●リプレイ本文
少人数での作戦は極めて難しいものに近かった。
それでもこれまでのバグア達との死闘を潜り抜けてきた。彼らの中に描かれる戦況は経験と共に学び、そして生きた作戦へと繋がるものを手にしていた。
「敵艦配置感知。予定位置より8時方向に移動。10時方向に大量熱量有」
キョーコ・クルック(
ga4770)の修羅皇はかなりの高空にて待機していた。
別作戦部隊の助けによりもうすぐ戦艦に纏わりつく大半の護衛は戦域から排除されるはずである。
問題は、そこからだった。
この作戦に集まったのは計7人。人数は少なくとも、幾度も戦いを経験した者たちだった。
そこに、敗北の文字を想い描くものは居なかった。
◆
「人がいないのなら無理をしないと成果は出ません」
佐渡川 歩(
gb4026)の一言が後押しになったのか、作戦にはいくつかの小隊も軍から借り出すことができた。その指揮系統は百地・悠季(
ga8270)と砕牙 九郎(
ga7366)の傘下へと入る。
作戦自体はもう一つの――HWを中心とした無人機を戦艦から引き離す部隊とのタイミングを合わせ攻撃を開始する連携作戦である。
そのため、いかに彼らとのタイミングを合わせるかが重要になるのだった。
「チームA、2時方向に展開」
悠季の言葉に、応援要請に応じたUPC軍で構成された小隊は後方にて降下を開始した。
先に始まる予定の無人機との戦闘空域までにはまだ距離がある。少し離れた場所での展開開始は、連携行動を確認しつつ、指示の間合いを測る最終確認の場でもあった。
慣れた小隊ではない――寄せ集めに近いものではあるが、相手は軍人である。遠慮はいらないとばかりに鋭い視線で戦力を見極めていく。
「おおし、いっちょ行ってくるってさ」
九郎が高度を下げはじめた。小隊もその言葉に従う。
悠季とは違い、連携の確認は出発前の最低限の意見交換で済ませていた。元々遊撃狙いの部分もある。その援護だけを頼むと九郎は戦域近辺へと機体を進めはじめたのだ。
作戦のパターンは、美紅・ラング(
gb9880)と佐渡川による綿密な打ち合わせが中心となっている。美紅が指定した空域には、無人機作戦の展開を数パターン描き出し、いくつかの展開事項がインプットされている。先頭はキョーコだ。彼女が取得する感知データを基に微細な位置を擦り合わせることとなっている。
熱源データが送られてきた。
「パターンDにて侵入可能」
作戦のコードが発せられる。
後は、佐渡川の方へと入る連絡を待つだけ。そして――
「無人機チームが作戦実行、残りカウントにて本作戦も開始する」
佐渡川の声が耳へと届く。
スタートだ。
ゆったりと停滞するように動いていた機体は、次々と流線を描くようにスピードを増し、敵陸上艦隊へと目掛けて駆け出していた。
「‥‥後ろは安心して構わない、かな」
作戦を開始したKVたちを見送りながらUNKNOWN(
ga4276)はゆっくりとコクピット内のスイッチを入れた。
視界にはすでに他の者たちはいない。ただただ一人優雅にゆっくりと遊覧飛行するかのようであった。
◆
無人機チームのお陰か、戦艦付近に漂っているのはどう見てもペンギン――キメラが巡回をしているだけだった。
空飛ぶペンギンの姿に、思わず緊張した表情が緩む。
「き、貴様ら何者だわさっ! 寄るんじゃないだわさっ」
艦体上部に位置するコクピットで周囲の様子を窺っていたぺんぺんは、突如起き始めた異常事態にあわあわとタップを踏み始める。そのリズムはどう見てもタップダンスだ。ついつい踏みしめる足は地団太を通り越し、リズムに乗ってしまうのだった。
操作パネルに映るのはアラームの数々。そのどれもが警報を鳴らしている。
先程まで戦艦を守る様に取り囲んでいたHWたちの姿は見えず――今警報を鳴らしているのも、見回りキメラたちから発する警戒信号が中心である。
