タイトル:翼に乗ってマスター:有天

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/08/29 10:59

●オープニング本文


「期間限定とはいえ『ハヤブサ』の(貸し出し権)再販は意外と好評のようだな」
 銀河重工の代表取締役 大月 熊之助が受け取ったトピックスを見ながら、そう第一秘書に言う。
 ULTからG−43ハヤブサを期間限定で再販売すると通達が来たのは6月上旬であった。
「新機種を購入して貰えるのも勿論ありがたいが、往年の名機‥‥まあ、往年といってしまうには、まだ早い気がするが、最早戦場のスタイルに合わないとラインナップから外れたハヤブサを大事に思ってくれるのはありがたいことだな」

 カレンダーを見ながら何かを考える熊之助。
「霧島の保養所は、そろそろ改装が終わる筈だな?」
「社長‥‥?」


 銀河重工の鹿児島支社から程近い、霧島高原に有る保養所。
 保養所自体に温泉を引いているが、近くの外湯を回るのも良し。
 実際、保養上の周辺には観光場所が多い。
 渋く自然を楽しんだり、神社仏閣や酒造メーカーを回って利き酒をするのも手だが、ゴルフ場や乗馬、美術館、テーマパーク、乳搾りや羊の毛刈りの体験、直販品を買えたり、ジンギスカンやバーベキューを楽しめる牧場や地鶏を食べて回るのもいいだろう。




「ハヤブサ再販記念銀河重工の保養所の‥‥期間限定無料施設利用券?」
 斯くしてLHの兵舎の掲示板に小さな張り紙が張り出されたのであった──。

●参加者一覧

/ 榊 兵衛(ga0388) / クラリッサ・メディスン(ga0853) / 須佐 武流(ga1461) / UNKNOWN(ga4276) / ティナ・アブソリュート(gc4189) / 大力佐佐(gc4213

●リプレイ本文


 ──鹿児島県鹿児島空港。
 現在、日本でバグアの影響を殆ど受けない最南端の軍民両用の空港である。
 ミッション参加以外高速艇の利用が制限されている為に、現在大西洋上に展開するLHからは、飛行機を乗り継いでの到着である。

 近付いてくる桜島を眼下にクラリッサ・メディスン(ga0853)が隣に座る榊 兵衛(ga0388)に声を掛ける。
「そう言えば、覚えてます、ヒョウエ? 確か2年ほど前にもこちらの方に来ましたわよね」
 あの時は指宿でしたわね。というクラリッサに、そうだった。と兵衛が答える。
 指宿訪問時、結婚前の二人は、まだお互いに自分の気持ちに正直になれずにヤキモキしていた頃だった。
「それがこうして二人で夫婦になって旅行しているんですから、未来というのは分かりませんわね」
 クスクスと笑うクラリッサを見て、誘ってよかった。と思う兵衛。
 滑走路に降り立った傭兵らを出迎えたのは、ヤシとハイビスカスと噴煙をあげる桜島である。
「流石に日差しが強いですわね」
 これは機内で日焼け止めを塗ってきたほうが良かったかしら? とクラリッサが暑い日差しを眩しそうに見つめる。
「ヒョウエ、重くないですか?」
 手荷物を下ろす兵衛に声を掛ける。
「大丈夫だ」

 二人が結婚して一年が経過していたが、同じ小隊に所属しているとはいえお互い忙しい身である。
 折角の結婚記念日は忙しすぎて一緒に祝えなかったが、一緒になって一年なのだ。
 兵衛も思い出に残る二人きりで何処かでの骨休めを──と考えていたが、相変わらずの忙しさにかまけて思うに任せなかった所に保養所の一日利用は振って湧いた話である。
 それに鹿児島は、二人の思い出の場所である。
 一もニもなくそれに乗っかることにしたのであった。

「忙しいとは言え、少々行き当たりばったり過ぎたかも知れないな」とそう思いつつ、
『結婚記念日を一緒に祝えなかったのは残念ですけど、きちんとヒョウエがこうして想い出になる事を考えて下さったのには感謝してますわ』とクラリッサが一緒に行くといってくれて良かった。と思う兵衛。
「でもせっかくの二人きりの休暇だ。目一杯楽しむことにしよう」
「そうですわね。せっかくですから、思い出深い旅行にしたいですわね」
 にっこりと微笑むクラリッサ。

 実際、クラリッサとしても二人で何かしたい──と思っていたが、何しろ忙しい身の上である。
 お互いすれ違う毎日が、ちょっと寂しかったのである。
 それだけに良人である兵衛の、この一泊二日という短い日程の旅行であるが、
 兵衛が声を掛けてくれた事を喜び、とても楽しみにしていたのであった。



「んー、思った以上に人が集まりそうにないかな。まぁせっかく参加したんだし、存分に楽しませて貰うけどね」
 ちょっと残念だ。とティナ・アブソリュート(gc4189)が、銀河重工保養所行き送迎バスの前に集まった顔ぶれを見て言う。
「存外、皆忙しいということだろうがね。参加するからにはその心意気は大事だろう」と煙草を銜えたUNKNOWN(ga4276)が言う。

