タイトル:ヤンママ刑事Aマスター:有天

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/04/13 00:11

●オープニング本文


 インドにあるダルダ財団が抱える子会社の一つ、映画館にフィルムを下ろしている小さな制作会社の会議室、企画室長兼プロデューサーで、ついでに脚本家や編集もしたり‥‥‥はっきり言えば、1人で数個兼務しているパナ・パストゥージャは、疲れ切った表情で天井を見上げていた。
 先日、友人であるS・シャルベーシャ(gz0003)の事務所に持ち込まれたアイデアを元にしたフィルムの編集を終わらせてテープを営業に渡した所だった。

 能力者達が考えてくれた台本は面白かった。
 だが、3時間の大作に匹敵する台本の内、採用されたのはフィルムの3分の1‥‥‥つまり60%以上がボツになったのだ。
(「今度撮る時は、上に言ってデジタルカメラを買って貰おう‥‥でもフィルムの方がロマンなんだよな」)
 山積みされたフィルムの束を見ると悲しいよね‥‥。
 そんな事を考えるパナ。

 視線を逸らせば「次にでも使え」とシャルベーシャが置いていった企画書がある。
「『ヤンママ刑事A』ねぇ‥‥」

 あらすじは、こうである。
 インドの南部、とある街に『かなり』やんちゃな少女がいた。
 少女は、曲がった事が大嫌いだった。
 曲がった事をする奴等には、幼い頃から両親から仕込まれた怪しげな拳法で叩きのめし、良く軍警察にお世話になっていた。
 そんな少女を補導した事がある警官(能力者)と、運命の悪戯か、少女は恋仲になってしまう。

 少女の両親は(自分達の事を棚に上げ)、少女が女の子らしくなる事願って、
 そして警官の両親は、年下の少女に手を出した責任を取れと二人を結婚させてしまう。
 親の思惑は兎も角、幸せに新婚生活を送っていた二人──。

 少女が子供を妊娠した事を知ったその日、不幸は起こった。
 親バグアの摘発に向かった夫の警官は、現場でキメラに襲われ殉職したのだ。

 嘆き悲しむ少女だったが、お腹には死んだ夫の忘れ形見がいる。
 強く生きる決心をした少女。
 女の子を無事出産し、夫を忘れないようにと、受けた適性検査で適合者と判明する。
 能力者になった少女は、軍警察に協力して親バグア摘発に情熱を燃やすのだった。

「と、ここまでが前振りだ」
「長いですね。それに後半がないようですが?」とパナ。
「たまにはお題を与えず自分達で、考えさせるのも面白いだろうと思ってな」
(「無責任だなぁ‥‥」)と、ちょっと思うパナ。
「‥‥じゃあ、フィルムで撮るのは、出演者である能力者達が考えた台本部分ということですね」
「そうだ。長過ぎたり、不自然だったり、映倫にひっかかりそうな場合は、心を鬼にしてまたカットしろ」
「簡単に言ってくれますねぇ‥‥」
 また、アドバイスぐらいはしてやるよ。と、シャルベーシャ。

「しかし、ヤングなママで『ヤンママ』ですか。『刑事』も判りましたけど、『A』っていうのは?」
「若い女性ばかりだった場合は、『同僚のヤンママ刑事BC‥‥』としてもいいし、中高年の刑事がいた場合は未成年なのと、あくまでも『協力者』と言う立場だから『仮名(A)』だ」
「‥‥アバウトというか‥‥今回の打ち合せは、大変ですね」
「まあ、舞台や映画、ドラマを良く見ている奴は、それなりに思いつくだろうが、全くそういう心得がない奴は自分の受けた依頼やLHの資料室で過去の報告書を漁って、想像力を働かせる必要があるだろうな」
 楽しそうにシャルベーシャは言った。

●参加者一覧

ケイ・リヒャルト(ga0598
20歳・♀・JG
青山 凍綺(ga3259
24歳・♀・FT
蓮沼千影(ga4090
28歳・♂・FT
阿木 慧斗(ga7542
14歳・♂・ST
アンジェリカ 楊(ga7681
22歳・♀・FT
穂波 遥(ga8161
17歳・♀・ST
リュウセイ(ga8181
24歳・♂・PN
ヨシュア(ga8462
21歳・♂・DF

