●リプレイ本文
高速艇から降り立った能力者が荒れた包頭の町を見て思った事は、寒いと聞いていたが『メチャ寒い』である。包頭は年平均気温8.5度、冬の平均最低気温は−27.6度という寒冷地である。
「う〜、寒いね」とハルカ(
ga0640)が言う。
寒いと言っても真冬の水着撮影よりはマシだろうと思っていたが、良い勝負かもしれない。
もう一枚着るかどうか悩む所である。
「砂漠、か‥‥慣れてるっちゃ慣れてるがよ、ここみてえに昼も夜も寒いってーのは正直勘弁して貰いてえな」
コートを着て、手袋とマフラーを着用している西アジア出身のダーギル・サファー(
ga4328)が言う。砂避けと顔が凍らないようにと鼻までマフラーを上げて覆っている。
「本当に噂以上に寒いですね‥‥砂漠は暑いイメージあったんで寒いのは変な感じしますね」
水無月 座視(
ga4374)は、手がかじかまないように手袋をはめ直す。
「日々精進、是も又修行也!」と気合いを入れる烈 火龍(
ga0390)の吐く息も白い。
「ユキちゃん、そのピーコートかわいいね♪」とハルカ。
「そうですか? 予備の食料を買いに行った序でに見つけちゃいました。タイムセールだったので、値段も安くて、良いお買い物でした」と戌亥 ユキ(
ga3014)。
「予備の食料、買って来たの?」
「ええ、余ったら持って帰って家で食べれば良いし」
しっかり者のユキである。
「供えあれば憂い無しですよ」
小野寺 斉(
ga2204)と夏 炎西(
ga4178)が寒さ対策用の断熱シートやアルコールストーブ、食料を詰めたバックを下ろし乍ら言う。
「今朝の気温はマイナス10度アルから、比較的温かいアルが、ラスト・ホープ、大平洋上アルからキツいアルネ」
人懐っこい髭面で毛皮の防寒着を着込んだ割腹の良い男が言う。
「ようこそ、包頭へ。道案内の呉 蒼空ネ。よろしくアル」
火龍が本部に依頼した隊商関係者である。
「しかし、用意されているのが最低限度と聞いて簡易テント等も用意したが‥‥」
ゴールドラッシュ(
ga3170)がラクダに山積みされた大量の荷物を見て、怪訝そうに言う。
UPCの言う『最低限』が、どの程度か判らず食料やテント類を用意して来たメンバーは多い。
「ゲルね。皆で雑魚寝アルが、個室が良ければ持って来たテントを使うアルネ。毛皮は貸してあげるアルヨ」
「しかし一体何日行軍になるんだか知らねえが、夜もキャンプの時は火炊いて、交代で見張りと火の番してた方がよさそうだな」とダーギルが言う。
一瞬きょとんとした蒼空だったが、日に焼けたダーギルがアラブ系なのを思い出して苦笑する。
「片道2日ネ。私、雇われたのは5日間ネ。片道2日、貴方達1日捜索、帰り2日ネ。焚き火は、夏の間なら外でOKアルが、もう冬アル。ゲルの中で火を焚くいいアルネ」
「ああ‥‥なるほどね。少しの火(温かさ)でも逃すのは勿体無いか」
「そうアル」
「早速だが、ビックスパイダーについて訪ねたい。大きさは大きいと聞いたがどれくらいか?」
「乗用車位アル」
「ふ〜む、摩訶不思議・巨大生物アルね。明日へ繋ぐ為にも頑張るアルよ」と火龍。
「目の前からいきなり飛び出してこられたら、さすがに心臓に悪いですね」と炎西が顔をしかめる。
「地面に穴を掘って隠れているって聞いたんだけど、アリジゴクのような巣穴なんじゃないの?」とハルカ。
「いきなり飛び出して来るタイプか? それとも罠を仕掛けておくタイプか?」
矢継ぎ早、蒼空にビックスパイダーへの質問をする能力者達。
「ん〜? 私が見た時は、もう地上で暴れていたアルが‥‥いきなり飛び出して来たみたいアルネ。逃げて隠れる時、風で出来た丘を利用していたアルヨ。後は‥‥こう、足を器用に使って体が半分ぐらい隠れる穴を掘り、一度退けた砂を体に掛けていたアル。隠れる木の葉、ナイから砂かけて、本人隠れているつもりという感じアル。あれは巣穴言うアルカ?」
手で砂を集める真似をする蒼空。
「本当ですか? ‥‥特定条件の環境下の変異種ですか? それとも個体で必要に駆られて対応したのか、代替わりを経ているのか、ちょっと興味のあるところですねえ」と斉が言う。
