●リプレイ本文
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鈍い飛行音が響く。
補給機の飛行音だ。巨大な翼を大陸の空へと浮かばせ、GDABへと向かうその補給機を守る──補給をダミーとして西安近郊の敵戦力を探索する為の一部隊が組織されていた。大巴山脈にて、補給を済ませた護衛機達は、網の目のように張り巡らされている大陸のバグアによる占領空域へと踊り込む。
その部隊へと、何時ものようにHWの集団が浮かび上がり、接近してくる。
何処にも抜ける隙が無いかと思う程、空域に現われたHWを見て、補給機を守る機を残し、9機が速度を上げて飛び込んで行く。
ケッテに分かれた9機は、さらに大きな三角を空に描き、HWへと向かう。
その先頭を駆ける3機は、数多くの敵機を見ても動じないばかりか、僅かに笑みを浮かべる面子である。
風が唸りを上げてその翼を切って行くのが見えるかのようだ。綺麗な軌跡を描き、3機のエースが攻撃を潜り抜け、ミサイルを放ちながら、見慣れたHWのシルエットへと肉薄する。
「これだけの面子なら、思う存分暴れられそうだ『雷槍』決めるぞ」
「HWに後れを取る事はありません‥‥ね」
「問題あるまい」
雷電を駆る漸 王零(
ga2930)が笑えば、ミカガミ操る終夜・無月(
ga3084)が、ワイバーンの御影・朔夜(
ga0240)からの索敵情報を受け取り王零へと向けて声をかける。朔夜は薄く笑みを浮かべ、鮮やかに、空を裂く一陣の槍となって、目下のHWを撃ち落す。
すぐ様方向を転換すると、無数のHWの攻撃射線から機体を逃し。
左翼を飛ぶのは雷電、ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)、アンジェリカを駆るティーダ(
ga7172)、比企岩十郎(
ga4886)のフェニックスである。
「早めに終わらせたいが‥‥」
西安。
大陸で、大きな戦いの気配が漂う。その戦いの布石となるはずである、その都市近郊のバグア軍の内情はいかに。ホアキンは目の前に迫るHWの群れの動きを見て、食いついてくれよと機体を踊らす。派手な軌跡を何本も描き飛んで行くミサイルは、複数のHWへと向かう。入れ違いに飛んでくるレーザーが、左翼の3機の合間を縫う。
(「上手く釣り上がったようだな‥‥」)
(「さて、いよいよ中国ですか」)
ティーダは飛び交うレーザー音や、ミサイルの爆音に、ふうっと息を吐き出すと、仲間達と僅かにタイミングをずらして、攻撃を仕掛ける。間断無く、こちらからの攻撃がHWへとぶち当たり。
「気を引き締めないとですね」
落下して行くHWを視線の片隅に落とし、次の目標をロックする。
「いっちょ派手にやらかしましょうか」
岩十郎が目を細める。大陸は膠着状態が続いている。一気に攻め落とす気は無い様だ。バグア側の意図がはっきりとしないのは、どの戦場でも似たり寄ったりではあるが、ここ大陸では、その状態がさらに顕著に見られた。
(「これで、何か解れば良いのだがな」)
「きっちり仕事を果たさないといけないね」
今回の依頼の成功が、この戦況を動かす一手になるかもしれないからと、呟くのはシュテルン、アーク・ウイング(
gb4432)。
依神隼瀬(
gb2747)のロビン、ディアブロ、鹿島 綾(
gb4549)の3機が右翼を守る。
「ま、陽動らしく派手に暴れれば良いのかな」
「そう言う事だ」
隼瀬の問いに、綾が太い笑みを浮かべてミサイルを撃ち放つ。
(「囮役として、盛大に暴れろって? いいね、俺向きだ」)
迷う事無く戦いへと埋没して行く綾機は、流れるような動きで、僚機と共に敵機へと迫る。
「対応してみせる──この矜持をかけて!」
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硝煙の香りの混じった鈍い色の花が幾つも空に咲くのを見て、補給機を護衛する傭兵達も気を引き締める。
