タイトル:【JB】地下祭殿ロマンスマスター:雨龍一

シナリオ形態: イベント
難易度: 不明
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/07/12 22:46

●オープニング本文


「で、結局島を探索しにいって‥‥捻挫して帰ってきたのか?」
「うぐっ‥‥」

 ナットーの言葉に、ノーラは俯くことしかできなかった。
 目の前には今回の探索にて明らかになった洞窟の詳細が載った地図と、他の探索チームによって作られた島の全貌が載った地図がある。
 そして、ノーラ宛に書かれた一枚の便箋が目に入った。
「あれ? ‥‥これ」
「あぁ、お前がいない時に届いてたよ。クイーンズ記者の彼女からの招待状だ」
 すこしにやりと笑いながらナットーは煙草に手を伸ばし、火をつけた。
 クイーンズの記者。その言葉にピクリと反応しつつ、ノーラは便箋へと手を伸ばした。

 かさりと封を開けると、そこには可愛らしいイラスト付きの厚めの台紙が入っており‥‥その中身に、思わずノーラは驚愕する。
「な、なんですってっ!? け、結婚!?」
「ほぉ、あの子もそんな相手がねぇ‥‥。それに比べ、お前と来たら‥‥」
「あ、あたしはいいの! それよりも、式場はあたしが準備しろって、何!?」
 バーンと突きつけた招待状の下に書かれていたのは、次の文字だった。

『なお、式場の準備はノーラさんにお任せするね? 無人島で、一番いい場所をよろしく!』

 どこから聞きつけたのだろうか、彼女はノーラが無人島を探索していることを知っており、尚且つそこからいい場所を見つけて自分達の式場を用意しろというのだ。
「‥‥あたし、いい場所も何も、あの洞窟しか知らないよぉ〜!!」
「だったら、あの場所を式場に仕立て上げればいいじゃないのか?」
「‥‥」
「ほら、ちょうど祭壇らしきものが有ったのだろ? いいじゃないか、勝手にロマンスの一つでも捏造すれば‥‥」
「そ れ ね !」


 果たして、ノーラの迷ってたどり着いた洞窟が結婚式場になれるのか?
 そして、どんなロマンスを捏造してクイーンズ記者の彼女にその気にさせるのか?
 かるーく左足を捻挫している彼女に出来るのは、とりあえず人に頼って指揮を執るくらいしか思いつかなかった。


「‥‥あの穴も、何とかしなきゃな」
 ぼそりと窓の外へ向って呟いたナットーの一言が、ノーラの耳に届いたかどうかは、わかっていない。

●参加者一覧

/ 玖堂 鷹秀(ga5346) / 百地・悠季(ga8270) / ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751) / 天(ga9852) / 紅月・焔(gb1386) / ヨグ=ニグラス(gb1949) / 冴城 アスカ(gb4188) / ソフィリア・エクセル(gb4220

●リプレイ本文

 人生のハレの日。
 その記念すべき日をどんな場所で過ごすのだろう。
 それは、如何なる者でも思い悩むのではなかろうか。
 ただ、彼女の場合は‥‥
 悩むより前に、大切な問題があったはずでは無かろうかと、あたしは思う。




 ノーラ・シャムシエル(gz0122)は土浦 真里(gz0004)の頼みにより、とある場所を彼女に相応しき舞台へと仕上げるために再び無人島へと降り立っていた。そこは、彼女が足を滑らせて見つけた洞窟。
 以前の探索によると、その中には不思議な祭壇と鍾乳石といった意外なほど神秘的な空間が用意されていた。
 それが、ノーラが彼女のハレ舞台に選んだ場所。
 そこしか見つけられなかったのは置いといたとしても、それなりに整えれば素敵な場所になる事は間違い無く。破天荒な彼女には、素敵なロマンスなど添えてあげれば、より効果的だと思ったのは確かだった。
 そして今、その手伝いに駆けつけてくれたものも居る。
 捻ってしまった足をちょっと気にしつつ。ノーラは彼らに笑顔で振り返ると、一緒に舞台を作り出す準備を始めたのであった。



