●リプレイ本文
「どうも、二階堂 審といいます」
晴枝と一馬を見つけた二階堂 審(
ga2237)が挨拶をする。
「遠い所をわざわざありがとう。よろしくね、二階堂さん」
「すっごい、ミイラ男だね! これだったら本物のミイラに見えるよ」と白鴉(
ga1240)が笑いかける。
「俺達のことは気にせずに今日のパーティーを楽しめよ」
「‥‥あんた達に言われる間でもないよ」
遊んで来る。と言って会議室の外に出て行く一馬。
「ところで最近、この近くでオレンジ・ジャックというキメラが出没しているのは御存じですか?」
「ええ、この辺もUPCから戦闘地域に近い内に指定されると聞いています」
「他の会議室は使用されているんですか?」
メアリー・エッセンバル(
ga0194)が商工会議所の職員に尋ねた。
もし戦闘が起きている最中に他の会議室から出てくる人が居たら、戦闘が起きていることを悟られないようした方が良いだろう。とメアリーが言う。
「戦いが起こった事を知らなかったら、施設内に残る者もいるかもしれないぞ。他の会議室にいる人間が襲われたらどうする?」
職員はそう言った。
「それは大丈夫です。タイミングを測って皆さんを安全圏迄誘導しますので」と審。
「しみったれた所ねぇ」
鯨井昼寝(
ga0488)が会場の回りをチェックし乍ら言う。
「お婆さんが借りるのだったらこの位なんじゃないんですか?」
出入り口を一つに纏めて貰って‥‥‥等と色々考えていた昼寝だったが、小さい町の小さい商工会議所の会議室である。非常口を除けば出入り口は1つであった。
「非常口を塞ぐのは、流石に不味いわよね」
「そうですね。逃げ道がなくなるのは心配です。外から簡単に入れないように空き箱でもおきますか? それならイザと言う時簡単に退かして逃げれますよ」と神徳 奏音(
ga1473)が言う。
今回協力を申し出ている能力者の方針は「一般人に怪我を追わせず。極力戦闘を避ける。戦闘の際は、極力銃器を使わない」である。
「相手がすばしっこいみたいだから対応できるか微妙だけど‥‥‥」
スナイパーの海森 水城(
ga0255)が不安を漏らす。
「まあ、長期的な戦いには住民の理解は必要不可欠よ。でも、それは武力による威嚇の結果ではなく、信頼による相互理解でなければと、私は考えているわよ」
『こんなしみったれたパーティの警護なんて、私、以外に誰がやるってのよ』
商工会議所の前に降り立った時、そういった昼寝であった。
「ちゃんと考えているんだ」
「当たり前でしょう」
キメラが現れないのがベストだが、運に全てを任せる程気楽ではなかった。
「ええと、南瓜はどこかなぁ。やっぱハロウィンと言えば南瓜だよね」と白鴉。
フォーカス・レミントン(
ga2414)と共に近くのスーパーに買い出しである。
商品棚に品物が少ない。
「やっぱりこの辺だと輸送事情が悪いのかな?」
「できれば珈琲が欲しいところだが‥‥難しいそうだな」
残念そうに言うフォーカス。
「まあ、この辺だとトラックに能力者を着けていないとキメラに襲われるからね」
棚卸しをしていた男が言う。
「あんたらはここら辺の人じゃないね」と男が言う。
「公民館でハロウィンパーティがあるのを知っていますか? 子供らの警備に呼ばれたんです」
「ああ、晴枝さんの所の人か。じゃあ、君達は能力者か」
「そうです」
男はこの店の店主だった。
店主は少し考えた後、ちょっと待っていろと言って店の奥に入っていく。
「お得意さん用にとって置いた珈琲だ。持って行くといい」
