●リプレイ本文
大規模作戦が発動され宇宙へのUPC軍の進軍が一気に加速する中、月攻略の一環でアポロン偵察を実施したUPC軍。
激戦区ではない場所への偵察用巡洋艦と哨戒KV8機、護衛を勤めるULT傭兵の15機。
編成としてはやや大人数になり、比較的楽な場所である為かKVの慣らし目的で参加するものも少なからず居た。
哨戒機らと共に先行する傭兵達が交戦状態に突入するとほぼ同時に巡洋艦護衛に残った傭兵達も敵と接触する事になったが、
「ああっ♪ 宇宙怪獣と戦えるだなんて夢の一つが叶いました。どんな形状でどんな攻撃してくるか楽しみですわ」
どんな怪獣なのだろうか? ときゃっきゃ♪ と乙女心をときめかすのは、愛機ぎゃおちゃんこと竜牙弐型を駆るミリハナク(
gc4008)である。
一方、
「っとタマモの慣らし運転だってのに。いきなり強敵そうなのが相手かよ」
気合い入れてやるしかねぇか。とベテランである砕牙 九郎(
ga7366)が、うっかり零してしまう程、大きかった。
「たしかにデカいな‥‥。ギガワームとはいかないまでもちょっとしたビックフィッシュ位はありそうだ」とヘイル(
gc4085)も同意する。
これが単なる岩やゴミの塊でも、判りやすいまでの膨大な質量は、単純に脅威である。
「生半可では無いから防ぎにくいが、そうも言ってられないか」
このサイズのキメラがあと何匹いるのかは推量できなかったが、艦隊が集中している場所や基地に向かって大量に放出されれば厄介極まりない。この場でこの攻撃が非効率的だと知らしめる必要があるだろう。
「なんとしても食い止めないとな」
「たしかに、でっかいお出迎えだね」と赤崎羽矢子(
gb2140)も返す。
「ドラゴンタイプのキメラか、じーちゃんのコレクションにあった怪獣映画みたいな光景だな」とレベッカ・マーエン(
gb4204)。
モニタにズームアップされた宇宙キメラは顔と胸をプロテクターが守り、弐気筒式推進器の側に小さい12枚の翼らしきものもあった。
「翼はどうやら方向舵の役割をしているようですわね」とカメラのシャッターを切るミリハナク。
そんなベテラン達の会話に目を白黒させているのは、新人の御名方 理奈(
gc8915)である。
待機所での挨拶もそこそこに初陣である。
「皆さん宜しくお願いします! 宇宙怪獣さんは、絶対お船には近付けさせません!」
思わずぺこりとカメラに向かって頭を下げる。
艦の弾幕を避けながら接近してくる巨大キメラ。
「一歩も近づけさせません」
「私達で止められるんでしょうか?」
理奈が、一瞬不安そうに言う。
「‥‥確かに巨大だが、それだけに脅威だな。が、今更大きいからと言って恐れるものでもない」
ここには、それができるメンバーが揃っている。連係を忘れずに自分のすべき行動を考えて行動すれば恐れることはない。とヘイルは言った。
「皆で協力して、確実に止めるぞ」
「ハイ!」
元気に答える理奈。
レベッカとヘイル、九郎の3人が前衛としてキメラの背後に回り込み攻撃を加える迂回班。
羽矢子、甚五郎、ミリハナク、里奈の4名が正面班としてキメラと艦の間に展開し陣をとる。
「‥‥アポロンに近付いた割には(哨戒班の敵も含めて)、守りが手薄な気がする。
あのジャッキー・ウォンが居るんだし、他に罠がないといいんだけど」
「彼ら実験派にとって大規模戦が宇宙戦闘となっても、実験対象も宇宙対応に切替わっただけなんでしょうね」と古河 甚五郎(
ga6412)。
●
「ふふふ、さあ遊びましょう怪獣ちゃん。うちの子は凶暴ですわよ」
目くらましと牽制。正面班からの一斉攻撃が始まった。
狙いは、迂回班の待ち受けるエリアにキメラを誘導することである。
