タイトル:【崩月】迷う手Aマスター:有天

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/05/17 06:21

●オープニング本文


「そうですか。カルサイト様も思い切った事を言い出されたものですね」
「よろしいのですか?」
 報告を聞き、そう問う副官にいつもと変わらぬ笑みを浮かべるジャッキー・ウォン(gz0385)が、「何を?」と返す。
「カルサイト様と地球人がどんなやり取りをしたか知りませんが、『済南市』のデータはブライトン博士を通じて本星に回っているはずですからね。あちらから協力の申し出がない限りは、放っておきましょう」
 そう言ってウォンは言って副官を下げさせるとモニタを切り替える。
 画面いっぱいに広がる青い地球──
(‥‥この星は良い意味でも悪い意味でも変革を齎す地という事ですね)
 うっかりといえ、部下にも漏らしたことがない己の奥底に眠っていた思いを地球人の前で吐露する失態したばかりである。
 己よりも遥かに古い血を持つエアマーニェですら影響したという事だろうか?

(さぞかしゲバウ様のような保守的な方は、お怒りでしょうねぇ)
 地球人の才能や個性を惜しんで強化人間化やヨリシロとして、そのパーソナルを情報(記録データ)として保管する事はあった。
 また逆にデータでしかないヨリシロのパーソナルに侵食され、最終的に一体化した。もしくは死んだバグア人も少なくはない。
 実際、カルサイトがブレナーの為に死のうが、それ自体はウォンにとって興味がない。
 だがブレナーとなったカルサイトからバグアの情報が漏れる可能性はあるのか、ないのか?
 その他の懸念材料は、事つきない。
(想像するとぞっとしますね。まあ、今の停滞よりは、ずっと良いのかもしれませんが‥‥)
 前例がないだけにどれだけの反発が出るのであろうか──

「何れにしろ私の与り知らぬ所です」
 滑らかにキーを叩き、アポロンとアポロン周辺の宇宙域を表示させる。
「しかし、こう暇だと仕事をするしかないのが癪にですね」
 暫く外出しないといった手前、気晴らしに出かけることも出来ない。
 溜息を吐くと暇つぶしの為に防衛システムの修正を入力し始めた。

 ***

「ウォン様は、変わってしまわれた」
「どこら辺が?」
 イライラと動き回る黒髪の女をドラゴンキメラの頭を撫でながら仮面の男の目が追う。
「昔は、私みたいな卑しいものでもお心に触れさせていただけたのに──」
「心を閉じられている?」
 地球を離れてしまってから変わってしまった。と言う女に対し、
「違うよ、ポイズン。ウォン様が変わられたのは地球侵攻よりもずっと前さ。たしかにドレアドル様が来てからは、更に頑なになった所があるけどね」
「ビースト。単なるキメラ屋のあんたに判るのよ」
「それは君より僕のほうが年上で、ウォン様に前の前の侵攻からお仕えしているからさ」
 ビーストと呼ばれた男が肩をすくめて見せる。
「私の(中の)ローズは恐怖対象であるウォン様が居ないと濡れないし、可愛いベイビー達はパイロット(戦闘機乗り)。ローズもベイビーも、私も地球の青い空が好き。皆で仲良く能力者を血祭りに、戦場を楽しむには地上に戻らなきゃいけないのに〜〜〜」
 ヒステリーを起こしながら給水サーバーを真っ赤なハイヒールで蹴飛ばすポイズン。
 床にあふれる水を見つめ、やれやれ。と溜息を吐くビーストは、ウォンがその気になれば地上にはいつでも戻れる。と言った。
「ウォン様は抜け目ない。一度支配した都市には必ず『置き土産』をするからね」
 物理的なトラップもあるが、アジア・オセアニアから本星に送った資源を換算すれば楽に100年戦える。逆にイスラム圏の原油などは新たな油田を複数発見できなければ10年持たずに枯渇する。中国やオセアニアの鉱物に対しても同様である。
「僕の『眠り』爆弾ならぬキメラもいつでも使えるようにあちこちに仕込んであるからね」
 二重三重に仕掛けられたトラップで戦争が長引けば不利になるのは人類だ。と笑うビースト。
「だけどローズの言う事も判る。ウォン様が地球人と接触するのは気持ちが良くないって言う点では、同感だ」
 羊の群れや穴に向かって叫ぶのとは少々訳が、違う。
「とりあえずあの方が我々に関心を戻していただけるように、何かしなきゃいけないだろう」
「何をするのよ? ブレナーでも殺せって言うの?」
「今の段階でブレナーを殺しても意味が、ないよ。逆にカルサイト様との関係が悪くなる」
 それならば人類や周りを焚きつけた方が、研究の邪魔もされずに楽である。
「だけど、とりあえず今は目の前のことを片付けよう。お客さんの到着だ」
 警戒ラインを超えて進入するUPC軍の艦が写っていた。

