●リプレイ本文
●オトコノコ
お茶の用意をしている終夜・無月(
ga3084)と禍神 滅(
gb9271)の隣で、
「‥‥相変わらず、モテるのかモテないのかビミョーな人ですね」と森里・氷雨(
ga8490)に突っ込まれているのは、相談の依頼主アジド・アヌバ(gz0030)である。
「じゃ、恋と愛の狩人な俺が微細にアドバイスをば」
体験談を話すと言う氷雨だが、
「なんか哀れみのまなざしで見られている気が‥‥が、漢だったら判りますよねっ?」
カウンターに座りニヤついて様子を見ているS・シャルベーシャ(gz0003)を振り返るが、あっさり「判らんな」と切り捨てられる。日によっては朝昼晩と連れて歩く女性が全員違うと言われるサルヴァに同意を求めるのが根本的に間違っているのだ。
気を取り直した氷雨が、
「実際の所、場所・時間・シチュ・台詞‥‥そんなの選んでられる立場ですか。機会を逃さず積極的に会わないと、立てれるフラグも立ちません。おはようからおやすみまで‥‥暮らしを見つめる勢いで、接点を残さず拾いましょう」と氷雨がつらつらと言う。
「朝の通勤通学から要チェック。曲がり角はサモサを咥えて走りましょう。
同じ職場なら同じプロジェクトに参加。仕事を頼むのも手伝うのもいいですね」
「あー‥‥それはムリです」
なんでサモサなんだろう? と思いながら「相手の女性は傭兵ですよ」と言うアジド。
「傭兵さんですか、相手は。なら尚更、お兄様から大事なパートナーへ脱却するには、危険な任務でも一緒に助け合う事が相手の尊重になると思いますよ。
中尉の任務が危険なのは相手も承知してるんでしょう? 公私共にパートナーとなってくれ、と言ってしまえばいいです」
「それも1つの手かもしれませんが、この度、年金が出ることが決定しましたので、軍を退職する予定です」と言うアジド。
「それならなおさら意中の人へ一度、当たって砕けましょうよ。別に八方美人でも良いですが。攻略対象で一番楽なのが、実は男の娘‥‥ってのもよくある話です」
「攻略‥‥玉砕したら僕に滅さんを口説いてみろと言うんですか?」
丁度紅茶を運んできた滅を見るアジド。
「アジドさん、自分で男の娘の自覚無いんですか?」
「僕のどの辺りが、男の娘なんですか?!」
愕然として反論するアジドを、
「大丈夫だよ。僕はそんな無いって思うし」
きっと周りにいる軍人がゴッツイから、線が細く見えるんじゃない? と慰める滅。
「滅さんは、優しいですね。同世代の女の子にモテそうですが、よく告白とかされるんですか?」
「想像に任せるよ」とにこやかに言う滅。
「もっとも僕が告白するならオーソドックスかもしれないけど──
公園のベンチで、夕日の沈む中でお互いに顔を向き合う状況で、
(そっとアジドの手を取り)
『この気持ちは嘘じゃないよ』──っていうかな?」
「俺もストレートな告白がいいと思いますよ──先ず其の彼女をデートに誘い、楽しい時間を過ごした後、夜になったら景色の良い二人っきりになれるベンチに移動して──後ろから相手に気づかれず接近できるベンチがお薦めですね」
と言いながら、アジドをベンチに見立てたソファーに座らせる無月。
初めは隣通しに座り、思い出話で場の雰囲気を高める。
その後、飲み物を買ってくると言って一度彼女の前から姿を消す。
彼女の体が冷え切った時、ベンチの後ろから名前を呼びかけ、相手が振り向く前に素早く強く優しく抱きしめる──
「そして其の侭、愛の囁きと告白です」と言って、アジドを後ろから抱きしめる無月。
「『愛しています‥‥この世界中の誰よりも‥‥‥
もし君が嫌で無ければ‥‥今で無い先の未来‥‥貴方と結ばれたい‥‥
貴方と‥夫婦の契りを交わしたい‥‥
そして今‥貴方と共に愛を育みたい‥‥‥‥』
間を充分に見計らって更に、
『ですから‥私の‥恋人になって頂けませんか?‥‥』──とハッキリ自分の想いを伝え、其の後は温かくなった心で二人一緒に買った飲み物を飲む訳です」と言う無月。
ふむふむ、と途中まで聞いていたアジドだったが、
アジドの思い人は、アジドより10歳以上年下の未成年者で、
女子中学生に成人男性が結婚を申し込むのと同じだ、と苦笑いをする。
「でもたまに同級生が担任とくっつくとかあるからアリなんじゃないんですか?」
「僕的には16歳未満にそういうお願いは‥‥」と悩むアジド。
「でも、天然娘には『二人っきり』と、気持ちを『誤解しようがない言葉』ではっきり伝えるのが良いっていう皆の意見は参考になりました」
