●リプレイ本文
「君達は厳しい研修を終えわが社の名誉ある『MasterHouseKeeper』の称号を得た戦士です。これからはお客様宅でその手腕を存分に振るってください!」
熱く語る研修リーダーにどぎまぎするのは白峰 琉(
gc4999)。
姉のように慕う倖石 春香(
gc6319)に「こんな時代、傭兵以外にも手に職は必要だ」と言われ、「ただの掃除だったら問題ないはず」と一緒にやってきたのだが、何か間違っていたのかもしれないと思う琉。
そんな琉を含めた7人に依頼人(お客様)のデータが提示される。
「早速、研修の成果試させてもらいましょうか」と不敵な笑みを浮かべるのはソウマ(
gc0505)。
「一人暮らしの24歳の男性──ふふ、ドジっ子属性も必要よねん♪」とジャン・ルキース(
gc4288)。
そして、ファイルに添付された写真を見たUNKNOWN(
ga4276)が微笑む。
「――アジドの部屋か」
「アジドお兄様のお部屋を綺麗綺麗にいたしますの♪ お掃除‥‥花嫁修業みたいですわ‥‥いいお嫁様になれますかしら‥」と頬を赤らめるInnocence(
ga8305)。
「あら、皆のお知り合い?」
「何度か仕事でね」
「それなら(口調は)このままでいいかしらん?」
●
行き先が確定ならば、次にするの衣装選びである。
好きなのを選べとばかりに様々なコスチュームが並んでいる。
「サンタとトナカイがあるのに何故、橇がないんでしょうかね?」
納得いきません。というのは、古河 甚五郎(
ga6412)。
ダンボールとガムテがあれば何でも出来る、と作る事にしたらしい。
「でも確かにこれなら客も喜ぶし、(コスプレで)清掃員の士気も上がる」
商売として実によく考えられています。と感心したように言うソウマ。
「でもなんだか不毛ですね。コスした代行業者を頼むなんてリア充していない人の集まりなんでしょうか?」
「業界的に、むしろ晦日元旦はノンストップ芸能活動。掃除は新年度の番組再編時‥‥なので片付いてなくても業界的に正しいのです」
自ら部屋が汚い事を肯定してしまった甚五郎であった。
「トナカイは微妙ですよね‥‥やっぱり無難に執事服でしょうか?」
「琉にはこっちか、こっちがいいと思うぞ」
執事姿の春香の手にはメイド服とバニー服が握られている。
(メイドかバニー‥‥ど、どっちもどっちだ‥‥)
「お客様と時は待ってくれぬのじゃ」
「じゃあ‥‥メイド服を‥‥」
諦めて試着室にメイド服を持って入る琉。
3分後──
(‥‥うわぁ‥‥もう色々とダメだこれ‥‥)
どう見ても膝上20cmである。
「何をしている、琉。開けるぞ!」
短いスカートの裾を押さえている琉を見た春香。
「うむ、わしの眼に狂いはないのじゃ!」とサムズアップする。
更衣室から引きずり出される琉。
「‥‥この格好のせいで、依頼人に断られるって事は‥‥ないですよね?」
(それならそれで男性のコスが着ればOKでしょうからいいんですけど!)
