「は、はい!」
「よろしい、それじゃぁね‥‥」
2人がこっそりと策略を練る中、他の者たちは準備へと勤しんでいたのだった。
ラウンドクラウンで乗り付けたのはミハイル・チーグルスキ(
ga4629)。助手席に乗せていた恋人のケイ・リヒャルト(
ga0598)の手をそっと取り、エスコートをして現れる。
「こういう屋敷はいいものだね。ラブロマンスの舞台として申し分ない」
屋敷の感想を漏らすと、そのままケイを連れ立って入っていく。キーを控えていた使用人へと渡すと移動される車。さて、我らは手伝いをこなしながら‥‥そんな事を囁きながら。
「かのタン!!」
「ら、ラウるん」
ルーマニアで別れたきりだった友人の顔を見つめ、本当に自分はみんなの元に戻ってきたのだなと、カノンは感じていた。
がっしりと抱きついてくるラウル・カミーユ(
ga7242)に思いっきり抱きつき返す。互いに身長差の無い分、絡まりが強く感じ、そっと額をくっつけて話し出す。
「心配‥‥したんだヨ?」
「ごめんなさい‥‥」
「もう、何処にも行くんじゃないよ?」
「う、うん‥‥」
ぐしゃぐしゃに髪を乱されても、微笑が溢れてくる。そんな、素直に笑顔を出せるようになった彼を見ると、安心できた。彼を預かっているエレンに対しては、変わった人だと聞いているだけに、心配もより強かったのだ。
「ちゃんと‥‥食べてるみたいだね」
「ええ、食べなきゃ怒られるんです」
苦笑するカノンの顔色は、前にあったときよりも随分良く、薔薇色になった頬が健康なのを証明していた。
集まった手伝いは会場を設営するものと、料理を準備するものにわかれていた。料理組はビュッフェ方式の軽食と、デザートを担当する者に。会場は飾りつけと、音響、そしてその後の給仕へと分かれる旨を相談してあった。アルヴァイム(
ga5051)は事前にこの手伝いを知ると、すぐさま連絡を取り付け、備品や食材の手配へと走っていた。今もまた、その時より交渉していた物がきちんと運び込まれているかどうかの確認作業へと勤しむ。
調理場は戦場。ラウルが言ったその言葉がまさしく相応しいくらいに各自が自らの担当料理へと勤しむ。そこは、割かし広い空間であったにもかかわらず、所狭しとばかりに蠢く者達で埋め尽くされ、もとよりこの別荘にいる調理人たちは居場所を失くしているほどである。彼らは手伝いへと回っていた。
作られる料理は様々であった。不知火真琴(
ga7201)は特に張り切っており、始めに下拵えをし終えると、先に煮込むべきものをと野菜を煮だす。その間に肉の下味をつけ、クリームソースを。普段から料理をこなしているのがわかる手際よさだ。
密集する厨房の中で叢雲(
ga2494)もまた奮闘していた。彼が作るのはデザート。ケーキはラウルとケイが主に担当していた。出来上がっていくブッシュ・ド・ノエルを視界に収めつつ、調理人たちに指示を出しながら仕上げていく。今宵集まる人数は、結構な数らしい。そんな人数が満足できるものをと。
そんな彼らとはまた別に、怒涛の指示を飛ばしているものがいた。ハイン・ヴィーグリーズ(
gb3522)である。
「アイスバインの鍋はすぐに冷やしてください。ママリガはもっと根を入れて混ぜて、ってクーヘンの生地はもっと丁寧に伸ばして!」
先に頼んでおいた食材の確かさを吟味しつつ、これでもかとばかりの指示。並みのコックには負けはしないと言うだけあり、その完成度は格別であった。
そんな彼らの手にかかった食材たちは美しく姿を変え、会場へと運ばれるのを待つだけへとなっていた。
ミカエルに身を包んだシャーリィ・アッシュ(
gb1884)は屋敷へと届けられたツリーを、難なく運んでいく。大きなテーブルを転がすように配置するテミス(
ga9179)と鴇神 純一(
gb0849)。そんな運ばれたテーブルに、シャレム・グラン(
ga6298)は白いクロスを手際良く掛けて行く。所々を手直ししていくのは工具を携えた朧 幸乃(
ga3078)であった。ツナギ姿の鹿嶋 悠(
gb1333)は次々とアルヴァイムの手配で届けられた荷物を会場へと運んでいた。
運んできた荷物から、ロジー・ビィ(
ga1031)はキャンドルホルダーを取り出し、自分の庭から積んできた薔薇と共に会場を飾り立てていく。そんなロジーを手伝うセシリア・ディールス(