●リプレイ本文

 今回の傭兵たちのアイデアは面白いもの、そのまま使うと映倫というよりも軍と警察からクレームが来そうな様々な部分もあった。慌てて継ぎ足し撮影された部分もあり、予想以上のフィルム量になってしまった為、何時ものように眠れぬ日々をすごしたパナ。
「回想シーンの一部をOPに回して‥‥ブツブツ‥‥戦闘シーン、カァァァーーーット!」
 ジャキン!
 心を鬼にしてフィルムに鋏を入れる。
「頑張れば今晩は寝れるだろう」
 S・シャルベーシャ(gz0003)がのんびりと言う。
 こうしてムンバイの夜は更けていくのだった──。


●CAST
 A(シータ)‥ケイ・リヒャルト(ga0598
 ソーマ‥‥‥‥阿木 慧斗(ga7542
 ハルカ‥‥‥‥穂波 遥(ga8161
 ボス‥‥‥‥‥ヨシュア(ga8462

 アイシュ‥‥‥アンジェリカ 楊(ga7681
 アーミル‥‥‥リュウセイ(ga8181

 トーキ‥‥‥‥青山 凍綺(ga3259
 カマル‥‥‥‥蓮沼千影(ga4090

●ヤンママ刑事A
 ──テロップ。
『これは僅か16歳で妻となり、17歳で母であり未亡人になった少女の話である。
 同年代の少女に比べ早い結婚であったが、周りに祝福され、
 優しい夫と子供に包まれ幸せな新婚生活を過ごすはずだった少女シータが体験した物語である。
 夫を失い、悲しみに暮れる少女は愛する子供と友を守る為、
 涙を拭い、今日もバグアという悪に敢然と立ち向かうのであった。

<メインテーマ曲 ヤンママ刑事A:
 ロックテイストにアレンジされたナンバーにシタールが重なる。
 踊る警官達の映像に重なるようにソーマを庇い、不良相手に立ち回りをするシータとトーキ、
 カマルに補導されるシータ、結婚式、殉職したカマルの亡骸に縋って泣くシーン等、
 シータを取り巻く環境が昔から今へと流れて行く。

 殺風景な警察特務課の部屋に佇むシータ(A)のアップ。
 黒い喪服のようなワンピースに身を包んだAが机に置かれた拳銃を取る。
 後ろにボスと同僚のハルカの姿。
 2人のアップが上下に流れる。

 街を歩くシータの側を楽しそうに笑い歩くソーマ、静かな微笑みを浮かべるシータ。
 赤ん坊を抱えたトーキの姿が、フラッシュのように画面に割り込む。

 カメラに向かってトリガーを引くA。
 銃声と共に銃弾を受けたように映像にヒビが入り、オープニングタイトルが表示される>

<<時限爆弾>>
「今日も来ないか‥‥」
 主のいない机を見つめるボス。
 ボスと言ってもこの特務課は、たった3人である。
 自分と秘書兼事務方のハルカ、そしてCodeA(シータ)の3人で構成されていた。
「ボス、しょうがないですよ。Aには、赤ちゃんがいるんですから。それにAの存在は、警察内部でもシークレット中のシークレット、そんなに本部には来れませんよ」
「それは判っているんだが‥‥」
 残念そうに溜息を吐くボス。
 この制服が似合わない若い上官の判りやすい行動に思わず苦笑するハルカ。
「そんなに気になるなら迎えに行けばいじゃないですか」
「‥‥うん、そうだな。職質だと言って連れてくればいいのか」
 ブッと吹き出すハルカ。
(「駄目だわ、これは」)
 調書の影で笑いを堪える。

 そんな中──、
『入電! 親バグア派を名乗る人物より署内に時限爆弾を設置したと言う予告電話を受信。至急署員は緊急マニュアルに従い、市民の避難誘導及び不審物の確認対応を願います』
 構内放送が爆破予告時刻を告げる。
「御丁寧に爆破予告か、舐めやがって‥‥ハルカ、緊急コールだ。俺は爆弾を探す!」
「はい!」
 無線に走るハルカ、思い出したようにボスを振り返る。
「あ、ボス。その時計10分遅れてますよ。気をつけて下さいね」

