●リプレイ本文
ひらひらと舞い落ちてくる桜のはなびらに向かって口をパクパクしている相良・裕子(gz0026)を見つけたのは、二番手に現れた進だった。
「‥‥‥何してんの?」
「はなびらが綺麗でお菓子みたいだから‥‥相良は食べようと思ったんだよ」
「ああ、そう」
これは、噂に違わず凄いものをナンパしたかもしれないと思う進。
「そうだ。相良、忘れない内に渡しておくよ」
ガサゴソと紙袋から『ぴこぴこハンマー』と黄色いアヒルの玩具を取り出し、裕子はにっこりと笑った。
「今日は素敵な宝を見つけ出して特等花見席を勝ち取るよ!!」
お揃いの狩衣を着ている愛紗・ブランネル(
ga1001)と相棒のはっちー(パンダのぬいぐるみ)がやって来た。
「パンダ‥‥プレゼントなのかな?」
「はっちーは、愛紗のお友達でプレゼントじゃないよ」
プレゼントは、こっち〜♪ と『カウボーイハット』を差し出す愛紗。
「だよね。サンキュー、愛紗ちゃん」
(「花見も二回目ですね‥‥」)
ふっ‥‥っと散り掛けた桜を見て、思う鳴神 伊織(
ga0421)。
人数分のお弁当と『こねこのぬいぐるみ』が入った紙袋は腕に重いが、苦ではない。
(「今は長い休みの最中だと思った方が良さそうですね。これが終わればまた忙しくなるでしょうし‥‥」)
詳細はまだ発表されていないがUPC軍がヨーロッパで大規模な作戦を計画している旨、聞き及んでいる。
──この後も強く戦えるように思い出に残る様な、楽しい日になればいい。
そう思うので伊織であった。
待ち合わせ場所の駐車場に皆が立っているのが見える。
「お待たせしました」
黒のフロックコートに三揃いのスーツ、中折れ帽を被り、革手袋、白いカフスシャツにロングマフラー、紅のタイとポケットチーフ、銀で揃えたカフスとピン。トレードマークのコーディネイトに身を包むUNKNOWN(
ga4276)。
只一つ違うのは、紫色の風呂敷包みを1つ抱えている所だろう。
風呂敷の中に水色のリボンで飾られた『【Luneria】サテンネットインナー』が厳かに入っている。
(「ふっ‥‥たまには、桜を見てのんびりもいい‥‥」)
バーで声を掛けてきた見知らぬ男(進)の言葉に乗ったのもそう悪くない。そう思うUNKNOWNだった。
「――!?」
後ろに着いて来る気配にふと気が着く。
案内図を見るフリをし乍ら盗み見ると警邏の制服を着た警察官2名である。
(「何故、追いかけてくる‥‥‥いや、思い当たるフシが多すぎるな」)
それともこれは運命なのだろうか?
昨夜会った男(進)は、『あの』相良・裕子も参加する。と言っていた。
UNKNOWNの中に『相良・裕子=警察』の構図が出来つつあった。
(「‥‥何にしても、このままではあるまじき遅刻をする事になるな。どうするか?」)
次にやってきたのは、石動 小夜子(
ga0121)と新条 拓那(
ga1294)の二人であった。
「こんにちは、相良さんは初めましてですね。よろしくお願いいたします」
ぺこりと頭を下げる小夜子。
「こちらもよろしくだよ」
「山崎さん、電話でお話した新条さんです」
「どうも、新条です」
「俺が山崎だ。進っちって呼んで♪ よろしく!」
進の辞書には『人見知り』という文字は欠落している。
「いかにも贈り物という風情で良いと思うのですが、受け取った方は喜ばれるでしょうか?」
「全然、大丈夫。小夜子ちゃんからのプレゼントを嫌がるやつなんていないよ?」
小夜子から『香水』、拓那から『ハイヒール』を受け取る進。
「しかし、小夜子ちゃんとこんなに早く会えるなんて♪ 俺達、運命?」
進に両手を握られた小夜子がビクッとする。
