●リプレイ本文
ミーティングを終了し、傭兵達が格納庫に向かう。
「それでは陽動作戦開始しますか」
覚羅が自らのTACと同じ死の天使の名を持つKVの風防を閉めていく。
「巧く引っ掛かってくれれば良いんですけどね」と一葉もまたディスタンに乗り込んで行く。
「まあ、俺達は陽動だしな。せいぜい引きつけさせてもらうさ」とサルファ。
(「今の僕の力、どこまで通じるのか試させてもらいましょうか」)
響は、先程るなとお互いの無事の生還を誓いあったばかりである。
「‥‥今度は九州か。何だか忙しないなぁ」
管制塔からテイクアウトの指示を待つユーリ。
「ほんま、それに宮崎から福岡っつーことは、片道250km以上の長旅や‥」と小町。
「かなり大規模な作戦ですね、皆さん頑張りましょう」と霞澄が声をかける。
「今回ばかりは‥少し危なくても敵を多く倒せるように動かないとな」
偵察が終わるまで派手に動き回り撃墜記録を作らせて貰う。と武流が言う。
「九州全土をバグアに渡したら顔向けができん。がんばるで」
親の郷里が大分にあるという玲奈とは反対にピクニックに参加するような軽さなのはロナルド。
「HAHAHA! 美しい女性と同行できるナンテ、最高の仕事デ〜ス」
「適当に敵を引き付けたら長いは無用だな」
──連絡を絶った芦屋基地周辺地域。
誰もが、いつもよりちょっとハード偵察だと思っていた。
だが、それが惨劇の予兆である事を誰も予感しなかった──
●The report concerning scout of district around Ashiya Air Base
【参加総人数】30名の内、偵察班15名(α)、陽動班15名(β)
【種別】UTL傭兵
【陽動班参加者名:UTL登録順】
霞澄 セラフィエル(
ga0495)
須佐 武流(
ga1461)
伊藤 毅(
ga2610)
ロナルド・ファンマルス(
ga3268)
緋室 神音(
ga3576)
三島玲奈(
ga3848)
ユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)
音影 一葉(
ga9077)
サルファ(
ga9419)
神無月 るな(
ga9580)
烏谷・小町(
gb0765)
神浦 麗歌(
gb0922)
月影・白夜(
gb1971)
美環 響(
gb2863)
鳳覚羅(
gb3095)
【作戦概要】
本件陽動部隊。参加要員の内6名を偽偵察班B班とし領域内に展開。
残り9名を偽偵察班B班に対する陽動実行班 偽陽動班A班とす。
新日原航空基地<RJFN>をαより先行出発。
作戦終了後、玄界灘にて韓国空軍と給油の為合流。
同沖島付近停泊中のUPC九州海軍空母にて補給。
<RJFN>に帰投。
備考:余力ある時は、地上空撮を敢行。
A班(偽陽動班)
・α及びB班より先行出発。
築城航空基地<RJFZ>交戦状況を鑑み、
<RJFA>との中間位置に属する福智山への誘い出し予定。
敵勢力と接触後、交戦。敵兵力の引き付けを実施。
αの状況を確認後、B班と合流もしくは追従する形で宗像市を通過、韓国軍との合流地点へ。
B班(偽偵察班)
・αより先行、A班に遅れ出発。
A班交戦空域を迂回。
飯塚市方面より遠賀川を北上、芦屋基地<RJFA>に接近。
敵勢力との接触を実施。
αの状況を確認後、A班と合流もしくは先行する形で宗像市を通過、韓国軍との合流地点へ。
各班詳細については、別紙へ。
<別紙>
●A班
築城基地の混乱ぶりを伝える無線が回線に割り込んで来る。
遠い右舷の空は霞んでいる。
爆発で生じた煙と火花作り出した濁った雲である。
