タイトル:【SV】南瓜VS西瓜マスター:有天

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/09/16 00:02

●オープニング本文


『Vacation』
 南半球だったら冬真っ盛りのこの時期であるが、大平洋上を運行する人工島ラスト・ホープには四季らしい四季がないが、地球の人の住める陸地の大半が北半球に存在する為か、この時期に相応しい長期休暇と言うと夏休みと言う言葉かも知れない。

「夏休みと言えばリゾートですよね」
「海水浴かなぁ‥‥花火大会もいいですよね」
「‥‥夏休みと言えば、実家で墓参りだ」
「田舎で食った井戸で冷やしたトマトは最高だった」
「ウチの田舎は、町内会で肝試しとかありましたねぇ」
「夏休みと言えば自由研究を思い出す」
「今年こそはショッピング三昧に100万Cの夜景でディナーよ」
「クルージングも楽しいですよ♪」

 夏休みと言う言葉に連想されるイメージは様々である。

 そんな夏の1日。
 あなたは何を体験するのだろう。

 ──白い空、青い海に夏のギラギラとした太陽が照りつける。
 だが暑いのは、日差しだけではない。
 冬に彼女にフラれて以来、彼女なしのこの男、山崎 進(25歳、ファイター)も熱かった。
 友達と一緒に海に来たというのに泳ぎもせずナンパに勤しんでいた。
「彼女たち〜っ、良かったらイケメンと一緒にカキ氷食べない?」
「え〜? どこにいるの?」
「ここ♪ 君らと一緒じゃなきゃ何処にも行けメン(いけません)〜ってね」
「何、ソレ?」
 ケラケラと笑う女の子達。
「マジ、暑くて脳みそが溶けているけど、一人で海の家に入ってかき氷とか頼むの恥ずかしいから‥‥ね、ねっ?」
 2人連れの女の子を口説いていると何処からともなく「キメラだ!」と悲鳴が上がる。
「う‥‥なんか、嫌な予感がする」
 そう言い乍らもゴソゴソと荷物の中からナックルを取り出すと騒ぎのほうに向かう進。

 みれば見慣れたオレンジ南瓜と──、
「スイカ‥‥」
 そのまま回れ右をして帰りたい衝動に駆られたが、これでも一応能力者である。

 飽きらめて見れば、オレンジ・ジャック1体とお初のスイカ頭のキメラが2体いる。
 よく見ればスイカの方は性別があるらしく1体は赤いマントに紺色の海パンという男性体。
 もう一体はスイカからお下げに赤いリボンが付いた紺色のスク水を着ている女性体である。
 どうやらオレンジ・ジャックと男性体のスイカが揉めて、少し離れたところに立っている女性体が困った(?)ようにそれを見ているようである。

 なんとなく見覚えがある状況に眩暈を感じる進。

「カボチャの男の子がスイカの女の子をナンパしたの〜。でもスイカの女の子は、スイカの男の子とデートで、スイカの男の子が怒ってカボチャの男の子と喧嘩になったの〜。デートの邪魔しちゃいけないんだよ、ね〜♪」
「ね〜♪」
 側にいた小学生カップルが、元気の良い声で進の予測を肯定してくれた。

 人間には理解不能の奇声で会話を成立させているらしい南瓜と西瓜は、話し合いに決裂したらしく。側にあったモノ(人やビーチパラソル、手漕ぎボート等)を手当たり次第投げあう。
 女性体西瓜は、我関せずとばかりに海の家を襲って、アイスやらジュースを食らい始める。

「どいつも、こいつもイチャつきやがって‥‥大体、キメラのクセに堂々と浜辺に出てきてデートだと、許せねぇ‥‥ぶっ倒す!」
 ──と行きたいところであるが、1人で3体。民間人がいる海水浴場で戦闘を行うほど進とて馬鹿ではない。
 海水パンツから携帯電話を取り出すとUPC軍に電話をかけるのであった。
「あ、お世話になっています。山崎ですぅ〜。ちょっと確認したいんですけど‥‥」
 目の前で暴れている西瓜について尋ねる進。
「は? 『すいかん』? マジですか?」
 相変わらずキメラ研のネーミングセンスを疑う進であった。

