●リプレイ本文
大規模作戦の噂を聞いて元陸上自衛官の珠美は、今回参加することを決めた1人である。
珠美が以前所属していた普通科では、飛行機どころかヘリコプターの操縦等習わないのだ。
初期トレーニングで体験していたが、それだけで安心する事が出来ない。
(「今のうちに操縦に慣れておかないと‥‥」)
武者震いをする珠美。
同じように不安を感じている者もいるのだろうか? ふと不安になる。
現在珠美のいる部屋は、シュミレーションを体験している姿を見学に出来るようになっているモニターがある部屋である。
コックピット内の様子と再生された空域の様子を食い入るように皆が見つめている。
「ほう‥‥。これが話しにあったシミュレーターですか」
「しかし、最近のシミュレーターはよく出来ているな」
公司とアキラが感心したようにモニタを見つめる。
「だがGが無いとゲームみたいだな‥‥これガキどもにやらせたら楽しそうだ」と蒼仙。
「ええ。実際のGで音をあげる方は結構いらっしゃいますよ」
書類を抱えた女が、一同に声をかける。
「本日、皆さんのお手伝いをさせて頂きますプリムラ・Aです。今回G訓練が入っていませんので、それは次回の案件にさせて頂きます」
にっこりと笑う。
「本日はドックファイトを体験して頂きます」
「正直、剣を使う方が好きなのだが‥‥まあ我侭も言ってられんか‥‥」
そういうのは、狼貴。
「最初に言っておく! 我は3DSTGはそんなに得意じゃない!! どちらかと言えば2D横シュー派!」
ビシリ! と煙草を銜えたナイスバディ美女のメディウスがプリムラを指差す。
「我は最近の弾幕より、昔の打ち合いの方が好きなタイプだ!!」
「今回、残念乍らジョイスティックとXYZボタンは並んでおりませんよ?」
「そんな事は判っている。要は我の気合いの程を、そして知らない事を恐れる事ではないと皆に知らしめているだけだ!」
「それは頼もしい事です。一番大事なのは本人のやる気ですから、後は実力をやる気にどれだけ添わせられるかですね」
「プリムラ君は、かなり辛口だな」
「良く言われます」
「今回皆さんには3人1組になって頂きます。敵機の数も3機。1チーム10分間対戦して頂きます。ここ迄で何か質問はありますか?」
「ハイ!」と正和が手をあげる。
「俺は空中戦の経験がありません。どうしたら良いでしょう?」
真面目な顔をして言う正和。
普通に考えれば高2の正和にとって航空機、ましてや戦闘機の操縦等は遥か縁遠い話であろう。
だが正和もKVを受け取った能力者である。
「KVを支給される前に受けて頂く講議は、受講されていますよね?」
「講議の半分以上寝ていました」
ははっと笑う正和。
「編隊の規模に因らず、相対的な座標をずらし、相互にフォローし合うように飛ぶのが基本のようです」
突かさず研究端で解説好きな公司が言う。
「篠崎さんがおっしゃるように各々の不得意な部分を助け合って戦う‥‥まあ団体戦において、その点は地上でも空中でもそう変わりがないのかも知れませんが、雪ノ下さんが再受講出来るように手配しておきますね」
「あの、機体同士の腹を合わせるようにして片方が背面飛行とかの難しい操縦も練習してみたいですが、時間はありますか?」と硯。
「今日の利用者は皆さんが最後ですから、待ち時間の間に使用時間延長の申請をしておいて下さい。ただ私の個人的意見ですが、鏑木さんのおっしゃる技はパートナーとなる人と、どれだけ一心同体で動けるかが重要になりますので『にわか』チームだと接触して機体を壊す事が多いので余りお勧めしていませんよ」
