●リプレイ本文
(「‥‥これだけか」)
一瞬、ミーティングルームに集まったメンバーを顔を見渡す江班長。
駅周辺に現れたHWとゴーレム2体を担当する傭兵は5名、駅から移動車輌の待つビルへ移動する民間人の護衛を担当する傭兵は終夜・無月(
ga3084)、周防 誠(
ga7131)、ヴァレス・デュノフガリオ(
ga8280)、立浪 光佑(
gb2422)の4名。
(「いや、良く集まったものだというべきだな‥‥」)
通称「アジア大戦」と呼ばれる中央アジアを中心とした戦いは熾烈を極め、重体者が続出している。
わずか距離500m。歩けば若者であれば10分も掛からぬその距離を幼い子供や乳飲み子を抱えた母親、年寄りたち3000人を守るのはかなり難しい。
その中でリスクの高い難民の脱出に協力を申し出てくれただけ御の字だろう。
直接の警備に当る3名がKVに乗り駅前に遺棄されたドーザー等の重機類や瓦礫でバリケードを作り、その中を移動させるのだと言う。
「きっと瓦礫とかだけだと距離が足らなくなるから上手く建物を使いたいよね」
「キメラや民兵も危険だが、HWも注意が必要だな」
「大変だけど両脇に作る感じにする?」
ワーム班の雷電がワームからの攻撃の盾になってくれると言う。
「それって助かるなぁ。あんなもんが流れ弾で来たら側にいるだけで大怪我だよ」
駅の付近の高いビル(重量のあるKVが乗っても壊れない建物となると必然的にトラックが駐車するビルと言う事になるのだが、地上3階程度の高さである)の上で監視を予定しているディアブロに乗るヴァレスが明るく言う。
「接近してくる敵を射程に入り次第攻撃。敵能力者にはAAM、キメラはライフルで狙撃だね」
「冗談はよしてくれ。UK−10AAMは航空機形態にならんと撃てんだろう? よしんばビルの屋上に変形出来るスペースがあるとしても数100メートルも離れていない場所にそんな火力の強いもの使ったら敵どころか味方も吹っ飛んじまうぞ?」と、流石に江班長が反対する。
KVに搭載されている武器類はバグアのフォースフィールドを破る為に従来の武器に比べ、火力が数倍強くなっている。
AAMを人間に向かって放つ行為は、小鳥を撃つのに大砲を使うのに似ているかもしれない。
「俺は普段人間相手だから航空火器は専門外だが、下手に撃てば駅舎が壊れるから止めてくれ」
それに他の建物が壊れて破片がこっちに飛んだらどうする? と文句を言われる始末である。
駅のロータリーに続く道は1本。
元々製鉄の運搬用に作られた駅は造りは立派だが一般的な客が乗降する駅に比べて狭い。
ヴァレスは敵を防ぐ為に建物を倒壊させる事も考えたが、タイミングを間違えれば敵を封じ込めるどころか逃げ道を塞ぐことになりかねない。
「じゃあ、ガトリングにするよ」
──良いアイデアだと思ったが江班長に否定され、段々心配になるヴァレス。
「‥‥ビルに上がれなかったり、離陸出来なかったらどうしよう?」
ディアブロは何も搭載していない空重量でおよそ16t。
民間のビルにそれだけの重量をあげるクレーンやエレベータを期待するのは無理である。
「‥‥どうせ廃ビルだ。運を天に任せて外壁でも登るのも手だな」
思わず眼鏡を外し、眉間を思わず揉んでしまう江班長。
ビルの外壁がKVの重量で剥がれて落ちたら運がなかったと諦めろ。と言う。
ちなみに離陸は無理である。
一般的にビルの屋上と言うのは、ビルの設備配管や電力設備などの設備関係の機材が多く設置されている。
屋上で出て人が遊べるような平らで広いスペースと言うのは、実はとても珍しいのだ。
トラックが停車するビルはビジネス用の商業ビルではあるが、デパートのような商業ビルではないのだ。
では、ビル上を滑走出来ない状況下で離陸する方法となると、下に落ちながら機体を離陸に必要なスピード迄加速させるしかないが、はっきりってKVが飛ぶ加速が得られるより先に機体が地面と接触して自身が天国に召されるのが先である。
「先に上空にいて空中変形は? 自由落下しながら撃つとか」
「聞いた話じゃ時速400km以下にしないとどんなに丈夫なKVでも空中変形は機体のバランスを崩してコントロールが効かないそうだが‥‥」
ここで言葉を濁す江班長。
自由落下しながら銃を撃つのに安全と思える高度まで一度KVを上昇させる場合、キメラのサイズが一般的な虎だった場合は地上のキメラはケシ粒にしか見えず、誤射の危険性も高い。
うーん‥‥と頭を悩ませるヴァレスに江班長が慰めるように一言言った。
「キメラは飛ばないんだ。無理に飛ぶ必要はないさ」
キメラ班とワーム班で移動中の民間人に注意や流れ弾がいかないように細かくタイミングの打ち合せを済ますと先発隊である護衛と作戦に参加する江班長ら憲兵隊が後発のワーム対応班を残し、部屋を出て行った。
