●リプレイ本文
「進も相変わらずねぇ‥‥どうせまた安請け合いしたんでしょ?」
アパートを訪ねて来た雪村・さつき(
ga5400)は子猫を抱えた進を見て、開口一番にそう言った。
「‥‥‥反論ありません。ゴメンなさい。さつきちゃん、頼りにしています。よろしくお願いします」
何時もであれば「ああでもない。こうでもない」と言い訳をするのだが、余裕がないのであろう。
ぺこりと頭を下げる進。
「なんか、もう。世話を焼くのが手一杯って感じで全然『里親探す』って暇がなくってさ‥‥」
「バカねぇ‥‥下心込みとはいえ、親切なのは貴方の良いところだとは思うけど、毎回懲りないって言うか‥せめて自分の手に負える範囲で請け負いなさいよ」
苦笑するさつき。
「うん、結構いけると思ったんだけどなぁ‥‥お母さんってのは、人間でも猫でも、なんでも『凄い』ってのを実感中」
現在4時間置きに飯とンコの世話をしているのだと言う。
その割には以前皆と一緒に部屋を訪ねた時と比べて、かなり片付いている。
「うん‥‥こいつら床に落ちているもん、なんでも口にするし‥‥こいつら、トイレを覚えたからいいんだけど、まだ隠せないから踏んで歩くんで‥ついていてやらないといけないし‥‥まあ‥離乳しているから楽っちゃ楽なんだけどさ」
犬や猫といった動物の授乳期間は約1ヵ月である。
進が預かっていた時点で小さな歯が生えていた。
現在、子猫用のパウチとお湯と混ぜる離乳食を補助として与えているのだという。
「でも、おもしろいぜ。なんか飯やるじゃん。すぐその分体重が増えて‥‥今、来た時よりも100gも重たくなったんだ」
聞けば子猫の世話をする為に現在依頼を一切断っているのだと言う。
宵越しの銭(貯蓄)を持たない‥‥というよりも持てない男、進は現在実家から送ってきた水と小麦粉が主食だと言う。
「俺はいーんだよ。人間だし、いざとなったら女の子に奢ってもらうとか、ヤローにタカるとか‥‥でも子猫はかわいそーだから早く良い里親見つけてやらねーとなー‥‥」
ボヤー‥‥‥と言う進の目の下には立派なクマが出来き、顔色も悪い。
実は子猫より助けが必要なのは、進だったかもしれない。
「ん‥‥だいじょーぶ、睡眠不足なだけだから‥‥ちゃんと出汁の素と醤油で塩分とっているから‥‥」
怪しい間延びした答えが帰って来る。
どうやら里親探しは急いだ方がよいようだ。
●黒猫(クマ(仮))の場合
ツキノワグマのような白いポイントが入った黒猫 クマ(仮)の里親になりたいという能力者は比較的簡単に見つかった。
実家の神社で2匹の子猫を飼っている大曽根櫻(
ga0005)。
猫大好き。本人曰く、動物の言葉がわかる五十嵐 薙(
ga0322)。
犬は飼った事があるが猫は初めて小川 有栖(
ga0512)。
そして動物を愛しあらゆる命に敬意を払い、エロスにはちょっぴり弱い熱い男 天道・大河(
ga9197)の4人が集まった。
「うわぁ‥‥本当に熊さんみたいですね」
「‥‥かわいいですね☆」
段ボールに敷き詰められたセーターやらフリースの上で眠っていたクマ(仮)。
「待て待て。子猫に対して大事なのは大事なのは、風林火山だ。
速き事風の如く、迅速な対応が命だ。
静かなる事林の如く、猫が自分から来る時を静かに待て。
侵掠する事火の如く、猫好き仲間を増殖させろ。
動かざる事山の如し、猫を膝に乗せたら後は動くな」
大河の怪しい格言‥‥というか人の気配に目を覚まし、大欠伸をするとう〜んと四肢を伸ばす。