 ***

「今日はすんなりラインを突破できたな? 何かトラップでもあるのか?」
「向こうも様子見なんじゃないか。ほら、カサなんとかの一件があるし」
 アポロンにウォンが居る事は、軍も承知している。
「俺の親戚が済南市にいたが、やっこさんは人類との共存を望んでいるんじゃないのか?」
「逆に歓迎されていたりして♪」
「油断は禁物だ。少なくとも奴が命令してアジアとオセアニアは侵略されて、多くの人が死んだんだ」
 哨戒を勤めるKVパイロット達の会話に割り込むものがいた。
『おしゃべり好きな能力者──宇宙の塵になってしまいなさい』
「敵か!」
『私はポイズン。空を往くローレライ。あんた達のおかげで宇宙に来る羽目になったお返しをさせてもらうわよ』

 ──同刻。

「アポロンより巨大な物質が2つ打ち出されました」
「ミサイルか?」
「判りません。熱源は感知されませんが、質量と速度的には可能性があります。接触まで1分30秒」
「回避するぞ」
 艦が船首を左に切り、回避行動に入る。
 ──が、移動する艦の軌道に打ち出されたものが追いかけてくる。
「追尾システムつきか、打ち落とすぞ!」
 発射されたミサイルが1つ、敵ミサイルを打ち落とした。
「もう一つはミサイルを回避! 巨大なキメラです!」
「近づけるな、打ち落とせ! いつでもKVが発進できるように準備しろ」
 艦橋が一気に騒がしくなった。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
Anbar(ga9009
17歳・♂・EP
BEATRICE(gc6758
28歳・♀・ER
村雨 紫狼(gc7632
27歳・♂・AA
美優・H・ライスター(gc8537
15歳・♀・DF
雛山 沙紀(gc8847
14歳・♀・GP
入間 来栖(gc8854
13歳・♀・ER

●リプレイ本文

 大規模作戦が発動され宇宙へのUPC軍の進軍が一気に加速する中、月攻略の一環でアポロン偵察を実施したUPC軍。
 激戦区ではない場所への偵察用巡洋艦と哨戒KV8機、護衛を勤めるULT傭兵の16機。
 編成としてはやや大人数になり、比較的楽な場所である為かKVの慣らし目的で参加するものも少なからず居た。
「よ‥‥よろしくおねがいしますっ!」
「うう〜っボクは初のKV戦なんですよ! 緊張するけど頑張りまっす!」
 緊張しながらも元気良く挨拶するのは、ラスヴィエートの入間 来栖(gc8854)とリヴァティーの雛山 沙紀(gc8847)の二人である。
「この【サッヤード】を駆っての初めての実戦か。
 とりあえず、無様な真似だけは曝さないようにしないとな」
 地上戦ではベテランに分類するAnbar(ga9009)であるが、新たに手に入れたタマモの性能を確認しようと参加した一人である。
「ブースターが長持ちするようになった‥‥とはいえ‥‥」
 それでも宇宙用フレームでの練力消費は、馬鹿にならない。というBEATRICE(gc6758)。
「使い慣れた機を使えるって言う点はありがたいですが‥‥」
「けっひゃっひゃっ、我輩はドクター・ウェストだ〜」
 よろしく頼むよ〜、とドクター・ウェスト(ga0241)が答える。
 そんな挨拶が交わされる傍らで、
「お兄さんは美優たん沙紀たん来栖たんのぴっちりぷにぷになパイスー姿でエナジー補給しちゃうぞォ〜☆」
 携帯電話を片手にハァハァとしながら写メを撮りまくるのは、村雨 紫狼(gc7632)である。
「く〜美少女たちのぷるんやふにゅんが分かる、手に取るよーに分かるぞォォっ!!」
 と大興奮である。若干何かに引っかかりそうな勢いだが、仮にも愛する嫁(10さい☆)がいる身なのできっちりノータッチでグレーゾーンをキープしていた。
 場を和ませ、緊張をほぐす為の馬鹿をやっている。と本人は主張しているが、『愛する嫁(10さい☆)』の時点でかなり信憑性が薄いような気がするが、きっと気のせいだろう。
「しかし‥‥皆さんかっこいいロボに乗ってますね!」と沙紀。
 パイロットの待機所から隣接する格納庫の様子が、丸見えである。
「さっすが、沙紀たん。判っているじゃないか。この俺、紫電騎士ゼオンの愛機は、壮大な宇宙を飛び回る鳥。天下無敵のスーパーロボットだ」
「村雨さんのはスーパーロボットですか! 熱血です!」

