タイトル:ユリアの初めて物語3マスター:有天

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/12/17 10:47

●オープニング本文


「‥‥さむ‥‥」
 インド・ムンバイから高速艇に乗る事数時間、LHへのタラップを降りるユリア・ブライアント(gz0180)の息が少し白くなる。

 ユリアは上海でミュージシャンやモデル、役者等、芸能人を中心とした反バグア組織「Criminal」の構成員である。その中でも親バグア組織に潜入し、組織に情報を流し続けていた俗にモグラと呼ばれる類いのスパイ故に公式な書類には一般人と印され、能力者である事は一切印されていない。彼女がビーストマンであるというのは、極一部の限られた能力者や関係者しか知らない事実である。

 今回のLH訪問も表面上はMSIのS・シャルベーシャ(gz0003)のお使いである。
 が、どうやら本当の所は、少し社会勉強をして来いと言う事らしい。

 体が弱い事もあるが、幼い頃からユリアの面倒をみていた従兄のキース(現在、行方不明)が『超』が着くほどの過保護に育てた為にユリアは日常生活で必要な知識で知らない事が多い。
 また、能力者としても諜報や暗殺、毒物、爆発物の知識があっても銃やKVを扱った事がない。能力者としてはかなり変わったジャンルに属するのである。
「観光するか、身分を明かして、ショップで武器を選んで貰ったり、戦い方を教えてもらうのも良いだろう」
 シャルベーシャからユリア名義になっているカードとゼロが渡される。

 ──そして手紙を届けたユリア。
 足元にチェックのトランクを置き、温かいココアのカップを手にユリアはULTの受付ロビーにいた。
「‥皆‥‥来てくれる‥のでしょうか‥‥?」

●参加者一覧

ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
ベーオウルフ(ga3640
25歳・♂・PN
忌咲(ga3867
14歳・♀・ER
クラーク・エアハルト(ga4961
31歳・♂・JG
空閑 ハバキ(ga5172
25歳・♂・HA
シーヴ・王(ga5638
19歳・♀・AA
憐(gb0172
12歳・♀・DF
ヴェロニク・ヴァルタン(gb2488
18歳・♀・HD

●リプレイ本文

 少しの暇つぶしと気休めになればと少女に声をかける事にしたベーオウルフ(ga3640)。
「誰かと待ち合わせかい?」
 声をかけられ、ビクリとする少女。
「俺はベーオウルフ。ここではそう名乗っている。能力者をやっているよ」
 少女はユリア・ブライアント(gz0180)と名乗り、待ち合わせなのだという。

「あ、ユリアさんだ。どうしたの、こんな所で?」
 受付を通り過ぎようとした忌咲(ga3867)がユリアを見つけて声をかける。
「獅子の‥お使いで‥‥来ましたが‥予定より‥時間が‥かなり‥余ったので‥‥‥」
 ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)や空閑 ハバキ(ga5172)、シーヴ・フェルセン(ga5638)、憐(gb0172)らと待ち合わて水族館とプラネタリウムに行くのだと言う。
「私も行っていい? 珍しい魚とか、結構詳しいよ。あ、でも急に人数が増えると大変かな?」
「‥大丈夫‥です‥‥」
「俺も丁度暇なんでご一緒してもいいかな?」
 ベーオウルフの言葉に頷くユリア。

 出来上がった観光冊子を満足げに見た後、うーん、と伸びをする憐。
「‥これで‥【探検ぼくらの街(LH編)】‥ばっちり‥です‥」
 どうやら徹夜しまったようである。
 お風呂に入る位の時間はあるだろうか?
 と時計を見た憐の目がまん丸になる。
 約束の時間まで30分を切っていた。
「‥‥ああ‥どうしましょう‥‥」

 憐から突然の呼び出しに訳も判らずDN−01を駆るヴェロニク・ヴァルタン(gb2488)。
「‥ヴァルたん‥‥急いで‥ください‥‥憐の一大事です‥」
 タンデムシートに座った憐がヴェロニクを急かす。
「憐ちゃん、気持ちは判りますけど法規は守らないと駄目ですよ」

 ユリアとの待ち合わせ時間に一番最初にやって来たのはハバキとホアキンだった。
「お待たせユリア! LHへようこそ♪」
「聞いた人数が増えているようだが‥‥また荷物持ちかな?」
 電話を貰えるとは思わなかった。と言うホアキンに「迷惑だったか?」と問うユリア。
「いや、友達と思ってくれたのなら、少し嬉しいかな」
 ホアキンの言葉に嬉しそうに微笑むユリア。