 青い空とハイビスカスがバック(背景)であろうとも、いつもと変わらぬロイヤルブラックの艶無しフロックコートに、光沢のあるロイヤルブラックのベストとスラックス。
 柔らかな兎革のボルサリーノとコードバンの革靴と手袋。
 パールホワイトの立襟シャツに、スカーレットのタイとポケットチーフ。
 シルクのロングマフラーはいつもとわからぬコーディネイトであるが、唯一夏っぽいのはアンティーク調の白蝶貝をあしらった銀の台座のカフスリンクとタイピンだろう。

 彼等を乗せ到着した飛行機の隣に今回の発端となったハヤブサが偶然にも停留していた。
「うむ‥‥ハヤブサはいい機体だね。──私の機体より新しいけどね」
 KVコレクター(?)の異名を持つUNKNOWNの肘をツンツンとティナが突っつく。
「ねえねえ。そういえば榊さんとクラリッサさんは夫婦なのかな?」
 クラリッサの為に日傘を荷物から出している兵衛を見ながらティナが尋ねる。
「そうだが‥‥直接、何故聞かない?」
「なんか、違っていたら悪いし。そうであれば、どうせならお二人には楽しんで貰いたいなぁ、ってね」
 邪魔しちゃ悪いから。とティナ。

 ティナの目的は、保養所のある山で鍛錬と星を見ながらの温泉で、こちらも格好は普段と大差なく、唯一違うといえば、持ってきたバックからは剣と木刀が入った袋がはみ出ている。どちらかといえば合宿に近い姿であった。
 が、本人はいたって家柄の良い家の出なのもあり、また年頃の女の子でもある為、若い夫婦はラブラブしていないと駄目だろう。ということらしい。

「そういうUNKNOWNさんは?」
「私かね?」
 知り合いの営業マンから頭数を揃える必要があると頼み込まれたのもあるが──酒と温泉が楽しめると聞いての参加である。

「この辺りは良い酒の産地でもあるのでね。酒と温泉と酒と酒‥‥」
 ティナとは反対に、ひたすら飲む為に参加したのだと言う。
「これぞ、大人の余暇の楽しみだな」
 そういってフッと微笑む。
「それに鹿児島と言うと豚が有名だが、少々シーズンには遅いがキビナゴに鳥腿も美味しいのだよ」
 霧島といえば焼酎や地ビール、リキュールで知られるように酒造産業も盛んな場所である。宵の口までは酒造元巡りをし、その後、美味い酒と肴を探求するつもりらしい。



 そしてもう一人、トレーニングにやってきた者がいた。
「ハヤブサ販売記念の保養所招待券‥‥1枚で十分だが、2枚もあるんだよな‥‥」
 既にハヤブサを購入しているが、再販時につい機体購入してしまった須佐 武流(ga1461)である。
 オーナー登録に併せて送られてきた保養所招待券2枚を若干もてあましていた所にもう一枚送られてきたのである。
「どうしろというんだ、一体‥‥?」
 知り合いを招待するとかしろというのであろうか? と悩むところである。
「まぁ、俺は銀河にとっちゃあ最高の客ってヤツだろうな。なんせ車だって持ってるんだからな」

 LHにある武流のガレージには銀河製KVが多く並ぶ。
 銀河製品で乗ったことが無いのは雷電と、この夏立てづづけに販売が決まった竜牙、オロチぐらいのものである。
 それにきっと銀河重工検定というのがあれば間違いなく合格する自信がある。
 その位、ラブ銀河な武流としてはお金が無限にあったら全ての銀河重工製品を3つづつ。普段使い用とバージョンアップ用、コレクション用と集めてしまうかもしれないが、保養所招待券がこれ以上増えるのは困る所である。

「もう少しサービス良くして欲しいぜ」
 限定グッズとか、色々プレゼントするものがあるだろう。と文句がいいたい武流であったが、ここに実際、営業マンやお客様センターの職員がいれば、きっと宴会のお膳にビールが1本多く付いてくる位じゃないか? とUNKNOWNに突っ込まれていた。
「でもラベルが銀河重工限定地ビールとかだったらどうしよう?」
 持って帰るのか、俺? と真面目な顔をして悩む武流。

 実際、保養所周辺には美味いものがそろっている聞いているが、ただ食って寝るだけでは体に良くない。
「やっぱりこれはトレーニングだな」
 それにきっと一汗流した後の食事は美味いに違いない。

 出迎えに来たバス運転手にもっとも近い港は、何処だと尋ねる武流。
 最寄の港は、今いる鹿児島空港から10km離れた加治木港である。
 丁度、保養所までの距離が30kmと聞き、おもむろに運転手に荷物を預けると、
「昼ちょっとすぎには保養所には辿り着くから♪」
 手を振って循環バスの停留所の方に向かっていく武流。
「須佐さん、行っちゃいましたね」
「まあ、彼にも予定というのがあるのだろう」
 一人よりも二人でトレーニングをした方が、お互いを高めあって効果的かもしれない。
 と、武流を誘おうと思っていたティナが残念そうにその後ろ姿を見つめる。

