●リプレイ本文
●巨大キメラVSメカKV
「メカって‥‥‥KVは元からメカでしょう」
「‥‥何か、どこかの怪獣映画で見たようなタイトルですね」
現在も噴煙を上げる火口を望める中岳展望台を含め阿蘇山は観光地である。
丁度ツツジの見頃と言うのもあって地元警察が張った規制線の手前には多くの観光客で賑わっていた。
KVオタが調べたのか、攻撃力が高い武器を搭載したバイパーやらディスタンス、ディアブロ、阿修羅等々鬼のような攻撃力を持つKVが揃ったのを知った地元は非常に楽観ムードである。
中にはキメラの蛹写真ポストカードや蛹煎餅等も売られていたが、その中でも強烈だったのが、観光協会が急遽設置した中岳から4km程離れた烏帽子岳展望台特設観戦会場に掲げられた大垂れ幕『歓迎 メカKV御一行様』『巨大キメラVSメカKV観戦席』である。
見た森里・氷雨(
ga8490)と九条院つばめ(
ga6530)は一瞬気が遠くなった気がする。
「先日の依頼で駆除した毛虫キメラは1m。今回は20m。となると、次は400m‥‥?」
「やめてよ。今だって充分怪獣で通りそうなんだから」
飯島 修司(
ga7951)の何処まで本気か判らないコメントに雪村・さつき(
ga5400)が突っ込む。
氷雨が事前に問い合わせた芋虫形状時の攻撃は「粘着糸を放出/突撃」ぐらいであったが、充分怪獣で通りそうである。
「蝶になったら毒鱗粉攻撃と羽根で起る風で岩を飛ばしたり、上空から体当りとか?」
「羽化すれば羽化前より強くなるのが世の常。周りにこれ以上被害を出す前に、早急に倒さないと‥‥!」
でもあれだけ期待されると双児美人を用意しなければいけなかったんじゃない?
と言うのは、鈴葉・シロウ(
ga4772)である。
「でも、こんなに巨大だともう蝶・綺麗とか期待する前に怪獣映画撮影しようぜ、って感じですよねぇ。真逆、この先で背びれ背負って口から熱線を吐くような巨大恐竜型キメラとか出てきませんよねぇ‥‥」
「それってちょっと笑えない」
シロウに突っ込みが入る。
「しかし、土壌汚染が心配って面でも射撃武器は制限だよね?」
ファルロス(
ga3559)が、真面目な顔をして言う。
美味しい野菜が食べられるのも綺麗な土壌があってのこと。
毎日元気に戦えるのは美味しいがご飯があるからである。
ガトリング等は撃ったら構造上、薬莢が自動排出される。
研究所で確認した事がないが、薬莢は強度の問題で今も昔も変わらない鉛入りが使用されている可能性は高いのだ。
「その点レーザーは大丈夫だよね?」
氷雨が心配そうに言う。
3.2cm高分子レーザー砲はカートリッジ方式である。
撃つ度にカートリッジを放出しなければいけないが、火薬で弾を放出していないから大丈夫ではないかと言う事になる。
「なにはともあれ、蛹状態で動かない今が絶好の機会。速やかに処理しましょう」
榊 刑部(
ga7524)が蛹の背中にうっすらと一筋の線が入っているのを見つけて言う。
「そうだな。動かない分、楽っちゃ楽だけどな‥‥ところでKVが離陸できそうな直線道路ってあるのかな?」
ユーニー・カニンガム(
ga6243)が側にいた警官に尋ねる。
羽化されたら飛行形態に変形して追撃したい所である。
「そうですね‥‥ここから3km南に下った県道111号線にならありますが、近くにはないですね」
困ったように警官が言う。
「うわぁ‥‥そうなると本当に羽化した瞬間までが勝負なんだ」
蛹キメラ相手にタイムアタック・トライアルである。
本物の蝶の羽化の瞬間は、大変か弱く見えるけど、キメラもそうなのかな? と、さつきが言う。
「あー‥‥質問。キメラが落下しても一番平気な場所って、やっぱり火口?」
「そうですね」
余りにもお約束映画的な展開であるが、下手に地面に叩き落とせば山道やら何やらを壊しかねないだろう。
「となると独り相撲やエアなんちゃらの気配がするが、動かない蛹相手に全力で攻撃しかないようだな」
とりあえず羽化してしまった時は飛び立てないように羽根目掛けて一斉攻撃を浴びせる事を確認する。
各々それぞれのKVに乗り込み、観光客を踏まぬ様能力者達は中岳へと進んで行った。
●1班:あやこ・ファルロス・シロウ 『活劇的蛹WAR』
「1番、藤田あやこ。いきまーす!」
「蛹を破る手伝いにならないように気をつけて下さいね」
「任せて♪」
ずずぃと藤田あやこ(
ga0204)のバイパーが一歩進み出る。
シャキーン! と太陽の光を浴びてロンゴミニアトが煌めく。
「上様よりならず者を斬れとの命賜った。今宵のブンゴミニアトは血をご所望ぢゃ♪ 錆にされるはキメラ蛹。ふふっ‥ふぁあははっは!」
