●リプレイ本文
「初めまして、私はアイロン・ブラッドリィ(
ga1067)と申します。よろしくお願いしますね」
ぺこりと頭を下げて挨拶をするアイロン。
「何だかんだで緊張する‥‥するなぁ‥‥。でも‥‥でも頑張らないと‥‥‥‥」
落ち着かなげに伊達眼鏡を拭く結城 朋也(
ga0170)。
担ぎ手達が初めて見る能力者である。
傭兵と聞いていたので厳い男女がやって来るのだと思っていたが、輸送機から降りて来た男女を見て、自分達の子供位の歳の子供が混じっている事に目を丸くする。
姫宮 琴栞(
ga2299)は担ぎ手の常識で行けば途中でへばる。
「大丈夫なのか‥‥?」
素朴な疑問が口を吐く。
「炊事、裁縫は大丈夫です! 多分‥‥‥」
緊張感からか、ぷるぷると震えている姫宮の姿は壊れ物のように見える。
「初仕事って気合いが空回りしないよう注意して頑張るよ〜☆」
オアシス・緑・ヤヴァ(
ga0430)の明るい声が担ぎ手達の不安を増長する。
「大丈夫だって、ちゃんと代金分は働くよ」
スケアクロウ(
ga1218)がサングラスを直し乍ら言う。
「頭ぁ‥‥‥」
「心配するな。誰でも初めてはあるさ」
「足手まといにならないよう気を付けますので、ご指導よろしくお願いしますね」
にっこり笑うアイロン。
担ぎ手達の不安等を気にした様子もなく、色々質問や提案をする能力者達。
「届け先の山村の方にキメララットの被害はあるのでしょうか?」とアイロンが質問をする。
「そういう連絡はないな。今の所は俺達が途中で3回程襲われただけだ」
山村から担ぎ手達の村迄は無線が届くという。
「食料品は極力前の方に集めていただき、襲われた際にこちらが察知をしやすいような隊列をよろしくお願いします」とアイロンが言う。
「本来は途中でトラブルがあってもいいように集中しないで分散して持つだんだが、今回はしょうがないな」と担ぎ手頭が言う。
おっとりとした口調乍らしっかりとした意思を感じるアイロンを担ぎ手頭はリーダーと感じたようだった。
「今回‥運ぶ‥‥食料品は‥‥何キロ‥ですか?」
犀川 章一(
ga0498)が問う。
「食品だけで純粋に約130キロだ。今回は先月届けられなかった分がある」
担ぎ手の体型は160cmから170cm前後、一番背の高い担ぎ手頭でさえ立て横共に結城とそう変わらない。10人の担ぎ手が道中の各自の生活用品を含めて毎月1人70キロを担ぎ、片道80キロの山道を行き来しているのだという。
「つまり、2人が食料品を担ぐ事になりますね」
「悪いが3人さ。1人60キロと自分の生活用品10キロだ。あんたら自分の装備を担いでは行けないだろう?
寝袋、食料と水、燃料で1人10キロ×8人、単純計算で78キロ。1人80キロが担ぐ限界だ」
「じゃあ、逃げるのも一苦労だね。イザ襲われたら1箇所に集まってもらえる? そうすると守りやすいし」と神楽克己(
ga2113)が言う。
「固まれる場所があればな。俺達の行く道は崖や細い山道が殆どだ。上手くキメラが広場で襲ってくれたらそうしよう」
目的地迄は崖あり、谷あり、急勾配あり。
行程を説明された武田大地(
ga2276)が思わず声をあげる。
「キメララット以外にも危険な事があるんか? ‥‥信じられん」
「あと、もう一つ教えてやろう。俺達は、いざとなれば荷物を捨てて逃げる」
命あってのもの種。
生きていればリトライできるが『死んだらお終い』だ。
「俺らは『荷物を運ぶ』担ぎ手だが、自分の命を安売りするつもりはない。俺達は1人欠ければその分、村が飢える。疫病が流行れば運べる薬の量が減る。薬の代りに医者や看護婦を担いで上る時もある。逆に病人を担いで降りる時もある。非情かも知れないが、俺達以外にあの村に荷物を届けられる奴らはいない。だから俺達は、俺達のできる事をするだけだ」
キメララットや山賊からは、俺達や荷物を護衛や能力者が守る。
「俺達が逃げ出したくなるような半端な護衛をするな。お前らもその場で自分のできる全力の仕事をしろ」