「お申し出は有り難いが、子供らの為のハロウィンパーティだ。ジャムやチョコレートを御願い出来るか?」
店主はジャムとチョコレートの他に言われていないのにクッキーやら飴を袋一杯に詰めて渡す。
「晴枝さんの所に一馬って言う子供がいるだろう。あの子を助けてやってくれ。あの子の心は2年前からずっと闇の中だ」
簡易的な流し台を前にエプロンを着けたフォーカスと奏音が並ぶ。
余り料理が得意でない奏音だったが、サンドイッチならと手伝いを申し出た。
「サンドイッチなんて、切って挟んで摘むだけだからな」
レタスを切っているフォーカスが言う。
「マスタードはどうしましょう? トマトとレタスとハムにマスタードをたっぷり‥‥美味しそうですが、子供達が多いですからちょっぴりですよね」
「まあ、その方が無難だろうな」
「ところでフォーカスさんは仮装をしないんですか?」
奏音はピエロの仮装をしていた。
「オッサンがエプロン着けているだけでも十分仮装だと思うんだが‥‥」とフォーカス。
「よくお似合いですよ」
飲み物を貰いに来た晴枝がにっこりと笑う。
「笹川さんは、家族がバグアと戦っていることをどう思っているんだ? 一馬少年は、あまり良く思っていないようだが‥‥」とフォーカスが尋ねる。
「本当の事を言えば、娘夫婦には危ない事はして欲しくないわね。でもあの子達の気持ちも判るのよ」
「幾つになっても子供は心配‥‥まあ俺からすれば、みんな子供ですよ。けれども、俺も‥‥まだ大人とは言えませんが」
「まあ‥‥」
くすりとフォーカスを見て、笑う晴枝。
メアリーがナイフを使い、南瓜をくり抜いてランプを作る姿をじっと見つめる一馬。
元庭師のメアリーにとって、この手の作業はお得意である。
「やってみる?」
「‥‥いい」
「ジャック・オ・ランタンが好きなの?」
「南瓜なんて嫌いだ‥‥」
「『Trick or treat!』。何かお菓子下さい」
黒の三角帽子とだぶだぶの貫頭衣を着てゴブリンのコスプレをするミア・エルミナール(
ga0741)が晴枝に挨拶する。
「可愛い子鬼さん、お菓子をあげるから悪戯をしないでね」
バスケットからマシュマロを取り出し、ミアに渡す。
「あの、一馬君って普段の様子ってどうなんですか?」
「ちょっと感受性が強くって傷付きやすい。そのせいで悪戯が過ぎる所もあるけど、良い子よ」
ミアは斡旋所から一馬の両親を紹介して貰っていた。
会った男女は、何処にでもいる普通の中年の男女だった。
「『僕達はいつも一馬の事を考えている』とだけ伝えて下さい」
ミアはメッセージを預かったが、軽々しく言ってはいけない。そんな雰囲気を感じていた。
(「誰か、他の人に言ってもらおう‥‥」)
皆、忙しそうに準備をしている。
(「仲良くなってからじゃなきゃ、話を聞いてくれないかも‥‥」)
「後でいっか‥‥」
「君が、一馬君?」
「そうだけど、誰?」
水城が一馬を見かけて声を掛ける。
「君のオジサンからパーティを盛り上げるように言われて来たん‥‥だよ」
「あんたも能力者なんだ」
警戒するように鼻に皺を寄せる一馬。
「君はUPCが嫌いみたいだけど、どうして?」
「別に‥‥関係ないじゃん」
「もし、両親と一緒にいられない事が気に食わないのなら、考えを改めた方がいい。君だけが独りぼっちじゃない」
水城を無視して通り過ぎようとした一馬が足をとめる。
「何が判るって言うのさ」
