●リプレイ本文
現場は少し深いくらいの森であった。
依頼を受け機体の使用手続きを済ませた後、彼らは別使用による輸送船に乗せられた。どうやら行き先について知られたくないらしい。
肝心の依頼主であるジョン・ブレストにも直接あっての交渉はなく、急遽現場へと輸送される事となっていた。
◇◆◇
「事前に把握しておきたかったんだけど‥‥大丈夫かしら」
ケイ・リヒャルト(
ga0598)が依頼を受ける際に頼んでおいた周辺地形の情報は、何とか入ってきていた。舞台となる周辺の地形は森、手にはいったのは周囲の航空写真である。
攻撃を受けたポイントから考えても、周囲が岩場に囲まれている地帯となっていることもあり、この森以外に生息していないであろうことが付け加えられていた。
また、金属を体内へと取り込んでしまったため、突然変異も起したのではあるが、変わりに発見しやすくもなっていると付け添えられていた。
『イヤイヤ、あの金属を取り込むとは考えてなかったすから』
依頼を出す切っ掛けとなった研究所員はこう言っている。
「元ネタそのまんまなら見つけることも難しいはずなんだよなぁ」
そう呟いた龍深城・我斬(
ga8283)‥‥。
「何々、現時点で判明してる敵の特徴は‥‥」
風間・夕姫(
ga8525)はわかっている情報を纏めていく。すると次のような結果となった。
銀色の体躯、大きさはKV並み、そして何より気になったのは‥‥。
「KV並みにでかい、ぴかぴかに光ってる、速い、スライム」
ごくりと喉を鳴らす。
「スライム退治ねぇ‥‥なんだかブヨブヨで斬りにくそうねぇ‥‥」
あげられた情報にメデュリエイル(
gb1506)は眉をしかめた。
「‥‥何か‥‥ゲームでこう言う敵居たな‥‥」
風間に笑みが浮かぶ。期待を込めつつ、自分の言葉を噛み締めながら。
「すぐ逃げてダメージも1ずつしか入らないけど倒すと経験値がっぽりって言う奴が‥‥」
その言葉に反応したのは、そこに居るもの全員であった。
「え? 取り込んでから分裂したんですか?」
周防 誠(
ga7131)の声が驚きを交えている。ええ、と苦笑しつつ輸送船のパイロットは目撃した人物から聞いた情報を教えていた。
数体と依頼書では記されていたのはわかっていた、だが、ここに来て発覚した事態にしばし呆然となる。つまり、全てのスライムキメラを捕まえなければいけないというのだ。
幸い事前に気になる点を確かめた結果、取り込まれた金属は攻撃を加えても損壊し得ないとのことが返って来ている。
「どの道、全部を倒すのだからどれが持っていても変わらない」
ベーオウルフ(
ga3640)の言葉に、集まっていた者達は無言で頷いた。
「ここが、問題となった襲撃地点です」
輸送船を動かしていたパイロットが山々に囲まれた一角を指差しながら伝えた。どうやらその山が鉱山となっているらしく、採掘場などが目に付く。しかし、道具となろう機械は見当たらない。
「‥‥やはり金属を食うみたいだな」
光景を見たベーオウルフはぽつりと呟く。やはり、長時間かけての接触攻撃は無理そうである。
「金属を取り込んだって事は‥‥機体も取り込まれるかもしれないわねぇ‥‥気を付けないと」
メデュリエイルは皆への注意を込めて呟いた。
◇
「今頃なら着物でも着て御神籤でも引きに行ってる頃か‥‥」
KVに搭乗し、少し開けた場所に降ろしてもらった一同は、先に考えていた作戦を実行するべく、鬼非鬼 つー(
gb0847)、誠、楽(
gb8064)が先鋒となりて探索を開始。
「3人とも、頼りにしてるわよ?」
ケイから檄が飛ぶ。
「私の『アリス』の初陣を飾るにはいい相手だ」
その言葉に応えてか、鬼非鬼は操縦をしながら、ちびりと酒を口にしつつ自分の愛機に祝を送る。
残る五機は対象を包囲した後タコ殴りの予定だ。
先行として2機、その後ろに3機が続く形となっている。
やや後方の位置につけながら風間は咥えた煙草に火をつけずに操縦席へと収まっていた。黒かった髪は銀色へと変化をし、瞳がやけに赤く染まっている。
「なぁがーくん、この仕事から帰ったらデートでも兼ねてどこか行くか?」
他の人も聞いているのにお構い無しに言うあたり、風間は堂々としている。
「ははは、夕たん。終ってから、考えよっか」
皆に声のみ聞こえる状況で、龍深城は少し照れくさそうに答えていた。
木々の間を進んでいくと、ぽつりとはぐれたかのように佇むスライムを鬼非鬼は見つけた。にやりと笑みを少しだけ浮かべ、照準を合わせる。この距離、まだ相手には気付かれて居なさそうである。狙うなら、今だった。
「ふむ、見た目に関わらず歯応えがありそうだな」
僅かな振動の後、ちびりと酒を口に含みながら、鬼非鬼は目の前のスライムを見つめた。
