●オープニング本文

　──その日、Ｓ・シャルベーシャ（gz0003）は、不機嫌であった。
「クソ‥‥‥あと、何匹いやがる？」
　いつも襟足で止めている長い金髪は、獣のように逆立っている。
　キメラの返り血を浴び、ぎらつく紅い瞳は獅子を思わせる──覚醒である。

　＊＊＊

　サルヴァが寒いゴビ砂漠からMSIに帰還すると、待っていたのはヒマラヤに派遣していた「マハー・カーラ」の内、３分の２が被害を受け、事実上壊滅状態と言う不快な報告であった。
　重歩兵に関して言えば高い身体能力を持つ能力者と言えども自然環境への適応能力を想定し、ある程度の被害を覚悟しての派兵であった。だが、サルヴァの予想以上にＫＶチームの被害が多かったのだ。
　ヒマラヤという土地は、ある種サルヴァにとって鬼門かもしれない──。

　以前参加したミッションの関係（任務上必要としてサルヴァが殺害した人物は、バグアに憑かれた人物であった。人間であった頃のその人物は、ヒマラヤにおいてとても重要でかつ、地位も高く、人々から敬愛される徳の高い重要人物であった）でサルヴァ自身、ヒマラヤでは重犯罪を犯した指名手配犯扱いである。
　親バグア、反バグアの関係なく絶えまなく人々が襲って来る状態であるため、サルヴァはなるべ生身でヒマラヤには行かないようにしている位である。
　──はっきり言えば相性が悪いのかも知れない。

　だが仕事をする上で「相性が悪い」「鬼門だから」と言って避けて通る訳には行かないのである。
　そこでサルヴァは副隊長に新しい人選を押し付け、気分転換に遅めのクリスマス休暇（有給休暇）を取る事にしたのである。

　サルヴァ・シャルベーシャは、公式にはMSIの開発室付きの職員（パイロット）である。
　実質がMSI‥否、ダルダ家の私設軍隊に近いとはいえ、マハー・カーラのメンバーはMSIから給料を貰うサラリーマンでなのである。
　当然福利厚生の面も普通のサラリーマンと同じであった。
　溜まった有休は消化しなくてはならない。

　そんなサルヴァがふと、思い出したのはガールフレンドの部屋にあった1枚の写真である。
　インド西部砂漠の街国ラージャスターン州、その中においてオアシスの街ウダイプルから車で数時間走ったラーナクプルに山がある。緑に覆われた山間部に突如現れる城塞のような巨大な寺院。15世紀に建てられたと言うこの寺院は、神の乗り物をイメージして作られたという。
　その白い大理石の寺院にふと、寄ってみようと思ったのが「運のつき」だったのかもしれない。

　＊＊＊

　サルヴァが立ち寄ったホテル兼レストランの主人から虎型キメラが出ると言われて、調査を引き受けたのだった。人の為に動くとがないサルヴァに取って、非常に珍しい事である。
　単に数週間前出会った男がショットガンの話をしていたのが、記憶の片隅にあったからかも知れない。
　車のトランクから愛用のショットガンと38口径のハンドガン、サバイバルナイフを取り出し、調査に出掛けた。

「単なる虎じゃなく‥‥サーベルタイガーだな」

　仕留めたばかりに美しい体毛を持つ虎に似たキメラを靴先でひっくり返す。
　虎にしては長く巨大な牙と鋭いつめを持つ体長４mの虎型キメラ。体に似合わぬスピードでサルヴァを翻弄した。
「弾もあと10発か‥一度ホテルに戻るか？」
　そう言ったサルヴァが急に茂みに身を隠す──。

　のそりと一匹の虎型キメラが茂みを割って出てきた。
　先程見かけた固体とはまた違う虎型キメラである。
（「少なくても３匹はいる訳か‥‥」）

　キメラが立ち去った後、倒したキメラの体から臭腺を取り出すサルヴァ。
　鼻が曲がりそうな匂いに顔を顰め乍らも血の匂い消しに臭腺を少量取って体に擦り付ける。
（「あいつらが来る迄どれだけ時間が稼げるか‥‥」）