「ちゃんとした親がいるだけまだいいと思うけどね。俺の親は小さい頃に事故にあってもう居ないから‥‥一馬君の両親は一馬君のことも守るために活動してるんだしさ。UPCのことを無理に『好きになれ』とか言わないし、その辺は自由。本人が判断しなくちゃいけないことだから。嫌われてても‥‥それでも一馬君含め、みんなを守るのが俺達のやることだから」
水城の言葉にハッとする一馬。だが、すぐに下を向いてしまう。
「‥‥‥お兄ちゃんには判らないよ」
──丁度、2年前のハロウィンだった
一馬と弟は、ハロウィンパーティに参加する為に友達と公園で待ち合わせていた。
ほんの数分だったが公園から人気が消えた時、突然ワーウルフが現れ、二人を襲ったのだ。
ワーウルフの爪は一馬の腹を突き破り、背中迄達した。
地面に倒れた一馬は、己から流れる血溜りの、遠くなる意識の中で、助けを求める弟の首が、被っていたオレンジ色の南瓜頭ごと毬のように空を飛ぶのを見た。
ワーウルフは、嘗て子供だったものを人形のようにバラバラにした後、立ち去って行った。
友達とその親が発見した時、一馬は南瓜頭を胸に抱えたまま死にかけていた。
それから2年──。
一馬自身も両親の勧めもあり、適応試験を受けたが結果は不合格だった。
激しい戦闘地域での採用基準は、かなり甘い。
非戦闘地域では採用されない者も採用される事が多い。
実際、物理的な適応試験では一馬は文句なく合格だった。
だが、一馬は面接で落されたのだった。
『パパとママが能力者になって戦えば、他の人が、パパやママ、一馬のように大事な家族を奪われて悲しむ事が減るかもしれない。だから、パパとママは能力者になる事を決めたよ』
『必ず迎えに来るから、それまでお婆ちゃんを守ってね』
両親は一馬にそう告げた。
──頭では判っている。
両親が能力者になったのは、自分や弟の為だと。
だが自分はテストで見たキメラの写真ですら恐怖を感じ、落ちてしまった。
「‥‥パパ、ママ‥僕だって‥‥守って欲しいよ‥」
夕焼けが空を紅く染め、ブランコを漕いでいた一馬の前に1つの影が落ちる。
「これではまるでオレンジ・ジャックだな」
南瓜頭を被り、黒マントを羽織った審。
「間違って攻撃したら、笑って許せよ」
「それは、ちょっとやだなぁ」
準備が出来た会場に笑いが起きる。
「ここまで来たらキメラが出ない事を祈ろう」
「そうですね」
──オレンジの南瓜頭をした子供が一馬の前に立っていた。
「君もパーティに来るの?」
一馬が話しかけても答えない。
困った一馬は、ポケットの中にキャラメルが入っている事を思い出す。
「食べる?」
キャラメルを差し出す一馬。
それを奪い取ると南瓜頭は、口の中に包み紙ごと放り込む。
「‥‥お腹が空いているんだね」
「困ったね。入れないや」
出入り口に黒いドレスに猫耳姿の昼寝や斧を担いだミアを見て、一馬が言う。白鴉は仮装をしていなかったが「雰囲気ぶち壊しのヤボだ」と顔に悪魔のような化粧をされ立っている。
「裏から入れないかな?」
建物の裏に回ると小さいトイレの窓が1箇所空いていた。
誰かがうっかり開けたままにしたようである。
──一馬を晴枝が心配し始めた頃、そいつは一馬と一緒に現れた。
幼児の身体にオレンジ色の南瓜が乗っているオレンジ・ジャック。
キメラは会場に入ると人間らに眼をもれず、机に飛び乗り、ケーキやクッキー、サンドイッチを穴のような口にポンポンと放り込んで食べて行く。
「これが、オレンジ・ジャックなの?」
キメラと言えば、バグアが作り出した人工生命体。
人間を害し、時にはその肉を食らうとされている生き物である。
だが眼の前にいるキメラは恐怖の対象と言うよりも悪餓鬼MAXと言った感じである。
