●オープニング本文

　宮崎県新日原基地──。
　現在九州地方のＵＰＣ東アジア軍空軍本部が設置されているこの基地は、元々飛行訓練学校と言う前身を持っている為に現在も基地内に飛行教育航空隊を抱えている。

「新田原を卒業すると『戦闘機乗り』って言われたもんだが‥‥‥」
　バグア侵攻前迄はＦナンバー（戦闘機）を飛行教育過程で使用するのは、新田原ともう一ケ所しかなかった。初期操縦過程と基本操縦過程、Ｔナンバーの基本操縦過程を過ぎればウィングマークが付与されるのだが、戦闘機は更に100時間の飛行訓練をこなさなければならないのであるのだが、どの戦闘機に乗るかにより訓練基地が専門特化されていた──が、それも過去の話である。

　今ではＦ−１５やＦ−４、Ｔ−３らの隣にナイトフォーゲルが並んでいる。
　格納庫を眺め、溜息を吐く男、国枝中佐。

「なんだ、国枝。溜息なんぞ吐いて、暗いぞー」
　PXで買ったアイスクリームを食べ乍ら作業着姿の吉田整備兵が国枝に声を掛ける。
　上官に対しての規則違反甚だしい言葉遣いだが、下級兵の吉田を咎めるモノはいない。
　吉田は元は整備班長であったが一度定年退職していた爺様である。バグア侵攻を受け再雇用された凄腕である。破損した戦闘機から使える機材を見つけだす目と屑鉄から必要応じてボルトを削り出す高い加工技術を持つ職人でもあった。
　頼んだ以上の事をこなし、一度口に出したら必ずやり遂げるそんな頑固な職人技の整備兵でもある。

「なんだイタリア戦でナイトフォーゲルのパイロットが死んだのをまだ気にしているのか？」
「大規模作戦は大勝利でしたがパイロットに死者がでましたし‥‥輸送船団に参加した傭兵達にも危うく死者が出る所だったと聞いていますからね」
　昔は戦闘機のサイズに併せて戦闘機乗りは選ばれていたが、ナイトフォーゲルは各能力者に併せてカスタマイズされた特殊な兵器である。
　身長、体型、視力、聴力、判断力、病歴、様々に篩い分けられた選ばれた人間の中から、更に過酷な訓練に絶えられた者だけが戦闘機乗りにしかなれなかったものであるが、今はエミタに適合すれば戦闘機に乗れるのである。
「五大湖以降能力者の数は増えていますが、どうしても民間人ですからね。経験がない分、作戦や敵兵力への想像力が足らんのでしょうが‥‥こればかりは本人の戦闘センスですからね。他人がどうこうできませんよ」
　逆に民間人だからこそ軍人では思いつかないような大胆な作戦をして功績をあげているのもいる。

　国枝は非能力者だった。
　ＵＰＣ軍東アジア軍の殆どは、自衛隊や各国の軍人で構成されるが、その全てがエミタ適合者とは限らないのだ。そして戦力も全てが、ナイトフォーゲルという訳ではないのだ。
　従来機のＦナンバーやＴナンバーの飛行機が今も現役で空を飛んでいるのである。
　それ故に国枝達教官らはプライドを持て、教育課程に配属されて来る新兵士を、例え非能力者であっても、能力者達に引けをとらない様、きっちり仕込んでいる自信があった。
「でもバグアやキメラに対しては、自分らができる事が限られています。それに対してあいつらはエミタに選ばれた、ある意味生まれながらのスター選手じゃないですか。幾ら外野や他が良くってもスター選手はスター選手らしくホームランを打つべきです。三振（撃墜や墜落）じゃあ周りが、がっかりします」
　国枝は自分の好きな野球に例えてみた。
「じゃあ、どうすんだ？」
「上部に能力者の希望者も『自分達の訓練に参加する』と言うのを進言しようと思っています」
　国枝は吉田にこう言った。