「ハエトリグモやタランチュラなんかは巣は作らないアルネ。ジグモはセンサー網を引いてそこを踏んだやつをがぶーっと食うアル。何にせよ、キメラ。まだまだ研究段階の生物アルネ」
「餌の判断は足音か匂い辺りか‥‥肉食であり、好みもなさそうなので、手持ちのハムでなんとかなるか‥‥誘き寄せやすそうな蜘蛛で助かるな」
ゴールドラッシュが言う。
「実際に戦闘が始まれば、蜘蛛が予想外の動きをするかも。その際は声を掛け合って臨機応変にね♪」
にっこりとユキが笑う。
「しかし、なんで詳しいんだ?」
見た所、蒼空は一般人のようである。
「私、内蒙古、蒙古、隊商立てて運送ネ。丁度、私の商隊、襲われている商隊の近所、通って助けたネ」
「どうやってだ?」
「大量の『ヤニ水』ネ。大体の動物や昆虫嫌いアル。腹減らしや人間キメラに効果なしアルが、ヘビ、クモ、そういうの大体OKネ。丁度、ラクダ1頭。食われたから効いたアル」
堂々と言う蒼空。他は、ラクダを取りかえそうとして何人かが怪我をした程度だと言う。
「なる程。聞いた限りでは、随時腹を減らしているようだったが、運がよかったんだな」
呆れたようにゴールドラッシュが言う。
「命あってのもの種、日々神に感謝アル」
にやりと髭面を歪ませ笑う蒼空。
「蜘蛛が現れた位置は、判りますか?」
炎西が地図を示し、蒼空に質問をする。
「大体の位置は、判るネ」
炎西は出発前に基地の作られる座標と目撃された座標をUPCで確認している。
実際に遭遇した者がいるのであれば確認の為に聞いて損は無い。
だが、蒼空の示した場所はUPCの情報から3km程度だがズレが生じている。
「ま、アレネ。多少のズレしょうがないアルネ。それにその為の道案内ネ」
「探索エリアが絞れるに越したことはありませんが‥‥」
若干不安を感じる炎西。
「この辺の天候はどうです? 吹雪や砂嵐の中での蜘蛛探しは、なるべくなら避けたい所です」
「ここの所は晴天ネ。ここの辺は、降水は年間通して殆どないアル。お陰で放射冷却が凄いアル。乾いた冷たい空気がひたすら吹くアルが、それでもなんとか生き物がいるのは黄河のお陰ネ。ほんの少しだけ、空気に水分があるアル。天気が悪い砂嵐の時は、ひたすらキメラも人間も、皆、静かに縮こまっているアルヨ」
「他のキメラの出現についても知っておきたいですが、どうですか?」と炎西。
「いるのは、いるアル。スライムに猫に鼠、鶏もいれば、蜥蜴もいるアル‥‥ここのエリアは、バグアの支配域‥と言いたい所アルが、何しろ、支配する人間がいないアル。神にもバグアにも見捨てられた土地ネ。ヘルメットワームは時々しか見かけないアルヨ」
「何にせよ、予定外の厄介事を招く前にさっさと倒して、早々に帰路へとつくのが一番だろう」
そうゴールドラッシュに同意する一同。
「ラクダは‥‥蜘蛛に驚いて逃げちゃうかな? 逃げたら、弁償? 離れた場所に隠しておけば平気かな?」
弁償は避けたいユキ。
「俺も余裕がありゃラクダもなだめて逃げねえ様にしときたいとこだがよ、んな暇なさそうなら最悪荷物だけ確保出来りゃいいか?」
ダーギルが言う。
「取る人がいないようだからその辺に荷物は投げ捨ててしまって大丈夫そうですよね」
「ラクダは逃げても大丈夫アルヨ。ベースに戻るように躾けてあるアル。もし道をロスしてもちゃんと水のある場所に向かうアル。ま、荷物を解く余裕があるのなら、そうした方がいいアルネ。じゃないと凍死アルネ」
荷を解き損ねたら、ラクダと追いかけっこである。
「‥‥まあ、駄目だったら一応回収は試みてみますよ」
がっくりと言う斉。
そして──片道2日。ひたすら砂漠を歩く。そして夜はテントを張り、そこでキャンプである。
「夜間冷え込む時間帯は体温を奪われないことを重視して休むようにした方がいいですよ」と斉が皆に声を駆ける。約2名を除いて馴れない長時間の砂地歩行でぐったりである。
もっともその1名は別の意味で苦戦する。
