●リプレイ本文
東洋の方で昔から遊ばれている、カルタ。
それが今回、ジョン・ブレスト(gz0025)が求めている遊びであった。
読み札と取り札の2種類があり、読み手によって歌われた札を取るカードゲームの一つである。
貝合せがその由来といわれているものなのだが、どうやら年末年始になると幼少時に遊ばれていたと楽しそうに話をする研究員の言葉が切っ掛けになり興味を持ったようである。
読み札と取り札。その形式にのっとればどんな題材も可能ということもあり、自分の要望に沿ったものを誰かに作らせようと思ったのだ。彼が出したお題はこのLHにまつわるものについて。しいては傭兵達にまで及ぶであろうと考えての事だったのは間違いない。
しかし‥‥。
「博士‥‥わたくし以外話しにのらなかったのが運の尽きだと思うのですけど‥‥」
ノートを持ちつつ、向かい合わせに座ったソフィリア・エクセル(GB4220)は溜息をついた。
そう、このイベントと称した会場に来てくれたのは彼女ただ一人。マンツーマンでジョンのお相手をしなければいけないことに少し眉を寄せていた。
「それで‥‥このようなものを考えてきましたわ」
依頼は依頼とだけあって現状を諦めつつ、ソフィリアは持ってきたノートを広げた。
他に人がいないのはもう致し方ない。自分が出来る事をするまでだと、彼女の中で覚悟は決まっている。
「どれ‥‥」
広げたノートを覗き込むと、女性らしい字で書き連ねてある。
「ふむ?」
そこに書かれていた内容はにジョンは思わず噴出さざる得ないもの、恐怖で思わず辺りを見回してしまうものなどが多数存在していた。
◇
『かけがえの 無いものお腹に 宿してる』
どこかにいらっしゃるといわれる迷子探偵らしいのだが、流石に彼女の事を知らないジョンには笑えなく。
『金ピカの ケーイチさんは 誰の物』
金ピカと言う言葉を聞いて出てきたのはまさしく知り合いの人物の一人である。確か彼の愛機がそうだったな、などと思いをめぐらせつつ、笑いを堪えていた。
『くず鉄を 5%で 増産ね』
ピクリ、ジョンの眉が上がった。なんだろうか、不思議な胃の痛みが髣髴として思い出される。
『化粧にも 限度があるの 鉄仮面』
思わずキョロキョロと見回すものの、気配は感じない。ほっとしたのも束の間、何故だか悪寒が走ったのは気のせいではなさそうだった。
〜 以下についてはコメントを差し控えさせていただく ジョン・ブレスト 〜
『コーナーで スロット全開 走ります』
『サンタコス 嫌よ嫌よも 好きの内』
『静かなる 心のダンボー 脱ぎ捨てて』
『好きだとは いつも言ってる BLは』
『背が欲しい 胸も欲しいと 魔王言う』
『そこ邪魔よ 敏腕記者の お通りだ』
『たくさんの 依頼の想いを 胸に貯め』
『乳デカと 言われていても 社長です』
『培った 戦闘技術と 慣れぬ恋』
『天然の 不思議少女は 誰の事』
『遠巻きに 歌姫見ると 警備役』
『ナンデスカ 物欲センサー シリマセン』
『日本では 妾の京都 最高じゃ』
『糠床で お袋の味 お手の物』
『能力は ないけど作戦 得意なの』
『春待ちて カンパネラにも 龍の声』
『ひんぬーと 言われていても 気にしない』
『不憫です 茶室に出たら 嫌われる』
『平然と 若い格好 しています』
『本当に 男なんだと 主張する』
『マネージャー 色々調整 忙しい』
『皆には シェア一番の MSI』
『無茶するな そう言うあなたが 無茶しすぎ』
『メルス・メス 俺のお勧め さあどうぞ』
『元々は 図書館勤務じゃ ないんです』
◇
どうです? と、自慢の髪を翻しつつ、ソフィリアはジョンの反応を見つめた。
ここに書いてある事柄は、確かに彼が求めていたものである。求めていたものであるのだが‥‥。
「さ、さすがにコレを使ってのカルタは難しそうだな」
乾いた笑いをしながら、胸ポケットに挿していたペンを取り出し、ソフィリアのノートに赤く花丸をつける。
