タイトル:【KV】基地防衛仮想訓練マスター:うしまる

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/09/09 10:29

●オープニング本文


 ヴァーチャルによる訓練が行われる。
 会議室に設けられた椅子に座りながら、能力者たちはそう確信していた。
 能力者たちがこの部屋に集められると、決まってそうなるからだ。実際、今日もその為に彼らは此処に集められた。
 程なくして教官が入室してきた。夏の陽射しに焼かれて小麦色の肌を更に濃くした中年の男性教官だ。
 彼が壇上に上がると、何時もどおりの挨拶から始まった。
「諸君、参加してもらってありがとう。今まで多くの者が我々の訓練に参加してもらい、君たちの能力の高さを再認識させてもらった。私たち軍の者も見習わなければいかんな」
 挨拶の後に待っていたのは、能力者たちの賛辞だった。何故か、こそばゆい感じがした。
「さて、今回の訓練を以て、予定していたものは全て終了となる。また別の機会を設けるとは思うが、とりあえずは終わりだな」
 では、モニターを観てくれ。
 教官がそう言うと壇上から降り、脇の教壇にあるスイッチを押す。
 すると、室内の明かりが消え、代わりに前方に備え付けられた大型モニターに光が灯る。
「基地を襲撃するバグア軍から守る、それが最後の訓練内容だ」
 モニターには、幾度となく観てきた仮想の世界が広げられる。
 今回は北米を模した荒涼の大地に、防壁を張り巡らせた小規模の基地が設けられている世界だった。
 その基地を取り囲むように、バグアの戦闘兵器が数式によって産み出されていく。
 西の空には複数のヘルメットワームが編隊を組み、進路の先にある基地を見下ろしていた。
 そして東の地には、二体のヘルメットワームと三体の巨人の姿があった。ゴーレムと呼ばれる、バグアの人型機動兵器だ。
 KVと同じように状況に応じて様々な武装を施すことができ、機体そのものの能力も高い。ステアーやシェイドらに次ぐ、強力な機体である。
 一機は鋭利なブレードと鉤爪が備えられたシールド、砲身がやや短いガトリング砲で武装した機体。
 一機は大きく開かれた砲口と長大な砲身を担ぎ、肩には手にしている砲に及ばないものの、大口径の砲身が装備されている。接近戦も考慮しているのか、大腿部には一丁の拳銃も備わっている。
 そして二機の間には、指揮官の如く控える頭部に角飾りを頂くゴーレムが存在している。
「仮想敵勢力としてヘルメットワーム七機、ゴーレム三機を設定。上空のヘルメットワームは爆撃用のミサイルを装備している」
 今まで行われた戦闘によって、ゴーレムとKVのキルレシオは三対一と推定されている。技術の進歩とパイロットの能力向上によって差は縮まってきているが、その差を数で補っているのが現状だ。
 そのゴーレムを三機、共に相手にしなければならない。全戦力を投入して撃破したいところだ。
 だが、西からはヘルメットワームが基地へと迫ってきている状況だ。否が応にも、戦力を分断させなければならなくなるだろう。
「基地を破壊されること無く、敵を殲滅する。難題かとは思うが、是非成功して訓練を終了してもらいたい。以上だ」
 教官の言うとおり、確かに難しい問題だった。現実ではないことが、せめてもの救いと言えるかも知れない。
 会議室に残された能力者たちは、成功に導くべく話し合いを始めた。

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
翠の肥満(ga2348
31歳・♂・JG
宗太郎=シルエイト(ga4261
22歳・♂・AA
アンジェリナ・ルヴァン(ga6940
20歳・♀・AA
