●リプレイ本文
転機を前にして思うこと。それは、人それぞれなのかもしれない。
ソラへ飛ぶとき、人は、何を望むのだろう。
ソラを目指すとき、人は、何を架け橋にするのだろう。
ソラに憧れを抱く、一人の友人。
彼にとって掛替えの無いもの‥‥彼をかきたてた、唯一のものへ。
◇
こっそりと、隠されたように貼られた温泉ツアーの案内。
それは、流石に大々的ではまずいかしらと考えた研究所職員達の温情があったかどうかは定かではないが、
「無料で遊べる‥‥ね。嬉しい事、ですけど‥‥」
ラナ・ヴェクサー(
gc1748)は思わず十字を切っていた。敬虔な信者ではないが、彼の今後については思わず天に祈りたくなってしまう。
「‥‥ゴチになりますっ!」
アレックス(
gb3735)は頭に浮かべた未来科学研究所へと頭を下げた。
「‥‥温泉、か‥‥」
キョーコ・クルック(
ga4770)の誘いを受けた周太郎(
gb5584)は、目的地に辿りついてもいまだ思案気だった。
なにやらずっと頭の隅に絡みつくものがあるらしい。
同じく思案気なのは秋月 祐介(
ga6378)である。まぁ、彼の場合は常に何かしら悩んでいる気もするので、ほっといても支障はないだろう。もはや、そのスタイルが定着している。
「ふう。なんか、気ぃ抜いてるのって久し振りな気がする」
そっと寄り添う長瀬 怜奈(
gc0691)を抱きとめながら、神楽 菖蒲(
gb8448)は息を吐いた。
続くばかりは戦争なり。相成れない存在との戦いは、未だ休むことを知らず、許されないと見うるかもしれない。
「は、初めてなんだ‥‥」
そう呟く怜奈を優しい視線で見守りつつ、この時間が作れたことに喜びを感じていた。
‥‥こんな時期なのに、いや、今だからこそと。
「大丈夫よ。ゆっくり、しましょうね」
いったい何処にあるのやら、それは謎のままではあるが。
某東の島国風の温泉施設が、彼らを迎え入れたのだった。
◇
浴室は7種のお湯を含め悠々とした広さを誇っていた。
規模としては、50人入っても平気なほどである。だが、そこは傭兵達が利用するとのこと。こっそり手配された貸し切りで、思わずほくりと笑みが出てしまう。
男女別に分かれた浴室は、大小様々な浴槽と20名ばかりが一度に使用できるほどの洗い場を設けていた。別施設としてサウナもあり、マッサージルームも広間の方に戻ればある。普段の利用客数はわからないものの、これであればゆったりとくつろぐ事は出来そうだった。
「よそで風呂に入るんなら広いとこでしょ。当然」
ふふんと鼻で笑う菖蒲にぴとっとくっつく怜奈。
「菖蒲、温泉って気持ちいいね〜」
天然成分たっぷりである。広いだけでも十分なのに贅沢な心地よさである。
◇
入って速攻露天風呂へと向かったアレックスは、顔を真っ赤にしながら隔てる壁を見ていた。
――まてまてまてまてっ! の、覗く気なんてないんだからなっ!
そんな彼の心の奮闘を知ってか知らずか。
「アレックス‥‥何顔を赤くしてるんですか? もう上せたのですか?」
しれっと指摘するメビウス イグゼクス(
gb3858)。
「う、うるさいっ! まだ上せてなんてっ! ‥‥うっ」
「‥‥少し身体を洗ってくるといいんじゃないか?」
ちょうど入ってきた秋月にも指摘を受け、アレックスは心の葛藤とは裏腹に、早々に断念する結果となってしまった。
――くっ! うまくいけば聞こえたかもしれないのにっ!