「じゃあ、インメルマンターンとか木の葉落としとかは?」
「敵を振り切る際に有効ですので、それは宜しいと思いますよ。ただGが本物に比べてかなり少ないので物足りないかも知れませんが」
にっこりとプリムラが笑う。
班分けは、次の通りである。
・国谷・御山・井筒チーム
・露木・篠崎・雪ノ下チーム
・鏑木・蒼仙・メディウスチーム
「スナイパーの篠崎です。よろしく御願いします」
「‥‥一時とはいえ、背中を預ける仲間‥‥まあほどほどに宜しく頼む」
公司や正和と挨拶を交している狼貴の側では。
「我は美少女と見間違いそうな美少年の鏑木君と目つきの悪い蒼仙君と一緒か、まあ両極端の黒花に挟まれた紅一点というのも悪くない」
「呼び捨てで良いですよ。というか、名前で呼び捨てとかの方が嬉しいです」
「俺の側で煙草を吸わなければ誰でも構わん」
「煙草と酒は命の源だぞ」
今回の事がなければ、きっと顔を合わせる事がないだろう嫌煙家の下戸と大酒飲みの愛煙家。
「あ、チーム名とかコールサインを決めませんか? なんかコールサインとかあると気分が乗ってテンション上がりますよね、ね、ね? 『猟師と猟犬』とか格好良くないですか?」
(「面白いです‥‥」)
書類を持ったままプリムラが、鏑木・蒼仙・メディウスの3人を見つめる。
「ところで今回、特殊能力を使用して構いませんか?」
真彼が質問をする。
「構いませんよ。と言いたい所ですが、国谷さんの練成強化は『超機械』を使用する事によって初めて能力を発揮しますが、お持ちになっている超機械一号は電磁場を発生させますので、計器が御動作します。なので今回使用は認めらませんね」
「そうですか‥‥」
残念そうに言う真彼。
●国谷 真彼(
ga2331)、御山・アキラ(
ga0532)、井筒 珠美(
ga0090)チーム
『シュミレーションスタート』
抑制された合成音がコックピットに流れる。
振動と共に後ろに引っ張られるような軽い射出の衝撃を伴う。
それと同時に真正面に青い空が映し出される。
スタート地点から右方向に珠美をトップに一度直線に編隊を整える。
珠美がレーダーを設定を変えて、敵を捜索する。
「前方1時方向に敵機、発見‥‥2機? たしか3機って言っていたよね」
「索敵範疇外、どこかに1機隠れていると言う訳ですね」
「空の何処に隠れているか気になるが、残りが出て来る前に‥‥先に叩くぞ、国谷、井筒!」
「了解」
「こちらも予定通り『虎口』に侵入する」
3機は、まず真彼機をブーストを使用し1機突出する事により囮とし、釣られて出て来た敵機を哨戒担当の珠美機とメインアタック担当のアキラ機が叩く予定になっている。
予想通り敵機は囮に反応し、進路を変える。
更に誘うように真彼機が右へと機体を滑らせて行くのに併せて、敵機も位置を回り込むように動く。
「向こうは縦軸に並んでいますね」
「んじゃあ、私は後ろ奴を叩くよ。いいね、井筒?」
「‥‥ちょっと待った。何か変だ?」
珠美が目を凝らす。
そんな時、敵がブーストを掛け突っ込んでくる。
「違う、2機じゃない。向こうも3機だ、回避しろ!」
珠美らの目に先頭を行く戦闘機が、2機張りつくような距離ゼロで飛行で飛来して来るのが見える。
先頭2機が真彼目の前で左右に展開する。
「随分とつれないねっ?」
「国谷、前!」
後尾の1機が、真彼機を掠めるように正面から突っ込んで来る。
真彼とアキラ、珠美の間に敵機が完全に割り込まれてしまった。
セーフゾーンに離脱しようとする真彼機に食らい付こうとする敵機。
「振り切れない?!」
ブースターの使用は、今回1機1回と限定されている。
