●リプレイ本文
親しい友人だからこそ出来ない恋愛相談も親しく無いから出来る部分がある。
多感な10代の時に『女のような顔』と『脛毛が生えないのが気持ち悪い』という外見を理由に手酷く振られて一時期人間不信になったり、
誰かを愛し過ぎて出来てしまった心の隙間を埋めるように夜毎ベットの相手を変える友人らを知るからこそ恋愛に臆病なのかも知れない。
そう真面目に思って出した依頼だったが、アジド・アヌバ(gz0030)の微妙な依頼に集まったのは、これまた微妙な7人であった。
「大の男がうじうじしやがって手前ぇの恋愛の決着ぐらい手前ぇで着けろ。このヘタれブラコン野郎!」と言われるのは百も承知なので、クラリッサ・メディスン(
ga0853)と
「貴方にはヘタレ1級の称号を下賜したいと思います」という最上 空(
gb3976)の厳しい視線が注がれても気にならない。
「可愛ければ、別に性別なんて大した問題じゃないと思いますけど」
女装をこよなく愛する美少年 忌瀬 叶(
gb0395)、
「まったく、最後には交わらないことが分かっているんですから結果を先延ばししてもしょうがないでしょうに‥」とカルマ・シュタット(
ga6302)に言われ、
「とりあえず、おめでとうさん」とツァディ・クラモト(
ga6649)と、
「女装美少年に告白されたんですってね。二人並んでパナさん所に行くと面白くなりそうな予感」と森里・氷雨(
ga8490)に言われて流石にがっくりする。
「茶化しに来たんですか? まあ‥‥他人の恋愛なんてそんな物かも知れませんが」
「いや、別に自分はそういうのに偏見無いし」
「でも俺は可愛い子なら、男の子でも良いと思うんですけど、少尉さんは我侭ですね」
「ボクはそこまで悟っていませんので」
「アジド様‥‥サルヴァ様とのご結婚おめでとうございますですわ」
Innocence(
ga8305)に言われて激しい目眩を感じる。
「‥違います」
「‥‥違いますの? あら‥‥てっきり、そうだと教えて頂いたものですから‥‥。まだご婚約でしたですのね‥‥」
「いや‥‥それも‥」
面白がって様子を見ていたS・シャルベーシャ(gz0003)がアジドを腰を抱き寄せ、Innocenceに尋ねる。
「俺達は立派な夫婦になれるかな?」
「大丈夫ですわ‥‥きっと、幸せな夫婦に‥‥夫夫ですかしら? なれますわ。わたくし、よく判りませんけれど‥‥きっと、なんとかなりますわ。真面目に真剣に、アジド様を応援しますですの」
ゲラゲラと大笑いするシャルベーシャを押し退け、Innocenceに真剣な顔をして言う。
「百戦錬磨のサルヴァの二枚舌を信じたら脳が穢れますよ」
「まあ‥‥まっすぐなアジド様、わたくしは好きですよ」
「‥‥えー‥‥ありがとうございます」
Innocenceに礼を言うアジドを見たカルマが尋ねる。
「まぁポジティブな意見を言わせて貰えば『女の子みたい』であるだけでも言い寄られたことはいいのかな?」
「まあ、少なくとも真面目にボクを思って言ってくれていますからね。今迄のタイプは誰かの代用品か下半身目的の相手でしたから」
「それも不幸だな」
●恋せよ青年
「恋愛観か‥‥‥やめとこう」
椅子に座った一同の顔を見回したツァディが一言。
「まぁ、どっかの誰かみたいに同性愛好じゃ無いな」
「言っておきますが、俺は心も体も男の子ですよ」
「俺の好みは、ロリ顔巨乳美少女が空から‥(中略:一時間経過)‥何度か女子校潜入を図るも邪悪に阻まれ‥最近美少女達の軽蔑の眼が快感に。都合のよい幼馴染も良い。が、委員長系からの被虐も良いと思える昨今。オパイ‥」