ふらふらとするも、頭の中ではしっかりと考えて。そんな調子だったからか‥‥。
「うぎゃっ!」
すてんと、石の上で見事転び、大きな声を轟かせたのだった。
◇
「あれ? あの声‥‥アレックス?」
「うぁ‥‥なにやってるんだろうね」
まだ室内で身体を洗っていたトリシア・トールズソン(
gb4346)とサンディ(
gb4343)だが、人が少ない上に大声で、聞きなれた声が届いたことに驚いた。
「まぁメビウスも付いてるし、大丈夫だよね」
「うん、後で聞いてみようか」
くすりと笑いあいつつ、サンディはトリシアの背中を洗ってやる。
「さあ、どのくらい成長したか見てあげる」
まるで妹の成長を確かめるように、トリシアの感触を確かめるサンディ。
トリシアも嬉しそうに、
「ちょっとは、成長したよね?」
そして照れ臭そうに訊ねる。思い返せば2年前、彼女と一緒に入って以来の温泉だ。
まだまだ幼いなりにも、少しずつ成長していること、特に女の子にとっては気になるところで。
「うん、トリシア」
暗に成長しているよと、にっこり返してくれる友人に、トリシアは抱きついていた。
僅かに見えた傷跡にどきりとしつつも、声は出さず。また、サンディもそれには触れず。ただ、今このときに笑い合える安心感に、ほくりと笑みを返しあっていた。
「美肌効果もあるみたいだからね〜、これで周太郎を‥‥」
キョーコは湯船につかりながら、くすりと微笑んだ。
ここの温泉はどうも効能的に肌に良いものが含まれているらしく、今回参加した女性陣たちも、そこに惹かれてやってきているらしい。
後微妙に気になる点が一つ、『胃腸に効く』ということなのだが。
「湯治で体調改善‥‥できる、ものなのかな‥‥」
少し不安げであるラナだったりする。
「ヴェクサーちゃん、背中流してあげよか〜」
くいくいと手招きする藤堂 媛(
gc7261)にこくりと頷き、彼女の為すままに。
「どぉ? きもちいいやろ」
温泉と聞きしも、来るのは初めてで。そんなラナを誘ってくれた藤堂に、はにかみながら答える。
「‥‥ありがとう、藤堂君」
「菘さんやわらかい〜♪ むにゅむにゅ」
柚紀 美音(
gb8029)は高日 菘(
ga8906)の胸を惜しげもなく前側から触りだした。
「わわっ、みおちゃんも大きいなぁー?」
くすりと笑いながら、ドヤとばかりに反撃。
「‥‥‥」
少し離れた位置にいる恋・サンダーソン(
gc7095)はなにやら複雑な視線を彼女達に送っていた。その身体はタオルに包まれて‥‥。
「恋さん‥‥温泉でタオルはなしだよ?」
むぅっと美音は恋を見ると、菘もこくりと頷く。そして‥‥。
「れんれんにはまっさーじをー」
視線を交わした二人は、容赦なく恋に巻きつくタオルを奪っていた。そして体中をわきわきと。
「ぎゃーっ! ナニするんだっ!」
抵抗は許しませんとばかりに、2人がかり。ひぃひぃいいながらも、くすぐったさも相まって笑いが止まらない。
「もうちょっと、食べた方がさわり心地良く‥‥」
美音が恋をぺたぺたと触っていたときだ。黒い何かが飛来する。
にっこりと微笑んだ恋が美音の顔を水面まで落としていたのだった。
◇
「バグアとの戦いも佳境だがな、サンディを泣かせるような事はするんじゃねェぞ。
んで、何かあったら、きちんとアイツを守ってやれよ、色男さんよ」
先ほどの事もあり、面白くないといわんばかりにアレックスはメビウスに話しかける。
メビウスは、そうですねといいながら、空を見上げていた。
「聞いてんのかよ」
「ええ、もちろん」
タオルで顔を拭いながら、メビウスは軽く返す。
「で、どうする気だ」
「‥‥変わりなく」
毅然とした態度が、少し面白くない。だけどぶつけていい場所でもない、願うのは‥‥家族のような彼女の幸せ。
そして‥‥まさしく、自らも立ち向かわなければ行けない状況。
「‥‥くそっ」
アレックスはざぶんと、頭から湯に浸かったのだった。
◇
「ねねっ! 変なお風呂があるよ?」
せっかくだからと、全部の種類を確かめようと探検し出した3人娘。
物珍しさも重なって、キョロキョロするも、指摘されるととたんに切れる恋を中心に、湯船ツアーになっていた。
「え? 何々‥‥食べ物風呂?」
見つけたのは少し離れた一角。パンフレットに載っている、月替わり風呂と書いてあるところだった。
「わぁ‥‥どんなのなんだろう」
どうやら個室になっているブースでは特集風呂と題した変わり風呂をやっているようなのだが、そこに書かれいていたのはとても怪しい文字。
