●リプレイ本文
「罪もない人達の人生を弄ぶ行為、見過ごす訳にはいかないわね」と風代 律子(
ga7966)。
「子供にテロ行為をさせるとか、そんな話は聞きたくなかったな」
死んだ子供の魂に、
「‥‥どうか安らかに」と願うのは黒瀬 レオ(
gb9668)。
不破 炬烏介(
gc4206)は、
「‥何時。も。不遇。浴びる、は。弱者。それも‥子供‥‥か。
ソラノコエ、言う。『事情モ心情モ‥‥罪ヲ赦スモノニ在ラズ。罪ニハ罰ヲ』‥‥
‥‥穢れ。必ず‥‥殺す」
「被害者でも犯人でも捜すには、情報収集からかしら?」とメアリ・エンフィールド(
gc6800)が言う。
「調査ね‥‥。余所者の俺たちにどれまでやれるかな‥‥」と黒木 敬介(
gc5024)。
傭兵らしい如何にもなバトルスーツや鎧でなければ服装はそのままで、通訳も特に必要なく英語が通じるという話であったが、何処まで通じるか怪しい、と笑う。
「ところで、KITARAっていう人にアジドっていう人が似ているって言っても‥‥ねぇ?」
参加者の中でアジド・アヌバ(gz0030)に直接会った事があるのは依頼者のユリア・ブライアント(gz0180)を除けばシーヴ・王(
ga5638)だけであった。
「探すにしても何か特徴が判るものがあればいいんだけど?」
絵にはちょっと自信がある、とシーヴはペンを走らせ絵を描きあげて、仲間達に見せる。
「こんな感じでありやがるです」
どや、とばかりに胸を張るシーヴ。
「‥‥おー‥これはまた‥‥いい味の絵だと、思います」
描き上がった絵は子供の落書きのような、なんとも、『画伯』な絵である。
「あたしは絵はいいや。それよりも特徴を聞かせて」
「シーヴの絵に何か問題がありやがるですか?」
なんとなく納得がいかないシーヴ。
「僕は貰っていきますよ」
ネタというか、コミュニケーションのきっかけになるだろう、とレオが絵を受け取る。
「たしかにな。私も1枚貰っていいか?」とイルキ・ユハニ(
gc7014)。
「ところで子供や妊婦を誘拐するんなら、そのターゲットが出歩く時間帯は日中‥‥明るい時間帯かな?」
犯行現場までは目立たないよう車両にキメラを隠して移動をしているのではないかと予想する、と天羽 圭吾(
gc0683)。
「それに浚う現場にキメラを指揮する人物もいたほうが確実だしな」
とりあえず警察で確認できる事は先に確認した方が無駄ないだろうという事になり、確認する事を書き出していく。
一方、聞き込む場所は、犯人が被害者を選びやすいだろう場所を手分けすることになった。
「誘拐事件もこの都市では有名ってことだし、掲示板みたいなところで訊いてみても良いかもね」
都市伝説的デマも地道に辿れば元の情報に辿り着けるはずである、とメアリはネット情報を漁ると言った。
「勿論判った事は逐一連絡を入れるからね」
「じゃあ僕は色々な情報が聞けそうな飲食店等、人が多そうな場所でも聞き込みかな?」とレオ。
「そうだな。店員とかは街に見慣れぬ人間がいれば気がつくだろうしな」
子供相手では情報が錯綜することがあるだろうと大人中心に聞き込みに回ってみるとイルキが言う。
それぞれが受け持ち場所へと散らばって行き──
警察ではいくつかの事が判った。
・誘拐が行われるのは毎週金曜日。テロが行われるのは火曜日
・被害者は小中学生が7割。妊婦が被害者の2割。未就学児童の被害者は全体の1割。
・誘拐が行われ時刻は、日中が6割。残りは夕方や夜間。
少数ではあるが、就寝中に誘拐されたケースもある。
・犯行車は特定できず
目撃情報については警察が捜索した所、シロであった。
・不審人物については特定できず
・変死体に誘拐された妊婦は含まれない。
・行政司法から外出禁止令は出ていないが自主的に行われている。
●
「ねぇ貴方達、ちょっといいかな?」
見知らぬ律子に声を掛けられ驚いて逃げようとする子供達の前に素早く回りこみ優しく声をかける。
「お姉さんはULTの能力者よ。貴方達を守る為にやって来たの」