 フロアを慌てて走って来る憐に付き合ってヴェロニクも一緒に走って来る。
「はぁ〜ぁ、間に合いました‥‥」
「憐さん‥お久しぶり‥です」
「‥久しぶり‥お電話‥嬉しかった‥です‥LHへ‥ようこそ‥」
「憐ちゃんの一大事って、お友達との待ち合わせだったのですね‥‥」
 顔をパタパタ仰ぐヴェロニク。
「‥‥ヴェロニクです、初めまして」
 ユリアに挨拶をするヴェロニク。

 一番最後にやって来たのはシーヴだった。
「ユリア、早速の連絡嬉しいでありやがるです」
 ぎゅっとユリアを抱き締めるシーヴ。
「ユリアがお泊まりする準備をしていたら遅くなったでやがるです」
「あ、それいいな。私も泊まっていい?」
 折角仲良くなったのだ。色々ユリアと話をしたい。
「憐も‥参加希望‥です。‥ヴァルたんも‥一緒に‥いいですよね?」
「え、大丈夫なんですか?」
「リビングに布団を用意して雑魚寝ならなんとかなりやがると思いますが‥‥」
「ヴァルたんが‥皆のご飯を‥作ってくれます‥」
「問題なし、でやがるです」
「むしろ歓迎」
 がっしりとヴェロニクの手が握られる。
「憐ちゃん‥‥それって予定内?」
 バックから【ゆりっち大全〜完全攻略〜】と書かれている栞を取り出す憐。
「‥‥予想内、です」
 わいわいと水族館に行く前から盛り上がる少女達に苦笑する男達。

「ユリア・ブライアントさんですか?」
 そんな一同にクラーク・エアハルト(ga4961)が躊躇いがちに声をかける。
「訓練についてULTから紹介を受けましたクラーク・エアハルトです。よろしくお願いします」
「‥こちらこそ‥よろしく‥お願いします」
 銃の購入のアドバイスと簡単な訓練を依頼したのだと言うユリア。
「訓練施設の予約は入れているのか?」
 そうユリアにホアキンが尋ねる。
 ユリアのいた上海では、1本路地に入れば弾が飛んで来ない限り誰が戦おうと誰も気にしないが、ここはLHである。
「じゃあ俺が入れておこう」
 ついでに手伝える事があれば俺も明日の訓練を手伝うと言うホアキン。
「なら俺も手伝うよ」
 そう明日の訓練と買い物に付き合うと申し出るハバキ。

 袖触れあうのも何かの縁と結局9人で水族館を回る事になる。
「LHにもあるって聞いていたけど来たのは初めてだよ」
「‥‥人気の‥デートスポットです‥‥」
 ハバキに憐がサムズアップする。
 ホアキンが一人ずつにチケットとパンフレットを配る。
「あっちにゃ鮪がいるみてぇです」
 皆で回遊魚であるマグロの為に作られた水槽にやって来る。
「でけぇ水槽‥」
 シーヴが水槽を見上げる。
「‥‥マグロ‥ヒラメもカレイも‥おいしそう‥‥タカアシガニ‥鍋の季節‥」
 水槽を見つめる憐の頭で動く猫耳がピクっと動く度に魚が殺気を感じて逃げて行く。

 鮮やかな赤や青、黄色に縞縞の魚、ふよふよと漂うクラゲに発光するエビ。
「このクラゲは毒が強くて、刺されると危険だね。あっちの魚はヒレが毒針になってるんだよ」
 忌咲が丁寧に1つ1つ説明する。
「‥忌咲さん‥すごいです‥‥」
「えー、そう? 逆に食用魚とか、珍しくない魚は全然だけど」
 照れたように忌咲が笑う。

 列に並んでイルカショーを見れば、イルカがジャンプする度に飛んで来るにキャーキャーと楽しそうに声が上がる。
「あっちのふれあいコーナーでペンギンと写真が撮れるそうですよ」
 あっちに行ったりこっちに行ったりと見る物が満載である。
 お土産コーナーで真剣な顔をしてイルカストラップを見ていたシーヴだったが、ヴェロニクがペンギンのぬいぐるみを買ったと聞き、ふわふわのぬいぐるみも良いかも。とユリアと共に片端からぬいぐるみを抱き締めている。
 そこにベーオウルフが小さな袋をユリアに渡す。
 ユリアが袋を開けると巻貝がついた髪止めが入っていた。
「仕事中に髪が邪魔になる事もあるだろ」
「ありがとう‥」
 にっこりと笑うユリア。