担ぎ手頭は、言った。
***
基本隊列は、斥候としてオアシスが先行する。
次に前衛を谷側を犀川、山側をアイロン。
食料品を背負った担ぎ手頭、逃げ足が自慢の担ぎ手2名が続く。
横をスケアクロウと神楽。
日用品を担いだ担ぎ手が7名。
武田、姫宮がさらに横を遊軍となり、守る。
最後尾を結城が一列に並び進む。
「余り遠くへ行くなよ」
「大丈夫。1人で先走って『緊急事態』に陥ったら洒落にならないからね〜」とオアシスが笑う。
行っても行っても坂道ばかりである。
4時間ばかり歩いたところで一旦休憩である。
「少し、質問していいかな?」
オアシスが休憩時間を利用して担ぎ手達の輪に加わる。
「キメララットは、何でこうも急に増えちゃったのかな〜?」
「元から鼠や兎とかの小動物はいたし、俺らも頭に言われる迄キメララットだと判らなかったぜ」
「そうそう、ウチに出るデカい鼠と代わらない」
20cmの鼠等普通に出会うと言う。
「だが、よーくみると鼠と違ってな。金になるかも知れないから捕まえてみようって事になったんだ」
「それで食べ残しを与えたんだよな」
「‥‥‥キメララットに餌付けを試した?」
そうだ。と笑う担ぎ手達。
「だけどアイツら何時の間にか団体でやって来て、餌が足りないのか荷物も襲うようになっちまってなぁ」
わははっ。
担ぎ手達は呑気である。
普通のキメララットは廃屋か洞窟等に住み着いているという。
そこにうっかり入り込んだ獲物を集団で襲うのだと言う。
「1匹の姿が見えたらたくさん来ると思って戦うことにするよ」
がっくりと言うオアシス。
「今回は、効果‥‥効果がないかも知れない‥‥です。鼠なりに『隊列を襲えば食い物にありつける』と学習した訳‥‥訳ですからね。生理嫌悪よ‥‥より食欲の方が優るでしょうし‥‥」
ハッカオイルを用意していた結城が溜息を吐く。
「まあ、何にでも例外はいるさ。だかそいつは蛇避けにもなる。あんたらの手足に塗るといい」
呉大人からの依頼では、担ぎ手達は今にも逃げ出しそうであったが担ぎ手達は元気に見える。
「そう見えるか?」
「‥‥‥ええ」
「まあ、俺達の村もこれから向かう村より豊かだが、そう貧しいは代わらん。だがバグアが来ようが何が来ようが俺達には馴染んだ村だ。捨てられない。捨てられないなら多少無理をするしかないんだよ」
「やせ我慢をしているって事か?」
まあな。と担ぎ手頭は言う。
「あなたは平気そうに見えるけど?」
「俺も不安さ。だが、俺が不安がったら下の者はどうする? 上に立つってのはそういう事だ」
***
「ふーん、ここが一番最近襲われた場所か‥‥‥何もないなぁ」とスケアクロウが残念そうに言う。
人が1人やっと通れる狭い崖道である。
糞や残骸からキメララットの危険度を測ろうとしようとしたが、現場には何も残っていない。
「まだ凪いでいるが朝夕ここは強い風が吹くからな」
出発前に担ぎ手頭が言った『イザとなれば荷物を捨てる』という意味が良く判る。
「実際、どうなんです? キメララットは」
「普通の鼠は人に飛びかかって来るのはよっぽどだが、あいつらは普通に襲って来るな。噛み付いたり、引っ掻いたり。多少、体が大きく、丈夫で凶暴で‥‥スピードに普通の人間じゃあ対応出来ないという感じだな」
今の所は食い殺されるに至った奴はいないけどな。と担ぎ手頭が言う。
「もう少ししたら広い場所がある。今日は少し早いがそこで夜営しよう」
「こんな‥‥早い時間に‥‥良いのか?」
1ヶ月前と1ヶ月半前に襲われた場所もその場所の近くにあるのだと言う。
「出るとは限らないが、丁度子供らもへばっているようだ。遅くても日没には着けるだろう」
「待て‥‥日没迄2時間はあるぞ?」
「何、ほんのちょっとだ」
山育ちの『ちょっと』はアテにならない。そう実感した瞬間だった。
ケロリとしている担ぎ手達に比べて疲労のピークでゲンナリしている能力者達。
そんな中、汚名挽回とかなり塩辛く甘い謎の物体を担ぎ手頭の指示で作っている姫宮。