「暖取るのに貰いもんのコーヒーやココアもあるが‥‥みんな飲むか?」
寒さに震え乍ら、そう言い乍らダーギルが飲み物を勧める。
3日目──。
「これから先は、クモの領域ネ。ここから真直ぐ北に3時間ネ。皆、気をつけるアルヨ」
ヒラヒラと蒼空が手を振り、能力者を見送る。
「私ここで1日待って、それでも皆帰って来なかったら包頭に戻るアルヨ」
「ちょっと待て、ビックスパイダーの退治に2日掛かったら、砂漠で迷子になれと言うのか?」
「皆さん、能力者、普通の2倍か3倍と体力アルネ。包頭はここから南にまっすぐ40kmちょっと、私いなくても太陽と夏さんの方位磁石でなんとかなるアル」
髭を揺らして笑う蒼空。
何か一部能力者を誤解しているようである。だが、一般人というのはそんな程度かも知れない。
「仮設基地建造計画への第一歩ですね。がんばりましょう」
何時か正社員(正規雇用軍人)になる為にも。ぐっと拳を握るユキ。
「ええ、孤軍奮闘している華北の同胞のためにも、この任務、確実に遂行しなければなりません‥‥」と炎西が続ける。
「ま‥‥最低でも報酬分はきっちり働いてみせよう」とゴールドラッシュが言う。
「万一糸に絡まっちまったり、砂ん中に引きずり込まれそうな奴がいたら、隙を見て助けに行っとくぜ。つっても流石に俺様まで共倒れは御免だがな。お互い死なない程度に助けてやんよ」
ダーギルがにやりと笑う。
「皆、骨は拾ってやらないアルから安心して戦って来るアル」
怪しい蒼空の声援に送りだされた能力者達は、警戒し乍ら歩みを進める。
「何かある‥‥‥」
双眼鏡を覗いていたゴールドラッシュが言う。
指差す方に金属がキラリと光る。
「うわぁ‥‥ラクダさんの死体です」
ラクダの側には眼鏡やら食べ残しらしい様々なモノが落ちている。
「側にビックスパイダーがいるって事か」
誰とも判らず呟いた言葉に能力者達は覚醒する。
地面に耳を当て気配を探ろうとするハルカ。
「‥‥何か、音がする?」
「何だろう、これ?」
きらりと光る黒い丸物体を見つけてユキが近付く。
ザザザっ‥‥と目の前の砂が崩れてビックスパイダーがユキ目掛けて飛び出して来る。
「きゃぁぁぁ!!」
大きな声で叫び乍ら、粘着糸を避け乍らジグザグに走るユキ。
「うわ〜、おっきいなぁ‥‥」
針金のような毛が生えた巨大な姿を見てハルカが感心したように言う。
蒼空は乗用車といったが、セダンではなくボックス車を思わせる丸い大きな体。
「逃げられると厄介ね。一気に叩き潰すそう」
「ほぁー、あたたたたたっ!」
奇声を上げ、ファングビックスパイダーに突き立てる火龍。
「こちらだ、虫め!」
体当りを避けて炎西が回り込む。
ハルカも二人に負け時とファングを振う。
グップラー達はその俊敏さを武器にビックスパイダーを翻弄する。
その合間を縫い、ダーギルと座視はジャマにならない距離を取り、丁寧にアサルトライフルで目や関節を狙って撃つ。
「キィォオォーーーーッ!」
退路を断たれたビックスパイダーが前足を上げ、怒りの雄叫びを上げる。
ユキと斉は、矢と電撃を叩き込む。
ビックスパイダーの足がついに止まる。
「ゴールディさん!」
ハルカが、ゴールドラッシュを呼ぶ。
「任せて」
気を高め、豪破斬撃を発動させる、ゴールドラッシュ。
全身の力を込め、イグニートを叩き込む。
ビックスパイダーが、ガクリとその身を落す。
「このまま、一気に叩き込むぞ!」
「「「おお!」」」
──こうして厄介な人食い巨大蜘蛛、ビックスパイダーは能力者達に退治された。
「早く帰ってお風呂に入りたいです」
座視に無言で頷く一同。
「でも、あの距離を戻るのか‥‥うー、でも早く髪洗いたいし」
「ですよね〜」
そんなやり取りが交される傍らで、空を見上げる炎西。
(「これで、華北への道が見えるだろうか‥‥」)
中国全土は、まだまだバグアの脅威に晒されている。
そしてウランバートルにいるバグア軍も健在である。
今回償却した物に対し、功労を認められた能力者達には特別手当てとして現品も併せて返還された。
能力者達の戦いは、まだまだ続くのであった──。