ga0475)は、少し手が止まってしまった。その様子に気付いた鐘依 透(
ga6282)はそっと彼女に問う。どうやら手が届かなかった部分があるとわかり、急いで脚立を持ってき、代わりに飾り付けていた。
「‥‥ありがとう御座います‥‥」
そんな彼女の言葉に、微笑を返しながら。
ふらふらと、クラウディア・マリウス(
ga6559)は荷物を持って会場内を走り回っていた。途中、何度配線に足を取られただろう。その度に、遠くから様子を見ていたアンドレアス・ラーセン(
ga6523)が慌てて助け起したり、通りがかったミハイルが受け止めたりと何かと忙しない。それでも、しきりに動く姿は一生懸命であり、愛らしかった。
そんな自分の行動にちょっと落ち込みつつ、だがそれではいけないと思いを奮い立たせると、ツリー用の飾りを運んでいく。
「国谷さんっ、ソラ君。お飾りもって来ましたっ」
躓きながらも運ぶクラウディアの荷物をにこやかに受け取る国谷 真彼(
ga2331)、
「く、国谷さんは無理しないで下さいね?」
先程、アンドレアスにつつかれ冷や汗まじりだった国谷の顔を思い出す。そんな彼の傍を離れずにしきりにツリーの飾り付けを手伝っている柚井 ソラ(
ga0187)。わたわたと走り回る姿は子犬そのものである。国谷はそんなソラを少し微笑ましげに見つめていた。
脚立に上り、背伸びをしている彼を見つけると国谷は慌てて足元を押える。精一杯伸ばされた手には、大きな天辺の星が握られていた。
「よいしょっ」
最後の掛け声と共にそれは、大きなツリーの天辺へと綺麗に収まった。
「わぁっ」
輝く星が一つ、会場を照らしたことに手を合わせて喜ぶクラウディアと、満足げなソラ、そしてそんな2人を見守る国谷の顔が有った。
シェスチ(
ga7729)は会場の中だけではなく、バルコニーや庭に対しても装飾を施していた。主に電飾系を中心に。高い場所への設置はCerberus(
ga8178)が手伝っている。会場の方は煌びやかな、舞踏会に相応しいものを、そしてバルコニーや庭にはちょっとロマンチックに。景観を考え、様々な色を配線していく。ちょっとした心積もりにそっと操作盤を用意したり、サプライズの準備なんかを考えたり。
用意されていたのは、数々のレンタル衣装だった。先に申告されていたサイズ於きに個別のタグが着いており、それぞれに用意されたゲストルーム、若しくは更衣室に置かれていた。会場の設営が終ったものから着替えに入ると、丁度その時を狙ってなのか頼んであった楽団や、毎年この舞踏会を楽しみにしているゲストたちが訪れた。カノンとエレンは対応に追われ、そして次第に場内には音と談笑が響き渡りだしていた。
シャレムは普段着慣れないドレスアップへと着替える手伝いをしていた。どうやら彼女自身が舞踏会へと参加する気はないらしく、他の人の着付けや髪結いなどを手伝っている。先程も、しきりに参加人数をチェック、手配の作業を行っていたほどである。どうやら、この度は裏作業へと勤しむつもりで来たらしい。
ミハイルはそっと自らの愛するケイの手を腕で絡め取っていた。ふと見下ろすと、笑みで返すケイ。彼女の衣装は、艶やかな黒髪に見合った紫と黒を主体としたスレンダーラインで、要所にクリスタルストーンをあしらわれていた。
「‥‥似合う、かな?」
少しはにかみつつ、自前で用意したドレスについて恋人に問い正すのは年齢相応の少女の顔をしており、いつもの大人びた彼女と違い愛らしかった。その問いに、ミハイルは額へとキスを落とす。
会場に入るとセシリアは立ち止まった。準備していた者達だけではなく、周辺から集まってきた人々が、会場の大半を占めてからだ。飾られた大きなツリーの下には今宵のメインデザートブッシュ・ド・ノエルが鎮座している。それを中心に並べられる料理たち。右にはオードブルたちが、左にはデザートがひしめき合っていた。キラキラ輝く会場を見ると、盛況に始まったこの舞踏会は成功を収めることが予測できた。
隣にいる透はそっと、だが堅く手を握っていた。先程、待ち合わせをしていた廊下にて、透は彼女の姿を見て暫し時が止まっていた。白いAラインのドレスに身を包んで現れたセシリアに見惚れてしまったのだ。どうしたのかと問う彼女の視線に我に返り、彼女の手を取ってここまで来たのだ。
