●リプレイ本文
●All Away
「43名の人が亡くなってるなんて‥‥」
「厳しい任務になりそうですね‥‥」
水理 和奏(
ga1500)が机の下で手を握り、夕凪 春花(
ga3152)が緊張した面持ちで言う。
3回のミッションで45名の被害、つまりカーゴ部隊の全滅を意味する。
「初仕事からハ−ドだな‥‥ま、やりがいもあるって事にしとくか」
氷川・玲(
ga4169)は溜息を吐く。
アジド・アヌバ(ga0030)より上海を始めとする拠点の気象情報が発表され、コース周辺の状況、最新の敵配備状況が説明された。
全体への説明が終わり、そのままその場で各部隊でのミーティングに移行する。
警護部隊は、カーゴのパイロットとを交えてのミーティングである。
「不束者ですが、よろしくお願いいたします」
石動 小夜子(
ga0121)が、ぺこりと頭を下げる。
「夏 炎西です。ゴビへは二度、赴きました。
ゴビの事を聞くとまるで旧知の友が危機に瀕している‥‥そんな気がするのです。『力に、なりたい』そう思い参加しました」と夏 炎西(
ga4178)が挨拶をする。
「こちらこそ、宜しく頼む」
カーゴのパイロット達と挨拶を交す。
「うっう−、守りながら戦うというのは‥‥とっても難易度が高いです!」
比留間・トナリノ(
ga1355)が緊張した面持ちで言う。
「敵が現れた場合‥‥特にHWからは逃げられそうにないのですね」と霞澄 セラフィエル(
ga0495)。
現行カーゴの中では足の早いC−1改であるが、KVに比べれば遅い代物である。
そして、今回のミッションで注意すべきポイントの一つが給油である。
KVは巡航速度で単純飛行すれば燃料が足りないと言う事がないが、途中索敵をしたり、時にはファイトがあると考えれば、やや心もとないと考えた傭兵達は多い。
そして何よりC−1改の航続距離を考えれば途中給油は必須であった。
「はい、アジド先生! ‥‥じゃないアジド少尉。給油ってどうなっているんですか?」
和奏がシュタっと手を上げる。
「西安でII−78によるプローブアンドドローグによる空中給油が計画されています」
「うっう−、ということは一度に給油出来る燃料の量がそんなに多くないんですね」とトナリノ。
「給油は有り難いが、敵陣の真っ只中だ。何処から何が出てくるのか分かった物じゃないな」
しかし、どうせならミサイルの予備弾も持ってきて欲しいもんだね。
そう大上誠次(
ga5181)とぼやく。
「西安咸陽国際空港を利用出来れば良かったんですが、民間航空が離発着する関係がありますからね」
KVやカーゴを追い掛けてバグア軍が襲来するのは困ると空港側からの拒否を受けたと苦笑するアジド。
西安咸陽国際空港は競合地域から南部の案全地域へ向かうターミナルなのだと言う。
「まあ、しょうがないでしょう。そうすると極力ミサイルや弾の温存は必要ですね」
炎西の意見に同意する一同。
「そうなると特に注意するのは山間部及び西安上空でので空中給油時ですね」と霞澄。
今回の飛行エリアに険しい山はないが、木々や黄河に身を潜まれたら、近距離まで敵の接近を許してしまう事になる。
「それもそうだが、市街地上空での戦闘に注意しないといけないな」と御山・アキラ(
ga0532)が言う。
ミサイルの流れ弾もそうだが、HWでもカーゴ、ましてや給油機が墜落する事態になれば、民間人に被害が出るのである。
コース上には、多くの市街地が存在するのだ。
競合地域であり乍らも、慣れ親しんだ先祖伝来の土地を離れるのは、人にとって厳しい決断なのである。
「ゴビ砂漠‥‥バグア支配地域にほど近い競合地域か。より脅威度が高いのも頷けるな」
併せて自然環境的にもかなり厳しいところだな。
白鐘剣一郎(
ga0184)がホワイトボードに張られた地図を見乍ら言う。
「そういえばゴビ砂漠の方は遮蔽物が無いせいか風が強いようだな」と誠次。
「季節柄、風は内陸風、丁度向かい風だ」と沢村 五郎(
ga1749)。
五郎はミーティング前の僅かな時間、防砂フィルターの施行を待つ愛機のキャピノーにうっすら黄砂が積もっているのを思い出す──。
──指で拭うと白い線が出来た。
「行き違いだな」と苦笑する五郎に対し、不機嫌そうなのはホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)であった。
ホアキンとしては、中国大陸に入ってから黄砂とお目見えするのかと思っていたが、風に乗って新田原基地にも黄砂が降っている。
大陸の砂の詳細原理は現在も100%解明されていないが、過去の記録では成層圏近く迄巻き上げられたという事もあるらしい。高く風に巻き上げられ、山や海を越え遠距離運ばれる砂は中国本土に降る砂の粒より細かく花粉よりも小さい。そして小さい故に少量の大気中の水分(海水の蒸発で起こる水蒸気)を含めば、重くなり地上に降りてる。それも粘土のように張り付くのだ。
