●リプレイ本文
この度執り行われたくず鉄祭‥‥いやいや、供養祭。
さてはどのようになったのだろうか。
なにやら全体的に見るには不穏な空気を感じるため、一部の状況を抜粋して伝えることにしよう。
◇
百地・悠季(
ga8270)は再び張られた広告を見てやや呆れ気味にため息をついた。
「懲りないのねぇ」
本当だ。
恨みを一身に買おうというのか、それとも、本当に何かを成仏してくれというのか。
その実際は‥‥きっと何も考えてはいない、であろう。
「ふーん、そうね。考えようによって酷いわよね」
その隣に張られた、キャンペーンを謳う文句を見る。
『該当の期間中のみ、強化時の成功確率が1%上昇します!』
該当の期間中のみ、強化時の成功確率が1%上昇します!
該当の期間中のみ、強化時の成功確率が1%上昇します!
‥‥。
‥‥。
成功率だけですか。
ここに集うのは、きっと成功ではなく、大失敗を抑えてくれと思う人が多いはずですが。あえて言おう。
ジョンが渡したのは、物質強化担当。
つまり、強化部門の直接的な人たちだ。
これを出したのは、総務部門。
事務方で、実際ジョンですら経理の話をされたら逃げたくなる連中だ。
そう、この度はたまたま重なっただけであり‥‥無実であるのだ。
「あたしにとっては、他の方が凶悪だけどねぇ」
俯いた顔に、暗い影が宿る。
くず鉄よりも酷い恐怖。それは‥‥。
「なんで突然変異するのかしらねぇ‥‥肝心要のときに」
にっこり笑って、今にも包丁で一突きしかねない様子で。
悠季はにっこりとした笑顔で研究所の2つの広告を見た。
◇
伊佐美 希明(
ga0214)は黒い笑顔を浮かべていた。
顔が黒いわけではない。
何か一物腹に溜め込んでいる、そのような笑顔。傍から見たら、「ママー、このおねぇちゃん怖いよぉ〜」である。
その手に握り締めているのはなにやら大きな包みだ。
「ふふ、ふふふふふふ‥‥」
焦点が定まらない彼女の視線。
どこに向かうのやら、大事そうにその包みを抱えて。
鯨井昼寝(
ga0488)は厳かに朝の清めを済ます。
今日は神事。そう神事なのだと頭に水を被る。
流水で身を清め、急遽出来上がるくず鉄神社の前で自身の神具となるジャンク・オブ・ ジャンクを備え、他の邪気を払う。
この度は何が待ち構えているのだろうか、と。
清らかになった身体に、装束の袖を通す。
それは白地に、襟元を赤くした巫女装束であった。
ユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)は会場設営に奮闘をする。
作務衣に身を包み、出店の用意をしていた。
会場のあちこちでは、脅されたであろう強化部門のもの達が設営をしていた。
彼自体、本日は裏方に徹する意思だった。
宴会を盛り上げる、彼の目的である。
しかし、だからといって言いたいことがないわけではない。
それを含め見つめる。
(ねぇ、解ってるよね?)
