●リプレイ本文
●いざ行かん、南の島へ
待ち合わせの航空ロビーに参加者達が集まり挨拶を交わす──。
「‥‥今回は‥‥ユリアと一緒に海で遊べると‥‥楽しみにしてました‥‥」
ユリア・ブライアント(gz0180)を見つけると抱き着いてゴロゴロと子猫のように咽を鳴らす憐(
gb0172)。
「お久しぶりです‥憐さん‥」
「‥‥これ、ロシアお土産‥‥」
バックの中から取り出したマトリーシカを渡す憐。
「ユリアちゃんお久しぶりですー。元気にしてましたー?」
「はい‥」
「今回はドーバー海峡を泳いで渡った祖父仕込みの泳法を叩き込んで差し上げますわ!」
気合い充分であるヴェロニク・ヴァルタン(
gb2488)に笑顔で返すユリア。
「初めまして、ユリアさん。今日は一緒に頑張りましょう」と声を掛けたのは冴城 アスカ(
gb4188)。
「は、はい‥」
今回のユリアの依頼は、水泳を教えてくれる先生だけではなく一緒に練習してくれる人も募集していたが、どこから見てもスポーツウーマンでも泳げないのかとユリアは目をパチパチさせていた。
「ハバキくん、お久しぶり〜☆」
空閑 ハバキ(
ga5172)を見つけ、ブンブンと手を振るのは大泰司 慈海(
ga0173)である。
「君がユリアちゃん? 可愛いね☆ よろしく!」
「よ‥よろしく‥御願い‥します‥」
「可愛い女の子も大好き☆ 可愛い女の子が泳げなくて困ってるなら、助けなきゃっ!」
握手をする親父を不安そうに見るユリア。
「あ、あの‥」
「大丈夫、セクハラはしないよ! 約束するよ!」
戸惑うユリアの気持ちを察したのだろう忌咲(
ga3867)がポンとユリアの背中を叩く。
「大丈夫だよ。ユリアさんも泳げないんだ。おそろいだね」
●白いビーチとわ・た・し
「うはっ、きれーいっ☆」
照りつける強い陽射しが何処迄も広がる青い空と海を印象づけるビーチに思わず歓声が上がる。
忌咲が海を見て、むぅっとし乍ら「油断が出来ない」と言う。
きょとんとしているユリアに、
「水深1mでも、私にとってはかなり深いからね」
身長112cm故の悩みである。
きちんと泳げるようになる迄は掴まり棒になりそうな泳げる者の側から離れないようにしなければ、と苦笑し乍ら言った。
「女の子はこっち、男の子はあっち」
浜辺のゲストハウスでそれぞれ部屋を別れて着替えである──。
「新しく買っちゃいました♪」
「ヴァルたん‥可愛いです‥‥」
サムズアップをする憐。
赤いホルターネックのビキニにパーカーとパレオ姿でくるり、と回ってみせるヴェロニク。
一方、明らかに子供サイズのピンクのフリルワンピースをバックから取り出した忌咲。
「それ‥子供用‥ですか?」
「だって、お店でサイズ合うのがこれしか無かったんだもん」
忌咲にとってもう1つの悩み。
洋服や靴、下着に至る迄が子供用かオーダーしかない。
憐は頭にネコ耳を装着したまま、紺のスク水。
その胸元に「れえざあれえさあ」の文字が輝いていた。
アスカは紺地に水色のラインが入った競泳用水着、
百地・悠季(
ga8270)は黄色地にオレンジのセパレートである。
二人ともシンプル故にスタイルの良さがバッチリと出ていた。
「うわ〜っ、二人ともスタイル良いですねぇ」
「え‥‥? そうかしら? そうでもないと思うけど‥‥?」
「ありがとう」
ヴェロニクに褒められ、照れくさそうに答えるアスカと悠季。
出っ張る所が出っ張り、引っ込む所が引っ込んでいる3人を見て、ぺったんな憐がユリアと顔を見合わせ、ぐっと拳を握る。
合い言葉は「いつか、きっと!」
切ない女心である。
