●リプレイ本文
くず鉄Zと化したジョン・ブレスト(gz0025)は虚ろな目で未来科学研究所の前に立ちふさがる奇怪な金属たちを見上げていた。
パーツごとに、まだ彼らの原型が留めているものが見受けられる。
「俺‥‥ただ変身してみたかっただけなんだがな‥‥」
そんなことをボヤキながら、口にしていた煙草を鉄の塊に成り代わった靴で摺り消す。
後ろを見ると、先程研究員達が呼んだ助けなのだろうか、怪しい人影が見えた。
だが、ナンダロウか‥‥。
奇怪なくず鉄キメラに向けられる敵視が自分にも向けられているように感じるなど‥‥。
しかし、悪寒は過ぎ去ることが消してなかった。
◇◆◇
『フハハハッ! 現れたなくず鉄Zよッ! ここで会ったが百年目! 今日こそ貴様を、鉄くずにしてくれるわァ〜』
不可解なエコーと共に閃光が走った。
後ろから襲い掛かった衝撃に、ジョンは確かめるすべもなく(確かめたくもなかったのだが)身体が宙へと舞った。
先程までジョンがいた場所には、新手のバイクに乗った男が高らかに笑い声を上げていた。
「お前がこのキメラ獣の群を操っている親玉だな、そのくず鉄の固まりが何よりの証拠だ‥‥俺か、俺は特殊風紀委員の夏目 リョウ(
gb2267)だっ!」
「‥‥そんなに親玉すぐやられたらまずいじゃない」
なにやら隠しマイクをつけているのか、無駄にエコーがかかる声でフェリア(
ga9011)は倒れているジョンを足先でつついた。
「え?」
「ほら、いちおうこれ、副理事よ」
「おおぅ!? これはこれは失礼した!」
平謝りするも、いまいち緊張感に欠ける。
「すまなかった、見た目に捕らわれるとは‥‥共に戦わせて貰うぜ、くず鉄Z! 学園特風スーパーカンパリオン、装備の嘆きに只今参上!」
倒れこんでいるジョンを気にせず、夏目は愛機『騎煌』を身につけて、颯爽と変形したのだった。
「建物さえ壊さなきゃおっけーですよね?」
夏目の派手な登場で、長々と考えた台詞の出番を取られてしまったヨダカ(
gc2990)は助けを求めてきた研究員に尋ねていた。
「え、ええ。一応あそこは最重要機関なので‥‥」
「わかりましたですよ、では下がっていてください」
すっと立ち上がると、素早く高台へと上った。
「冬の木枯らし吹く風に、悪の笑いが木霊する!
くず鉄被害に泣く人の、涙を背負ってキメラの始末!
情けは無用! お呼びとあらば、即参上! なのです」
決まった、とばかりのポーズ。やはり言いたかったらしかった。
くず鉄キメラを見上げたレーゲン・シュナイダー(
ga4458)は、ゆったりと微笑み、武器に口付けをした。
「さァ、あんた達。大人しく私のコレクションに加わりな!」
目を付けたのはくず鉄。キメラではない。彼女の好きな、鉄の塊だった。
「おっきいだけじゃユウ達は倒せないんだからっ!」
負けじとユウ・ターナー(
gc2715)も手にエネガンを構え、大きなキメラをにらみつけた。
先程見かけたちっこいくず鉄は‥‥どうやら他のものの手にとられてしまったが、まだ他にも強敵はいる。しかし、彼女は負ける気はしていない。
ツインテールを揺らしながら、くすりと微笑む。
目の前には鉄。横にはレグ。
「くず鉄なんかバイバイなんだからーっ☆」
これは彼女への最高のプレゼントだ。傭兵の敵、だけど大好きなお姉ちゃんには最高のプレゼント。それが事が、彼女の微笑を深いものにしていた。
◇◆
くず鉄キメラの大きさは、かなりのものだった。
ゴーレムに匹敵するほどで、それも並大抵の金属ではなく、中々ダメージが加わらない。集まったくず鉄Zとその仲間達は苦戦を繰り広げることとなっていた。
「博士、貴方にいい武器を上げるわ」
先程から不穏な言葉を発するフェリアではあるが、ジョンを見上げ、隠し持っていたものを差し出す。
「‥‥これは?」
「これこそまさしく、くず鉄を治める者が手にする武器よ。その名もくず鉄ブレード。ありとあらゆるくず鉄から身を守りつつ、敵を退けてくれるわ」
手にしたものは、銀色に光り輝いた筒状のものだった。それこそ工事現場などにあるような‥‥。