「そろそろ警戒区域だね」
「そろそろです」と麗歌が頷く。
間もなく福智山の上空に差し掛かる。
陽動班を頭痛と吐き気が襲った。
CWが近くにいる証拠である。
痛みの為に集中力を欠くのを必死に堪え、レーダーを調整し敵の位置を確認する。
「Radar echo,IFF negative」
「Enemy tally−ho,12 O’clock」
「本番開始だね。いくよ!【Azrael】」
8つ敵の位置を確認したKVが展開していく。
半径1kmに満たない狭い範囲にHW5機とCW3機。
「NEMO,Engage.Seeker open,lock on FOX2」
毅がCWを守る形に展開しているHWに対し、まずは攻撃を仕掛けようと警告を発する。
だがHWもロックオンされたと思えば退避行動を行うか通常は反撃を仕掛けるのだが──前に展開していたHW2機が横にずれ、守られていたCWの全容が見える。
「何、あれは?」
霞澄がCWに釣り下がった鳥籠のようなモノを見つけて言う。
「まさか‥‥人?」
3つの籠に入ったモノは、座り込んだ子供に見える。
傭兵らに動揺が走る。
高度を考えれば外気は氷点下である。
強化人間だろうと普通の人間だろうと生きている可能性はかなり低い。
「なかなかどうして‥‥やってくれるね」
覚羅は己が強く噛み締めた奥歯の軋みを聞く。
──はっきりしているのは唯一つ。
ここでCWを攻撃をすれば籠の中の人物は誰であれ100%確実に死ぬだろう。
攻撃を中断し、散開しながら通過するKVの尻に容赦ない攻撃を加えるHW。
『ザザ‥我‥戦いを‥ま‥ず‥‥‥‥警こ‥する‥ザリ‥ザリ‥う兵らは‥‥撤っ‥望‥ザザザっ‥‥』
「なんだ?」
ザリザリとしたノイズに混じり、第三者による割込みが入る。
『ザザザ‥私は‥アジア・オセアニア統治官ジャッキー・ウォンである。
汝らは速やかにこの戦闘を中止し、この空域からの撤退を命じる』
「なんだと?」
『汝らの行為は悪戯に戦火を拡大し、民間人に対する被害を大きくするだけのモノである。
速やかに武装を解除し投降を行うか、戦闘を中止し、この空域からの撤退を命じる。
応じられぬ場合は、止むを得ない自衛処置として、当バグア軍は反撃行動を実施する』
「ふざけるな!」
無機質なテープのような男の声が一変する。
『ふふっ‥‥威勢がいいですね』
ウォンと名乗った男は籠に入っているのは【生身の人間】であると傭兵らに教える。
「子供達を盾に‥‥この卑怯者!」
『人聞きの悪い。私どもにしてみればこの辺りの地域は価値が低いので、纏めて吹き飛ばしても差し障りないのですが、彼等が皆さんに「どうしても御願いをしたい事がある」と申されましたので、こうしてお連れした訳です』
「どうせ脅して乗せたんでしょう?!」
『私は戦闘が起った場合「大事な家族や友達が巻き込まれて死んでしまうかも」と説明しただけですね』
「すぐに子供らを解放しなさい!!」
『おやおや‥‥寒い中を頑張ったのに傭兵のお兄さんやお姉さん達は、君らの願いを聞いてくれないそうです』
籠の中にいる子供達にも会話が聞こえるのだろう。
モゾモゾと動く子供ら。
『忘れていましたが、この様子は九州全域にリアル放送しています』
「なに?!」
『この子らを害さない。という証明する為でしたが‥‥どうやら皆さんにとって民間人の命は取る足らない様で残念です。私が彼等に出来ることといったら──このまま地上に戻して周りから非難されたり、大事な人を失って辛い思いをするよりは、ここで退場して頂いた方が幸せという事で‥‥』
CWと籠を繋いでいた何かが外れたのだろう。
「止めてぇぇぇーーーーっ!」