勇気を出して出来上がった物を配って歩く。
ハンドガンの点検をしている武田にも声をかける。
「た、武田‥‥ご飯ですっ」
微妙に語尾が裏返っているが、気にした様子もなく礼を言って器を受け取る武田。
不思議そうにしている姫宮に苦笑する武田。
「コレ? こうすると1発お徳なんよ」
先にリロードする事でマガジンの装弾数より1弾多く撃てるのだと説明する武田。
「武田さんは‥‥か、関西人なんですか?」
「せやよ。でも関西人が皆、関西弁だと思ったら大間違いやぞ!」と笑う。
「姫宮ちゃんは、どこの出身〜?」
「こ、琴栞‥‥のですか?」
思わぬ質問にタジタジの姫宮。
挨拶程度の会話だが、対人恐怖症の姫宮にとっては気が遠くなるような会話である。
***
『食後の娯楽(カード)で一稼ぎ』を目論んでいた武田は、担ぎ手頭に「人の緊張が一番弛んだ夜明けの直前に襲って来る事が多い。それに出発は日の出と同時だ」と言われて渋々寝る事になる。
「そうなんですか?」
「鼠は夜行性です‥ですから‥あながち間違いじゃないでしょう。‥‥それに普段。普段、洞窟に住んでいるのなら‥‥暗い、暗い夜の方がキメララットにとっても居心地が良いはずです」
元生物学者の結城が言う。
──実際、担ぎ手頭の言う通りになった。
ガサ、ガサガサガサ‥‥‥夜明け直前、空が白みミルクのように濃い靄の立ち篭める中、何かが蠢く。
神楽と琴栞が早起きして朝食の用意をしている方向とは反対側になる。
アイロンの髪がゆらりと持ち上がり、不快感からトトトン、と毛先がリズムを刻むように波打つ。
見れば、食料品が括り着けられている背負い子にキメララットが6匹程群がっている。
スコーピオンの乾いた音が靄の掛かる岩場に響く。
「て、敵?」
顔を洗っていた結城が慌てて眼鏡をかける。
「うっしゃー!! ご飯前に一暴れ、頑張るぞっ!」
オアシスがぴしゅりと頬に気合いを入れ、ファングを腕に装着する。
「俺だって負けないぜ! かかってきなネズ公。俺がお前らを丸焼きにして食ってやるぜ!!」
神楽が刀を振り回す。
「お前らのお蔭で、折角の小遣い稼ぎが!!」
武田がハンドガンをぶっぱなす。
アーミーナイフを突き立て止めを刺す犀川。
キィキーィと叫び声を上げて逃げ回る姿は鼠にかなり近い。
「‥‥こんな靄の中じゃ‥照明弾が効きません‥‥‥‥こういう時は、超機械1号です」
隙を見て再び荷物に取付いていたキメララットに超機械1号を放つ姫宮。
スケアクロウが担ぎ手に食らいつきそうなキメララットを見つけファングを振り下ろす。
「大丈夫か?!」
スケアクロウの言葉にコクコクと頷く担ぎ手。
「あ、逃げるよ!」
2匹のキメララットが逃げていく。
「ペイント弾‥‥待って!」
慌てて姫宮がペイント弾を構えるが、靄の中に消えるキメララット。
ビシッ。
シングルバーストに切り替えたアイロンのスコーピオンがキメララットを捕らえたようだ。
「‥‥‥仕留めたのですか?」
「いいえ、巣穴を突き止めた方が後腐れないでしょう?」
能力者の隙を突いて担ぎ手の何人かはキメララットに噛まれたようだったが結城の練成治療の効果でかすり傷程度で済んだようだ。
「確かにね。キメララットの生態とか知らないが、鼠算だったらまた担ぎ手が襲われるからな」
そうスケアクロウが同意する。
転々と続く血の後を追う。
一匹はアイロンが撃ったキメララットは巣穴の前で力尽きていた。
中を進むに連れ鼻を突く異臭に顔を歪める能力者達。
「匂いが服に着いたら割に合わへん。早う残りを見つけて、やっつけようぜ」
武田が愚痴を零した瞬間、何かが動いた気配がする。
それに向かって武田がトリガーを引く。
キーッ!
カン高い声を上げてキメララットが倒れる。
「ナイスシュート‥だな」
「他はいないのか?」
灯を上げて探索する一行。
「‥‥これが‥‥最後の‥‥‥一匹だった‥ようですね」
こうして担ぎ手を悩ませたキメララットは退治されたのだった。