●リプレイ本文
ソフィリア・エクセル(
gb4220)はゆっくりと舞台の上から振り返った。
今宵で最後。
そう思いつつ、何故か晴れやかな気持ちで満たされている。
彼女にとって、アイドル活動と言う期間は短かった。まして、致命的な欠陥の持ち主でもあった。並大抵の苦労では、ここまであがってこれなかったと思う。
しかし、その活動も今宵で終わり。
一瞬、鼻の奥がつーんとしたけど、ふるふると首を振るう。
もう、決めたのだ。後には引けない。
星達が力を貸してくれている、今夜。
――私にも力を貸してくださいませ。
そっと天に祈りつつ、正面を見据えた彼女は輝きを放っていた。
◇
濃紺にふわりと鬼灯がオレンジ色に浮かんでいた。その色に合わせたかのような薄紅色の帯がさらに高揚感を高めさせる。ベル(
ga0924)は今、勇気を出して水上・未早(
ga0049)を誘ったことを悦んでいた。付き合い始めて既に一年が経とうとしている。
あまり派手な事が好きでない未早も、そしてシャイなベルも中々進展が難しい。だが、この機会に切っ掛けを作れたことは二人にとって何かが起きるかもしれない、そんな期待に胸を震わせていた。
月森 花(
ga0053)はいつもと違って少しだけ背伸びをしていた。
こんな機会、めったに無いから。
――今日は宗太郎君の方から誘ってくれた。
それだけで、何故だろうか。動悸がいつも以上に激しい。隣に居る宗太郎=シルエイト(
ga4261)を見ると、視線が合う。そっと、髪形を崩さないように撫上げられることが嬉しくて。微笑が零れていた。彼は気付いてくれただろうか。贈り物の髪留めに。
ゆっくりと合わせて歩いてくれる、そんな事にも喜びを噛み締めつつ。花は笹に飾る願い事を、必死に短冊に書き連ねていた。
レーゲン・シュナイダー(
ga4458)は偶然にも出会えた幼馴染に驚きを隠しきれず、しかし同時に悦びもまた一入であった。黒髪の、ちょっと奇抜なファッションに身を包む少女、エイミー・H・メイヤー(
gb5994)。LHに来てから知り合った友人とは違う、幼少から知っている子で。まさか、彼女までもが能力者として現れるとは思っていなかった。しかし、今は純粋に喜びを感じる。こんな時代だから。
愛おしい者が、そこに居る。逢える。そのことにそっと感謝する。
この暫しの星達の元での集いも、感謝する。素敵な時間‥‥どんな時も、こんな時間が持てるということに感謝をする。
切っ掛けをくれた金髪の探偵は、何やら少し思いつめた顔をしていた。
以前関わった童話の御礼をしようと思ったのだが、何故か言葉に詰まる。ロジー・ビィ(
ga1031)たちと挨拶を交わす彼女を見ても、次の瞬間何やら考え込んだ顔になるのが気にかかりつつ、聞けない距離が少し悲しかった。先ほど、ジングルス・メル(
gb1062)と逢った時に自分を心配された。『レグの寂しさが癒えるなら‥‥』そう言ってくれた彼は、大切な仲良しな友達で。
そんな人たちがたくさん居ることに幸せを感じる。だから、今宵書いた願い事はいつもと違っていた。
『大好きなひとたちが皆しあわせになれますように』
まだ、稚い字だけれども。真心だけはいっぱい篭っているから。だから、どうか叶うといいなと、願いをこめながら。
「ノーラさん、カワイイデスよ、ノーラさん♪」
何やらご機嫌そうに歌いながら近付いてくるのは赤霧・連(
ga0668)だった。情報だけを提供している依頼にていつもノーラをからかっている‥‥そんな事はないだろうが、関わりはある人物に少し苦虫を噛み潰したような笑みで返す。隣に一緒にいた棗・健太郎(