「藤田さん、ノリノリですねぇ」
「‥‥‥ああ、なんでも大分出身らしいからな」
マイブーム 愛槍改良のあやこ。
大分は豊後、刀工 行平(代表作:古今伝授の太刀)の刀「豊後行平」と掛けているのだ。
「キメラの狼藉! たとえ日本芋虫学会が許してもこの藤田が許さん!」
打ち出されるインパクトにフォースフィールドがスパークする。
(「‥‥俺も何かしなきゃ不味いのかな?」)
右手握ったロンゴミニアトを3秒程見つめるファルロス。
(「人間、向き不向きってのがあるしな‥‥まあ、俺らしくって事で」)
「2番、ファルロス。これよりキメラの殲滅を開始する」
特別な事は思いつかなかったようである。
「LM−01の試運転にはいささか物足りないが、試させてもらうぞ‥‥こいつの力を!!」
スカイクラスパーのタイヤが大地に吠え、スピードに乗った渾身の一撃を加える。
「食らえ、この槍を!」
「皆、やるなぁ‥‥さぁ。自分もキバって行きますよっ」
グングニル握り、叫ぶシロウ。
「ACSフルドライブ!! Gsp(Myグングニルの愛称)全力全開手加減抜きで!」
あやことファルロスの続けと槍を突く。
「1人づつでもそれなりに効果があるようだけど、すぐフォースフィールドが回復するようだな。やっぱり3人同時攻撃でいくか?」
「目立てない気がしますが、しょうがないですよねーっ」
「では、仕切り直しと言う事で‥‥」
「じゃあ、皆でキバって行こうっ!」
「「「おーっ!」」」
●2班:氷雨・さつき・ 刑部 『女は度胸』
「1班はノっているねぇ‥‥」
屋外カメラから見ると烏帽子岳展望台は大いに盛り上がっているようである。
誰かが昔「戦いというはエンターテイメントである」と不謹慎きわまりない言葉を言った言葉を思い出す。
(「頭を切り替えなきゃ‥‥」)
1隣の班を見る限りロンゴミニアトの攻撃は、効果があるようである。
(「本気でフォースフィールドの効果が一瞬切れそうな羽化の瞬間を狙わなきゃ駄目かと思ったけど‥‥これならイケる!」)
「こちらも攻撃開始ね。氷雨、刑部、用意はいい?」
「いつでも」
「こっちもです」
「では‥‥‥Get Ready Go!!」
さつきの号令に併せて氷雨が高分子レーザー砲を放ち、刑部はディフェンダー 、さつきはロンゴミニアトを巨大蛹に突き立てる。
蛹を被うフォースフィールドが激しくスパークし、一瞬フォースフィールドが消える。
ピシィ!
蛹の背中に白い筋が入る。
「羽化か?!」
「割れた部分に攻撃を集中させて!」
「了解! 榊さんは、蛹を支えている糸を! 雪村さん‥‥!」
予定では、羽化し始めた場合さつきが航空形態で上空から牽制をかける予定であった。
「ええい、女は度胸よ!」
山頂に向かってKVを全力で走らせるさつき。
火口へジャンプした瞬間飛行形態に変形する。
「バーナーon!」
一歩間違えれば地面に叩き付けられる曲芸紛いの荒技であるが運は彼女に味方したようだ。
エンジンが唸りを上げてさつきのKVは上昇して行く。
刑部が糸を断ち切り、支えを失って蛹が倒れる。
割れた脱皮口から産毛が生えた虫の背中が見える。
「ひょっとして‥‥蛾?」
●3班:ユーニー・修司・つばめ 『はっきり言って巨大です』
つばめのS−01が蛹を射程に納めたまま上空を旋回している。
「さて、お前の初陣だぜ。相棒」
ユーニーの阿修羅が獣形態で現れたの見て展望台から拍手が上がる。
3班は直接攻撃をユーニーと修司が行い、つばめが羽化に備えて待機である。
「阿修羅は獣っぽくって格好良いですからね。でも私のディアブロも負けていませんよ」
人による直接攻撃が無理でもKVのパワーである。
たとえ硬い蛹と言えどもKVの攻撃なら通ると考えていた。
蛹の色が大分変色してきている。羽化が近い証拠である。
「見たところ、時間的な余裕もありませんので‥‥最大火力で一気に仕掛けます」
「OK、タイミングを併せようぜ」
修司のディアブロのタイヤが回転を始めて砂埃を上げる。
「噛み砕けっ! 阿修羅っ!!」
ユーニーのディフェンダーが獣の刃となって蛹を傷をつけ、サンダーホーンがその身を焼く。
「伊達や酔狂で、尻尾があるわけじゃねえっ! 墜ちちまいなっ」
フォースフィールドが火花を上げ、鉄壁の防御に揺らぎ生じる。
「最大加速に乗せてアグレッシブ・フォースともに一撃を加えます。この一撃‥‥穿ち焼き尽くせねば、名槍の名折れですよ」
そこに叩き込むかのように修司のロンゴミニアトがフォースフィールドを突き破り、蛹に突き刺さる。
ビクリっ!