不安に思いつつも、わくわく感が止まらない若さゆえの感覚は、禁断の扉へと手が伸びる。
『コーラ風呂』
『カレー風呂』
どういう組み合わせなのだろうか。実は、隣にはこっそり柚子風呂もあったり。しかし、そこは普通すぎて気付かないのだった。
「自分が食べ物になった気分ですか。‥‥意外と、甘い香り‥‥?」
首を傾げつつも、とっぷりと浸かる。
「やべ‥‥カレー食いたくなってきた」
「コーラにしようよ! 熱いから、さっぱりするよ!」
「えー? もうおなかいっぱいだよ〜。匂いだけで‥‥」
ざばっと出た直後に「次はサウナで勝負!」と叫ぶ恋、他の二人も勝負を考える。
罰ゲームとかを考え出しているあたり、一番満喫しているといえるのかもしれない。まだまだお風呂は3種類目。無事全制覇出来るのだろうか。
きゃっきゃと隣が騒がしい中、柚子風呂でゆったりとした時間を過ごしていたのはラナと藤堂だった。
「気持ち悪い、もの‥‥見せてしまった、かな‥‥」
眼帯を外していたラナは、思わず見つめていた藤堂に少し鈍い笑みを見せた。
「依頼で‥‥負った傷でね。他の箇所は治ったのに‥‥此処と、此処だけ‥‥ね」
指した左肩にあるのは、大きな裂傷。受けたときの痛みを感じたのか、きゅっと藤堂の顔が歪む。そんな彼女に、ラナは優しく頭を撫でた。
「大丈夫。今は‥‥痛くない」
「‥‥ほんまに?」
恐々と聞き返す言葉に、こくりと頷く。
ほっとした顔を見ると、緊迫した空気も消えた。
――大丈夫‥‥貴女がいてくれたから。
ぽつぽつと戻る会話。こくりと聞く藤堂。それは彼女の優しさが溢れた、優しい一時だった。
◇
秋の気配がしていた。
「それにしても‥‥温泉はいいねぇ」
しみじみと曇った眼鏡を拭きつつ、秋月は満足気に息を吐いた。
溜まっていたものが、トンと胸の奥から出てくる気がする。
浮かべた桶に乗っているのは日本酒で。くいと仰げば、それはまたいい気分になる。
「これぞ、日本文化の極みだよ‥‥」
肩に触れる風は少しばかり冷たく。それでも上気した体温を冷ますには心地よい気温で。思案には、もってこいの環境である。
「おや、秋月さんも‥‥」
「おぉ、周太郎さんじゃないですか。いっぱい、いかがかな?」
「‥‥それじゃ遠慮なく」
吸い込んだ酒気はたちまちほろ酔い加減へと誘う。
ぽつりと浮かんでは、消えていく。その泡を追いながら、深く深く、自分の中に入り込む。誘引剤だ。まさしく、思考の檻への。
◇
「菖蒲〜背中、流す?」
「ふふ、お願いしていい?」
たっぷりと泡立てたタオルを手に、怜奈は菖蒲の背中にそっとあてる。ゆっくりと、そして適度な強さで磨かれていく感触に、菖蒲は嬉しそうに身を委ねる。
「少し、熱いかも‥‥」
出されたシャワーの温度を気にしつつ、腕の方から確かめるようにかけてくるが、菖蒲は首を振り、平気と伝える。そのことに安心したのか、隈なくかけ、ぴとっと身体を寄せた。
「どうしたの?」
「んん」
ふるふると答えるも、ふにゅりとじゃれ付いて‥‥菖蒲は鏡越しに怜奈の表情を伺うと、触れた胸を抑えながら真っ赤になっているがわかった。
「今日は、やけに積極的ね?」
そう返すと、とたんに固まりそうになる怜奈を、向きを変え、菖蒲は抱きしめていた。
スクリュー風呂(別名洗濯機)と書かれていた浴室は、少し狭いところだった。
立て掛けるタイプの看板を、浴室前に置くことによる仕様。
目の前にあったのは、殺風景な丸い浴槽と、見慣れないボタンである。
「え‥‥、これが、ジャグジー?」
不信感たっぷりの様子で恋はしげしげと見つめる。
「まぁまぁ、入っちゃおーよ!」
全部を制覇してやると豪語する美音にとっては、これで後は、一般的な浴槽だけになる。まさかの個室風呂まであるとはと思いつつ、そっと羽織ってた浴衣をとり、ちゃぷんと湯の中へ。
「へへへ‥‥では、いきますかっ!」
説明など一つも書いてなかった。ただ、勘だけが働いた。
押したのは赤なのか、黒なのか。そして、どうなったのか。
それは、彼女の悲鳴だけが物語ったのだった。
「美音も洗濯されちゃうんですかー!?」
◇
「なぁ、あの噂確かめない?」
ぬくぬくと心地よく温まっていた椿(
gb4266)にツバサ・ハフリベ(
gc4461)はにやりと笑みを零した。
「噂?」
ボーっとしつつもぐるぐると考えると、パッと思い浮かんだのは。
「ブレスト博士の!」
「そうっ!」
思い立ったらこうしちゃいられないとばかりに、2人はそそくさとお風呂をあがる。
果たして彼らは見つけることが出来るのだろうか?!
作戦はズバリ! スパイ○作戦!