　森深く姿を消すサルヴァ──。

●参加者一覧

●リプレイ本文

●22：18
「‥‥一人で何とかしろ、と言いたい所でありますが。そうも、行きませんか」
　たまたまデリーに来ている所をサルヴァに捕まって連れてこられた稲葉　徹二（ga0163）が、むっとした表情で言う。
「サルヴァさんだけなら放っておいても平気な気がしますが、愛紗君がいませんので‥‥おそらくサルヴァさんについていったのではないかと思います」
　ウェスト研究室に所属する国谷　真彼（ga2331）が溜息を吐く。
「休暇だけじゃなく何処まで付き合わせる気かしら」
　そう肩をすくめるのは、智久　百合歌（ga4980）。
「サルヴァさんって困った人なの？」
　やはりたまたまデリーに来て、皆が寺院を見に行くのなら‥と着いてきた愛原　菜緒（ga2853）が尋ねる。
「性格が複雑骨折をした非情な男であります。自分達が助けに行ったら『いい囮が出来た』言いかねない男であります」と言う徹二。
「あながちないとは、言い切れないわね。一癖も二癖もある人なのは、確かだし」
「魅力的な部分もありますが、ちょっと‥‥」
　3人の言葉にビビる菜緒。
「うえええ‥‥と、虎と間違われて、いきなり襲われたりしないよね‥？」
　うーん？　と腕を組む3人だった。

「愛紗さんも一緒だから行かないわけには、行かないわね」
　デリー支部への通報後、ホテルの主人に傭兵達へのメッセージを託す百合歌。

「敵が虎である事を考えると人工物の香水では気づかれる可能性がありますので、ここは女性陣には申し訳ないですが‥‥」と申し訳なさそうに真彼が言う。
「人の顔や手足は、夜目の利く動物から見て白く浮き上がるのであります」
「泥パックに天然エキス‥‥と思えば良し」
「少しでもキメラに気づかれにくくなるといいんだけど‥‥」
　百合歌が肩をすくめ、菜緒は諦めたように溜息を吐き乍ら手足に泥を刷り込んでいく。
　深い森に入っていく4人であった。

●01：40
「‥‥しかし、いくらなんでもたった１人でキメラ退治に行くか？　余程の腕利きか単なる無鉄砲だぞ、それ」
　依頼の説明を聞いたゲック・Ｗ・カーン（ga0078）が言う。
「だが噂に聞くに‥‥『保護』と言うよりは、『増援』と言った方が正しそうだと思うんだが？」と言い乍ら九条・命（ga0148）が、ぐるぐると鈍った体を解すように肩を回す。
「どちらにしても人を探して、深い森をウロウロ。それも虎型キメラのおまけつきとは、こりゃ一生に一度もんかね‥‥って嬉しくないな、オイ」と吾妻 大和（ga0175）。
　そして捜索範囲が山一つと聞いて眉を顰めるのは、西島　百白（ga2123）。
「‥‥面倒‥‥だな」
「現地から通報してきた能力者達と連絡を取る方法ってのも、併せてね」と角田　彩弥子（ga1774）。
「全く厄介な依頼です。気を引き締めていった方がいいですね」と鳴神　伊織（ga0421）が同意する。

　そんな中──。
（「草履がすべるかもしれません」）
　着物姿の伊織が、窓の下に広がる山を見てこっそり心配する。

「キメラは元になった生物の性質をよう残しているようなんで、狙われやすいんのは、女性や子供。体格が小さい者ではないかと思いますが‥‥」
　ちらりと隣の座席に座るクリストフ・ミュンツァ（ga2636）を見るヴァルター・ネヴァン（ga2634）。
「なんです？」
「いえ、なんでもおざりません」
　お目付け役としては、サルヴァより何よりクリストフの方が心配である。
　だが、そんな事をクリストフに言ったら絶対怒るだろうと思うヴァルターとしては、口が裂けても言えないのであった。