 一体、武流は一人離れて何処に行ったのか?
 港に着くと近くの電話ボックスに入り、パラパラと電話帳を捲り──お目当ての店を見つけ、電話を掛ける。
『はい、ダイビングショップ☆まりーんです』
「あ、電話帳で見たんですけど‥‥」

 ──30分後、スチール製の酸素ボンベ(空2本、重量約20kg)を背負って国道を上がっていく武流の姿が通行車両から確認されていた。
「く‥‥思ったより効くぜぇ、こいつは」
 気温34度、傾斜角度4度。
 ジリジリと照り返すアスファルトの坂道をひたすら霧島高原を、銀河重工保養所を目指し、駆け上がっていく。

 何故、背負うのが酸素ボンベなのか?
 どこかの海難救助士訓練所物語のDVDを見たのか? と、突っ込んではいけない。
「働かざるもの、食うべからず‥‥! よっしゃー! 燃えてきた!!」
 判る人にしか判らない男のロマンなのであった──。


「ふ‥ふ‥‥ふ‥‥ついたぜぇ‥‥」
 汗だくで保養所に辿り着いた武流がドカっと背負っていたタンクを置く。
 アチアチと扇風機の前に陣取りながら飲む冷たい麦茶が腹に染みる。
「これぞ、日本人の夏だよな」
 NY生れだが、日本育ちの武流である。
 がっちり体に染み込んだ夏の風物詩である。
 体を冷やすからと貰ったキュウリに味噌をつけながらボリボリと齧る。

「さて、どうするか?」
 次のトレーニングを考える武流。
「腕立て、腹筋、背筋、スクワットなどの筋力トレーニングに‥‥短距離ダッシュ20〜30本‥‥」
 一風呂浴びたい所だが、どうせ汗だらけになるのだからとシャツだけ着替えて駐車場に向かう。
 広い駐車場は少々固いがダッシュにはもってこいの広さである。
 保養所にの掲示板に張られた霜降り肉を思い出しながら気合を入れる武流。
「アレを食べるためには‥‥このメニューを完遂しなければならない!」
 闘志を燃やす武流であった。



 ──少し時間は戻る。
 空港からバスで保養所を目指す一行は山道を揺られていた。
「川が見えますよ。川♪」
 釣りをしている子供達に楽しそうに車窓から窓を手を振るティナ。
「これは散策が楽しみだな」
 しっかり空港で出来たの地ビールを買い求め、道中から飲んでいるUNKNOWNもその風光明媚を賞賛する。

「水が綺麗ですね」
「ああ、同じ九州でも北部は激しい戦闘が続いているというのにこの辺はまだ自然が豊かなんだな」
 そんな兵衛の言葉に、
「今日はバグアを忘れて私の良人として一日過ごす約束ですわよ?」
「‥‥すまない。そうだったな」
 怒らせたのか? と兵衛が妻の顔を覗き込む。
「ふふ‥‥怒ってませんわ。兵衛が気にするのも判りますから。でも、今日一日は忘れて過ごしましょう」

 バスに揺られること小一時間。
「うわぁ、涼しい♪」
 市街地に比べ到着した霧島高原は連山からの風が涼やか吹く。
「これなら幾らセミが鳴いても『黙れ、セミーっ!』って気持ちにならない♪」
「流石に空気が美味いな」
 天敵のようにバス内で輝いていた『車内禁煙』の文字に耐えてきた甲斐があると静かに微笑むUNKNOWNがポケットから煙草を取り出し一服する。

 チェックインをし、それぞれが荷物を部屋において自由行動である──。



 兵衛とクラリッサの部屋は、ちょっと広めの洋和室である。
 小さいが窓際に設けられたスペースに置かれた椅子に座るとゆったりと霧島連山を眺めることが出来る。

 兵衛の為に熱いお茶を入れているクラリッサに、兵衛が尋ねる。
「この後、どうしたい?」
「そうですわね‥‥」
 霧島は歴史の深い場所である。
「霧島神宮や和気神社、鹿児島神宮‥‥神社・仏閣、神話の舞台になった場所とかもあるが?」
 そういう兵衛を見て、クスリと笑うクラリッサ。
 兵衛は元々、田舎の旧家の出である。
 実家は、神主もやっているような家なので、クラリッサの為というよりも、どう見ても兵衛自身が行きたい場所である。
「駄目かな?」
 戦場では見せない、クラリッサにだけ見せる夫の心配そうな顔を見て、
「いいえ? 楽しそうですわね」
 クスクスと笑うクラリッサに、ほっとした表情を浮かべる兵衛だった。

 保養所から一番近いのは霧島神宮で、次は和気神社である。
 鹿児島神社は霧島市内にあり、出発点である鹿児島空港に近く。
 一番遠い。

 何処を回るか?
 部屋の中に備え付けられたパンフレットを二人で覗き込む。
「地図で見ると丁度位置が円ですわね?」
「そうだな」
 車での移動距離を計算すれば約2時間前後のコースである。
 見れば和気神社の側には滝もある。
 散策時間を加えても4時間前後で回れるだろう。
 それに気に入れば全てを回らずとも一箇所でゆったりと時間を過ごすのも悪くないだろう。
「タクシーを呼んで貰って回ろうか?」
 兵衛の言葉にクラリッサが頷く。