シン・ブラウ・シュッツ(gb2155
23歳・♂・ER
鳳覚羅(gb3095
20歳・♂・AA
アルジェ(gb4812
12歳・♀・FC
佐賀十蔵(gb5442
39歳・♂・JG
ソーニャ(gb5824
13歳・♀・HD
流叶・デュノフガリオ(gb6275
17歳・♀・PN

●リプレイ本文

●空を翔けるモノたち
 戦いの火蓋は既に落とされていた。
 大空から基地へと進軍する、五機のヘルメットワーム。それを止めるのは、能力者が操る四機のKV。
 殿を務めるのは、深い朱色の機体。鎧武者のそれを髣髴とさせる色に染められた雷電。パイロットは現代の侍とも言うべき男、榊兵衛(ga0388)だ。
 彼が乗る機体を追従するように左隣を飛ぶのはフェイルノート。その手綱を握るのは、ハシバミ色の猫目となった年端も行かない白銀色の髪の少女、アルジェ(gb4812)。
 侍の右隣には、黒き翼を持つシュテルンが飛んでいる。機体とは対照的な白の少女、皇 流叶(gb6275)。
 彼女の血のように赤い瞳の瞳孔が鋭利な刃のように狭まり、獲物が待つ空へと向けられている。
 朱と白と黒、三対の翼には同様の兵装――巨大なコンテナを機体下部に装備していた。
 そしてワームの機影を捉えた三人は兵装のロックを解除、戦闘態勢に移行する。
「地上の仲間の為にも、爆撃を喰らうのだけは避けないとな。とりあえず、早々に退散して貰うとしようか」
「‥ツインブーストON、ターゲット‥ロック。カプロイアミサイル‥ファイエル!」
「敵影補足、PRMシステム起動‥‥穿て!」
 彼らはほぼ同時に操縦桿のスイッチを押した。すると、コンテナの巨大な口が開き、無数の牙が顔を覗く。
 五百発もの小型ミサイルを搭載した、K−02小型ホーミングミサイル。その全てが火を噴くと蒼天は白煙で覆われ、嵐の如く吹き荒れる。
 千発もの飽和攻撃に抗おうと、前衛を務める三機のワームが砲身を展開、赤き光を収束させて一気に解き放った。
 プロトン砲の三つの赤き光が暴風ごとKVを蹴散らそうと輝くが、光の矛は彼らの機体を掠めるだけに終わり、霧散して消えた。
 光から逃れた幾つかのミサイルが左右のワームに食らいつき、その身を引き裂いてゆく。小型故に完全な破壊には至らなかったが、余りある量で補った火力が確かなダメージを与えた。
 そして、中央の一機が暴風圏に取り残された。小さな爆発の連鎖が巨大なそれへと変質し、機体を駆逐していった。
 巨大な火球となったワームを尻目に、両翼のワームが再度プロトン砲を放とうとしたとき、煙を突き破って白亜の機体が現れた。
 ロビン。その優雅な姿からは想像もできない破壊の力を宿した、白き翼。その翼に乗り込むのは、アルジェよりは年上であるが未だ少女の域にあるソーニャ(gb5824)だ。
 マイクロブースターとアリスシステムとの併用で白の風となったロビンは、噴射炎の赤き残像を空に残しながら手負いのワームへと駆ける。
「ソーニャの高速戦闘、いくよ」
 あどけない笑みを浮かべる少女の細く白い指が操縦桿のトリガーにかかり、力強く引かれた。
 機体に装備された砲身から生み落とされた物体、G放電装置が一機のワームに叩きつけられると、同時に紫電を放った。
 機体の至る箇所から沸騰した血液の如く火が溢れ、黒煙の尾を引きながらも飛行を続けるワーム。
 辛うじて飛行を続ける二機にロビンがAAEMミサイルを放つと、ロビンは華麗にロールを決めながら傍らを擦り抜けていった。光に包まれて砕け散るワームを一瞥すらせずに。
 前衛が敢え無く敗れ、後衛の二機のワームは一矢報いるためか、虎の子の爆撃用ミサイルの推進剤に火をつけた。機体から切り離された巨大な二基のミサイルは、基地へと向けて空を駆ける。