春香を前にはっきり言えない琉の心の叫びだった。
「これも大事な任務のうちじゃぞ?」と琉をたしなめる春香。
「ちょっと小さいわよねん?」
鏡の前で一回転するナイスガイ(ジャン)が、試着したメイド服の腕がピチピチだと文句を言う。
「でも執事服なら、サイズはありそうよねん♪」
裏コスプレ衣装専門店を営むジャンから見れば、コスは生活の一部である。
時間があったら自ら一番馴染む執事服を作ってしまえるのだが、としきりに残念そうである。
「あ、でも簡単な直しならお手の物だから皆、言って頂戴ねん」
ぱぱっと出来ちゃうから♪ とジャン。
「琉のは、直しが必要か?」
「ぴったり、あつらえたみたいにOKよん♪」
ジャンの言葉に逃げ場がない琉に対し、それみたことか、と得意げな春香。
どうやらメイド服、決定のようである。
「わたくしのこれ‥‥スカートの裾が、ちょっと短すぎですかしら‥‥?」
胸元をファーで飾られた赤いチューブトップにぽんぽんが着いたケープ。
赤い手袋とファーのブーツ。
大きな金の鈴がついた赤いチョーカー。
赤い短いスカートの裾を引っ張りながら、もじもじとInnocenceが尋ねる。
「そんなことないわ。ばっちり可愛いわよん♪」
「私は──む? これかな?」
UNKNOWNの眼がきらりと光り、その手にしっかりと小さい黒い革の物体が握られていた。
「客は神様だから、ね。それに東洋では来年はうさぎ年らしい。縁起にも丁度いい」
「ならば僕は神主を‥‥変装は僕の得意分野ですからね。完璧に演じて見せますよ」と再び不敵な笑みを浮かべるソウマ。
●
ピンポーン──
ガチャリとカギを開けて現れたのは依頼人アジド・アヌバ(gz0030)。
「今日はよろしくお願いします。ご主人様♪」
「お兄様‥‥お世話になりますわ‥‥」
「――スイーパー(掃除屋)だ」
「‥‥‥‥人違いです」
笑顔を凍りつかせたままバタンとドアを閉めるアジド。
「依頼の件で来た」
「人違いです、人違い!!」
中で覚醒してドアを押さえているのかびくともしない。
ピンポン、ピンポン、ピンポン──
無駄な抵抗は止めろとばかりにしつこくインターフォンを押すUNKNOWN。
「掃除代行を頼んでおいて、その態度は無礼だろう」
「代金は振り込みます。帰ってください!!」
「わたくし‥‥ご迷惑でしたの‥‥? わたくし、きちんとお掃除をならってきましたの‥‥」
うるうると涙を浮かべたInnocenceにインターフォン越しにぎょっとするアジド。
「Innocenceさんに掃除に来てもらえて嬉しいです。それもこんなセクシーなサンタだなんて、大歓迎です。でも、そっち(親父兎)はチェンジです!」
頬を赤くして恥ずかしそうに下を俯くInnocence、
(俺はOKなんですか?!)と複雑な琉と、
そしてチェンジといわれたUNKNOWN。
「ここで脱ぐぞ‥‥」
インターフォン用の小さいモニタに、コートで隠し切れないUNKNOWNの帽子には黒い兎耳が揺れている。
「客の要望には、答えんとな」
「ぎゃーっ、止めてください! 近所迷惑です!!」
「アジドにコスプレ観賞の趣味があったとは‥‥ディープユーザーとはな‥‥まあ、インドの連中には黙っておこう」
僅かな隙間からささやくUNKNOWN。
勝敗は火を見るより明らかだった──。
●
傭兵らの部屋よりもかなり広めではあるが、単身者というのもあり、シンプルな間取りの部屋である。
頼まれた清掃場所は寝室、書斎、居間、キッチンと風呂である。
「7人全員だとちょっと人数が多いかと思ったが、分担すると良いかもしれぬの」とバケツを握る春香。
「今の僕は神主ですからね。掃除の神様の恩寵みたいなもんですよ」
そういうと懐から掃除道具のみならず祝詞の書かれた紙を取り出すソウマ。
「これから『煤祓(すすはらい)』神事を斎行いたします。まずは一同、礼」