ガクンと一揺れすると地上に向かって子供の入った籠が1つ落下して行く。
見えない命の綱を掴もうと格子の隙間から必死に手を伸ばす。
強風にかき消され、聞こえぬ悲鳴を上げて落ちていく。
『籠は、あと2つ‥‥どうします?』
恐怖と絶望に彩られた表情を浮べ落ちて行く子供らの表情は外部カメラでは小さすぎて捕らえられなかったのは救いだったかもしれない。
(「指揮機を墜せば‥‥」)
3機のHWは、何れも同じに見える。
『もう一つ言い忘れました。私は彼等のように勇気がありませんので、この様子は地上で彼等の家族と一緒に見させて頂いています』
耳を澄ませばウォンの声に混じって複数の男女の悲鳴と鳴き声が聞こえる。
『撤退しますか?』
2つ目の籠が落下するとほぼ同時に3つ目の籠も落下する。
『おや? 3つ目の籠も落下してしまいましたね』と言うウォンの声はどこか楽しげである。
罵声と悲鳴に混じり、乾いた銃声が短く繰り返し聞こえる。
同席しているという家族に向かって銃が放たれたのだろう。
「貴様、ワザと‥‥」
言葉が終わらぬうちに一斉にHWが砲火を放ち、CWが出力を上げたのか頭痛が酷くなる。
ユーリのバルカンが固まっていたCWとHWを分断する。
「そんな攻撃、人質がいなければ当らない!」
機体を翻し回避から攻撃へと機体の位置を変化させる。
「――Aether【アグレッシブ・フォース】起動‥‥ここで落ちなさい!」
神音のレーザーが煌めく。
「1体づつ確実に潰すんだ」
「これでトドメだよ」
ユーリのバルカンに追い立てられたCWにホーミングミサイルを放つ覚羅。
「【EX】、熱くなり過ぎるな」
「判っている!」
落下して行く籠を着艦用フックで優しく受け止め子供を助ける事等、軍のエースナンバー達でも上手く行く保証は無い。ましてや空中変形し籠を抱きとめたとしても、着地ができない事をウォンが百も承知で籠を落としたのはサルファにも判っている。
だからと言って身を切られる思いに冷静ではいられない。
「腸が煮えくり返っているのは皆も同じだ。だが俺達はあくまで陽動だ。敵がこっちに集まってくれればそれで目的は達成だ」
今、ヒートアップすればαやB班に影響が出る可能性が高い。
CW3機とHW5機を血祭りに上げたところで失った子供の命は戻らない。
「この借りは後で纏めてヤツに返す」と武流のソードウィングがHWを裂く。
「彼等に魂というモノがあるのなら‥‥魂に幸いあれ」
落下して行くHWを見つめ、吐き捨てるように響が言う。
●B班
空撮を偽装するロナルドのウーフーを中心に霞澄と小町のKVが2機が並列で先行し、後方を一葉、玲奈、白夜が守る。
「A班が敵と接触したみたいですが‥‥大丈夫なのでしょうか?」
妨害電波で途切れがちの通話からCWとHWに接触したのは判ったが、状況が良く判らない。
「不安だけど‥‥僕らの方にも上手く掛ってくれるといいですよね」
白夜が不安げに言う。
「僕達は陽動‥偵察隊の人達が動き易い様に敵の目を引き付けませんと‥」
「せやね。こっちに引っかかってくれると、本命の人たちが楽やからね」
警戒に当る小町のレーダーが巨大なキメラを捕らえた。
「ウーフーは周囲の警戒をお願いします。他機は‥1秒でも多く時間を稼ぎますよ!」
一葉が皆に声をかける。
「‥‥綺麗とキメラに言ってはいけないんでしょうが」
「まあ、確かに神々しいっていうてもキメラやしね」
美しい白く長い毛皮を持つ8mの飛龍である。
ロナルドの「ファイヤ!」という声と共にホーミングミサイルが放たれる。
迫るミサイルに闇弾が接触し、軌道がずれる。
「は虫類の癖に生意気デース!」