 一度解散した後、女の子達だけでシーヴの家【Katt】+Unにお泊まりセットを持って集合である。
 ヴェロニクの用意した食事がテーブルに並ぶ。
 今日の戦利品であるぬいぐるみを見せあったり、撮った写真を見て感想を言ったり盛り上がる。
 だが明日も早くからショップ周りと訓練が待っているので、皆でお風呂に入って寝ようと言う事になる。
 が、流石に全員一度に湯舟に入ったり出来ないので、半分が身体を洗っている時は、半分が湯舟に浸かる事になる。
「‥ヴェロニクさんは‥D‥ですか?」
 ペタペタとヴェロニクの胸を触るユリア、憐もついでにペタペタと触る。
「え、えぇ、一応Dの65ですけど‥‥」
 急に触られて赤面する。
「‥どうすれば‥そんなに大きくなるんですか‥?」
「‥‥‥どうすればそんなに、て? うーん、牛乳と美容体操かな?」
 毎日続けるのがポイントだと答えるヴェロニク。
「牛乳‥‥」
「美容体操なら簡単なのよ、座って出来るから」
 むーんとしているユリアにお風呂を出たら教えてあげます。とヴェロニクは言った。

 お風呂から上がって皆でリボンカールをしてみたり、
 美容体操をしたり、
「そういえばユリアさんは、バストアップに興味があるの?」
「もう‥ちょっと‥‥大きく‥なった方が‥モテるのかな‥と‥‥」
 どうやら家主であるS・シャルベーシャ(gz0003)が連れて歩く女性は皆、胸が大きいのだと言う。
「‥‥憐の‥らぶらぶセンサーにティンと来ました‥ユリアは彼の事が‥恋模様‥」
「ユリアが‥獅子に‥です‥か?」
 しどろもどろに言うユリア。
 こうして女の子達の話は夜通し続くのであった。

 ***

 ──翌日、ULTのショップにやってきた一同。
 ユリアの体型や使う場所を考えて、軽くて携帯し(隠し)易い小型拳銃やSMG等を皆で見て行く。
「杖に仕込めれば良いのだけどね」
 そう苦笑するホアキン。
「隠し易い小型武器ですか‥‥フリージアとかは向いていると思うんですけどね」
「ああ、上海で持ち歩くならフリージアはいいよね」
 フリージアは、掌サイズの小さな銃である。
「後は、まあ実際に撃った方が早いですね」
 クラークが何点がチョイスして試射のコーナーへとユリアを連れて行く。
「撃つ時は、落ち着いて余分な力を抜いて撃って下さい」
 初めて銃を握るユリアにクラークが基本の構え方を教える。
「そう、肘は柔らかく。反動には気をつけて下さいね?」
 何発か撃ってみてフリージアを購入する事に決めたユリア。
 シーヴが一緒にスキルを購入する事も薦めるが、どのスキルも良く見える。
 時間も無いので次に来た時に買うというユリア。

 次は場所を変えてハバキとユリアVSホアキンとクラークの模擬戦闘である。
「俺が盾役やるからユリアは積極的に攻めていいよ」
 実弾の代りにゴム弾が使用されるが、それでも当れば痣になる。
「怪我したら言ってね。練成治療するから」と言う忌咲。
 シーヴが手を振るのが見える。

 ユリアがフリージアを放ち、ハバキがホアキンに機械剣を振う。
 それをホアキンがイリアスで受け流し、払う。
「そう、良く見て。周り込んで敵の攻撃の邪魔をする」
 押されているハバキを援護しようと近付くユリアをクラークのS−01が許さない。
 当る弾を獣の皮膚、虚闇黒衣で必死に堪えていたが、堪らずトリガーを引く。
「銃の特性を考えるんだ。敵が、自分が、今、何発目か」とクラークの叱責が飛ぶ。
 ハバキがホアキンのパワーに押されてひっくり返る。
 慌てたユリアが真音獣斬をホアキンに向かって放つが、それを読んでいたホアキンのソニックブームに弾き飛ばされる。
「焦ったら駄目だ、良く見て効果的に使うんだ」
 たった10分だが、たっぷりとしごかれたようである。

「ユリアは高いトコ、へーき?」
「空に上がりましょうか?」
「空?」
「そう。大丈夫なら、ぷらっと空中散歩行ってみようか♪」
 KVに乗った事がないユリアの為にLH上空を飛べる様、クラークとハバキが申請していたのであった。
 ハバキの愛機・耶昊の補助席にちょこんと座るユリア。
「離陸する時Gが少し掛かるから気をつけてね」
『頑張ればその分、面白い物が見れますので』
 クラークがモニタ越しに声をかける。
 従来戦闘機に比べれば遥かにGが掛からない代物であるが、それでもくん──と体が後ろにひっぱられる衝撃が襲ってくる。
 LH上空をぐるりと回った後、クラークの雷電模擬と空戦とG体験である。軽くインメルマンターンやバレルロールを体験する。
「あれが昨日行った水族館で、あっちが皆の待ってる本部‥‥」
 そう話乍らふとハバキは嘗て補助席に乗った青年を思い出す。
 飛行を終えてシーヴが買ってくれた温かい缶ココアで手を温めるユリアに、
「‥‥キースを助けるって依頼‥もうちょい時間はかかりそうだけど、待ってて貰える?」
 必ず果たす、と約束するハバキ。
 ユリアは小さく笑った。