しかし、いそぐ間際に転ぶのは、デフォなだろうか。ツバサくん。
様々な温泉を堪能したものの、流石に疲れの色が見えないのは若い証拠か。
既に回った6種の温泉たち、残す最後の一つに迫っていた。
「せや、サウナで我慢大会、3位の人は1位の人にマッサージ〜」
「ええっ?!」
最初に言い出したはずの恋が、菘の出した罰ゲーム内容に不服の声を上げる。
「勝負ですか? でも、わりと暑さには美音、平気です♪」
美音はにへらとしつつ、ざばっとタオルを水につけた。
「ふふ、マッサージやで? 最後に美味しい、気持ちいいことやっ」
わきわきと握る手。その動きに、ううっと恋はためらう。
「ま、負けないんだからっ」
声に出して言うものの、その顔色は少し悪い。
「れんれんは、既に負け連続だからねぇ」
追い討ちとばかりにいう菘。
「ま、負けてなどいないっ!」
――数分後
「やってられっかー」
大きな音を立てて開かれた扉から出てきたのは案の常恋で。扉の向こうには、ひらひらと手を振る菘と美音が見える。
「‥‥くそっ」
やはり悔しいのか、ぶつぶつといいつつ、恋は早々に水風呂に行くと、いっぱい桶に汲んだ。
扉を開けて、2人と目が合う。
にやり、黒い笑みが見えた。
次の瞬間だ。
「ちょっと、蒸気! 蒸気! あつっあつぃぃぃ」
水をぶっ掛けた後、逃げ出した恋。焼け石に水とは、まさにサウナでは地獄。
2人はあわあわと出ることになった。
「ふわぁ〜」
水風呂に浸かると、じゅわーっと冷やされる2人。若干遅く出た美音が勝ち、となったのであった。
◇
「んー、気持ちいいわねぇ」
豊満な姿態を惜しげもなく晒し、伸び伸びとくつろぐ久留巣野 麗(
gc7643)。
ちろちろと様子を気にするも、そこにいるのは少し身体を隠したエレシア・ハートネス(
gc3040)と、月隠 朔夜(
gc7397)だった。エレシアも朔夜も長い髪を結い上げ、お湯に触れないようにしている。
「ふう‥‥露天風呂に入るなんて久しぶりです‥‥」
ついと風に涼むように額を拭う朔夜は、心なしか色っぽい。
そして、胸元を気にするような仕草のエレシア。きゅっとつめるように巻いたタオルを、麗はじとりと見つめた。
「ん? 成長が気になるのかい?」
姉御肌で世話好きなのか、相談に乗ろうかと思って近づいていく。
「ん‥‥また大きくなったかな‥‥」
その言葉に、かけようと思っていた言葉を麗は飲み込んだ。
近くで見ると、かなりの強さで押さえつけているのがわかる。それでも‥‥大きさは、麗と変わらないほどで。
「‥‥くっ」
なにやら悔しがりつつ、ざばりと湯船からあがると、丁度視界を妨げる壁に向かって歩いていった。
「‥‥これは、向こうを覗くしかないな」
逆発想である。
すでに、想像しただけでのぼせたものもいたのだったが、実行に移した人物は未だ皆無で。
にやりと笑むと、麗はその壁の向こうを目指したのだった。
◇
「気になるなら、覗けばいいじゃないか」
露天風呂に入りながら岩場にもたれかかるアイフリード(
gc7129)は、目の前でそわそわする若い者達を見ながら、にやりと嗾ける。
「べ、べつに覗く気など」
そうは言いつつも、露天風呂だ。先程から少し女性陣の声も聞こえてきたりして、心拍数が治まりそうにない。
「――若いって、いいですねぇ」
お酒をちびりちびりと傾けて、秋月もアイフリード同様に寛いでいた。
もし考え事がなかったら、率先して乗り込みそうな気もするのだが‥‥まぁ、それは別の会場であってのことなのか。
「ぼ、ボクは他のところ行って来る!」
一抜けたとばかりのツバサは颯爽と室内へと移った。また、スパイ作戦の続きをするのだろう。
「そ、それならぼくも‥‥」
そう勇海 東吾(
gb6517)が言いかけた時。
ガタッ
女湯の方から、壁が倒れてきたのだ。
「「‥‥‥‥」」
そこに立っていたのは、惜しげもなく姿態を晒した麗で。
後ろでは、自分の大きさを確かめるエレシアが、少しだけ顔を上げ、かくりと首を傾げた。
すすすいと、うまい具合に後ろを向く秋月。呆然と呆ける東吾。
そして‥‥
「‥‥朔夜、か」
「え‥‥あ、アイフリードさんっ?!」
まさかの遭遇に、固まる朔夜と‥‥思わず恋人に見入るアイフリード。
「あっはっは。壊れちゃった」
麗はただ、かしかしと頭を掻くだけだった。
◇
「気持ちよかったっ!」
浴衣に着替えたトリシアとサンディは、待ち合わせ場所にと現れた。