「砂で機体が汚れるだろうとは思っていたが‥帰ったら洗ってやらないとな」
思わず溜息が出た。
「全く黄砂も気にしないってんだから、相変わらずデタラメな連中だ」
ついでにこの色付き水を作った奴もデタラメだが‥‥。と百瀬 香澄(
ga4089)は、煮詰まった珈琲の不味さに思わず眉を潜める。
「しかし、これほどの人数で護衛とは‥‥失敗はできませんね」
参加者の多さに内心驚き乍らバ−ナ−ド(
ga5370)が緊張した面持ちで言う。
「今回の任務は、危険で大変ではあるけれどエ−ス級の人も多いようだし、今ある情報で陽動の方も上手くいけばなんとかなるかなと」
鏑木 硯(
ga0280)が、きっと上手く行きますよ。とバーナードをリラックスさせようと軽い口調で言う。
「もちろん長時間の飛行だし、陽動が上手くとは限らない。情報以上の敵がいるかもしれないので油断は禁物ですけどね」
実際の所、硯も自身が言う程、楽観視してはいない。
ミーティングが終わり、参加者達がミーティングルームを後にし、格納庫に向かって行った。
●Join up
護衛隊の班編成は、次の通りである。
迎撃A班:アキラ、五郎、誠次
迎撃B班:硯、セラフィエル、バーナード
迎撃C班:剣一郎、香澄、炎西
直接警護D班:トナリノ、ホアキン、小夜子、和奏、春花、玲
迎撃班が大きくカーゴを囲うように前(A)後方左(B)右(C)を守り、D班がカーゴに沿うように機を展開していた。
──黄海を渡って中国大陸に到達するカーゴ。
カーゴの右手下方に小さく青島が広がる。
徐州に至る山間部上空までカーゴを進めるが、現在の所、敵との接触はない。
「陽動班は上手くやってくれたようですね。私達も絶対成功させましょう」と霞澄。
「暫くなだらかとはいえ山が続く。気をつけろよ」
これから先はバグアとの競合地域を飛行するのだ。
警戒のし過ぎと言う事はないのだ。
開封──。
北宗時代、東京(とうけい)と呼ばれ、バグア侵攻前は観光名所として栄えた町である。
眼下に一部焼けた町と穴が開いた空港が見える。
だが人がまだ住んでいるのだろう。
うっすらと煙が上がっている。
五郎が暇つぶしを兼ねて通信の設定を民間ラジオに設定を変えて音楽を拾っていた時である。
細かいノイズが入る。
「来やがったか?」
左前方に小さく機影が見える。
「陽動班が上手くやり過ぎて、1機も敵が出なかったら折角の装備が泣く所だったな」
A・B班がカーゴから離れて行く。
「さて、敵さんの腹の中に弾を捻じ込みに行きますか」と誠次が言う。
「追い込み任せたよ」
対ドラゴン用にロングレンジのUK−10AAMをとっておきたい五郎。
「沢村、大上。【A−Killer】だ。私も接近して攻撃しよう」
「OK。んじゃあ、俺が追い込み役って事で」
Bは霞澄と硯が牽制役である。
「【イフリート】了解だ。皆、例え数で勝っていても油断はするなよ」
霞澄と誠次のUK−10AAM、ファイトの口火を切る。
硯がホーミングを撃ち込み追い込まれたHWにアキラと五郎、バーナードの3機から同時に突撃仕様ガドリング砲が叩き込まれ、HWのフォースフィールドが悲鳴を上げるように火花を散らす。
反撃するHWの収束フェザー砲を回避し切れずアキラと五郎のKVが被弾する。
「大丈夫か?!」
「大丈夫、まだいける!」
機体から白煙が上がるが、炎は見えていない。
消火装置が働いたようである。
「‥‥この一撃で仕留めて見せるッ!!」
バーナードが発射した84mm8連装ロケット弾ランチャーとアキラの127mm2連装ロケット弾ランチャーが止めの一撃を放つ。
こうして数で優る傭兵達は、多少の被害が出たが余り時間を掛けずにHW1機を料理した。
洛陽──。
これから再び山間部に向かう。
「この辺りはジャミングで思った以上に探知範囲が狭いな‥‥有視界も含めて注意しよう」
剣一郎のの言葉に傭兵達が警戒を強める。
進行方向右手山の方にHWを目撃し、能力者達に緊張が走った。
だがHWもカーゴを充分確認出来る距離であるが攻撃する事もなく、暫く一定の距離を保ち乍ら追走した挙げ句、離脱して行った。
「哨戒機か?」
これから先は西安迄再び見通しの良いなだらかな丘陵地帯が広がる。
西安──。
「町が見えますね」
下方を警戒していた小夜子が言う。
『All,ForceShedule10,Latest GDAB weather SKC』
「ううっ‥‥エアバンドって何時聞いても判り難いです。なんとかならないのでしょうか?」
カーゴから改めて無線が届く。
『取り合えずGDAB周辺の風は収まっている様ですよ』
「そう言ってもらえると判りやすいです」
