●リプレイ本文
「皆、良く来てくれたね。相良も嬉しいよ」
滑走路で呼び掛けに答えて集まった遊撃手(能力者)達に手を振る裕子。
「今回はさしずめ、女の子に呼ばれた騎士ってとこ? だとしたら、カッコ悪いとこは見せられないなー」
エミール・ゲイジ(
ga0181)が笑う。
「相良は、かっこいい姿を期待しているよ」
「ノーマークの遊軍か‥‥面白い」
見かけより遥かに熱い男煉条トヲイ(
ga0236)がいう。
「俺はリベンジだよ」
「ボクもだよ。今回は、お返しだかんね♪」
以前、岩龍絡みで一方的にヘルメットワームにやられたのだ。と霧島 亜夜(
ga3511)と建宮 風音(
ga4149)が言う。
「空を飛ぶ事自体は二度目、しかも前回よりは機体も状況もいいので、敵に一矢報いてやる」
握った拳を打ち慣らす亜夜。
「しかし裕子の放浪癖は、極度の方向音痴が原因だったのか‥‥」とトヲイ。
「相良は、方向音痴じゃないよ。ちょっと進路が右にずれただけだよ」
裕子に通りかけた築城基地のパイロットが敬礼をして行く。
それに手を振る裕子。
「傭兵としてはそっちが先輩になるのか‥ま、なんにしても可愛い子と一緒に空を飛べるってのは光栄だな」とエミールが言う。
「KVの出撃前メンテナンスは、どうなの?」
整備士でもある風音が裕子に尋ねる。
「レーダーとか普通の航空機と同じ部分は見て貰えるけど、エンジンとかはKV独自の部分が多いからチェックができないでいるよ。フキ上がりとか‥相良は自分の子(機)は判るけど‥‥皆、簡単な部分は自分達でしないと駄目だよ。本当に壊れたらラスト・ホープか新日原や佐世保に持って行かないと直せないよ」
築城にあるのは、通常航空機のみなのである。
風音が裕子の言葉に唖然とする。
「うぁあ‥‥ボク、出撃前にチェックする!」
格納庫に吹っ飛んで行く風音にひらひらと手を振る裕子。
「じゃあ、そろそろ作戦会議にするか」
麓みゆり(
ga2049)が、気象隊から玄界灘上空の等圧線図を貰って広げる。
「基本はチームワークを最重視になるだろうが‥‥俺は特に今回、えらく重武装で機体が重いから、編隊を乱さないように注意しないとな」とエミールが言う。
エミール自身、只でさえ積載量が多くなった分、燃料消費量が増えている所で下手にブーストを使ってガス欠で帰投出来なくなるのは嫌だと言う。
「俺も基本的には、ブーストは使用しないつもり。敵に撃墜されそうにならない限りは使わないつもりたよ。それにイザと味方機を助けに行く時用に練力は大事にしておきたいし」と亜夜。
「そうね。ブーストを使用する、しないに関わらず搭載出来る燃料にも限りがあるし‥‥本来、私の索敵のスタンスは有視界索敵を重視だけど‥ヘルメットワームは常にジャミングを発生させてるから、それを逆手にとるのはどうかしら?」とみゆりがいう。
強いジャミングを感じる方へ向かえばヘルメットワームがいるだろうというのだ。
そしてチーム分けは、次のようになった。
●第一小隊<セイバー>
第一編隊
1:珠美
2:リズナ<RIZ>
第二編隊
3:エミール<Wizard>
4:トヲイ<GEAR>
●第二小隊<ランサー>
第一編隊
1:兵衛<Spear>
2:翠の肥満<FATTY>
第二編隊
3:みゆり<Clock>
4:亜夜
5:風音<wind>
「僕は榊さんとエレメントを組み。セイバー3、4が敵機に捕捉された際は、フォローを兼ねるの訳ですね」と翠の肥満(
ga2348)がいう。
「ああ、尻に着かれたら頼むよ。って、女の子を前に言う台詞じゃないな」
「ところで裕子も今回のミッションは参加するのか?」
トヲイが裕子を見乍ら言う。
「うん、相良も参加する予定だよ」
いいだしっぺだから。と、ピクニックに行くかのように言う裕子。
「じゃあ第1小隊の方に参加してくれ」