●参加者一覧

●リプレイ本文

（「新日原もずいぶん思い切った事をするっすね‥‥」）
　嘗てウィングマークを持っていた三枝　雄二（ga9107）の第一印象である。
　新日原という懐かしさもあり、つい目を止めた募集要項であった。
　ぱっと見、馬鹿馬鹿しい卵運びだが、実は高い操桿能力と集中力を必要とする訓練に見える。
（「訓練生時代、この手が好きな教官がいたけど‥‥あの教官は‥‥さすがにいないっすよねぇ‥‥」）

「新日原‥‥」
　前回の訓練ではひたすら大ループを飛ばされ怪しい体験をした井筒　珠美（ga0090）。
　だが「あの」国枝がやるのだからきっと何か意味があるのだろうと日程をメモし始めた所で後ろから綿貫　衛司（ga0056）が声を掛ける。
「おや？　井筒さんも参加するんですか」
「げっ、綿貫」
「なんですか、その『げっ』っていうのは」
「‥‥『も』って事は綿貫も参加するのかぁ」
「『も』ってなんです。『も』ってのは」
　同じ陸自の普通科出身の二人であるが、衛司はレンジャー資格保持者である。
　衛司がエリート風を吹かせている訳ではないが、なんとなく『レンジャー』というのもにちょっと苦手意識を持つ珠美。
「五月蝿いなぁ‥‥一々」
　口では色々言いつつ、結構、仲が良い。

（「こういう訓練も偶にはあり、ですか。しかしあれですね‥‥ゴツい雷電に似合わぬ可愛い卵運び‥‥」）
　黒虎が描かれたゴツイ機体が小さい卵を運んでいる姿は、ちょっとギャップがあって微笑ましくも思えるリディス（ga0022）。
（「‥‥まぁこれはこれで、楽しくなりそうです」）
「あれ〜？　リディスさんも参加ですか？」
　同じ８２４６小隊の水上・未早（ga0049）である。
「ええ‥‥雷電の操作には慣れきっていませんからね‥‥今の内にしっかり慣れておかないといけないと思いまして‥‥未早さんは？」
　口元が笑っているの見られたかと焦り乍ら答えるリディス。
「やっぱりちょっと操作が心配で‥‥でもうちのわんこ（ワイバーン）じゃスコップ持てないんですよねぇ‥‥ファントムかぁ。上手く操作出来るかなぁ‥‥」と溜息を吐く。
「でも小隊長である私と副隊長である未早さんがが揃っているんです、負けられません。私たちの小隊に味噌ならぬ卵をつけないためにも！」
「そうですね！　頑張りましょう！！」
　クールに見える2人だが、実は宮崎の太陽並みに熱いハートの持ち主なのかしれない。

「うおおぉ、卵運び競争！　ファントムとKVで運動会かよ！」
　掲示板に突っ込みを入れるリュウセイ（ga8181）。

●ツルツル、シートは青い海
「そう言えば今回って競争なんですよね？　負けたら何かあるんでしょうか？」
「やっぱ、トイレ掃除じゃないのか？」
「落ちた卵を食わせる自体が罰ゲームだろう？」
「罰ゲームとしては優秀ですが、食材を冒涜していますよ‥‥」
「まあ冒涜にならんよう、落とさないように運んでくれ」
　リディスの後ろから声が掛かる。
「待たせたな。俺が教官の国枝だ。ラインジャッジは俺と‥‥吉田整備兵する」
　卵のケースを抱えた国枝とソーダーアイスを齧っている吉田が傭兵らに手を振る。
（「吉田さんまで、まだいるんっすか！　懐かし過ぎっす、ここは！」）

「教官、ファントムは初めてなので競走開始前に練習させてもらいたいな、と‥‥駄目ですか？」
「水上か‥‥まあ、構わんだろう」
「あ、俺も久しぶりなんで」と雄二が手を上げる。
「お前は駄目だ。あんだけきっちり仕込んでやったのに忘れるような恩知らずは」
　ペペペ‥‥と手に持っていたボールペンで雄二の額を国枝が叩く。
（「会えて嬉しい癖に国枝の野郎は素直じゃねぇな‥‥」）
　新日原の生き字引は呑気に師弟のやり取りを眺めている。

