●リプレイ本文
「護衛‥‥ですか。そんなに大人物なのでしょうか、その人は‥‥」
本部から渡された現状の資料に目を通し、キリト・S・アイリス(
ga4536)は疑問を口にした。
「ただ単に研究熱心ていうだけのマッドサイエンティストかも知れない感ばっちり」
月森 花(
ga0053)が銃の手入れをしつつ笑った。
「それ、あるかも」
獄門・Y・グナイゼナウ(
ga1166)も思わず笑ってしまう。
「でも、気になりますよね? どのような研究をしているかが‥‥」
四条 巴(
ga4246)が弓の糸を確かめつつ答えた。
「そう? 私は興味ないね。何故狙われているのにそこまで研究に当たるのかなんて、さらに理解不能だよ」
手にしている資料を折り紙のように扱いながら、ナレイン・フェルド(
ga0506)は答える。それに対してクロード(
ga0179)は刀を胸に抱えながら力強く答える。
「私‥‥気になる‥‥でも、その前に‥‥護る」
「そうだね、とりあえずバグアから護らなきゃね」
不破 梓(
ga3236)の言葉に村田シンジ(
ga2146)が全員に告げた。
「それでは今回の任務の作戦なのだが‥‥」
本部から貸し出しを求めたのは無線機のみであった。今回は本部の方でも任務に力が入っているのか、最新式のヘッドレスタイプ無線機が各一人ずつに対して配られていた。各々装着して音声の具合を確かめる。
任務遂行にあたりとった作戦はチームを4つに分けての行動。遊撃隊(クロード、ナレイン)、集落防衛(月森、村田)、老人警護(獄門、キリト)、そして遅発部隊(不破、四条)へとなった。先の3部隊は先行部隊として集落へと出発。やや遅れて遅発部隊が出発した。
集落までの道のりでは怪しい所は見られず、やはり敵陣営は反対側、つまり護衛すべき老人の家の周辺に展開されていることが伺える。本部から派遣されている警備員とはすぐに落ち合うことが出来た。集落の人たちには先に避難してくれるよう頼んである。すでにその確認を終え、中央付近に一人を残し、他は先に見つけたバグアの方を警戒に当たっているとの事だ。
すばやく現在の状況を聞きだす。
用意されたのは簡易的な手書きの地図だった。
「見張りの警護員との連絡は無線機の、周波数5番にて取る事ができます。現在待機しているのはここと‥‥ここ。それぞれの地点でキメラが見受けられるとの報告が入ってます。今回の護衛対象、ミハイル氏の家ですが‥‥ちょうどこの丸の辺りとなりますので‥‥はい。今現在は上部の居住スペースにて警備員が、ミハイル氏本人は地下の研究スペースに引っ込んでいるようです。バグア側の動きはいまだ視られていないとの報告ではありますが、それも時間の問題かと‥‥丁度両側にある森の方から展開されると見られます」
警備員が地図を元に説明を進めてくれた。バグア側の陣営と思われる場所が書き込まれていく。
「集落へ対しての危険性はどのくらいなのでしょう」
「そうですね‥‥以前までのデーターを基に考えますと、全部が全部ミハイル氏宅には向かわないと思います。この村は何度か襲撃にあっていることや、ミハイル氏の影響なのでしょうか、区域ごとに地下シェルターが用意されています。現在住民の方々にはそこに集まっていただいているので、万が一襲われる事になりましても住民への被害はないと考えていいです」
「こちら側に来ないようには気をつけるが‥‥少々派手にやっても問題ないって事だな」「あ‥‥でも、なるべく戦闘は‥‥」
「わかってるよ〜大丈夫! 君たちも頑張ろうね」
「は、はい! 最善を尽くします」