「少し遊んでみていいでしょうか? こういう動物相手というのは、相性が良くないと飼ってもうまく行かないですからね」
櫻が着物の袂から「しゅるり」と紐を取り出し、クマ(仮)の前でフリフリする。
か細い乍らもしっかりした足取りで紐を追い掛け、ペシペシと叩く黒猫。
「‥‥‥癒されます‥‥あたし達の‥‥もとに‥‥来てほしいな‥‥クマちゃん」
薙とにゃんこと彼氏のセットを夢見る、現在彼氏とラブィーな薙。
「ああ、そうだ」
有栖がゴソゴソと持っていたバックの中から3本の首輪と手製猫のぬいぐるみを進に差し出す。
「首輪は猫ちゃん達に。ぬいぐるみは山崎さんに。寂しくなるでしょうから‥‥」
「たしかにね」
くすりと笑って進がぬいぐるみを受け取る。
「ところで下痢はどうなんだ?」
「ばっちり完治だよー。赤ん坊が何時迄も下痢ってのは、大人の何倍も危険らしいから整腸剤を処方して貰った。ちょっと軟らかめだけど、問題ない範疇だってさー」
「母猫さんの‥‥かわりに、あたしが‥‥お母さんに‥‥なるつもりで‥‥来たけど、保父さんが‥‥いたね」
「ケーキを取られた時とは気合いが違いますね」
「俺はON/OFFを使い分ける男だから」
「しかし猫の里親希望者に対して猫が足らないが。お前、全員が飼えるように受付嬢に猫がいないか聞いてこい」
そのままデートに誘う事を許可する。と大河が言う。
「えー? 残念だけどそれは難しい注文だよ。生後1ヵ月の子供が母猫から離れるのは大体2つだそうだよ」
1つは母猫が子猫から目を話した隙に人間が引き離す。
もう1つは母猫が何らの理由で死んでしまう。
「普通は余程気を許している人間相手じゃなきゃ1、2ヵ月の子供を母猫自身が見せるという事はないってさ」
それに‥‥と進が、ちょっと困った顔をして言う。
「子犬は番犬になるから動物センターでも離乳迄は育てるらしいんだ。でもそれも事前に問い合わせがある子だけなんだってさ。大体は他の大人の犬や猫と同じですぐ処置するケースが多いんだよ」
戦時下というのもあるが、ペットショップで血統書付の珍しい犬猫が手に入る昨今、センターに問い合わせて来る事がとても少ないのだと言う。
「それに師匠(受付嬢)の知合いの大きなNPO団体でも子犬や子猫も今は少ないらしいよ。『不幸な野良は増やさない。今ある命を最低限守る』なんだって」
野良猫は避妊や去勢手術をする事により地域猫として駆除されないケースが各地で増えたのもある。
それに対し、互助金を出す自治体も増えたのだ。
「そんなんで、どちらかと言うとバグアとの戦闘で家族を失ったり、高齢者が避難生活の為に泣く泣く置いて行ったような成猫や成犬の里親探しが殆どらしいぜ」
「そうか」
「家族を失うというのは、人間でも動物でも変わりないんですね」
「ところでノミと寄生虫の検査は?」
「1回目の投薬は済んでいるよ」
「じゃあ健康診断はしたんですか?」
「一応ね。免疫不全のチェックもした。本当は、もうちょっと大きくなってからの方がいいんだけどね。LHって人工浮遊島だろ? 病気だった場合は、持ち込めない可能性あるし」
次のノミ取り薬は1ヵ月後。寄生虫はあと3回、3ヵ月毎。
3種混合ワクチン摂取は半月経ったところで1回、摂取後1ヵ月で2回目。
去勢もしくは避妊手術、生活必需品購入分を含め、何事もなければ初年は10万位掛かると聞き、顔が引きつる大河。
「結構、掛かる‥‥もんだな」