待っていたのはアレックスとメビウス。いつもより、キラキラと輝いて見えるのは気のせいなのだろうか。
「‥‥っ」
「どうか、しましたか?」
さっと顔を赤らめたサンディにメビウスはにこりと訊ねる。
「な、なんでもないよ!」
「よぉし、何かやるか? おなか空いたし、まずは美味いモンかっ」
アレックスの言葉に、トリシアは嬉しそうに頷く。
4人で回る出店。メニューはたこ焼きに、焼きそば。時折わたあめなんかも懐かしく、縁日ならではの楽しみである。
強請られたヨーヨー釣りは、見事アレックスの敗退に終わり、ちゃっかり獲得するサンディなど、トリシアは嬉しそうに見つめる。
くいっと、アレックスの袖は引っ張られる。
「ん?」
「あれ‥‥欲しい」
ボソッと、トリシアの囁き。
ついと見つめる先を見ると、射的の店で。そして可愛らしいぬいぐるみがあった。
「あれ、か?」
こくりと頷くトリシア。
その様子にどきりとしつつ、不安がよぎるアレックスだった。
「お待たせ〜浴衣着てみたんだけど、どう‥‥かな?」
湯上りのせいか、幾分紅潮したキョーコはついと落ちてくる髪を耳へと掻き上げた。
夜会巻きへと仕立てた髪型は、紺色の浴衣から覗かせた白い項を強調し、それは絵柄の彼岸花の儚さもまた引き立てていた。
「あぁ‥‥いいんじゃ、ないか?」
特に持参したものもなく、洋服姿のままの周太郎は、素顔をサングラスの中に隠したまま、キョーコを見ていた。時折思い出したように頭を振るも、浮かれているキョーコはそれに気付かず。
まだ暫し、狭き檻へと引きずり込まれそうになりながらも、縁日へと足を向けた。
お風呂をあがっても、きゃっきゃと賑やかな三人娘。衰えを知らない体力に、少し羨望の眼差しで見つめるものもいる。
「お風呂ではこれが、欠かせませんね! ビン入り牛乳!」
しゅぴぴーんと取り出したのは、定番の瓶入り牛乳だ。蓋の部分は昔と違い、プラスティックで覆われているものの、サイズといい、形といい、これぞ伝統! と言わせたいものである。
そして、何故かいきなり始まったのは早飲みである。腰に手を当ててごぶごぶといく様は、ちょいお前ら、嫁入り前の娘がいいのか? という有様で‥‥。
「げふ‥‥そんなに早くは飲めません‥‥」
言いだしっぺの恋が最初に脱落だったり。サウナに引き続き、恋は連敗中である。
「ほらー、れんれんもちゃんと飲まへんと背ぇ伸びんでぇー?」
ニヨニヨと見てくる高日にツンとそっぽ向く。
「だ、だって取ったのコーヒー牛乳だったんだもん」
まさしく、いい訳であった。極度の甘党を誇る彼女ならではであるが、コーヒー牛乳も十分に甘い。某練乳入りコーヒー牛乳でなければいけないのだろうか。
「えっと‥‥トータルで負けは恋ちゃんだね」
にやりとする菘。美音も負けじとこくこくと頷いている。
「こ、コレ考えたヤツ、バカじゃねーの?」
考えたのは恋である。
「恋ちゃん‥‥怖くなった?」
にやりとしつつ聞く美音。腹の中は真っ黒だろうか。
「そ、そんなことねーよ!」
「よーし、女に二言はないよな? 罰ゲーム、開始っ!」
こっそり見ていたツバサが、掛け声をかける。
「うっさいよっ!」
すかさず恋から蹴りを頭部にくらうも、お約束といった具合なのだろうか。
「何処かしてほしいところある?」
広間の休憩所は、畳が敷かれていて伸び伸びとくつろぐことが出来ていた。
「ん、ああ、そこ、いいかも‥‥」
怜奈にマッサージをされている菖蒲は心地よさ気に手足を伸ばす。
肩甲骨から始まったマッサージも、コツを掴んできたら、各所へと渡り、
「強さは大丈夫?」
疲れが出やすい腰や、足のふくらはぎなど、的確に揉み解していた。
『あーあー、こちらツバサ、状況どぞ?』
『こ、こちら椿‥‥くず鉄も見つかりません』
交わされる無線連絡。未だ、発見ならず。
「う〜ん、やっぱり銃は苦手だよ」
射的を前にして、サンディは困ったようにメビウスを見上げていた。
アレックスやトリシアも、と思っていたものの、どうにもぬいぐるみを獲得しようと息巻く2人の邪魔はしたくなくてメビウスと射的に興ずる。
「そうですか? ‥‥では、こうはどうですか?」
少し位置を変え持たせるも、サンディは残念ながら中てられない。
「ふふ、ではサンディさんの分も私が頑張って挽回してみましょう」
やや高い上背を、的に合わせ屈みこむ。見つめた先は、サンディが可愛いといっていたぬいぐるみで。少し自身なさげながらも、彼の視線は真剣そのもの。
ゴクリと、息を呑む音すらも響いて聞こえてしまう。
ザシュッ!