「‥‥宜しくね、楽しく踊ろう」
強い感触で透を見たセシリアに、優しく微笑んで声をかける。
「‥‥はい‥‥楽しく‥‥踊りましょうね‥‥」
こくんと頷くと、二人は階下の舞台へと降り立って行った。
百地・悠季(
ga8270)は今宵嬉しさに胸を震わせていた。前回参加した舞踏会では生憎相手が見つからず、壁の花として終っていた。しかし‥‥隣をそっと見上げる。赤い髪の長身の男が、視線を感じ微笑を返した。アルヴァイムである。入り口まで迎えに来てくれたこの男に、そっと腕を絡ませ、とある少年の方へと足を進ませた。ソラである。宛がわれた部屋でソラは慈海、砕牙 九郎(
ga7366)そして朧と共に皆から渡されたサプライズの準備をしていたのだ。そこへと訪れた百地はそっと二つのジュエルケースを渡す。ソラが受け取ると踵を返し、会場へと向っていた。途中、身を包んでいたピーコートを使用人へと渡し、晒しだされたのはオレンジ色のフォーマルドレス。桃色の髪に映え、煌めくその身をアルヴァイムがそっと支えていた。
「エレンさん、一曲お相手願えますか?」
淡いブルーのマーメイドドレスに身を包んだエレンの元に真っ先に訪れたのは、しっかりと燕尾服を着こなしたソラであった。少し緊張しているのか、身体は固くなっているものの、ほんわか笑顔は変わらない。そんなソラに驚きつつ、エレンもまた笑顔で承諾をする。まさかこの青年が一番に申し込んでくるとは思わなかったことと、そんな青年にリードされるのにちょっと嬉しさと共に戸惑いを覚える。ソラはここに来る前に国谷に告げた言葉を思い出していた。――今度こそはちゃんと見ていてくださいね!――その言葉は、先のグラナダに何も言わず旅立った彼への、ダンスを教えてくれた彼への言葉。何も言われずに発たれるのは、嫌だから。そして、見て貰いたい時に、見て貰えないのは辛いから。
「有難うございました、お姫様」
曲が終ると、ソラは恥ずかしそうに笑いながらお辞儀をした。エレンも楽しかったわと告げ、微笑を返していた。この青年の、成長を著しく感じながら。
今日まで一杯練習したんだから、そんなテミスの思いを鴇神は確かなリードで受け止める。彼と一緒に踊りたかったの、そんな事を告げる彼女になお愛しさが増していた。
ここ数日、2人で練習を生かしたいという思いを、鴇神はしっかりと抱き寄せながら。――うまくやろうと考えず、俺に身を委ねるんだ――そんな彼の囁きに、テミスは安心して身を預けていた。鴇神のエスコートは見事なもので、見上げるテミスは「私の王子様」そういって微笑みを返す。そんな彼女に、曲の終わりと共にこっそりとキスを贈った。
「よ、宜しくお願いしますってばよ。朧さん」
大きな身体とは違い、緊張を走らせる九郎に、朧はそっと微笑んだ。依頼で役に立つかもしれないと覚えたダンスが、こんな形で披露するとはと。身長差があるものの、ステップは先程少し教えたから平気かなと思いつつ、一生懸命の九郎に合わせる。踏まないようにと緊張している彼に、朧は少しリードする形で舞っていた。
先程まで会場のご馳走に舌鼓を打っていた慈海は、そっとエレンの元を訪れた。きりっと顔を切り替えて、そっとお辞儀でダンスを所望。そんな彼に快く承諾したエレンの手を取り、いつもと違い渋く舞う慈海に、エレンはリードを任せダンスを楽しんでいた。
「‥‥平気です‥‥私達のペースで‥‥踊りましょうです‥‥」
周りと衝突しないように気負っている透にセシリアはそっと告げる。リードは彼に任せている。ミスは気にしないように、そう思いながら。そして段々と時が進むにつれ楽しさで動きがスムーズになっていくのを感じていた。
「‥‥ありがとう、凄く楽しかった」
ダンスの終わりに、笑顔で告げられた言葉に対し、
「‥‥此方こそ‥‥ありがとうでした‥‥」
一瞬送られた微笑みに透は誘ってよかったと実感していた。
アルヴァイムは百地のリードによって始めは踊っていた。百地にとっては幼いころの嗜みの一つとして覚えたものだ、身についている。そんな彼女に合わせ、リズムを掴んでいく。体が慣れてくると、そっと手を握り返し視線を合わせる。――大丈夫――そう微笑むと、今度は自分が引っ張るように。百地はそんなアルヴァイムのリードに、心と共に身をゆだねていた。