「まあ、2年目以降は5万位のつもりでいるといいらしいよ。でも去勢も避妊も屋内飼いでもした方がいいってさ。今回俺が面倒見ている子猫らはマンションの4階生まれなんだ。師匠が去年世話した子は、どう見ても母猫、血統書付。父猫、赤虎だってさ。つまり飼い主が自分ちの猫が狭い暗い所から出て来ない。覗いたら子猫がいた。育てられない。里親を捜せない。んで捨てたんだろうってさ」
「なんだか、それも切ない話だな」
「可愛いだけじゃ飼えない事を理解して飼わないと捨てる事になるって」
「‥‥野良ちゃんだと‥‥‥寿命が短くなるから‥‥‥‥皆、長生きしてもらいたいから‥‥命を‥‥預かる‥‥者としての‥‥心構えは、あります!」
コクコクと頷く薙。
「そうですね。家猫の平均寿命は伸びて20年になったと聞きますが、それでも人間より寿命が短いですからね‥‥お互い満足できるようなより良き『パートナー』でありたいですね」とにっこりと櫻が言う。
「んじゃあ、まあ、前置きが無くなっちまったけど、皆がこいつの為に何をしてくれるのか教えてもらおうか」
にっこり笑って進が切り出した。
──そしてクマ(仮)は、有栖の所に行く事になった。
決定打は「お母さんを恋しがった時のために、お湯を入れたペットボトルがはいる、ぬいぐるみを作っておこうかな♪」「人間の食べ物は絶対あげないように気をつけます」の2点である。
寂しがるメンタルケアにもなるが、子猫のベスト気温は25度前後、この時期の人間にとって暑い気温が子猫には必要で、湯たんぽの変わりにもなる点が進は気に入ったようだった。
櫻の家の猫達もその点魅力的であったが、ご本猫様方との相性が不明なので、その点保留とされたのだ。(子猫同士では非常に稀だが猫同士の気があわないで双方大怪我をすると言う悲しい事態があるのだ)
そして人間の食べ物でも猫が食べても大丈夫な物という物は存在するが、食べられないもの。大量に食べさせてはいけない物の方が多い。そして人間の食べ物が食べられると猫が認識すると食卓に置いてある食べ物を狙う粗相をするのだ。
あげなければ人間の食べ物は、自分の食べ物ではないと認識するのである。
「連れて帰れないのは‥‥残念だけど‥‥有栖さんは‥あなたの事‥‥大切に、してくれる‥‥安心して‥‥いいよ」
名残惜しそうに有栖が抱く子猫の頭を薙が撫でる。
ゴロゴロと咽を鳴らす。
「猫達が幸福になる事を祈っているぜ。男、天道・大河はクールに去るぜ」
「あ、この子の写真送るので住所教えて貰えますか?」
「本当か(ハート)」
いそいそと連絡先住所を書く大河。
「私にも貰えるかしら?」
「いいですよ♪」
皆でアドレスの交換をする。
「名前はどうするの?」
「名前の候補はあるんですけれど、2〜3日暮してから考えます〜」
飛び出さないように洗濯袋に入れられ、大事にタオルで包まれた子猫をバックに詰めて有栖は帰って行った。
●キジシロ(ホルン(仮))の場合
約束の時間よりかなり早く進のアパートに辿り着いた神無月 翡翠(
ga0238)は、クマ(仮)の里親希望者の数に圧倒されていた。
(「まあ、猫好きが、よくこれだけ集まったよな〜」)
熱く進に猫への思いを語る姿は、「お嬢さんをお嫁に下さい」と恋人の実家に結婚の承諾を得に行くのにも似ていた。
(「さて、うちの猫の遊び相手になると思ったんだが‥‥これは競争率が高いか? ‥‥だけど、ある意味もらわれる猫達、幸せだよな〜」)
出された緑茶を啜る翡翠。
現在の所、自分の他には元タロット占い師という虎牙 こうき(
ga8763)が1人座っているだけである。
足下では猫じゃらしでホルン(仮)クマ(仮)シルク(仮)が元気よく駆けずり回っていた。