「マリが結婚ねぇ‥‥素敵なのに、なるといいな」
 天(ga9852)はそういうと、そっと動き回ろうとするノーラを支える。さり気無く手を出して、捻った足を庇う様に。
「この度は婚約者が無理を言った様で申し訳ありません。せめて私がお手伝いをさせて頂こうと思い参りました、本日はよろしくお願い致します」
「き、気にしないでくださいっ! せめて顔だけあげて下さいよ」
 玖堂 鷹秀(ga5346)の改まった挨拶にノーラは慌てふためいた。確かに、真里の要求は無理矢理だったかも知れない。しかし、それをさらに適当に処理しようとしてたノーラにとってその言葉は後ろめたさを覚えずにはいられなかった。
「まぁ、ノーラだし」
 そんな彼女の横で肩を竦めながら見ているのは百地・悠季(ga8270)だった。
 悠季は手伝うに当たって今回の経緯を聞き、やはりと言った顔をしていた。
――ノーラが何時も通りに‥‥
 そうそう変わりそうにないこの年上の女性を見ていると、本当は自分より年下ではなかろうかと錯覚を覚えたくなる。
 まぁ、それだからこそ彼女の手伝いをしたくなるのかもしれないのだが。
「あたし自身はホテルの方で行いたいのだけれども、物好きも居るようだし準備は手伝ってあげるわよ」
 肩を竦めつつそう呟くと、用意に必要な材料の調達へと取り掛かった。




「ほう‥‥‥これは中々のロケーションですね、一生に一度のイベントと言う事を差し引いても滅多に体験できる事ではないでしょう、私は果報者ですね」
 洞窟の内部に入ると、玖堂は感嘆の声を漏らした。
 懐中電灯で照らすと、キラキラと鍾乳石につたう水が反射してより幻想的になっていた。
「結婚式場‥‥我ながら似合わないなー」
 ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)はそう呟くと、大きな袋を持ち運ぶ。カチャカチャと鳴り響くその中には、数々のランタンが入っていて。
「リュー兄のも持ってきたんだ」
 そういいながら、ゴソゴソと取り出していた。
「〜♪」
 横ではヨグ=ニグラス(gb1949)も大事そうに袋を一つ抱えていた。冴城 アスカ(gb4188)は長椅子や十字架の搬入をしつつ。
「しかし、あれが手に入らなかったのは残念ね」
 冴城の言葉に、ヨグは悲しそうな目で頷く。
「はいですー。伯爵さんなら何とかしてくれそうだと思ったのですがー」
 ぎゅっと袋を握り締め、だけどキラキラと輝かせるように顔を上げた。
「でもっ! でもですっ! 代わりの子達が、ここにいるとです!」
 ふわっと空けた袋の中を覗きこむ。
 そして、それを見た冴城も、笑顔を返す。
「これは‥‥良いできねっ!」
 それじゃ、私は檻でも作らないとねと、つなぎの袖を巻くり上げ、喜々として材料を取りに行った。


「結婚式だ? ‥‥独身貴族のこのあたいが‥‥式準備だと!?」
 洞窟に到着して早々、ガスマスクを被りながら紅月・焔(gb1386)は呟いていた。
 何故だか、おどろおどろしい気配を振り巻きつつ、スコースコーと息が漏れる。
 スチャッと構えたライフルを肩に担ぎ、ぶらぶらと歩いているところに、ソフィリア・エクセル(gb4220)が鋭い視線で切り返していた。
「何をしていらっしゃるんです? ここ押さえて下さい」
「‥‥は、はい」
 意外と低姿勢なのは、気のせいではないだろう。
「仕方ねぇ‥‥世話になったからな‥‥準備をするとするか‥‥羨ましくは無いけどネ‥‥羨ましくは無いけどネ!」
 ソフィリアに言われた場所を押さえつつ、焔は二度同じ事を呟く。そう二度。
 羨ましいのか‥‥が、がんばれ。



 着々と用意されていく全体を眺めつつ、ノーラは横で最後の仕上げとばかりに針を動かす天を見ていた。手元にあるのは、柔らかな淡い色のレースやリボンたちで。会場のあちこちを飾り立てたり、ぬいぐるみにあしらったりしているもので。
 先程まで手伝おうと頑張っていたのだが、あまりにも指に絆創膏が増えて、そして淡い色に血の付くのを恐れたのだが、すいすいといく天の手元を見ると、溜息をつきたくなる。その視線に気付いたのか、天は静かに微笑み返して。
 後ろではソフィリアが一生懸命何かを書き上げている。ブツブツと声に出す内容は、どうやら真里へとたきつけるようで‥‥
「それは昔々のことでした‥‥」

<ソフィリアによる伝説>

 この海域には海を自在に操れる海神がいたのです。
 人々は海神の怒りに触れぬよう、一人の巫女を海神へと差し出すべく、この島に送り込みました。
 巫女の少女は透き通る歌声と綺麗な髪を持ち、まるで女神のようでした。巫女は毎日海神の為に尽くし、海神もそれに応えるように、彼女の為に地下へ祭殿を作り始めたのです。
 しかし、海神の力は海で発揮できるものであり、陸での力の浪費は彼にとって命取りとなるのでした。美しく煌く祭殿が完成した頃にはすっかりと衰弱してしまうのでした。
 巫女は海神に、神としての力を捨て、人間になるように勧めました。海神は快諾し、人間となり、完成した祭殿で二人きりの結婚式を行い、誰も知らぬ土地で末永く幸せにくらしたそうです。
 以来この祭殿は身分や人種を越えた愛の聖地として、主に貴族の間で伝説の場所となったのでした‥‥