「あまり長く留まって、C−1改を失うのも上手くない。本命もこちらも短期決戦で居行くとしましょうか」
ウーフー、御山・アキラ(
ga0532)が硬質な表情を揺るがさずに呟く。
「俺達ならやれる!」
ヒューイ・焔(
ga8434)のハヤブサもしっかりと護衛の先導を勤める。
(「落ち着け俺、俺は一人じゃないんだ‥‥」)
ヒューイは、作戦開始前に深呼吸をしたのを思い出す。
その足の遅い輸送機は、囮ではあるけれど、中にはきっちりと物資が積まれており、それに従事する人々が居る。C−1改を囲むように飛ぶのは8機。
「砂漠基地か。敵襲来の後は兵糧攻めとはな。まあ、拠点を攻めるのには正しいのだが、やられて困っているのが、こちら側というのが、何とも悲しい事だ」
雷電、緑川 安則(
ga0157)が低く溜息を吐く。同じく左翼を飛ぶシュテルン、セレスタ・レネンティア(
gb1731)は護衛機の位置と戦闘に飛び出していった仲間達、そして、別動班の動きを確認する。
「偵察班との打ち合わせは出来ていますが‥‥」
今回の作戦において、別班との秘匿回線を繋いでいる。何処まで連絡を密に出来るかはわからないが、無いよりはよほど良い。
「やってやるわよ!」
右翼を飛ぶアンジェリカ、藤田あやこ(
ga0204)が、気合を入れる。戦線に出ている恋人の為に、少しでも目立った脅威は排除したいと思うのだ。僚機として飛ぶのは番場論子(gb4628)ロジーナ。輸送機からつかず離れず、一定の距離を保ち、進む。
「ここで取り返しに行くのも当たり前だね‥‥さて、総勢32機での偵察と洒落込もうではないかね」
西安が何時までも占拠状態になっているのは、こちらとしても不利である。それを払拭する為の一石となりにと。後方を守りながら飛ぶ岩龍、錦織・長郎(
ga8268)とディスタンのアルヴァイム(ga5051)が、淡々と敵機の動きを確認する。
「こっちに向かって来られたら、アウトって事だよな」
ヒューイが呟く。軽い緊張がつきまとう。上ずる声を誰か気がついただろうかと、ヒューイはひとつ息を吐き、手を軽く握る。アキラはヒューイの声を淡々と聞き流し、しっかりと目視出来るまでになっている敵機を確認する。
「1機、2機なら、迎撃は十分間に合う‥‥言っている間に、来る」
前方で戦う仲間達の合間から、すり抜けるように向かってくるHW。
「すまん、何機か抜けたぞ」
後方へ気を配っていた岩十郎から、声が届く。
一気に緊張が加速する。
レーザーの鮮やかな色が飛んでくる。
「‥‥」
「っ! やらせねえっ!」
避ければ輸送機に直撃だ。アキラ機とヒューイ機が機体をレーザーの射線上へと流す。鈍い衝撃がコクピットへも伝わった。こちらが長距離攻撃を出来ると言う事は、あちらも可能と言う事なのだ。そして護衛機を沈めなくても、足の遅い輸送機を沈めれば敵方にしてみれば事足りる。
「援護に出た方が良さそうだね」
後方から、長郎が呟く。その前に左右の仲間達は飛び出していた。
「HWの求愛か。もてて仕方ないね‥‥だが断る!」
あやこ機からライフル弾が空を切って飛ぶ。安則機からは、ミサイルが追いかける。
「数に限りがあるのでな。慎重に、確実に落とさせてもらおう」
「‥‥ターゲット・イン・サイト!」
距離を見極めていたセレスタ機からも無数の弾が飛ぶ。
「鹿島機から。HW抜けたそうです」
左右の護衛機が前方の敵機へと向かうのを見て、アルヴァイムが仲間達へと伝える。
畳み掛けるような攻撃で、HWは地に落ちて行くが、空白となった空域に飛び込んでこられれば、ただではすまない。
接近したHWを落とせば、速度を落とし、再びC−1改の護衛にと回ろうと動くが、その合間に、前線をすり抜けてきたHWが再び接近をする。
「軟派野郎をあしらうのは得意なんだけど」
あやこ機からは、派手にミサイルが飛ぶ。それと入れ替わるように撃ち放たれるその色鮮やかなレーザーの射線を避ける論子機。輸送機の前に、安則機が躍り出て、攻撃を受け流す。
「いいカモがやってきた。そう思う事にしておこうか」
「FOX2‥‥!」