「氷雨さんは、何を語ってくれているんでしょう?」
「‥‥多分エロゲだと思うが‥‥」
「‥いいじゃないですかっ! 夢くらい語っても! ああ、野郎型が厭という理由でリカに乗ってる変態だとも! 全KVを女性型にすべきだ。女性型以外認めん!」
「あ、キレた」
「可愛い娘型がでてもあのコクピット位置が許せない! なのに俺の周りは変態野郎キメラばかり‥」
「飛行形態だとしょうがないですよね?」
「MSIでもビーストソウルと同時に女性KVのデザインしたらしいですが、価格が雷電を越えるだろうと企画で潰れたらしいですけど」
アジドがぽつりと言うのを語っていたはずの氷雨が突っ込む。
「コックピットの位置は?!」
「一応、鳩尾から腹だな。アレは燃料タンクが胸、デカいエンジンを守る装甲がロングスカートに見えるんで翼の女神の異名があったな‥‥」と言うシャルベーシャ。
「畜生、俺の貞操を返せ! 悪名高い固茹で中年と遊技場のナンパ軍曹が、羨ましい妬ましい。ギギギッ!」
「おもしろい‥‥百面相だな」とシャルベーシャに感心される氷雨であった。
●きっぱり断ろう
アジドから一通りは無しを聞いた後、
「アジドさんにその方と今後お付き合いする気がないのなら、速やかにその旨を相手の方に伝えるべきだと思います」と、きっぱりはっきりクラリッサが言う。
理由は、時間が経てば経つ程、相手(瑞島 摩莉鴬)が恋の成就に期待を抱き、その期待が大きければ大きいほど、それが破れた時のショックは大きるだろうと言う。
「そうですよ。どうしても駄目だと言うなら、告白された時点できっぱりと断ってた方が良かったと思いますよ? まぁ、過ぎた事を言っても仕方ないですけど」
皆に責められるアジド。
「うっ‥‥それは‥しばらく彼が男の子だって判らなかったですよ。‥‥‥ショックは判りますが、返答しない場合は自然消滅じゃないんですか?」
男同士というのは100歩譲って、7歳も離れた相手であるアジドの感覚だと学校の先生に恋心を抱くような感覚で、真剣かも知れないが一時的な可能性が高いだろうと思っていたのでクラリッサの意見はびっくりである。
「断る時は正直に、『君が悪い訳ではなく、自分は同性をどうしても恋愛対象には見る事が出来ないから、ごめん』と伝えるべきですわね」
「それには空も同意見です」
「俺達が彼女に言ったりするよりもアジドさん本人が断るしかないと思う。やっぱり断り方としては何が悪いのかを明確に言ってあげないとダメだと思うな」
「そうですよ。瑞島君も外見や言動に関係なく瑕疵はひとつも無い。少尉の嗜好だけの問題だと、確り断わらないと失礼です。‥多分、彼は男らしい根性の持ち主ですよ」
「俺の出来るアドバイスは、小細工抜きでキッパリとお断りしろ、ですかね」
多感な男子高校生が好きな相手の為に女装をするのは大変な事だと言う。
「まあ、忌瀬さんのように趣味女装な人もいますけど」と氷雨。
きつい言い方をせず、やんわりと、誠意を持って言うべきだろう。
「すみません、瑞島さんは本当に可愛いと思いますよ。ただ、ごめんなさい‥私は男なんです。それで僕は同性は恋愛対象としてみれないんです。ほんとうにごめんなさい。って感じだろうか? う〜ん、ストレートすぎるだろうか?」と真面目な顔をしてカルマが言う。
「ついでに恋人は無理でも友人としてなら、という曖昧な態度も避けるべきですね」と言うクラリッサ。
「友人ならゲイでもなんでもいいんですが‥‥ダメですか?」
「いつか心変わりしてくれると勘違いさせる原因にもなりますからね」
どうしても駄目なら「あなたの知らない新世界」に全員が飛び込めと言うが、それはパスとあっさり言う。