　KVグループは、人型変形をしてスコップを握ったり振ってみたりする。
　KV用のスコップであれば持ちやすいのだったのだろうが、今回用意されているのは人間用のスコップであり、小さい軸を持つのも一苦労である。
（「卵が乗る面が広いとは言え、歩行時の縦揺れの前では有利にはなり得ないでしょう、少しでも揺れを抑えるように動かねばなりませんか‥‥」）
　冷静に分析を続ける衛司は、シャークノーズペイントを施した自分の岩龍で参加である。

　卵のリレーは男女別となり、走る順はこうなった。
　リディス（XF−08雷電）→未早（F−4EJ改）→珠美（F−4EJ改）
　衛司（H−114岩龍）→リュウセイ（FG−106ディスタン）→雄二（F−4EJ改）

●ラン、Run、卵
　足下や卵を気にし過ぎれば先に進めぬと思い切って雷電を歩かせるリディス。
　スコップの面をコロコロと縦横無尽に卵を駆け回る。
　ピタっと動きを止めるリディス。
　スコップの縁迄卵が転がり、危うく落ちそうになった卵がスコップの中央に戻って来た。
「‥‥さすが、難しいですね。が、それをやりきってこそ、ですね」
　モニターで斜後方を見れば衛司がソロソロと小さなシートの膨らみを跨いで避けて行く。

「どっちもけっぱれーっ！」
　リュウセイが熱く声援をかける。
　一瞬とは言え片足で立つKVのバランスを取るのはAIのサポートがあってもかなり難しく、衛司の卵もグラグラと激しく揺れる。
「──うっ！」
　ペシャッ！
　衛司の卵が落ちた。
「先ず1個。動くなよ、綿貫」
　卵が落ちたら、そこからやり直しである。
　新しい卵が衛司のスコップに乗せられるが、動揺を隠せない衛司の卵は10mも行かない内にまた落ちる。
「落ち着け、綿貫！」
「もう少しだ、頑張れ！」
　応援に励まされて、後半持ち直す衛司。

　衛司と20m近く差をつけ次の走者　未早が待つゴールラインを越えようとしたリディス。
　ライン1m手前で卵が落ちた。
「‥‥‥‥‥‥‥‥まあ、仕方がありませんね」
　大きな溜息を吐き、新しい卵をスコップに乗せてゴールするリディス。

「リディスさんの仇は、私が取ります！」
　バトン（？）を受けた未早のF−4EJ改が機体を進める。
　練習をしたとは言え、慣れない機体の操縦である微妙に機体が右に寄って行く。
「まだ差がある。落ち着いて！」
　なにしろエミタのAIは「こんな感じで操作、操縦すればOK♪」というイメージを能力者にくれるが、腕の筋肉をトレースサポートして暮れる訳ではなく、操縦するのは自分である。
　必死になって軌道修正をする未早。
（「慎重に‥慎重に‥‥」）
　下準備でシートの歪みがどこにあるかは頭に入っている。だが判っていても引っ掛かる。
「あ！」
　──つるん♪
　50m過ぎた所（衛司が先程卵を落とした地点）で機体が滑ったと思った途端に卵が下へと落っこちる。
「う‥‥」
　一瞬、がっくりする未早だったが──運が味方したようである。
　ブルーシートに落ちた卵だったが、シートとシートの弛みの間にすっぽり卵が挟まって割れていない。
「はぁあああ‥‥‥ラッキーです」
　ふしゅう。とこれで悪い緊張が解けたのだろう。
　危うい所もあったが、卵を無事ゴール迄運んだ未早であった。

「すぽこん魂でレッツラドン！」
　女性チームから遅れる事、十数秒。
　掛け声よろしくリュウセイがディスタンに卵を乗せてスタートする。
　安定した歩みで距離を稼ぐ。
　──つるん♪
　前方で未早が卵を落とす。
（「うひぃぃぃ！！」）
　セーフであるが、人事とはいえドキドキである。
（「見ない、見ない、俺は見ない。何も見なかった‥‥」）
　ふと‥‥バックモニタを見れば衛司の岩龍が見える。
（「そう言えば、この辺で卵を落としたんだよな」）
　うっかり思ったのが不味かった。
　目の前にブルーシートが迫って来る感覚に捕われるリュウセイ。
（「おちるな、おちるなよ‥‥」）
　リュウセイの思いとは別に「つるっ」と卵がシートに落っこちた。
「ああー！　やってらんね！」
　こうなったら1個も2個も関係ない。と腹を括ったリュウセイの歩みは早かった。
　大差が着いていた女性チームとの差を安定した歩みで数秒迄リュウセイは縮めたのであった。

