●リプレイ本文
●symbolize the crime
「あんまり好きじゃないなぁ‥‥こういうの」
依頼人から参考になればと渡されたCDを高速艇での移動時間を利用して再生していた相原 奈菜(
ga7182)が言う。
歌詞が何となく両親を思い出して生理的嫌悪が付きまとうのである。
「んー、私はあまり縁がないから良く判らないわ」と皇 千糸(
ga0843)。
彼女にとって一番親しみのある曲は、ハーモニカで吹けるような優しいメロディである。
それに対してギタリストのアンドレアス・ラーセン(
ga6523)が言う。
「音が軽い‥‥もっとソリッドに‥‥だが、フックはあるな‥‥」
「シーヴ、目見えねぇ人との生活で音にゃ敏感。Impeachmentの音楽、違和感がありやがるです」とシーヴ・フェルセン(
ga5638)が言う。
「見た目だけのバンドでテクがない分、サブリミナル効果でメッセージが入っているとか?」と空閑 ハバキ(
ga5172)が言う。
写真で見るバンドのメンバー達はかなりの美形揃いである。
「美人揃いってのはいいね♪」
「ミハイルさんは芸能界の人でしょう。彼等の事知っていた?」
声を書けられ資料から目を上げるミハイル・チーグルスキ(
ga4629)。
「残念乍ら知らないな。私は脚本家だからね」と苦笑する。
「例の黒い噂ってのが妙に引っ掛かるのよね。普通、そういうのってスポンサーとかが怪しまれる筈なのに、バンド自体が怪しまれるなんて変じゃない?」と雪村・さつき(
ga5400)が言う。
「彼等はメトロポリタンXで結成されたっていう噂よ」
──メトロポリタンXはかつて栄華を誇った地球最大の都市であった。
2006年にバグアの手で陥落以降関連情報は軍のトップシークレットで、わずか1年半前の出来事であるが若い世代には早くも都市伝説化し始めている場所である。
「何にせよ。彼等が既に公安が目をつけているにも関らず、尻尾を掴ませないのには何か理由がある筈よ」
「そうだな。地域的な事が多少あるのかもしれないが‥‥」
──上海市。
本来であれば他の都市同様バグアからの激しい攻撃を受けてしかるべき地域であったが、資料によると現在もバグア侵攻前と変わらぬ町並みが保たれていると言う。
だが裏では他の競合地区と全く変わらない混乱があるらしい。
「この子もわざわざそんな危険なところで行方不明にならなくても‥‥な」
競合地帯の犯罪多発地帯‥‥何が出てくるやら。
須佐 武流(
ga1461)が家族から提供された写真を見乍ら溜息を吐く。
「全く、追っかけに文字通り命かけやがってるですね。けど周囲にゃ迷惑でありやがるです」
ある意味天晴れ。とシーヴが言った。
●Person search
上海市に入った能力者達は、まともに探していては拉致が開かないだろうとImpeachmentの生活範囲をペアで分担して探す事にした。
美しい中心部から道を数本隔てただけ一気に治安が悪くなる様子を見て苦笑するミハイル。
「さて、アジアの街をいわくつきバンドを探して歩き回る‥‥‥まさに探偵だね」
少女のいなくなったライブハウス周辺の店で噂話と少女が乗り込んだと言う高級車について調べるミハイルとさつき。あからさまに武器を携帯しているさつきと2mもある長身でスーツにコート姿というデコボココンビは余りにも目立った為に住民達の警戒心を解く事が出来ず、情報料の提示をしたミハイルでさえ、実のある情報を得る事は出来なかった。
「物好きの金持ちと護衛とか、ポジションを決めて行けば良かったかな?」
住民らの視線を感じ乍ら出来れば荒事は避けたいと思うミハイル。