警備員からの情報を手に、作戦を展開する事になった。警備員にはそのまま集落の警護についてもらうことにし、一同動き始める事になった。
集まった情報を基にまずは遊撃班、クロードとナレインが覚醒しながら出撃した。狙うポイント的には集落に一番近い東の森に築かれた部隊だった。
見張りとなっている警備員からはいまだ敵の動きはないとのこと。先手必勝とばかりに二人は急いだ。木陰に身を隠しながら素早く走る。
無事警護員との合流は成功した。敵陣営はすぐそこに築かれていた。
「ここからでも確認できる場所にいるわね〜、少し暴れてきましょう? ね、クロードちゃん」
ナレインは双眼鏡で様子を見つつ口が柔和に笑みを作った。覗かれる瞳は輝いている。
「迷ったら鈍る‥‥だから‥‥迷わない」
言葉と共に瞳に確たる力が宿る。クロードは刀の鍔を返していた。
敵陣営は指揮官であろう構成員と狼型のキメラが数匹。相手側から死角となっていた木陰より二人は一気に中心部へと動いた。クロードが呼笛を鳴らしながら刀を横切った。呼笛の音で振り向いたキメラがその刃により大きなダメージが入る。すかさずそこにナレインの強蹴がきれいに腹部へと入る。その身が地面へと沈み、立ち上がろうとしたところ、再びクロードの刀が翻る。刀はキメラの胸部へと深く吸い込まれ、片足でその身を押さえ一気に引き抜きながら空へと叫んだ。
「兵法『窮修流』丸目蔵人、参る!」
呼笛が鳴った頃、集落防衛部隊である月森と村田は、集落と家との狭間にある高台へと向かっていた。もともと集落全体の防衛にと建てられていただろう見張り台がそこにあるという。狙撃ポイントとして有効に使えるだろうと判断したのであった。
「丁度近くに潜んでいる敵兵がいるらしいな。指揮官はやる。月森はキメラの押さえを頼む」
村田が先ほど得た情報を高台から眺めてみる。
「えっと‥‥ここから狙うとなると‥‥OK。射程距離内に入るようだから、ここから援護します」
月森はすかさず距離を見定める。
「この期に及んで人間同士戦うことになるとは‥‥」
くっと顔をしかめて拳を胸であわせると、村田は月森を高台にひとり残し森の木陰に身を潜ませた。
上から見ると森の内部も透けて見える。
気づいてないのだろう、敵陣営は上空からは無防備で開けた場所に陣営を築いていた。敵は指揮官一人に対し狼キメラが数匹‥‥反対の森側で鳴り響いた呼笛の音により意識がそちらへと集中しているのだろう、キメラが落ち着かないのを指揮官が盛んに怒声を響き渡らせていた。その音とは反対側にまわるように村田は身を沈め移動していた。
月森が村田の位置を双眼鏡で確認する。村田から合図が上がった。
「さてと‥‥始めようか」
月森の雰囲気が一変する。瞳が金色へと、銃を構える腕も仄かに光りだした。マフラーが風によって靡くのを感じながら、容赦なくキメラへと銃弾が打ち込まれていく。
合図を送った後、村田は構成員へと狙いを定め背後から首筋に一撃を落としていた。周りには月森の弾丸を浴びたキメラが混乱をきたし暴れまわる。闇雲に走り回るキメラに対し次々と拳を腹部や鼻先へと叩きつけていた。それに対し月森が打ち込んだ場所は脚。二人の華麗なる連携により次々と身を地面へと沈ませていた。
老人護衛部隊の二人は道なりにそのまま家へと向かっていた。あいにく警備員たちから得ていた情報は先の2件のみ。他のルートについてはわかっていないのだ。怖いのはきっと集落の反対、つまり家の裏手側であろう。そこについては情報が何一つもない。
とりあえずとばかりに足早に家へと向かう。
呼笛が鳴る。