素晴らしい笑顔で。
その笑顔で見つめられた周囲は、気温が3度ほど下がったような気がした。
白百合が咲いた。
いや、咲いたときのような香りが、鼻先を掠めた。
傍に立った女性をそっと伺う。差した日傘で見えないが、どうやら少女らしい。
奏歌 アルブレヒト(
gb9003)だった。
「‥‥今回は‥‥くず鉄を持って来れませんでした‥‥非常に残念です」
そっとハンカチで口元を押さえる。
「え、あの‥‥奥の方に宴会場も開いてますので、気軽に‥‥大丈夫ですよ?」
あたふたと、傍にいた男性職員は自分の汗を拭きながら話しかける。
傘の反対に持つ杖を見ると、それは白い柄。
そっと手をとり誘導したい衝動に襲われる。
「‥‥ありがとうございます‥‥友人も‥‥こちらに来ておりますので」
やんわりと断られながら、白い杖がカツカツと歩く方向を探し当てる。
「あ‥‥」
残されたホワイトリリーの香りだけ、彼が抱いたほんの一時の夢の中へ踏みとどまらせた。
「‥‥禍々しい気配がそこらじゅうからしてきます。
特殊な祭りとは聞いてますが、もはやサバトのような雰囲気ですね」
ソウマ(
gc0505)はこっそりと乗り込んだ祭り会場の雰囲気に、ただならぬものを感じていた。
背中には、びっしょりと濡れた感覚が襲う。
キョロキョロすると、借り出されているのであろう、所員たちが慣れぬ笑顔を振りまいてくる。
それがまた一層、彼には恐ろしく感じたようであった。
◇
「それでは第2回くず鉄供養祭、執り行わさせていただきます」
僧衣に身を包み、三枝 雄二(
ga9107)は恭しく頭を下げた。
祭壇の前、横には巫女服に身を包んだ鯨井が控えている。
祭壇の上には、前回同様にブレスト人形があった。
もちろん、伊佐美の作品である。
その名もブレスト人形Mk2(ツヴァイ)。前回と比べ、格段に上達している造型。
彼女の違う方向へと向けられた熱意が、何故だか嘆かわしい。
顔の部分に貼られたのは、ジョンが昔隠し撮りされたプロマイドだ。
「後はくず鉄博士の髪の毛を入れれば完成だったんだけどね‥‥」
悔しそうに祭壇奥に備えられた人形を見つめる。
開幕までにジョンの姿は見つけられなかった。
なんとしても、終焉までに見つけてゲットしなければと、息巻いていた。
「それではおひとりづつ、お持ちになられたくず鉄を、お供えください」
三枝が脇へと除ける。祭壇手前には、鯨井が神具を片手に待機をし、参列者の祈りを待つ。
最初に進んできたのは、開催時から一番前を陣取っていた伊佐美だった。気合が十分なのか、額には白い鉢巻を巻いている。
「これはシングルショットライフルの分!」
用意してきたくず鉄を中央に備えられているブレスト人形へと投げつける。
ズガン!!
大きな音と共に、傾いだ。
「これは研究所キャンペーンに乗せられて、何となく改造しちゃった水中サブアイの分!」
なんとなくしたのか、それはご愁傷さ‥‥ぐふっと腹に来る。
「これは突然変異で長靴に変えられたBCアックスの分!」
突然変異はくず鉄ではない。が、恨みはそれ以上に増すのかもしれないと。
「そしてこれが、度々5%の悪魔に泣かされてきた、皆の心の叫びだァァぁぁあー!!」
ちょっぴりお得なサイエンティストもよろしくなどといってみたり。
「予定外の突然変異なんか、大嫌いよー!」
最後の一個を投げつけると、伊佐美は肩を大きく弾ませて息を整える。
「私の力の糧となった、くずてつに感謝を込めて」
ミリハナク(
gc4008)はそっと祈る。力の糧になったとは、いやはや不思議な人である。
「LV3への強化という、5%の壁でくずてつとなった私のバクトリング。これを機に私はギャンブルに向かないとわかり、二度と賭け事はしないと心に誓いましたわ。‥‥ありがとう。そして、過去の思いと共に砕け散れいっ!!」
力いっぱい投げつけられたくず鉄は、大きな放物線を描きながら人形へとぶつかった。
流石能力者。普通の女の子に見えても、力が半端無い。
横で控えていた鯨井は、投げつけられ終えるのを見ると、清めのために舞い始めた。
怒りが大きな程激しく。宥める為に神具を振り回しながら、くるくると舞うのだ。
足捌きが速くなる。多田羅を踏んでいるのであろうか。
右へ、左へ。
髪が振り乱れていく。
いつの間にやら覚醒され、疾風脚、瞬天速、限界突破までもが行使されていく。
浮かび上がるくず鉄の舞。いつしかそれは、静かな舞ではなく、激しい‥‥風を自ら起こすまでに発展していった。まさにそれは小さな竜巻が生まれたように、周りの葉などを舞い上がらせていた。
「天にまします我らが父よ、どうか、かのモノたちが再び持ち主と出会えますよう、お導きください、そして、願わくば強化に情熱を燃やす者に祝福を、研究所に幸運を、AMEN‥‥」
三枝が最後の参拝者を見届け、締めの文句を謳う。
詔を告げると、ゆったりと鯨井が神具を奉納した。
「いやあ、参加者が少ないし、教会のほうにも持ち込まれたくず鉄は無いし、結構結構!」
にっこりと振り返る三枝。その表情はとても朗らかである。しかし、参加者が少なくて喜んでいるものの、日々の生産量が実は減らないくず鉄。こっそり仕返しされる方が、怖いと思ってしまうのは何故だろうか。
「後は、大失敗も、『こんなこともあろうかと!』の範疇に入れてほしいところっす‥‥‥」
ぼそりと最後に呟いた言葉に、参加者達は力強く頷いた。
悪い‥‥それは経理と相談してきめ‥‥一概に頷くことができないことが、申し訳ない。
「キョウ運が織り成す奇跡のたこ焼き。まさに天にも昇る美味しさ!