放ったのはオメガレイ。しかし、効果がないのであろう、変化は見られない。むしろ放った時よりも神経を尖らせているかのように感じられる。
「知覚は効かない様だよ、まったく‥‥ね」
無線を通してぼそりと伝えると、瓢箪に入った酒を一気に呷った。
銀色の瞳が、より輝きを増し、正面を見据える。
「さて、鬼ごっこの鬼はどちらだったかな?」
明らかにスライムは、先程と違いこちらへと意識を向けた。これからが、勝負であった。
鬼非鬼が攻撃をよけつつ引き付けている間、包囲網を敷きながら攻撃隊の5機は周囲へと集まってきていた。
「さぁて‥‥魔物退治と行きましょうか‥‥。能力限定解除‥‥逆十字の魔天使‥‥メデュリエイルが叩き潰してあげるわぁ!!」
射撃範囲に入ったことを確認し、メデュリエイルはホールディングミサイルを放つ。
それが合図となって、鬼非鬼は後退、次の標的の発見へと場を移し始めた。残る4機もスライムを包囲しつつ、ライフルやキャノンを用いて狙撃を開始。タコ殴りの開始だった。
「ちっ、ダメージ通ってるのか‥‥ゲル状だからイマイチ判断に困るな」
スラスターライフルで何度も狙撃するも、他のキメラを倒す時などと違い手ごたえはない。しいて言うならば、弾が同時に吸い込まれていく場所で、段々と内側に向けて穴が広がっていくくらいであろうか。見た目に変化はなく、どちらの方面に向かって進むのかすら把握できないのだ。コレで目や口がついていれば、大変かわいかったものの。半透明なはずの姿はすっかりと銀色に染め上がり、反対側の風景を映し出す物ではなかった。
飛び散る銀色の飛沫は、スライム自身の体の一部であろう。それ自体に意志があるのか、ある程度飛び散ったら元の個体に戻ろうとうねうねと動き出す。
「これは会心な一撃が出ないと‥‥」
龍深城の呟きを聞いてか、聞かずか。次の瞬間苛立った風間は前方へと回りこむ。
「しぶといんだよ! とっととクタバレ!」
ブーストを駆け回りこんだ際に突き刺したデアボリングコレダー。先程からのダメージか、内部に向かって開いた部分へと一突きだった。
どくんっと、跳ね上がる感触を感じ、風間は後ろへと下がる。
目の前でスライムは収縮を繰り返し、そして先程まで蠢いていた周りの飛沫の動きが止まった。
スライムは力なくその場へと潰れたように崩れ落ちると、一気に身体が弾けた様に液状化していく。まるで水風船が弾ける中、水分は緑色へと変化していく。水へと変化した名残の中に、目的の物はあった。それは、飲み込まれていたのにも拘らず、綺麗に銀色の存在感を放っている。
それは、まるで水銀のような形状であった。
「さて‥‥次のターゲットはどいつかしらねぇ?」
まだ最初の一匹だ。一体何匹居るのだろうか、始まったばかりにしか過ぎなかった。
楽が探し当て、誠、もしくは鬼非鬼が食い止め。
そこに残りの5機が到着し、再びタコ殴りを繰り返す。
彼らの連携は、実にうまくいっていた。楽の骸龍が木から木へと姿を隠しながらアンチジャミングと逆探知を駆使して探索を行う。遠くへ逃げるようであれば機動力の高い誠が、近場であれば鬼非鬼がと繰り返し、なるべくスライムたちが遠くへと行かないように心掛けていた。
楽は自分の行動をサボり捲くってるだけだと飄々として言ってのける。
確かに、他のものと違って攻撃はしない。だが、それは自らが乗っている機体の特徴をわかっているからこそだ。
先程からスライム側の攻撃として見えているつぶてや火炎放射など浴びたら、きっと彼の機体はすぐに大損害を受けるであろう。
そこをきちんと考えて、自らのできることをする。
それでも飄々と『おさぼりさん』言ってしまう彼のスタイルは、底知れない何かを感じさせるものであった。
「私の可愛い愛機‥‥カースクルセイドの切り札‥‥噎び泣きながらバラバラになりなさぁい!」
メデュリエイルの雄たけびと共にまた一匹のスライムが力尽きていく。
「夕たんも見てる事だしあんり無様な所は見せらん無えよな〜♪ ‥‥撃ち貫いてみせる、雷光一閃撃!!!」
鼻歌気分で乗っていた龍深城も、好きな人の前での活躍と言うことも有りいつも以上に気合が入っていた。
ベーオウルフの機転により、殆どのスライムは火炎放射を放つ前にその放射口と見られた箇所に武器を突っ込まれ解き放つ事を困難とさせられていた。
短時間で、あまり接近をし続けないで。
それが功を奏して、次から次へとスライムたちは叩きのめされていく。
「大切な金属、必ず届けて見せるわ」
数回放たれたものの、ケイは華麗なジャンプで避け、燃え移った木々は、すぐさま切り倒し被害が広がるのを抑えた。
何度繰り返しただろう、逃げるところを先回りしたり、反撃してくるのを避けたり。森の中という非常に戦いにくい戦況にて、それでも優位に打ち勝っていったのだった。