●参加者一覧

三間坂 京(ga0094
24歳・♂・GP
幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
小川 有栖(ga0512
14歳・♀・ST
ミオ・リトマイネン(ga4310
14歳・♀・SN
竜王 まり絵(ga5231
21歳・♀・EL
飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
アズメリア・カンス(ga8233
24歳・♀・AA
七海・シュトラウス(gb2100
12歳・♀・DG

●リプレイ本文

●Some Time Come Back
 竜王 まり絵(ga5231)をはじめとする女性陣に相手にされなかった進が海岸でナンパを始めた頃──

 海の家では、
「はぁ〜‥‥どれも美味しそうです♪」
 タワーのようなカキ氷にカレー、焼きそば、ラーメンと‥‥机に並ぶ品々に黒いゴスロリ調ワンピースを着た(下には水着)小川 有栖(ga0512)がうっとりとし、

 浜辺では、七海・シュトラウス(gb2100)は散歩していた。
 ふと、波打ち際に目をやるとオレンジ色の南瓜を被った背の低い男の子と西瓜を被った女の子が、楽しそうに水の掛け合いをしている。
(「野菜型の帽子? 被り物って流行っているんでしょうかー?」)
 そこに焼きトウモロコシを手にした西瓜を被った男の子が戻ってきて喧嘩を始めたのである。
(「ゃー‥‥何だか大変そうなのですよー。皆仲良く出来るのが一番なのですよー。止めたほうがいいのでしょうかー?」)
 ぽやーっ‥‥と南瓜と西瓜のやり取りを見ていた七海だったが、西瓜頭が近くを通った親父を掴むと小石のように軽々と南瓜頭に投げつける。
 南瓜も負けじと海水浴客を掴むと西瓜頭に投げつける。
「こ、コスプレじゃないですー。キメラですー!」

 浜辺に悲鳴が上がる。
「‥‥ふぅ‥‥のんびり休ませてもくれないのね‥‥」
 リクライニングシートを倒し休憩をしていたミオ・リトマイネン(ga4310)は体を起こし、カウボーイハットを被り直す。
 ミオはクーラーボックスに隠し持っていたS−01の弾倉を確認し、ホルスターを下げると民間人の避難誘導の為に管理事務所へと歩いていった。

●LH組、高速艇内
 高速艇の中、西瓜頭と南瓜頭、ふざけた姿のキメラ退治の詳細を見ていた三間坂京(ga0094)のページを繰る指が一瞬止まる。
「スク水西瓜‥‥また凄いモン来たな‥。まあ、生身のスク水より関心は湧くが。‥つかバグアは何参考にしたんだ一体‥」
 このキメラは、バグアなりのギャグなのだろうか?
 ジャケットに隠れた右腕を揉む京。
「青い空、白い雲‥‥夏の海は良いものです。西瓜はまだ許せましょう。しかし、南瓜は流石に似合いませんね。ましてやキメラなどは早々に立ち退いて頂きたいところです」
 砂が入らないようにとライト・アサルトブーツの紐を締め直す飯島 修司(ga7951)が苦笑いを浮かべて言う。
「バグアの意図が何であろうとも、まずは、被害が拡大しないようにしないとならないわね」
 全身を迷彩服に包んだアズメリア・カンス(ga8233)が言う。
「ああ、海水浴場だからな。この時期だ、一般人だらけだと考えたほうがよかろう」
 3体のキメラ退治は、一般人の避難が完了してからということになった。

「先に攻撃するのは、男性体でいいか? 女の子をいじめる奴って認識されて一致団結して反撃されると面倒だからな」
 もっともそんな感覚がキメラにあるかは不明なんだが‥‥。と苦笑いをする。
 本来、キメラは統率するリーダーがいなければ完全独立した個別の動きをし、連動攻撃を行う事例報告が非常に少ない。
 だが、能力者たちの耳にも雄のキメラ同士が雌を争って戦っているらしい。という連絡を受けている。
「‥‥現地にも何名か休暇中の能力者がいるようですから協力させて、可能なら攻撃開始前から包囲してしまい逃げられないようにしたいですね」
「たしかにね。足場が悪い砂地だ。もたついて逃げられたでは笑い者になるだろうな」