遊撃部隊の行動が開始したのだ。その音が聞こえると同時に二人の足はもっと速まっていた。遊撃部隊の目的は囮・陽動。その隙に目的であるミハイル氏の護衛に着くことがこの部隊の目的だった。
「とりあえずは現地に急がねば‥‥」
獄門の言葉にキリトはうなずく。その表情は苦悶に満ちていた。
現場へと着くと警備員が家内へと招いてくれた。現状を聞く。
建物内から視られるのは2階部分の書斎。そこから裏の森が見られる形となっていた。 裏手側にあるのは台所から通じている一つの扉。そこに薄く引かれたカーテンの隙間からも様子が見えるのだという。キリトはとりあえず2階部分からある程度状況の確認にまわる事にした。それに伴い警備員が裏手口のドアから様子を伺う。獄門は一人地下の研究室スペースへと向かう事にした。
暖炉かと思った場所を通り、地下へと続く階段を下りる。そして下りついた先には地下とは思えない明るさと、何よりも驚くばかりの広々とした空間だった。
「誰じゃ、ここまで来たのは」
ふと辺りを見回していると背後から声がかけられた。その人物こそ今回の護衛対象者、ミハイル・セバラブルその人であった。
しゃんと伸ばされた背筋、通る低音ボイス。黒々‥‥とは言えないものの、きちんと整えられている髪は幾筋もの白と黒のストライプが織り成しており、とても齢が半世紀以上過ぎたものには見受けられなかった。
「何奴だ? ここはワシの研究所と知ってのことか?」
「あ、はい。こちら今回UPC本部より貴殿の護衛任務を授かった獄門・Y・グナイゼナウといいますが‥‥」
「堅苦しい話は良い。わしの研究さえ邪魔しなければいても構わんわい」
「あ‥‥その、ミハイル氏は何の研究を‥‥」
「知りたきゃバグアどもを追っ払ってからにしろ!」
「え‥‥そ、その‥‥、ここにこだわる要因は‥‥」
「それだって、おのずとわかるわい!!」
「い、一番重要なものは何ですか!?」
「そんなの、そこにあるレシピの入ったPCとここにある実験機器全部だわい!」
(う‥‥全部なんてとても短時間じゃ運び出せない‥‥)
鉄火面といわれるのが幸いしたのか、獄門の表情からはどれだけ不可解な思いが展開されているのか、伺い知ることができなかった。
不破と四条の遅発部隊は呼笛が鳴る頃に集落へと到達していた。情報は無線機を通じて得ている。片や警備員が伝える戦況報告を聞き、片やこれから始まるであろう老人周辺の防衛情報を耳にしていた。どこが不利であるのか‥‥そこを補う事が目的である。
「巴、本陣が手薄のようだ」
「はい、不破さん」
家への道へと足を急がせた。
「出来ることなら人間相手に戦いたくはないが‥‥やむを得ないのであれば、手加減する理由はない。‥‥こちらも死ぬわけにはいかんからな」
「護るべき‥‥人、そして‥‥敵も‥‥人、ひと、ヒト‥‥」
「巴?」
「不破さん‥‥いえ、大丈夫です。頑張りましょうね」
「あぁ、無理はするなよ」
不破は四条の様子を伺いつつ情報に耳を傾けた。キリトからの報告によると敵陣営は指揮官らしき人物がキメラを抑制しつつ進んできているとの事だ。もう半刻ほどで戦闘は始まる。その部隊の後ろにもどうやら別部隊がいるようである。
先発部隊のほうからの応援は難しそうだった。遊撃隊のほうには派手に動いたのが効いたのか次々とキメラが集まっているようだった。それを倒しながら前へと進んできている。集落防衛部隊の方では少し遊撃隊のほうにキメラが流れたものの、先ほど上から射撃していた月森が村田と合流し、前へと進みながらの戦闘へと第二段階の行動に変化していた。こちらは先に指揮官をつぶしただけあり、まるで統率が取れていない。そこを隙と見、次から次へと拳を、もしくは弾丸が繰り出されていた。