ただし、研究所でLV2→3でくず鉄ができる確率で生きたまま煉獄を味わえますよ!! お一つどうぞ」
会場の一部で繰り広げられている屋台は、恨みとは関係ない近所の人に対しても振舞われていた。お祭である。
楽しみがなければつまらない。
メニューも、傭兵達がこぞって腕を振るってくれるので、様々である。
ユーリが出したメニューは鉄板メニューだった。
焼きうどんに焼きおにぎり。チヂミなどもある。
香ばしい匂いのベースは醤油。味付けが醤油ベースらしい。
具材に使われているキャベツや、ニラの匂いも混ざり、食欲を刺激する。
見た目も綺麗で、思わず涎がたれてきていた。
「食べる?」
そっと器に盛られたおにぎり。
戸惑う職員に対し、ユーリは一瞬どきりとする笑顔を出す。
手にはいつの間にか受け取った器が。
その微笑に引き込まれるように、匂いに刺激されるように、おにぎりは彼の口の中へと運ばれていった。
「博士、こっちで一緒に飲みましょう。お姉さんが色々サービスしますわよ」
煙草とお酒をこっそりと忍ばせ、ミリハナクはジョンをおびき出そうと奮闘していた。何せこの祭、計画書を突き出したのはいいが、彼自身に会えたものはまだ居ない。いや、会場に現れているかもわからないのだ。
「色々と御苦労様。たまには息抜きを楽しんでくださいな」
彼女は、博士と見受けられる人物へとしな垂れかかり、うっとりとした視線を投げかける。
「‥‥‥‥」
何故か無言のかの人物。不思議そうに見つめると、そっと視線を外される。
「‥‥‥‥お嬢さん、すみません‥‥。僕は副理事では‥‥」
「え‥‥」
取り落とされそうになるグラスを受け止めつつ、かの人物は申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にした。
残念。
彼女はどうやら、ジョンの影武者を勤める研究所員へと当たってしまったようであった。
「‥‥しっかし、牛乳が大型ミサイルになったり、KVフレームがじょうろになったり、強化というよりは錬金術とか魔術の類だよな。
私はバグアなんかより、よっぽど未知なる技術だと思うよホント。
いっぺん、強化過程を見せてもらいたいもんだぜ。いやマジで」
それは最先端技術(?)の極秘事情な為、お見せできないところがなんとも残念である。特許を取っているのかも知れない。
‥‥研究所見学ツアーなんぞ開いたならば、どれだけの集客量を見せるのであろうかとこっそりソロバンを叩き考えてしまうあたり、研究所員の商売根性は座っているのも間違いない。
◇
「では僭越ながら私伊佐美希明が、
締めに清めの一撃を入れさせていただきます」
全ての参列者が投げ終えた。取り仕切る三枝と鯨井の奉納も終えている。
舞台は祭り自体の終わりへと差し掛かっていた。
巫女装束へと着替えた伊佐美は、授かった神具・ジャンク・オブ・ジャンク(弓)を持ち、舞台へとあがった。
真剣な顔で一礼を入れ、足捌きに入る。射法八節が踏まれていく。
顔つきが、変化していった。
般若を連想するような、その面立ち。覚醒したのだ。
緊張が走った。
ピンと張る、弦。狙い済まされたのは、もちろん彼女が用意したブレスト人形・ツヴァイ。
「はっ!!!!」
放物線上を辿るように、矢は人形へと吸い込まれていく。
ズサッ。
突き刺さると同時に、燃え上がる炎。
炎に包み込まれた人形は、心なしか微笑んだように見えた。
◇
ジョンに逢えた者は数少ない。
その中の一人に、三枝がいた。
鯨井と同様、この通告があったときに裏方として仕えると言って来た者である。
「で、博士、次回のご予定は」
「そうだな‥‥次回は‥‥」
紫煙が部屋を満たす。
呟かれた言葉は何だったのだろう。
紫煙に満たされた部屋は、遠くから唇の動きを見せるのをそっと拒んだ。
◇
「‥‥未来科学研究所には‥‥一体‥‥どんな秘密が隠されているのでしょうか‥‥?