●今やるべきこと
 海水浴場に流れる避難放送に従い、海水浴客が移動していく。
 中にはキメラ出現を信じず、浜辺に残ろうとする人もいる。逆に一早く逃げ出そうと駆け出す一般人もいる。
 悲鳴を上げたり、駆け出したりしてキメラの注意が向いたら一巻の終わりである。
「ライフセーバーの指示に従って避難所に移動してくださいー」
「みなさん、慌てないで。私はUTLの傭兵です。応援もすぐ来ます」
「落ち着いて、静かに避難してください」
 姉と思われる少女に手を引かれた男の子がミオを見上げて言う。
「おねぇちゃんは、逃げないの?」
「浜辺に誰もいなくなったのを確認したらね。さあ、私は気にせずに‥‥早く‥‥!」
 民間人の列を背にキメラ達が確認された方に向かって立つミオ。
(「何があっても、絶対、守ってみせる‥‥!」)
 ミオの額に紋様が静かに浮き上がった。

 有栖は銃口を食べ物を物色しているおさげにポイントしたまま、裏口から客を逃がしていく。
「皆さん、落ち着いて、静かに、迅速に〜」
(「撃つのは、ギリギリです」)

 一方、さすがに投げつけるモノがなくなった為に先程から睨み合いに突入している雄キメラ2匹。
「山崎さん‥‥面白いキメラ‥‥引き寄せすぎ‥‥」
 月詠を携え、西瓜頭達を進、まり絵と共に監視する幡多野 克(ga0444)。
「たしかに‥‥南瓜・西瓜。次は北瓜か東瓜かしら」
 ハンドガンを構えたまり絵が言う。
「すぐりんにまり絵ちゃん、俺が引き付けるんじゃなくって、向こうが寄ってくるの」と反論する。
「どちらにしても水着で‥‥月詠を振り回す事に‥‥なるとは‥‥。ま‥‥西瓜‥‥思いっきり‥‥食べられるなら‥‥。いいか‥‥」
「すぐりん、アレ食うの?」
 進から見れば南瓜頭も西瓜頭も人間の手足が着いているマンドレイクの類に見える。
「冗談はさておき‥‥見るに‥‥欲求が満たせる間は専念、無くなれば人を襲撃してでも欲を満たす。そんなところでしょうか?」
「‥‥だろうね」
 南瓜頭も西瓜頭も幼児と小学生のサイズのファンキーな姿をしているが、所詮キメラである。いつ、本質を思い出すかもしれないのだ。
 UTLの高速艇が降下してくるのが見える。
「投擲物のおかわり‥‥一般人を襲う前に阻止ですわ!」と、まり絵は呼笛を取り出す。

 ピリピリピリーーーーーーーーィ!!!
 甲高い呼笛の音に振り返る雄2匹。
「うふふ☆ いいでしょ〜♪」
 ヒラヒラとハリセンと着ていたTシャツを振り回し、雄2匹の視線を釘付けにする。
 ──が、きょとん(?)としている。
「まり絵ちゃん。こいつら、猿並だから」
『使い方が判らない=武器』と認識しないのだと説明する進。
「成る程、判りましたわ」
 ハリセンを振るい、進を一撃で張倒すまり絵。
「スパーン‥‥って、いい音だね‥‥」
 砂に埋もれた進から返事は無い。

「いいでしょう、コレ♪」
 小さな目をキラキラさせ、カクカクと頭を上下に振る雄2匹。
「うふふ☆ 欲しかったら捕まえてごらんなさぁ〜い!」
 砂浜を追いかけ戯れる恋人達のように楽しげに逃げる(?)まり絵を追いかける雄2匹。

 有栖と共に屋内にいたおさげが異変に気がつき、外へと向かおうとする。
 慌てて焼きソバの皿を放る有栖。
「大人しく食べていなさい!!」
 ぺん! と皿を弾き落とすとそのままスタスタと外に行く。