 高いビルの屋上から警察本部を見下げる人物が2つ。逆光でその姿は、はっきりと見えない。
「私たちの邪魔をする軍警‥‥みんな、吹き飛んでしまえばいいわ」
 くくく‥‥どこか幼さを残した女の笑い声が響く。

 ──自宅アパートで何も知らず赤ん坊をあやしているシータ。
 トーキが、ミルクを暖めている。
 甘いミルクの香りが漂う小さな幸せの空間。
「姉貴、大変だよ! 警察署に爆弾だって!」
 ノックもそこそこに街の情報屋でシータの子分であったソーマが部屋に飛び込んで来る。
「何ですって?!」
 そんな中、ハルカからのメッセージが届く。
『こちら、ハルカ。A、緊急出動願います‥‥』
 シータがトーキとわが子を振り返る。
 赤ん坊を抱き、微笑むトーキ。
「何も心配いらないわ。思うようにやってきなさい」
 姉の言葉にソーマと一緒にアパートを飛び出して行くシータ。
「ソーマ!」
「OK、誰が爆弾を仕掛けたか調べるよ!」

 ──トイレで爆弾を発見したボス。
「軍警にこんなもんこしらえてくれるたぁ、敵さんもなかなか良い度胸してるぜ‥‥」
 四隅に着いたネジをナイフで外し、ゆっくりと箱の蓋を開ける。
「感知式と振動式のダブルね‥‥手が込んでいるな」
 ゆっくりと蓋を戻し、駆け付けてきた爆弾処理班に場所を明け渡すボス。

 ──屋外にある緊急階段。
「犯人は?」
「親バグア派を名乗っているテロリストだ」
 ボスの言葉にギリ‥‥と唇を噛むA。
「姉貴、聞いて。敵の居場所を見つけたよ!」
 Aの姿を見つけて、ソーマが駆けて来る。
 ‥‥が、ボスの姿を見て、慌てて己の口を両手で塞ぐ。
「彼は大丈夫よ。場所が分ったの?」とAが言う。
 ソーマによれば下町の情報網にテロリストの足取りを知る男に繋ぎを取ったのだと言う。
「早すぎないか?」
「おいらの情報網が信じられないっていうの?」
 別にあんたに信じて貰えなくても良いけど。と頬を膨らませるソーマ。
「ソーマの情報網は、確かよ。それに罠でも敵に繋がるものなら確かめるだけよ」
 瞳の奥を怪しく光らせAが言う。
「お前は無茶をしすぎるからな‥‥たまにお前の上司でいるのが恐ろしくなるよ」
 苦笑し乍らボスが言う。
 だが、すぐ真顔になりAに命令するボス。
「A、敵のアジトの壊滅または首領を確保を命じる!」
「了解」
「おいらも一緒に行くよ!」
 ソーマが元気よく言う。
「ありがとう、でもあなたはまだ子供よ。危険すぎるわ」
 そうAに言われ、渋々着いて行くのを断念するソーマ。

<<光と闇>>
「敵のアジトが判明したのに‥‥早く行った方がよろしいんじゃないんですか?」
 ハルカが机に座ったままのボスを見乍ら言う。
「そりゃあ彼女たちの方が先にアジトを見つけたり‥‥でも、ここは素直にAの‥‥」
「オレが気にしているのは、何故、Aの方にばかり情報が入るのか、だ」
 痩せても枯れても警察のネットワークに掛からない、警察本部に爆弾を仕掛けるようなテロリストが街の情報屋の情報網にその日の内に引っ掛かるのが解せないと言うのだ。
「ハルカ。Aの、シータの過去を洗い出せ」
 ハルカが、ボスをジト‥‥と見る。
「スケベ心じゃない。誰かがAを罠に掛けようとしている可能性がある。彼女に関わった人物で親バグアと関わりがある人物を捜し出せ、大至急だ」
「はい!」
 ハルカが警察本部にあるデータベースの検索を始める。

 ──街を歩くA。
 誰かに尾行されている気配を感じ、裏路地の袋小路へと向かう。
 尾行者を誘い込むはずが、袋小路に手下を従えた1人の少女がAを待っていた。
「旦那は死んだそうね。いい気味だわ‥‥」
 黒い瞳がAを睨む。
「私のこと覚えてる?」
 少女が振った鞭がAの手首に絡み付く。
「貴女は、誰?!」
「覚えてない? ‥‥ふざけるんじゃないわよ! あの時、私に蹴り倒されて這い蹲ってたクセに!」
 少女の言葉にAの瞳が大きく見開かれる。
「貴女‥‥アイシュ?」