キリトは裏手側の森に動きを見た。すぐに連絡を取る。
「敵陣に出動気配を把握しました。先陣はキメラ部隊。後ろ側に構成員と思わしき人員部隊が見受けられます」
『今そちらに向かっている』
不破が答えた。
『こちらはもう一踏ん張り‥‥かな〜。クロードちゃん、頑張りましょうね〜』
ナレインが息を弾ませながら答えていた。
『えっと‥‥こちらも片が付きました。シンジさん移動しましょう』
『ああ。構成員は気絶させてる。縄で巻いておいとくぞ』
月森と村田が合流意思を語った。
キリトは階下に降りると警備員に上からの見張りを頼み、自ら裏手口にて見張りに立つ。まだここからではキメラの動きは見られない。そこに地下で老人のそばにいた獄門が傍に来た。
「まだこちらからは見えない‥‥そんなとこかな?」
「えぇ」
キリトは銃口を戸口に構えながら答える。
「先に来るは‥‥キメラか」
その様子に獄門は今再び老人の元へと向かった。
『到着した、サイドより裏手側にまわる』
不破が発したその声と同時に上部から見ていた警備員からの連絡が入った。
『敵陣営、展開開始。キメラ部隊は指揮官除き狼キメラが2匹。なお、その後ろに4人ほどの構成員らしき人員が銃を片手に前進しています』
「最初は人間は無視しろ、キメラに攻撃を集中させるんだ。‥‥巴、背中は任せるぞ」
そう言い放つと不破は森から出てきたキメラに向かって突き進む。
ジャケットを脱ぎ捨てると、両腕がたちまち赤くなり、続いて肩からは鎧の肩当のようなものが黒く覆っていた。それに続く四条の手には、矢を従えた弓がいつ放たれてもいいように眠っていた。
キメラに容赦なく不破の拳が襲い掛かる。口をあけ襲いかかろうとするところ、体制を鎮め内側からの強い突きを放った。空を舞うとき、四条の放った矢が脚へと貫いた。
『バグア陣営が引き上げます! 撤退していくようです!』
上の階で見張っていた警備員から連絡が入った。どうやら防衛は成功したようである。 広がったキメラの血を振り払うようにクロードは刀を払った。
「これで終わりか」
「そうみたいですね」
村田と月森を初めとして、一同が老人、ミハイル氏の下に集まっていた。
「おじいちゃん、研究もいいけど、もう少し外を見るのも大事だよ」
ナレインが苦笑をしつつ話しかける。
「それで‥‥老師は何を作っているのか」
獄門が疑問をぶつけていた。
「ふん、えらく知りたがるのう。まぁ良いじゃろう。ワシの国では幼い者でも必需品だという輩も居ろうが‥‥お前たちの中では早々必要性もないようじゃな」
「っと、いうと?」
月森が喰いついた。
「なぁに、年末年始に必要不可欠!! しかもUPC本部にはお得意様満載じゃ。このミハイル特性スペシャルドリンクを飲めばどんな二日酔いでも一瞬に醒める! お前さんたちパイロットには必需品間違いなかろう!」
「た、確かに‥‥」
不破は思わず唸ってしまう。
「原材料‥‥取れない‥‥仕方ない‥‥」
クロードが考えるようにつぶやく。
「ん? ここでしか取れないとは言うとらんが。ここで栽培しておるから新鮮な材料がすべて手に入りやすい、離れない理由などそれだけじゃ。ふぉっふぉっふぉ‥‥それにワシとて昔は‥‥」
ミハイルの饒舌はとまらない、何かスイッチが入ったようであった。
「‥‥偉く話し出したら止まらない爺さんじゃないか‥‥」
「もしかして‥‥派遣されている人たちがここで守護しないのって‥‥」
「爺さんが断っている‥‥て言うのではなく、このおしゃべりが原因かもしれない‥‥ってことだな」
思わず天を仰ぐ形となった一幕の終わりだった。