少女の潜り込んだ黒塗りの高級車が本当にあったという事である。
「桜梨が帰れない理由は何か『聞いてしまった』あるいは『見てしまった』のかしらね?」
「かも知れないが、とりえずここから退散した方が良いようだ」
手に武器を持った住民が集まり始めていた。
「無作法だよ、君達」
「あの位なら素手でも倒せるでしょうけど、戦闘はなるべく避けたいかな?」
「では‥‥」
そう言うとミハイルは覚醒し、さつきをお姫さまだっこしてさっさと逃げ出した。
バンドメンバーを探しているという触れ込みで少女が行方不明になったライブハウスにやってきた武流とアンドレアス。ミュージシャンと判ると、仲間意識が働くのかスタッフ達の口も軽かった。
「Impeachmentってバンドどうなの?」
「連中に興味があるのか?」
「ココで人気のある連中には興味あって当然だろ?」
そういうアンドレアスと武流にオーナーは、キースとユリアが所属していたと言うArcalaru・NightのライブDVDやらフィフィのPV等を持ってきた。
「元々は全員、日本や韓国、台湾やベトナムで活躍していたプロだって聞いているよ」
機内で聞いたCDとはうって変わった生き生きとした曲が流れる。
「こいつは‥‥音楽くらい好きにやりゃいいと個人的には思うワケだが‥‥上海で活動するにはそんなにスポンサーは大切なのか?」
「どこを目指しているかによるんじゃないのか?」とオーナー。
彼等のスポンサーは親バグアの噂の高い男であると言う。
「まあ、良くある実力者の馬鹿息子って奴だな。親は対した人だが‥‥こいつは親バグアっていうのを置いておいても人間的に悪い噂の絶えない野郎だ」
俺としてはImpeachmentが別のスポンサーを見つけてくれるのを願うばかりだが。とオーナーは続けた。
メンバー達と会えるか?
そう問う武流にオーナーは一つのメモを渡した。
「今日はそこでライヴのはずだ」
ライブハウスにキースが現れないという事を知った千糸と奈菜は、友好関係0、社交性に欠けるとしか思えないバンドメンバーと車の調査を切り上げ、それならば自宅のキースを調べようと言う事になった。
千糸と奈菜コンビは見るからに未成年者と言う事もあり、1ブロック進む度に非合法な薬物を売り付けようとしたり、絡んで来る者が等が後を立たなかった。
「こんな所に3日も‥‥早く見つけてあげないと」
絡んで来る者を殴り倒して行く奈菜、最早何人目か数えるのが鬱陶しくなってきた頃、ファンの少女らから聞いたバンドのメンバーらの住まいに辿り着く。
「やっぱりプライベートでも仲良いのかしら?」
「少なくとも同じマンションのフロアに住んでいるんだからそうなんじゃない?」
『体調不良』で現れなかったキースは今日はマンションいるはず‥‥と聞いて来たが肝心のキースもいなければ車もない。
キースにあたれば何か判ると思っていた奈菜はがっかりする。
「向うのチームは、情報得たかなぁ〜」
若い乍らも両親の事で苦労している奈菜は、直接バンドメンバーらと接触する仲間を心配する。
高校生にもなる少女がバンドのメンバーを追っかけて車に乗り込む等、バカにしか見えない。
身内の恥は、隠したいものというのが家族の心理である。
身分を隠しての接触である以上、相手の信頼を得るのはかなり難しいと思う奈菜。
「親バグアの人達って信頼ならないし‥‥」
情報を何も得れなかった二人は大きく溜息を吐いた。
シーヴとハバキがチケットを購入しライブハウスの中に入る。
中央にホールがあり、壁に沿って座席があるクラブのようなライブハウスのステージでは、キースを除いたメンバー4人が演奏をしている。
側にいた客の1人に声をかける。