「ならば性的嗜好が合わない以上は瑞島さんには悪いけど断るしかないな。ただ、アジドさんもそうゆう純粋な思いをくれたことを忘れてはいけないと思うな」
「そうですね。摩莉鴬君にも『単なる性別』と言う理由で断るのが失礼かと思いましたが、このままダラダラと結論を引き延ばしてもしょうがないです。まあ言葉を選んでお断りしますか‥‥」
「向こうも覚悟して告白したんでしょうし、こっちも誠意を見せてあげて下さい」
「まあ、頑張ります。ボクは口が悪いので自信がありませんが」
女性の目線で恋愛に関する意見は貴重だったクラリッサに礼を言い、
摩莉鴬君がちゃんと話を聞いてくれるといいんですが。と苦笑するアジド。
帰宅時間に併せて最近、摩莉鴬に待ち伏せされているのだと言う。
「それって‥‥ストーカー?」
「まあ一種そうかもしれませんが、現在の所実害が無いので」
本人いたって呑気である。
●具体方針
「瑞島君の身辺調査結果だよ」
氷雨と叶がして来た摩莉鴬の身辺調査である。
「ピカピカの純粋。学校でも近所でも良い評判しか無いし、成績も何時も学年ベスト3に入る真面目な子だよ」
「でもストーカーなんて‥思いつめちゃったんですかね」
「罪作りですね」
全員の視線がアジドに集中する。
「う‥‥困っている人を助けるのは、普通じゃないですか」
「お約束ですが、他に好きな他に好きな異性がいるのでと断るのはどうでしょうか?」
まぁ、いざとなったら、他の参加の方に、 恋人のフリをして貰ったらいかがでしょうか? と空。
「ボクも同性愛好以上にアウトなのは児童愛好なので空さんと恋人のフリはできませんね」
「大穴で、性別が男である言う一点のみが問題なのなら、相手の方に性転換して貰うのはいかがでしょうか?」
「空さん、適当に言っているでしょう?」とアジド。
「はい、凄く思い付きで適当に口にしているので、むしろ本気にされても困ります」
「じゃあ、ボクも言いますが、依頼に対して場を乱し、円滑な解決を促す行動と見なせない不遜な態度を確認した時は、損害賠償請求を参加者に与える権限を依頼主は持っているんですよ?
自分が思うより人を傷つける言葉があるを忘れないで下さいね」とにっこり笑ってアジドが言う。
「黙りやがれ、ブラコンヘタレ野郎と三丁目の野良猫が言っていましたよ?」
「‥‥‥そういう誤魔化しもダメです」
どうやら空は、アジドのブラックリストに完全に乗ったらしい。
「だが、空の言うように誰かとカップルのフリをさせたり、小芝居でもしてみるか?」
「う、浮気なんてしたらいけませんの! アジド様は、サルヴァ様という大事な方がおりますもの‥‥!」
「『アジド&サルヴァ』‥‥‥恐ろしい図だな」
「ボクもディープなサルヴァファンから刺されるの嫌ですよ。それにサルヴァのGFに悪いから嫌です」
アジドも男からラブレターを貰う事が多いが、シャルベーシャも男からラブレターをたまに貰うのだと言う。
「‥‥‥本人はどうしているんだ?」
「サルヴァは気にせずそのまま内容を確認したらゴミ箱に放り込んでいますよ」
「アジド様ったら何時の間にかサルヴァ様を呼び捨てなんですね♪」
「えー‥‥癖と言うか、付き合いが10年以上になりますから」
「その頃からラブラブなんですね‥‥」
話が進まないとInnocenceとアジドを他の部屋に放り出される。
期末テストの絡みで摩莉鴬は、この2、3日アジドの前に姿を現していないと言う。
「なら好都合だな」
脚本ツァディの小芝居ときっちりアジドが摩莉鴬に断ると言う段取りである。
「まあ、美女カップルに見えないからアジドとInnocenceが恋人役でいいんじゃないか?」