 二人が、まず向かったのは和気神社である。
 ここからは小さく桜島が見えた。
 和気神社で二人を出迎えたのは狛犬ならぬ狛猪と大きな絵馬に描かれた猪である。
「変わっていますわね?」
「‥‥和気清麿公が困った時に助けたのが猪なのだな」
 石碑に書かれたエピソードを面白そうに見る二人。
 この神社は、日本発の孤児院が出来た地でもあり、子供の守り神であり、また安産祈願で有名な神社でもある。
「安産祈願‥‥」
 思わず顔を見合わせ、赤くなる二人。
「‥‥コレばかりは神様の思し召しだからね」
「‥‥そうですわね」

 もう少し早ければ藤の花が楽しめた。というタクシーの運転手。
 どうする? 早いけど皆へのお土産をここで買ってしまおうか?
 いいえ、今買うと荷物になるから‥‥
 そんな会話を交わす兵衛とクラリッサに運転手が尋ねる。
「失礼ですが、ご夫婦ですか?」
「はい、結婚1周年の旅行です」
 そう答える兵衛がちょっと嬉しいクラリッサだった。

 少しばかり車で上がって、犬養の滝に寄る兵衛とクラリッサ。
「足元に気をつけて」
 兵衛がクラリッサの手を取り先を歩く。
 駐車場から細い遊歩道を歩いていくとドウドウという大きな水の流れが聞こえた。
 涼やかな滝の流れが光反射してキラキラと光る。
「暫く眺めていこうか?」
 そう問う兵衛だったが順番待ちをしている他の観光客を見て、
「いいえ」とクラリッサが答える。

 二人が次に向かったのは鹿児島神宮である。
 大きな赤い鳥居をタクシーでくぐりぬけ、向かった神宮は正八幡宮の本宮という事もあって荘厳である。
 階段をゆっくりと上り、二人は敷地の奥へと進んでいく。
 広い敷地には様々な神社が祭られていた。
 18世紀に建てられたという御本殿は、県の指定有形文化財であるという。
「島津重豪ゆかりの地ということだが、確かにすばらしい建物だな」
 美しい天井格子に描かれた様々な花や野菜が印象的である。
「これは?」
 竜宮の御亀石と名づけられた奇妙な形の石を見つめて首を傾げるクラリッサ。
 先程見た白い馬の人形は、神馬というのは判ったが、この石はどうみても亀には見えない。という。
「この神社は‥‥」と海彦・山彦の話をクラリッサに聞かせる兵衛。

 次にやってきたのは霧島神宮。
 創建が6世紀という由緒正しい神社である。
 駐車場にタクシーを待たせ、参集所の方へ向かう道を歩いていくと桜とキリシマツツジが植わっていた。
「3月下旬の桜から6月まで花が楽しめるんですね」
 秋は秋で紅葉が楽しめるという案内図を横目にちょっと残念がるクラリッサを慰めるように、
「拝殿の側にご神木である樹齢700年の杉木があるそうだよ」
 きっと青葉が生き生きとしていて綺麗だろうと兵衛が言う。

 朱塗りの三の鳥居をくぐればもう拝殿は目の前である。
 ふと後ろを振り返ったクラリッサの眼が桜島に吸い寄せられた。
「ここからもよく見えますわね」
 先に訪れた鹿児島神宮からも桜島の様子はよく見えたが、ここからもよく見える。
 霧島は丁度桜島を挟んで指宿の反対側に位置する。
 鹿児島という所は土地が迫っているのだと改めて思うクラリッサ。

「ふふ‥‥兵衛、覚えていますか?」
 二人で指宿の思い出話しながら階段を登っていく。
 美しい彫刻が施された拝殿でお参りをした二人は、敷地内にある鎮守神社の側にある風穴と七不思議の一つ 亀石を見学した後、売店によってお守りやストラップを買い集める。
「‥‥お煎餅やクッキーのほうが良かったかしら?」とクラリッサ。
「まあ、必要だったら保養所か鹿児島空港で買え足せばいいんじゃないか?」
 そうクラリッサに返す兵衛。
「しかし‥‥なんだか結局俺ばかり楽しんだよう気がするな。クラリッサの行きたい所はないか?」
 土産袋を抱えた兵衛に首を横に振るクラリッサ。
「少し早いですが、荷物の整理をしてゆっくりしませんか?」
 ゆっくりお風呂に浸かり旅の疲れを流してから食事をするのもいいだろう。
 そう提案するクラリッサだった。



「うーん‥‥流石に剣は危ないし木刀にしておこう」
 部屋の中で散々剣と木刀を眺めていたティナが木刀を掴む。
 フロントで一番近い山頂へのルートを教えてもらい出発である。
「暑っーい。でも気持ちーい♪」
 あ、見た事がない蝶々だ。鳥が綺麗な声で鳴いている。と山道を元気よく上がっていく。
「綺麗な花、発見♪ でも持って帰るのはガマンガマン。この場所に咲いているから綺麗なんだよね」
 連山を望む山頂に到着したティナがぐーっと背伸びをする。
「うーん、気持ちいい♪」