ga1086)はノーラのその表情と、赤霧の挨拶に小首を傾げつつ、ついついにやりとした表情を浮かべた。なんとも子供らしい笑みではあるのだが、それはある種の恐怖を引き起こしてくれ、ノーラの額には冷や汗が浮かんでいた。
「ケーキ食ってばかりじゃ、ふとるよー」
余計なお世話だとばかりに、つーんとそっぽを向くと、すっとそちら側に先回りをして、続けて聞いてきた。
「で、うまくいってるの?」
突然の質問に、思わず絶句する。途端に赤く染める頬を見るとどうやら順調のようで。そんな様子に尚更棗はニヤニヤとした笑いを止めなかった。
そんなやり取りを、赤霧はニコニコと見つめていた。ノーラの態度に満足したのだろうか、棗は赤霧の方を向き直すと、そっと赤霧の浴衣の袖を掴んだ。
「れ、連姉ちゃん」
その様子にそっと笑みを返しながら、赤霧は頭を下げて。棗と共に笹を飾る方へと移っていった。
居なくなった事にそっと胸を撫で下ろすと、ポスっと後ろから抱きつかれる。
百地・悠季(
ga8270)だった。
「着崩れてるわよ」
そう言って物陰に行くと、そっと直してくれる。直した様子に満足するように眺めると、ノーラを見つけたのか天(
ga9852)がやってきた。涼しげに半袖となった彼はいつもよりさらに若く見え、サラサラとした髪を一つに結んでいる様子もまたちょっと違った雰囲気を醸し出していた。送った浴衣に身を包むノーラの姿に嬉しそうに微笑む天、そして頬を染めるノーラ。その様子に悠季は彼女と出会った当初を思い出した。まだ、何もかもわかろうとしていなかった時を。でも、天の傍でほんのりと幸せそうに微笑む様子を見て、
「まぁ、相手が出来たのは良い事よね」
そう囃したて、ヒラヒラと手を振り去って行ってしまった。
「七夕か‥‥8月にやるところもあるんだな」
ブレイズ・カーディナル(
ga1851)の呟きにジーラ(
ga0077)は不思議そうに見上げる。
「ん? 七夕を知らないのか?」
「ボクよく知らなくて、よかったら教えて欲しいかな」
こくりと頷くジーラにブレイズは歯を見せて笑いながら、空を指差し説明を始めた。
空には煌めく星達が幾重にも重なって見え、そこには星の川が出来ていて。その川を天の川。ミルキーウェイと呼ぶもので。そんな事を取り上げながら、ブレイズはジーラへと説明をしていた。
「‥‥てなわけで、織姫と彦星が一年に一回だけ天の川を渡って会えるのがこの七夕。ちょっと想像つかないよな、一年に一回しか会えないってのは」
「ロマンチックだね」
「あぁ、それにそれでも待ち続けて逢いたいと思い合える相手がいるってのは、少し羨ましいかもな」
「うん。想いあえる人が居るのは羨ましいことかも。ちょっと残酷でもあるけど‥‥」
しんみりとした空気が、二人の間を流れた。何となくうずく気持ち、そして恥ずかしい気持ち。それを打ち破ったのは‥‥。
「‥‥なんてな、俺には似合わないセリフだったな」
ガシャガシャと髪を掻き毟りつつ、ブレイズが声高々に話し出す。そんな様子に、ジーラは少し笑みを浮かべていた。
不知火真琴(
ga7201)と共に参加した叢雲(
ga2494)は知人への挨拶を交わしていた。動き回る真琴から離れないように、苦笑しながらではあるが。
途中何やら思いつめた様子のロジーに逢うと、真琴は断りを入れ、二人きりとなって席を外した。
「ムラクモー☆」
ジグはそんな叢雲を見つけるとパタパタと駆け寄り抱きついてきた。それをにこやかに受け止めつつ、そっと手に持っていた包みを見せると、ジグの瞳が輝きだす。
包みを開けると、そこには叢雲の手作りのお団子が入っていた。