ケイは他のものが羨むようなほど、魅力的なダンスを披露していた。もちろんパートナーは恋人のミハイルである。彼にリードを負かせ、音楽に身を委ね。翻す身体が舞う、一匹の黒蝶のように。
「ダンスの経験はありませんが、よろしくお願いします‥‥姫君」
そういって鹿嶋はシャーリィーのリードで踊り始めていた。
「足を引っ掛けないことだけ注意していてください」
彼女の言葉に従って。そっと支えられているのを感じながら、鹿嶋は彼女へと言葉を継げた。
「ドレス、よく似合っていますよ‥‥」
その言葉に頬を染めるシャーリィに微笑みながら。
「フロイライン、1曲お相手を」
そういって黒いタキシードに身を包んだアンドレアスは、エレンに対して一礼をする。 保護のお礼だ、囁く彼にエレンはそっと微笑み、手を差し出した。受け取ると、優雅にフロアへと移動、どうやら幼少時に仕込まれた立ち振る舞いが生かされているようだ。しっかりとしたリードで始まる彼のダンスは、普段とは違い、確固たる血筋を感じる。この人もまた、古い血筋の家なのだろうか、そんな事を感じながら、エレンはゆっくりとドレスが広がるのを感じていた。
「カノンに変な事教えたら恨むからな〜?」
紳士なままで終ると思ったダンスは、そんな一言で笑いへと変わった。エレンは――大丈夫、変な事はしないわ――そう微笑むと、そっと終わりの一礼をした。
可愛らしき二人の子犬が踊っていた。先程はエレンとのダンスに、少し緊張したソラも今手を取っているお姫様、クラウディアには何回か相手をしてもらっている。傍から見ても、楽しそうに踊る二人。――今日は国谷さんが見ていてくれるから――ソラはほっとした笑顔で、クラウディアを見上げる。いつもならそんなに感じないものの、ヒールを履いた彼女はやはり少し高くなる。
「短い時間だけど、楽しみましょうねっ」
そう告げるクラウに、ソラは太陽のような笑顔で、
「はい、またご一緒できて嬉しいです」
そう返していた。
「うん‥‥カノンはさらに可愛くなったね‥‥」
舞踏会は経験が無いから、そういって会場での料理とお酒を楽しんでいたシェスチは、傍によって来たカノンを見つけるとにこやかに撫でていた。まるで子犬を撫上げるように、優しく優しく。カノンは乱された髪を気にせずに、そんなシェスチを微笑んで見つめる。何故だろう‥‥この人もまた特別なのだ。言葉少なに、だがしっかりと見据える視線が強くて‥‥頼りになる、そんな彼のほろ酔い姿が、嬉しくなる。
「カノン兄、誕生日おめでとうね」
そう声をかけてきた葵 宙華(
ga4067)は柔らかなシフォンの白いドレスに、赤い飾りがついたショートケーキを連想させる姿で現れた。一曲踊ってねとお願いする彼女に、微笑みながらお辞儀で返す。
エスコートされながら踊る葵に、そっと尋ねたのは今宵のこと。――今日はお祝いに来たのだから、同伴なんて野暮なことはしない――そう告げつつ、――譲り続けてたら、誰かの一番にはなれないよ――そう謎めいた言葉を残していく。そっと視線を給仕をしている一人に向けてみると、こちらの様子を窺っていることが確認できた。
ちょっとだけ借りるから、そう心で呟いて踊りを楽しんでいた。
一通り終えた舞踏会、ゲストが去っていく中、まだこれからとばかりに賑わいを見せていた。それは、会場設営から手伝ってくれたもの達からの、些細なプレゼント。エレンが頼んでおいた、もう一つの目的。
エレンに言われ、不思議な顔をしたカノンが中央へと導かれていた。
こっそりと合図を送るラウル。それと共にシェスチは操作盤で灯りを落とした。暗くなる中、執事服に身を包んだ叢雲が運んできたのは蝋燭の点いたケーキ。彼は先程まで来る人々の給仕に精を費やしていたはずだったのだが。それは、カノンの故郷であるルーマニアではありふれたアップルケーキ。そして、歳の数だけ飾られた蝋燭。淡い光が、驚く顔を浮かび上がらせていた。
続いて不知火がもう一つのケーキをもって現れた。それはドイツのチェリーケーキ、シュバルツバルト・キルシュトルテであった。その上には先ほどと同様に蝋燭が、25本立っている。国谷がそっと、エレンを中央へと導く。わけ分からず、エレンはカノンと並び、目の前にケーキが置かれた。