丈夫なキメラといえどもベースが地球外生物であろうと動物である。
目の前や鼻先でドンドンと破裂する、4機の集中攻撃には溜まらずコースを変える。
待ち受けていた迂回班の3機。
「これ以上は抜かせない。――堕ちろデカブツ!!」
回り込んだ後ろから、尽かさずキメラへの攻撃を開始する。
狙いは、まず艦砲を避けた推進器である。
九郎のミサイルポットがキメラの鼻先で爆発し、動きを牽制する。
「腕には気を付けてください」
激しく動く腕に当たれば激しく遠距離まで弾き飛ばされるだろう。
未改造機である理奈は、少し距離を置きながら素早くキメラの様子を分析し、皆に伝えていく。
炎に紛れキメラの側面に素早く機体を紛れ込ませる3機。
回りこんだ背後からライフルを打ち放ちながら急接近をした九郎が、素早くKVを戦闘機形状から人型へと変形させ、
「でかけりゃいいってもんじゃねぇぞ!! コノヤロウ!」
怒号と共に一撃を叩き込む。
巡洋艦のミサイルを防いだフォースフィールドが激しく火花を散らす。
今度は3機がタイミングを合わせての同時攻撃である。
「流石に丈夫な野郎だぜ! だが、これならどうだ!!」
体をくねらせ、迂回班に攻撃を与えようとするキメラに尽かさず正面班らが攻撃を加える。
堪らずその場から離れようとするキメラの動きは、早い。
「良く動く‥‥! だが、捉えきれない程でも無い。ここで止めさせてもらうぞ」
だが再び体制を整えた迂回班は、タイミングを合わせて推進器を狙う。
「これだけ巨大なものを動かしているんだ、それなりの造りをしている筈。そこさえ叩ければ‥‥!」
キメラが大きく口を開けた。
震わせた翼に光が集まっていく様が見えた。
「気をつけて、キメラが何かします!」
理奈の声が終わるとほぼ同時に光の球が口から飛び出してくる。
素早く攻撃を躱した3機。
「こんな攻撃、当たらないよー」
2発目を発射しようとするキメラの顔に向かって、させじと正面班の攻撃が、襲う。
キメラが首を曲げた僅かな隙に、尽かさず機体を転回させ、迂回班が距離0から攻撃を食らわせる。
「確実に攻撃を通るように一か所を狙うんだ」
「防げるもんなら防いでみやがれ!」
「斬り裂け、プラズマリング」
攻撃を同時に食らったエンジンが、鈍い火花を輝かせ爆発する。
バランスを崩したキメラは、クルクルと回りながら勝手な方向に進んでいく。
「危ない!」
「うわっと、と‥‥ぶつかったら危ないじゃないかー」
予想できない動きに危うくレベッカとキメラが接触しそうになる。
お返しだとばかりにガトリングを乱射するレベッカ。
黒煙ならぬ大量の水蒸気が残ったエンジンから吐き出したが、逆にそれで状態が安定したのだろう。
回転が止まったキメラは、推進器をパージすることなく艦めがけて突進を再び開始した。
「いい加減、しつこいのダー」
「爬虫類だから学習力が低いとか?」
「「ドラゴンと爬虫類似て非なるものです。一緒くたは駄目です(わ)」」
思わずミリハナクと甚五郎の声が揃う。
「支援します」
理奈とミリハナクの援護を受け、接近する羽矢子と甚五郎。
アサルトライフルを放ちながら接近した羽矢子は、すれ違いざまに光輪を推進器と本体との隙間を狙って撃ち出す。
「あたし達がお出迎えしてるのに、何度も無視はないじゃないっ!?」
甚五郎は、亀裂に向かってシルバーブレットを繰り出す。
「攻撃を集中しろ! 幾ら硬くとも同じ場所に攻撃を叩き込めれば抜ける筈だ!」
ヘイルの掛け声に再び、集中攻撃を開始する一同。
残ったエンジンも激しい火花を散らして爆発した。
「あまり時間もかけられない、一気にいくのダー」
推進器を壊されたキメラは、爆発で生じた僅かな慣性を利用して飛んでくるつもりのようだったが、大人しく待つ必要はない。