「セイバー‥‥ブルーファントムじゃないけど、相良は怒られないかな?」
この場にいない真面目なチームメイトの顔を思い出す裕子。
班を書き出したホワイトボードを見つめた裕子がぽつりと言う。
「第一小隊も良いけど、予定空域に誘き出す担当者がいないね。相良がそれをやった方が良いと思うよ?」
偵察のヘルメットワームは築城上空に毎日のように見かけるが、必ず同じコース、同じ時間に出る限らないのだ。
「でも皆TACネームとかあるんだ。凄いね」
「TACか‥‥思いも着かなかった」
「相良が着けてあげようか?」
「え、あ‥‥遠慮しておく」
TACネームは英国式コールサインとも言われ、其れ故、採用している空軍等は欧米諸国と同盟を結んでいる国では採用されている所が多いが井筒 珠美(
ga0090)が所属していた陸自普通科連隊では使用しない戦闘機乗り独自の愛称である。
TAMAとか猫のようなTACネームをつけられたらどうしようと思う珠美であった。
作戦の流れは、索敵兼囮である裕子がヘルメットワームを誘い出している間に、メンバー達は他のヘルメットワームからの索敵を避ける為に作戦予定空域玄界灘上空まで低空を飛行。誘い出された敵機を各小隊の第一編隊が牽制と錯乱、第二編隊が攻撃。これをセイバー、ランサーが波状効果で攻撃を繰り返すのだと言う。
傭兵達のKV各機に管制室よりテイクオフの許可が出る。
ゆっくりと滑走路に向かうKV達。
「セイバー4『GEAR』。煉条トヲイ、出撃する‥‥!」
「勝利は勇敢にして勤勉なる者に微笑む‥‥‥‥かくあれかし。ランサー2『FATTY』、離陸します」
『「相良」より各機へ』
他のメンバーより先に離陸した裕子から無線が入る。
『30秒後、ワームと一緒に予定空域にランデブー予定。皆、StandBy OK?』
ぽつんと見えた裕子機の後ろにヘルメットワームが1機、着かず離れず着いて来るのが見える。
メンバー達に緊張が走る。
「例え性能差が大きくても、自分の腕と仲間の力を信じればそんな物は幾らでも覆せるわ」
リズナ・エンフィールド(
ga0122)が力強く言う。
「戦況を好転出来る絶好のチャンス、必ずモノにしてみせる‥‥!」
そう気合いを入れるトヲイ。
「ああ‥‥ここで俺たちが頑張れば、大規模作戦にいくらかでも貢献出来るはず。だから、確実に敵を撃破せねば‥‥‥」
『槍の兵衛』の異名を持つ榊兵衛(
ga0388)も言う。
ランサー隊が待機の為にセイバー隊から離れて行く。
セイバー隊の狭い編隊の隙間を裕子機がすり抜けて行く。
──戦闘開始である。
ヘルメットワームのジグザグの動きに翻弄される珠美機とリズナ機。
このままでは、アタックのエミール機とトヲイ機の錯乱役としては、やや不十分になる。
「ギャンブルは苦手なんだけどね‥‥だけど、この賭けだけは絶対に勝つ!」
リズナ機がブーストを使い、ヘルメットワームにバルカンを撃ち、一気に迫る。
(「ここで、一気に変形して‥‥」)
「き、ゃあああああぁーー!!」
ヘルメットワームの側を通過したタイミングで人型変形を行ったリズナ機が強い衝撃を食らう。バランスを崩し、コントロールを失って錐揉みで海面目掛けて墜ちて行く。
ギリギリの所で、機体を立て直すリズナ機。
「セイバー1よりセーバー2。『RIZ』大丈夫?」
「え、ええ‥‥」
声の震えが止まらないリズナ。
空中分解や水面に激突してバラバラにならなかったのは、不幸中の幸いである。
第二小隊や少し離れた空域で待機していたランサー隊もこれに肝を冷やす。
「やはり、生身とは勝手が違うか‥‥俺も仲間の脚を引っ張らぬようにせねばな」
肝に命じるように言う兵衛。
単機になった珠美機を狙ってヘルメットワームが迫る。
レーザー砲を撃ち乍らトヲイ機がブーストを吹かし突っ込んで来る。