 キョロキョロと周りを確認した後、
 すぅぅ──と大きく深呼吸したティナ。

「父様の馬鹿ぁぁぁーーーーーーー!!!」

「‥‥ふぅ、スッキリした」
 お堅い軍人の父を持つ名家アイゼンブルク家の長女であるティナ。
 色々溜まるモノがある。
 ペロリと唇を舐めた後、誰も見ていなかったよね? と再確認する。
 が、突然山道から外れたガサゴソと奥の茂みが動いた。
「だ、だれ?!」
 思わず木刀を構えるティナ。
 だが、ひょっこりと顔を出したのはシカであった。
「はぁ〜あ、ビックリした‥‥」

 山歩きには良いシーズンである。
 山頂は、景色も良いし適当な広さがあるが、誰かが登ってきた時素振りをしていては邪魔になる。と登る途中に見つけた小さな広場を思い出し、山を下っていくティナ。

 木刀を振り回しても生えている木や花を傷つけない広さが充分ある。
「よし、ここなら大丈夫」
 木刀を構えるティナ。

「はっ!」

「やっ!」

「せい!」

 短い掛け声と共に息を吐き出し、素早く木刀を振るう。
 細かい足捌きと共に木刀を振る度、切れの良い空を切る音が発せられる。
 剣術を知らない者でも魅了される剣捌きであった。

「ふぅ‥‥」
 汗をハンカチで拭く為に一休憩するティナ。
「あ、ご飯忘れた」
 陽は真上に上がっていた。
「もう一汗掻いてからお昼にしようかな?」
 フロントで貰ったおにぎりの具はなんだろう?
 ふと、脇においた荷物を見ると──サルが荷物を漁っていた。
 自然が豊かなのにも程がある。
「ちょっと何をしているのよー!」
 おにぎりを取り返そうとするティナがサルを追い掛け回す。
 サル相手に覚醒は気が引けたが、おにぎりの為と思えばやぶさかではない。
 何しろ保養所から山への道にコンビニやお弁当を売っていそうなお店を見かけなかったのである。
「覚悟しなさい!」
 銀の髪が黒に染まる。
「この、この!」
 枝や草花を踏まないように気を使いながら茂みや木の枝を器用に逃げるサルを追いかけるのはかなり大変な作業である。
「ふふ、ふ‥‥いい根性をしているね」
 ゼェゼェと息を切らせるティナがぺたんと地面に座り込み覚醒を解く。
 サルが逃げた先に小さな子サルがいた。
「お母さんサルかぁ〜、うー‥‥しょうがないな〜」
 それはあげるから、もう人を襲っちゃ駄目だよ。と言いながらおにぎりを諦めるティナ。
 思わぬところでサルを相手に山駆けの鍛錬になってしまった。

 くきゅるきゅ〜‥‥

 だが、お腹の虫はもう限界だと主にクレームをつけている。
「お腹空いたから山を下りよう‥‥」
 保養所までの道の途中に脇道があったが、そこにお店はあるだろうか?
 くるくるとお腹の空きすぎで目が回ってくる。
「も‥ダメ‥‥‥お‥お腹‥‥空いた‥‥」
 ぱったりと道に行き倒れるティナ──。


 おでこに当たる冷たいもので目を覚ます。
「ほへ? 気持ちいい‥‥?」
 見ればトラクターの引く荷車の上である。
 通りすがりの農場のおじさんが配達の途中でティナを見つけたようである。
 勧められた冷たい牛乳をティナが一気に牛乳を飲み干す。
「ぷは〜っ! おいしーい!」
 余りの美味しさにおじさんの勧められるまま、もう一瓶開ける。

 ぐぎゅるきゅ〜‥‥

 空腹を思い出したお腹が途端に大きな音を立てた。
 急に冷たいものを飲んだ為にお腹を壊したか? と心配するおじさんに、
「いや、これは‥その‥‥お腹が‥空いて‥‥」
 顔を真っ赤にしてティナがお弁当をサルの親子に取られたのだと白状する。
 そんなティナを「これから丁度食事だから」とおじさんがティナを自宅に招待するという。
「え、いいの?」
 家族が多いから1人位増えても構わない。と言う。
「何か超自由に行動してる気がするなぁ‥‥まぁいっか!」
 思わぬところでタダ飯にありついたティナであった。



 周辺を回るのに歩くのでは少々距離が遠いのでレンタルサイクルやタクシー、バスを利用するのが便利と聞き、タクシーを呼んでもらうことにしたUNKNOWN。
「時間を気にしての散策は野暮だからね。自転車は星空を望みながら帰ってくる楽しみがあるが‥‥」
 自転車といえども飲酒運転は好かない。とタクシーに乗り込み出かけていった。