「‥‥うっ」
引きつっている小夜子と拓那。
手を放す進、ほっとした表情を浮かべる小夜子と拓那。
再び小夜子の両手を握る進、引きつる小夜子と拓那。
手を放す進、ほっとした表情を浮かべる小夜子と拓那。
再び小夜子の両手を握る進、引きつる小夜子と拓那。
手を放す進、ほっとした表情を浮かべる小夜子と拓那。
──以下略。
「へえ〜っ‥‥‥」と言うと二人を見比べる進。
「(小夜子ちゃんがコクったの? それとも彼から?)」
こそっと、小夜子に耳打ちする進。
頬をまっかに染める小夜子。
「ふぅ〜〜ん?」
ニヤニヤと笑う進。
「小夜子ちゃんって可愛いよね〜。手も女の子らしく柔らかいしさ〜。まあ、あれだ。今日は良いお天気でデート日和だし、今日は二人とも楽しんで行ってよ」
バシバシと拓那の背中を叩く進。
そんな春らしい甘酸っぱい青春の日の雰囲気をぶち壊すように黒いつむじ風(UNKNOWN)が城の方へと駆け抜けて行く。警官らもUNKNOWNに振り切られないように必死に追い掛けて来る。
「――また逢ったな、相良」
置き土産とばかりにUNKNOWNが投げた風呂敷が進の顔に炸裂する。
バタリと倒れる進。
「‥‥ナイスヒットだよ」
「それを言ったらナイスピッチング」
裕子に突っ込みを入れるのは、馬のゴムマスクを被っているリュウセイ(
ga8181)。
『トランシーバー(無線機)』の提供者である。
「ウマウマ♪ ひひーん!」
「取り敢えず山崎さんは、昨日の内に番号が書かれたカードの入った箱を隠したんですよね?」
「相良は、そう聞いているよ」
「じゃあぼちぼちスタートした方がいいだろうな」
お宝探しと一緒に花見とお城見学がゆっくりできるように2時間半後に集まる事を約束をする。
ぞろぞろとアスファルトに倒れたままの進を放置し、参加者達は地図を片手に散って行った。
「シクシクシク‥‥ひでぇよ〜、誰か介抱してくれよ〜」
ちょっぴり涙が塩っぱい進であった。
●宝探し
「まあ、鎧武者が‥‥」
頬当御門にやってきた一行を迎えるのは、鎧を纏い槍を構える門衛である。
天守閣が真ん中に、門と門衛が上手く入るように写真を皆で交代に撮ったりと盛り上がる。
そんな門を支える柱の根元にちょこんと海賊の宝箱を思い出させる小さな箱があった。
伊織が蓋を開けると『7』と書かれたカードが入っている。
「ラッキーセブン。いきなり当たりましたね‥‥幸先がよろしいです」
にっこりと笑う伊織だった。
首掛け石。加藤清正の首を狙う青年が花岡山から首にかけて運んできたと伝えられUの型をした大岩である。
凹みの部分にちょこんと宝箱が置かれている。
「──これか」
警官を躱し、それを掴んだUNKNOWNは走り乍ら器用に箱を解体して行く。
バラバラとネジが後ろへと飛んで行く。
ちなみに蓋にカギは掛かっておらず簡単に開くのだが、ゆっくり見る事が出来ないUNKNOWNには無理な相談である。
「――ふっ‥‥可愛い物を」
可愛らしい手書きの桜の絵が描いてあるカードに『2』と書いてあった。
「三の天守」と呼ばれる宇土櫓に入った裕子。
先に入っていたリュウセイが石落としを調べているが「はずれ」らしい。
上の階に上がろうとした裕子が、ふと見れば階段の脇にも宝箱がある。
「‥‥相良は『8』番ゲットだよ」
かつて熊本城には120もの井戸があったと言う。
そこに隠れ警官達をやり過ごそうと思っていたUNKNOWNであったが、現在転落防止の為に井戸の上には強固な網が張らている。
「――謀られたか‥‥」
だが逆にお目当ての宝箱は、簡単に見つかった。
幸いにも警官達を撒く事には成功したようだ。