 そんな彼らと偵察部隊を向かい出たのは、HWとティターンであった。
「ローレ‥‥ライ‥‥舟人の代わりに‥戦闘機のパイロットを集めているっていう‥‥事でしょうか?」
「たぶんね‥‥あいつら、そういう事好きなやつが多いから」
「しかし、こっちはヘル虫と敵ロボか。向こう(艦護衛)のチームは、スゲーなあ怪獣ロボいたぞ!?」とわくわくしたように紫狼が言う。
「ティターンか、厄介な相手だな」
「そうでね。‥‥やはり早めにHWは片を付けたいところですが‥‥」
 1機とはいえ、旗機であるティターンは指揮官用に作られている為、致命傷を与えなければ僅かな時間でダメージを治してしまう再生力を持つ。
 数で勝るとはいえ、油断ならない敵である。
「賛成です。敵の連携を崩して生じた隙に攻撃を集中させて、敵の早期撃破を狙いましょう!」
 ぐっと拳を握る沙紀。
「テンション上がってきたー! バグアめ、みんなやっつけちゃうぞ!」
 射程ギリギリの離れた場所に位置するティターンの動きを警戒するAnbar。
「HWを全部片付けるまで大人しくして置いてもらえないかな? 向こうが手出しをするなら勿論、遠慮なく攻撃するけどね」
「俺も同感だ。向こうがこっちにちょっかい出してくるなら、遠慮なく全員でフルボッコ確定だな!」
 戦闘になれているベテラン達は、それぞれHW1機を担当し、キャリアの少ないメンバーはロッテ(2機編隊)もしくはケッテ(3機)を組んで対応に当たる。
「こちら、ククルー、入間機、発進します!」

「行こ、イチキシマヒメ」
 氷室美優(gc8537)のリヴァティーが配置に着く為、離脱していく。
「哨戒隊も隙を作らないように2機以上で対応してくれたまえ〜」
「了解した」
 UPC軍機もロッテを組み、囲みからHWらが飛び出ぬよう傭兵達の支援を行う為に散開していく。
「月の恩寵を‥‥」
 終夜・無月(ga3084)がいつもと同じ言葉を掛け、戦闘スタートである。


「なっ‥‥なんて機動‥‥」
 HWの激しい上下左右を無視した動きに目を見張る来栖。
「ワンパターンではありますが‥‥嚆矢を放つとしましょう‥‥」
 BEATRICEがすばやくロングボウIIのミサイル誘導システムIIを起動させ、
「K−02使用します‥‥」
 続けざまにK−02を放つ。
 ロッテを組んでいたHWの1機に着弾する。
 散開するHWの編隊の中で、K−02で破損し動きの鈍いHWに照準を合わせ、再びK−02を発射する。
「一気に叩きましょう」
「了解です」
 沙紀のリヴァティーもアサルトライフルで攻撃する。
「む、難しいっ」
 被弾する度に激しく機体が揺れるため、当たるよりも当てられるほうが多いような気がする沙紀。
「ボクはやっぱ拳で殴るのが向いてるっす!」
 BEATRICEの援護を受け、ブーストで背後に回りこんだ瞬間に人型へ変形する。
 アグレッシブ・ファングを乗せた鉄拳「シルバーブレット」をHWの機体に突き出す沙紀の一撃でHWの上部が大きく凹んだ。 
「よっしゃあぁ! 続きはこの俺様に任せとけって!」
 回りこんだ紫狼のタマモ。
「ダイホルスチェエンジッ! 魔導ゥ鳥神ッ! ───── ダイッバアァァァドッ!!