にっこりと微笑み返すと、キョロキョロとあたりを見回しちょうど茶屋の前に座れる場所を見つける。ジグはまるでスキップをするように叢雲を引っ張ってそこで腰を落ち着けたのだった。
少し離れた場所に何やら場違いな男がいた。その男は、タキシードに身を包み、そして胸には薔薇を‥‥ではなく、大きな向日葵を挿していた。遠くから見ても何やら違和感を感じる膨張具合は彼のシンボル、ビン牛乳をあちこちに隠しているため。そう、彼は翠の肥満(
ga2348)。一人、ちょっと涙目になりつつ見守るのはこの七夕を楽しむために集まったカップル達。何処か他にも『相手』がいない人がいないかと見渡すも、それはそれで手ごわい相手ばかりで。先ほどもハンナや朧に声をかけてみたが冷たい視線とお言葉に阻まれてしまっていた。
「僕達も楽しいね? HAHAHA‥‥」
そう言って取り出したのはオリム大将のフィギュアで。それに向かって微笑む大変変な人の姿を、遠くからエイミーは近寄られる事を警戒しつつレグの傍を離れようとしなかった。
「真琴‥‥? 心配おかけしましたの」
ロジーは二人きりになると、そっと彼女に抱きついていた。そんなロジーの背中をゆっくりとあやしながら、真琴は語りだすのを待つ。
ぽつりぽつりと語りだしたのは憂いを帯びた顔の原因たち。言葉による失態や、気持ちの擦れ違い、そして救えなかった命の話。
「‥‥真琴にお手紙貰った事、嬉しかったのですよ」
不意に上げた顔は、零した言葉の分だけ強くなって。真琴はただ静かに耳を傾けている。
「今夜、この星空の下で真琴にお話を聞いてもらって良かったですわ」
空を見上げた彼女の顔は、笑顔が零れ落ちていた。
「‥‥明日からの‥‥いいえ、今からのあたしはきっと『あたし』で居られましてよ」
いつものように、茶目っ気たっぷりのウィンクを繰り出したロジー。もう彼女は大丈夫そうだ。
「いつも頑張ってる事、うちは知ってるつもりですから」
その言葉に、ロジーは「ありがとう」と呟いていた。
◇
「よいしょっと‥‥」
『用意されたヤツだけじゃつまんねぇからな』そう言って武藤 煉(
gb1042)はわざわざ取り寄せておいた笹を担いで持ってきていた。それは、賑やかな場所を嫌う友人のため。ちょっとした気遣い。
先ほど、笹を持ってくる途中でジグにあったことを思い出す。
元相棒の彼は、「ヤキモチ焼きにゃ、辛いぞ?」そんな謎の一言を煉に残していた。少し、切ない顔をして。
こっそりと人気のない静かな場所を見つけると、そこに笹を立てる。
そんな様子を少し楽しそうに見守るエルファブラ・A・A(
gb3451)に煉は願いでも書いてみろと真っ白の短冊を渡した。
「ふむ‥‥何を書くかね。あとこれはドイツ語でもいいのだろうか」
そんな疑問に「何語でも通じるだろーよ」と軽く笑って、自ら先に短冊をかける。
その短冊は真っ白で。
――自分は願い事をする歳でも、そんなタマでもない。
彼なりのスタイルであった。その様子に、エルファブラはにやりとしつつ。
「『バンダナ猪に幸あれ』こんな感じだろうか?」
と尋ねてきた。
「俺は猪じゃねー!!」
「‥‥冗談に決まっておろう」
そんなやり取りをしつつ短冊を捧げた笹を見守り、いつしか地面へと座り込んで夜空を見上げていた。
百地はそっと短冊を吊るす。
『周りの皆が何時までも健やかで居られます様に』
ふと思い出すのは、何一つ出来ないと痛感した時期に差し伸ばされた手。それが今彼女にとって大切な、かけがえのない人であり、生涯を誓った人で
その手を最初に取りつつ、だからといって他の人への感謝を忘れたわけではない。
――ずっとこうして騒げたら、それだけでずっと幸せになったままであって欲しいな。