 なんとも、綺麗に作ったものだと感心しつつ、書き終えたものを受け取る。
 これを真里へと添えてやれば、十中八九、飛びつくこと間違い無しだろう。
 そんな事を思いつつ、笑顔を交わすノーラとソフィリアだった。



「んー、休憩用にワイン置いとくですよ?」
 ヨグがテーブルの上にワインを置くと、ノーラの喉がごくりとなった。
「‥‥だめだ」
 そんな彼女の様子をに軽く溜息を吐きつつ、天はこつんと頭に手をやる。
 悪戯が見つかった子供のようにノーラは舌を出していた。
 ヨグは黙々と赤い絨毯をグルグルと敷いていた。それは結婚式には欠かせないヴァージンロードで。段々と出来上がる式場の中で、並々ならぬ存在を見せていた。

「伯父様、お願いしても良いかしら?」
 ソフィリアが裁縫を終えた天に声をかけてきた。どうやら、前回見つけたワニキメラの生息地へといくのだという。
 軽く承諾をすると、ノーラにあまりちょろちょろしないようにと、釘をさす事を忘れなかった。傍に居る悠季に声をかけ、彼女の事を頼むとソフィリアに続くように洞窟奥へと姿を消していった。




 祭壇に用意されたのは、大理石かと見紛う程に着色された一つのフィギュア像で。
 玖堂は、自分の目を疑った。
「‥‥これは、なんですか?」
 出来るだけ平静を装い、置いたであろう二人に問いかける。
「ん? 愛の女神像よ」
 凄いだろーと、冴城はにこやかに返して来る。
「これはどんなに強力なウィルスでも、シャットアウトしてしまう健康の女神だとか何とかなのです。なんでも顔面に凄い御利益があるらしいですー。鷹秀さんは傭兵ですし、真里さんは記者ですし、やっぱりお互い健康でいたほうが嬉しいと思うのですっ!」
 得意満面の顔で、ヨグは玖堂にコクコクと説明をする。
 確かに、真里だったらこの言葉に納得してすごいと言うだろう。
 何よりも、『他には?』と、聞き返す姿が目に浮かぶ。
「‥‥出来るだけ、普通の式にさせてくださいね‥‥」
 がっくりと肩を落としつつ、その一言を残して玖堂は自分の作業へと帰っていったのだった。 

 ソフィリアの提案により、ワニキメラの生息地へと赴いた天は、そこでノーラが落ちてきたという穴も見ることとなった。そこに、ソフィリアは装飾を施していく。先立って地上からロープで結んだ網を被せて置いた所に、そっと看板を用意して。
 そこには『海神の雄たけび』と、書かれていた。



「いやいや‥‥素敵な会場になりそうですな‥‥」
 悠季とノーラが最後の仕上げとばかりに祭壇の飾り付けをしていると、そこに焔が現れる。いつものガスマスクを外し、少しだけ精悍な顔を見せながら。
「ほんと、皆のおかげね」
 にっこり微笑むノーラに対し、心の中で『萌え!』とか叫んでそうだが、表情はいたってクールに引き締まったままだ。

「軽く僕と結婚してみませんカナ?」
 さり気無く、祭壇に腰掛ける用に作業をする二人に微笑みかけてみる焔。
 ここで、まさかの!?
「あたし、もうすぐ嫁ぐもの」
 何を言ってるのかしらと、悠季は肩を竦めながらさらりとかわす。しかし横で作業をしていたノーラ、きょとりとした表情で首を傾げていた。
 すかさず作業中の手を取りつつ、跪きながら焔は言葉を続けてみた。
「リハーサルも必要そうだから、ちょっと軽く僕と結婚してみませんカナ?」
 視線を合わせて、じっと強く見つめながら。
「いや、ノーラは俺のだから」
 不意に軽い衝撃を頭に、そして視線の先が消えたと思った。すらっと伸びた足に、ブーツが目に入る。
 そっと見上げると対象は上へとあげられていて。視線があった相手は天だった。
 爽やかな笑顔で、ノーラを抱き上げているものの、何故か目が笑っていない。
 びくりと何かを感じ取りつつ、焔はその場に固まった。
 いきなり抱き上げられたノーラは赤面しており、それを見た悠季はくすりと笑って耳元で一言。
「あたしは一足先に嫁ぐけど、ノーラのも楽しみね」
 その言葉に、天とノーラは二人そろって耳まで赤く仕上がっていた。

