タイトル:試作兵装試験マスター:うしまる

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/08/26 15:51

●オープニング本文


 能力者たちは、ひとつの扉の前に立っていた。
 扉には『第十KV兵装開発室』と書かれており、自分たちに依頼を申し込んだ者が居る場所だ。
 自動扉が開かれ室内に入ると、広大な空間が広がっていた。
 そこには多くの白衣を纏う研究者が十の指を以て素早く端末に打ち込み、作業着を身に付ける開発者たちが何らかの部品を綿密な設計を基に組み立てている。
 ある種、緊迫した空気が室内に充満していた空間だ。
 その中で一人だけそんな雰囲気を物ともせず、寧ろ感じていないような男がいた。
 寝癖がついた髪をそのままに、無精髭を生やし、よれた白衣を着込んだ黄色の遮光眼鏡をかけた中年男性。彼は気だるげに紫煙を燻らせながら、室内の人間を眺めていた。
 遮光眼鏡の奥のやや垂れた瞳が来客者を捉えると、男は吸いかけの煙草を携帯していた灰皿の中に捨て、歩み寄ってくる。
「あぁ、よく来てくれたね」
 そう言いながら人懐こい喜色の笑みを浮かべ、能力者たちを歓迎する。彼が今回の依頼主だ。
「僕はデリク・ハニウェル。一応、ここの室長を務めてる。宜しく」
「一応では困ります、室長」
 苦言を呈したのは、何時の間にか室長と呼ばれた男――デリクの傍らに移動していた金髪碧眼の女性だった。
「彼女が副室長のアイリス・ダイン君だ」
「アイリスです。宜しくお願いします」
 デリクに紹介されたアイリスが、微笑を以て挨拶をする。
「で、今回呼んだ理由は、うちの開発室で造った武器を試してみてほしいんだ」
 挨拶をそこそこに済ませると、デリクは事の本題に入り、能力者たちを案内する。
 二人に連れられて開発室の奥に進むと、大きなシートで覆われている五つの塊が見えた。そのどれもが人の扱えるサイズではなく、明らかにKVの使用を前提に造られた代物だと判る大きさだ。
 KV兵装開発室とされているので、当然といえば当然なのだが。
 それらのシートを、デリクはアイリスと他の開発者に指示して固定具を外させ、シートを取り去る。
 現れたのは、巨大な刀剣と銃器だった。
 一番手前にあるそれは、KVの平均的な全長を超える十メートルはあろうかという大剣。鍔元に駆動機を備え、刃は鋸のようになっている代物だ。まるで、チェーンソーをそのまま巨大化したようなものである。
 その横には、先のものと同様に駆動機を取り付けられた円形の刃が置かれている。先のがチェーンソーならば、こちらは電動丸鋸だろうか。
 中央に置かれている兵装は、鋼線で繋がれた円盤状のレーザー発生器。チャクラムと呼称されている、投擲武器だ。発生器にも小型の推進器が取り付けられているらしく、その勢いで敵を切り裂くのだろう。
 四つ目は、散弾銃の形状をしている銃器。人間が扱うものと異なるのは大きさだけではなく、殺傷能力を持った光の散弾をばら撒くことができている点だろう。
 最後の代物は、試作兵器の中でも一際大きな物体。長大な砲。こちらも実弾とは異なり、レーザーを撃つタイプのものとなっている。地上での使用を前提とされているらしく、固定用のアンカーが見受けられた。
「これがうちで開発した兵装だ。実験段階だけど、中々のものだと自負してるよ」
 手前の大剣の柄に寄りかかりながら、自慢げに語るデリク。彼の瞳がアイリスに向けられると、頷き、手元にある資料を開いて内容を読み上げる。
「試験内容を説明します。とある北米基地の近隣で、バグアの地上部隊を捕捉しました。敵勢力はゴーレム二機、ヘルメットワーム六機。ゴーレムの兵装は高機動近接戦闘と、重装甲の砲撃戦を念頭に置いたものとなっているようです」
「ま、兵装と敵の詳しい資料は後で併せて回すから、それを参考にしてくれ」
 一人の開発者に資料の用意を手配したデリクが徐に歩き始めると、二つの試作兵器の間で立ち止まった。
「実はこの二つ、まだ少し仕様が決まってないんだ」
 デリクが示したのは、レーザーショットガンと高出力レーザーキャノンだ。彼の細く長い指が、先にショットガンを指す。
「ショットガンのほうは、威力をこのまま維持して対象を一体に絞るか。若しくは威力を落として広範囲にばら撒けるようにするか」
 次に巨大な砲身に向けると、アイリスが言葉を継ぐ。
「キャノンは練力を消費して、砲身の冷却時間を短縮するか。若しくは練力消費をなくして冷却時間を延長するか、となっています」
「今回はテストとして、どちらも前者を採用してる。製品化を目指して、色んな意見を聞きたいね」
 全ての説明を終えたデリクが再び煙草に火をつけようとしたとき、何かを思い出したのか、口を開いた。
「実験が終わったら返してね。まだまだ実験することが多いから。それと壊したら報酬を減らすんで、そこら辺も宜しく」
 中年男の悪戯っ子のようなウインクと言葉に、能力者たちはあらゆる意味で苦い顔をした。

