タイトル:サイレントキラーマスター:有天

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/23 13:33

●オープニング本文


「思ったより善戦しているな」
 MSIのとある試作実験工場に併設されたブリーフィングルーム。
 もうもうと紫煙が立ち篭める狭い部屋には60人近い男女が犇めいている。
 ランジット・ダルダの子飼いと悪評高いS・シャルベーシャ(gz0003)の「Maha・Kara」部隊の内、再編成を終え待機している強襲重陸兵部隊「Saurva」、航空機動部隊「Sharbhesha」のメンバー達である。
 スピーカーから流れて来るインド軍の動向に耳を傾け乍ら、行儀悪くパイプ椅子から投げ出した脚を長机の上で組み、煙草を吹かせるサルヴァ。

 ──ザワッ。
 階級章が剥ぎ取られたUPCの仕官服に身を纏った長身の男が部屋に入って来た。
 一瞬空気が緊張するが、男の顔を見るとすぐに消える。
「暇そうだな」
「まあ、な‥‥‥」
 サルヴァ自身は、ヒマラヤ山脈周辺のバグア軍の動向調査の為、各国に兵を侵攻させる調整に手間取っていた内に大規模作戦が発動されてしまったのだ。
 軍が傭兵らを総員すれば、その分バグアも活性化する。
 要員は集まったが「Maha・Kara」としての特殊訓練が終了していない状況下では、再び兵を失うだけである。サルヴァは動きを取れない事を良い事にじっくりと兵の育成に力を入れる事が出来たのである。
 だが、今度は戦線の状況が確認取れないで出撃したくても出撃出来ず、暇を持て余してしまったのである。
「お前の方は、どうなんだ?」
「俺のtripuraantakaはお前の所より人数が少ないが‥‥まあ、俺の所は第一関門がスポンサーの親父のお眼鏡に適うかどうかだからな。なかなか埋まらんよ」
 SaurvaとSharbheshaが、人種も使用している機体もKVから従来戦闘機と多種に渡り、機体のカラーも様々、構成員も一般人が混じっているのに対して、tripuraantakaはインド国籍を持つ者で且つ白く塗られカスタマイズされたディアボロに騎乗する能力者のみで構成されている。それ故tripuraantakaは、心無いものから「旗本隊」という呼称で呼ばれる事が多く、Maha・Karaを「ダルダの私兵」と呼ぶ者が多い由縁でもある。だが、実際の所はダルダは単なるスポンサーである。MSIは技術提供を行い、Maha・Karaは見返りにテストパイロットや産業スパイ、警備兵の真似事を行っているのである。

「時にMSIは、思いきった行動に出るようだな」
「‥‥‥ああ、新作の事か?」
 大規模作戦に併せるように各地でMSIの新KVについてのテストや意見交換会が一斉に行われている。
 バグアのインドへの大侵攻は、UTLとUPC上層部を震撼させたが、インドに居を構えるMSIらにとっては予想される範疇であり、目新しさはなかった。ただ、予測した数より敵が多かっただけである。
 だが、そのおかげで現在各地に点在する開発工場では、本来であればじっくり検証を重ねて発表すべき数種類の新作開発が前倒しになってしまったのである。
 非常に慎重極まりない反面、時には周囲をアッと驚かせる決断をするCEOらしいといえばCEOらしい判断である。
「ここにも1つサンプルがあるぞ。見てみるか?」