中ったのはその横にあった小さな置物。馬の形をした、青い陶器だった。
「あ、これメビウスに似合うかも!」
嬉しそうに微笑むサンディを見て、メビウスもまた、釣られるようにして笑んだ。
今にもはち切れそうなばかりの胸を軽く押さえただけのチャイナ服で麗は東吾の腕をしっかり捕まえていた。
「あの‥‥困るんですけど」
何がとは言わない。視線の先も、どこか彷徨う様に正面や、少し外れた場所に泳いでいて。
「そんなこといってると、食べちゃうよ?」
くすりと妖艶に微笑む。
「た、食べるって何をですかっ!」
「ふふ〜♪ 今何想像したのかな? えっちー」
「えっ?! な、何ぬかしてるんですかっ! 歩くリビドー生産工場!!」
「ひっどーいっ。みんなそうじゃない」
「‥‥麗さんほどじゃないと思います」
「‥‥そんなこと、ないわよ。ほら‥‥」
指し示した方向に視線を向けると、東吾は思わず口元を押さえた。
そこにいたのはエレシアである。
温泉上がりなのか、普段からなのか。ぽーっとした視線に、普段下ろされている髪は、軽く結い上げられ、ここで借りたと見ゆる浴衣を着ていたのだが‥‥。
「流石のあたしもねぇ、あの子には負けるわ‥‥」
幼い顔に不釣合いと取れる、妖艶な‥‥。
「――っ」
いくら麗の行動に慣れていても、所詮は男の子。とりあえず羽織っている、そうともいえる浴衣は前を半分も隠せてなく。きゅっと締まったおなかで、余計強調されているのだ。そして、先程垣間見た姿態を思わず思い出してしまい‥‥。
押さえた口元から、いや、その上なのか。
お風呂にいるよりものぼせ上がった東吾の顔を、麗は情けなさそうに見るのであった。
「お弁当作ってみたんやけど、良かったらどーぞー」
広間に行くと、ごそごそと取り出してきたの荷物。
藤堂が用意していたのは重箱だった。彼女的にはちょっとしたご飯、だが、十分に豪華なそれに感嘆の声が上がる。
「はい、ど〜ぞ〜」
ひやりと頬に当たったのは、硬いもの。振り返ると、藤堂がにへらと缶チューハイを頬にくっつけていた。惚けた肌に、沁みこむ。
両手で、その手を押さえつつ、ラナは素直な気持ちで、言葉を重ねる。
「‥‥いつも、誘ってくれて‥‥嬉しいです、ね。‥‥大分、貴女に‥‥救われた‥‥」
照れ臭そうに否定する藤堂。それでも、ラナの心には、今までとは違う安定した気持ちが芽生えていた。
「おや‥‥」
美味しそうに重箱をつつく2人の横を、秋月が通りがかる。
「‥‥‥」
もぐもぐと口を動かしつつ、少し気まずそうに挨拶するラナ。そのラナにちろりと意味ありげな視線を投げつつ、
「‥‥相変わらず、薄いですね」
――○○○!
放たれる殺気。
「あぁ、でも浴衣は似合うよ、うん」
しかし、その一言で少し上気する頬。それを確信しつつやるから、性質が悪いのであるが。
そんなことも忘れるぐらい、嬉しかったりする一言だった。
『こちらツバサ、めちゃ美味しそうな重箱発見。とりあえず、腹減ったっす。どぞ』
『こちら椿。現在お風呂付近です。未だ痕跡も発見できず、どぞ』
「‥‥危ないから、掴んで」
そっと周太郎がキョーコの手をとると、コートの裾を握らせる。
「ごめん‥‥ちょっと転びそうで‥‥」
謝るも、顔は真っ赤で。不意と見上げたら光の反射で見えなくなる視線。少し悲しく、でも、諦める気もなく。
視線を逸らした先にあったのは、トリシアたちも楽しんでいた射的。既にぬいぐるみはないが、何かあるかもしれないと店の親父に声をかけた。
「‥‥ん、やるのか?」
キョーコを見ると、こくりと頷かれる。
――少しは、頭が冷えるかもな
そんな周太郎の気持ちは知らず、キョーコは浴衣の袖を捲り上げ、意気揚々と身構えた。真剣な瞳、そして近づく‥‥が、
「おっと‥‥」
危うくバランスを崩して、地面に吸い込まれそうなところを救い上げると、柔らかな感触が手の平に感じた。
「‥‥ひゃぁ‥‥」
さらに赤くなる顔に、謝罪を告げる周太郎も赤くなって。
代わるように銃を手にした周太郎は、全然集中できない状況に悩みつつも、振り払うはずのものが、さらにまとわり付く結果となっていた。
「ふぅ‥‥お風呂あがりにはやっぱり、フルーツ牛乳です‥‥」
「そう、だな‥‥」
まさかの露天風呂ハプニングで少しだけ気まずい朔夜とアイフリード。
フルーツ牛乳を飲むも、どこか気まずげな空気が漂う。