●参加者一覧

緑川 安則(ga0157
20歳・♂・JG
熊谷真帆(ga3826
16歳・♀・FT
王 憐華(ga4039
20歳・♀・ER
ミンティア・タブレット(ga6672
18歳・♀・ER
狭霧 雷(ga6900
27歳・♂・BM
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
ロアンナ・デュヴェリ(gb4295
17歳・♀・FC
アーク・ウイング(gb4432
10歳・♀・ER
テト・シュタイナー(gb5138
18歳・♀・ER
オルカ・クロウ(gb7184
18歳・♀・HD

●リプレイ本文

●試しの場
 ドローム社の開発室から借り受けた試作兵装を手にしたKVが、バグアの地上部隊と接触。荒野は一瞬で戦場と試験場になった。
 八機のヘルメットワームが、同時にプロトン砲を放つ。赤き巨大な槍が大気を蒸発させながら、目標を穿とうと走る。
「予測演算完了しました‥‥回避軌道、出します」
 十機存在するうちの一機、装甲を極限にまで削ぎ落とした機体に乗り込む女性が呟いた。
 彼女の言葉を受け、前衛に立つKVたちは八条の赤き光を余裕を以て避ける。そしてワームとの距離を詰める。
 能力者たちがそこまで容易く回避できたのは遠距離であったことと、大和撫子を絵に描いたような日本人女性――皇 織歌(gb7184)が駆るKV、骸龍に搭載されている機能にあった。
 ワームから発せられるジャミング電波を中和し、更には発生源の位置を特定する『特殊電子波長装置γ』の効果だ。
 光が失せると、織歌の骸龍が僅かに前進、中和範囲を押し上げる。更には、標準装備されている高感度カメラによる試作兵装の観測も始めた。
 彼女に続くようにクルメタル社のウーフー、骸龍の前進機である岩龍も装備しているジャミング中和装置を起動させてサポートする。
 装置での援護だけでなく、狙撃を行うために骸龍がライフルを構える。
 一台だけ借りられた観測カメラを頭部に装備したウーフーに乗り込む狭霧 雷(ga6900)も援護射撃を行うべく、連装されたレーザーバルカンの銃口を敵へと向けた。
 岩龍のパイロットであるミンティア・タブレット(ga6672)は冥界の底より暗い笑みを浮かべて、狙撃銃の照準を合わせる。
 シュテルンに乗り込む、十の少女であるアーク・ウイング(gb4432)。彼女は試作された長大な兵装を手にしている仲間を護衛するためにその場から離れず、狙撃銃を構えた。
 ロアンナ・デュヴェリ(gb4295)が手綱を取るのは、犬の頭部を模したアヌビス。冥府の神が得物とするのは対戦車砲だった。
 そして、音源が異なる破壊の五重奏が戦場に奏でられる。
 数多の光弾がワームを追い立てると、そこに狙撃用の弾丸がワームの装甲を穿つ。銃弾によって蹂躙されたワームが火と黒煙を吐いて動かなくなるのは、そのすぐ後だった。