「どっちも負けるな！　正々堂々一本勝負だぜ！」
　珠美が慎重に進む後を雄二のF−4EJ改が迫って来る。
（「焦るな、焦るな、焦るな、私‥‥この前の大ループだって出来たんだ」）
　ちらりと脇を見た際に操縦桿が微妙に揺れる。
　それに併せてぐらりと珠美の卵が揺れる。
「焦らないで井筒さん、まだ距離があります！」
　安定したスピードで雄二の機体が迫る。
「うーん‥‥やっぱり降りたと言えども三枝の方がファントムに関しては上手ぇな」
「まあ、だが井筒も前来た時よりも数段上手くなっていますから、かなりの場（戦場）をこなしたんでしょう」
「‥‥お気に入りだな。三枝が焼くぞ？」
「不器用な奴程、可愛いのは確かです」
　肩を竦める国枝。
「三枝！　温い操桿しやがって、寝てんのか馬鹿野郎っ！　井筒、お前もさっさと決めろ！　腕立てさせるぞ！」
「「はい！！」」


「先にゴールした点で行けば、綿貫、リュウセイ、三枝の勝ちだが‥‥」
「元ファントムライダーにかかれば、こんなもんすよ」
「当たり前だ。お前が卵を落としたら腕立て100回だ。‥‥‥まったく」
　元教え子に厳しい国枝。
「まあ、今回‥‥‥落ちた卵の数は明白だな」

　○リディス、未早、珠美　　1個
　●衛司、リュウセイ、雄二　3個

「試合に勝って勝負に負けたって所っすねぇ」
　負けたチームには格納庫の掃除が命じられ、割れた卵に関しては個別責任で食べる事になった。
　がっくりとするリディス、衛司、リュウセイ。
「‥‥食べ物を粗末には出来ませんもんね‥‥。ぁ、ほら、きっと卵は、サラシで越してゴミとか砂とか取り除いて‥‥ダメですか？」とフォローする未早。

●反省会
　リレーに負けた3名が格納庫の掃除をしている間にリディス、未早、珠美の3名は、基地のシャワーを浴びてくる。
　エアコンの効いた食堂で国枝と吉田が待っていた。
　そこへドヤドヤと埃と砂まみれで掃除が完了したと衛司、リュウセイ、雄二の3名が戻って来た。
　国枝が合図すると食堂のおばちゃんらが、色々なものを運んで来る。
　地鶏の刺身に焼き物、焼き鳥、厚焼き卵‥‥地鶏のフルコースが並ぶ中、砂入りスクランブルエッグ。
　別名物体Xが皿に乗って来る。
「まあ、先にこれを食ってから乾杯だな」
「こんなもの‥‥一体誰が考えたんでしょう」
　先程から溜息しか出ないリディス。
　想像しただけで、砂のジャリジャリした舌触りと卵のヌメッとしたひたすら後を引く食感だろう。
「ああ、それは訓練校の伝統っすから、素直にあきらめるっす‥‥」

　小皿に盛られ、落とした各々＋（プラス）国枝の前に物体X皿が置かれる。
　どうやら不出来な生徒は自分の責任と言う事らしい。
「あー‥‥レンジャー教育を思い出しますね」
「このじゃりじゃり感‥‥旨い卵だけに‥‥‥だが、勿体ネェから食う！」
「く‥‥‥これはきつい‥‥」
　平然と物体Xを食べる衛司に対して、リュウセイが口をヘに曲げ、吐き出したい衝動を抑えてリディスが涙目で口の中の物体を飲み込む。
　無惨にも小皿にはまだ物体Ｘが黄色い姿を晒している。
　国枝は無言で箸を進めていた。