 タクシーを降り、見知らぬ霧島の町並みを楽しむUNKNOWN。
 日本酒の新酒シーズンは冬や早春であるが、焼酎の新酒シーズンは夏である。
 焼酎はブランデーやウィスキーのように長く寝かせて古酒として楽しむことも出来るが、鹿児島の焼酎は新酒を楽しむのが通である。
 最近では日本酒のように新酒が出来た事を知らせる杉玉を軒先に飾る酒造元も増えたので、それを目安に回れば誰でも出来立ての焼酎を楽しむことが出来るのだが、独自の酒センサーがあるとしか思えないUNKNOWNが、ふらりと1つの酒造元を訪れる。
「利き酒は出来るかね?」
 同じ原材料を使っていても酒造元毎に味が違うのは日本酒でも焼酎でも変わらない。
 そして1つのメーカーでも1つの酒しか造っていない事が少ないのも日本酒と変わりがない。

 目に付くそれぞれを頼むUNKNOWN。
 一種類ずつ猪口に受け、口を含み、喉に抜ける喜びを楽しむ。
「ふむ。こちらの方が口当たりが涼やかで喉越しもいい‥‥だが、先程の方が鼻に抜ける芳香がいいな‥‥」
 色々試した後、気に入った1つを購入する。
 その際、どんな肴があうか。
 楽しめる(飲める)店はあるのか?
 そして、しっかりとお薦めの酒造元(他社)も聞き出している。
 同業であり乍らもライバルを教えられるのは、己の酒が他社に負けない自負の現れである。
「では、回ってみるとしよう」
 礼を言い、まず1つ目の酒造元を後にする。

 ポチポチと街に灯が灯り始める頃、UNKNOWNの酒造元巡りは終わったが、思いの他、良いものが多く買い求めた酒瓶の数が多くなってしまっていた。
 今晩楽しむ数本残し、纏めてLHの自宅へと送りつける手配をしたUNKNOWNは、近くの飲み屋へと滑り込む。
 テーブル席に座る常連客らは見慣れるUNKNWONに一瞬怪訝そうな顔をしたが、女将が一人でゆっくり飲めるだろうカウンター席をUNKNOWNに勧めた。
 コートを預かった店員がフックに掛ける。
 UNKNOWNが席に座ると同時に女将が熱いお絞りと冷たいお絞り、温いお茶を差し出す。冷たいお茶では体がビックリするだろうとの女将の気遣いである。
「酒とツマミを少々‥‥」
「何が良いですか?」
「ここは初めてだからね。何が美味い?」
「今の時期だと太刀魚ですね。お造りにしますか?」
 色々な歯ごたえが楽しめるように3種類のお造りが皿に綺麗に並ぶ。
「お口に合わなかったら作り直しますので」
 遠慮なくおっしゃってくださいね。
 そう言って女将はUNKNOWNに酌を一つすると席を離れていった。
 ──客を構いすぎない良い店を見つけた。
 そう微笑むUNKNWONであった。



 夕方──戻ってきたそれぞれが、軽く汗を風呂で流し、食事を楽しむ。
 折角だから──と夫婦水入らずの為に一番高い食事を張り込んだ兵衛であるが、参加した人数が人数だけに同じ料理をオーダーしていた。

 緑鮮やかな枝豆の入った地物夏野菜の和え物(小鉢)から始まり、
 珍味、八寸(前菜)。ユズの香りがさわやかな吸い物。
 お造りや焼き物、揚げ物、流し物──
 メインとデザートを除いても17種類もの皿や椀が並ぶ。
「うわ〜♪ ありがとうございます」
 ティナがドキドキしながら豪華なお造りが乗ったお膳を見て、腹具合を若干心配する。
「うん。流石、榊 兵衛だな」
 サンキュー♪ と礼を言いありがたく待望の肉。
 予定よりも数段上の特上肉に箸を伸ばす武流。
「‥‥! 舌の上でお肉が蕩ける(ハート)(ハート)(ハート)」
 美味さにプルプルと震えるフィル。
 武流といえば、何も言わずハイスピードで皿が空けていく。
 その様子をクラリッサの酌で楽しそうに見ながら猪口を空ける兵衛。



「んじゃ、お先」
 ごちそうさん。と言ってトレーニングの疲れを癒す為、武流が一足先に部屋に引き込む。
 それもそうだろういつの間にか武流の姿に興味を持った近所の子供たちのリクエストで、短距離ダッシュが古タイヤ付きになり、挙句子供達を交代で乗せてダッシュをしていたのであった。
 頑張れの声援のお返しがあったが思わぬ所でエネルギーを消費してしまったといえる。
(尤も消費したカロリー分は、しっかり奢りの膳で取り返しているはずである)


「私は外湯に行ってくるね」
 小さなリュックを背負い、木刀を持ったティナが、門限を確認しながら出て行く。
「うわ〜っ♪ 星が綺麗」
 空に広がる天の川が良く見える。
「やっぱり星を見ながらの鍛錬が一番ね」と外湯までの道のりを素振りをし乍ら行くティナ。
 これなら暗い夜道に少女一人でも安心である。