 その隙を狙って前衛が更に距離を詰める。一機のゴーレム――追加装甲により防御力を、数多の重火器で砲撃戦能力を強化されたゴーレムが、KVを迎撃しようと砲口を向ける。
 砲撃を行おうと指が引き金にかけられた直後、自らに迫る砲弾に気づき、後方へ飛び退き回避する。ロアンナが操るアヌビスによる砲撃だ。
 弾丸が尽きるまで放たれた砲弾が追跡し、一発がゴーレムの肩部装甲を吹き飛ばすのを確認して、ロアンナは砲を捨てて大刀を手にして走る。
 後方支援によってワームの隊列が乱れ、大きな隙が生まれた。そこを狙うのは、王 憐華(ga4039)だ。
 乗るのは、白銀に輝く華奢な機体。知覚系に特化したアンジェリカだ。機体と反比例するかのように巨大で無骨な砲の銃把を、彼女は握っていた。
 アンカーを伸ばして地上に縛り付けるように固定、砲口を目標へと向けた。そしてSESエンハンサーを起動すると、P−C−P−Sという装備によって機体背部から六対の翼を生やす天使となる。
 準備が整うと、憐華はトリガーを引いた。凄まじい光の奔流が地上を走り、逃げ場を失った三機のヘルメットワームを瞬く間に飲み込んで塵芥と変える。光が霧散して消えると、残った僅かな装甲や破片が大地に転がっていた。
 だが、巨獣も思わぬダメージを被っていた。膨大な光を放った砲口は白熱化しており、飴細工のように融け出している。
 エンハンサーを併用しての副作用か。当初より計算が狂っていたか。如何な理由にせよ、巨大な鉄の獣の戦果はワーム三機で幕を下ろした。
 光の後を駆けるテト・シュタイナー(gb5138)のフェニックスのショルダーキャノンが、轟音と共に火を噴く。
 砲弾は砲口に光を集めていたワームに命中、装甲の破片を撒き散らしながら巨体が吹き飛び、大地を転がる。その隙にフェニックスを初めとする試作兵装を装備したKVが、破壊されたワームを一瞥すらせずにゴーレムへと向かっていく。
 一機のワームが両足にドリルを装備した雷電の進路を遮る。拡散フェザー砲で焼き払おうと乱舞するが、雷電を捉えることはできなかった。
 光を潜り抜け、ワームの懐に入るとパイロットの緑川 安則(ga0157)は裂帛の気合を以て、右腕に取り付けられた巨大な鉄の塊を振り抜く。
 ガトリングナックル。名のとおり、幾つもの鉄の拳が放出、弾幕となってワームの装甲を次々に粉砕していく。飛び散る装甲の破片を浴びながら、雷電は左腕に装備されたサークルブレイドを振り下ろした。
 装甲を奪われたワームに止める術はなく、上から下へ、円形の刃の痕が刻まれる。
「確か、これでサークルブレイドの切れ味を増やすことできたんだな。刀身回転発動!」
 緑川の言葉が合図となって内蔵された動力に火が灯り、刃が唸りを上げて更なる斬撃となった。
 薙ぎの形となって振り払われる超高速回転の刃が、先の斬撃を上回る勢いと残虐さで切り裂く。十文字の痕を深く刻まれたワームは機能を停止し、堕ちた。
 残りのワームは冥府の猟犬が大刀に切り刻み、天使が剣を振るい、龍と巨人たちが銃弾を放ち、その全てを駆逐していった。

