タイトル:ポニーちゃんの願いマスター:雨龍一

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/04/01 03:38

●オープニング本文


「パパ、いつ帰ってくるのかしら」
 そういって窓辺から離れない一人の少女がいた。彼女の名前はポニー。腰まである薄茶色の髪をきっちりとしたみつあみで結っているのが印象的な女の子であった。

 スペインの山岳地域であるこの村では、資源である鉄鋼を取るのが盛んな地域であった。少し前ならば‥‥大きな企業の手伝いにより、重機を使って盛んに取っていた。

 だが‥‥あるときこの村はバグアからの襲撃にあったのだ。

 そのため、企業は手を引くことに。今では数少ない鉄鋼を掘り出すのは村の男たちの手だけになってしまっていた。
 バグアに襲われて以来村は町との交通手段である道路も遮断され、復興にいたってはいない。文字通り陸の孤島、そんな場所になっていた。

「ポニー、そろそろ眠らなきゃ」
 彼女の父もまた、村の鉄鋼採りに行っている。そんな彼女は今、おばであるアンナの元に身を寄せていた。
「アンナおばさん、パパはいつポニーを迎えに来てくれるの?」
 そう聞く彼女にアンナは困った顔で微笑むだけである。
「お仕事終わったら帰ってくるわよ、終わったらね」
 そんなやり取りが繰り返されるのがいつもの事であった。


「大変だ!!」
 数日たった日の朝、村中に大衝撃が走った。
 鉱山がキメラに襲われたとの情報が入ったのだ。
「兄さん!」
 アンナはポニーをきつく抱きしめ天を仰ぎ胸で十字を切る。

 呆然とするポニー。
 彼女はフラフラとアンナから離れると、村の駐在のところまでやってきた。


「おまわりさん、パパを助けて!」
 そう泣き叫ぶ彼女を優しく抱きしめると、駐在はとある信号を打ち始めた。


 S・O・S


 その信号はたちまちスペイン支部に届き、ただちにキメラ討伐隊が打ち出されたのだった。

●参加者一覧

MIDOH(ga0151
23歳・♀・FT
棗・健太郎(ga1086
15歳・♂・FT
蒼羅 玲(ga1092
18歳・♀・FT
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
瓜生 巴(ga5119
20歳・♀・DG
サーシャ・ヴァレンシア(ga6139
20歳・♀・ST
ナオ・タカナシ(ga6440
17歳・♂・SN
水嶋 恵(ga6820
20歳・♂・GP

●リプレイ本文

●傭兵の到着
 低空を、二機のヘリコプターが飛んでいた。
 余計な接敵を避ける為、アルヴァイム(ga5051)の提案どおり、ヘリは稜線に沿って低空を飛び、鉱山町へと辿り着いた。
 ローターを停止させ、風圧のおさまったヘリに向って‥‥いや、傭兵達に向って、ポニーが駆け出す。拙く、わあわあと泣き声交じりに懇願するポニーに、傭兵達は優しかった。
「大丈夫です。お父さんはきっと帰ってきます。ポニーさんはお迎えの準備をよろしくお願いしますね」
 ナオ・タカナシ(ga6440)がポニーの頭を撫でて微笑む。
「‥‥僕達が‥‥絶対君のパパを、助けてあげる‥‥」
「そうだよ、俺達が救い出してみせる」
 サーシャ・ヴァレンシア(ga6139)や棗・健太郎(ga1086)が続けて声を掛け、励ました。しゃくりあげながら小さく頷くポニー。こんな小さな子供の願いとはいえ――或いは、こんな小さな子供の願いだからこそ、必ずや助け出さなくてはならない、と、傭兵達は思いを新たにした。