●餌
 おさげが雄2匹にギャーギャーとスゴい剣幕で何かを言う。
 それを聞き、ぴたりと動きを止める雄2匹。
 必死におさげに向かってギーギー、ギャーギャーと何かを言う雄2匹。
「何を言って‥‥いるんですか‥‥ねぇ」
「あれはキメラとはいえ、BFが他の女の子に目がいくの嫌と言う所だろうな」
 克の質問に大胆な予測で答える進。
「‥‥キメラの世界でも雄ってヤツは大変ですね。そこだけは同情します、えぇ」
 砂浜で様子を伺っていた克と進の後ろにいつの間にか両手にロエティシアを握った髭面の男、修司がいる。
 びっくっとする2人。

「本部からの応援です。私の他に2名です」
 修司が指し示す方向に京とアズメリアがスタンバイをしている。
 一般人の避難を優先させて過ぎてしまった為に、予測外に敵が合流してしまった事態に困惑気味である。
 京、アズメリアと打ち合わせた作戦を説明する修司。
「‥‥キメラ達を誘導できれば‥きっと大丈夫だよ‥‥なにしろこちらには‥‥山崎さんが‥いるから」

「無駄な抵抗をすると仲間の命は無いぞ!」
 進がキメラ達の前でスイカを包丁の背で叩いて見せる。
「‥‥あんなもので引っ掛かるですか?」
「山崎さんは‥瓜に‥好かれているから‥」
 自信たっぷりに言う克の言葉通り、怒ったように奇声を発して進に突っ込んでくるキメラ達。
「ハイ、パス!」
 西瓜頭の目の前でアズメリアへとスイカのパスが飛ぶ。
「わ、私?」
 ギィギィ、ギャアギャア。文句を言い、バタバタと追いかけるキメラ達。
 アズメリアから京、京から修司へとラグビーのパスのように華麗に空を舞う2個のスイカ。
 京の見つけた小屋付近までキメラ達を誘導する。

 つるりと滑ったスイカが、下に落ちそうになる。
 すれすれでレシーブする克、それをトスするまり絵。
 空中にオープンフリー状態になったスイカに向かっておさげと進が飛び上がる。
「させるか! アターーーーック!」
((「なにっ?!」))
 至近距離から進の放ったスイカがフォースフィールドに叩きつけられ飛散する。

「なんでアタックなんですかぁ〜!」
「えー‥‥つい」
 えへっと笑う進に怒った西瓜が水弾を放つ。
 体のギリギリを掠めていく水の塊にビビる進。
「俺が何をした?!」
「スイカを割ったわねぇ〜」
「そー、そー」
「山崎さん‥‥すいかんに‥‥恨まれたね‥」

 おさげに追い掛け回される進を見て修司が言う。
「彼を助けなくて良いのですか?」
 進と一緒に来たメンバーらは「何時もの事」と、平然と言う。
「‥‥‥とりあえず結果オーライって事にしておこう?」
 目頭を揉む京。
「そうね、さっさと片付けてシャワーを浴びたいわ」
「と、言うわけだから上手く逃げ回ってくださいね♪」
 ヒラヒラと手を振る有栖。

 おさげを手助けに行こうとする雄2匹を通せんぼする能力者達。

 克がソニックブームで攻撃を仕掛け、
「西瓜も南瓜も大人しく食べられなさい〜」
「そうですわ。ほうら、友釣りになぁれ☆」
 有栖とまり絵が、南瓜頭を挟み撃ちにして超機械(γとζ)の同時攻撃を行う。
 足を止め、防御する南瓜頭に克が一気に迫る。

(「波に足元の砂をもっていかれて、足場が悪いのは向こうも同じ‥‥」)
 月詠を上段に構えるアズメリア。
「浜辺で好き勝手するのは、そこまでよ」
 京やアズメリア、修司らが射撃武器がないと見ると距離をとろうとする西瓜頭。
「さっき見せてくれた水鉄砲で攻撃か? 残念だが、させん!」
 疾風脚で一気に間合いを詰めた京が、そのまま瞬即撃を乗せてディガイアの爪で西瓜頭を抉る。
 顔を手で庇い、キィキィと悲鳴を上げる西瓜頭が怒って、水弾を出現させ、放つ。

