タイトル:【銀狼】疑問の欠片達マスター:雨龍一

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/03/30 02:18

●オープニング本文


「さぁ、どれも素敵なものでしてよ?」
 目の前に広がるのはおもちゃをはじめ、ベビー服だったり、ふかふかのおふとんだったり様々な贈り物だったする。
「どう? これで必要なものはそろったかしら」
 そう優雅に紅茶を飲みつつ話しかけてくるのはオレアルティア・グレイ(gz0104)である。
「て、ティア姉様‥‥、ありがたいはありがたいんですけど‥‥」
 困惑気味に積み重ねられたプレゼントの山を見つつ、ノーラはそっと溜息を吐いた。
 訪ねてきてくれたのは、正直嬉しい。ティアは会社の社長で多忙な人だ。それだけでなく、彼女自ら色々と戦地へと乗り出したりしていることも知っている。
 母は強しとばかりに、娘を守っている姿は憧れを抱くほどである。
 しかし、しかしである。
「‥‥流石にこれは多すぎだと思います」
 部屋の大部分は締めている贈り物を、どう片付ければいいのだろうか。途方に暮れてしまうのは、致し方ないことなのかもしれなかった。


「それで、本当の目的はなんだったのです?」
 後日家に送ってくれと話をつけ、ティアの部下に荷物を引き取ってもらったことにより、事務所を圧迫していた空間は、ようやく一息をつけるスペースを手に入れた。
 頂き物のケーキを頬張りつつ、ノーラはティアの訪問理由を尋ねる。
 贈り物だけであれば、彼女自身がここまで来るはずはないだろう。‥‥いや、訪れるかもしれないが、事務所はないはずだ。
 そんなノーラの言葉に、ティアは薄く微笑むと、一通の封書を取り出した。
「さすがね‥‥あなたにお願いしたいことがあってきましたわ」
 視線で確認を取りつつ、封書を開ける。そこに入っていたのは、以前頼まれて調べた人物である。
「‥‥」
「おねがい‥‥。彼の入院カルテを調べて欲しいの‥‥」
 先程までとは違い、弱々しい言葉。思わず顔を仰ぎ見る。
「‥‥頼めるのは、貴女だけ‥‥。イギリスに留まっている間に‥‥」
 会社の関係者には特に知られたくない、以前もそう言って頼まれた。それは、きっとただならぬものが潜んでいるだろうことをノーラ自身も感づいてはいる。
「‥‥話、詳しくお聞きしても構わないでしょうか」
 少し時間を置いて、ノーラは応えた。既に仕事用へと変わった彼女を見つつ、ティアは悲しそうに笑みを溢し話し始めたのだった。

●参加者一覧

ベル(ga0924
18歳・♂・JG
オルランド・イブラヒム(ga2438
34歳・♂・JG
ユーリ・クルック(gb0255
22歳・♂・SN
依神 隼瀬(gb2747
20歳・♀・HG
雲空獣兵衛(gb4393
45歳・♂・ER
ヤナギ・エリューナク(gb5107
24歳・♂・PN
今給黎 伽織(gb5215
32歳・♂・JG
月城 紗夜(gb6417
19歳・♀・HD

●リプレイ本文

「負傷者一名、至急先生を呼んでくれ!」
「そこ、どいてください! オペ室入ります!」
 開いた救急治療室のドアに吸い込まれていく人影。救急車で運び込まれたわけではなく、どうやら自家用車でこの病院まで来たらしい。
 運転してきたらしい女は、閉じられた扉を見つめていた。

*+*+*+*+*


「それでは、数日間の検査入院ですね‥‥」
 書類の手続きを済ませ、病室へと案内される中、入院中のスケジュールが説明されていく。それを聞き流しつつユーリ・クルック(gb0255)は視線だけを様々な箇所へと廻らせていた。カメラなどが何処に有るのか、脳内へと記憶していく。
 時折振り返りつつ話す看護師へとにこやかに微笑を浮かべながら、院内をつぶさに記憶していった。
 偽装とはいえ入院である。それなりの対処が必要であるのは明らかな事実であった。