「そ、それどころじゃないだわさ。ええい、こうなったらあのお方に怒られる前にっ」
双眼鏡から手を放し、一つのボタンを押す。
守衛モードから追撃モードへと画面端の文字が切り替わった。
するとどうだろう、陸上戦艦の一部分が迫り上がり、内部から砲台が2基鈍い音を立てて位置付けられた。数字を入力すると何者かが近づいてくる方角へと砲口が向けられる。
シュコっと軽い音を立てたと思ったら、口から勢いよくぺんぺんと鳴きながらペンギンが空へと飛び出していったのだった。
引き付けられたHWを見送りつつ、入れ替わるように佐渡川たちは戦艦へと近づくことができていた。
現状戦艦を取り囲むのはどうやらキメラらしいペンギンのみである。赤く光る瞳が向けられる中、彼らの口からは音波攻撃が繰り広げられていた。
戦域に入る前から降下を始めていた百地と九郎が率いる小隊たちは、周辺に位置する山影からその衝撃波を相対しつつ、キメラへと攻撃を始めていた。
その隙間を縫うようにキョーコと狭間 久志(
ga9021)は上空からハヤブサを駆け抜けようと加速させる。
上空の後方で待機していた美紅は、新たに熱反応が高まる異常を感知すると、その方向に意識を集中させた。
艦体から砲台がせり上がってきたのだ。
やや中心に設置されていた砲台を挟むように前後方に位置し、砲口がこちらへと向けられている。もとよりこの地形は艦隊の方が有利な展開を産む山岳部の谷である。基本は正面突破しか見込めない、そんな地帯を彼らは走行しているのだ。
しかし、それはそこさえ叩き込めれば大ダメージを負わせられることも意味している。
思わず口角が上がり気味になる。このままいけばこの作戦は成功だ、と。
砲台が増えたことによってターゲットが4つになった。ただただ長広い艦体ではあるが、その分ターゲットに絞れる部分が増えたことにより、より狙いやすくなったともいえる。少人数での作戦では、この方が都合がよい。
素早く入力されていく新たな情報は、直ちに全員の機体へと送られたのだった。
新たに迫り出てきた砲台からは、カラフルで、しかしどう見てもペンペンとうるさいペンギン型のものが勢いよく飛び出していた。
それらは先に飛び交っていたキメラたちとは違い、どうやら触れることにより爆発するらしい。そして、自らターゲットを取り追撃するようである。俗にいうキメラミサイルであるのだ。
滑稽な音が辺りに響く中、キョーコは新たに出現した戦艦情報の砲台2基へと狙いをつけていた。
ぐっとレバーを手前に引きつつ、前へと押し倒した。
入り混じるペンギンミサイルの中を進むキョーコの機体を追って、狭間もまた機体を滑り込ませる。
「キョーコ一人で行かせる訳にはいかないでしょ」
下方へ集中するキョーコに付き纏う様に飛んできたキメラミサイルを狙撃しつつ、彼女の進行ルートを確保する。。
2匹のハヤブサは、番いとなり、羽ばたいた。
産み落とされるのは煌めくばかりの砲撃の嵐。不意に溜めた衝撃で、一気に打ち放す。
情けない音を上げながら、狙い集まってきたペンギンミサイルが撃墜していく。
宙に円を描き、戦艦に向け翻りながらキョーコが、高度を急激に下げ始めた。
「二度も同じ展開で相方をやらせるかっての‥‥!」
逸れた軌跡に乗ろうとしたペンギンミサイルを、狭間は逆に上昇することで惑わせる。
バランスを崩した部分へ、九郎からの援護射撃が降り注いだ。
高度をグイグイと落としたキョーコは戦艦本体へと照準を定める。
見定めたのは、くえーーっと泣き叫びながら生み出されるポット型の砲塔。
先程から煩い、厄介なペンギンたちはそこから出てきているようだ。
「静まりなさいっ!!!」
すれ違いざまに投下したのはGプラズマ弾だ。
勢いをつけて降下したのに合わさり、勢いよく口腔へと滑り込む。
短く、ショートした光が点滅したかと思うと、すぐに激しい爆発音が上がった。
その周辺へと、今度は狭間がK−02を投下していく。