「こっちの‥‥オレンジ・ジャックは‥標準タイプ‥‥俊敏性と力だけみたいだ、ね!」
 南瓜頭の指先をかわし、流し切りの力を利用して南瓜頭の側面に回り込む克。
 タイミングを併せて、まり絵と有栖も追加攻撃を仕掛ける。
 隙が出来た南瓜頭に克が月詠を振り下ろす。

 西瓜頭の水弾を避け、修司のロエティシアが反対側から抉る。
 仰け反った体にアズメリアが袈裟懸けに西瓜頭を斬り倒す。

 動かなくなった南瓜頭からは赤い血を思わせる体液が流れるが、西瓜頭からは透明な体液が染み出し、砂に染み込んでいく。
「‥‥植物なんですかね?」
「確かにコレなら食べられるかも知れませんね」
 倒したばかりに西瓜頭を検分している傭兵らに進が声をかける。
「和んでないで、こっちもなんとかしてよ!」
 水弾には撃てる数があるのかもしれない。
 おさげが壊した監視小屋の壁を丁度進に投げつけようとしていたところであった。
「ああ‥‥もう1体いましたっけ」

●キメラ食い
「戦ったら、お腹がすきました‥‥」と言う有栖。
 砂にまみれたスイカとすいかんを見比べる克。
 ギラギラと照りつける太陽は熱い。
「でも有栖ちゃんにすぐりん、こいつら手足や目あるし‥‥」
「魚にも目がありますよ?」
 すいかんの頭部の中は、見た目、普通の種無しスイカである。
「キメラのここは食べられます。とか、『キメラお料理マニュアル』とかあると便利ですよねー」
「たしかに‥‥ね」

 好奇心が勝った実食チャレンジ希望者以外は、地元のライフセーバーや消防、救急に協力してキメラが暴れ破壊されたボートや海の家の補修や瓦礫の撤去、怪我人の応急処置をしている。
 規制線の向こうからも「食べられるキメラ」に興味津々で海水浴客達が覗き込んでいる。

 切り取られた西瓜の頭の一部と塩が配られる。
 覚悟を決めて、実食である。

 シャク‥‥
「‥‥腹が痛くなるとかないのか?」
 恐る恐る進が聞く。
「普通のスイカと変わりらず、美味しいですわよ? まあ‥‥折角、キメラなんですからローズの香りとかすれば優雅なのかもしれませんけど」
「そうですね。色も赤いですし‥‥これで紫やピンクだと感じ方が違うのかもしれませんが」
「赤い色素って‥‥体の熱を‥‥下げる効果があるらしい‥‥」
 シャクシャクシャク‥‥西瓜を租借する音だけが響く。
「残念なのは、冷えていないところです。冷やしてから食べればよかったですね♪」
 平然とした顔で食べているのを見て、好奇心に負けた進が西瓜に手を伸ばす。
「山崎さん‥‥あ‥‥お塩‥‥いる‥‥?」
 克が塩の瓶を回す。

 シャクシャクシャク‥‥
「普通にスイカなんだな‥皮もやっぱりスイカと同じで糠漬けとかになるのかな?」
 慢性貧乏の進が皮の白い部分を見ながら言う。
「持って帰って試して見たらどうです?」
 美味しく出来たら送ってください。と有栖が言う。
「山崎さんの事だから‥お新香になる前に‥‥キュウリキメラとかに‥‥襲われていそうだけど‥‥」
「そういえばキュウリも漢字で『胡瓜』瓜の一種でしたわね」
「止めてくれよ〜。ありえそうで笑えないよー」
 わははっと笑い声が上がる。

「うふふ‥‥でも海辺で食べるのって、景色と雰囲気がよい調味料になりますね。幾らでも食べられちゃいます♪」と新しい西瓜に手を伸ばす有栖。
 有栖はおさげから守った海の家からお礼にと飯の誘いを受けている。
「後で皆でお邪魔しましょうね。なんでも特別裏メニューを作ってくれるそうです♪ 空腹で泳ぐと気持ちが悪くなっちゃいますから、泳ぐのはそれからですね〜」
「有栖ちゃんは元気ですね」
「勿論です。夏は短いんですから目一杯楽しまないと♪」
 有栖の元気な声が青い空に響いた──。