 一番湯の格子戸を空けて中に入る。
 脱衣所の中には、誰もいなかった。
「貸切だ〜♪」
 服を脱くと、浴室に入るティナ。
 思ったより広い湯船に手足を伸ばし、ゆったりと浸かる。
「は〜。落ち着く〜」
 露天風呂ではなかったが、高窓から星空が見えた。
「何箇所か回ろうかな?」
 保養所の門限までまだまだ時間がある。
 外湯には、たしか露天風呂もあったはずである。

 いくつかの風呂を楽しんだ後、
「やった。露天風呂♪」
 星見風呂が楽しめそうだとカラリと扉を開けたティナ。

 だが、うっかり安全確認を忘れたティナ。
 サツマイモを洗っていたサルに。
 思わぬ先客に「キャ〜っ!」と声を上げた。

 ティナの悲鳴に大慌てで逃げるサル。
「し、心臓に悪い‥‥ドキドキドキ‥‥」
 湯船に浮かぶサツマイモを見つめ、何故今日はこんなに動物ついているのか? と思うティナ。
「何を騒いでいるのかね?」
 酒瓶とグラス、肴を手にしたUNKNOWNが声を掛ける。
「☆〆〇●★§▼▲£≦∞♀◆!」
 顔を赤くしてパクパク口を開けているティナに「混浴だ」と教えるUNKNOWN。
「混浴‥‥」
 振り返れば男女それぞれの入り口(脱衣所)は別だが、中(湯船)は一緒である。
 ちょっと恥ずかしい気もするが一人で入っていて、またサルと遭遇するかもしれないとドキドキするよりは男の人(UNKNOWN)と一緒の方がサルと遭遇しないかもしれない。

 ふと、湯船に浮かんだサツマイモを見つめるUNKNOWNがポツリという。
「気なるのであれば(食べ)終わるまで待つが?」
「こ、これは、サルが!」
 女性によっては、食べる姿を男性に見られたくないサツマイモである。
 お風呂を楽しみながらこっそりサツマイモを食べるのかと思われたようである。
(「サルぅ‥‥ぅううっ!」)
 今日何度目かの赤面をしながら、ペイペイとサツマイモを指で突っつき湯船の淵に寄せ、端っこに入るティナ。

 虫の声の中、静かにグラスを傾けるUNKNOWNが、星空を見つめてポツリと言う。
「エミタを得れば、特別な訓練をしなくても誰でも空を飛べるようになったが、空を取り返すのは何時になるかな」
 赤いバグア本星を見ながらUNKNOWNが呟く。

 ティアが物心ついた頃には既に赤い星は空にあった。
 月よりも遥かに大きく見えるバグア本星。
 あの星が空からなくなったらどんな風に星は見えるのだろうか?
 UNKNOWNであればあの星がない空を知っている。

「あの星がなかったら夜空はどんな風に見えるんですか?」
「星が綺麗に見える場所は少なかったが、爽快だよ‥‥」

 瓶が空くまで露天風呂に残るというUNKNWONを残し、先に保養所に帰ったティナ。
 寝る前の軽いストレッチをした後、布団にもぐりこむ。
 枕が替わっても寝つきが良いティナ。
「明日は‥朝、誰かを誘ってランニングしてもいいかな‥‥?」
 そんな事を考えながら、眠るティナであった。


 部屋に戻ってきたUNKNWONは、軽くシャワーで誇りと汗を流す。
「無粋というものだが、日本の夏は蒸し暑い‥‥」
 火照った体をソファーに埋め、バックの中から本を取り出し冷やした酒の肴と、楽しむ。
「月見酒も悪くない。もっとも野暮な輩もいるが‥‥」
 酒に浮かぶ白い月と赤い月を眺め、グラスを空ける。
「宇宙(そら)か‥‥‥」

「遠くない未来、この空から消し去ってあげよう」
 グラスを赤い星向かってあげグラスを空ける。
 そう言うとUNKNOWNは赤い星に興味を失い、再び本に集中した。


 そしてまた、月明かりの下、語らう者がいた。
 兵衛とクラリッサである──。

 LHにいる時は常に周りに人がいること多いが、今は二人っきりである。
 夫婦となって1年。
 依頼に出かけている間は会うことが出来ない事を考えれば、短い時間であり、
 お互いに話していない事もまだまだ沢山あるような気がした。
 ふと、クラリッサの顔を見つめた兵衛が言葉を切る。
「どうしましたの?」
「愛しい妻と二人きり。美味い肴をツマミにお互いに酌を酌み交わし酒を楽しむ‥‥これ以上の至上があるのか? と」
 面と向かって妻と言われるのは、久しぶりである。
 思わぬ兵衛の言葉に頬を染めるクラリッサ。
「酔いが回ってきたのか?」
「いいえ‥‥旅の開放感で何時もより飲むペースが早かったかもしれませんわ」
 それよりも月が綺麗ですね。と誤魔化すクラリッサ。
 酒に酔ったかもしれないが、この心地よい雰囲気が、クラリッサや兵衛を酔わせるのかもしれない。
 兵衛の腕が伸び、クラリッサを抱き寄せる。
「お酒が‥‥」
 浴衣が零れてしまいます。と言うクラリッサの唇を兵衛の唇が塞ぐ。
 何時もより少し強引な良人の舌にクラリッサも応じる。