‥‥と言いますか‥‥徹頭徹尾‥‥謎だらけですが」
迷い込んだ研究所の片隅で、奏歌は呟いた。
いや、迷い込んだのではない。わざと、この場に足を運んだのだ。
それは、前回悠季が倒れたとされる現場。そこには夥しい量の金属が積まれている。
かちり、かちりと音はすれど、どこかに時計でも紛れ込んでいるのだろう、怪しそうなところは特別見当たらない。
いや、この研究所自体が怪しすぎて、違和感がないといったほうが正しいのかもしれない。
「お嬢さん、ここで何をしているんだ?」
紫煙の香りが風に乗って流れてくる。
後に、それなりの上背を持つ者が立ったのを感じた。
「‥‥博士‥‥でありますか」
遠くから見たことしかない、心当たりの人物の名を口にする。
少し和らいだ空気の後、肯定の言葉が聞こえる。
振り向きたくとも、何故か振り向くことを躊躇わされた。
「‥‥実は‥‥博士は研究所で強化されて‥‥‥若返っていたりしませんか? ‥‥強化レベル10ぐらいで」
見えない彼に、まるで取り繕うかのように質問をする。
くすりと、笑い声が聞こえた。
「‥‥好奇心はいいことだ。だが、ここはまだ早いぜ」
頭に、暖かな感触が広がる。
「悪いことは言わない。広場に戻れ」
「――っ!」
有無は言わせない雰囲気に当てられる。
踵を返した奏歌の後姿を見守りながら、ジョンは一本煙草を取り出し、火をつけた。
振り返り、口角が上がる。
ここは、彼の研究所・聖域。彼にとっても、まだまだ未知なる物が溢れかえる場所だ。
「‥‥まずは、俺自身が楽しまないと‥‥な」
ジョンもまた、まだまだ好奇心溢れる者であるようだった。
◇−◇−◇
とある部屋の片隅で、一人ウィスキーを飲むものが居た。
香りから、モルトであろうか。中々の一品であるようだ。
彼の手元には、一本の縄が収められている。
UNKNOWN(
ga4276)だ。
「‥‥至高の芸術について語ろうと思っていたのだが」
ポツリと呟いた言葉が、壁の中へと消えていく。
テーブルの上に広げられているのは、写真と、これまでに至った彼なりの考えについてのレポート、そして‥‥普通の人は顔を背ける、マニアックな写真集だった。
「ジョン‥‥お前なら理解してくれると思っていたのだが」
一方的に思われているのは、なんとなく迷惑的なものではあるが、まぁこの御仁についてはそれが通じないのも致し方なさそうである。
こっそり言っておくが、ジョンにはこのような趣味嗜好はない。
荒縄を片手に、つまらなそうに酒を傾ける。
いつもと同じ、黒一色の井出達で。UNKNOWNは一人部屋の中で飲み続けるのであった。