「こういうことって良くあるの?」
たまにね。と少女が何処か酔ったような目を向けて答える。
「なんだか嫌な雰囲気だな」
襟足がチリチリするとハバキが言う。
客の半数は、曲を楽しんでいるようであったが、半分は別の目的で集まっているようで行方不明の少女に関する情報は殆ど得られなかった。
他の聞き込みをしてきた武流とアンドレアスが合流する。
ジッとステージ上のユリアを見つめるシーヴ。
「何している?」
「お持帰り逆指名でありやがるです」
「ま、シーヴなら強いから大丈夫だと思うけど‥‥」
「ユリアなら客観的視点を持ち、バンドに不利でない行動を考慮可と推測でやがるです」
「確かにね」
ギターのタカシがシーヴに気が着き、フィフィに何かを耳打ちしている。
頷くフィフィ。
タカシが突然ステージに降りてきて、ひょいっとシーヴを担ぐ。
「生け贄だ!」
わっとステージが盛り上がる。
鍵盤を見つめていたユリアが視線を上げる。
紅い瞳と緑の瞳が一瞬交差した。
●screaming of the Heart
「しかし凄い度胸だな。大体の奴はアレをすると泣きわめくんだが」
おかげで今回盛り上がりに欠けたけど。とイ・ジョンが言う。
過激なパフォーマンスに強制参加させられたシーヴ。
その甲斐があり、ライヴ後4人は楽屋に招かれていた。
ハバキは外で待つと言ったが、フィフィはどうやらハバキが気にいったようで楽屋に無理矢理引っ張ってきていた。
「お兄さん可愛いわね。今夜付き合わない?」
ちゃっかりハバキの腰の上に座っているフィフィ。
腕をハバキの首に回し、すりすりと豊満な体をこすりつけてくる。
「えーっと、俺は‥‥」
「あら、男の方が好きなの?」
なんだったら3人でも良いわよ。とお誘いをするフィフィ。
「か、彼女持ちです」
「ふ〜ん? まあ、そういう事にしておいてあげる。‥‥‥‥‥‥ところであんた達、何者?」
ハバキの懐からかすめ取ったアーミーナイフを素早く頸動脈に当てたフィフィが尋ねる。
「下手に動くとお仲間の首が、胴体とバイバイするわよ」
他のメンバー達の手にも銃やナイフ、武器が握られていた。
「綺麗な悪夢は魅力的なモンだぜ‥‥悪夢が現実を浸食しちゃいけねぇケドな」
アンドレアスが苦笑する。
「ここじゃあ武器を携帯しているやつなんて珍しくないけど、あんたらは何か違う」
「敵じゃない。人を探しているだけだ」
「そんな事を言って信じられるかよ。この町では行方不明なんてザラだ。俺達には関係ない」
「3日前キースの乗っていった車の行き先を教えてくれ。頼む、ファンのために協力してくれねぇか」
キースという言葉に動揺が走る。
「‥‥ファンを大事にしないバンドは、すぐ潰れるぜ?」
「ファン? ファンか! あいつらに俺達の、音楽の何が判る。俺達にとって‥‥あいつらは『道具』だ」
吐き出すようにタカシが言う。
「なんだと?」
「‥‥あんたらの武装解除させてもらう」
イが武流とアンドレアス、ユリアがシーヴに近付く。
『合図‥したら‥目をつぶって‥‥』
ユリアの杖が机に引っ掛かり、転ぶ。
その瞬間、部屋の中に白光が広がる。
照明弾が破裂したのだ。
「こっちよ!」
光の中に大きな翼が見える。
声にシーヴ達が続く。
「くそ! 能力者か!」
●the crime of Hiratsbasa
「ユリア、ビーストマンでありやがるですか‥‥」
裏路地を歩く服を突き破り、ユリアの背中に蝙蝠の翼が生えていた。
片翼だけの翼。
「なんで助けてくれた?」
「なんとなく‥‥悪い人に‥思えなか‥ったから‥‥です」
「Tack.」
シーヴがスエーデン語で礼を言う。
タカシを許してやって欲しいというユリア。