いよいよミッション開始である。
***
KVとトラックが王舎人に到着した時、まだ敵の姿はなかった。
「ち、力をいれ過ぎると壁が壊れる!」
ヴァレス機は人型変形したディアブロでおっかなびっくり慎重に壁登りに挑戦している。
下ではトラックの運転手達がやんやと喝采を送っている。
無月と光佑が避難民らに移動手順を説明している。
「皆さんの事は‥‥俺達が必ず護ります‥‥だから落ち着いて指示に従い避難して下さい‥‥」
「だから俺達がつくるバリケードの間を順番で通って貰いますが、通る時は出来るだけ目的地だけを見て、全力で走るんじゃなくて落ち着いて行動してください」
当初、バグア派の攻撃を知らされた難民らは騒然とし、パニックになるのかと思ったがそうではなかった。
生きる為に家も故郷も捨て、安全に暮らせる土地を求めて難民となった彼等だったが、心休まる暇もなく繰り返されるバグアの攻撃にある種の覚悟していた。
そして、ほとんどの者が能力者という者を見た事がない状況で軍に見捨てられた絶望的な状況で剛胆にもたった9人で助けに来た能力者というのが、女性のような柔らかい外見の青年である無月と少年の、ましてや所々メタリックな光佑というのにびっくりして、ぽかんと見ている状況である。
光佑自身自分の姿に驚かれるのには慣れてしまっているとは言え、ちょっと呆れてしまう。
(「取り乱したり怯え過ぎているよりはマシですが」)
実際戦闘が始まってしまった時、何れだけ冷静にいられるかは判らない。
だが、始めからパニックしている状況では避難手順が上手く伝わらず、難民らに被害が増するばかりである。
難民らの代表らしい男が無月らに質問をする。
「あんたらはバリケードを作ると言っているが、ここにはバリケードを作る材料らしい材料がないがどうするんだ?」
「駅の周辺にある重機をバリケードにします」
「高さはさ1m半〜2m、広さは10mもあれば充分です」
それを平行に2本作り、その両側をKVが守るのだと言う。
「このバリケードも一時的な弾避け場所、避難壕です」
まさか難民が恐怖に駆られて四方八方に逃げ惑うのを防止する為とは言えない光佑。
「あんたらの言うバリケードは判った。だが、あんたたちのKVで重機や廃材は動かせるだろうが、隙間はどうする?」
大きな重機や廃材を組むバリケードには隙間ができる、そこから弾が入り込むんだ場合どうするのだ。と男は言うのだ。
その質問には黙ってしまう無月達。
高速で飛ぶ弾の軌道を見切ること等幾ら能力者でもできはしない。
「まあまあ、そう子供を虐めなさんなよ。ようは俺達が手伝えばいいんだよ」
「そうだな。子供にやらせてばかりというのは気が引ける」
工事現場で働いてドーザー等の重機類を操作した事がある者達が手伝いを申し出る。
「そのかわりキメラが出たらよろしく頼むぜ?」
「もちろんですよ」
無月のミカガミと光佑のS−01に有志が協力を申し出てバリケードを作る。
その間に誠は憲兵たちと配置等の最終調整をする。
「そう、殿を守るのに4名。後は移動ラインに沿って均等に配置。近付く敵は問答無用で攻撃ってことで」
「了解した。バリケードの両脇、売店、あとビルの入り口‥‥そんな所だな」
「開けた場所です。こちらの様子は敵からも丸見えでしょうが、敵もこちらから丸見えです。ですが視覚になる所はあると思いますので注意しておきましょう」
誠がスナイパーライフルとアラスカ454のロックを外し、バリケードの向う側に消えて行く。
『そうだ。敵がバリケードに侵入したら俺が回りますからKVに踏まれない様注意して下さいね』
KVの外部スピーカーから流れる光佑の言葉にブーイングをする難民達。
『だってあんた達が昇天するのは、どうせ俺達の後なんだから取り乱すなら俺達がそうなってからにしてくださいね』
どうやらブーイングをする余裕が出て来たようである。
だが、ゆっくりしている暇はない。
バリケードが作られて行く中、移動に時間が掛かる年寄りから誠に促され、移動を始める。
***
対人戦において必ずしもKVに利があるとは限らない。
それを知っているのは、ここにいる能力者と憲兵達だけであろう。
特に敵には能力者が混じっている点は要注意である。KVの欠点を知っていると考えたほうがいいだろう。
上空のHWを警戒するチームより敵影発見の報が入る。
ビルの屋上に登ったヴァレスが視認を止め、無月機と協力してレーダのレンジを調整して位置確認と数を補正をする。
2体のゴーレムと雷電の脇をすり抜けて親バグアのトラックとジープが6台、ロータリーに侵入して来た。
「あんまり殺しって好きじゃないけど、手段を選んでる余裕無いしね」
ヴァレス機の撃った突撃仕様ガトリング砲がトラックに当り、爆発炎上する。