回避力にやや劣る真彼機に敵機が迫る。
「させるか!」
アキラ機が回り込み敵機の尻に向かってトリガーを引く。
「他、2機は? 井筒!」
アキラが右を振り返る。
珠美は敵機に20mmを撃ち込み何とか1機を撃墜したが、残りもう1機に回り込まれ餌食になってしまった。
●露木狼貴(
ga1106)、篠崎 公司(
ga2413)、雪ノ下正和(
ga0219)チーム
『シュミレーションスタート』
抑制された合成音がコックピットに流れる。
「ふふふ‥‥訓練とはいえ、楽しませてもらうぞ? 実践をより楽しむ為に」
狼貴が不敵に笑う。
このチームもまた、まず囮となる正和機がブーストを使用し1機突出する事により釣られた敵機を哨戒担当の公司、メインアタック担当の狼貴が叩く予定になっている。
狼貴・公司・正和チームに対して敵は右から3機V字編隊で進んで来る。
「‥‥‥3時の方角に敵反応」
狼貴の抑制された声がコックピットに流れる。
敵機は2機がそのまま直進し、1機がコースを下方へと変更する。
「囮に引っ掛かったんですかね?」
「判らないですね、今の状況だけでは。どちらにせよ先のチームとは別プログラムのようです。正攻法で行けば、2機で雪ノ下さんを叩きに来て、残り1機が哨戒担当でしょう。雪ノ下さんは予定通り予定空域を直進して下さい」
狼貴の後方を飛ぶ公司が答える。
「了解」
「掃討を開始する」
機体を上昇させる正和機に連動するように2機が機体を上昇させる。
つかさず狼貴がそれを追撃する。
敵機の後尾に機体をキープし、トリガーを引く。
「‥‥‥1機、撃破。もう1機は‥‥すまん、逃した。任せるぞ」
「了解」
公司が狼貴機が撃ち漏らした1機を撃墜する。
残り1機を探し、公司機が上昇する。
ビーッ!
鋭い警戒音が狼貴機のコックピットを包む。
「下?」
狼貴機の死角である下方から敵機が迫る。
鈍い振動がシートと操縦桿を通して狼貴に伝わる。
「機体損傷‥‥状態は‥‥」
機器の異常を知らせる警告ランプが赤く点灯する。自動消火装置をAIが制御したのか、赤いランプが1つ1つ消えて行く。
(「だが、このままでは‥後部を取られるな」)
狼貴が敵機を振り切る為にブーストスイッチを操作するが、いっこうに手応えがない。
「被弾した時に配線がいかれたか‥‥‥ここまでそっくりにしなくてもいいのにな」
苦笑する狼貴。
『露木機、撃墜』
モニタールームにアナウンスが流れた。
●蒼仙(
ga3644)、鏑木 硯(
ga0280)、メディウス・ボレアリス(
ga0564)チーム
青い空が広がり、予定された仮装空域に到着する3機。
「『ハウンド1(蒼仙)』より『管制官』へ、所定空域に到着、これより演習を開始する」
『「管制」から「ハウンド」及び「ハンター」各機、了解した。敵機との遭遇は10秒後になる。諸君らの健闘を祈る」
「なんだかワクワクしますね」
硯が楽しそうに言う。
「『ハウンド2(硯)』楽しみなのも良いが遊び過ぎるなよ」
硯に突っ込みを入れ乍ら、蒼仙はレーダーのレンジを最大にして索敵を始める。
「『ハンター(メディウス)』だけに任せずお前も索敵をしろ。相手を先に見つけ、優位な位置に着ければ、その分だけ勝利が近くなる」
「了解」
ブーストを使用して囮兼索敵として先行していたメディウス機。
「ふ‥‥敵が我を見つけるより先に敵を見つける‥‥運は、我にあり!」
勝ち誇ったように高笑いをするメディウスは、前方11時に敵機3機を発見する。
「『ハウンド2』より『ハンター』へ。何か見つけたんですか?」