アイフリード自体は、それほど動揺はしていないものの、やはり女の子である朔夜にはきつかったかも知れないと、様子を伺うように少しゆっくりとしながら。
「‥‥まさか、壁が倒れるなんて‥‥」
しかもまさかの女風呂のほうからだ。
「まぁ、なんだ。俺は関係ないんで見逃してもらえる?」
「‥‥あの‥‥露天風呂でのあれは‥‥事故‥‥ですし‥‥私は気にしてないですから‥‥」
動揺が激しかったのか、朔夜の中では男風呂にいたのはアイフリードだけになってる様子で。こっそり胸を撫で下ろしたアイフリードは、朔夜をそっと包み込んだ。
「あ、アイフリードさん‥‥」
「この前の詫びというのはなんだが、今日は朔夜はワガママ言っていいぞ」
先程の口直しにもなと、掠めるように奪われる唇。
「その‥‥恋人同士‥‥ですし‥‥それに‥‥夫婦になるのですから‥‥」
嬉しさと恥ずかしさで顔を上げられない朔夜の様子に、満足気に笑みを浮かべながら。
もう一つおまけとばかりに奪いつつ、朔夜の肩を抱きながらアイフリードは縁日へと消えていった。
「ツバキクンっ!」
メビウスと縁日を楽しんでいたサンディは目の前を怪しく通り過ぎる男の子に声をかけていた。一緒に居たメビウスに、いくつか言葉を告げると、腕を掴み、近くの椅子へと座らせる。
「サンディさん‥‥」
「ほら、髪ぼさぼさだよ? そのままだと、変な癖ついちゃうんだから」
懐から取り出した櫛で、手際よく整えていく。
それが心地よく、思わず椿はスミマセンと謝ってしまう。
――お邪魔、したくなかったのに
そんな彼の心とは裏腹に、サンディは一本の紐で髪を結いだした。
「‥‥ダメだよ? 無茶ばかりなんだから‥‥」
心配になる、そんな後輩。だから彼の言い分にも、少しだけ彼女は耳を貸す。
「‥‥スイマセン‥‥で、でも俺、その、また怪我すると、思い、ます‥‥」
戸惑いつつも、でも、彼もしっかりと自分を持っていることを知っているから。
「その、怖いけど、痛いけど、知りたいんです‥‥」
怪我なんて、心配してない。
「あ、あの人の居た世界、を‥‥その、更に先の、世界を‥‥ど、どうしても‥‥」
同じ土俵に立つ武人なのだ。心配なのは‥‥
「‥‥心配してくれてるのに‥‥俺、酷いヤツです‥‥ごめんなさい」
心が傷つくこと。前に、出られなくなること。
「しっかりしなさいよ」
結い上げた紐を、適度に巻きつけて。激励と共に押したのは彼の勇気。
気付いたかはわからないけど、返ってきた笑顔にサンディは、くしゃりと笑む。
『こちら椿。つかまって髪結ってもらいました、どぞ』
『おお、よかったじゃん! も少ししゃきっとすればかっこいいぞ? どぞっ』
「今日は楽しかったー。遊びすぎて少し眠く‥‥」
罰ゲームのマッサージも一通り終わった頃。美音は度重なる心地よさに、暫し睡魔に誘われていた。
「‥‥こんなところで寝たら、風邪引くぞ」
そんなこといいつつも、そっと肩掛けをかける恋。美音の頬が緩む。
「もふもふさせてー」
わふっと抱きつかれ、体勢を崩すと、そのまま美音に押さえ込まれる。
「な、なにを?!」
得意気に口角を上げると、ちまっとお茶を飲んでいる菘を空いている手で手招きし、
「菘さんもそっちそっちー」
「は〜い♪」
「わわわっ?!」
見事恋の抱き枕の完成。必死で逃れても離れない二人に、いつしか恋も諦め、三人ころころと転がっていたのだった。
「ちょっと、ここは立ち入り禁止よ? 坊や」
キョロキョロと覗いていたところ、椿は後ろから声をかけられた。振り向くと、恰幅のいいおばさんがやれやれと言った感じで立っている。
「わわ!? ‥‥あ、あの、ここ、どこでしょう」
わたわたと、そして冗談ではなく半分迷いかけていた椿の答えに、おばさんはさも同情しつつ、
「‥‥迷子かい。ほら、そこの角を曲がって‥‥そうしたら、大きな置物があるから。そこを右に向くと、頭の方に表示が出てるからネェ。それを頼りに戻りんしゃいな」
「す、すみませんっ。ありがとうございます」
気をつけてねの言葉に、必死に頭を下げつつ、椿は言われたように道を辿る。
『‥‥こちら椿、関係者エリアで迷ってました、どぞ』
『おうおう、大丈夫かよ。そろそろ戻る時間だぞ、どぞ』
「‥‥」
隣を歩くも、いつしか言葉少なになってきて。はしゃいでいた筈も、どこか別の場所にいる感覚が否定しきれなかった。