雷電が傾ぐが、飛行には問題は無い。安則は小さく息を吐き出す。輸送機も自分も落ちるつもりは無いのだから。軽い振動がセレスタを襲う。ぐっと唇を引き結ぶと、間髪入れずに弾幕を張る。
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「‥‥っ! 狙ってくるか?!」
右翼から突っ込んでいった3機は、中盤戦を過ぎる頃には、複数のHWの攻撃に晒されていた。
初手でバレた総合力の甘さにつけ込まれている。
綾はすり抜けたHWを忌々しげに睨みつけつつ、後方へと連絡すると、前方に迫る別のHWを落とす事に専念する。
「‥‥っいけない!」
アーク機が速度を上げて前方のHWのまん前に滑り込み、何度目かの弾幕を張る。細かい穴がHWを穿つ。
「‥‥装甲持ちますように★」
次々と撃ち放たれる敵攻撃を時に受けながらの隼瀬機は、幾つも被弾している。それは、仲間達も同じ事ではある。だが、1機たりとも飛行不可にはなっていない。レーザーがHWへと照射される。つるりとしたHWの装甲の一部が弾け飛び、墜落して行く。
「っし」
小さく頷くが、すぐに次の敵機が目の前で。隼瀬はひゅっと息を吸い込む。
「行きますよーっ」
アークの声が響いて。
攻撃を跳ね除けながら、獰猛にHWを屠って行くのは、朔夜、王零、無月機。
「──逃がすものかよ。悪いが私は速いぞ」
戦いの塊の中から、ふわりと別空域へと逃げそうになるHWを見つけると、朔夜は、薄く笑みを浮かべる。早さを増したその機体が仲間達を抜き放って接近する。HWからの攻撃は当たらない。すれ違い様に剣翼を打ち込むと、続く僚機が朔夜機同様にHWを弾き落とすかのように機体をぶつけて行く。剣翼の乱舞。
王零が激しい爆音を機体の背に感じながら、笑みを浮かべる。
「よし! 『三爪痕』決まったか」
「早々に‥‥」
蹴散らしてしまえばいい。それが出来る機体であり、良く練られた連携でもある。無月は当然とばかりに次の標的を探る。
HWの数がかなり減ってきている。
ホアキン機の真正面へとHWが追い込まれる。
「‥‥踏ん張りどころだな」
ティーダ機が攻撃を仕掛けて追い込んだのだ。ホアキン機から、ライフル弾が止めとばかりに撃ち込まれ、HWが傾ぐ。
「次、来ます」
すうっと息を吸い込んで吐く。ティーダは、HWへと何度目かの攻撃を仕掛けた。
「数が数だったが、あと少しか? 全て抜ける前に落としたかったが‥‥」
どれだけ密に攻撃を仕掛けても、輸送機を目的と絞ったHWは、何機か戦線の合間を抜け出ている。岩十郎が背後に守る集団を気にかける。しかし、この敵機の数の中、ほぼ完璧に戦いは進められていたのだ。
抜けて行くHWは無傷ではいられず、たとえC−1改へと迫る事になっても、待ち構える仲間達に封じられて。
「じき、突破するかね」
長郎が呟くのを、アルヴァイムは軽く頷いて肯定する。
危なげなく、派手な空戦を伴い、輸送機C−1改は、決められたルートを飛行していた。
「偵察機は?」
「問題なさそうね」
二手に分かれて飛んでいった仲間達は、どうやら無事のようだ。ヒューイはふうっと息を吐き出すと、座席に軽く凭れ込む。アキラは、レーダーに映る敵機の影が消えたのを確認する。
「よーっし。おしまーいっ」
「お疲れ様です」
翼を返してあやこ機と論子機が所定の位置へと戻る。
「プロトン砲は羨ましいものだな」
安則はHWの主砲を思う。この戦いが続くのならば、いずれその技術も手に入るだろうかと。
「‥‥作戦終了です」
悠々と集まってくる攻撃班の機体を確認し、セレスタは笑みを浮かべた。1機の損失も無く。
輸送機C−1改全機を無事に護り通し、囮作戦はその役割をまっとうし、偵察任務は予想を上回る成果を得た。
西安近郊、西安戸県空港、西安咸陽国際空港、安桃村空軍基地、西安閻良空軍基地。そして、西安市外の状況がしっかりと高感度カメラに映し出されていた。これにより、UPC軍は西安への布陣を決定する事となり、大陸での大規模な戦いが進行する事となったのだった。
(代筆 : いずみ風花)