「うむ‥‥流石にこれでは危険物が多すぎる。そうだな‥‥いつの日にか表で堂々と出せるように考えてみるには参考材料になった‥‥。そう評価しても構わないだろうか」
綺麗に50音字を揃えてはいてくれたものの、後僅かが足りなかった。
いや、足りない部分を補うには補えたものの、少しばかり表に出すのに憚られる内容が含まれていたのが‥‥。
「俺は‥‥まだまだ死ぬわけにいかないからな‥‥」
重い溜息をついたジョンに、ソフィリアは情けないと言う視線を送る。
しかし、流石にジョンは女性陣を敵に回すのは恐ろしいと感じていた。
とくに‥‥厚化粧を謳っている某人物などのいる軍部とは胃がいくつあっても足りないのも事実だ。
「ははは‥‥夢の中ではとも思っていたんだが‥‥。流石にもう少し平穏な夢が見たくなってしまったのさ」
そう語るジョンに、ソフィリアは「致し方ありませんわね」と溜息を付きつつ自身の作品を再び見つめたのだった。
◇◆◇
「で、俺が待っていたのはカルタなんだが‥‥」
夜遅くに現れた訪問者、UNKNOWN(
ga4276)の手元を見て、ジョンは溜息をついた。
昼間にあったソフィリアとは違い、何やら不穏な空気が醸し出されていることをどうしても否定出来ない。
彼が持ってきたものは『フォーチュンカード』。いわゆる占いに使うタロットカードの類である。それは占者によって種類が異なり、また様々な理を導き出す道具になっているのだが。
「私はこのカードが現実に起こるように裏となって動こう」
煙草を片手にジョンへと語りかける。裾の長いロイヤルブラックのフロックコートを着たまま、深く兎皮の鍔が広めの黒い帽子をかぶり顔を見せずに。
――勘弁してくれ。
正直求めていないものを前にジョンは思った。しかし、UNKNOWNの説明は続く。
「どうだろうか‥‥」
一枚をカードの山から引き寄せ、捲る。
私は裏となって動こうと。そのために全力を尽くす気だと訴えるのだ。
手段としては普通では足りない部分を覚醒し、五感を働かせ、六感すらも使いと。
立ち行く障害があるのならば、息を潜め。行く先々の影に潜み、時には天井へと隠れ。必要とあれば屋根すらも走る覚悟だと。
取ったカードを指に挟み、見せるようにチラつかせる。
「そう、カードに書かれている事は現実に起こりうる」
口元が薄く笑みを形どる。ジョンが渋そうに唸りを上げると、カードの山を広げ、一枚、また一枚と表に返していくのだ。
「ただ只管に実現させていこう」
表に返ったカードをすっとジョンの前に出しながら。すっと指を一本だけ口元に引き寄せ。
「誰にも気付かれてはいけない。細心の注意と僅かな機会を掴み証拠を毛ほども残してはならぬ」
説き伏せる様に囁く不穏な言葉は、やれと指示するようだ。
必要であれば‥‥そういいながらUNKNOWNが取り出したのは荒縄と蝋燭である。
テーブルの前に置きながら再び口元が笑みを作り出した。
「これが、活躍するかもしれないな」
ぞくりと背筋に悪寒が走った。目の前のものを使われるとなると、どうしても頭に浮かぶのは拷問の類である。あとは、暗闇に潜みながら、危険な場所を進む場合。ごく普通の場面では使わないことは確かである。
「私は誰でもない。誰の味方でも、誰の敵でもない。『UNKNOWN』。謎は謎のまま、に」
言葉と共に傾けられたコーヒーカップは、ジョン用にと濃く入った苦味の強いものである。それを一気に飲み干すと、ご用命時は声をかけてくれればいいと言い残し席を立った。
懐から、再び一枚のカードを取り出す。
そこに記されていた文字は、【ジョン・ブレスト参上】。
「汝の信じる神の恩寵を。幸、多からん事を‥‥。アーメン」
立ち去りながら十字を切る後姿に、ジョンは冷めてしまったカップの中身を飲み干す。
「やれやれ、傭兵達はどうしてこうも癖が強いのか‥‥。これでは余興ではなく、脅しだぞ‥‥」
テーブルの上に広げられたカードを見つめ、深く息を吐いた。
*なお、この依頼は初夢依頼であるため史実には属しません。