UNKNOWNは手術に取りかかる外科医のように手袋をはめ直し──。
「では、2つ目に取りかかるか‥‥」と呟いた。
一番乗りで天守閣に上がった愛紗。
このままお宝をゲットしたいところである。
双眼鏡を片手に四方八方、城下を見下ろす。
一番景色の良い場所を見つけた愛紗は、手摺ギリギリまでやって来ると「えっへん」と胸を張り、足を踏ん張り、一言。
「天下を取ったぞー、オー!」と両手を空へと突き上げる。
ふと見れば手摺の下に宝箱があった。
「ちぇっ!」
塀に設けられた狭間で空の宝箱を発見したリュウセイ。
箱を元に戻し、立ち去ろうとしている所に警官に追われたUNKNOWNがやって来る。
「はずれだぞ〜。あははははは」と笑うリュウセイ。
「そうか」とコートを翻し、UターンをするUNKNOWN。
「おい、それだけかよ!」
地下1階、地上1階という変わった構造を持つ本丸御殿。
復元されたばかりだと言う大広間は、畳の匂いも清々しい。
「すごーいね、はっちー。愛紗もこんな広い所で寝転び乍らお団子を食べてみたいねー‥‥‥あ!」
襖の脇にちょこんと置かれた宝箱を発見した愛紗。
蓋を開けると『6』と書かれたカードが入っている。
「やったー! 宝、ゲットだぜ!」と右手に前に出しキメポーズをする愛紗だった。
242mもあるという長塀の上に桜が咲き誇る。
先程見つけた宝箱は空だったが、それが気にならない程みごとな桜である。
(「こういう所は誰かと歩いた方が楽しいだろうな」)
肥後六花へと向かっている伊織が見えた。
「伊織、もうお宝は見つけたか?」
そう声を掛けるリュウセイだった。
「ありゃま、空っぽ。やっぱそう簡単には見つからないか〜」
銅像メインに探す事にしている拓那の捜索範囲は、本城全域に渡る。
先程は、天守閣入り口に置かれていた谷村計介銅像の足下にあった宝箱から『3』のカードを見つけていた。
「よっしゃ♪ 大当たりー!」と、はしゃいでいたかと思えば、天守閣からの眺めに「一流の絵画みたい。普段は見上げてばかりだから、こういうお花見は新鮮だね〜♪」と感嘆していた。
小夜子は、大銀杏など様々な場所を探していたが今の所「あたり」がなかったが、拓那と2人で色々な場所を一緒に探すのは楽しいと思った。
(「もしかしたら、これが神様がくれた『あたり』なんでしょうか?」)
そんな事を思う小夜子。
「花畑屋敷と清正公銅像は、堀の外か‥‥一緒に行こうか」
拓那と小夜子がてくてくと並んで道路を歩く。
「良いお天気で良かったよな」
「そうですね」
「疲れたんじゃないか? その荷物、俺が持つよ」
小夜子が大事そうに抱える大荷物を指差す。
「何が入っているのか、聞いていい?」
「お弁当を‥‥あの、新条さんの分もお弁当を作って来たんです」
「本当? お昼が楽しみだな」
こんなに簡単にOKしてもらえるのならば、勇気を出して拓那の好きなものを聞いておけば良かったと思う小夜子。
「じゃあ、もう一踏ん張り頑張ろう」
そういって小夜子と手を繋ぐ拓那。
花畑屋敷(現花畑公園)で小夜子は枝に隠れた宝箱を見つけた。
「『5』です」
無邪気に手を叩いて喜ぶ小夜子を見て、可愛いと思う拓那であった。
「『2』番、はっけーん♪ って、自分で隠したのを探すのって空しい‥‥真面目に空き箱回収しよう」
皆から事前に聞いていた探さない場所4箇所が進の担当であった。
●当選発表会
「久々ですから、上手く出来ているでしょうか?」
「伊織ちゃんのお弁当美味しいよ」
「卵焼き、マジ最高♪」
花見弁当を食べ乍ら色々な話をする参加者達。
ポンポンと手を叩いて進が注目するように促す。