先に着替えて休憩用のパラソルやら浮き袋の用意をしていた男性陣。
「おまたせ〜♪」
着替えて出て来た女の子達を見て思わず、
「やっぱ、海の楽しみはこれだね〜★」
青緑のサーフパンツのハバキが思わず口笛を吹き、
うんうんと頷く蒼紫地に和柄のサーフパンツのカミーユ(
ga7242)と、
アロハな南国柄のトランクスな慈海。
鼻の下を伸ばしている男達の後頭部にぴこぴこハンマーで成敗する憐だった。
「思ったより陽射しが強いね」
日焼け止めをいそいそと取り出す忌咲。
「忌咲さん、用意がいいね」
「私はすぐに真っ赤になっちゃうから、ちゃんと日焼け予防をしないと。ユリアさんも使う?」
「‥ありがとう‥ございます‥」
急な場所変更で日焼け止めを持って来なかったユリアには嬉しい申し出である。
「こんな強い陽射しじゃ、ちゃんと塗らなきゃ」
先に塗り終わったヴェロニクが塗ってあげる。と言う。
「普通は、ここ。男の仕事でしょう」
「ダメ〜っ」
不満たらたらの男性陣を横目にパーカーを脱いだユリアに一瞬ぎょっとするアスカ。
傷があるとは聞いていたが、顔に傷が一切ないのが逆に不自然に見える程の多くの傷跡が全身に広がる。
(「彼女も‥‥いろいろあったのね‥‥」)
アスカは弟を思い出し、一瞬胸が熱くなった。
●泳ぐ時、泳げば、泳ぐんです
「泳げない人。手を上げて〜♪」
ラウルの言葉に忌咲、憐、アスカ、ユリアの4人が手を上げる。
「ユリりんの他にも泳げない子、いるんだネ。一緒に頑張って練習しよ♪」
「皆、水に顔つけるのは平気なのカナ?」
4人のレベルを確認する。
「私は一応、浮き袋とかあれば泳げるんだけどね。水の中で目が開けられないんだよ」
「立派なカナヅチです」
「憐は‥ねこかき‥なら‥5km位は泳げますが‥やっぱり‥顔を‥水に‥‥つけられないです‥」
「ユリアは泳いだことがないだけ? それとも、水が怖い?」
そう質問するハバキ。
恐いならば無理は禁物である。
生まれてこの方水泳をした事がないユリアは、恐い基準が良く判らないと恥ずかしそうに下を向く。
「恥ずかしがる事ないよ」
くしゃくしゃと頭を撫でるハバキ。
「まずは全員顔を水につける所から開始だね」
「皆で‥頑張りましょう‥」
掛け声に併せ、浜辺でまずは全員で準備運動である。
「サボっちゃ駄目だよ〜。ちゃんとよく体をほぐしてネ」
特にユリアは殆ど上半身でのみ泳ぐ形になるので上体が念入り解れるようにラウルが支え乍らの運動である。
体が充分解れたところで、まず水に慣れる為に水際での水遊びである。
膝迄の深さで円なって皆でザブザブと水の掛け合いっこである。
ザブザブと水しぶきが上がる度にキャーキャーと声が上がる。
「第2ステップ〜! 『皆で顔を浸けて息を吐いてみよう!』」
「忌咲と憐も、波の少ない浅瀬から気楽にゴー♪」
今度は腰の深さ迄移動し、泳げる者、泳げない者が交合になり、お互いに手を繋ぎあって円になる。
「『泳げない』という方の大半は息継ぎに問題があって、それさえこなせば後は割と適当でもどうにかなっちゃうんですよ。基本は大事。‥‥‥と、お爺様が言ってました」とヴェロニク。
「最初は無理に目を開けなくていいよ〜」
始めは10秒、次は20秒と段々長くして行き、最後に目が開けられるかやってみるといいと言う。
「海水は目に染るからね〜。ちょっと無理だなぁと思ったらゴーグルをしてもいいからね」
そう慈海がアドバイスする。
「顔が水に着いたら怖がらずに息を吐いてね☆」
鼻と口から少しずつ吐くように指導するラウル。
せえのっ! の掛け声で一緒に潜る。
ぶくぶくぶく‥‥‥ぷあっ!