 二条の白煙を刻む巨躯に向けて、射線上にて待ち受ける雷電が長距離バルカン、シュテルンがプラズマライフル、フェイルノートがK−02を発射。
 過剰なほどの銃弾と光弾、ミサイルによって迎撃されたミサイルは空中で盛大に散った。脅威を退けた翼たちは残った二機のワームに矛先を向ける。
 ロビンが高分子レーザー砲で牽制し、態勢を崩す。その隙を兵衛は逃さず、ミサイルを発射。先端がドリルに置き換えられた四つのミサイルがワームの胴体を抉りながら侵入、奥深くまで潜り込むと、一斉に起爆。ワームの巨躯は引き千切られるように四散した。
 最後の一機には、フェイルノートとシュテルンが詰める。放たれたプロトン砲を舞うように回避する二機は、ほぼ同時に射撃を行った。
 雷電が放ったものと同型のミサイルをフェイルノートが、スラスターライフルの銃撃はシュテルンによるものだ。
 逃げ場を失ったワームは機体を為す術も砲撃に曝され、破壊された。
 その爆発が、西の空での戦いを終える狼煙となった。
 空中部隊を撃破した彼らは転進、東の地の戦場へと向かって四条の尾を引いていく。

●地上を駆けるモノたち
 基地の東に設けられた防壁の前に、一機の巨人が佇む。佐賀十蔵(gb5442)が乗り込む機体、ノーヴィ・ロジーナだ。
 その巨大な腕がレーザーガトリング砲を構え、前方より迫る二機のワームに銃口を向けた。
 連なる銃口が回転して光の牙を放ち、異形の獲物に突き立てようとするが、ワームは素早く回避行動に移る。
 応戦するワームが、紫の光を放った。拡散フェザー砲が光の銃弾を相殺し、あるいは交差して巨人を灼こうとする。
 ロジーナの脚部の装輪が高速回転、コンクリートの大地を削りながら機体を真横に急加速させて光から逃す。
 紫の光を放つワームの傍らでは、赤の光を収束していたワームが一気に解き放つ。
 装輪の向きを無理矢理反対方向に捻り、射線上から退避。パイロットの体格とは相反する機動性を以て、光を回避した。
 しかし、急激な方向転換と制動によって装輪が軋み、パイロットに凄まじいGを与える。が、佐賀はそれすらも愉しんでいた。
「Gがビリビリ来て、たまらんぜぇ」
 表情は狂喜を孕んだ笑みで覆われているが、その瞳は冷静で、敵機から片時も離れず映していた。
 交互に攻撃を繰り出し、佐賀を追い詰める二機のワーム。その状況すら、彼に愉悦を齎す。
 再びプロトン砲を放とうとするワームの機体に、黒点が生まれた。それはひとつではなく、幾つも作られる。
 黒点を穿ったのは、ディアブロが持つスラスターライフルだ。銃口からは、未だに薄い煙が昇っている。
「告死天使の視線から逃れられると思わないで欲しいかな?」
 ディアブロの中で、狙いを定める鳳覚羅(gb3095)が静かに呟く。
 彼の役割は、敵部隊の状況把握と洞察だ。佐賀が攻撃を回避できたのは自分の能力に因るものだが、的確に状況を知らせる鳳の指示のお陰もあった。
 銃弾に動きを止められたワームを、光の弾丸が追撃する。更なる黒点をその身に刻み込まれ、火と黒煙を吹いて沈黙した。
 後方の戦闘音を受けながら、五機のKVが地上を疾駆する。彼らが目指すのはゴーレムだ。
 三機存在するゴーレムのうち、近接戦闘用に調整された個体。それに向かっていくのは、スカイスクレイパー。
 宗太郎=シルエイト(ga4261)が乗り込む機体は長大な槍を構えると、ブーストをかけてゴーレムとの距離を一気に潰す。勢いのままに、裂帛の突きを繰り出した。
 防御する楯を突き破り、穂先はゴーレム本体に肉迫する。が、僅かに届かず、装甲の前で止まった。
 宗太郎は笑みを浮かべた。すると、穂先に仕込まれた液体火薬が放出、爆裂の刃となってゴーレムを襲う。