アンドレアスがそっと合図を出すと、楽団の方から流れ出るメロディー。バースデーソングだ。ケイがそっと歌い始める、澄んだ鈴のような音色にミハイルは目を閉じ聞き惚れていた。そっとカノンの方に浴びせるスポットライト、どうやらCerberusが動かしているらしい。照らし出され驚く所に、
「Multi ani pentru a te」
ケイがルーマニア語で告げる。とたん朱色に染まる様子を見て、今度はドイツ語で歌い上げ、スポットライトがエレンへと移った時、
「Herzlichen Gluckwunsch zum Geburtstag zu Ihnen」
エレンはびっくりして思わず口を手で覆った。
「「Happy Birthday to you」」
集まった人々が、口をそろえて言うと――蝋燭を吹き消してください――叢雲が2人に囁いた。
軽く目を合わせ、そっと息を吹きかける。
消え行く蝋燭の光に、会場は窓から差し込まれた月明かりに照らされ‥‥そして照明が今度は二人の前へと浮かび上がった。
そこには2人のサンタと2匹のトナカイ。赤いソリに大きな白い袋を携えて、淡い微笑と共に立っていた。
「Merry Christmas! 」
そう言ってばら撒かれたのは紙吹雪。白くふわふわと舞い落ちる様子に、思わず目を細める。朧サンタを抱きかかえるトナカイ九郎は、そっとカノンの前に降ろすと、
「メリークリスマス! 良い子にプレゼントをお持ちしましたってばよ」
そう言って、朧をそっと後押しする。
「メリークリスマス‥‥それに、ハッピーバースデー、カノンさん‥‥」
差し出されたのは、共に持ち込んだ、白い袋。たくさんの心が詰まった贈り物が入った、彼へ向けてのプレゼント。驚く顔が渡してくれた朧を見て、ふわりと微笑んだ。
「有難うございます、最高の‥‥誕生日、です」
頬を伝う、雫が床へと零れ落ちていた。
ソラサンタはトナカイ慈海の押すソリでエレンの前へと現れる。可愛いソラサンタにエレンは微笑みで出迎えた。
「メリークリスマス&ハッピーバースディ!」
目の前で袋を広げ、詰まったプレゼントを見せながら。エレンはそんなサンタにお礼をこめて抱きしめ、キスを贈った。
2人のサンタは、一つずつ贈られた物を彼らに見せ、そして言葉を添えていた。そして一通り終えたころ、再びダンスの始まりが訪れていた。
「――楽しんでいるかね? 諸君」
開け放つ扉の音と共に、現れた人物がいた。UNKNOWN(
ga4276)、今宵は燕尾服に身を包んでいる。会場を見渡すと、ふっと笑みを浮かべポケットの中から取り出したものを宙へと放った。キラキラと澄んだ音を響かせながら落ち行くものを、自らの方角へと来た者は受け取る。
「――ハッピー・バースデー――」
それは、ここ近日に誕生日を迎えた者達へ。カノン、セシリア、朧、シャーリィ、ミハイルへと投げられた物。手に残ったのはシルバーリング。
すっと朧の前に立つと、脇に抱えてきた箱を開いて見せた。
「約束しただろう?」
その中にあったのは青いドレスとケープ、そしてハイヒール。朧に持たせると、着替えてくるように告げる。
丁度ダンスの音楽の再開に、UNKNOWNは今宵の主役だよと、リングを渡したものをダンスに誘う。流れるようなエスコートと共に一人ひとり一曲だけ。カノンの手も取り、ふわりと踊らせ、贈り物に身に包んだ朧へ視線を移した。
「忘れ物だ」
そういって手を引くと、走らせる桜色のルージュ。
「さて、一曲どうかね? 今日の姫君」
恭しくお辞儀を取り、ダンスを誘いながら。一曲だけ、そして再び――皆と踊ってくるがいい――と囁いて。
「カノン、踊ってくださいます?」
先程の給仕姿とは打って変わり、蒼地に白薔薇が刺繍されたドレスに身を包んだロジーが目の前に現れた。ふんわりと笑みを広げるものの、少しだけ頬を朱色に染めて。
「ロジーさん」
彼女の姿を見たカノンは少し、鼓動が早くなるのを感じる。いつもよりも、さらに優しい視線を投げかけてくるロジーにたいし、こっそりと呼吸を整え、跪き手をとると、
「こちらこそ‥‥お願いして宜しいですか?」
射抜くような視線で問い返す。今まで見せた事がないような、少し野性味を帯びた視線で。そっと、手に口付けを落とすと、すっと引き寄せる。
連れ立つように、フロアへと導くと、曲が新たに鳴り出した。