「タカシは‥真面目‥すぎる‥‥です。‥‥‥‥皆‥‥不安‥だから‥‥‥本当は‥道具‥なんかじゃない‥って‥思って‥いる‥‥でも‥そう‥思った方が‥楽‥だから‥‥‥」
「キースがいない事と何か関係があるのか?」
答えないユリア。
「ユリア、話して欲しいです。キース迎えの車に、余分な荷物が入ってやがったんです」
「さっき‥言っていた‥‥ファン‥の‥子?」
噂は聞いていると言う。
「バンドの不利になる事は、しねぇと約束するです。それだけじゃダメでやがるです?」
「その子の家族から依頼を受けて俺達は来たんだ」
「家族‥‥」
「キースの迎えに来た車に乗り込んだ所迄は、足取りが判っているんだ」
暫く写真を見ていたユリアがぽつりと言う。
「多分‥この子‥‥キースと‥一緒‥‥です」
ユリアから教えられたスポンサーの屋敷にやって来た能力者達。
「でかい‥‥」
「実力行使に行くか、交渉で行くかですが‥‥」
「女の子を誘拐する奴に情け無用です」
「平和的解決が一番ですが‥‥親バグアは能力者相手でも襲って来る人達です」
「んじゃあ、覚醒して突入って事で‥‥」
それでもなるべく素手で行こうと言う事になる。
門から屋敷迄の間にガードマンらしい男達を蹴散らかし屋敷内部に突入する。
広いエントランスに大理石の階段、見るからに高価な調度品が並ぶ。
あっけに取られる能力者たちの前に上品なスーツを着た初老の男が進み出る。
「当宅に何かご用ですか?」
「ここにいる『楼 桜梨』を帰してもらおう」
「『楼』様‥‥そのような方はこの屋敷に御逗留頂いておりません」
「俺達は家族から捜索を依頼されて来たんだ。ここにいる事は判っている」
「そうおっしゃられましても‥‥」
老執事との押し問答が続く。
「多分、俺と一緒に来た子だよ‥‥‥」
赤いシルクのガウンを纏った長い黒髪をした少年が階段の上から言う。
「これは、キース様。そのようなお姿で歩かれては‥‥」
「誰も呼んでも誰も来ないからだよ。水、部屋に持ってきて‥‥」
ピッチャーを老執事に渡す。
「あの子の家族が探しているのなら引き渡してもいいんじゃない? 俺から李さんには言っておくから‥‥」
どこか雲の上を歩いているような足取りのキースの案内で広い廊下を案内する。
「捕まっていたんじゃないのか?」
「違うな、自分の意思でいるよ。あの子もね‥‥」
まあ、あの子は俺がいるからいるんだろうけど‥‥結構、楽しそうだよ。
「そういう態度はないだろう」
腕を掴まれたキースが苦痛を訴える。
「っつ‥‥」
腕には無数の注射痕が残る。
良く見れば目の周りが熱があるように赤く染まり、瞳が潤んでいた。
「ヤバい薬を打たれているのか?」
「お前ら‥UTLの能力者には関係がない事だ‥‥」
「なんで俺達がUTLの能力者だと?」
キースが超機械を指差す。
「こんなの持っているのは能力者だけだ。それに李の屋敷に突っ込んで来る馬鹿は、大体余所者だ。余所者は余所者らしくさっさと仕事をして帰れ。邪魔だ‥‥」
「あんた、バグアの内偵をしているのか?」
「もしそうだとしても、お前らには関係ない事だ‥‥」
それ以上キースは何も答えなかった。
こうして保護対象『楼 桜梨』と接触した能力者達だったが、あっさり本人からの帰宅拒否にあう。
綺麗な服や温かい美味しい食事が出て、何よりもキースのいる屋敷から帰りたくないと駄々を捏ねる『楼 桜梨』は家族の元に帰る事に同意しないでいた。
結局「2、3日したら帰るからライブハウスで会おう」とキースに言われて渋々帰る事に同意した。
捜索に参加した能力者は楼 桜梨を連れて帰る事には成功したが、色々遺憾が残る結果となった。