 トリプランタカを連れて格納庫にやってくるサルヴァ。
 テールローターがない二重反転のメインローターを持つ攻撃ヘリがそこにあった。
「110dbを切るのが難しいと言われたプロペラ音を45dbまで下げる事に成功した攻撃用ヘリ『サイレントキラー』だ」
 構造上KVには向かないと言われていた業界初のヘリ型KVである。
「まあ一般的な攻撃ヘリよりはSESを搭載している分、出力が上がっているのでスピードも出る。が、戦闘機に比べれば遥かにスピードが遅いし、軽量化の為に装甲も紙っぺら、積載力も小さい」
「ヘリの優位性は分っているつもりだが、よくOK出したな」
「営業部の話によれば貸出価格は100万を切る予定だそうだ。岩龍と同じ特殊電子波長装置が搭載されているが、変形に時間が掛からないのと高い知覚と回避力がある。ただ、大きな欠点がある」
「なんだ?」
「コックピットを完全密閉出来なかったのとエアコンがスペース的に詰められんかったんでな。ヒマラヤ山脈が越えられん」
 機械が絶えられても人間が絶えられないのだよ。と、ゲラゲラと大笑いするサルヴァ。
「それは‥‥かなりの欠点ではないのか?」
「俺に言わせれば開発部は頑張った方だ。コブラなんかよりはずっと上昇出来るからな」
 こいつは砂漠や森林、市街地、海上等の低空での支援用に開発された機だからな。とサルヴァが笑う。
「離陸距離0は勿論だが、使い手次第では飛行形態で機体を地上から数センチ浮かしたまま、ミリ単位の移動が可能だし、その場でどの方向でも360度回転が出来る。きちんと頭を使って利用すれば強みになると思わんか?」

●参加者一覧

水上・未早(ga0049
20歳・♀・JG
クラリッサ・メディスン(ga0853
27歳・♀・ER
鯨井起太(ga0984
23歳・♂・JG
須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
シーヴ・王(ga5638
19歳・♀・AA
古河 甚五郎(ga6412
27歳・♂・BM
風羽・シン(ga8190
28歳・♂・PN

●リプレイ本文

 攻撃ヘリ「サイレントキラー(以下、SK)」の最終チェックに参加した水上・未早(ga0049)、クラリッサ・メディスン(ga0853)、須佐 武流(ga1461)、鯨井起太(ga0984)、UNKNOWN(ga4276)、シーヴ・フェルセン(ga5638)、古河 甚五郎(ga6412)、風羽・シン(ga8190)の8名である。
 参加者達は、今迄の郊外型戦闘から徐々に市街地戦増加にあたってヘリ導入というもので戦略面が変わる事に興味を引いたものもいれば、本当に45dbなのかと技術面から内容を確認したいものやミーハーにヘリKVを見たいというものまで様々である。

 傭兵らが連れて来られたMSIのKV試験場は、映画でも撮るかのように半径5kmの中にミニュチュアの都市1つが再現され、敷地の端に800mの滑走路が着いていた。
 用意された各KVにセンサー類が取り付けられている間、傭兵らは地図を片手に大まかに敷地内の見学してまわる。消火栓は生きているがガソリンスタンドは空っぽでガスや電気が通っていないと知り、一瞬甚五郎が激しく落胆するが何かを思いついたようで消火栓を調べているのを見て、興味深げにS・シャルベーシャ(gz0003)とシーヴの希望でこのテストに参加する事になったトリプランタカが見ていた。

 それが終わった後、滑走路に設置されたビルでSKの操作面や構造面での簡単なレクチャーが行われたが、「ダウンバースト対策は済んでいるのか?」「ローターは人型になった時、土木作業用に使えるか?」と甚五郎を質問をしていたが、それに対しては構造上、既存ヘリや他のKVアイテムと変わらないという返答が帰って来た。
 実際に格納庫でアイドリングしているヘリを見た起太は眉唾スペックと思っていたローターの回転音が本当に45dbであるのに驚きを隠せず盛んに側にいるMSIの技術者に質問をしていた。

●ワイバーン VS SK in 市街地
・攻:ワイバーン、守:SK
「やはり戦争で必要なのは戦略戦術的な用途を明確にイメージできる兵器ですよね」
 そう言う未早のワイバーンを相手をするのはクラリッサのSKである。
 クラリッサからスタンバイOKの連絡を受け、獣形態に変形した未早機がSKを追う為に市街地に入っていった。8246小隊の副長を務める未早は、市街地戦において従来型KVのデメリットを痛感していた。
 インドでの攻防は瓦礫の中で行われたが、今後ビルや構築物がある場所での戦闘も増えてくるだろう。
 それ故に建物の多い市街地エリアでの模擬戦である。
 しっかり隠れたSKを見つけるのはかなり困難であろうが、未早自身は余り気にしていなかった。
 何故ならSKが隠れそうな場所は頭に入っている。
 ワイバーンに比べてSKは視覚・聴覚の情報が入り易い‥‥それが狙い目であった。
 レーダーの設定を更にタイトに絞る未早。
 ようは、どう目の前に誘き出せるかである。