高く上がる衝撃音。
飛び上れなかったペンギンたちは、ぶすぶすと煙の海へと墜落していく。
「くぅえーーーーーっ!! あ、危ないじゃないだわさっ!」
目の前の砲台が爆撃された衝撃で、コクピットにいたぺんぺんは床へと放り出されていた。
「ぼ、僕のダンディーなツンツン髪がぁぁぁっ! ちょっと、ぺちゃんこだわさっ! どうしてくれるだわさっっ!」
どうやら彼のお気に入りは、イワトビペンギン並に撥ね上げられた両脇の長い髪のようだ。一心不乱にワタワタと掻き揚げるも、どうも肝心のおつむの中身は残念のようである。
こんな時に、なぜをそこを気にするのだろう。
もちろん残念だからに違いない。
ぐあっと咆哮を上げた時だった。
「ん?」
頭にたくさんの疑問符が舞い上がる。
はて、目の前にあるものは‥‥‥
「さてと、うるさいペンギンはさっさと退場しようねぇ〜と」
修羅王と、視線があった気がした。
いや、気がしたではない。
実際、合ったのだ。
「ちょ、ちょとまってだわさぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
彼の咆哮が上がり切る前に、目の前には黒の礫が広がっていた。
その一つ一つは火花を散らし、そして、目の前に聳えたつ大きな砲台へと打ち込まれていく。
「トドメだってばよっ」
九郎が、スイッチを押した。
ふと画面の上を見上げると、ひゅるると何かが落ちてきて‥‥次の瞬間、鈍い衝撃とともに、熱く燃える火の壁が彼を襲っていたのだった。
◆
2基の砲台を打ち仕留めて以降、陸上戦艦の動きは止まった。
そして集中する投撃の結果、残り2砲のうち1砲までもが煙を上げてぐにゃりと曲がっている。
既にこの時点で目標としていた作戦が成功を遂げていた。目の前に広がる船体にはいくつもの欠落部分が見受けられていた。
積み込んだ武器たちもそろそろストックが切れるころである。
作戦が、終了時間にカウントダウンをはじめていた。
「出来ればこういう事はしたくなかったんですが‥‥」
佐渡川の機体が下方に傾いた。既に他の者たちも作戦終了を考慮し戦域を脱しようと高度を変えていた。が、ここになって引き離したHWの残りが舞い戻ってきたのだ。
離脱目標空域には戻ってきたHWからのミサイル範囲に入る恐れが生じ、高度を戻す手立てを即座に棄却した。
それを知ってか知らずか、後方待機していたUNKNOWNが艶消しされた漆黒の機体の位置を変え始めた。
「さて、そろそろか‥‥」
不気味に映るUNKNOWNの砲台が、佐渡川のやや上部へと向けられていく。
気配を察してか、それとも危機を察してか。佐渡川の機体がやや斜めへと傾いた直後、長距離砲が放たれていた。
「ふむ。こんなもん、かね」
深く被った帽子の影からは、薄い唇が滑らかに光る。
とんっと弾き出したシーガレトケースから一本つまむと、火をつけるように滑らかに長距離射程ミサイルのボタンをノックしていた。
それにより後退するHWの隙を経て、佐渡川の機体が滑るようにして翻った。
それを見届けると、満足そうに紫煙をコクピットが満たしていった。
◆
「作戦は成功を収めた」
戻った傭兵達を出迎えたのはその一言だった。
全体の駒状況を見つつ、緒方は薄く笑う。
撤退からの合間、偵察隊が監視していた陸上戦艦の動きはぴたりと止まった。
黒い煙があちこちから出ている現状を考えると、大きな損失を与えることができたようだ。
「狭間君のお陰で、敵の攻撃パターンも幾何か計算できる見込みも出てきている」
射程距離のデータが無事受信されたようである。
報告によると、キョーコが爆撃したのはキメラプラントでもあり、それにより敵戦力の約4割は削減できた見込みだとのことだった。
「これにより、本作戦は次の段階へと進むことができる。諸君、感謝する」
緒方はその一言を高らかに告げると、傭兵達に対しおもむろに敬礼をしたのだった。