 時同じくして、人間ドックを利用しての潜入を試みた雲空獣兵衛(gb4393)は自らの無精髭をそっと撫で回していた。目の前に現れた医者をじっと見つめる。隻眼の無表情な男に見つめられると、さすがに説明する声に恐れが入り混じって聞こえてきた。和服の懐にしまった片方の腕に、隻眼を隠すように着けられた眼帯は刀の鍔だ。たどたどしく話される言葉尻は、何やら「ふむ」「もうそう」などと、時代がかった言葉が続いていた。明らかに、怪しい中年侍だ。
 そんな飛び入りの患者の様子を、冷や汗をかきながら診察する医師はカルテに記入をしていく。


「今日から研修でお世話になるヤナギ・エリューナクだz‥‥と申します」
 特徴ある赤髪を濃茶に染め上げたヤナギ・エリューナク(gb5107)はそっと息を吐く。
 柔和な笑みは少しばかり引きつっており、無理しているのをひた隠しにしていた。
――まぁ、怪しんでるヤツはいないな‥‥
 潜りやすいようにと手配してもらった研修は、突然にも拘らずすんなりと受け入れられた。それどころか、好意的な視線を受けている。戸惑いつつも仕事をこなすべく悟られない程度の鋭い視線を廻らしながら、ヤナギは先輩看護師の後をついていった。



「結構本気でやりましたよね‥‥」
 白いシーツの上で横たわったベル(ga0924)は傍の椅子に座る月城 紗夜(gb6417)に向けて静かに話し出した。
「‥‥スムーズに入院へと持って行くためだ」
 疑われないようにすることが、一番だったと呟く。
 救急として入院を果たしたベルは、一般病棟と少し違った場所へと案内されていた。それもそのはず、入った際に明かしたのは、『追われてるんです』。この一言が有ったからだ。
「そのおかげで‥‥どうやら少し違う場所に入れたようだな」
 元々UPCの離反者として内部潜入を果たそうとしたのだったが、うまくいかず。ベルと月城は互いに戦うことによって受けた傷を理由に救急で入ることになった。といっても、入院はベルの方。肩に打ち込まれた弾丸が残る中担ぎこんだのだ。
「そうですね‥‥どうやら、色々と違うことが多いみたいです‥‥」
 クルックたちが入った病棟とは同じようで違う。一つ違うエスカレーターで出た先は隠し病棟のような場所。見舞いに来た月城ですら職員の案内が必要なこの場所は潜入が難しいと思った。ブラックリストが利用する病院‥‥やはり、普通とはいいがたい。
 何気ない会話をしながら、二人は目だけ笑っていない。手元には、次第に黒くなっていく紙があったのだった。



 依神 隼瀬(gb2747)は装備を外したAUKVにまたがっていた。バイクとしての仕様、それは調査に支障をきたさない様にする最低限の偽装だった。ノーラから得た事前の調査内容により、どうやらこの度潜入を試みる病院はかなりきな臭い。
「少なくとも『担当者』と『経営陣』は黒‥‥」
 被っていたヘルメットを外しながら思わず零れ出た。
 内側から攻めるにも、どうやら外堀を埋めることも怠ってはまずそうだと考えキッと宙を睨みつける。
 とりあえず、手にしているリストの葬儀社を当たること。依神はヘルメットをAUKVにかけるとそっといずまいを直した。


「こういう噂があるんですけど、あそこの患者の葬儀記録があれば見せてもらえますか?」
 パッと見美少年、そして少しばかり甲高い声が社内へと爽やかに響き渡る。
 ぎょっとした顔で受付の女性は慌てふためいた。
「お客様、唐突でのお話は‥‥」
「やだなぁ、客いないんだからここで話を聞かせてもらっても良いと思うんですけど‥‥」
 それとも‥‥、そう言外に続くように閃かせた瞳で依神は見つめる。
「――こちらで座って話の方がよろしいかと」
 扉の向こうから現れた老年の紳士が、崩さない姿勢で声をかけてきた。
 依神は受付の女性へとにこりと笑みを返しながら、誘われるまま入っていったのだった。


「くぅ‥‥ッ! 煙草が旨ェ」
 思いっきり吸い込んだ紫煙を口内で持て余しつつヤナギは宙に向けて吐いた。
 研修生としての一日は意外と自由が利かない。それでも最初の1日目は院内案内と、簡単な説明が中心であったため、案内されながら調査へと眼を向けることが出来た。さり気無く、だが関係者として探ることによって知れる事実も有る。案の定、カルテの保管場などは簡単に入手することが出来た。ただ、そこに目的の物があるかはわからないが。
「結構入れる場所とか、微妙だよなぁ」
 研修中のメモを見つつ、首を傾げる。
 夜間でも侵入できる経路を見取り図に書き出しつつ、背にしていた壁にもたれかかる。ふと思い出したのは、入院患者たちの話だった。
 彼らは、普通に通院から入院に至ったものと、救急を利用して入ったものとに分かれている。しかし、どうやら極端に救急から入院になったものが少ない、少なすぎるのだ。
 その点をどう考えるべきなのか、他の者の情報によるのかもしれないと思っていた。