KVらと艦は共に回り込むように移動するが、キメラは翼も方向転換をして艦を追いかける。
「往生際が悪いキメラだな」
ヘイルが進路の前に立ち塞がる。
「皆さん、気を付けてくださいね。燭陰を発射しますわ」
「OK、援護するよ」
「さあ、ぎゃおちゃん。あなたのパワーを見せつけてあげなさい」
味方の弾幕で外しようがないギリギリまで接近したミリハナクがキメラに向かって燭陰を発射し、胸から背を覆っていたプロテクターを破壊した。
「援護しよう」
「これからが本番だ。地上とは違って、宇宙ならではのKVって奴を拝ませてやるぜ!」
細かくエンジン噴射を切り替え、激しく突き出されるキメラの爪を躱していく九郎とヘイル。
すれ違いざまに一撃を叩き込んでいく。
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「敵援軍は?」
「今の所、ありませんね。アポロンにも変わった動き見られません。このまま包囲網を縮めて一気に撲滅しちゃてもいいんじゃないかと思いますよ」
巡洋艦の正面に再び待機していた甚五郎が答える。
(ウォンが目先の勝敗に拘らず、地球侵攻の先を見ているのなら‥‥)
ウォンと共にアポロンに残る兵達も同じなのだろうか?
(彼は‥‥共に宇宙を旅する箱舟の仲間を探しているのかもしれません)
だが、それは突然だった。巡洋艦の回線に、
『警告。汝ラハ、現在、アポロン、ノ、領空圏ヲ、侵害、シテイル──‥‥』
アポロンからの割り込みである。
「なんだかタイミングのずれた警告ですが‥‥ウォンの支配域。アジアの、一部のバグア基地周辺で見られていた警告に似ていますね」
防衛(攻撃)システム上にトラブルがあって領域深くに入れたとも考えられるが、UPC記録に残るウォンから想像すれば、同時に罠の可能性も捨てきれなかった。
甚五郎の知るウォンは、それが失望によるものなのか、それとも演技なのか──語った事が全てではないにしろ、バグアの発展と種族存続にはなりふり構わず行動する一方、行き当たりばったりの印象があった。
ならば間違いなくシステムトラブルがあったのであろうが、システム回復した今、この場に居る彼らを攻撃しない理由がなかった。
甚五郎から推論を聞いた羽矢子が、今度は悩む番であった。
ウォンが攻撃するのであれば何を用いるのか。
利用するワームの情報はUPCにもULTにもなかったが、他の衛星にユダが装備されていた事からユダの可能性も否定できないでいた──
(火力はミリハとヘイルが他より抜けてる。あとはそれを活かす連携をどう取るか‥‥)
だが、ミリハナクから出撃前のミーティングで1分以上戦闘が続いた場合、竜牙弐式は燃料切れを起こして砲台代わりにしかならないと言っていた。
素早く兵力を計算をする羽矢子。
──この人数でユダを相手にするのは、厄介以上の何物でもない。
恐らく聞いているだろうウォンに向かってオープン回線で話しかける。
「【HB】小隊の赤崎だ。アポロンも他の衛星同様、破壊されるのも時間の問題だよ。それでも戦う?」
「人類の宇宙戦闘が齎すモノを見届けたくないンですか? 」
「私は宇宙怪獣と戦えれば満足ですもの」
お呼びじゃないわ。とミリハナクが言う。
「ウォン様、何か返しますか?」
「放っておきなさい。どうせ時間稼ぎの類でしょうが、こちらも望むところです」
アポロンのシステムに移植したのは、ウランバートルの攻撃防衛システムとUPC軍の艦隊運用データである。
宇宙用に補正する時間が必要だ、とモニタを見つめるウォン。
「今、手の内の全てを明かすわけにはいきませんからね」
精度が上がればドレアドルに頼らず、そこそこの攻撃は耐えられるはずである。