だが、所詮キメラである。
いつ何時、攻撃して来るのか判らない。
「少し早いけど町に繰り出してオヤツを貰いましょう」
晴枝や保護者達に指示をし、奏音がキメラを刺激しないように子供達をゆっくりと連れ出す。
「これで心置きなく戦える」
水城は被っていた白い布を投げ捨てた。
スピードで水城を翻弄するキメラ。
審が練成強化を施し、メアリーも疾風脚や瞬天速を使用し攻撃するが今一歩届かない。
審は仲間と判断されたか、1人攻撃を受けずにいた。
「視角でも敵味方の判断するって事ですか‥‥頭が悪そうなのに、意外ですね」
感心したように審が言う。
奏音の知らせを受け、昼寝達が戻って来た。
部屋に入ると同時に昼寝は疾風脚を発動させ、キメラにファングを振う。
爪がマントを切り裂き、腕を斬り付ける。
その衝撃で床に落ち、能力者に取り囲まれたキメラ。
「止めて、弟を、麻馬を殺さないで!」
何処から入り込んだのか一馬が飛び出して来る。
一馬を足を引っ掛けて転ばせる魔女の衣装を着たメアリー。
「しっかりしなさい。あれは、キメラよ!」
メアリーが一馬を叱咤する。
「キ、キメラ? あれがキメラ?」
「そうよ」
メアリーが会議室から一馬を連れ出す。
敵だと明確に能力者達を判断したキメラは、手当りしだい物を投げ付けて来る。
能力者を躱し、側をからかうように飛び回り、お盆のフリスビーが飛んで来る。
「トリックオアトリート‥‥‥ってアンタのそれは悪戯じゃ済まないのよね!」
避ける昼寝に向かって尻を向け、手でペシペシと叩くキメラ。
「このまま1対1で戦ったらスピードに追いつけません」
「そうね。でも小さい分、防御力は小さいはずよね。さっきの鯨井さんの攻撃は、有効だったわ。必殺必中の一撃を食らわせれば、足を止め出来るんじゃない?」
「それにあの頭、後ろは見えないんじゃないかな?」
全員での陽動と攻撃。
昼寝が最初の一撃を食らわせる事に決まる。
「あの南瓜頭を叩き割ってやるわ」
「子供達が戻って来る迄に片付けますしょう」
皆で協力しあった結果、キメラを倒す事は出来た。
「パーティの後片付けは、疲れていてもやろうって決めていましたよ。でも‥‥」
床や壁には飛び散ったジュースやケーキの跡を見て、審がうんざりと言う。
「でも窓とか壊れていないし、マシなんじゃない?」
「子供らが帰って来る迄に元に戻しましょう。僕らの今回の任務は『慰問』と『広報活動』なんですから」
審が諦めたように箒を取る。
そんな中、モジモジとし乍ら、一馬がメアリーに連れられて戻って来る。
「あの‥‥僕、その‥‥」
『出来ない事と出来る事、良く考えなさい』
管理事務所の中で、メアリーにそう言われた一馬。
「ゴメンなさい! 知らなかったけどキメラを連れて来ちゃって‥‥パーティを台なしにしちゃって、ゴメンなさい!」
能力者達に頭を下げる一馬。
「パーティはやり直しが効くからな。それより怪我がなくって良かった」
「そうそう! 台なしにして悪かったって思うなら、掃除を手伝って!」
料理やお菓子は少なくなくなってしまったが、ハロウィンパーティは再開した。
パーティが終わって帰る子供達が、貰ったお菓子の成果を楽しそうに比べっこしていた。
白鴉が笑顔で一馬に声を掛ける。
「楽しかったなぁ。一馬君楽しめた?」
「うん」
「君の両親は、君や他の皆がこうして笑顔でいられるように今も頑張っているんだよ。そのことを忘れないでほしいんだ」
「うん!」
少年の心に掛かっていた暗雲は晴れ、見上げた夜空のように晴れていた。