願いを込めた短冊は、笹に括られた。
赤霧と共に棗は嬉しそうに笹に短冊を吊るしていた。
『連姉ちゃんと一緒に居られますように』
そう願いを込めて。その横で赤霧は、『来年も再来年も一緒に笑顔で暮らせますように!』と掲げる。
――放課後クラブの皆、依頼であった人たちに笑顔を。そして‥‥。
そっと棗の方を見ると、棗も気付いて赤霧を見た。そして、にっこりと微笑を交わす。
一緒に、笑顔で暮らせますようにと願いながら。
「ねぇ、宗太郎クン。あの上の方に飾りたいから、手伝って欲しいな」
その言葉に宗太郎は花を肩車して笹の下へと立った。一回軽く上下するように体を揺さぶるも、その後はじっと飾り付け終わるのを待つ。その上で更に精一杯手を伸ばし、花はなるべく上の位置に短冊を飾りつけた。その中身は『いつまでも、宗太郎クンの隣にいられますように』。書こうとした続きは、そっと首を振り。
――欲張りません‥‥。
そう心の中で呟いていた。
花を下ろすと、宗太郎は無言で彼女の頭を撫でる。
「‥‥うん、よしよし」
何か満足そうにする様子に、花は小首を傾げつつ。続いて宗太郎もそっと願いを短冊と共にかける。彼が用意したのは2枚。『家内安全、無病息災』そして、もう一枚をこっそりと見えない位置へと。
『ケーキ君がもう少し優しくなりますように』
――難易度はステアーを墜とすのと同様でしょうが。
苦虫を噛み潰したような顔になりつつ、宗太郎は飾り終えると花へと振り返る。そうだとばかりに花は持ってきたお弁当を見せた。そして、場所を移動しようとにっこり微笑み誘導していたのだった。
「God bless you‥‥」
呟きながら飾ったのは朧 幸乃(
ga3078)だった。短冊に書かれた文字、それは今は遠い故郷LAのスラム街の皆、このLHの皆にそして‥‥祝福がどうかありますようにと願いを込めながら。
AU−KVで会場へと乗りつけたのは浅川 聖次(
gb4658)だった。少し外れに止め、笹の近くに来ると真剣な顔を見せる。
『妹が元気でいられますように』
そう願いの短冊を高い位置へと括りつけ、そのまま頭上の空を眺めていた。
思い出すのは故郷の茶畑で。今日と同じ、月遅れの七夕の風習が残してきた妹へと繋がるものを感じていた。
「次に会う時はきっと、もっと大人っぽくなっているのかな‥‥」
そっと笹へと手をかけ、願いをなお込める。
――父さん、母さん‥‥どうか、あの子を見守ってあげてください。
もし妹がこの言葉を聞いたら、『自分ばかり見守られるなんて嫌だ』そういうだろうと想像して、思わず笑みがこぼれていた。
「‥‥」
無言で括りつけられたのは、『平和』その一言をかかれた短冊。堺・清四郎(
gb3564)だった。
周りを見渡すと、それぞれが己の思いを込め飾る短冊。笹の枝はいつの間にやらエイミーによって華やかにクリスマスツリーの如く飾り立てられていた。何故か吊るされた折り紙のパンダが可愛くて仕方ない。エイミーの願いは『全ての女性の願いが叶いますように』。そして、先ほどは声高らかに『女性を泣かす愚かな男共に死んだ方がましな天罰が下りますように』などと宣言しながら短冊を掲げていた。
そんな様子に堺は一人、杯を傾けていた。
瞬間的に焼け付くように走る日本酒の喉越しを味わいながら。一人思いにふける。
――もしも戦争が終わり20年も経てば‥‥。
馳せる思いは果てしなく。その度に噛み締めるは今の時をいつでも過ごせる様な『平和』が良いのだという事で。
それを作るためにも、今奮い立たんことが大事だと考える。
「この風景が全世界に広がらんことを‥‥」
再び喉に染み渡る酒に、誓いをこめながら。