ありがとうございます、と頭を下げた。
●オンナノコ
告白される女性の立場の意見も大事である。
アジドの元に現れた奇特な女性アドバイザーは3名であった。
「思い人への告白のアドバイスということですから素敵な結果になるように努力しますわ」と実体験と図書館で得た知識を片手に参加であるデモン・イノサンス(
gc6431)。
「‥‥そう言えば、前にもアジドさんからは恋愛相談を受けたことがありましたわね」というのは、クラリッサ・メディスン(
ga0853)。
「具体的にどのような方か判らなくては具体的なことは申し上げられませんけど、可能な限り相談に乗らせていただきますわね」
人生の先輩。人妻ならではのありがたいお言葉である。
「初めまして。アジドさ──失礼、中尉さんでした。レーゲン・シュナイダー(
ga4458)と申します。お気軽にレグとお呼び下さい☆」
よろしくお願いしますです、とぺこりと頭を下げるレーゲン。
「こちらこそ、よろしくお願いします。レグさん」
噂はよく聞いていたので余り初めましてという感じがしない、とアジドが笑う。
レーゲンは、彼氏の友達であるアジドにも幸せになって貰いたい、と気合充分である。
恋話となると、ある意味女性の方が相談相手には適任かもしれない、と若干思うアジド。
──そして、もう一人。アジドの目の前に目の周りを少し赤くしたInnocence(
ga8305)がちょこんといた。
「アジドお兄様‥‥お兄様の御相談‥‥わたくしには判りませんけど‥‥お茶とかでしたら‥‥」
いつもの元気は何処へやら、消え入りそうな声でポソポソと喋る。
「あの、えと‥‥あの、お茶です‥‥」
お茶を持ってきたInnocenceだが、いつになくソワソワと落ち着きが無い。
アジドと目が合った途端、慌ててガチャン! とカップを倒してしまう。
「──っ!」
「掛かったんですか?!」
手を押さえるInnocenceを慌ててアジドがキッチンに連れて行く。
ザーザーと水を掛け、充分に冷えた所で練成治療を行った。
「今日はもう家に帰りなさい」
「でも片づけが──」
「それは僕がやります」
様子を見に来たレーゲンが、Innocenceのしょんぼり加減に心配する。
「あ! 私ったら初めての家にお土産も用意しませんでした。クッキーを焼きますからInnocenceさん、手伝ってくれませんか?」
(一人にして置いたら、またお茶を零して火傷をしても大変です)
後をレーゲンに任せて戻ってきたアジドに話の続き、確認をしたい、と言うデモン。
「相手の情勢ですが、妹のように接してきたけれど最近女性として意識始めたと‥‥」
以前は気にならなかった肌の露出が気になり、他の男に見られているのがイヤだと感じる。
当該女性はアイドル歌手でもある為も、男性から見られる事に対して嫌悪感が殆ど無く、精神年齢は小学生と変わらないので警戒心も薄いのだろう、と苦笑いをするアジド。
「精神年齢が小学生‥‥」
思わぬ強敵に、デモンの眉間に皺が寄る。
「私からのアドバイスは──とりあえず、二人きりで食事でもなさってはどうでしょう?
その席上で『君と居る時が僕は一番幸せなんだ。だから、ずっとずっと僕の側にいて、僕に笑顔を見せてくれないか?』とでも言われては如何です?」とクラリッサ。
「わたくしも同意見ですわ。誤解の余地の無い言葉で告白されるのはどうでしょう? 直接的な言葉であれば、相手の方が理解しているかどうかも返事の内容で判りますし」
それで理解されないようであれば相手の成長を辛いが待つしかない、と小首を傾げてアジドを見るデモン。
「やっぱり、そうですよね‥‥」
参考までにデモンさんが告白されるとしたらどんな感じがいいか? と尋ねるアジド。
「わたくしの場合ですか? それなりに友人付き合いをしている方からの場合でしたら、場所は気にしませんが二人きりの時に普通に告白していただければちゃんとお答えしますわ」
「お兄様の分は、少し甘さが控えめにしますの‥‥代わりにシナモンは多めに♪」
楽しそうに砂糖を計っていくInnocence。
「中尉さんの事を良く知っているんですね。中尉さんの好きな方はどんな方なんでしょうね?」
「お兄様の好きな方‥‥」
ニコニコしていた表情が曇る。
「胸がもやもやしまして何故かとても気になりますの‥‥なんでこんなに気になりますか、まだ判らなくて‥‥」
アジドの恋の相手は、ハイパー天然娘であった事を思い出すレーゲン。
(もしかして‥‥?)