●巨人たちの戦い
 試作機を持つ四機のKV。フェニックスと雷電には、砲撃戦仕様のゴーレムへと向かっていた。
 フェニックスの傍らを走る、スナイパーライフルを携えた一機の雷電が先に仕掛けた。熊谷真帆(ga3826)が駆る雷電が、ライフルによる牽制を図る。
 銃弾が重装甲のゴーレムを撃つが、何事もなかったように火器を構えた。グレネードランチャーだ。
 それを確認したテトが、警鐘を鳴らす。ほぼ同時に榴弾が放たれ、宙を翔ける。榴弾の弾道はテトのフェニックスに繋がっており、彼女は着弾地点から即座に離れる。
 如何な炸薬を詰め込んでいたのか、生まれた爆裂は大きく、爆風はフェニックスだけではなく真帆の雷電をも飲み込んだ。
 濛々と舞い上がる粉塵。それを不死鳥と稲妻が突き破り、残滓を纏って現れる。砂埃が機体の表面を汚しただけだった。
 だが、ゴーレムのレーザーガトリングの銃口が待ち構えていた。狙いは巨躯を誇る雷電。
 光の銃弾が横殴りの雨のように降り注ぎ、雷電を襲う。幾つかの光が装甲を貫通したが、追加装甲により大事には至らなかった。
 真帆は即座に機体を光の雨から逃れさせる。巨躯の動きは非常に速く、ゴーレムは雷電を一瞬見失ってしまった。
 急加速により自らの間合いと入った真帆は、有線型レーザーチャクラムを構える。
「今日のハイライトなのですっ」
 真帆が笑みを浮かべながら放つ。フェイントを織り交ぜて放たれた光の戦輪が独特の軌道を描き、ガトリング砲を半ばから切り裂いた。戦輪は役目を終えると、繋がれた鋼線に巻き戻されて主の元へと帰る。
 火球となるガトリング砲を投げ捨て、ゴーレムはグレネードランチャーを真帆に向けた。
 引き金を絞ろうとする巨人の指。直後、蒼い光が横手からゴーレムの腕を撃ち据える。ランチャーは破壊され、腕も鉄屑へと変えた。
 フェニックスがオーバーブーストによって側面に回り込み、32cm高分子レーザー砲の光を放ったのだ。
「そう簡単にゃやらせねーっての‥‥!」
 テトが犬歯を剥き出しにして、不敵に笑った。
 その笑いを払拭しようと、ゴーレムがライフルの光を放つ。光弾は胴体に命中するが、テトは意に介さず、今度は試作兵装のレーザーショットガンの引き金を引いた。
 連続する銃声と共に光の散弾が浴びせられ、巨躯を灼いていく。弾倉に込められた全ての弾丸を吐き出したときには、ゴーレムは武装と装甲の殆どを吹き飛ばされていた。
 最後に接近した真帆の雷電が握るディフェンダーがゴーレムを貫き、それが止めとなって力尽きた。
 残り一機となったゴーレムには、緑川の雷電と大剣を携えた赤き機体が詰めていた。
「自信作を実戦で試そうって気は、判らなくもないが」
 深紅の機体、ディアブロの中で呟くのは、青い髪の少女。名は時枝・悠(ga8810)という。
 黄色に染まった彼女の左の瞳で、今の自身の得物を見る。試作兵装のチェーンブレイドを。
 二機が迫るゴーレムは、ブレードと小型のシールドを手にしている。どちらも接近戦で能力を発揮する兵装を装備しているため、お誂え向きの相手だろう。
 機動性が強化されているらしく、雷電が放つ狙撃銃の牽制射撃を巧みに避け、あるいはシールドで弾く。
「さて、本命が来ましたね。とっとと終わらせて評価レポートを書きますか」
 迎え撃つ雷電はライフルを捨てると、サークルブレイドを薙ぐ。だが、シールドで弾き返され、反撃の斬撃を雷電に与える。咄嗟にメトロニウムシールドで防ぐものの、鋭い切っ先は楯を貫通し、僅かに機体の装甲に達した。
 刃と連動して翻るゴーレムの蹴りをブレイドとシールドで防御するが、蹴りは前者を破損させ、後者を大きく陥没させた。そして雷電を吹き飛ばす。
 立ち上がろうとする雷電にゴーレムは切っ先をコックピットに突き刺そうとするが、迫る赤い殺意を感じ取り、思い留まる。
 パニッシュメント・フォースが放つ赤き衣を纏い、ディアブロが渾身の力を込めて巨刃を打ち下ろす。
 ゴーレムが再びシールドでその一撃を防ぐ。超重量の刃はゴーレムの踵が踏み締める岩盤を砕き、沈ませる。
 互いの力が拮抗し、短い静寂に包まれる。静寂と均衡を崩したのはディアブロだった。
 柄に取り付けられたスイッチを押すと、動力部が起動。鋸の刃が眼にも止まらぬ速さで回転を始めた。
 回転する刃がシールドを斬るのではなく削り、腕諸共断ち割る。そのまま本命であるゴーレムの胴体を狙うが、即座に後退したゴーレムの装甲を掠めた。
 ゴーレムはブレードを収め、ガトリング砲を手に取り発砲。数十発の弾丸が、悪魔を祓うべく襲いかかる。
 巨大ゆえに機体の動きを抑制し、取り回しの効かない武器に悠は舌打ちした。半ば諦めながら、大剣を楯にして銃弾を防ぐ。防ぎ切れない銃弾が、装甲に黒点を刻む。
 大剣を楯にしたまま、悠は長大な砲身をゴーレムに向ける。GPSh−30mm重機関砲。一度に四百発もの銃弾を撃ち出す、凶暴な鉄の悪魔だ。
 主の命を受け、鉄の悪魔が力を解放する。数多の銃弾がゴーレムの全身を撃ち、散々に陵辱していく。
 砲声が鳴り止んで動きを止めると、ゴーレムは原形を保てないほどに撃ち砕かれていた。
 虚空に響き渡る砲声の残響音が、戦いの終わりを告げる。そして能力者たちはすぐにその場を去った。