 鉱山へと至る道を、計8名の傭兵が歩く。
 坑道の外にいる鳥型キメラは四体というが、目立つのがその4体だけだったと考えれば、他のキメラが居る可能性も、十分に考える。瓜生 巴(ga5119)は言葉にこそしなかったが、そう考えてか、厳重に周囲を警戒している。
 アルヴァイムにしても、皆の警戒していない方角――つまり死角へ意識を集中して山を登っていた。
 ふと、蒼羅 玲(ga1092)が口にする
「健太郎君は、ああ言うタイプが好みなんですか?」
「えっ!?」
 童顔を、悪戯に微笑ませ、蒼羅が茶化す。
「な、皆の笑顔が見たいだけだよ!」
 顔を赤くして、棗が答えた。
「それに――」
「しっ」
 瓜生が己の口に指をあて、その言葉に、しんと、辺りが静まり返った。
 続いてアルヴァイムが、ぴくりと眉を動かし、瓜生と同じ方角へ意識を集中する。ばさり、と聞こえたのは、羽ばたく音。
 キメラが来る。
 そう感じて刀を握る棗を、瓜生がすっと制した。
「ここは私達が。行って下さい」
 その言葉に、MIDOH(ga0151)がこくりと頷く。
 頷くや否や、彼女達坑道班は突然山道を駆け登り始めた。物音に気付き、キメラが激しくはばたく。
 が――
 その腹に、ずぶりと、矢が突き刺さった。
「キメラを確認、狙撃開始します」
 未だ慣れぬ、戦い。それでもナオは、いざ一度覚醒すれば、抑揚の無い沈んだ声を発して、狙撃眼を併用した矢を放つ。
 対するキメラにしても、1本や2本の矢で仕留められるようなものではない。
 まるで怒りを露にでもするかのような勢いで、冒険者に襲い掛かる。
 しかし、瓜生を先頭にして彼等は走り、閉所へと逃げ込む。自然と、キメラは自由な飛行を制限され、動きを鈍らせた。
「集中砲火で潰します!」
 叫んだのはアルヴァイムだ。
 集中砲火と聞いた蒼羅は、彼が言い切るよりも早く、ショットガンを掲げた。派手な音が弾けて、キメラのどてっ腹を引き裂く。キメラが鳴き声をあげるが、それもさせぬかのように、首へと食い込む、瓜生の放った矢。
 強弾撃やレイ・バックルの重なった矢は、重い一撃となって、キメラを沈黙させる。
 その連携に、残るキメラが怯んだ。


●坑道内
 薄っすらと、奥へ向うに従って暗くなる坑道。
 最低限歩くに困らない電灯が、天井に瞬いている。かといってそれだけでは心もとなく、坑道内へ向った四人は皆、ヘッドライトを被って前進していた。
 列からはぐれぬよう、腰にはロープを繋ぎ、時折、坑道内の地図を確認しつつ工夫達の捜索にあたっている。
 先頭を歩くのは棗。以降、水嶋 恵(ga6820)、サーシャ、MIDOHと続く。
 地図には、村で収集した情報がしっかりと書き込まれている。
 落盤の危険がある区域や非難経路、当時の採掘場所等だ。情報収集の際には、ナオも、ポニーに父親の居そうな場所に心当りが無いか聞いていたのだが、これは残念な事に、さっぱり要領をえなかった。
 ポニー自身は幾つか思いつくようだったのだが、少女の拙い説明では不正確に過ぎ、理解した風を装って安心させるのが精一杯だった。
「鳥型キメラの調査‥‥あまり時間、無かった‥‥」
 ボソリと呟く、サーシャ。
 今回の依頼に当り、彼女は必要以上に調査、調査と強調していた。調査なのだから、仕方が無く来たのだ、と言わんばかりに。
「大事な人を失う辛さを無理に知る必要はないですよ」
 それを聞いて、水嶋が応じる。彼は、今回が、傭兵として始めての任務だ。自然、身が引き締まる思いだ。それに、両親を、肉親を失うという事の辛さも、彼は知っているから。だから、心なしか、語尾が強かった。
「まぁまぁ」
 鷹揚に構えて、MIDOHが笑う。
 そんなつもりじゃない、とでも言いたそうなサーシャの表情から、やたら調査と言う心の機敏が読み取れたからだ。この辺りの微かな心情というのは、男性には、ちょっと解らない。
「おーい、あったよー!」
 先頭を歩く棗が手を振る。
 その手に握られているのは受話器だった。坑道内に張り巡らされた有線連絡機で、坑道内の主要箇所に設置されている。
 連絡は――とれなかった。
 連絡先へ順番に連絡を入れてみるも、応答は無し。となれば、消去法で探すのがベターだ。先の危険箇所に、工夫達が足を踏み入れるとは考えにくい。その上で、そうした連絡先に居ないとなれば、ルートや空間は限られて来る。
「どこだと思いますか?」
 皆で地図を囲む中、水嶋が呟いた。
「ここじゃ‥‥ないかな‥‥?」
 サーシャが、地図の一点をすっと指し示した。