──そしてホルン(仮)は、こうきの所に行く事になった。
熱く子猫にしてあげる事を語るこうき。
「俺が考えてる名前は『銀河』ッス!」
予防注射と去勢手術をし、兵舎で飼うと言うこうき。
進がこうきを里親として選んだのは「ミルクはそのままあげちゃうとまた下痢になっちゃうっすから‥‥」「同居人(居候)が達してる場合は大丈夫っすか?」の2点である。
進は医者から「子猫用のミルクは、脱水症状が酷い時だけあげるように」と言われたのである。
販売されているミルクの中には、オリゴ糖が多く含まれている為にお腹を緩くする効果があるのだ。
ちなみに牛乳は飲ませると腹が下るのであげる場合は、ヤギ乳か湯冷まし、植物性のコンデンスミルクを利用するように言われていたのだ。
そして子猫や子犬を預かってくれるペットホテルは非常に少ない。
体調が急変し病気や死亡した時のトラブルを避ける為である。
同居人がいる。もしくは長期外出する時は、代りに面倒を見てくれる人がいることが大事なのである。
「‥‥しょうがない。うちの猫にはおもちゃでも、買って早めに帰ってやるかな?」と翡翠は、少し残念そうにこうきの腕に抱かれる銀河の頭を撫で乍らこう言った。
●白地に黒ブチ(シルク(仮))の場合
「‥‥‥彼女の里親希望は、私1人なのか?」
紅 アリカ(
ga8708)が進の部屋にやってきた時、黒猫と銀河の2匹は里親となった有栖、こうきに引き取られていった後であった。
(「少し早く来れば他の子も見れたのかな?」)と少々残念でもあるが、いない物を後悔してもしょうがなかったのでアリカは頭を切り替える事にした。
「引き取った後は健康診断は定期的に受けさせるし、予防接種も受けさせる。現在の住居は複数あるので、もし長期間留守にする場合など、やむを得ない場合は他の人に餌やりなどの世話は任せざるを得ない。‥‥‥が、連れて行けるならなるべく連れて行って、自身できちんと管理を行うようにするつもりだ」
給餌する餌は、子猫にも好みがあるだろうからいくつか栄養素の高いものを選別し与えるつもりだ。
座布団に座るアリカの膝元でシルク(仮)は人間達の思惑等知らず、ネズミの玩具で1人遊びをしていた。
子猫がネズミに体当り(本人は飛びかかっているつもりである)をする度にカシャカシャと小さな音が鳴る。それが楽しくて子猫は飽きないのか、先程からずっと遊び通しである。
「とにかく、里親となる以上、途中で世話を投げ出したりせず、成長し天命を全うするまでしっかりと面倒を見ることを誓う。私が猫に考えた名前は『ルナ』。『闇を照らす白き月光』を意とする」
アリカが進の目を見て、そう話す。
「別に緊張しなくていいからね」
進がアリカに言う。
「いや‥‥別に緊張している訳では‥‥」
「そうならいいけど?」
そう言って苦笑する進。
ふくふくとした子猫を抱き上げ、アリカに抱かせる。
眠そうに欠伸を1つするとそのままアリカの腕の中で白い子猫はすやすやと寝てしまった。
「ルナをよろしく御願いします」
***
「やれやれ‥‥これで全部貰われて行って一件落着。サンキュー、さつきちゃん♪」
ありがとう、な。とさつきの頭を撫でる進。
「まったく‥‥感謝しなさいよ?」
「うん、助かったよ。今度お礼にデートしようぜ」
「残念だけど、遠慮しておくわ。暫く任務でこっちに来ないから」
「えー? 飯、奢ってあ‥‥あー!!!」
──後日、進に子猫を頼んだ知合いらしい女の子に必死に謝る進の姿が目撃されるのであった。