●結果報告
 試験を終えた能力者たちは、依頼主が居る第十KV開発室を訪れていた。
 室長のデリク・ハニウェルは副室長のアイリス・ダインに小言でも言われていたのか、能力者たちの来訪を心から喜んでいた。
 役目を終えた試作兵装の数々が、広い室内の台座に眠るように横たわっている。
「ご苦労様。映像データはあとで観るとして、今は君たちの生の意見を聞かせて欲しいな。まずは、こちらから行こうか」
 指でチェーンブレイドを指すと、担当した悠が何時もどおりの表情と口調で語る。
「行動を大きく制限されて、実用的じゃない。ペナルティ減らすか威力を上げろ」
 年上であるデリクに対しても物怖じせずに物申す悠だが、対してデリクはそのような意見を待ち望んでいたか、笑みを浮かべる。
「確かにでかすぎるよね。片手で扱えるタイプにするか、いっその事、限界まで威力を追求しちゃおうか」
 冗談交じりで紡ぐデリクの言葉に悠は鼻白むが、すぐに何時もの顔に戻った。
「じゃ、次はサークルブレイドだね」
 そのサークルブレイドはゴーレムの蹴りを受けて動力部が潰され、刃も歪んでしまっていた。
 緑川は申し訳なさそうな顔をしたが、デリクはやはり気にした様子もなく微笑んだ。そして、緑川が評価を下す。
「ディフェンダーの攻撃力強化型としては面白い武装ですね。でも、防御力がもう少し欲しいかな?」
「ちょっと複雑な構造をしている分、耐久性に欠けるのが難点か」
「装甲を施せばその分重量が増し、チェーンブレイドが抱える問題がこちらにも浮上すると思われます」
 難しいな、とデリクが一言だけ呟くと、次の兵装の話題へと移る。
 レーザーチャクラムの担当者である真帆は、有線であることの特性を生かした戦法を語った。その使い方が面白く感じたのか、デリクは嬉しそうに聞いていた。
 先は辛辣な言葉を投げかけた悠もチャクラムには好意的な意見を持っているらしく、販売にこぎつけて欲しいと語った。
 そしてレーザーショットガンの番になると、テトは金色のポニーテールを揺らしながら喋り始める。
「射程が短い癖に高分子レーザー砲と大差無ぇ性能ってーのはちょっとな」
 実際に両方を試したテトが、まずは苦言を呈した。その意見もデリクは甘んじて受ける。
「そういう意味でも範囲攻撃型のほうがいいな。収束率を自由に調整できるようにして、両方使えるのがベストだが」
 テトの意見には狭霧やロアンナも同様の意見らしく、肯定を示している。
 ロアンナは更に「採用された場合、相当高価になりそうだが」と小さく呟いた。
「難しいかも知れないけど、不可能じゃないと思う。試してみるよ」
 最後の報告となるレーザーキャノンの惨状を、デリクとアイリスが見上げる。
「威力は凄かったけど、まさか一撃で壊れるとは思ってなかったなぁ」
「エネルギー供給システムに問題があるのかも知れません。あるいは、SESエンハンサーによる過剰なエネルギーの放出が原因かと」
「何にせよ、僕たちの見積もりが甘かった訳だ。ごめんね」
 突然の謝罪に憐華は少し狼狽したが、自らの考えを述べ始める。
「練力消費で冷却するのではなくカートリッジ式になりませんかね‥‥あとはそれをリロードするのに練力消費するみたいな感じに」
 あともう少し軽くしてほしいです、と最後に付け足して、彼女の言葉は終えた。
「練力消費なしのほうが特色が出ていいんじゃないか。任意に行えるのが一番だが」
「一発のみに回数を減らして、その分砲身の限界まで出力を高めてみては?」
 憐華に続いて悠と狭霧も意見を述べる。意見が出ること自体が嬉しいのか、デリクはそれだけで満足そうだった。
「冷却の効率化と、軽量化が課題か。本当に貴重な意見が聞けて良かった。今回のだけで製品化できるかは判らないけど、上に掛け合ってみるよ」
「その上に掛け合うのは、私なんですが」
「頑張ってくれ、アイリス君。君が頼りだ」
 上司の言葉にやや項垂れつつも諦めているらしく、苦笑するだけに留めた。
「何はともあれ、お疲れ様。良かったら、また手伝ってくれると嬉しいね」
 デリクの労いの言葉を受けて、能力者たちは開発室を後にした。