「次は目標1分、頑張ろうっ!」
南国のビーチは、熱血が一杯であった。
「よーし、がんばれ〜っ‥‥ここで、目を開けてみよー」
「青い魚が見えるよ」
「魚?」
「小さい青い魚、一杯いるよー。目を開けないと見えないぞー」
南国の珍しい魚を見たいと恐る恐る皆で目を開ける。
チョウチョウウオの一種が、人を恐れず泳いでいた。
どうやら皆、顔をつける事が出来るようになったようである。
次は、ねこかきが出来る憐を除いて浮く練習である。
「余分な力を抜いて、力を抜けば人の体は浮きますよ」
足の着く場所で体を支えられての練習である。
「浮くコトが出来れば、後は水をかけば進むからねー。息を大きく吸ってとにかくリラックス」
全く泳げないアスカとユリアより普段うき輪を使っている忌咲がここでは苦労していた。
「ビート板持って、ぷかーっと浮いてみよう♪ 慣れたらビート板なしでチャレンジだヨ」
人間溺れる時は、体に余分な力が入っている時である。
そう判っていてもビート板を外す勇気はいる。
だが、忌咲の今回の目標は「浮き輪無しでも何とかなる様にする事」である。
小さい恐怖心を無視して体を海に預ける。
「いーよ、いーよ、良い感じ♪」
綺麗に浮く事が出来た。
ここで一旦休憩である。
「泳ぐのって、体力使うね。休憩しないと疲れちゃうよ」
体力もそうだが、一度に無理をしても泳げるようにはならない。
だが、ゆっくりと休憩と思いきや、そんな時間も勿体無いと──
忌咲は持って来た水鉄砲でアスカを追い回し、悠季はヴェロニクを誘って沖合い迄競争していた。
慈海とハバキは、少しでも海の楽しさを知ってもらおうとユリアを浅瀬誘い、小魚や貝殻を拾って来ては見せていたが──
「じーかーいーくーーーーんっ★」
後ろからこっそり近付いて来たハバキのボディアタックを食らって見事に水没する慈海。
「これは良い子は真似しちゃいけない、悪い見本ってことで!」とウィンクするハバキ。
ザバっと跳ね起きた慈海。
「ハバキくん、ひどーいっ」
「あははっ。水飲ませちゃった? ごめ☆」
「飲んじゃったよ〜」
慈海に追い掛け回されるハバキ。
日焼け止めを塗り直して今度は全員でいよいよ本格的な水泳の練習であるが、ユリアのように下肢に麻痺がある者の水泳は、その麻痺の部位やレベルによって様々な指導方法があるが、それらは本来プロの指導をきちんと受けた方がいいので、今回は上半身を主に使う泳法としてポピュラーなクロールをラウルは教える事にした。
他の3人はバタ足練習である。始めは浮き輪やビート板を使っての練習である。
「膝が曲らないように注意して、そう、真直ぐ蹴る」
マンツーマンで指導に当る。
「アスカさん、上手い、上手い、もうじき10mだよ」
(「思ったより‥大変‥‥‥‥25mが‥‥遠い‥‥‥」)
『25mが泳げるようになる』を目標としているアスカだが、思った以上に水泳は使う筋肉が違う為か疲れる。
各自の体力に併せて細めに休憩を取っていく。
「はぁ‥‥はぁ‥‥はぁ‥‥泳ぐのって‥‥なかなか‥‥しんどいわね‥‥」
「でも、筋はいいですよ☆」
一旦休憩の為に浜に上がる。
アスカが海を振りかえると、
憐は足の立たない所で慈海に付き添われ、
忌咲は交代でヴェロニクと悠季が交代で浮き袋無しクロールにチャレンジをしていた。
「アスカさんも、もうひと踏ん張りで25m泳げるよ」とハバキが言う。
「そうかしら?」
そんな話をし乍らパラソルの下に行くと、すでにグロッキー気味でシートの上に突っ伏しているユリアを気づかうラウルがいた。
「ユリアさん、大丈夫?」
「はい‥‥アスカさんは‥‥頑張って‥くださいね‥‥」