無線機の向うで笑い声が聞こえる。
カーゴのパイロット達はリラックスしているようである。
「ここでやっと半分の工程か」
「百里を行くものは九十里を半ばとす、との言葉もありますから‥‥ここからは更に気を引き締めて行きましょう」
ランデブーポイントに3機の給油機が現れる。
腹ぺこのC−1改から、まず補給を受ける。
「こちら【レディナイト】このタイミングの襲撃は厄介ですから要警戒ですね」
「C−1がたらふく食べている間にこちらも順番で給油だな」
HWと一戦したAB班、サブタンクを搭載していないKVから優先的に2機づつ順番に給油を開始する。
その間、残りが展開し、周囲を警戒する。
──レーダーレンジに引っ掛かるものがあった。
増えるノイズに警戒を深める傭兵達。
カーゴが上空に差し掛かる時間帯は、空港を一時閉鎖するという話であった。
だが、現実として隊の左真横からの機影の動きは早く、後方からの機影はかなりゆっくりであるが近付いて来る。
給油を中止して現状を維持する旨、カーゴから連絡が入り、給油機が隊列から離れて行く。
レーダーレンジを調節しUNKNOWN(未確認機)の大きさとスピードを確認する一方、ノイズに苦戦し乍ら航空管制室に運行確認を行う。
『こちら【Quena】。左はHWで、後ろはドラゴンだ。各機、迎撃用意!』
「同時か面倒だな?」
基本行動はカーゴの護衛に隙が出来ない様、1つの敵に対して2班同時攻撃である。
「足が遅いキメラは後にしてAとBでHWから叩くか? 皆、弾の残りはだいじょうぶか?」
「なんとかなるだろう。節約してきたからな」
「了解、こちらでもHWを確認した。【A−Killer】HWに向かう」
A・B班がカーゴから離れて行く。
「では、C班は先にドラゴンに向かわせてもらおう」
C班がキメラに向かう為に反転する。
玲がカーゴを先導し、空域を離脱しようとする。
キメラは給油機に見向きもせず、キメラがカーゴに併せてコースを変える。
「奴らの関心は、カーゴか‥‥直営D班も何時でも攻撃に移れる様、安全装置を外しておいた方が良いかも知れないな」
キュラララ──KVより大きい、特撮映画に出てきそうな長い蜥蜴のような胴体に4本の足を持ち翼を持つキメラ。図体に似合わぬ鳥の歌声のようなを発するその姿は、金色の鱗を持ち見た目はドラゴンと言うよりは、龍を想像させる。
「‥‥来たか、予定通りのシフトで対応する。【ペガサス】よりC班各機、お出迎えだ。行くぞ!」
「【Pai−Fu】了解。泰山府君よ‥‥我等に勝利を‥‥!」
「男二人と、か‥‥楽しみがないけど、楽しんでる暇があるかどうか」
剣一郎の試作型G放電装置に併せ、香澄のUK−10AAM、炎西のスナイパーライフルRが発射される。
第2波を躱したキメラは、ファイヤーブレスを放ってくる。
予兆に注意していたがブレスの全てを回避し切れず剣一郎は排気ノズルの一部、香澄は左尾翼の装甲が溶け落ちる。
スピードの上がらぬKVに取り付こうとするキメラに炎西がライフルを放つ。
「シェイドやステア−に比べればどれ程の物か‥‥返すぞ、落ちろっ!!」
「は虫類の癖に生意気な奴‥‥お前にくれてやれるのは弾丸とレ−ザ−だけだ。とっとと帰れ!」
「とても生き物とは思えませんね」と霞澄が言う。
「凄いキメラもいたもんだ‥‥バグアはこいつを量産した方がいいんじゃないか?」
くねくねと体を動かし逃げるキメラを冗談ぽく茶化すバーナードだったが、余り笑えない状況である。
「こっちもさっさと片付けてC班の援護に向いましょう」
だが今度のHWは、警戒しているのか接近戦に持ち込ませず、手を焼く事になる。
結果、大破に至らなかったが、軽度であるがA班では五郎、B班は硯が被弾する結果となった。
キメラに苦戦するC班を比較的被害の少ないB班が創痍乍らも協力し、硯がブレスを受ける事になったが、退治は成功した。
D班が編成を見直し、キメラへの攻撃を行うかの決断を迫られていた時、敵の増援を確認する。
「敵援軍、前からHW2機接近します!」
春花の無線を確認し、トナリノが周辺の雲に他の敵がいないか警戒する。
「【レディナイト】迎撃に出ますっ!」
「僚機の圏内からの突出に注意しろよ」
「「「「了解!」」」」
D班の装備の特長は、長距離砲が揃っている所である。
「わかなロケ−ット発射!」
長距離砲を活用し、敵を近付かせないべく一斉攻撃を開始する。
直営D班は(再優先事項をカーゴ警護に置いていた為)撃墜はなかったが、HWを退ける事に成功した。
回避の為、予定のコースから外れたカーゴは予定時間よりやや遅れたが、無事GDABに到着をした。
「こうして三蔵法師は天竺へ辿り着いた、か」
GDABの滑走路を見渡す剣一郎。
そして誰もが思った。
この一石がこの地域の解放の手助けになる事を──。