●21：52
　──時間は、少し戻る。
　足元に転がったキメラが死んだのを確認すると、サルヴァは木の上に向かって声を掛ける。
「もう降りてきてもいいぞ」
　木の上からぴょんと飛び降りてきたのは、愛紗・ブランネル（ga1001）。
「虎さんは寝ちゃったのかな？　それともバターになっちゃったの？」
　思わず空を仰ぎ見るサルヴァ。
　サーベルタイガー型のキメラを見ても『三匹の虎さんがね、ぐるぐるまわってバターになっちゃうの。あの虎さん達もバターになるかな？』と危機感ゼロの愛紗に振り回されっぱなしのサルヴァ。
　そんな愛紗だが、ホテルを出て森に行くサルヴァを目ざとく見つけ、「サルヴァおじちゃん、何処行くの？　愛紗も行くー」とパンダのはっちーを連れて追いかけてきたのである。

（「どうも調子が狂う‥‥」）
　目の前の幼い少女がグップラーであるのが今ひとつ納得がいかないサルヴァは、『虎バターを作るのを手伝う』といった愛紗を言いくるめて木の上に上らせていた。
　自分の知る10歳の子供というのは、もう少しこまっしゃくれていたように思うサルヴァ。
（「男と女では、違うのかもしれない」）
　そう無理やり納得すると胸元の毛皮を剥ぐサルヴァ。

　すくぐったいと笑い転げる愛紗の手足に毛皮を擦り付けていく。
「我慢しろ。動物は胸や脇、首からホルモンが出ている。少なくともお前はヤツラから発見され難くなるからな」
　血をふき取った後、サルヴァは自分の手に臭腺から絞った液を少量擦りつける。
　臭いと言う愛紗に「お前も返り血を浴びたら、容赦なくつけるぞ」と言うサルヴァ。
　ショットガンを肩に掛け、歩き出すサルヴァの後をちょこちょこと愛紗が即興の歌を歌いながらついていく。

●01：11
「うわー‥‥凄まじいですね」
　感心したように真彼が言う。
　サルヴァの移動の痕跡は、すぐに判った。
　2m毎に測ったように同じ高さで枝が折れていくのだ。
「しかし、ホテルの人もいい加減ですね。これは虎ではなくサーベルタイガーですよ」
　地面に転がっているキメラ死体を確認する徹二と百合歌。
「皮と臭腺が切り取られていますね。キメラを倒したのは、人の手によるものだと言うことですが‥‥キメラの間にもテリトリーはあるということですか‥‥？」
　ふと思った疑問を口にする真彼。
「つるかめつるかめ‥‥」
　そう言い乍ら、菜緒は折れた枝を見つけ、後続部隊が判りやすい様にと、近くの木の幹にホテルで貰ったペンキでマークを書いていく。

　ガササッ──茂みが動いた。
「サルヴァさん？　うひゃあ？」
　闇に光る黄金の目を見て、後ろに飛び下る菜緒。
　森にキメラの咆哮が響いた。

●02：06
　フロント係を叩き起こして伝言を確認してきた醐醍　与一（ga2916）が言う。
「どうやらデリーに通報してきた連中は、先に森に入ったようだな」
　預けられていた地図には、虎が目撃されている場所がマークされていた。
「アフリカの草原とインドの森‥‥本物のライオンとキメラでは比較にならないだろうが、数が多すぎるような気がするな」
　怪訝そうにアフリカでレンジャーをしていたゲックが言う。
「2班に分けるか？　片方はサルヴァ氏やメンバーの痕跡を辿り、彼等との合流を目指す。もう片方はキメラの目撃箇所を巡ってキメラ撲滅を目指すってのは？」
　こうして捜索班が分かれた。