「本当に、本物の能力者なの?」
子供たちを安心させる為に覚醒してみせる律子。
赤く変わる右目を見て、ほっとした表情を見せる子供達。
ビーチボールや水鉄砲で遊び、子供達が喉が渇いたといえば飲み物を勧める律子。
子供達が打ち解けてくれた頃合を見計らって切り出した。
「誘拐事件について知っている事があれば教えてもらえないかしら?」
子供達の証言から行方不明になった子供は、行方不明になる直前近所で見かけぬ子供と一緒にいた、という事が判明した。誘拐の被害者が新たな誘拐の手引きをするという事は決して珍しいことではないが、なんともやりきれない気持ちになる律子であった。
炬烏介もまた地道に歩きながら聞き込みをして歩いていた。
(暑い‥‥)
アーマージャケットを脱ぎ腰に巻くと誘拐事件があった公園で足跡など、犯人の痕跡、残留物がないかと丁寧に調べ始めた。
ベンチで涼む中年男が不思議そうな顔をして炬烏介に声をかける。
「訳あって‥誘拐、事件。追って、いる。お前は。いつも‥この公園で。休む、のか?」
「そうだよ」
誘拐事件があった日は休憩に来たのか尋ねる炬烏介。
「‥すま、ん。知ってる事。を‥‥聞かせ。てくれ‥‥」
「シーヴは空を、ユリアは街の方、気ぃつけてくれるですか?」
「判りました‥‥」
市庁舎の屋上から双眼鏡で町の様子を見つめるシーヴがポツリと言う。
「‥‥ユリアは舞踏王の秘密、ずっと追ってやがるんですね」
「ええ‥‥」
「ユリアが追いてぇなら幾らでも協力するです。キースを信じるユリアを、シーヴは信じてやがるですから」
そう言って微笑むシーヴ。
「KITARAへ繋がる糸、手繰ってみせるです」
「シーヴ、ありがとう‥」
『聞こえる、か‥‥』
「感度良好です」
炬烏介からの問い合わせに屋上に広げた地図に書き込んだ情報を伝えるシーヴ。
「最近だと街の北部。そこら辺が多い、ですか‥‥?」
「ふ、む‥‥そちら。が‥‥手薄。か‥‥向かう、ぞ‥‥」
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リストアップされた孤児院を回る途中、圭吾が見つけた公園で子供達がボール遊びをしていた。
そこだけを見れば何処にでもありふれた日常である。
ふと、脇を見るとジュースを売る移動式売店があった。
15、6歳に見える売り子が1人、忙しそうにジュースを販売していたが何か腑に落ちなかった。
警察で見せてもらった調書の中に似たロゴがあった事を思い出し、確認して欲しい、と連絡をする圭吾。
シーヴが親会社で確認した所、どこのエリアで販売するのかは店主に任せていると言う。
「待たせた、な‥‥」
炬烏介が窓を叩き、車に乗り込む。
律子とレオ、敬介が更に合流した。
徒歩で移動するイルキは到着するまでにもう少し掛かる、という。
車で待機する圭吾を残し、ジュースを回し飲みをしていた子供達に4人が近付いて声を掛けた。
傭兵達の質問に答えていた子供達であったが、10歳位の男の子が1人が落ち着かない様子で辺りをキョロキョロと見ていた。妹と思しき女の子の手を引いて帰ろうとする。
「何か知っているの?」
「知らない男の人と話しちゃ駄目だって──が言ってた」
「じゃあ、お姉ちゃんならいい?」
閉じ込められた箱をガタガタと揺れるのを見て、中に向かって優しく囁く影。
「どうしました? ああ‥子供達に危険が迫っているんですね?」
檻を開くと同時に黒い塊が外へと勢い良く飛び出した。
「話しちゃ駄目だって誰が言っていたの?」
「KITARA」
妹の口を慌てて押さえる兄。
「KITARA? KITARAが言ったの?」
「僕、知らない」
妹を庇うようにジリジリと後ろに下がる兄。
「とりあえず保護する?」
「そうだな‥」
他の子供達は家に帰るように促し、公園には様子を遠巻きに見ている近所の大人達と傭兵、そして兄妹が残った。
連絡を受けたシーヴとユリアも間もなく公園に到着する予定である。
レオが捕縛の為の縄を持ってくる。
──ガブリ!