蛹が大きく揺らぎ、大きな奇声と共に蛹の背が大きく割れる。
「ち‥一番羽化が進んでいたようですね」
「離れて下さい!」
つばめのKVから高初速滑腔砲が発射される。
「駄目、完全に羽化するの?」
反転するつばめの目に大きく広がる羽根。
両端から両端までの距離は優に60mを越える。
「羽化しやがったかっ、半端ねぇ! 修司の予想大当たりってヤツか?!」
昆虫に詳しいものがいなかったのが、パーティの欠点であったともいえよう。
蝶(蛾)というのは飛ぶ為に身体の本体より遥かに大きな羽根を持つのだ。
「このサイズだ、羽根に当ればタダで済まないぞ!」
ガトリングの雨がキメラに降り注ぎ、飛翔を妨害する。
「羽を破壊する、止めはよろしくっ!」
●再び1班 『我慢します勝つ為に』
「ハァーハハハっ! この『未熟者』め! 食らえ必殺『貫徹斬』!」
あやこがすれ違い様にレイピアを突き立てて行く。
「2、3班は羽化しちゃったみたいですけど、こっちはしませんね?」
「スカイクラスパーの俺には有り難い事だが‥‥」
ファルロス反対に「折角バルカンも用意したのに」と少々残念そうなシロウ。
「羽根を狙ってディフェンダーを投擲。落下してきた所をジャンプアタック‥‥ちょっと燃えませんか?」
「燃えるかもしれないが下手に投げて火口に落ちるとかあるんじゃないか?」
「ああ! それ、考えていませんでしたよ。確かにこういうケースで投擲したら再配給されないかも‥‥」
だらりと汗を掻くシロウ。
「俺達はキメラが羽化しないうちに倒そうぜ?」
●再び2班 『恐怖FOX1』
「なんとか食い止めないと! 羽化してしまえば、更に大きな災禍をまき散らしてしまいます」
「ああ、飛び立たせないのが最優先だ」
残る練力を振り絞り、刑部がアグレッシヴ・ファングをディフェンダーに乗せて振り下ろす。
「この距離、外しはしない!」
カートリッジがつきた氷雨がショルダーキャノンに切り替えて放つ。
さつきがバルカンの雨を降らせる。
「皆、離れて! FOX1!」
「うわっ、たんま!」
各々の蛹の距離は1Kmも離れていない。
さつきの警告(AAM発射警告:FOX1)に巻き込まれまいと能力者達が慌てて逃げて行く。
(「‥‥墜落覚悟で超低空ソードウィング攻撃の方が良かったかな?」)
そんな事をちょっと思ったが、ターゲットロックオンのサインにボタンを押すさつきであった。
●再び3班 『蛹の行く先』
「斃れる前に、斃すのみ‥‥っ」
つばめの上空からの攻撃に身動きが取れないキメラの周囲を走り乍ら修司はレーザー、ユーニーは丁寧にガトリングを叩き込んで行く。
キメラの羽根が吹き飛ぶ。
「よし、このまま一気にた‥」
「皆、離れて! FOX1!」
(「なに?」)
「うわっ、たんま!」
各々の蛹の距離は1Kmも離れていない。
さつきの警告に巻き込まれまいと能力者達が慌てて逃げて行く。
AMMの攻撃で、
爆風でコロコロと火口へと転がり落ちて行く1班の蛹。
蛹から出した半身が吹っ飛び焼け焦げになった2班の蛹。
やはり爆風でひっくり返った3班の蛹。
「あはっ、全弾命中♪ 皆ケガなかったァ?」
「うわぁあ、私の『成らず者』が!」
「‥‥‥ラッキー?」
「飛ぶよりはマシじゃないか?」
「まあ、攻撃しやすいかもな」
「生身でもKVでも‥‥槍の扱いには、少し自信があるんです‥‥っ!」
「とりあえず観客達は喜んでいるようだよ?」
感想はそれぞれである。
「でも‥‥まだ2匹動いていますね。とりあえずこいつらを片付けましょう‥‥‥」
修司が、ぼそりと言った。
──そして。
「『成らず者』共は残らず成敗したわ、地球侵略なぞ百億光年早いわ。ガハハハ!」
あやこが左手を腰に右手のロンゴミニアトを突き上げ、見栄を切る。
「よ、日本一!」
烏帽子岳の観覧席から拍手が上がり巨大キメラ退治は終了した。