「ボス、1人該当者がいます。名前は『アイシュ』。A‥シータより1つ年上の18歳です。過去にAと敵対するチームのリーダーをしていたようですが‥‥二人は一時、同じ更生施設にいた様です」
<回想シーン:幼い頃のアイシュとシータ、そしてトーキが並んでシャボン玉を作っている。
 だが、成長した2人。チームの争いで血を流す2人>

 ──武器を取り上げられ、敵のアジトに拉致されるA。
「‥‥あの時はちょっと人質もいたけど、実力は私のほうが上よ! そして、今もね!」
 アイシュの部下に押さえ付けられ、身動きが取れないAに容赦なく鞭を振うアイシュ。

<似て非なるモノ:シータが1人、己と違う光差す道へと進む事への恨みと憎しみを歌い上げるアイシュ。アイシュの後ろで手下達が踊るハードナンバー>

 Aに鞭を振うアイシュ。
「あはははは! もっと踊りなさいよ!」
 痛みから気を失うA。
「ふん‥‥この程度? つまらないわ。兄さんが相手してよ」
 高笑いを残し、部下を引き連れ立ち去るアイシュの背を見つめるアーミル。
 溜息を1つ吐く。
「‥‥悪く思わんでくれよ」
 すらりと鞘から刀を抜くアーミル。
「そうはいかないわよ!」
「ぐあぁっ!」
 ハルカの超機械一号の電磁波がアーミルの手を打つ。
「ちっ‥‥仲間か!」
 多勢に無勢、Aに援軍が来た事をアイシュに報告すべくアーミルが退く。

<<死線>>
「大丈夫か?」
 ボスがAの体を抱きかかえる。
 呻き声を上げ、目を覚ますA。ボスの手を払い、己の身を抱える。
 痛むのは体だけではない──。
「アイシュ‥‥‥」
<夢の如く:シータとカマルの歌>
 カマルとの幸せな過去の日々を思い出すシータ。
 だが、一瞬で世界が赤く染まる。
「‥‥‥でも‥親バグア派は許せない」

「あいつに味方ですって? それでおめおめ兄さんは逃げてきたの?!」
「そういう訳ではないが‥‥相手は3人とは言え、能力者だ」
「何処迄も忌々しい女‥‥」
 爪を噛むアイシュ。
 アーミルの気持ち等、言っても恐らく今のアイシュには通じないだろう。
「こちらに能力者がいない以上、体勢を整えて数で押さえ込むしかないだろう」
 俺ももう1度出る。と言うアーミル。
 能力者と言えども万能ではない。練力を使い覚醒する事により潜在能力のリミットを外した超人的な力とSESを利用して特殊能力を振えるが、覚醒出来る時間は限られているのだ。
 地の利のあるテロリスト達は、じわじわと特務課の3人を押す。

<<白い鳥>>
 ──風がカーテンを弄び、パタリとキャビネットに並んだ写真を倒す。
 赤ん坊を抱えたトーキがそれを直す。
 ソーマとカマル、そしてトーキが並んで写る写真である。
 ヒビが入った写真立てを不安げに見つめるトーキ。
 そんなトーキにソーマが声をかける。
「大丈夫。おいらは姉貴の事信じてる。いつだって姉貴はおいら達の事大事にしてくれてるじゃないか!」
「そうね‥‥」
<トーキの歌:雲の上 空の彼方にいるあなた どうか護って あなたの愛しいあの娘を>

 常人乍ら能力者相手に二刀流を振い、拮抗するアミール。
「頑張るわね‥‥あいつらを皆殺しにしたらバグアは私に特別な力をくれるかしら?」
 監視モニタを見つめ、怪しい笑みを唇に浮かべるアイシュ。
「私を無下にした人間達‥‥みんな纏めて道連れに、消えて無くなれ!」
 アイシュがアジトに仕掛けられた起爆装置のスイッチを押す。