恭しく礼をするソウマに「そこまで完璧かい!」と思わず全員が突っ込みを入れた瞬間であった。
インスタント神事の後、脱いだフロックコートを綺麗に畳むUNKNOWNにせめてエプロンをつけてくれないだろうか? と頼むアジド。
「襲いたくなるかね?」
アジドの本棚にはボディービルの本が並んでいる。
(やっぱりそうゆう趣味が‥‥)と視線が集まるが、反論するアジド。
「UNKNOWNさんが鍛えているのは充分判りましたが、若い女性がいるんですよ」
目のやり場に困るでしょう? と言う。
兎耳が揺れる帽子を被ったUNKNOWNのいでたちは、
黒い革のビキニパンツに黒革の手袋。
赤いネクタイが揺れる胸板は引き締まり厚く美しく鍛え上げられている。
──が、黒いソックスに黒い革靴である。
「ストッキングにハイヒールの方がよかったかね?」
あまり完璧にすると困るだろうと遊び心を入れてみたのだが? と言うUNKNWON。
「あら、困らないわよん。むしろ、か、ん、げ、い(歓迎)♪」
鍛え上げられた綺麗な体にはコスが良く似合う。神様の賜物だ、とジャン。
「‥‥いいです、言った僕が悪いんです」
掃除前のレイアウトをデジカメで全て撮影し、アンティークの調度品を別の部屋に移動する。
「清掃の基本は、埃を落すところからだな」
ベットや家具に誇り避けのシートを掛け、ズレないようにガムテで固定していくのは甚五郎である。
「出来ました!」という言葉に、バトルハタキを取り出すUNKNWON。
ぱたぱたとハタキを振るう度にバニーの、可愛い兎尻尾が揺れる。
「天井灯の電球が切れかけているのじゃ。琉、出番じゃ」
脚立を抑えるから上がれ、と春香。
「判りました‥‥って、スカートの状態で高いところは‥‥っ!!」
これは色々危険すぎるだろう、とスカートの裾を押さえる琉。
「琉、男子たるもの、高いところを臆してどうする」
「いや、流石にスカートは‥‥」
「ええい、わしのいう事を聞けぬというのか!」
春香に文句を言われ、渋々脚立に上がる琉。
片手でスカートを抑えながらなので電球の交換が思うように進まない。
「モタモタするのでないのじゃ!」
早く仕事を終えて普通の格好に戻りたい、と思う琉だった。
「払い給え〜、今年一年の穢れを払い給え」と言いながらソウマはローディスクに置かれていた時計を磨いていた。が、突然ピタリと手を止めた。
重く目蓋が垂れ、何処か遠くを見つめるような瞳で──
「貴方の来年の運勢は〜」
と、言ったと思った瞬間、何か降りてきたのだろう。
くわっと目を見開くと徐にローディスクの引き出しを開けた。
「‥‥‥‥‥‥‥‥これは僕の胸の内にしまっておいた方が良さそうですね」
汗を一筋たらし、そのまま引き出しを閉めるソウマ。
「所謂守秘義務ですね」
うんうんと頷くソウマ。
「そう言われると気になりますよね?」
ワラワラ人が集まってきた。
引き出しの中身を見たジャンは「まぁ♪ お似合いねよん」と言い、春香は「琉よりは劣るな」と言い、Innocenceは「懐かしいですわ」と言った。
「僕の(キョウ運の)せいじゃありませんよ。引き出しにカギをかけ忘れたアヌバさんが悪いんです」
頬をひくつかせながら、ちょっと責任転換をしてみるソウマであった。
風呂場の床をキュッキュと磨いているInnocence。
楽しげに澄んだ声で歌っている。
全身でリズムを取り、体がゆらゆらと揺れる。
その度に本人は全く気がついていないようだが、下着がチラチラと見え隠れする。
「楽しそうだね」
「きゃっ!」
後ろからアジドに声を掛けられたInnocenceが慌ててスカートの裾を引っ張る。
「み、見えちゃいましたか?」
「‥‥いや、うん。大丈夫です」
真っ赤になるInnocenceに休憩にしないか? というアジド。
「Innocenceさんの淹れてくれる紅茶は美味しいですから」