 夜は憐が持って来たDVD【巨大蟹襲来】の観賞会である。
「それは‥‥噂に聞く‥UPC軍が‥‥演習兼ねて‥撮影した‥という‥」
 ヴェロニクのカンパネラ制服を着たユリアが呻く。
 巨大蟹ワーム『UNKNOWN』を止めようとKVが次々と突っ込んで行く。
「ただ‥これは映画なのでみんなはっちゃけてますが‥実戦でこういう事をすると‥死にます‥要注意です‥」
 憐も蟹に特攻を掛けた1人であるが、こういう無茶はフィクションだから出来るのだ。
 ダメ見本です。と憐。
「‥ユリアは‥大切な‥友達です、死んで‥欲しくない‥ので‥‥」

 ***

 ユリアがインドに戻る日、ホアキンの「カルヴァリオの園」に招待された。
「花と野菜と果物しかないけど」
 中庭に作った菜園と昼寝ができる木陰、サンルームや石釜を1年掛けて自作したと言う自慢の場所である。
「今は、ペレボラスやポイセチアあたりが見頃だよ」
 ゆっくりと花を見て回る。
「これは月下美人。最近植えたばかりでね」
 上手く根付けば1晩だけ白い花を咲かせると言うホアキン。

 花を堪能した後は皆で菜園の手伝いである。
「野菜やハーブが沢山あるから久しぶりにガレットでも焼こうかなぁ」とエプロンをしたヴェロニク。
 ホアキンを手伝ってシーヴとユリアが生地を捏ねる。
 石釜で焼かれるパンが甘い芳香を漂わせる。

 手伝った分は、元手を取るとばかりにハバキは取れたての野菜や焼いたパンを食べている。
 反対にユリアがレタスをフォークの先で弄んでいる。
「ユリアさん、しっかり食べないと体に良くないですよ?」
「‥‥‥それは」
 頭で判っていても食べたくないものはある。
「野菜もちゃんと食べねぇとですが‥残すくれぇなら、シーヴが食べるです」
「ユリア、こんな話を知っているか? 偏食をする女性は胸の発育が悪い。胸の大小は女性ホルモンによって左右されると言われている。野菜、魚、肉を食べる事によって女性ホルモンの1つであるウユニョキが分泌され胸が大きくなる。しかし、食物摂取バランスが偏るとウユニョキの替わりにウユニンヒという阻害物質が分泌され胸の発育が遅れる」
「ウユニョキ? ウユニンヒ???」
 呪文のような言葉に目を丸くするユリア。
「バランスよく摂取する事で望む物を手に入れられるよ」
 じーっとレタスを見つめた後、諦めたように口に運ぶ。
「ユリアは自分を変える為に辛い努力が出来る立派な女性だね」
「ねえ、それってホントなの?」
 ユリアと違い、ペタが気にならない忌咲がベーオウルフの脇を突っ突く。
「豊胸は民間伝承だが、バランスよく食べる事が体に良いのは本当だよ」
 にこーっと爽やかな笑顔を浮かべるベーオウルフだったが、大嘘である。
 ベーオウルフの趣味に『本人が嫌がる事を自発的にやらせること』という困った趣味がある。
 頑張ってサラダを食べたユリアはホアキンがくれたミルクジャムをたっぷりつけ、パンをひたすら食べていた。

 食後の一服は各自のお好みで。
 世界三大紅茶にマテ茶、自家製のハーブティーも色々あると言う。
 お茶淹れだけは得意だというシーヴが食後の紅茶を用意している。
「じゃあ自分はコーヒーを淹れましょう。コーヒーには自信がありましてね?」
 クラークがコーヒーを落とす。
「美味ぇです?」
「お代りはいかがですか?」
 お代りを勧める2人。

 楽しい時間はあっという間に過ぎて行く。
 思い思いの言葉とハグを交し、ある者は連絡先を渡す。
「また来てくれ、です」
「あ、これ私と妹の連絡先だよ。何かあったら呼んでね」
「何かあっても無くても‥また、いつでもおいで」
 こうしてユリアの小さなLH旅行は終わったのであった──。