　好奇心に駆られた珠美が箸を着けてみる。
「‥‥‥ジャリってする」
　衛司を恐ろしいモノのように見る珠美。
「レンジャーの訓練や想定始まったら碌に食べれませんでしたからね。支援の衛生さんが落としてくれる泥に塗れたブロック栄養食とか平気で食べてましたからね」
「そうそう‥‥あんまりマトモな食事が続くと、このジャリ感が懐かしく思う時があるんですよ」
　うんうんと食事難話に花を咲かせる衛司、雄二。
「おや井筒さん、顔色が悪い様ですね」
「なんすか、そんな目で見て。何でも食えるのは、軍人の特徴っすよ？　それに主より賜った、ささやかなる糧を、粗末にするなど‥‥」
「お前らと一緒にするな‥‥確かに野外食で砂や雨水被る事はあっても限度があった」
　こいつは、食い物の限度を越えている。とプルプル震える珠美。
「限界を越えていても、ひもじい思いをしている世界の人間に悪いからな！　鶏だって砂食べるんだ、これくらいなんともねぇぜ！」
　リディスの皿も奪うと一気に残っているスクランブルエッグをかっ込み一気に水で胃に流し込むリュウセイ。
「さぁってこれで罰ゲーム終了だな」

「主よ、ささやかなる糧を、感謝します‥‥AMEN」
　雄二が糧を感謝し、反省会と言う名の宴席が始まる。
　並んだ地物や地鶏に箸を進め乍ら酒を交す。
「美味しぃ♪」
「なんだか食糧難の人がいるっていうのに悪い感じがしますね」
「気にするな。良く飲んで良く食って‥‥もっと旨いもんが食いたいとか、友達と遊びたいとか‥‥お前らはそいつを糧にする。俺達はお前らがちゃんとダイヤモンドを一周してベース（基地）に帰ってこられるように訓練したり、道具を揃えてやる。LHや軍への出資者もお前らが帰って来ないのを望んでいる訳じゃない。きっちり敵の横っ面を張り倒して帰って来るのを望んでいる」と国枝が言う。
　バグアに突っ込んで死ぬのは誰にでもできる。
　バグアに一泡吹かせ、生きて帰って来てこそ価値がある。
　だから皆が全力で能力者をサポートするのだと。
「相変わらず野球なんっすね‥‥」
　雄二と国枝が昔話を咲かせ、雄二が国枝に杓を酌み交わす。
「へー、あいつが教官やってるんすか？　まあ、俺よりは、成績よかったすからねえ‥‥」
「お前も飛ぶ事にこだわらなきゃ残れたぞ？」
「無理っすよ。俺は空がなきゃ駄目なんっすから」
　脇では未早と吉田が「まだまだいける」「これ以上無理です」と徳利の奪い合いをしている。
　リディスとリュウセイは口の中に残る物体Xの味と感触を忘れるべく、ひたすら黙々と箸を進める。
「LHの能力者が餓えずに済んでいられるのは本塁打を期待されてるから‥‥期待に応えられるだけの腕を持ちたいですね」
「うん‥‥皆が食べ物に困らない様にする為にも、戦争に勝たなきゃな‥‥」
（「たまには花じゃなく酒なり菓子でも持って行きますか‥‥」）
　2人それぞれ、帰れなかった戦友（とも）を思う。
「そこの2人、暗いですぅ〜お酒は楽しくですぅ〜」
「暗くなっていいのは給料直後の財布を無くした時だけだぞー」
　出来上がった未早と吉田が衛司と珠美の間に割り込んで来る。
「人間、悔いがないように。馬鹿やる時は馬鹿をやるのが一番だぞー」
　行け、三枝！　と吉田が命じる。
　しょうがないっすね。と雄二が立ち上がる。
「一番、PASTORE、航空自衛隊宴会芸、肺活量だけで風船割り、いきまーす！」

　──人それぞれ思いを胸に空を飛ぶ。
　こうして何処迄が真面目なのか不明な訓練飛行隊の1日が過ぎて行った。

　尚、リディスの分迄物体Xを食ったリュウセイの腹が翌日無事だったのかは記録がない。