「ああ、すまん。『ハンター』より『ハウンド』各機へ。敵を発見、11時の方向だ」
メディウスが示す方向、戦闘空域ギリギリを飛ぶ敵機がいる。
「『ハウンド2』より各機へ、どうします? 空中戦は上を押さえたほうが基本的には有利ですよね。俺だけ上がりますか?」と硯が言う。
「『ハウンド1』より『ハウンド2』へ。頼んだぞ、硯」
「了解」
戦闘予定空域の中央まで高度を上げそのまま飛行するメディウス機に着かず離れずの位置に硯が着ける。
漸くメディウス機を発見した敵機がブーストを利用して急降下して来る。
それに併せ、機体を更に上昇させる硯。
敵機は3対1の数の優位の内にメディウス機を片付けようと言う魂胆らしい。
「下より上から叩く方が好きだが、ここは勝つ為だ」
メディウスは機体を失速させ、機体を沈み込ませる。
反対に勢いづいた敵機はメディウス機を追いこす形となる。
硯機は、機体を反転させてブーストを吹かせ急降下し、1機の後ろに回り込む事に成功する。
蒼仙機もまたブーストを吹かせ急上昇をかける。
「チッ‥‥思うように上がらないな。重さはKVそのものなのか、それともシュミレーター故の重さなのか?」
機動の悪さに舌打ちしつつ、蒼仙も敵機の後ろを取る事に成功する。
「チェックメイトだ!」
敵機の腹下(死角)に入ったメディウスは、勝ち誇ったようにトリガーを引いた。
●反省会
「今回、各チームの個性が出ましたね。国谷・御山・井筒チームは、皆さんの個性を生かし切れなかったようで、ちょっと残念でした」
プリムラが打ち出された解析シートを見乍ら言う。
「でも良い部分もありましたね。井筒さんがレーダーに頼らず目視も多用したのは良かったです。実際ヘルメットワームのジャマーは、馬鹿に出来ない部分がありますから」
そう良い乍ら、プリムラはアキラ達に解析シートを渡して行く。
「実戦に出る前に少なくとももう一度訓練しておきたい所だな‥‥そんな暇があるかどうかだが」
アキラは溜息を吐く。
「もっと、訓練しなきゃ‥‥今のままじゃ皆の仇も討てやしない‥‥」
唇を噛む珠美。
「露木・篠崎・雪ノ下チームが残念だったのは、途中、露木さんが孤立してしまった部分ですね。ブーストで逃げ切れるか? とも思いましたが、露木さんはちょっと運がなかったです」
そう良い乍らプリムラが解析シートを手渡す。
「結果がどうであれ楽しませてもらった‥‥感謝する‥‥」
狼貴は感慨深げに公司と正和に言った。
「さて鏑木・蒼仙・メディウスチームは、メディウスさんが『運も実力の内』を実践して頂いたのは嬉しかったですね」
「それは、誉めているのか?」
「そのつもりです。メディウスさんは『在るのはゲームとアニメと特撮とそれに関連して齧った知識だけだ』とおっしゃっていましたが、シュミレーションゲームと言うのは現在メーカーが各団体から吸い上げたデータを論理的に解析し、教育用プログラムとして販売する為に製作されたものが殆どです。まあ一般ユーザー用ゲームは、かなり簡易的になりますが基本的な考え方は同じです」
「つまり我のゲーム好きも無駄ではないと言う事だな」
「そうですね。ただ、先にも言いましたが実際にKVで飛行する際にはGが生じますので、メディウスさんは体力に気をつけて下さいね」
「素直に誉めたまま終われない女だな。だが、ありがたく忠告受けておこう」
「それが私の仕事ですから。総括としては、数値や論理通りに行かないのが実戦ですが、数値は個人を客観的に評価する基準になります。是非、今後も戦闘の役に立てて下さい」
そう言ってプリムラは、資料を閉じるとシュミレーションルームを後にした。