玲奈がロールでキメラを翻弄し、脇腹に白夜と一葉がAAMをぶち込む。
「白銀の騎士を‥侮らないで下さい‥‥」
「私のディスタンを無視するとは迂闊にも程があります!」
本来ならばキメラを撃墜する所だが、あくまでも陽動が目的である。
敵がキメラとKVの戦闘に気がつき、HWなり増援がいるならば増援が来るように待たねばいけない。
キメラを落とさないように加減し乍ら適当な攻撃と回避で時間を稼ぐ。
「皆サン、時間デース。これ以上キメラと遊んでいられまセーン」
偽撮影班の最大の敵は時間である。
分刻みのスケジュールの中で敵を引き付け、仲間と合流するかがポイントである。
「頃合ですね‥すみませんが‥煙に巻かせて頂きます」
白夜の煙幕と一葉のラージフレアにタイミングを併せた玲奈の弾幕がキメラの視界が塞がれる。
「其れでは‥ごきげんよう‥‥WHITE OUT」
霞澄のレーザーがキメラの頭を貫き、落下して行くのが見える。
「ふぅ‥‥結構へヴィやったかも知れんなぁ‥」
小町がホッとしたように言う。
「ええ‥早く合流地点に向かいましょう」
●FOX EYE’s
──新日原に戻って来た傭兵らの表情は暗かった。
韓国軍とのランデブー前の玄界灘でも敵の待ち伏せに会い負傷者が出たがCWやHW、キメラも倒した。
また(バグアの武力顕示なのかもしれないが)占拠後撮影が成功出来なかった地域の撮影成功というオマケまでついて、作戦は大成功であった。
だが──
「後は本命に任せましょう‥私達にできる事はやりました」
籠の事を聞いた一葉が苦々しく言う。
「あの地は帰して頂きます‥今で無くともきっと!」
るなが格納庫の壁を思いっきり叩いた。
***
──バグア春日基地司令室。
「どうだね、地球人と言う奴らは? 非常に楽しい生き物だろう?」
後ろを振り返らないままモニタを見つめるウォンの目が楽しげに歪む。
「このエリアは君に預ける訳だが‥‥くれぐれもやり過ぎんでくれよ? 私は無気力な木偶など──労働力にしかならんモノには興味がないからね」
その辺の匙加減を守ってくれ。と言う。
住民らに搬出されて行く遺体を一瞥した後、新しく任命されたバグア春日基地司令は短く質問する。
「統治官は、この後どうなされる御予定ですか?」
「そうだね。暫くは物見遊山でここに居るのも楽しいかもしれないな」
まあ、君の邪魔はしないつもりだがね。
そう狐目の男は笑った。
***
──UPC東アジア軍総司令室。
「芦屋及び飯塚は墜ちたか‥‥」
報告書を読み終えた男は、厳しい表情を見せる。
現在確認作業が完了していない南部を除いた福岡県の約7割が敵の手に墜ちた事になる。
傷つき乍らも作戦を敢行した傭兵らから上がって来たデータによれば軍の施設を含めた兵力が鹵獲された事も同時に確認されている。
男は報告書に添付されたバグアが放送した映像を再生する。
『コレ』を見せられた市民らはどう思ったのだろう?
バグアに対する怒りや恐怖?
それとも助けてくれなかった傭兵らやUPC軍への怒りや絶望なのか?
影響は測り知れない。
統治官と名乗るウォンはバークレーに北京攻撃を指示した人物とされ、情報部が所在を長く探していた人物である。目をつけられた都市は少しずつ静かに身体に溜る毒のような恐怖と狂気という鞭で、自ら狂う迄生殺しにされるのだ。
実際、インドの奥地ではウォンが煽動し暴徒化した市民にミサイル基地が襲われ、襲った市民共々基地が壊滅している。
「状況によっては築城基地の放棄を余儀無くされるかもしれないか‥‥だが、こちらには佐世保や大村、新日原もある。奴らの好きにはさせん」
斯くして九州全域に非常事態宣言が発令されたのであった──。