「ちょっと湯あたりしてる? 少し休もうか?」
不安を隠しながら、キョーコは覗き込むように訊ねる。
「‥‥そうだな」
少し広間の奥まった方で、キョーコは心配そうに見つめながら、
「枕に出来るものが見当たらないから‥‥膝‥‥使う?」
湯あたりしているなら横にならなきゃと、周りはもう使われていて。
「‥‥すまんな」
そっと借りた膝に、甘い匂いが、鼻を掠めた。
眼を閉じると、ふわりと漂うそよ風。優しさが、脳裏で別の人物と重なる。
――眠れば、これも‥‥
晴れるはずだからと。
次第に寝息に変わっていく様子に、ほっと胸をなでおろした。
様子を伺おうと、近づく距離。次第に落ちる影が広まるも、、重なる前に止まる。
――卑怯には、なりたくないな。
振り向いてもらえないのは、辛い。でも‥‥そっと溜息を押し隠して、キョーコは扇子を扇ぐのを止めなかった。
◇
「ん‥‥ブレスト、見つからなかったの」
お礼にマッサージでもと思っていたエレシアは、お風呂を上がってからずっとブレストを探していた。あちこち見たものの、どこにも痕跡はなく。
遊びがてらに探していた椿とツバサに聞いても、影も形も見当たらなかったという。
「ん‥‥お礼、したかったのに‥‥」
忙しくしている彼のマッサージをして、そして‥‥と。考えていただけに、少ししょもりとしてしまう。
「‥‥お礼、しなきゃ」
とてとてと向かった先は、施設のフロントで。そこで貰った便箋に、一生懸命言葉を書いていた。
「ありがとう、菖蒲」
腕に絡みつきながらお礼を言う怜奈に菖蒲は蕩ける笑みで返す。
「私は、怜奈と一緒にいたいから、こうしてるのよ」
微かにかかる前髪をはらい、そのまま頬を優しくなでる。
「愛してるわ、怜奈」
「菖蒲‥‥」
伸び上がったつま先。閉じられる瞳。少しかかる息。
穏やかな2人の中に、熱い感情だけが動いていた。
ラナは藤堂を優しく包んだ。
「これからも‥‥宜しくね」
「うんっ」
返される言葉に、安心を感じる。温泉じゃない、彼女によって安定させられた。
かけがえのない友人に、感謝の言葉を、ラナは感じていた。
「楽しかった、な。久しぶりにゆっくり出来た気がするよ」
結ばれた手は離れないようにしっかりと。そこから2人が、合わさっていくように。
「‥‥これから、戦いは更に激しくなる」
決意の前の一時が、この時間であったこと。それに感謝しつつ。
「最後まで戦い抜こう、一緒に」
「もちろんだよっ!」
返されたのは、信頼。そして、ゆるぎない将来への架け橋の担い手。
「サンディアナ‥‥今日は本当にありがとうございました」
暖かで、柔らかな祝福。呆然と見上げた先には、輝かしい笑顔が待っていて。
形のなかった約束が、サンディとメビウスに刻まれた。
ゆるりと伸びた指先は、ふくよかな自分の唇を確かめて。
「さ、帰りましょう」
繋がれた手は、いつしか離れぬようにと重なり合い、そして、より近づく。
――戦争が終われば、また来たいものですね。
誓いを果すために、刻まれた約束を、現実にする為に。
二人の胸には、揃いのペンダントが揺れていた。
**********
「ふぃー。少しは軽くなったかな」
肩を回しながら、ジョンはふらりと自分の部屋へと戻ってきていた。
時間は、深夜である。
一日の終わりを告げない研究所は今日もまた稼動し続けているのだ。
部署に対してのブラインドを覗きこむと、目の下にクマを作った者たちが、書類やアイテム達の中で奮闘している姿が見られた。
「‥‥正念場、だもんな」
癖になった煙草。そして、先程せしめて来た戦利品のコーヒー。
考えなければいけないことは、複雑に富んでいて。彼の思考を中座させるように促してくる。
「‥‥しかたないか。会うしか方法は‥‥」
――残されていない。
迷った末に出した結論。一日だけの休養。導かれたのはなんだったのか。
「‥‥ん? なんだこりゃ」
置かれていたのは、今日行った先での領収書。
そこに書かれていたのは、ちょっぴり過ぎた金額で。
「――ジェームズにつけたれ」
出された結論を知るのは、いつになることやら。
誰の支払いになったのか、それは秘書室が知るのみとなった。
後日数通の手紙が届くも、理由を知らないジョンは不思議だとばかりに首を傾げ。
入っていた肩叩き券に、息子よりもいいやつが居ると嘆いていたのだった。