　Ａ班（捜索と合流）　命、伊織、大和、与一、アルヴァイム（ga5051）
　Ｂ班（キメラ捜索）　ゲック、彩弥子、百白、ヴァルター、クリストフ

●04：15
（「何かが、着いてくるな」）
　眠ってしまった愛紗を背負ったサルヴァは、後ろを振り返り獣のように目を細める。
　キメラとのファーストコンタクトからすでに6時間が経過し、ホテルを出てから10時間が近くなる。さすがに体力の限界である。木の根元が少し抉れ凹んでいる畝を見つけるとサルヴァは、そこに愛紗を下ろし、上から見えぬように枝を被せる。
（「まあ、運がよければ助かるだろう‥‥」）
　少し離れた地面に横になるサルヴァ。
「‥‥たまには、こういうのも賭けも悪くさ」
　誰に聞かせるでもなく、そう言うとサルヴァは静かに目を閉じた。

●04：31
「一体何匹いるのでありますか‥‥これ以上いるのであれば、俺達の体力を考えて一時撤退を考慮しなければならないであります」
　肩で息をする徹二。
　辛くも2匹目のキメラを退治した同行者チーム。
　キメラは1対1で対峙すれば手ごわい敵あるが、チームワークで戦えば退治できる敵である。ただし立て続けに出られたら体力を回復する暇等はない。
「大丈夫ですか？」
「怪我ないけど‥‥疲れたぁ〜。夕飯に食べた分のエネルギー、全部消費しちゃったよー。お腹空いたー、もう進めないよー」
　折角ここまで頑張ったのにー。と真彼の問いかけに手を振る菜緒。
「――美味しいモノ御馳走して貰わなくっちゃね」
　百合歌がにっこりと微笑む。

●05：17
「これは自然界の虎ではないな‥‥こんな大きい爪跡や足跡は普通では考えられない」
　木の幹に付けられた爪跡と地面の足跡を確認するゲック。
「じゃあ、まだこの辺にいるって事？」
「ああ‥‥」
「危ない！」
　ヴァルターがクリストフを地面に押し倒した時、クリストフの頭があった場所にキメラの爪が掠めていく。
　体長4ｍという大きさである。
「サーベルタイガーだと？！」
「敵がなんであれ、この俺様の前にいいタイミングで出てきてくれたな。ちょうど新しい武器を試して見たかったところだからな」
　にやりと彩弥子が笑う。
「手前の牙と俺様の爪どっちが上か、試させて貰うよ！？」
「敵の力（数）がわからないんだ。一人でやろうと思うな。皆の連携で倒すんだ」
　そうゲックが声を掛ける。
　ヴァルターがキメラの前に牽制に出れば、豪破斬撃を発動した彩弥子がシュナイザーをキメラに振るう。
「気をつけて、サーベルタイガーの頭蓋はかなり丈夫です。重いらしいので、その分逆に腰とかが弱いです！」とクリストフが叫ぶ。
「判りました！」
　赤い炎を身に纏い、力いっぱいコンユンクシオを振り下ろす百合。

●06：01
「おおい、無事か？」
　A班が菜緒らに追いつき声を掛ける。
「なんとか、応援の方ですか？」
「そうだ。先に2匹、ここに1匹‥‥別働隊が先程キメラと接触したと言っていたが‥‥4匹か。すでに目撃情報を上回っているな？」
　命が不機嫌そうに言う。
「たっはー。お仕事とは言え予想以上のキメラなんて、きびしーっ！」
「その様子だと、まだサルヴァには接触出来ていないようだな？」
「ええ、近くにいるのは確かだと思いますが‥‥ここまで来て残念です」
「汝らの消耗が心配だが、森の外まで汝らの護衛をして撤退する暇はなさそうだな」
　アルヴァイムがスコーピオンを構える。
　ガサガサと不自然に枝の揺れる音がするが、動物の声が一切しない。
「キメラが、側にまだいるな」
「ええ、うそぉ」
　辺りを警戒する能力者達。
　だが一向にキメラが襲ってくる気配がない。
「まさか──」

　先行グループをそのままの場所で待機させたまま、辺りを捜索するA班。
　ほんの少し離れた所に小さな水場があった。
　そこに死んだように倒れているサルヴァにゆっくりと近づくキメラを発見したA班。
「要救護者発見！　駄目だ、キメラが近過ぎる！」
「わしに任せろ！」
　与一の放った一撃が、キメラの目を撃ち抜く。
　咆哮を上げ、キメラが能力者に突進してくる。
「一気に叩くぞ！」
　アルヴァイムがスコーピオンを放ち、応じるように疾風脚を使った命が狼牙（渾身の右ストレート）を、大和と伊織が蛍火を振るう。
　奇声を上げて倒れるキメラ。