「‥‥‥‥」
「ちょっと! 鉄パイプとか、バールじゃないわよ! くず鉄ブレードなんだから!」
「灰は灰に、塵は塵に、くず鉄はくず鉄に、っと」
偶然巻き込まれた沖田 護(
gc0208)も致し方が無いとばかりに闘っていた。
しかし、
「‥‥あれ? 柿原君?」
攻撃を繰り広げるさなか、相手のキメラたちの動きが変わったかと思うと、その人物が中央へと導き出された。
それは彼の知人、柿原 錬(
gb1931)に似ていて。
「何やってるの、そんな格好で‥‥」
呆れ返ってみるも、どうやら彼自身、姿を気にもしていない。それどころか、敵の陣の中央にいて狙われていないのだ。
『妾はくず鉄クイーン。くず鉄の指導者』
無機質な声が響いた。
既に彼の腕は生身ではなく、姿形、異形の者へと変化している。
口角を上げようにも、それは人としての表現ではなく、まさしく鉄の塊‥‥冷めた視線だけが見つめていた。
『覚悟もなしに、キメラに成り下がりはしない‥‥行け、我等が生まれし場所を守るのだ』
柿原が腕を払うと、周り囲んでいたキメラ達が再び、いや、より激しく攻撃を仕掛けてきた。
先程のような無秩序ではなく、そこに新しく生まれた秩序に従い。それはまさしく、くず鉄の指導者に従ってものであった。
「未来科学研究所を潰しに来るとはな、連中も本気と言うわけ、か‥‥」
夜十字・信人(
ga8235)は目の前に繰り広げられる混沌とはまさに己は違うと言いたげな表情で見下ろしていた。彼がいるのは、研究所屋上。
その横には、これまた無関係というように、硬く表情を崩さない紅月・焔(
gb1386)がいる。
「‥‥俺のエロさはゾディアック級だ」
いや、崩さないのではない。顔を覆っているのはガスマスクだ。彼は間違う事なき混沌、いや、変態のままだった。
「‥‥しまった。シリアスモードできちゃったよ」
「気にするな、よっちー。それよりせっかくだから変身しようと思うんだが‥‥」
「いきなりなの!?」
こくりと頷く焔。相も変わらず淡々とした表情で夜十字もまた彼に頷いた。
突如赤い閃光が、二人へと届きそうになる。
「!! 危ない! 焔シールド!!」
危機を察知した夜十字の反応は早かった。
偉そうに腕組みしていたのに、手は隣にいた焔へと伸び、そして‥‥あろう事か彼の首根っこを捕まえて顔面で赤い閃光を防いだのだ。
「ふぅ、危なかった」
額を拭いつつ一息ついた夜十字の横に、可哀想な焔がいるのはもはやお約束なのであった。
人々が戦いを繰り広げる中、一人テンガロンハットを目深に被ってギターを鳴らすものがいた。水無月 湧輝(
gb4056)だ。
白いギターをかき鳴らすと、それを苛立たしげに振り払おうとするくず鉄キメラたち。
それを余裕顔で避ける姿、まさに腹だたしいったらありゃしない。
「このままじゃ埒が明かないな‥‥」
避けてはいるものの、次第に退路が塞がれていく様に、流石の余裕も色を無くしていく。
「仕方がないな、変身とぉぅぅぅ!」
軽々と避け、フェンスの上から水無月は飛び上がった。地面へと落ちる中、彼は眩しいほどの白い光に包まれ、
「魔法少女りりかるYUHKI、ここに爆誕☆‥‥‥ってなんじゃこりゃ〜〜〜〜」
そこには一人、白いふりふり、そして白い杖を手にした少女(?)の姿があった。
光の余波か。彼(彼女?)の手元に一枚の紙が舞い落ち、読んだのか、すぐに顔を歪ませ、ビリビリと破りさった。
◇◆
目の前になお立ちふさがるくず鉄キメラたち。
最初とは違い、その行動は統制されたものとあって、なおさら手強いものとなっていた。全てはそう、現れたくず鉄クイーンの手によって。
槍斧を振りかざしつつ、夏目はくず鉄キメラへと立ち向かっていた。
「くず鉄Z‥‥あのくず鉄の目を眼鏡力ビームで打ち抜けるか?‥‥俺はそこに、カンパリオンショットを重ねる」
白かった鎧は、既に埃で汚れていた。肩からかかったマントも、既にあちこち鉤切れが出来ている。
「スーパーカンパリオン‥‥、すまないが、既にその力は俺にはないようだ」
曇った眼鏡を指でそっとなぞると、苦しそうにジョンは呟いた。