 物陰に機体を隠すクラリッサも必死に相手の裏をかくべく頭を働かせていた。
 SKの最大のウリである消音を殺さぬよう、SKの主砲に3.2cm高分子レーザー砲を選択しているのもその現れである。
 高い知覚能力があるとは言え、SKは未改造である。
 単純に数値の面で言えばカスタムしてある未早のワイバーンが優位に立つ。
(「ですが‥‥模擬戦の相手がワイバーンである以上、同じくワイバーン乗りである私にとってその通常の機動は想定内ですもの。市街戦に於いての限界も自ずと理解出来るはずです」)
 クラリッサのKV乗りの知識と経験が10分間と言う短いファイト時間で何れだけ遺憾なく発揮出来るか、頭脳と頭脳のぶつかり合いである。

 ワイバーンの20mm高性能バルカンが狼の咆哮のように唸り、ビルの壁を削っていく。
 未早は意図的に建物を壊した音でSKの注意をそらし、回り込む作戦である。
 だが、クラリッサもまた音を味方にしていた。
 アナグマのように物陰にジッと潜み、近付いて来るワイバーンの排気音を聞き分け回避行動を専念していた。その為、ワイバーンはSKを攻撃に優位な場所に誘い出し切れず、時間切れを迎えた。

・攻:SK、守:ワイバーン
「テストでも負けたら悔しい程度に負けず嫌いなんです。私」
 そう言って再び愛機を発進させる未早。
 1回戦はSKの特性に翻弄される形になったが、攻守逆である。
(「同じ手は食わないわ」)
 SKの索敵能力を鑑み、隠れるよりもこちらから仕掛けて撹乱していく方針である。
 それに対しSKも上空から積極的にヒットアンドアウェーイで攻撃を仕掛けていった。
 ジリジリと追い掛けて来るSKに対して、直線と障害物という横を活用しSKのミスを誘うが、単に横や物陰の奥への回避という事を行えば細かい動きができるSKの追加攻撃があった。

 だが、ワイバーンとてそのやられっぱなしで終わる訳には行かない。
 痺れを切らした未早が装甲の厚さと機動力に物を言わせて一気に迫る。
 ビームコーティングアクスを一撃を食らわせばこちらの勝ちである。
 しかしクラリッサもそれを読んでおり、ワイバーンの射程内に決して近付く事がない。
 未早が遠距離砲に切り替えれば、2撃目を向ける前に空へと建物の影へと逃げて行く。
 お互いにジワジワとだが取り付けられた判定用のダメージカウンターにヒットが加算されて行く。
 時間ギリギリであったが、墜ちたのは装甲の薄いSKであった。

 今回、全ての面で優位に立つワイバーンが苦戦した最大の点は、未早がSK撃墜を最大の目標せず「地上形状に限定」で戦った事であろう。
 平面移動しか出来ないワイバーンに対してSKが立体行動という特性を上手く利用した点と1対1という模擬戦ならではの条件があったとは言え、1勝1負。SKは格上のワイバーン相手に善戦した結果となった。

●団体戦 攻:テンタクルス、岩龍、S−01改 VS 守:SK inビル街
「‥‥ヘリ内は禁煙か」
 やれやれと言ったようにUNKNOWNが吸いかけの煙草を灰皿で消す。
 いつも着ているフロックコートも狭いコックピットの中では邪魔だと脱いでいた。
「サルヴァ‥終われば酒を飲む、か」
「いいぜ、その暇があればな」
 コックピットに入ったシンに何かを耳打ちしていたサルヴァが振り返って言う。
 同じ初めてとはいえ器用にSKを操るUNKNOWNに対して、シンとトリプランタカの動きは多少ぎこちない。
(「‥‥なんだか、それぞれの思惑に微妙にズレてる気がするな」)
 隙あらば攻撃に転じたいUNKNOWNに対して、逃げ切る事を前提に置きたいシン。
 トリプランタカは攻撃側に付き合って回避と機動力をテストするという。
(「さて、と。10分間の鬼ごっこか‥上手く逃げ切ってみますかね」)
 既存KV班がSK班が準備OKというサインに戦闘予定地に侵攻して行く。