兄が敬介の手に思いっきり噛み付いた。
思わず手が離れた隙に思いっきり律子の足を踏んで、妹の手を掴んで逃げようとする兄の進路をアーミーナイフを握った炬烏介が遮る。
「‥‥ヒト、を。無闇に傷つける訳にいかない‥‥が‥‥これも戦い、だ。悪く思うな‥‥」
「子供だからといってもやって良い事と悪い事があるのは判るな‥」
手を擦りながら低い声で言う敬介。
勿論、傷つける気など毛頭もなかったが、子供でも判りやすい『脅し』である。
「Meri madada karo,KITARA!」
突然、突風が巻き起こり、黒い影が公園に飛び込んできた。
人の上半身を持ち下半身が獅子、大きな鷲の翼を持つキメラであった。
見物人達が悲鳴をあげて逃げていく。
「ようやくお出ましか‥‥」
武器を構える傭兵達。
レオが兄妹を抱えて尽かさずと後へと飛び下がり、その前に律子が立つ。
咆哮を上げるキメラに兄妹が叫んだ。
「「Mam!」」
「ママ?」
豊かな乳房が雌である事を示すが、顔は人と言うよりヒヒに近い。
「誘拐、された。‥‥妊婦、か?」
「Mam,meri madada karo!」
兄妹の叫びに呼吸するようにキメラは、再び大きな咆哮を上げて律子を弾き飛ばし、レオに向かって突進してきた。
●
「手加減ってのは難しいか‥?」
全身から血を流すキメラは、傭兵達の眼から見ても既に立っているのが精一杯である。
だが、一歩も引こうとしないキメラ。
レオの腕を掴み「ママを虐めないで!」と必死に懇願する兄妹。
──そんな中、場違いなまでに涼やかな声が響く。
「酷い人ですね、貴方達は」
移動式売店の売り子が立っていた。
「KITARA usaki mam ki madada karane ke li’e」
「Yaha jarura hai‥‥」
「てめぇがKITARA、です? ‥‥キースがユリアを狙った‥‥原因‥‥」
ヴァルキリアを構えたシーヴが、ユリアを背に庇うように前に立つ。
「なぜ子供達を戦争の道具に使うの? 女性を浚う目的はキメラにする事?」
「何を言うのかと思えば‥‥子供を戦争の道具にしているのは、人もでしょう?」
ULTの傭兵にも10歳の子供がいる、と言い、
「彼女がキメラになったのは、彼女が選んだからですよ」と肩を竦めて見せるKITARA。
「‥穢れ、が‥‥図に乗るなよ‥喰らうか? 鬼神の一撃‥‥」
「私を『穢れ』とは‥‥Jaja、裁判官気取りですか」
炬烏介をせせら笑うKITARAに聞きたい事があると言う律子。
「いずれにせよ、これ以上は手を出させはしないと言っておくわ。黒き風の名において、この身に代えても止めて見せる。それが私の決意よ」
素早く回り込んだ律子がアーミーナイフを振るうとKITARAを守るFFがバチバチと赤い光を放つ。
(‥‥アジトまで案内してもらいましょう)
傭兵達が目配せをする。
致命傷にならないよう手加減をしているとはいえ、有効の一撃を中々与えられない能力者達。
一方のKITARAといえば実戦は初めてなのだろう。
レオとシーヴの剣がFFのみならず己の肉を切り裂いた事に甚く感動していた。
「中々如何して、これは一度逃げ帰らなければいけませんかね‥‥?」
KITARAの言葉に傭兵達が色めき立つが、
「ああ、私を追跡するのにお仲間をアテにしてもムダですよ」