流れるのはメヌエット。ゆったりと引き寄せ、しっかりとフォールドを執る。右に‥‥左に‥‥さり気無くリードを取られつつ、揺れる白薔薇。広がる銀が、眩しく写る。
その様子を、少し遠くから金が見つめていた。アンドレアス、グラスを片手に、壁へと寄りかかっている。
何故だろう、少し苦しい。何だというんだろうか、この感覚は‥‥
しっかりと青年として成長を遂げるカノンを、そして、少しずつ思いを持ち始めた友人を‥‥何故か、一人胸が痛んだ。そんな3人の様子をCerberusはエレンと踊りながら見守る。一日は借りることは出来ないといいつつ、保護役を申し受けてくれたお礼を込めて。白いスーツに身を包み、銀へと戻した髪の青年は上手くは無いといいながら、エレンのリードを務めていた。
「もう、俺が守る必要は無いだろうからな。勝手な話かもしれないが‥‥」
その呟きが、エレンへと聞こえることは無かったが、少し取っていた手に力が入るのを、エレンは感じていた。そっと見上げると――ありがとう――そう言って離れる彼を、少し心配そうにエレンは見送っていた。
曲が終わるとロジーは潤んだ瞳で抱きついてきた。
「わっ! ろ、ロジーさん!?」
しっかりと受け止めつつ、やはりこの動揺の仕方を見るとカノンである。そんな様子に まだまだ安心しつつ、胸に額を押し付けるように囁く。
「お誕生日、おめでとうございますの!」
そっと背中に手を回しながら、表情が緩んでくる。
「今日からのカノンに素敵な煌めきがたくさん降りてきますように‥‥」
ふと顔を上げると、優しく見つめるカノンの顔があった。
そっとつま先を上げ、頬に落とすキス。
すでに、ロジーの中では特別の意味が、導かれていた。
葵は現在蒼のチャイナドレスに水色のショールを羽織っていた。見つめる先は、ダンスフロア。そして片手には辛口のシャンパン。
「‥‥こんな風に“楽しむ”事が出来るとは‥‥思ってなかったしね」
誰とも告げずに零される言葉に、ひっそりと苦笑しながら。
「誕生日、おめでとう。‥‥遅くなったけどね」
国谷がエレンの元を訪れたのは既に踊りも終盤になってからだった。
ラスト・ダンス。
最初の踊りと、最後の踊りは特別な意味を‥‥そんな言葉が頭によぎる。
そっと差し出された手に、エレンはドキドキしながら手を添える。何故だろう、この人には色んな意味で心を動かされている。そっと消えたグラナダの前日。
彼の後を追ってた少年の涙。そして‥‥今見つめるこの感覚‥‥。
「いいかな?」
押し付けがましくなく、あくまでも相手を窺うその姿勢に、心はいつも動かされていたように思う。
こくんと頷くエレンの様子に、ほっと一息をつくと、片目を瞑って、
「僕は上手じゃないけどね。踏んだら、ごめんね?」
そんな言葉に笑みで返す。導かれるエスコートに身を任せ、白いドレスが花開く。そっと回した手が、腰を抑えるように‥‥怪我の負担にならないようにと肩に添えられた手の曖昧さを回避する。笑顔だが真剣に、怪我を庇いつつ踊る国谷にエレンは、心配の表情をいつのまにか浮かべていた。
「もう、大丈夫ですよ」
どこにも行きません‥‥そう続くような言葉が、手を通して返って来た。
曲が終わると、ありがとうございますとそっと離れる国谷を、エレンはわからぬ寂しさを感じていた。
誕生日のもの達とひとしきり踊ったUNKNOWNは、そっと会場を離れる。彼にとって目的はそれだけ。ダンスの代わりにとミハイルと酌み交わした酒が、喉を潤した。
ふと頭上を見上げると、白い結晶が舞い降りてくる。――何か、探している何かが見つかるかもしれん――少し笑みを浮かべ。
旅に出るか、そう心に呟くと再び闇に紛れていった。残ったのは、彼が歩いた足跡だけ。
「わぁ、雪ですか!?」
可愛い二人のサンタの来訪にも驚いたが、庭に突然舞い降りた白い物に、カノンは驚きを隠せなかった。この季節は、雪に囲まれて暮らしていた。しかし、ここ、伯爵の別荘は暖冬の地。雪とは無縁の地である。それにもかかわらず、今、目の前では舞い落ちてくる白い結晶。
「‥‥綺麗ね」
エレンがそっと呟く。この、ささやかな贈り物の主に感謝をこめながら。こんな洒落た事を考えるのは、彼ぐらいだろうと会場に居ない人の姿を思い浮かべて。
「たまにこんな洒落た悪戯でも、と」