「ターゲットロック! 試作型帯電──って長ぇよ! とにかく発射!」
エミール機からも試作型帯電粒子が発射される。
トヲイとエミールの攻撃を躱すヘルメットワーム。
「外れるのかよ? この距離で」
だがトヲイとエミールの攻撃は、ヘルメットワームに何かしらの打撃を与えたようである。
ヘルメットワームを被っていたフィールドが消えている。
「いや、このままもう一度だ。‥‥これでキメる。沈め‥‥!!」
不利だと思ったのか、ヘルメットワームがコースを変え、陸地へと向かおうとする。
「絶対に市街地上空に向かわせるな。海上で息の根を止めるんだ‥‥!」とトヲイが叫ぶ。
「OK! これよりランサー隊、行動に入る」
上空で待機していたランサー1、2。兵衛と翠の肥満が行動を開始する。
「怖いぞッ! 僕みたいな金欠の傭兵はなッ!」
そう言い乍らも景気よくホーミングとガトリングをヘルメットワームに叩き込む翠の肥満。
現在、弾は官給品である。幾ら使っても懐は痛まない。
負け時と兵衛もホーミングとガトリングを叩き込む。
だが、ヘルメットワームを黙って攻撃を受けている訳ではなかった。
くるりと機体を翻し、兵衛機と翠の肥満機の後ろに着く。
(「「しまった!」」)
ヘルメットワームの砲火が、兵衛機と翠の肥満機を突く。
コックピット内にトラブルを知らせる赤ランプがつき、機器が悲鳴をあげる。
AIがKVの自動消火機能をフォローする為にほんの少しだが操縦桿が重くなったように感じる。
そのコンマ何秒かの隙間に再び、ヘルメットワームからの殺気とも言える違和感を背中に感じる。
(「殺(と)られるか?!」)
そう思った時、亜夜機のバルカンが飛んで来る。
「まずは前菜にこれでも喰らっとけ!」
「ヒュー、あぶない。ランサー2よりランサー4、助かりました! 戻ったら1杯、おごりますよッ!」
冷や汗を拭き乍ら翠の肥満が言う。
「一杯って何を?」
「勿論、ジュースですよ」
ランサー3、4、5のみゆり、亜夜、風音は未成年だった。
「まずは敵さんに、挨拶のノックと行ってみよっか♪ いっけぇぇぇぇー」
「『緋色の閃光』の意味教えてやるぜ、発射(ファイヤー)!」
風音からホーミングが一斉に発射され、回避をするヘルメットワームにバルカンの雨を降らせる。
「やはりバルカンだけじゃきついのか? うまく使えばどうのってショップの店員も言ってけど‥‥いい加減、墜ちろよ!」
みゆり、亜夜、風音の一斉砲火を退避しようとヘルメットワームもまた砲火を浴びせ乍ら3機の分担を測る。亜夜機がバレルロールで回避をする。ビリビリとしたGの感触が伝い届く。
「く〜いい感じでGがくるねー」
再び回り込んで砲火を浴びせる3機。
レーザー砲がヘルメットワームを貫き、ついにヘルメットワームを撃墜した。
「ランサー隊より入電、ヘルメットワームを撃破したそうです!」
わっと歓声が上がる管制室。
「下はお祭り騒ぎだな」
その声がオープン回線を通じて傭兵達の耳にも届く。
「そうだね‥‥」
春日を占拠されて以降「良い所なし」であった築城基地の隊員達にとって貴重な勝ちなのだ。
「みんなお疲れ。っても大規模作戦はまだまだこれからなんだよな〜」
そう亜夜が呟く。
「うん、でもボクらの結果が、大作戦の成功の一石になればいいね」
風音が海面からあがる白煙を見つめ乍ら言う。
「ところで‥‥相良さんは?」
帰投中の襲撃に注意して索敵を申し出たみゆりが言う。
「しまった、迷子か?」
焦るトヲイ。
──一方、当の裕子と言えば。
(「お腹空いた‥‥ここでのお仕事は終わりだから、ご飯食べに行こう。博多ラーメン食べ損ねたけど、佐世保でハンバーガー食べればいいと相良は思うし‥‥」)
タンクが空になるギリギリまで(裕子の)捜索をしていたメンバー達に「お財布を忘れた」と基地に戻って来た裕子は、お説教食らうのであった。