圭吾が監視していた事は、他の子供達からの報告で知っており、先に身動きが取れぬよう気絶をさせた、というKITARA。
「他にも仲間の子供がいたのか‥‥」
「勿論ですよ。子供達は何処にでもいます」
「だが、そういう事なら簡単には逃がさせないぜ」
どこからイルキが歌う不思議な歌が聞こえてきた。
体が淡い白い光で覆われ身動きが取れなくなるKITARA。
「ハーモナーの呪歌か‥‥jadugara。忌々しい、呪術師め‥」
美しい顔を歪ませて獣のように歯噛みをするKITARAに一斉に攻撃を仕掛ける傭兵達。
「‥『jadugara』ko mara dalo!」
「な?!」
誰かがイルキを突き飛ばす。
振り返れば小さな子供が端って逃げていった。
呪縛が敗れたKITARAがイルキに素早く駆け寄り力一杯殴りつけた。
衝撃で大きく地面が陥没する。
「この、小賢しいマネをっ!」
続けざまにイルキに蹴りを加えるKITARAに敬介が素早く斬りつけたが躱されてしまった。
「大丈夫か‥?」
「すまねえ、油断したぜ‥‥」
支えられながら苦しそうに血を吐き出すイルキ。
だが、KITARAもダメージが大きく肩で息をしていた。
「‥‥遊びの時間はこれ迄です」
バラバラと植え込みから40人近くの子供達が一斉に走り出し、二人がKITARAを両脇から支え、残りが泣く兄妹を守るように大きく腕を広げる。
どの眼も激しい怒りを称えて傭兵達を睨んでいた。
「私をこれ以上攻撃すれば、この子供達が黙っていないようですよ‥‥」
「子供の後ろに隠れるのか?」
「なんとでもお言いなさい。戦争である以上、最後に立っていたものが勝ちですからね」
如何するか? と注意が一瞬それた瞬間、激しい閃光に続き、大量のガスが公園中を被った。
慌てて口と鼻を押さえる傭兵達。
ガスの中にKITARAの声だけが響く──。
『痛み分け‥‥と言うには、私や子供達は血(涙)を流しすぎました。このお礼は必ずして差し上げますよ‥‥』
●
ガスが晴れた後、残されたのは大量の子供達の足跡と移動式売店であった。
応援に駆けつけた警察が、警察犬を導入したが足跡から行き先を特定するのは厳しく、そちらからの追跡は断念しざるを得なかった。そして売店といえば、後から行った調査からそこが二重式になっており、その中に被害者やキメラを入れて移動していた事が判明した。
「判ったところで何かになるか、といえば何にもならないがね」
圭吾が忌々しそうに言い、
「初仕事くらいはあっさり終らせてみたかったけど‥‥やっぱりそうはいかなかったな」
何だか偉く恨まれたみたいだし、とイルキが大きな溜息を吐いた。
「向うはバグアだし何を考えているかは判らないけど、まあ、命あっての物種だったんじゃない?」
敵の兵力も不明だったんだから、とメアリが言う。
メアリは錯綜するネットの海から「猛獣に似た鳴き声がする孤児院」を見つけ出し警察に報告したが、もぬけの殻であった。
ユリアの要望は全て叶えたのだから今回の結果は割り切った方が良い、とシビアに言う。
ユリアから報酬を受け取り、それぞれの思いを胸にLHへの帰路に着く。
「見つけ、たぞ‥‥穢れた‥魂。待ってろ‥‥『裁キ』は、もうすぐだ‥‥」
──美しい顔をした悪魔を思い出し、炬烏介が不敵に笑った。