「宴も酣(たけなわ)、お待ちかね。お宝発表って事で! 皆、1人1個ずつ数字はゲットしているかぁ?!」
「「「「おー!!」」」」
元気な返事が帰って来る中、1人浮かない顔のリュウセイ。
「俺は、全部ハズレだった。いや、天守閣で見つけたのは見つけたんだが‥‥」
これは『あたり』じゃないよなぁ? と、ジーンズの上に締め込んだ『【Roi Crois】ふんどし』を見せるリュウセイ。
「きっと神様からのプレゼントだよ!」
にぱっと愛紗が笑う。
「‥‥‥まあ、折角の神様のプレゼントだけど、幹事預かりって事で一先ず回収させてもらおう」
「そうなると、UNKNOWNさんが2個見つけたとか?」
「それはないな」と進。
「なんでかな?」
「それは、俺が2つ持っているからだ!」
ビシっと『4』のカードを見せる進。
「西出丸復元櫓群で見つけたんだよ。幹事が没収ってな事にしてもいいけど、それじゃあ折角用意してもらった相手に失礼だから、こいつはリュウセイって事で」
「ひゃっほーい! サンキュー、進♪」
進が番号を呼び、提供者が当選者にプレゼントを渡していく。
『1』香水:UNKNOWN
『2』ぴこぴこハンマー+アヒルの玩具(耐水性):進「海にでも行った時にでも使うかぁ?」
『3』ランニング:進「あ、それ俺から♪」拓那「‥‥へぇ! これはまたいいモノを」
『4』こねこのぬいぐるみ:リュウセイ「ヒューッ♪ 伊織、ありがたく貰っておくぜ」
『5』カウボーイハット:小夜子「素敵なカウボーイハットですね。ありがとうございます」
『6』サテンネットインナー:愛紗「アミアミのセクシービーム!」
『7』トランシーバー(無線機):伊織「まあ、すぐに使えそうなものが当たりましたね‥‥」
『8』ハイヒール:裕子「相良もBFが出来たら、デートで履かせてもらうよ」
「さて、問題はこの香水をどう旦那に渡すかだな」
「それなら大丈夫だよ」
裕子が指差す先に警官隊を引き連れたUNKNOWNが走っている。
「なんか、人数増えてないか?」
「そうだね」
香水の小箱をお弁当の紐で括りつけた矢を愛用の弓に番える裕子。
ぼやっとそれを見ていた進がハタっと気が着く。
「うわっ! 裕子ちゃん、やめ‥‥‥!」
UNKNOWNの目の前の地面に矢が刺さる。
一瞬、足が止まるUNKNOWNに好機とばかりに警官隊が飛びかかっていく。
「構えている時に近付くと危ないよ。相良、手元が狂って矢が刺さっちゃう所だったよ」
「いや、それもあるけど、そうじゃなくって‥‥」
裕子に何が不味いか得々と説明する進。
「おおっ、ガンバレー!」
「ふぁいとー!」
その脇でリュウセイと伊織が感心したように警官隊を蹴散らかし乍らもしっかりプレゼントを握りしめ、逃走していくUNKNOWNを応援している。
「良く考えたらLHで渡せばいいのではないでしょうか?」
「普通、そうだよな」
小夜子と拓那が並んで言う。
「相良は住所知らないよ」
「俺も旦那は、たまたま入ったバーで声を掛けただけだしな」
「って事は、山崎さんの管理不足ですね」
「俺かよ」
「罰としてお花見の後片付けを1人ですると言うことで」
「そんな事言わずに伊織ちゃん。手伝って、プリーズ♪」
「駄目です。それでは罰当番じゃなくなりますから」
にっこり微笑む伊織。
笑い声が絶えない中、プレゼンと交換会は終了した。
陽光、春麗らかなのんびりとした1日であった──。
尚、神様からの贈り物(使用済)は、こっそり神の代行者が余所見をしている間に幹事より返却された。
「あと10年もして彼氏とか出来た時に、セクシー下着かっぽーになる事を期待って事で」
こっそり笑う進だった。