「各機関に情報収取に徹するように指示をしてください」
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「‥‥どうやら大人しくしておいてくれるようですね」
「でも油断ならないわよ。『あの』ウォンなのよ」
こちらの言い分を聞いて大人しくしてくれているのか。それとも騙す為に沈黙をしているのか。
何時、気まぐれを起こして攻撃してくるか不明である。
「さっさと片付け、撤退しましょう」
「同感だな」
「全方向から全員の同時攻撃で袋叩き?」
「そう、悪くない考えだ」
「弾に当たらないように気を付けるわね」
攻撃を再開した能力者達。
あるものは銃や砲で、あるものは白兵武器で、キメラに一斉に襲い掛かる。
レベッカは細かくコロナを操縦してライチャスをキメラの顔や首に突き立てていたが、如何せん、顔の周囲である。
怒り狂ったキメラの、大きく開いた口に捕えられ、コクピットに牙が迫る。
「レベッカさん!」
「今のところ、大丈夫かなー‥‥って、かなりシュールな状況だけど」
「脱出の援護します。レベッカさんに当たらぬよう、各機、攻撃ポイントを装甲がはがれている背中に移動させてください」
「「「「了解!」」」」
背中の痛みに耐えかねてレベッカを咥えたまま、ブンブンと頭を振り回す。
「流石に口にKVを捕まえたままじゃ、さっきの光の玉も撃ち出せないようだねー」
鼻に力一杯ライチャスを突き立てるレベッカ。
激しい痛みからレベッカを吐き出すキメラだったが、コロナの装甲をごっそり抉られる。
レベッカは、操縦席で被害状況を確認するが、水素供給のパイプを破壊されたのか、エンジンのパワーが上がらない。
「残念、これまでかー‥‥」
これでは、接近戦は厳しいだろうと後方に下がる。
牙と爪は届かず、光の玉も当てることができない背中の死角に集中して攻撃を加えていく。
顔への攻撃はアサルトライフルやブリュナーク、レーザーガンなど中遠距離を装備したKVが担当し、白兵武器を持つKVは背中の死角を狙う。
後ろに下がったレベッカやミリハナクも射程ギリギリから攻撃を繰り返す。
最後の力を振り絞り暴れるキメラの激しい反撃を、
「いくらデカかろうが!! コイツでどうだあああっ!!」
九郎が素早く躱し、シャムシエルを深く突き立てる。
羽矢子はウルで受け止め、光輪が肉を削り、
「仲間の借りは返してもらうよ」
ヘイルの槍が貫いた。
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巨大キメラを倒し、ほっと一息を吐く一同──。
お互いの被害状況を確認する。
監視を続ける甚五郎の目に、アポロンが瞬いたように見えた。
「警戒! アポロンに動きあり!」
その瞬間、アポロンから巨大なエネルギーの束が艦に向かって伸びてくる。
「転回!」
巡洋艦の動きに巻き込まれぬよう小回りの利くKVが散開する。
「駄目です、スラスター間に合いません!!」
被害を最小限に留めようと巡洋艦が船体を斜めに傾ける。
艦のギリギリを掠めていく巨大な磁気の塊が一瞬、KVと艦のレーダーが揺らがせる。
「各機、被害ありませんか?」
慌てて被害状況を確認するが、今の砲撃による損害はなかった。
再び沈黙するアポロンに、
「連続した攻撃がない事から『脅し』とも取れますが‥‥我々の目的は、アポロンの偵察です。報告に戻りましょう」
哨戒班と合流した巡洋艦は、基地へと急ぎ帰艦する事になった。
曳航されるリヴァティーを待機所の窓から見る理奈。
「うまく出来たかな‥‥あたし」
「初戦にしては上出来だったよ」
その背中を軽く皆が叩いていく。
こうしてまた一人の能力者が誕生したのであった──。