 爆煙が舞う。それを切り裂いて、刃が煌いた。宗太郎は咄嗟に避けるが、斬撃は胸部装甲を削り取った。もう少し遅ければ、コックピットごと胴体が両断されていただろう。
 液体火薬の奔流は左上半身の装甲を吹き飛ばしたものの、動きを制御する骨格は無事だった。
 宗太郎はスクレイパーをゴーレムから距離を離さず、対峙する。
「付き合ってもらうぜ。この熱い一芸に、な」
 再び肉迫する刃を穂先を薙ぎ払って弾くと、軌道を変えて突きとする。ゴーレムはそれを機体を捻って避け、半ばで骨だけとなった左腕と脇で挟み込んだ。
 これでは炸薬を使用できない。動きが取れないスクレイパーに、銀の刃を突き立てる。
 それを左腕を突き出し、刃の侵入を防ぐ。切っ先は掌を易々と貫通し、構わずコックピットへと突き進む。が、進行は停止した。
 鍔元まで貫通した左手がゴーレムの手を掴み、それ以上の進攻を阻んだのである。
 拮抗する両者。先に動いたのは宗太郎だった。
 槍を手離し、代わりにグレネードランチャーを握り込む。それを狙いもつけずに零距離発射、爆光が両機を包み込む。爆発は先のよりも弱かったが、ゴーレムの剥き出しの左腕は完全に破壊された。
 視界が戻ったゴーレムは前方に向き直るが、スクレイパーの姿はなかった。宗太郎は既に、背後に移動していた。
 間を置かず、逆手に持たせた光刃を突き刺す。光の切っ先はゴーレムの腹部から抜け出て尚輝く。
 刃を抜くと、そこで練力に限界が来たのか、スクレイパーは膝をつく。雪村の刀身も、光の粒子となって消えた。
 だが、ゴーレムは動いていた。今にでも止まりそうだが、スクレイパーを屠ろうと刃を握る手が頂点にまで振り上げられる。
 直後、ゴーレムの胸部から高速回転する二つの物体が生えてきた。
 それは両腕をドリルに変形させた、ノーヴィ・ロジーナのもの。二機のワームを撃破した佐賀が、援軍として駆けつけたのだ。
 魂の雄叫びを上げる佐賀が、狂喜しながらドリルでゴーレムを蹂躙されて漸く活動を終えた。
 一方、アンジェリナ(ga6940)の瞳が、リレイズと名づけたミカガミの内部で目標を捉えた。黒と銀に塗装されたミカガミは高速で地上を走り、砲戦型ゴーレムとの距離を詰める。
 弧を描きながら迫る黒き颶風に、ゴーレムは左肩に備えた大口径の砲で狙いを定めた。
 それを視認した瞬間、アンジェリナは回避に移る。緊急用ブースターが連動して火を噴き、機体を横へと大きく流す。砲弾はミカガミを逸れ、地面に着弾した。だが、砲弾より生まれた爆風が機体を飲み込んだ。
 舞い上がる白煙と粉塵。それを破ってミカガミが現れ、更に突き進む。
 ゴーレムは自動式拳銃を手にしてミカガミに向けると、引き金が引かれた。弾丸が機体を穿つが、致命のものとはならない。
 猛進するミカガミの右腕から、光の刃が顕現する。エネルギーを凝縮、刃に形成する雪村だ。刃は居合いの如く高速で放たれ、一文字の軌跡を描く。
 刹那、ゴーレムは後方に跳び、砲身を光刃から逃す。代わりに左腕の半ばを光が走り、灼き斬った。
 必殺の一刀を左腕の犠牲にして回避したゴーレムは砲身を構えると、引き金に指をかける。
 アンジェリナは再びブースターの火を噴かせ、射線上から退避する。凄まじい光がミカガミを襲うが、紙一重で回避。
 最大の攻撃を避けてみせたアンジェリナは間合いを詰め、攻撃に移る。ゴーレムは砲身を叩きつけてくるが、再び雪村が煌き、断ち切った。
 その太刀で胴も切り裂こうとしたとき、アンジェリナは砲口が狙っていることに気づいた。間もなく砲口が吼え、砲弾がミカガミの右胸部に直撃。右胸が弾け、右腕が大地に転がった。
 ミカガミが最後の力を振り絞り、左腕で砲身を構える。だが、ゴーレムのほうが早い。