「くず鉄Z、俺に一つ策がある、力を貸せ」
ジョンの隣に並ぶと、夜十字は荒い息を落ち着かせながら囁いた。
より近くに‥‥耳元に囁きかけるよう肩に手を乗せ‥‥首を掴んだ。
「成功率は50%か、問題ない。俺が5%補って、お前が45%! 揃えば100%だ!」
いったいどこからそんな計算が出てきたのだろうか、あろうことか夜十字は、焔の時同様にジョンの首を掴みキメラへと登っていった。
「ま、待て少年。話し合おう!!」
担がれ(?)て向かう先を懸念したのか、ジョンは咳き込みながら訴える。
「いや、僕はモウ成人だ。少年じゃない、青年なのさ。それよりもおっさんかもしれない、いや心はいつでも青少年だが!」
「関係ないしっ!!」
「いや、待て。これは大変重要なことだよ? くず鉄Z。これは赤ちゃんはどこから生まれるの? って言うことよりもはるかに重要なことなのだ」
どんどんと近づくのは、大きく咆哮を上げるキメラの頭部だ。
既に先人、焔が別のキメラに突撃していた。
彼は一人、己の力を信じ、密かに先に変身を遂げたくず鉄Zを憧れて。
手に握り締めていたのは、ジャンクDNA。
『よっちー‥‥せっかくだから、いいよね‥‥』
ガスマスクの下に隠された笑顔を髣髴とさせる、きらめいた言葉を残し、彼は‥‥。
『【真・紅月・焔】参上!』
と、颯爽とムーンウォークで参上したのだ。100人となって。
「ちょっと! こっちみんなっ!」
鞭を振るうレグに、鼻息を盛大に鳴らして近づく焔。
何のことはない、100人になったと言えど、彼は戦力ではないのだ。
「ふ‥‥我が煩悩の前には‥‥屑鉄だろうがキメラだろうが‥‥男女だろうがブレストだろうが関係の無い事だ‥‥グヘヘ」
ええ、ただのセクハラの変態ということですね。大変わかります。
「‥‥嫌だ、俺は変態になどなりたくない‥‥」
胃がキリキリと痛み始めたのか、眉をしかめるジョンを夜十字は関係ないとでも言いたげに首根っこ捕まえて運んでいく。
「大丈夫だ、くず鉄Z。変態は焔の専売特許だ。貴公の専売特許はくず鉄のはず。それならば変態にはならない、問題ないではないか」
「いや、そんな専売特許はいらな‥‥」
「何を言う!! くず鉄が専売特許ではなくて、何が貴公の専売特許だというのだ! 胃薬か!? それともその謎の成人の子供の存在か!?」
「‥‥子供のことは謎ではないし‥‥」
「いや、謎だ。謎過ぎるぞくず鉄Z! いったい何時の時の子供だ、16か?16のときの子供なのか!うらやましいヤツメ!」
「だから違うって!!!」
そんなジョンの訴えにも拘らず、夜十字は進む速度を落とさない。
反対の手に握られしは焔さえも変えた、あのジャンクDNA。
果たして、それは運命を切り開けるのか!?
◇◆
全ては闇に攫われた。
それは、クイーンの名においての、崩壊。
くず鉄クイーンは、その姿を解き放ち、再び研究所は平和へと辿り着いたのだった。
庭に、たくさんのくず鉄を残して‥‥。
「やっだーッ☆ でっかいくず鉄ゲット!だと思ったらブレスト博士だったッv」
大きく舌を出して頭を小突いたユウは、レグへとあげようと思って集めたくず鉄たちの中に紛れていたジョンを発見して銃口でツンツンと突いていた。
しかし、ジョンは起きようとしない。
いや、起きたくないのだ。
丸くなって抱え込んだひざを離そうとせず、ひたすら縮こまっていた。
「えーッ? 本当にブレスト博士、なの?」
かくりと小首を傾げるものの、突くのをやめようとしない。
「‥‥ジョン。全ての元凶は、あんただろう?」
カツッとブーツを鳴らすと、ジョンの腹部を踏みつけ、にっこりとレグは笑った。
「お、俺じゃ‥‥」
「御黙り! ‥‥さて、お仕置きの時間といこうか」
手には鞭、そして横からは銃口。
はてさて、本当に元凶は彼だったのか。その真相は闇に紛れたまま、楽しいお仕置きタイムがジョンを待ち構えていたのは言うまでもない。
「‥‥あとは‥‥もう一人絞めに行かなきゃ‥‥」
再びテンガロンハットを目深に被った水無月は静かにその場を去っていったのだった。