　サルヴァは能力者が戦っている間、ピクリとも動かないでいた。
　要救助者の身柄を確保した照明弾を打ち上げ、生死を確認しようと近づく。
　硬く閉じられていたサルヴァの目がガッと開き、そのまま一番近くにいた大和を左手で引き摺り倒し、サルヴァと大和の体位が何時の間にか逆転している。
　──一切の感情がない赤い双瞳が大和を映す。

「サルヴァおじちゃん、お腹すいたー。チョコレート食べてもいい？」
　はっちーを手にした愛紗が目を擦りながら起きてきた。
　何時の間にか右手に握られていたサバイバルナイフが、頚動脈の数ミリ手前で止まる。
「おっさん、トラ？　それとも人間？　取り敢えず落ち着いて、あと食わないで‥‥」
　腰が抜けかけている大和が、目を点にしたまま、言う。
　ゆっくりとした動きで体を起こすサルヴァが深い深呼吸をする。
　息を全て吐き出し終わると金と黒の瞳が、つまらなさそうに大和を見つめる。
「とりあえず人のつもりでいるがな。お前はラッキーだな。こいつが声を掛けなければ危うく敵と間違えて殺すところだった」
　愛紗に感謝しておけと言った後、大欠伸をするサルヴァ。

「煙草吸うか？　高級品だぞ、俺は吸わないけどな！」
　彩弥子が、タバコの箱を差し出す。
「遠慮なく貰おう」
「一体何をしたんだ？」
「自己暗示の一つさ‥‥自分をギリギリまでニュートラルにしておいて、敵が一定の射程に入ったら一気に覚醒して殺す‥‥所でここに来るまでキメラを何匹殺した？」
　首の後ろを揉み乍らサルヴァが質問をする。
「あんたが殺したのを入れて5匹だな」と命が答える。
「ふん、そうすると後2匹のキメラがこの森にいるって事だな」
「あんなのがまだ2匹もいるのですか？」
　うんざりという伊織。
「まあ、食事前の運動には持って来いだろう？」
　美味そうに紫煙を吸い込むサルヴァ。
「そういえばショットガンは、どうしたんです？　森に入る前持っていかれたでしょう？」と真彼が言う。
「ああ、あれか。邪魔だから捨てた」
　あっさりと言うサルヴァ。
「ええ？」
「弾がない銃は、ただの鉄の塊だ。ハンマー代わりに力任せにキメラを叩いたらストックが折れたんでな。ハンドガンは、まだ捨てていないがな。お前らが来なかったら投石器の石代わりになっていただろうな」
「あなたって人は‥‥」
　呆れたように真彼が言う。
「‥‥しかしまぁ、ある意味見てて飽きない旦那‥‥ではあるわな。良いか悪いか別として」
　呆れた様にゲックが言う。
　フォルスターからS−01を取り出す真彼。
「有翼の獅子には、軽すぎますか？」
　弾倉を確認し、スライドの動きを確かめるサルヴァ。
「いや、助かる。有難く借りよう」
　礼を言われるとは思っていなかった真彼がぽかんと口を開ける。
「なんだ？」
「いいえ、なんでもないです」

　先程まで鳴いていた鳥の声が消えている。
「お客さんが来たようだ。俺より先にキメラを倒して1番にホテルに辿り着いたヤツの言う事を1つだけ聞いてやる」
「他言はないね」
「無論だ」
　──斯くしてキメラは全て無事能力者達に退治されたのだった。

　そして勝者といえば──。
「サルヴァおじちゃん、メイド以外に好きなものってなーに？」
　チョコレートパフェを頬張り乍ら、無邪気に質問する愛紗の前で撃沈するサルヴァの姿が目撃されたのであった。