 焔を無視しながら、天はそのままノーラを抱え、すっかり整ったベンチへと降ろした。
 まだそわそわとした彼女を苦笑しつつ撫で上げ、
「ノーラ、マリの式出るのか?」
 出るのなら、俺も出ようと思ってるんだがと続ける。
「え? 出なきゃダメなの?」
――案の定。
 そんな言葉が浮かびつつ、ノーラへと届いた招待状を良く見るようにと。
「呼ばれてるんだろ‥‥出なさい。最後まで見届けなきゃ」
「‥‥はぁい」
 ぷぅーっと膨れる様子に苦笑しながら、何を着てこうかなぁと考え始めていた。



 一方でワニキメラを討伐し、天に頼んで運んでもらったソフィリアはヨグに冴城、ユーリと共に他のキメラ肉を含め調理をしていた。
 出来上がったのはから揚げやステーキなど様々な品々で、新郎予定の玖堂を引っ張り込んで、にこやかに試食の席へと着いていたりする。
「やっぱりこのワニキメラ‥‥おいしいですわね」
 ステーキに仕上げたワニキメラに舌鼓を打ちつつ、満足気なソフィリア。
「うん、この料理、式にも出したらどうだい? マリ、喜ぶかと」
 ユーリも美味しいよねと、自慢の腕を振るって用意した者達に手を伸ばしていく。
「いや‥‥普通のもので‥‥」
――普通の食材の方が、どれだけありがたいか‥‥
 そんな事を呟きながら、席へと無理やり着かされた玖堂は目の前に広げられる料理に手をつけるのを少し躊躇っていた。
「よし、式の前にマリにも食わせてから決めような!」
 生き生きと語るユーリに、他の者達もうんうんと相槌を打っていた。
「ですです♪」
 そして、僕はデザートにプリンを食べるのですっ! と、ヨグは来る時にノーラを通じて探偵事務所に頼んでおいたプリンを食べていた。
「‥‥お願いだから、普通の式を挙げさせてくれぇぇぇぇぇ!!!!」
 玖堂の悲しい叫びは、彼らを通り越し、洞窟内へと吸い込まれていくだけであったのだった。




「自分の手で飾りつけをした式場で結婚式を挙げるというのも乙な話、本番が楽しみです」
 先程までキメラを食べさせられていたものの、そこは気持ちを切り替えられるほどの素敵な出来上がりが目の前に広がっていた。
 薄らと浮かび上がるのは、数々のランタンによって照らし出された鍾乳石で。
 滴る水がキラキラと反射をし、淡さの中にきらめきを与えている。
 華美ではないが、厳かでもなく。
 だからといって、しっとりとするわけでもない。
 所々にちらばめられたフリルのリボンが、淡い花々と一緒に柔らかな空間を作り上げており。壁際周辺に張り巡らされたロープは万が一の安全に備えてという心遣いも見受けられた。
 真っ赤なヴァージンロードに合わせる様に、白いベンチが整然と並べられ。その端には、可愛らしいぬいぐるみが大小さまざまな大きさでアクセントとなって置かれていた。
 固定された懐中電灯が花々の下から足元を照らし出し、綺麗な光の線を描き出していた。入り口に備えられたのは、歓迎を示すクマのカップル。
 白いクマはきっちりとしたタキシードに赤いタイをつけ、茶色のクマはフリルをたっぷりとあしらった白いウェディングドレスに身を包み、手には可愛らしいピンク色のブーケを持っており。間には、本番にメッセージが書かれるであろうボードが置かれていた。
 奥のほうに、なにやら檻らしき物が見えるけれども‥‥
 祭壇の上に、何故か威厳に満ちた女性像が降臨しているけれども‥‥
 そんな事は目を瞑ろう、玖堂はそう自分に言い聞かせていた。
 そう、一部は大変変わっているかもしれない。変わっているかもしれないが、それは、彼の最愛の人、破天荒な彼女の式場なのだ。仕方あるまいと、眼鏡を正しつつ、軽く溜息をつく。




「‥‥俺も何かやらんとか‥‥」
 そう呟いた焔は、徐に被っていたガスマスクを取り外し、こっそりと置いていた。
「‥‥ふっ、このガスマスクに祈りを捧げるものは、もれなく萌えーっと叫んでのた打ち回ることだろう‥‥」
 去り際にそんな事を囁いて。
 そしてまた一つ、この島には変なスポットが誕生‥‥するはずは無かった。