「他の役分担か‥俺とツァディさんとで分担します?」
「なら男Aが俺、男Bが氷雨でいいか?」
●ラブラブカップル大作戦
ターゲットの摩莉鴬が校門を出て来たところを見計らってしらじらしく小芝居である。
アジドが言うように髪は柔らかいサラサラストーレート、ぱっちりとした大きな黒瞳に長い睫毛、線が細く華奢で小柄な美少年である。
(「ああいうのが趣味なわけね、‥覚えとくか」)
A「俺、最近気になる人ができたんだ。依頼で一緒になった少尉なんだけどさ」
B「ほー、誰?」
A「資料室のアヌバ少尉」
アヌバという言葉に摩莉鴬が立ち止まる。
B「え〜、あいつ男だよ? 普通に女が好きだって言ってたし」
A「マジか!」
B「本人も男は『絶対』無理って言ってたしな」
A「あれは男好きする顔じゃ無いのか?」
B「いやぁ〜、無理無理。俺の知合いがちょっかいを出して張り倒されたって言う話だし。しかも両目が赤く光る悪魔みたいな奴と、仕事そっちのけでカジノやナンパに出かけるような奴が友人らしい」
A「‥‥‥あー、よく繁華街でつるんでいるの見かけるよなぁ」
B「しかも本人は出世より年金が気になるというジジ臭い始末」
A「げ、なんだよ。それ‥‥なんか幻滅だな。まあ、お前が言うのように諦めるわ」
B「それがいいって」
摩莉鴬の前を通り過ぎ、角を曲った所で摩莉鴬の様子を盗み見る。
「どうだ?」
「良く判らないな‥‥」
下を向いて摩莉鴬が走り出す。
「とりあえず第一段階成功か?」
一方、アジドの服の裾をちょこんと握り、後をついて歩くInnocence。
実年齢を知っているとは言え、美人のInnocenceと歩くのは満更で無いらしく口元が弛みぱなしである。きちんとInnocenceの歩く位置が補導の奥になるように歩いたり、段差には手を差し伸べたりする。
「アイスクリームたべたいですの‥‥だめですかしら?」
「いいですよ? 何が良いですか?」
かなり楽しそうである。
デートをしているように手を繋ぎ、仲良く連れ立って歩く姿はかなり目立つ。
「摩莉鴬様はおいでになりませんね?」
「そうですね‥‥Innocenceさんはお腹が空きませんか?」
観覧車が見えるレストランがあると言う。
食事の後に観覧車を乗る。
「今日はもう摩莉鴬君は現れないようですから、帰りましょう」
タクシーを止め、Innocenceを乗せる。
運転手に行き先を指示するアジドの頬に「ちゅっ♪」とキスをするInnocence。
「今日、遊んで頂いたお礼ですの‥‥」
「どういたしまして。彼の所には明日にでも行ってみます。今日はボクも楽しかったですよ。是非機会があればまた遊んで下さい」
にっこりと笑いInnocenceを送りだすアジド。
「アジドさん!」
アジドの背中に声が掛かった。
暫くして顔を押さえたアジドが待ち合わせ場所に顔を出す。
どうやら摩莉鴬に殴られたようである。
水割りを頼むアジド。
「本当に摩莉鴬君は弟と性格が似ていると言うか‥‥」
もうちょっと現代っ子らしく狡猾になってくれるといいんですが。と鼻血を拭き乍ら変な心配をしている。
「で、当人は?」
「叶さんが慰めていますよ」
ベンチに座って嘆く摩莉鴬を頭二つ大きい叶が優しく抱き締め慰める。
「仕方ないです。少尉さんとは価値観が違ったんです」
「摩莉鴬君は悪くないんですよ」
「まあ‥‥叶さんが追いかけ回されなければ良いですが」
純真故に最強でもある。
──翌朝。
「そういえば‥‥えと、依頼‥‥どんなご依頼だったのかしら‥‥?」
依頼内容を全く覚えていないInnocence。
「きっとアジド様、教えてくださいますですわ♪」
楽しそうに言う純粋無垢の最強女子であった。