●再び、坑道外
 キメラが、空高く飛び上がる。
 相手からの集中攻撃を加えられると言うのであれば、距離を取れば良い。そう判断しての事だろう。ナオが弓を引くが、ナオの狙撃弾が辛うじて届くかという距離では、攻撃を集中させる事も難しい。
「無理か‥‥」
 彼の童顔から発せられる抑揚の無い声は、ともすれば、酷く凄惨にも思えた。
 しかし、膠着状態と思われたその流れの中、突然、蒼羅は届きもしないショットガンが空へ向って放ち始めた。
 当てずっぽうに連射された弾が虚しく空を切り、やがて弾が尽きる。
 その瞬間を、キメラは見逃さなかった。残るキメラが一斉に急降下し、蒼羅に襲い掛かる。
 だが、蒼羅の眼の前に掲げられたのはポリカーボネートだ。勢い良く降下したキメラは、しかし、その半透明の盾に、くちばしをはじかれた。後続のキメラとてそうだ。急に止まれるものではない。
 囮。
 あるいはキメラは、罠だと気付いたのかもしれない。だが、もう遅かった。
 蒼羅の掲げる盾に無意味な攻撃を仕掛けた直後、瓜生のリセルに射られる。無論、彼等の中にはこの機会を逃すような間抜けは一人としていない。
 ナオのクロネリアがキメラを射たかと思えば、アルヴァイムの掲げた小銃スコーピオンがキメラの頭を吹き飛ばす。自動で弾丸が装填されるスコーピオンは、次々とキメラに痛打を叩き込んだ。
「トドメを頼みます!」
 転がり込むように山の斜面へ背を付けるアルヴァイム。
 傷つきながらも離脱しようとするキメラ。その背後に、矢とショットガンの雨が降り注いだ。


●薄暗い所
 先頭を行く棗の右目が、激しく燃え盛る。
 真赤に染まった目は、冷静に、静かに、辺りを見回した。
 時折、水溜りに水の滴る音が響く以外、音の無い空間。その空間に時折響く、人を呼ぶ声。ポニーの父をはじめ、4人はまだ見付からない。先ほどから、棗は狭所へ足を踏み入れる際には、自身を一時的な覚醒状態に置いている。突然の出来事に対応する為だが、今のところ、特別の問題は発生していない。
「こちらにも見当たりませんね」
 ファングを土壁に付きたて、水嶋は辺りを見回した。
「アルフォンソさーん!」
 再び、口に手を当てる。
 しんしんと音が響き渡り、やがて途絶えた。
(駄目だ、ここには居ないのかな‥‥)
 仕方が無い――そう思い、背を向ける。
 ――おぉ‥‥ぃ‥‥。
 はたと、足を止める。今聞こえた声が、再び聞こえる。さっきよりも大きく、はっきりと。
「居た! 居ました、こっちです!」
 今度は、皆が村人の声を聞いた。
 ぱっと顔を輝かせる傭兵達。もちろん、サーシャだってそうだ。ただ、それは一瞬で、ちょっとした隙に、また何時もの冷静な表情が帰ってきていたのだが。

 工夫達が座りこんでいたのは、主要な坑道から奥まった、明かりもないような場所だった。
 とっさに逃げ込んだ彼等としては、バグアへの恐怖から、どうしても、自分達が知る枝道へ隠れ潜むしかなかったのだ。
「助かった‥‥!」
 座り込んでいた男が、片手で肩を抑えている。その肩、タオルに染み出している血が生々しく、見ている者にも痛みを感じさせる。
「‥‥ボクがついてる限り‥‥絶対生きて連れて帰る‥‥だから頑張って‥‥」
 片膝をつき、サーシャが手を差し出す。
 超機械が無いので、救急セットを引っ張り出しての治療だ。手際よく、肩の怪我に応急措置を施し、清潔な包帯でガーゼをあてがう。
 MIDOHの差し出したアルコール類で身体を温めた後、傭兵達の肩を借りて、彼等は歩き出した。

 ピー――‥‥

 そんな彼等を出迎える。呼笛の音。
 坑道外のキメラは、全て始末された事を知らせる呼笛の甲高く、長い音。その意味するところを傭兵達が、彼等に知らせた。その音は、工夫達にとっては、まるで福音にも等しい程に‥‥


●ポニーちゃんの願い
 村中央の広場、ヘリコプターのパイロットたちがエンジンを始動させ、ローターがゆっくりと回り始めている。
「少しはお役に立てたのでしょうか‥‥」
「何を言うんだ。あんた等のおかげさ」
 ナオの言葉に、工夫が応じる。くすくすと、それでいて朗らかに笑うMIDOHに肩を支えられたまま、工夫がナオの背を叩く。といっても、彼自身はヘリで病院へ向わねばならない。背の高いアルヴァイムが手伝い、彼をヘリの中へと寝かせる。
「ミッションコンプリート!」
「失敗なんていう事は、少なくともありませんよ」
 棗と瓜生がそれぞれに応じて、言う。
「パパ! パパ!」
 彼等と共に現れた父親。傭兵達と共に戻ってきた父を見つけ、ポニーはたっと駆け寄った。
 どんと抱き付いたポニーの小さな身体を、父親はひょいと持ち上げ、胸に抱きしめた。
「ポニーちゃん、今度遊びに来てもいいかな?」
「うん!」
 微笑む水嶋の顔に、ポニーが大きく頷いた。
 明日をも知れぬ傭兵稼業で、再び訪れる事が出来るのかは解らない。ただそれでも、彼等は、父を失って悲しむ少女を見ずに済んだ。それだけで十分だった。

(代筆 : 御神楽)