居間のテーブルに磨き上げられたティーセットが置かれて、紅茶が一同に振舞われる。
「でもなんでUNKNOWNさんがこんな年の瀬に掃除代行なんてしているんですか‥‥?」
「いや、なに。いつも世話になっている古河と仕事をしてみたくて、ね」
にこやかに語るUNKNOWN。
当の甚五郎といえば橇ぐるみを着て、休憩も取らずに清掃マシーンと化していた。
「こう、自動清掃機のように。カーペット繊維の奥までもしっかり汚れを取りますよ。ガムテは!」
ガムテでペタペタとカーペットのゴミを拾っていた。
ベットや箪笥の下か寧にペタペタとしていく。
出てくるのはアジドのものと思われる髪の毛ばかりである。
(女性のが出てもら本棚の裏まで丁修羅場ですが、全く無いのも友達居ないみたいで複雑です。ここはやはり──)
甚五郎が取り出したのは、一本の金髪。
(彼女的Innocenceさんが、独身男性の部屋で気になるモノ。髪の毛)
某所でゲットしてきたS・シャルベーシャ(gz0003)の髪の毛であった。
(まさか本当に必要になるとは‥‥まあ、間違えると腐る方面の、再び余計な火種になりそうですが、SSだから仕方ない‥‥的状況に捏造です)
「おおっと! こんなところに長い金髪が?! 大丈夫。自分、中尉の味方ですからオオヤケになる前に隠匿します。ガムテで!」
「金髪なら、サルヴァのじゃないですか?」とドライな反応である。
「サルヴァ様はよくおいでになるんですか?」
一度もないので、服についてきたのではないか? と言うアジド。
「‥‥何もない? そんな煩悩で大丈夫なんですか?」
「充分健全な煩悩が存在しています」と言いながらInnocenceの胸元を、ケープを直すアジド。
休憩の後、再び部屋を綺麗に磨き上げる一同。
埃一つ堕ちていないかのチェックも万全である。
「んふふ‥‥琉、ここにも埃が残っておるぞ?」
カーテンボックスの上に残った埃を指で救い上げてニヤリとする春香。
「そんな事では一流のメイドになれんぞ。きちんと掃除の一つ満足に出来ぬとはどういうつもりじゃ?」
ハタキを片手に厳しくメイド(琉)指導をする春香。
「こういう時は、塗らした新聞紙を棒状に丸めて掬い取るのじゃぞ」
濡らしてはいけない素材の場合は、ストッキングやフリースなどの静電気が発生しやすいものをひも状にして利用するのが得策じゃ、とマメ知識を披露する春香であった。
●
「コレにサインを」
作業報告書にサインを貰い、任務完了である。
「旦那様のお役にたてて幸いです」
にっこりする春香。
全員で記念写真を撮って終了である。
ワゴンで代行会社に戻る途中、清掃の邪魔になると我慢をしていた煙草を取り出し、火をつけるUNKNOWN。
「あれ? Innocenceさんは?」
「私が見た時はアジドさんと一緒に新しい紅茶の用意をしていましたよ」
「戻った方が良いでしょうか?」
ほら、アルバイトの女の子が襲われたっていう話があったじゃないですか。
「アジドさんなら大丈夫じゃないんですか、ヘタレですし」
甚五郎の言葉に笑いが起こる。
緊張の糸が切れたのか、アジドの膝の上に頭を乗せスヤスヤと眠るInnocence。
(見ない、見ない、見ない‥‥がまん、ガマン、我慢‥‥)
ヘタレといわれたアジドは、目の前の据え膳を食わぬよう、煩悩と戦っているまっ最中だった。
「ねえ、事務所に帰ったら皆で撮影会しましょうね」
お仕事中は皆のコスを堪能できなかったわ♪ とジャン。
「賛成、記念にいいですよね♪」
「元気な印と、実家に配るのも楽しいかも知れぬな」
「ええっ!」
盛り上がる車内。
(今度、私も兵舎や格納庫を頼んでみる、か──)
オーダーの際には、全員戸籍上20代前半の女性限定と指定しよう。
夜空に消える紫煙を見ながら、そう思うUNKNOWNであった。