 天下無敵のスーパーロボット、見参ッ!!!」
 どこかで聞いたような決め台詞を高らかに、ないはずのBGMとスパークする背景を伴って一気に人型へと変形する。
 沙紀はHWの邪魔をするべく照準が付けにくいようにライフルで援護射撃である。
「食らえ、急襲斬撃!」
 両手に持った機刀で反撃の隙を与えず華麗に斬りつける。


 Anbarの放ったミサイルッポッドの弾幕に足止めされたHWに回り込み、そのまま8連装を叩き込む。
 尽かさず8連装とアサルトライフルを切り替え、放ちながらし急接近する美優のリヴァティ。
「止めだよ」
「了解しました」
 Anbarのアサルトライフルを受け動きが止まったHWに、
「‥‥見事に串刺しだね? あは」
 ブーステッドランスを突き立てる美優。

「入間君、援護頼むよ〜」
「了解(ろじゃー)です!」
 HWに8連装を発射する来栖。
「さっさと落ちてしまえ〜」
 ディフェンダーを振るうドクター。
 高機動を誇る無月のミカガミもまた、あっさりHWを捉えて1機撃墜し、あっと言う間に4機のHWを退治する。
「うん、あの人とは美味い酒が飲めそうだな〜浪漫二スト的に」とニヤつく紫狼。
 体勢を立て直し、縫うように反撃を行うHWに、繰り返し丁寧に編成を分散させ、攻撃を加えていく。

 あっという間にHW5機を撃墜する傭兵達。
「なんだ、コレクターと聞いたが、単にお人形遊びが好きなだけか〜」
「この間の蜘蛛女といい、あんたといい‥‥お遊戯感覚のやつばっかりで嫌になる」
「わたしたちは‥‥玩具じゃありませんっ! 」
「ベイビーちゃん達の慣らしだからって我慢していたけど、あんた達の言い方は我慢ならないわね。
 エミタがなきゃただの弱い人間じゃない? 能力者になったからって何様のつもりよ」
 回線に割り込むと同時に射程外で傍観していた黒いティターンが一気にドクターの天に迫る。
「‥‥所で、メガネのあんた」


「ターゲット‥‥インサイト! 撃ちますっ!」
 一瞬、モニタに写し出される黒いティターンの姿が揺らぎ、ミサイルが通り抜けたように見えた。
「こいつ、動きが早い! 気をつけて、ドクター‥‥カスタム機よ!」
「誰もおとさせません‥‥っ。みんなで一緒に、帰るんですっ!」
 ミサイルと弾の嵐をかいくぐったティターンが、ニヤリと笑ったような気がした。
「当たらない?! 馬鹿な‥‥」
「これが‥‥カスタムティターンの‥‥実力」
 初めて見るカスタム機の機動力に唖然とする来栖。
 一番最初に倒すターゲットは、天と定めたように脇目も振らずに突っ込んでいく。
 天のD.Re.Ss Aをティターンに向かって弾き飛ばすが、ものともせず突っ込んでくるティターンにD.Re.Ss Bの装甲を再びぶつける様に放出する天。
「あんたの声には、聞き覚えがあるわ。日本で私の可愛いペットちゃんを殺した中に居たわ」
「そうかね〜? 君のような遊びをするバグアは沢山退治したからね〜」
「うちの子を一山幾らにしないでよ。ますますムカツク」
「生憎だけどあたしは付き合ってられない」と辟易したように美優が言う。
「全くだ。寝言は地獄で言いたまえ。シンジェン(星光)、黒い巨神を宇宙の塵にしてしまえ〜!」
 高速で振り下ろした星光をなんなく躱したティターンが、
「そんな剣、当たらなきゃただの張りぼてよ!」
 そのまま重い一撃を天に食らわす。
 激しい火花を散らす天を見て、ポイズンの高笑いが響く。
「‥‥っさせません!」
 ブーストを噴かせ、ドクターの天の前に躍り出た来栖。
「涙ぐましい同胞愛? 笑わせないでよ」
 ティターンの手が動き、来栖のラスヴィエートに一撃が加えられる。
 エンジンを貫かれ動きが取れなくなる。
「さて‥‥どう料理してもらいたい?」
 二撃目を阻んだのは、無月のミカガミであった。
 スナイパーライフルの攻撃を受け、後退するティターン。
「ドクターと入間、無事か?!」
「なんとか無事だが、戦うのは無理だよ〜」

「そうよ、あたしは‥‥許さない‥‥許すもんか!」
「あはははっ、最高に気持ちいいわ。あんた達の、この姿を見る為にあたし達はいるのよ」
 美優の繰り出す素早いランスの連続攻撃を笑いながら躱していくティターン。