「避けきってみやがれ、です」
 岩龍から立続けに放たれる84mm8連装ロケット弾ランチャーを避け切れずヒットするSK。
 S−01改と岩龍のコンビネーションに上下方向から追い立てられ、ビルを盾に追撃を逃れようとするSKに下からテンタクルスのP−120mm対空砲がヒットする。
 カスタムしてあるテンタクルスの攻撃を未改造のSKが回避するのは、ほぼ不可能である。
 それでも 必死に2撃目を躱し乍ら、テンタクルスに試作型G放電装置を放つSK。
 テンタクルスのダメージカウンターにヒットがカウントされる。

 次の1撃が決らないのには理由がある。SKは細かい行動ができるヘリであると同時に偵察機能も有するスパイヘリなのだ。死角は一般的なヘリより遥かに少なく、あるのはローターが回転する上部だけである。
 だが幾ら回避能力と行動に長けているとはいえ、多数対1という悪条件の中ではその能力を発揮出来ずに直ぐ撃墜されてしまう。
 始めから予測された結果とはいえ、あっと言う間に撃墜されてしまったトリプランタカは苦笑いをして戻って来た。

 その様子をじっとビルの隙間から観察するのは、UNKNOWN。
「向うが連携をしている以上マトモにやり合わないのが手だな‥‥」
 だからと言って隠れっぱなしも性にあわないUNKNOWN。
 今回、バンドコードは反対チームに教えられていなかったが、しっかり探し出して無線を傍受していた。
 ズルい方法だが、立派な作戦である。
 おかげで既存KVチームがどんな流れで攻撃を与えるのか判ったのであった。

 攻撃対象を絞るならば、有効射程距離の短い甚五郎か、行動範囲が限定される起太のどちらかだが、単機になる点で襲い易いのは起太である。
 先手を取り変形を多用しての攻撃。起太を追い詰めたの迄は良かったが、応援にやって来たシーヴと甚五郎の攻撃に合い、あっさりと墜されてしまった。
 特に甚五郎のフレア弾の攻撃では危うく逃げ込んだ立体駐車場ごと焼け死ぬ所であった。
 死ななかったのは、甚五郎が放水栓を壊して水柱を立てたりとトラップを活用していた事に警戒していたUNKNOWNが立体駐車場の中をすり抜け反対側に飛び出していたからに他ならない。

 フレア弾は使い方によっては低空で飛ぶSKを風圧等によって浮き上がらせる効力もあるが、逆に気圧で上から蓋をする形で敵を焼き殺す事もできる爆弾である。
 余り今回のような対戦方式の有人テストで使うには向かない爆弾なのであるが、サルヴァには大受けである。実際、戻って来たUNKNOWNと甚五郎の肩を叩き乍ら「一杯奢ってやろう」と言ったのであった。

 ビルの隙間を縫うように隠れ乍ら移動していたシンの耳に激しい爆発音が聞こえ、SK2機目が撃墜された連絡が割り込んで来る。シンもまたヘリと人型を上手く使ってSKを隠していた。だがシンの装備は、逃げる事を前提に考えた装備である。

 シーヴと甚五郎に袋小路に追い詰められてシン。
 ラージフレアが炸裂し、視覚とセンサーが一瞬真っ白になる。
 再び目が戻った時、シンのSKは何処かに姿を眩ませていた。
「‥流石に正面切っての戦闘は無理はあるが、限定条件下じゃ結構面白い使い道がありそうだねぇ? 俺は嫌いじゃないな、こーゆーの」
 煙幕弾とラージフレアを見事に使い、ただ1人、10分間を逃げ切ったシンが笑った。
 
 ヘリはさしずめRPGゲームにおいての忍者である。
 隠身や情報収集に長けるが、直接攻撃には向いていない機体である。
 攻撃に転じ、敵に勝利するという点では他との連携が必要となり、楽観的行動ではSKを優位に立たせる環境を作り出す事はほぼ不可能に近い。
 複数の敵に対峙した時は、ひたすら逃げる。
 ある意味これもまた非常にヘリらしい結果であった。