学生時代、『俺と付き合って』と同級生に言われて『構いませんけど、何処にですか?』と答えた事があるレーゲン。
(今、思い返せば、あれは告白だったのですね‥‥)
がくり、頭を垂れる。
(にぶにぶな私ですが、にぶにぶな立場から何か有意義なアドバイスもきっと出来るはずです)
「あの‥‥レーゲン様?」
「何でもないですよ。急いで焼いてしまいましょう」
「お待たせしました。クッキーです」
お茶のお代わりとクッキーを振舞っていたレーゲンが、クラリッサやデモンが、もう、アジドにアドバイスをしたというのを聞いて、
「私みたいな鈍いひとや、天然さんには、誤解の起きない言葉を選ぶのが大事かと。気持ちを具体的に伝えると良いと思います」
レーゲンが告白された時、それが『優しさから来る自己犠牲的なボランティアの申し出』だと思っていた‥‥思わず、その時の事を思い出し、遠い目をしてしまうレーゲン。
「そういう事態を避ける為にも、明確に気持ちを伝える方が良いかと」
時間と場所は、静かな時間、静かな所。
目の前の相手の事だけ考えられる様に。
「好きになってしまえば、年齢なんて関係ないと思います。頑張ってくださいね、中尉さんっ」
アジドの両手をガッチリ握るレーゲンであった。
どうやら女子の意見も『二人っきり』、気持ちを相手が誤解しようがない『言葉』で伝えるのが一番良い、という結論のようである。
3人に礼を言うアジド。
焼きたてのクッキーに舌鼓を打つ他の3人に気がつかれないように、廊下にアジドを呼び出すクラリッサ。
「立ち入った事を聞くけど──」と尋ねるクラリッサに、
「神と両親の名に掛けて『挨拶』キス以外、手を出していません──」と前置きをした後、実は──と、話し出すアジド。
「それは、ひょっとして──」
「ええ。Innocenceさんです」
思わず眩暈を覚え、眉間を押さえるクラリッサ。
「‥‥事情は大凡理解しましたわ。単なる天然な娘さんでしたら間違いようもない言葉、『私と結婚してください』とでも言えば宜しかったのですけど‥‥『彼女』には重すぎますわね」
「お手数を掛けます。彼女に告白したいと思うのは、僕の我侭なのは判っているんですが‥‥」
Innocenceの動揺振りを思い出すクラリッサ。
「そうですわね。アジドさんの気持ちを伝える前に『彼女』は不安がっていますから、まずそれを解きほぐすのが先決ですわね」
きっと、まだ本当の恋愛というものがInnocenceにも掴めていないだけだと思う、と言うクラリッサ。
「だから、まずは一緒にいる時間を少しでも多くして差し上げるのが第一歩と思いますわ」
(一緒に‥‥そういえば氷雨さんもそんな事、言っていたな)
●フタリノキョリ
(いけない‥‥いつの間に眠ってしまいましたわ)
アジドのベットでInnocenceが目を覚ます。
窓辺に腰掛け、夕陽を見ながらアジドが何かを歌っている。
「おはようございます。アジドお兄様──」
「おはようございます。Innocenceさん」
冷えた手が頬に触れ、いつものように額にキスをするアジド。
いつもと変わらぬ──Innocenceの胸がキュンと痛む。
温かいミルクティを持ってくる、と立ち上がろうとするアジドを服の裾をぎゅっと握り締める。
「どうしました、怖い夢でも見たんですか?」
アジドの言葉にブンブンと頭を振るInnocence。
Innocenceが一生懸命考えた思いを口にする。
「あの‥‥お兄様。やっぱりサルヴァ様がお好きですの‥‥?」
瞳を覗き込み、真剣に聞いてくるにInnocence。
「サルヴァは好きとか嫌いとか、そういう対象じゃないですね。サルヴァは僕がKirata──僕の所属するギルドの官職名なんですが──最初で最後に導いた、たった1人のMaha・Davaの地上代行者がサルヴァですから」
「違います方、ですの‥‥? レーゲン様が、わたくしの知っている方ではないかって‥‥」
「確かに、よく知っている人ですね」
アジドの言葉に泣きそうな顔をするInnocence。
「‥‥どなたですの?」
「知りたいですか?」
頷くInnocenceに判りました、と答えると、引き出しの中から1枚の写真を取り出してくるアジド。
「その人は、優しくとても気がつくかと思えば、大胆な行動をして周りを驚かせたり──お茶を淹れるのと、歌がとても上手で、とても笑顔が素敵な女性です。‥‥でも最近とても泣き虫だって知りました。その人はULTの傭兵で──」
手渡された写真を恐る恐る見るInnocence。アジドと並んで笑って写っているのは──
「名前は、Innocenceと言います」
「えっと、あの‥‥」
キョロキョロと周囲を見回した後、自分を指差すInnocence。
「わたくし‥‥?」
「そうですよ、Innocenceさん。僕は貴女が好きですよ、妹ではなく。一人の女性として──僕は貴女を愛しています」
愛しています──アジドの言葉が、ゆっくりとInnocenceの心に染み込むに従い、顔が段々と赤くなるInnocence。
「貴女は僕よりもずっと年下です。今すぐどうこうしてください、というつもりはありませんが、もし、貴女が何年経って──」
口元を両手で隠してポロポロと涙を流すInnocenceにギョッとするアジド。
「め、迷惑でしたか?」
こくん、と頷くInnocenceにたじろぐアジドだったが、
「──嬉しい‥‥お兄様が‥わたくしを‥‥‥」
「迷惑じゃありませんか?」
「わたくしもお兄様が大好きですわ‥‥」
──斯くして傭兵らの活躍により手が掛かるカップルが1組誕生したのであった。