その瞬間ぱっと6つの影が外に飛び出した。
キメラとバグアに組みする敵能力者達である。
他の敵民兵もジープやトラックを捨て、展開する。
KVに回り込まれた場合、小回りの効かない車よりも人の足の方が避けられると判断したらしい。
「近付かせないからねっ!」
足の悪い老人と乳飲み子を抱えた母親や子供の大半は、既にビルに辿り着いている。
だが、殆どの避難民はまだバリケードと駅舎にいるのであった。
バリケード内に侵入されればレーダーでは敵味方の判別がつかないだけではない。
外カメラが写し出す敵を目で追うことになるのだが、KVにも死角はある。
そこに潜り込まれて攻撃、機動停止したでは笑いぐさなのだ。
幸いなのは敵の持つ武器が憲兵らが予測した範疇である事である。
どの武器も一撃を食らってもKVが即稼動不可能になることは無い。
烏合の衆‥‥というのには余りにも組織だった民兵らは2、3人の小さな班になって動くが、狙撃のターゲットを絞らせまいとするように動きはランダムである。
誠がスナイパーライフルで民兵を狙撃しようとすればエクセレンターらしき敵能力者とキメラはそれを妨害するかのように動き回り攻撃を繰り返す。
無月機がカバーの為にKVハンドガンを使って敵の隙を作ろうと、さっと引いてしまう。
(「‥‥時間稼ぎなのか?」)
戦闘時間が長くなれば敵の増援部隊が来る可能性は高い。
憲兵らに指示をして集中砲火で敵能力者を足留めしている所に、周り込んだ無月機がクローストソーズでキメラの首を断つ。誠のスナイパーライフルが動揺する敵能力者を捕らえる。
キメラと敵能力者が死んだ事で、敵兵らの攻撃が一層激しくなる。
光佑機がタイヤを駆り、近付く敵兵らとの間を一気に詰めレッグドリルで敵兵らを蹴散らす。
「‥‥俺も負けてられませんね‥‥」
隠れた瓦礫ごと剣を薙ぎ、敵を吹き飛ばす無月機。
「キメラと他の能力者は、どこだ?!」
敵能力者の目的は別にあった。
トラックに初撃を食らわせたヴァレス機。
自分たちを背後から敵を狙うKV排除を優先することにした敵能力者2名とキメラ2匹がビルに向かって走っていく。
「不味いです!」
ヴァレスのいるビルには避難用のトラックが停車しており、戦える者はヴァレスを除いては江班長だけである。慌てて江班長がビルのドアを閉めているのが見える。
光佑機が敵能力者とキメラに向かって突撃仕様ガトリング砲を放つが、妨害しようする民兵から手榴弾が投げつけられるのを機盾「レグルス」で押さえ込む。
「邪魔なんですよ!」
お返しだとばかりに民兵らにガトリングの弾をぶち込んでいく。
銃撃の合間に投げ込まれる手榴弾を誠が撃ち抜いたり、蹴り返して行く。
バリケードに向かう民兵らを狙撃していたヴァレス機だったが、ビル向かって来るキメラと敵能力者を確認するとビルの縁に立ち、キメラに向かってスナイパーライフルD−03を放つ。
頭を打ち抜かれたキメラが次々にどぅと倒れる。
「俺だってやる時はやるんだよ!」
だがその間に迫る敵能力者は角度的に上から狙い撃ち出来ない。
空中変形や自由落下で撃つには建物の高さが足らないが、飛び下りる事が出来るギリギリの距離である。
「壊れないでくれよ!」
ヴァレス機が地面を抉り、轟音とともに降って来たのには、さすがの敵能力者も度胆を抜かれたようである。一瞬足が止まったのを見て、KVウォーサイズを振り回すヴァレス機。
ビービーと警告音がコックピットに鳴り響くのを止め乍ら、外部に繋がるマイクに怒鳴る。
「降伏しろ、お前達に勝ち目はないぞ!」
後ろから無月機が迫って来るのを見て、一瞬顔を見合わせる敵能力者達。
だが無月機の飛び道具がKVハンドガンであることを確認すると敵能力者はくるりと方向転換をすると無月機の方に全力で駆けて行く。
無月機、ヴァレス機との軸線上にはバリケード(避難民)がある。
「KVにはタイヤもあるんだよ!」
瓦礫を蹴散らせ迫ったKVが迫っていった。
敵が一掃され、予定時間を遅れ乍らも3000人全員がビルに移動を完了した。
見れば手足を失ったゴーレムが1体転がり、KV2機相手に翻弄されるもう1体のゴーレムが見える。
『警護班より各員、民間人の移動完了。待たせたな! 思いっきり戦っていいぞ!』
連絡を受け止めを刺された2体のゴーレムが機動を停止する。
通常の任務であればこれでお終いである。
だが彼等の最終目的は青島からの脱出ある。
***
地下駐車場に停車していた25台のトラックが、一斉にエンジンをかける。
幌があるとはいえ、荷台は避難民がぎゅうぎゅうに乗っている。
江班長を含めた憲兵隊17人は8台の軍用車に分譲し、350km離れた青島を目指す。
この先、安全な道は殆どない。
「皆にいと高き月の恩寵があらんことを‥‥」
こうして命がけの難民移送が始まったのであった──。