 はむっ‥‥

 クラリッサが兵衛の舌を軽く噛む。
「──っ!」
 ビックリした兵衛が思わず口を放す。
「浴衣にお酒が零れてしまった罰ですわよ」
 クスクスと笑うクラリッサを兵衛が抱き上げ、ベットへと運ぶ。
「大丈夫、脱げば風邪を引かないから」
 そういって今度は優しくクラリッサにキスをする兵衛。
 浴衣の帯を解き、月光がクラリッサの白い肌を照らす。
「綺麗だよ‥‥」
 そういうと兵衛が唇と指がクラリッサの肌を確かめるように愛撫する。
 クラリッサの唇から甘い吐息が零れる。
 肌を重ねる度に強くなる愛おしさ。

 愛しい  愛しい人(あなた)──

 詩人のように洒落た言葉など知らない兵衛だが、
 精一杯の愛を込めて優しく妻に愛を注ぐ。

 お互いの指を絡ませクラリッサを抱いたまま眠る喜び。
 髪に絡まる汗の匂いが心地よかった──。


 ──翌朝。
 ベットに寄り添い眠る二人。
 先に目を覚ましたのはクラリッサだった。
 乱れた髪を手で整え、昨晩の余韻の残る己の姿に、見るものなど寝ている良人だけだというのに、恥ずかしさから無意識に布団を引き上げる。
 何時も結わいている髪が解けシーツに広がっている兵衛。
 その髪をそっと手で整え、静かに頬にキスをする。
「誘ってくださって本当にありがとうございます。あなた‥‥」
 個室についている浴室は2人で使うにはかなり狭い。
 先にシャワーを使う為にそっとベットを抜け出し、浴室へと向かう。
 今日も良い天気だ。
 まだ寝ている兵衛を起こして散歩に行くのも楽しそうである。


 食事前に一汗流そうとティナが武流を誘ってこれから一緒にランニングである。
 ストレッチをしているティナと武流が、風呂から戻ってくるUNKNOWNを見つけて声を掛けた。
「早いね?」
「日の出を楽しみながら迎え酒を、ね」
 朝もやが静かに晴れ、海側から登る太陽が静かに霧島を照らす様を眺めながら朝酒を楽しんだのだという。
「一体何時、寝ているんですか?」というティナに、
「酒は我が糧、なり」
 また、命を繋ぐ水なれば夜通し飲んでも乱れることなかれ。と答えるUNKNOWNに呆れるティナ。
「酒と煙草とコーヒーがなくなったら暴れるかもしれないけど」
 UNKNWONを知る武流は、いつものことだからと気にしない様子である。
「あながち間違ってはいないな」
「余計なお世話かもしれないけど、休肝日は作ったほうが良いよ」

 そんな3人に先に朝食を済ませたクラリッサと兵衛が挨拶をする。
「おはようございます。昨日はゆっくり出来ました?」
「しっかりリフレッシュしたよ」
「二人こそゆっくり出来た?」
「ええ」
 出かけるのか? と言う武流。
「これからこの辺を散策しようかと思ってね」
 手を繋いで出かけていく兵衛とクラリッサ。

 保養所の周りも簡単な散歩コースがあるようだ。
 まだ朝露消えきれぬ下草が生える散歩道をゆっくりと歩く。
 木々からの木漏れ日が、露をキラキラと光らせる。
 小鳥が遠くで鳴いていた。
「美しいところですわね、ここも‥‥」
「ああ、桜島や指宿、屋久島とかと一緒にこの辺りは国定公園に指定されているからね。まだ手付かずの自然が沢山残っているんだよ」
「わたし達の子供にこの風景を残しておく為にもよりいっそう頑張らないといけませんわね」
「そうだな。昨日もっと一生懸命祈っておいた方が良かったかな?」

 高千穂峰山頂には、天の逆鉾がある。
 この天の逆鉾は、神話では伊邪那岐と伊邪那美が大地を定めるのに使われた鉾と言われた鉾であり、大国主神を通して霧島神宮の御主神に祭られている天饒石国鐃石天津日高彦火瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)に譲り渡された後、国家平定に役立てらる。その後、国家の安定を願い、矛が二度と振るわれることのないようにとの願いをこめて高千穂峰に突き立てたという伝承があった。

「‥‥それで昨日、霧島神宮にいらっしゃったのですか?」
 槍使いである兵衛がその為に霧島神宮を選んだのだろうか? とふと尋ねるクラリッサ。
「いや、それは偶然だよ。たしかに俺にクラリッサがいるように、瓊瓊杵尊には美しい木花咲耶姫という妻がいるがね」

 神に祈った所でバグアのが追い払えないが、能力者らには、瓊瓊杵尊の天の逆鉾の代わりにエミタとSES武器、KVがある。

「明日からまた忙しくなるな」
「ええ‥‥」

 ゆっくりと散策を済ませて戻ってきた2人に、送迎バスの前で待つ3人が声を掛ける。

「遅いよーっ」
「これで全員だな」
「さて、LHに帰るとするか」


 こうして短い一泊二日の休暇が終わったのであった──。