◇
少し離れた場所で、ぱちぱちと小さな光が地面の近くで輝いていた。
それは次第に光を一点へと集中させると、ポトリ。地面へと落ちていく。
線香花火だ。
ベルと共に未早は静かに楽しむ。そんな様子に、ベルは嬉しそうに頬を緩ませていた。
「丁度、去年の告白の時も花火を眺めながらでしたよね‥‥」
手元の花火を見つめながら、ぽつりとベルが口にした。その様子に、未早は思わず顔を上げる。
「これからもよろしくお願いしますね‥‥未早‥‥」
風が届けてくれたのは、初めての呼び捨て。しかも、綺麗に彼は微笑んでいてくれて。
未早は顔に熱が集中している事に、気付かずただ彼を食い入るように見つめていた。
「ん、前より美味しい。頑張ったな」
外れに敷いたレジャーシートの上で花の手作り弁当を食べていた宗太郎は料理の腕の上がった事に喜んでいた。
「おにぎりと卵焼き‥‥はちょっと焦げちゃった‥‥ごめんね」
その言葉に気にするなと首を振る宗太郎。最後のデザートは、花の手から。うさぎ型に切った林檎を口に移してもらっていた。
「「‥‥」」
ささやかな食後、並ぶように寝転んだ二人はそっと手を繋いで。星空を見上げて。
「‥‥今一緒にいられるだけでも、恵まれてるのかな‥‥」
呟く宗太郎に、花は後れ毛を手で押さえながらそっと近付いた。
不意に近付いたのは、暖かな感触。
思わずその感触を確かめるように指で触れる。さらっと掛かった髪を掻き揚げ、開かれる長い睫毛に隠れた瞳。ぶつかる視線。
「そろそろ帰らなきゃ‥‥ね」
微笑む花に、宗太郎は顔を赤くするだけであった。
一通り皆が短冊を掲げた後、ハンナ・ルーベンス(
ga5138)は一人一枚吊り下げていた。
『美しいこの星空を、リリア姉様も御覧になられますように』
願いの先は、バグア北米司令官リリア・ベルナール。その彼女の微笑が、再び自分たちへと戻る日を夢見ながら。いつの日か、彼女をバグアの手より取り戻すこと。それを目指して前に進む事をハンナは星と笹に誓う。
「主よ、お導きください‥‥」
祈りの十字は、空へと向かって切られていた。
歌い終えたソフィリアは、清々しい顔をして舞台を降りた。
口から零れるのは、歌っていたフレーズ。
「どこまでもずっと あなたの側に‥‥」
アイドルSOFFYとして最後の活動。それをこの星空の下で。
「届いた思い抱きしめて‥‥このまま、ずっと‥‥」
――The Last Desire
胸の前で手を合わせた。そして、瞳から零れる雫が地面へと染みこんで行っていた。
「疲れましたか?」
叢雲は真琴の様子をみると、休憩処へと連れて行った。先ほどから歩き通しだったこともあり、真琴は部屋に入ると途端に足を投げ出しお茶を強請る。
そして、静かな時間が二人の間に流れた。ぽつりぽつりと、零れる言葉。それは、他愛のない話でもあり、今までの話でもあり、そしてこれからの話しでもあり。二人で見上げた窓からは、落ちてきそうなくらい輝く星たちが歌っていた。
「‥‥年に一度しか会えない恋人なんて、自分は寂しくて嫌だけど」
「‥‥それでも恋人と胸張って言えるのは凄いなぁ」
「‥‥強さの一つなのかもね」
「‥‥信じたりする強さ。私には無理そうですがね」
信じる強さが、この星々の恋人達の強さならば。そう思いつついつまでも窓から見つめていた。
「今日は、少しは息抜きになったか?」
ブレイズはそっとジーラに話しかける。
まだ満天の星々を見つめる瞳は、キラキラと輝いていて。アイドルとしての彼女も、傭兵としての彼女もいつもブレイズには眩しい。しかし、それよりも輝いて見えて。背伸びをする様子に、はっと我に返った。