 今給黎 伽織(gb5215)が調べていた病院自体の情報は、あっけないほど普通のものであった。
 代表者にしても、登記内容にしてもである。
 ブラックリストに載っていそうな企業や、マフィアなどの縁故関係があるのかと思うとそうでもなく、あくまでも普通なのだ。そう、普通すぎた。
 図書館で調べた求人関係については全く持って何も得ることが出来なかった。
 どうやらこの病院、求人の仕方は一般には開かれていないらしい。しかし、ヤナギは研修生として潜り込めたことより、決して関係者だけというわけではなさそうだ。

 ノーラに頼んで得られた出入り業者のリストを見ても、何ら変わった部分は見られなかった。目立つ不安要素の形跡も見られない。懸念すべき部分が間違っていたのだろうかと、今給黎は首を傾げていたのだった。



「クルックさん、お見舞いにきましたよ」
 ドアをノックしつつ、身体はすでに半分室内へと入っている。手には、形ばかりか小さな花束と封筒を持っていた。
「お待ちしていました、きちんと閉めてくださいね」
 その様子を見つめ、クルックは依神を笑顔で迎え入れたのだった。


 依神が手にした情報は、先程集めていた葬儀社での聞き込み結果だ。
 三流雑誌記者、そう装って訪れたのは近隣に集う葬儀社からのデータの入手。誠しやかにカマをかけ、聞きつけた噂を確かめるためでもあったが、実際わかったことはそれだけではない。
「やはり、遺体無しの葬儀を取り扱うことが多々有ったみたいですね‥‥」
 書き出した書類を広げつつ報告をしていく。流石に設立当初のものまでは遡れなかった物の、ここ近年の物でも取り扱った記憶があったらしい。確かな書類には残ってはいないものの、それは業務日誌と言う形で裏づけが取れていた。
 『遺体のない葬儀』それが意味する物は何か。不穏な結果にゾクリと身が震えるような気がした。
 クルックは見取り図に書き込んだカメラの位置などを説明する。光の角度などで怪しかった部分や不自然な照明器具も含んでいた。ヤナギからこっそり渡された、ナースセンターでの世間話で聞いたカルテ周辺の報告もし、どうやら地下の方へと最終的に収まっているのではないかと見当をつける。病棟に関係ないカルテは、すぐに別場所に動かされるらしい。
 他のものへと伝えられるように、素早くメモを取ると依神はにこやかにまた来るからと、クルックの肩を叩いたのだった。


 潜入に必要な情報が集まってくる中、オルランド・イブラヒム(ga2438)は昔扱っていた事件を思い出していた。テロリスト相手が多かった中、今回は久々の本業に近い活動だ。サングラスの奥深くに眠った瞳が、感覚を思い出すように鋭く開いていく。


 向かった先は警察だ。警察沙汰になったもののほとんどが、この病院へと送られてくる。それもそのはず、救急指定病院だ。しかも、他のところの様に断ったりすることは少なく、いつでも迎え入れてくれるのだから安心といった感じであろう。まして誰でもかかわらず受け入れてくれる病院は、数少ない。
 予備知識として、近隣の者達や事件の起きたといわれる周辺での聞き込みも欠かさなかった。そして得られたもの。
「噂どおり‥‥か」
 理由はどうであれ、『入ったら出てこれない病院』らしい。入院していた形跡もなく、入ったら最後‥‥ほとんどが葬儀社へと直行するらしい。中には、正体不明者としての処理も有るらしいが。
「その点については聞かなきゃわかんないんだろうな」
 口に含んだ煙草の苦味を、味わい深げに吸い込む。ほんのりと赤く燃えていく光を、少しだけ強く見つめていた。