●攻:R−01 VS 守:SK
「サルのおいちゃん‥いや、サルヴァ。前からアンタとは本気で戦ってみたかったのさ」
 サルヴァを対戦相手に指定してきたのは武流である。
 挨拶がわりとばかりにMSIバルカンRをR−01に撃ち込んで来る。
 人型のR−01は真直ぐタイヤを軋ませトップスピードで突っ込んで来る。レーザー砲の射程がバルカンRより短い為なのかと思いきや回避行動を取るSKの下をそのまま通り過ぎて行く。
「そんなのありかよ!」
 遅いとは言え人型のR−01に比べればSKの方が早い。
 追い縋るSKの目の前でR−01はジャンプすると航空形態へ変形し、急上昇して行く。
 たとえブースターを使わないとしても飛行するR−01にSKは追付く事は出来ない。
 小さく点になって行くR−01の背中に向かってバルカンRを撃つ武流。
「おい、こらっ! 戦えっ!」
 そう武流が叫んだ瞬間、真上からR−01のエンジン音がし、途端に短距離用AAMの雨が降って来た。
 必死に操縦桿を動かし躱すSKにレーザーが撃ち込まれる。
 側を掠め通るR−01のウェイク・タービュランスに機体がぶれる。
 体制を立て直すSKに向かって、変形したR−01が振り向きざまに再びレーザーを構える。
 上空に緊急回避し乍らバルカンRを撃つSK。
 正面を向いたまま車輪を使い、バックで後退して行くR−01。
(「流石においちゃん、やるな‥‥」)
 乾いた唇を舐める武流。
 回避行動をするR−01の脇をすり抜け急上昇‥‥の予定であったが世の中そう上手くは行かない。
 下を見ればR−01は人型のままである。
(「チャンスか?」)
 現行機では困難とされる空中変形と同時の攻撃を試してみたい所である。
 先の団体戦でソードウィングは有効な手段であった。
 武流の心を読んだかのようにブレイク・ホークを握るR−01。
「だいぶ無茶な機動をさせるが‥途中で壊れてくれるなよ?」
 上昇限界ギリギリまでブーストを使い、駆け上がって行くSK。
 そこから一気に急降下して行く。
 バルカンRをブレイク・ホークで受け、微動だにしないR−01。
 高度計がくるくると回る。
「ここだ!」
 人型に変形しようとした途端バランスを崩し地上へと激しい衝撃と共に叩き付けられるSK。
 誰もが死んだと思った武流の命を救ったのは、射出座席搭載だった。

●意外なる結末
 KVの変形の限界対応速度はおよそ時速400kmと言われている。
 今回の事故原因は恐らく落下に依る加速とヘリの推進、更にスラスターでの加速という予想以上の負荷が掛かった為であろう。
「考え方は悪くなかったんだがな」と、武流らしい事故だと笑うサルヴァ。
 甚五郎が提供してくれたキリマンジャロコーヒーを愛用のミルで挽いている。

 だが、これでは予想外の行動をする傭兵らへの危険がある事が発見されてしまった。
 販売時期が迫っているSKには致命傷である。
「仕方あるまい。人型への変形を出来なくするか‥‥問題はUTLが変更をどう思うか、だな」
 静かに湯を落とし乍ら、フン。と鼻を鳴らすサルヴァ。
「変形しなければメンテナンスと操縦が簡単になって従来ヘリと同格に扱えるかもしれないな‥‥思い切ってUPCに売り込むのも手かもしれん」とトリプランタカが言う。

 入れる人によってこれ程味が違うのかと珈琲通でもあるサルヴァの入れてくれた珈琲を啜り乍らやり取りを見守る傭兵ら。テスト後は楽しく酒を酌み交わしたり下らない世間話‥‥と思っていたのが、大ハズレである。珈琲が美味い分、余計に空しい。
「その辺の判断はCEOに任せればいいだろう」
 工場のラインに乗って生産され、あとは納品を待つだけ‥‥という状況で販売中止がありうるのはKVだろうと変わらないのだ。

 斯くしてSKの販売について緊急取締役会が設けられた。
 結果、CEOであるダニエル・オールドマンを始めとする取締役会は、傭兵らへの貸出しを含めたUTLとの契約を破棄し、UPC軍への専属契約を結ぶにした。
 こうして意外な結末でSKは発表日を迎えるのであった──。