 轟音がアンジェリナの耳朶を打つ。しかし、衝撃は来なかった。
 それはゴーレムのキャノンではなく、ミカガミの後方に立つ鳳のディアブロがアンジェリナの窮地を救うべく、スラスターライフルの砲声だったのだから。
 銃弾はゴーレムの半身を撃ってキャノンを破壊し、機体にも相当のダメージを与えた。それでもゴーレムは残された右腕でミカガミに殴りかかるが、距離が遠く、遅い。
 アンジェリナは砲身を構え直し、引き金を引いた。
 火の神の一撃を受けたゴーレムの胸部に、大穴が穿たれる。大地に叩きつけられると同時に、全ての機能を停止した。
 ミカガミも続くように、全身を走る光が消え失せた。役目を果たしたように。
 残る強化型ゴーレムには、二機の機体が迫っていた。
 女性のような線の細いアンジェリカのパイロットを務めるのは、シン・ブラウ・シュッツ(gb2155)。
 彼の機体の後方には、白を基調とした彼のものとは対照的な機体が走っていた。
 元は赤を主体にされたカラーリングを黒く塗り潰し、緑の細い線が全身を駆け巡る血管のように描かれた悪魔。翠の肥満(ga2348)が搭乗するディアブロがスナイパーライフルで目標を捉えると、逡巡なく発砲した。
 ゴーレムは機体を傾げるだけで高速で飛来する弾丸を回避すると、手にしていたレーザー砲で応戦する。回避行動を取る翠だが僅かに遅れ、ディアブロの肩部装甲を灼いて貫通した。
 追撃をかけるゴーレムだが、アンジェリカのレーザーガトリング砲による砲撃がそれを許さない。光の雨から逃れるゴーレムだが、遅れたライフルは蜂の巣となって爆散した。
「さあ、お前の敵はこっちだぞ」
 シンの呟きをゴーレムは聞き取ったのか、視線と共にアンジェリカにショットガンの銃口を向ける。引き金はやはり軽く、連続して引かれた。一発目の散弾がガトリング砲の砲身を半ばから食い千切り、二発目が右腕を吹き飛ばす。
 右に回避するアンジェリカは左手に高分子レーザー砲に持ち替え、そのまま反撃に移る。放たれた光が、ゴーレムの右足を射抜いた。
 その隙を突くべく、ディアブロが急速接近。手にする高硬度のチタンナイフでゴーレムの心臓を狙う。だが、光の剣がそれを阻んだ。
 右手に握り締めた発信器から展開したレーザーブレードで切っ先を防ぎ、高熱を伴う刃がナイフの刀身を徐々に融解させていく。
 翠は咄嗟にナイフを引いて離れるが、翻る光の刃がナイフの柄を持つ腕を切り裂いた。
 両機共に片腕を失い、間合いを取って機を窺うシンと翠。
「仮想訓練は今までにもやったことあるけど、やっぱりスゴいねえ、こりゃ。『現実』並にスリル満点だ」
 翠が楽しげにそう呟いたとき、無線から言葉が届けられた。シンにも送られたらしく、二人はブーストをかけて一気にその場から飛び退いた。
 二機を追おうとするゴーレムが見たのは、ミサイルの雨。既に退避していた二機はともかく、右足を損傷していたゴーレムは取り残され、真っ只中に曝された。
 大地を揺るがす、壮絶な爆発。それは西の空から駆けつけた、四機のKVによる爆撃だ。先の無線は、その旨を伝えるものである。
 戦場に巻き起こる爆煙の中、直撃を免れたゴーレムはまだ動いていた。
 ゴーレムの重力波センサーが、土煙の中に影を捉えた。それは、シンのアンジェリカだった。SESエンハンサーを発動し、片手で持つビームコーティングアクスの刃が凶悪な光を放っている。
 それはゴーレムに回避も防御もさせる間も与えず、断頭台の刃の如く振り下ろされ、真っ二つに切り裂いた。分断された半身が真横に倒れていく。
 最後のゴーレムを斃したその瞬間、訓練の終了を伝える声が彼らに届けられた。
 訓練を成功で終えた彼らは、仮想世界から現実へと戻っていた。現実に於いても、勝利を得るために。