1人舞台裏へと舞い戻ったアルヴァイムは、驚きの声が上がる会場を嬉しそうに目を細め見つめていた。この、雪が降らない南イタリアに降らせた雪は、彼の最高の悪戯。ぎりぎりまで交渉を続けた甲斐があったと、胸を撫で下ろす。事実、この降雪機をここに運び込むのはかなりの苦労があった。まずどこに身を潜めているかわからない伯爵へのアポイントメントを始め、その他備品に紛れさせての搬入。そして、人知れずの設置である。費用は全面的に伯爵が持ってくれたのは、予想外ではあったが嬉しいことである。こんな悪戯、たまにはするものだと笑みが浮かんでいた。
「ケルベロスさん!」
会場をそっと離れようとしていたCerberusを見つけると、カノンは走り寄って来た。肩で息をしているのを見ると、かなり急いだらしい。その様子に、そっと微笑むと頭を撫でて視線の丈を合わす。
「久しぶりだな、顔つきが少し良くなったかな? 知らずにいたことが多いかもしれないがゆっくり自分のペースで歩いて来い。気がついたら俺たちに追いついているさ。ハッピーバースデー」
「あ、ありがとうございます!!」
最初から保護下に置いてくれた、この優しい番犬に潤んだ視線で見つめる。彼は今、自らの成長を後押ししてくれる存在へと形を変えている。見守る視線が、優しくて‥‥そして、切なかった。Cerberusはそっとカノンの頭を撫でると、そのまま会場を去っていった。
「ちょっと子供っぽいものかもしれませんが」
テラスへと連れ出したシャーリィへそっと渡したのはライオンのぬいぐるみだった。首にはネックレスとなったシルバーリングが掲げられている。
「ありがとうございます‥‥大事に‥‥します」
柔らかい笑みを鹿嶋に向け、しっかりと抱きしめる。
「メリークリスマスと‥‥誕生日おめでとう、これからもよろしくお願いします」
そう囁きながら、愛おしそうに。
「ほわわわぁ‥‥」
はしゃぎ疲れたのだろうか‥‥クラウは既に、座っていた椅子によりかかっていた。
傾かないのは頑丈な椅子だからだろうか、それとも彼女が‥‥
少し身じろく姿が見れるも、徐々に身体がまるまっていく。段々、夢の世界に誘われていってるのだろうか。
粗方片付けが終わってクラウの姿を見つけたのは、もう深夜を過ぎた、そんな時間だった。後の作業は明日に‥‥そんな状況の中、一先ず休むことになったのだが、この天然少女はいつものように手を煩わせる。
こんな時、アンドレアスは頼りがいのある兄貴へと変われるのだ。何故だろう、胸に落ちたものを抱えつつも、この子犬どもをどうにかしないと‥‥
本日ソラは、先に国谷に捕獲され、きゃんきゃんとわめきながら既にゲストルームへと足を運んでいるはずだ。
そっと抱え上げるクラウを見ると、幸せそうな笑みを浮かべている。きっと、楽しかったのだろう。明日起きたら、皺くちゃになってしまったドレスを見て嘆くかもしれない。しかし‥‥生憎本日はどの部屋も相席してくれる女の人はいないようだ。ロジーに預けてみようか‥‥そう思い出すも、何故だか今夜は彼女の顔をまともに見ることが出来なそうで、そっとエレンの部屋へと訪れる。
快諾してくれたエレンに感謝しつつ、長い廊下を歩いていると、ベランダの椅子に座っているカノンを見つけた。
なんだろうか‥‥ほっとする。
「カノン」
その言葉に振り返る彼は、今までに見た事のない綺麗な笑顔を向けてきた。そっと‥‥後ろから包み込むと、抱え込むように頭を押し付けた。
「アス‥‥さん?」
「ほんと、良かっ‥‥」
抱きしめる腕が、震えている。呼ぶ声が、掠れているようで‥‥
心配になり、振り向こうとすると余計強く抱きしめられた。
「‥‥見るな」
「‥‥わかりましたよ」
ほんの数分だろうか、落ち着いたアスはそっとカノンを離し、横の椅子へと座った。
そっと、ポケットの中から小さな箱を出すと、じっと見つめてから、カノンへと差し出す。
「え?」
「やるっ」
無造作に出された箱を受け取り、カノンはそっと開けると‥‥
そこにあったのは黒蝶貝の十字架型カフスリンクスが入っていた。
驚きのあまり声が出ない。
そっと頭に手を乗せ、くしゃくしゃにしながら囁く。
「La multi ani.誕生日おめでとう、カノン‥‥俺の一番の、特別」
ふわっとした笑みを返され、アスは照れ隠しにもっと髪を乱していた。