「いい息抜きになったよ‥‥」
返された笑顔に、ドキッと胸が高鳴る。
「頑張れよ、応援している。俺も、君が好きだから‥‥」
視線を逸らしつつ応えた言葉に、ジーラはくすりと笑みを返した。
「応援、ありがと。そう言って貰えるのが一番嬉しいよ。‥‥けど好きとかそういう言葉は好きな女の子のために取っておかないとね」
「あ、いや、えっと‥‥好きって言うのは君の歌とかアイドルの姿とか、そういうのが好きってことで」
慌てて訂正を出すブレイズにジーラはただ笑顔を返して。
「そうだ、短冊だって? お願い事書くやつ。あれ書こうよ!」
笹の下へ、誘いながらジーラは駆け出していた。
「‥‥んっ」
疲れたのだろうか、棗は赤霧によりかかって眠りに落ちていた。
赤霧はそんな棗を見て、静かに微笑む。
「ずっといっしょに‥‥むにゃ」
夢の中で何を見ているのだろう。微笑を浮かべたまま眠る棗の様子に、赤霧もまた笑みを零していたのだった。
舞台の裾で、堺は一人舞う。
扇子を取り出し、一人星明かりの中。たんと踏み入る足音、ささやかに流れる衣擦れだけが響き渡っていた。
「儚き命だからこそ自身で輝かんことを‥‥」
見つめる先に、どこまでも星の川が続いていた。
◇
刻は新しい始まりを告げようとしていた。
外は静まりひっそりと場所を変えていく。
屋上へと場所を移していた朧は一人、静かに空を見つめていた。風を気持ちよく受けながら、そっと瞼を閉じる。
――ここは、綺麗ですよね。同じ空なのに‥‥あの頃の、あの街の空とは‥‥。
静かに微笑むと、不意に目頭が熱くなる。何故だろうか、淋しい様な変な気持ちに襲われる。
「‥‥落ち着くんですけどね」
声に出すと、なお一層胸が詰まって。手に握っていたフルートをそっと唇に押し当てていた。
「おやおや‥‥」
部屋へと戻ると、真琴はすでに夢の中へ。叢雲を待っていたのだろう、膝を抱えたまま、先ほどの位置から動いていない。
――悩ませてしまいましたしね。
近くにあった掛布を取ると、そっと真琴の上にかけた。
――風邪、引かないといいですが。
その傍に寄り添うように座ると、叢雲は一人、星の煌めきを厭きることなく眺めていた。
ノーラは天の傍に寄りそうと、コツンと頭を押し付けてきた。
ふわりと笑みを浮かべながら髪を撫で上げる。嬉しそうに小さく笑いを返しつつ、すぐに何やら思いつめた表情を見せた。不思議に思い声をかけるも、何でも無いとの返事。
「ノーラ‥‥俺たち一緒になるんだろ?」
共に歩もうと決めたのは、2ヶ月前。そっと交わした約束と共に決めた互いに素直になるということ。少し悲しげな瞳で見つめると、ノーラは小さな声で一言天に告げた。
突然の告白、だけど驚きよりも嬉しさの方が大きくて、思わず彼女を抱きしめていた。
「ヴィ、ヴィオーレさん!?」
出た言葉は2人の時だけに呼ぶ彼の名前。その声が少し苦しそうなのに気付くと、少し緩め。愛しそうに微笑んだ。
「ありがとう」
戸惑ったように顔を赤らめ、胸を押し付けてくる。
「‥‥待ってるから」
服の裾を掴みながら、少し涙混じりのくぐもった声で告げる。
「‥‥うん。すぐに戻るから」
優しく抱きしめながら、ゆっくりと髪を梳く。
絡めた指は、解かれるのを嫌がるように強く結びついていた。
煌めく星達が優しい時間を告げていた。
静かに流れる虫達の音色はいつまでも止むことなく。
星の下に集った者達に暫しの安らぎを届けてくれた。
風が窓下に吊るされた笹を揺らしていく。
一枚、くるりと向きを変えた願いの短冊。
『どうか無事で。2人で待ってるね』
今宵のように、いつまでも‥‥。一緒にいられることを強く願いながら。