楽の逆探知にセンサーが反応しなくなったのは、スライムを10匹近く倒してからのことだった。最後の一匹と見られるスライムにとどめを刺しつつ、周りで探索している誠と鬼非鬼がもう見当たらない事を告げる声を聞く。
終了した。
これから、あちこちに残した残骸から目的となる金属を回収する。それが、今回の依頼の最終目的であった。
◇
「さって、とっととこれを研究所に届けるか‥‥」
風間は散らばったキメラの残骸とその中心で煌めく金属の塊を見つめ、溜息交じりで呟いた。水銀状の固まりは、ぷるんぷるんとしてそれだけで生きているかのように見える。
「金属‥‥ねぇ‥‥どんな効果があるか気になるけど、ちゃんと返さないとねぇ」
「ヒス起こされてKVや装備を強制的にくず鉄にされちゃ敵わないしな」
メデュリエイルの言葉に頷きつつ、しかし苦笑しながら風間は最悪の事態を考えてみた。確かに、機嫌を損ねてしまったらそこまでやる可能性は否定出来ない。今回は直接ジョンに関わりがないのでそのようなことはないであろうが、もし本当に必要としている物だったら、充分にありえるだろう。
そっと、懐に収めようと思っていた者達の手が止まる。
―― 制裁。
その言葉が、何故だか耳に残っている。
あるかもしれない、ないのかもしれない。だが‥‥。
ゆっくりと忍び寄ろうとする恐怖に、誰もが目を背けた。
何があるかわからない、あの未来研究所を敵に回そうだなんて、考える事が出来ないかったのだろう。
誠は散らばった金属の回収と共に、少しだけ敵のサンプルをも回収していた。
「金属のせいで敵が変化したのか、この敵が金属を飲み込むと変化するのか。どちらにせよサンプルはあって損はしないでしょう」
にこやかに回収し、ボックスへとつめていく。
水銀の形状をした金属は、先に回収用といわれ渡されていたガラスの瓶へとそれぞれ入れられていく。キメラの数だけ、その回収数は存在していたのだった。
再び輸送船へと戻り、パイロットスーツから普段着へと変え、寛ぐ。
そんな中、風間は今回の依頼主についてふと考えていた。
「‥‥ブレスト博士の息子ジェームズ・ブレストは有名だが‥‥」
傭兵であれば、誰でも知っている。いや、傭兵じゃなくてもUPCのエースパイロットの存在は知っているものが多い。それがこの依頼主の息子なのだ。
「息子が居るって事は妻が居るって事はだよな‥‥どんな人なんだ」
そらされる視線、あえてそこに触れる勇者は、中々存在しない事実。
そしてもう一つ、彼の実年齢は誰もが抱く疑問なのかもしれなかった。
◇
LHに戻ってきた時、初めて依頼主であるジョンが彼らの前に現れた。
意地悪げな瞳をして見ているのだが、一同の様子を見て何やらだんだん不満気な表情になりつつある。
「大切なものならちゃんと自分で管理しなよ。でなきゃ今度は私が盗みに行くかもな」
そんなジョンの様子を見据えて、鬼非鬼は運んできた金属が作業員の手によって輸送用のトラックへと運ばれる方向を見つつ、囁いた。
「一体何の金属だったのかしら? 企業秘密?」
にっこりと微笑みつつ、目の端では笑っているケイに、ジョンは溜息で返す。答えるつもりはない、無言の答えだった。
「で、この金属は何に使われるのですか?」
襟元に指を入れ、少し気を緩めながら近付いてきた誠の言葉に、「俺が使うんじゃない」とだけ答えると、ご苦労さんと一言だけ言葉を掛け、ジョンは研究所の方へと戻っていった。
「あー。カメラに行動とってたんだけど‥‥。渡る用に手配しとけばいいのかねぇ」
もしものためにと思い、楽は標準搭載カメラで撮影していた映像を渡そうとしていたのだが、目の前で行ってしまった。仕方ないかねぇとばかりにキョロキョロとあたりを見渡し、見つけた未来研究所所員へとビデオを預ける。
「‥‥あの人の妻って‥‥どんな人なんだ?」
帰りに思いついてしまった疑問が今でも残る風間を、龍深城は苦笑しつつ見守っていた。
◇
「ふむ‥‥。まぁ、今回の奴らは度胸はなかった‥‥ということか。残念だったなぁ」
研究所の部屋へと戻り、珈琲を飲みつつジョンは机の上の報告書を読んでいた。
もし金属の一部でもネコババでもしようものなら、彼の有意義な時間のお友達として選ばれていただろう。その人物が現れなかったことが、至極残念に感じているのだ。
「まぁ、ご利用は計画的に‥‥と」
くるくるとペンを回しつつ、ブラインドから見える研究所内を見渡す。
今日もまた、ワクワクとしながら強化にやってくる傭兵たちの姿が目に付いた。
「‥‥それにしても、度胸がないなぁ」
この度得た金属によって強化の機械は新しくなっていくのかもしれない。だが、それがどういう働きを醸し出すかなど、ジョンには関係のないことであった。