「アル!」
百地は小さく声を上げると手に持っていたバスタオルを広げ、そっとアルヴァイムを包み込んだ。サプライズとばかりに用意した人口降雪機を動かしていた彼に、優しく微笑む。そんな彼女をくしゃりと撫上げると、嬉しそうにキスを返された。
「真琴さん‥‥」
もう、宵が既に幾ばくの時間を過ぎた頃、真琴は叢雲の部屋を訪れていた。
女性が淫らに男性の部屋を訪ねるものじゃ‥‥そう言葉でいいつつも、二人の間には関係ない。それは、別に特別の意味はないが、二人が二人でいることが当たり前になりすぎているから‥‥
「叢雲君、これ‥‥」
差し出されたのはファッションバック。失礼しますと、丁寧に受け取り中を確認すると黒いカシミアのマフラーと革手袋が入っていた。
「お互い‥‥考えることは似たようなものですねぇ」
そう言って叢雲もベットの上に置いておいた、袋を手渡した。
きょとんと、不思議そうな顔をした真琴は包装を解いてみると、そこには白いカシミアマフラーと雪の結晶とクラウンのトップが付いたペンダントが。
「似合う?」
早速身に付け、窺うように叢雲へと問い掛けると、変わらぬ笑みで――ええ、大変――そう告げてくる。
白い猫と黒い猫、互いの存在意義はわからずとも、二人は、一緒だった‥‥
「ハッピーバースデー‥‥か‥‥」
朧は1人空を見上げていた。今宵の月は、大きく美しい。すっと空へと持っていたグラスを掲げると、少し傾ける。
――乾杯――
呟いた言葉は、前日の自分への、祝いの言葉だった。
「楽しかったわ」
ケイの言葉にミハイルは笑みで返した。車をそっと止めると、ケイを誘い出し小さな公園へと連れ立つ。
ふわっと笑う黒猫のケイ。コートを広げ、招き寄せると、すぐさま中へと入ってくる。
抱きしめると、彼女の黒薔薇の香水が漂ってくる。
「なぁ、この月の下で‥‥」
そう言って、視線を落とすと、見上げるケイは、微笑で答える。
「覚めない夢を共に踊ろうかShall We Dance?」
差し出される手を受け取って、音楽は心の音で良い。
今は共にいることを。
我が黒猫を、この手に抱き今宵は月の下で‥‥
テミスは鴇神に包まれて幸せに浸っていた。
今日は‥‥本当は一緒に踊りたかったから‥‥そんなことは流石に表ではいえない。
あの舞踏会が成功したのは、凄く嬉しい。
そして‥‥共に祝った誕生会では、笑顔溢れる2人の顔も見れた。
事前に頼んだのは、2人で過ごすゲストルーム。ちょっと茶目っ気を出して、今夜は一緒にと。
今、この包んでくれている腕が、愛しくてたまらない。何故か出てくる涙をそっと拭い、身を彼へと預ける。返って来る腕の強さを信じ、彼女は再び目を閉じた。
シャーリィは、今宵のことを驚きつつ、しかし嬉しさがこみ上げてくる。
なぜだろう。つい先日思いを共にした鹿嶋と、この様になっているのは。
そっと顔を上げると、視線が合った。
優しく微笑む鹿嶋に、シャーリィの思いが決まった。
「‥‥ずっと言いそびれていたことがあります‥‥」
思いつめた顔で床を睨むシャーリィ。キッっと顔を上げると、改まって姿勢を正す。
「‥‥これより先‥‥我が剣、我が命は貴方と共にある」
そっと包み込むように手を握ると、華やいだ笑顔が浮かんだ。
「そして‥‥ユウ‥‥貴方を、愛しています」
「俺もです、シャーリィさん‥‥」
そっと抱き寄せて‥‥貴方と共に‥‥
「カノン‥‥」
自らの想いを告げ、どう思うか聞いてみたのに‥‥彼からの反応は未だ不確定なもので‥‥。そっと膝を抱きしめるロジー。手元には彼がくれた手作りのアクセサリー。
何故だろうか、きっと一つでないと感じる。そう、もう一つは‥‥。溢れる思いはどうしようもなく、潤んだ瞳で窓を見上げる。
今宵の月は綺麗だ。そんな感想を持ちながらテーブルの方へと視線を向けると、二人からの皆へのクリスマスプレゼントが目に入った。セント・クロスとお守り、そして特別仕様のシャンパン。『特別』という言葉だけじゃ足りなくて、でも他に言う言葉が見つけられなくて。戸惑いの中歩む自分が、少しもどかしかった。
いくつもの人たちの思いが絡む中、幕を閉じた今宵の舞台。
どんな罪が待っているのだろうか。そんな思いを胸に秘め、この聖夜を踊ろうか。
希望という名の、明日に向かいながら。