「ポイズンと言ったな。御託は充分だ。命を弄んだ代償を払うがいい」
 隙を見て斬り込んだミカガミの一撃は避けようがない距離であった。
 だが、
「ベイビーちゃん!」
 割り込んできたHWで僅かに軌道が反れた為、ティターンの片腕を斬り落とすに止どまった。
「ベイビーちゃん‥‥誰かを想う気持ちを知りながら、どうしてさ‥‥?」
「何よ、偉そうに。あんた達能力者には、ローズやこの子達が気持ちなんて判らない癖に!」
「そっちこそ、勝手なことを言わないでください‥」
 ロングボウIIのミサイルポッドがティターンを追い立てる。

 ***

『──ポイズン君、聞こえますか?』
「ウォン様?!」
 思いがけぬウォンからの通信に驚くポイズン。
『アナウンスは聞きましたね? 防衛システムがまもなく再稼動しますが、戻れますか?』
 必要ならば出撃しても良いというウォンに対し、
「いいえ、めっそうもありませんわ。こんな奴ら‥‥私一人で片付けて見せますわ」
『‥‥そうですか──』
 短いやり取りであったが、司令室でウォンの側にいた部下達は驚きを隠せなかった。
 ウォンといえば大規模な侵攻に対して陽動として出陣する事はあっても、自ら攻撃に参加したり部下を助ける為に出陣した事はなかった。
 奇妙なものを見るような目つきで見つめる副官の視線に気がつき、
「気まぐれですよ」
 と短く答えるウォン。
 ウォンにしてみれば慢心をせず己の限界を知り、周りの情況と環境を常に把握し、自らが最善を模索して行動することが最前線に生きる兵の基本だと考え、援軍が必要ならば自ら要請すべし。と、いつもならば放っておいたのだが──。
「では、お出になりますか?」
 いいえ、と首を振るウォン。
「彼女が出来るというのならば、放っておきましょう」
 それよりも回せる偵察HWを近くに配して今回の防衛システムのアップデートで追加したUPC軍の艦隊行動や傭兵達の行動パターン情報の補正、宇宙KVのデータ収集を実施するように命じた。普段、やる気の欠片も見せずにいようが、仲間であろうと実験対象でしかないウォンの実験派と言われる厳しさを見せ付けられた瞬間だった。

 そんなやりとりがアポロンでされていると知らず、ウォンの心が自分達に戻った。と思ったポイズン。
 これ以上の無様な姿を見せられぬ。
「ベビーちゃん達と、ウォン様の為にあんた達を逃すわけには行かないのよ!」
「大口を叩くのは、あたしたちに勝ってから‥‥言いなさい!」
 改造を重ねた無月のミカガミが壁となって防いでいたが、HW8機とティターンの片腕を引き換えに動けなくなった僚機は10機。
 残った6機も消耗しながらも連携の取れた行動でティターンをじわりじわりと追い詰めていく。

 ***

「ウ、ウォン様っ!」
 助けを求めてポイズンが叫ぶ。
『今更、私が出撃した所で状況に変化はないでしょう』
「ウォン様?! 私を見限るとおしゃるのですか?」
『撤退のタイミングを逃したのは、君ですよ』
 一度だけアポロンからUPCの艦に向かって砲撃をする、というウォン。
『それで帰って来れないならば君は、バグアに必要ない存在ということです』
 そういうとティターンから通信を切ってしまった。
 慌ててアポロンを呼び出そうとするが返事はない。
「この私が‥‥見限られた? 嘘よ、そんな!」
 ポイズンの叫びが終わらぬ内、砲がアポロンから放たれた。

 高エネルギーの束がKV達の側を掠め、電磁波を受け、レーダーが揺らぐ。
 艦に向かって伸びていく様に一瞬焦る能力者だったが、艦からの連絡にほっと胸をなでおろす。
 その僅かな隙を突き、ティターンがなりふり構わずウォンの名を叫びながらアポロンへと向かっていくのが見えた。
「往生際が悪いですよ」
 ミカガミが放った一撃がティターンの背中を貫いた!
 激しい火花を散らしながら、黒いティターンが爆発した。

「初陣‥‥上手く出来たかなぁ」
 格納庫に収められた傷ついた愛機を見つめ、沙紀がポツリとつぶやく。
「沙紀たんも皆も一生懸命戦ったから勝てたんだろ?」
 もっと堂々としなきゃ駄目だ。と言う紫狼。
「戦っても失ったものは戻らない。けど、今あるものを守ることはできるから‥‥さ」
 一度、崑崙に戻ろう。と美優が言った。
 こうして負傷者を出しながらも全機、帰還を果たした傭兵達であった──。