斯くして一日と言う僅かな時間の水泳教室ではあったが、
ユリアは5m、
アスカは25m泳げるように、
憐はねこかきの新記録と普通のクロールを覚え、
忌咲もうき輪無しで50m泳げるようになった。
中々の成果である。
「お‥‥お疲れ‥‥様‥‥」
ぐったり気味だが、次は練習後のお楽しみである。
●フライング? いえいえ、頑張ったご褒美です
しっかりと練習でお腹を空かせたメンバー達の胃袋を収めるのは、カレーとバーベキューである。
気の早い連中は、酒を片手に料理である。
「スポーツの後の一杯は格別だし」
「ちゃんと練習中は我慢していました」
「エネルギー補給は大事ね」
「折角のビーチだよ。固い事は抜き〜☆」
「「「ね〜っ♪」」」
「一応、レトルトカレーなら作れるよ」という忌咲だったが、料理の得意なものが揃っているので大人しくビールを飲みながら飯ごうの番である。
悠季とハバキが、ビーチに椅子とテーブルをセッティングしていく。
ユリアは危なっかしい手つきでアスカと憐を手伝い(?)カレーに入れる野菜やバーベキューの具材を切っていく。
「ただいまぁ、大漁です〜♪」
「カレーでもバーベキューでも、エビや魚はいけますよね」と言って海に材料調達に潜りに行ったヴェロニクが嬉しそうに捕ってきた魚介類に混じって立派なウツボが混じっていた。
「結構イケるらしいですよ?」
「確かに美味しいって聞くけど‥‥」
「頭を落として、内臓取って、皮を剥いで‥‥3枚卸し?」
「中華でもウツボを使った料理ってありますが‥‥私はまだ捌いたことは無いですよ」
「慈海くん、おきなんちゅうでしょ?」
「郷土料理にイラブー汁ってあるけど、あれは干したウミヘビっ」
どうやって捌くか誰も知らない。
でも無闇な殺生はお天道様に反するのだ、と。
「そう言うときは、ぶつ切りにして突っ込む!」
「うわぁあああっ!」
内臓を取っただけのぶつ切りがカレー鍋に放り込まれる。
豪気である。
シーフードカレーにバーベキュー、塩ヤキソバにボイル野菜にソーセージ、冷たい飲み物がテーブルに並ぶ。
「お代わりも沢山あるからネーっ」
ジュージューと肉や魚の焼ける良い匂いが漂う。
陽の沈むゆく空は青からオレンジ、赤へと変化を遂げ、更に紫と金、濃紺へと変化し続ける。
クンクンと鼻を鳴らすユリア。
「お醤油と‥‥お味噌?」
カレーの匂いに混じって、ちょっと懐かしい香りがする。
「どうぞ‥焼きおにぎり‥‥作ってみました」
「いや〜ん、可愛いすぎ☆」
憐の作ったネコ型焼きおにぎりを見てヴェロニクが言う。
「食べるのもったいないネ」
すっかり暗くなった空に慈海が持ってきた打ち上げ花火が上がる。
それを見つめるユリアの隣に忌咲が座る。
「たまには息抜きも良いよね」
私は、最近息抜きしてばっかりな気がするけど。と忌咲が笑う。
ヴェロニクと憐もやってきて隣に座る。
「ユリアや‥皆と一緒‥‥楽しいです‥‥本当に‥‥」
そう憐もユリアに笑いかける。
サクサクと砂を踏んでアスカもやってくる。
「皆で何をしているの?」
「ユリアちゃんのお悩み相談会♪」
「悠季さんや‥ハバキさんにも‥心配かけて‥‥‥ユリアは‥幸せもの‥です」
膝を抱えたユリアがぽつりと言う。
アスカは腰を落とし、ユリアの頭を撫でる。
「ねぇ、ユリアさん。もし良かったら私とお友達になってくれない?」
アスカの言葉に顔を上げるユリア。
「皆と同じでユリアさんを心配する仲間になりたいのよ」
そう微笑むアスカにユリアは「はい‥」と小さく頷いた。
こうしてユリアの初めての水泳体験は終わったのであった──。