 緊急灯が点滅し、爆発へのカウントダウンが始まる。
 親バグア達の攻撃が増々激しくなり、絶体絶命の特務課。
「‥‥どうすればいいのッ?」
「ここは俺達に任せて行け、A!」
「でも!」
「A、じゃなければアイシュを止められません!」
「あたしには何も出来ない‥‥!」
「俺達を、仲間を信じろ! お前には守るものがあるだろう!」
<白き鳥よ:

 あなたは白くしなやかな鳥 さあ、はばたきなさい
 あなたを護るひとが いつも空からあなたをみている

 歌声に重なるようにソーマ、赤ん坊を抱くトーキの姿、そして微笑むカマルの姿が写し出される>

『僕の分まで、幸せを掴んでくれ‥‥』
 カマルの声が聞こえたような気がするA。
 わが子を想い、小さく呟くように、しかしハッキリとした口調で「ママは‥‥死なない!」とAが言う。
「幸運を!!」
 仲間の言葉に押され、単身アイシュを追うA。
 それを見て、Aを追うアミール。
 足留めしようとするボス達だが、親バグアの妨害でアミールを行かせてしまう。

<<ずっと‥‥>>
 施設のあちらこちらから炎が上がっている。
「仲間を見捨てて何処に行くつもり?」
 通路に立つAがアイシュに問う。
「仲間? あいつらは駒よ。私が力を得る為のね」
 嘲笑うアイシュ。
「力は私を裏切らない。そして力のある私を誰も無視出来ないわ。能力者の力を得たシータなら判るでしょう?」
 アイシュの言葉に眉間に皺を寄せるA。
「‥‥貴女は可哀想な人ね」
「何ですって!」
「何故、周りを見ないの? 貴女は1人じゃないのに。貴女にも在るわ、あたしと同じモノが‥‥」
 アイシュの立っていた足下が破裂して火柱が激しい上がる。
「危ない!」
 叫び声と共に後ろに突き飛ばされるアイシュ。
 代りに炎に包まれるアーミル。
「兄さん!」
「もう強がりはよせ。お前は‥‥もう、戦うな。俺がお前を守っ‥‥」
 激しい爆発が起こり、目の前を激しい爆風が通り過ぎる。
 床を穿つ大穴が二人の間にポッカリと広がっていた。
 ぺたりと床に座り込み呆然と穴を見つめるアイシュ。
「そんな‥‥兄さん‥‥」
 アイシュの目に遠い昔に無くしたはずの涙が溢れた。
 激しく燃えさかる施設。
「アイシュ、早くこっちに!」
「私‥1人じゃなかった‥‥ずっと‥‥傍に‥‥兄さん‥‥ずっと傍で‥‥見守ってくれていたのに‥‥なんで‥私‥‥気が着かなかったの?」
「アイシュ!」
 激しい炎と黒煙に咽せ乍らAがアイシュに腕を伸ばす。
 憑き物が落ちたようなあどけない表情を見せ、首を振るアイシュ。
「もう、ここにはいられないわ‥‥」
 失ったものの大きさに、無理やり笑顔を浮かべ、通路の奥へと消える。
「アイィィシュ!」
 Aの叫び声が炎に包まれる。

 建物の崩落から逃げ出すA──。
 建物の外で待つハルカとボスがAの無事を祝う。
 いてもたってもいられずアジトに駆け付けたソーマがAに飛びつく。
 激しい爆発を繰り返す建物をバックに歩き出す4人。
 赤ん坊を抱いたトーキが空を見上げている。
<護りたいもの:特務課のメンバーを中心に登場人物全員による群舞。シタールの響きに激しく力強く踊る出演者達>

 ──エンドロールが流れ、エンディングテーマが流れる。
 ボロボロのマントを纏い、彷徨うアイシュの姿。

 エンディングテーマが消え──。

 ──そして、何処かの路地が写し出される。
 置かれたゴミの山に何かが凄い勢いで落ちて、弾き飛ばされたスチールの蓋が転がる。
「くっ‥‥」
 ゴミの山から這い出す髪がチリチリに焦げてはいるが、白い鉢巻だけがやけに輝く男、アーミルである。
 呆然と見つめる子供に向かって「臭うか?」と聞くアーミル。
 コクコクと頷く子供。画面は暗く反転してフィルムは終了した。