 数日後、病院内にはクルックとベルを残し、集まった情報を繋ぎ合わせていた。
 検査入院も、後1日で終る‥‥そんな日であった。
 月城の話と、その後のベルの行動によってわかったのは、隠された病棟の管理体制。
 時間厳守のその病棟では、面会時間も限られており、入院患者も出歩ける時間が少ない。いや、そもそも重症患者が多くて病室から出てこられないのかもしれないが。
 クルックや雲空、ヤナギがかき集めた一般病棟のほうでも警備体制と凡その全体図が明らかになっていた。過去のカルテの場所もハッキリしており、夜の潜入を手配すればスムーズにことが進みそうであった。問題は‥‥。
「カルテの入手が先決ですから」
 まずは予想しているところで‥‥それが優先順位となった。
「何故、今頃グレイは調査を‥‥」
 進入経路と各役割を確認しつつ準備へと勤しむ中に零れた言葉。
 月城の疑問に答えられるものは、そこにはいなかった。


 開院中に院内の見つかり辛い場所へと身を潜めたまま機会を待つ。
 研修生として最後に夜勤を希望したヤナギはナースセンターに有る時計を見つつ、見回りの時間を計っていた。各階ごとに少しずつずらしたタイムスケジュール、その隙を衝いて目的の場所へと誘導する。洗面所へと行った後、フェイスマスクを装着したクルックも、刻々と近づく時間を気にする。そして、時間は来たのだった。

 予め打ち合わせしていた通りに、依神は地下へと続く階段を降りていた。クルックは、ヤナギの誘導にてエレベーターで地下へと行動を共にする。古いカルテがあるのは地下だ。まずはそこを調べなければいけない。
 気さくなヤナギの雰囲気に、看護師達からもたらされた情報の中には年代別の保管ロッカーという話があった。何気ない、だが嬉しい情報に、思わずにやりと笑みが浮かんだものだ。
 葬儀社のリストに載っていた情報もウィリアムに関しては怪しい部分があった。
 屋敷へと引取りの時点で移送は葬儀社を使用する。業務日誌に載っていたその日は一件。ウィリアムの日は‥‥空の葬儀と書いてあったのだ。
 階段へと続くドアをそっと開けると、ヤナギはクルックが後にと続くように先に進んだ。カメラの動きを見つつ、クルックはそっとその後に続く。目的の扉の前にたどり着いたヤナギはカメラの前に立つ様におもむろに持ってきたノートを広げる。その隙に後ろへと潜り込んだクルックがピッキングツールで鍵を開けると、ヤナギが動いた拍子に内部へと滑り込む。そして、カルテの捜索が始まった。
 口へと咥えた灯りを頼りに、聞き込んだ内容を手がかりに目的のロッカーを探した。かかっていた鍵を慣れた手つきで開けていくと、綺麗に月別で仕分けされた箱が目に入る。メモ紙を取り出すと、ウィリアムの死亡の日付を確認、箱の中のカルテをスライドに沿って調べ始める。程なくしてカルテは見つかった。さらに不足はないかと前後を調べつつ、抜き取ったカルテを持ってきた封筒に入れ、落ちないように封をした。
 ヤナギがわかるようにドアの下から微かに紙を出すと、入った時と同じようにカメラをさえぎる位置へと移動する。
 かかった時間は、5分もなかった。
 クルックは素早く移動する中で、抜き取ったカルテを依神がいるであろう階段の方へと滑り込ませ、エレベーターへと急いだ。ヤナギは、ゆっくりと何事も無かったように見回りへと戻っていったのだった。


 翌日、検査入院をしていたクルックの退院日。もしもの事を考えて警戒していたものの、特に疑われることもなく無事手続きは終了していた。研修生としての終了も同じく終えたヤナギは、なにやら看護師たちに色々な声をかけてもらいつつ、別れの挨拶をしている。裏病棟へと入院させられていたベルも、術後の経過を見てきちんと通院することを条件に退院が許可されていた。
 手に入れることができたカルテに書かれていたのは、ウィリアムの死因と死亡判定にいたる時点での様々な撤回事項。二重線で消された言葉たちの中に書かれていたのは、なんとも伝え辛いものばかりだった。
 無事に依頼を達成させた彼らがノーラに渡した結果からわかったものは、バグアとの交戦によって運ばれたウィリアムが、頭部のダメージによって昏睡状態になっていたこと。本来であれば死亡ではなく植物状態であったこと。そして‥‥。
 それを死亡へと覆させた裏の事情に、既に死亡が確認されている当時の役員達がかかわっていたことであった。